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将来の夢(初心貫徹)





子供の頃僕は現実派だった。

「大人なったら、どんな仕事に着きたいですかぁ?皆さんの将来の夢は何ですかぁ?」

五歳ぐらいの時は自転車屋になりたかった。

ただ、自分の転んで壊れた自転車をいとも簡単に直してくれる自転車屋のお兄さんは逞しかった!

チェーンを直してたり、いつも油で汚れた手で職人の様だった。

「お待たせ!治ったよ。タイヤに空気をいれておくよ」

子供の僕は自転車屋のお兄さんを尊敬していた。

僕にとって、自転車は三輪車とペダルカーを除いては、初めての移動の乗り物だった

「順一!お前はすぐに大きくなるから、27インチの自転車でいいだろう!」

父はそういって、自転車を与えてくれた。

僕は自転車があれば、何処へでも出掛けた。

自転車にまたがれば何より視界が高く世界が見渡せたし、風を感じて走る事が出来た。

よく友達と、サイクリングで狭山湖にいったり、一日中、日が暮れるまで、遊んでいた。

学校が休みの日は自転車の錆び取りをしたり、油を差したり、自分でも修理が出来る様になっていた。

僕は久しぶりに、自転車屋に、新しい自転車を見に友達と出掛けた。

自転車屋は、あの、お兄さんでは無く、オヤジさんが一人で切り盛りしていた。

「おじさん!お兄さんは元気?」僕はさり気なく、おじさんに聞いてみた。

おじさんは、「ああ、あいつか?駈け落ちして帰って来ないよ。」オヤジさんは深いため息をついた。

順一はこれ以上子供心にも聞いてはいけない事なんだと思った。

駈け落ち!よく意味はわからなかったけど、怪しい危うい言葉だった。

成長を重ねる度に自転車屋の夢は消えていった。



この前、久しぶりに部屋の荷物を片付けていた。段ボールの底から、誕生日の写真と憧れの先生のコメントが出て来た。

夢:自転車屋さんになること。 梅本順一君。  


このコメントを読み、僕はある程度あの頃の夢は達成されている事に気が付いた。(笑)


                      終わり。

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