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音の無い世界(スキー天国3)



「順一!!待ってよー!!」ユミコもなかなかの腕前だった

順一はギャップのあるコースもコブの上でターンを切りながら、ストックと膝を使い、傾斜のキツイ斜面でも、踊る様に

下って行った。

「順一!!」順一はユミコの声に気を取られて、ギャップにエッジを取られた!!

気がついた時には、板が安全金具のお陰で外れ、順一は空中に放りだされ、雪の上に放り出された!!

「順一大丈夫??」順一は起き上がらなかった。

ユミコはビンディングを外し、ゲレンデの端の雪の中に板を
突き刺し、脇にピンクのストックを刺し、順一に駆け寄った

ユミコは順一を起こそうと肩を持った瞬間!!

順一はユミコを抱き締め、雪の中を転がった!!

「順一ずるい!!何とも無いじゃん!!」

順一はサングラスを取り笑った!!ユミコがいれば大丈夫さ!!

僕等はリフト乗り場まで戻り、頂上へ向かうリフトに乗った。

「順一!!恐いよ!!あんな高い所へ行くの!!」

大丈夫だよ、俺がついているじゃん!!

僕はユミコの手を握り、ゴンドラに乗った。

頂上には、小さな湖があり、その反対には、もう一つのゲレンデに繋がっているのだった。

山の頂上に着き、新雪の上には、小さなウサギの足跡だけがあった。僕等は少し歩き雪の上で休憩を取った。

さっきまで、リフトの柱に付いていたスピーカーからの音楽は聞こえなくなる、僕等二人が歩くと重さに雪がぎゅっぎゅっ、と言う音しか聞こえなくなった。

雪が降って来た!!この広い台地の中で、音と云う音が消えた。僕は雪の中でユミコと大の字で目を閉じた。

大地と僕等は一体となり、地球の音に耳を傾けた。

雪に全ての音が吸収され、音が無くなった。

僕は別世界にユミコと二人取り残された。

「順一!!順一の呼吸しか聞こえないね。。。」

ユミコは僕に呟いた。

「ああ、そうだね!!僕等二人が取り残されたみたいだね。」僕は笑って答えた。

スキーって何が楽しいか良くわからなかったけれど、きっと僕は音の無い世界を探してスキーをしたかったのだと思う。

「所で、順一どうやって帰るの???」ユミコの声に、

「大丈夫だよ!!反対側はなだらかなハズだから。」順一はさっきロッジで貰った地図をポケットから出した。

「こっちのゲレンデから降りよう!!」順一はユミコの手を引き歩いた!!

反対側のゲレンデに到着すると、何と!!想像とは違い、上級者コースで、足元を見ると、そこにロッジがあった!!

「順一!!降りられない!!どうしようー!!」ユミコの悲鳴に近い声がした!!

「大丈夫だよ!!ちょっとそこに座って待っていてね!!」
順一はユミコのスキー板を外させ、脇に抱えた。

「下まで、滑ってくるから、チョット待っていてね。」

順一は斜面を降りはじめた。

一つづつ、降りやすいコースを確認し、ふもとのロッジに辿り着いた。

順一は、ロッジにユミコのスキー板を立てかけ、自分のストックも板に掛け、ユミコの待つ頂上へ、リフトで向かった。

頂上には、心配そうなユミコが待っていた。

「ユミコ軽い??」順一はユミコに笑って言った??

「取り合えず、背中に乗って!!」ユミコは頷くと、順一の背中に乗った!!

「しっかり、捕まっているんだよ!!下見ないで、目を瞑っていてね!!」順一は斜面と並行になりながら、エッジを立てて、急な斜面をターンもせず、起用に、斜めバックに、斜め前へとストックも持たずに降りて行った!!

もう、目を開けても大丈夫だよ!!そこは、なだらかな斜面だった。

順一の背中は暖かく、ユミコは何だか、懐かしい気がした。

「順一って何でも出来るんだねー!!」

ああ、俺の夢は子供背負って、片手にビデオ持って、ファミリースキーが夢だからね!!サラリーマンのお父さんはタフだからねー!!

「ユミコはその話があまりに可笑しかった。」

だって、そんなサラリーマンの順一なんて想像出来なかったからだ!!

「順一の腕前だったら、安心だね。」

ユミコと順一はロッジで暖かいコーヒーを飲んだ!!

二人は仲良く、ゲレンデを暫く眺めていた。


                     終わり。

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