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4 事例研究
中国における人権侵害は、以前は報告のみで、事実関係は当該政府が明らかにしていないことから不明であった。しかし、今回初めて、胡錦濤政権になって明らかになった。以下の事例については、報告主体は、国連人権委員会会期報告とアムネステイ日本およびダライ・ラマ法王日本代表部、さらに産経新聞北京支局である。人権侵害の事例については、各々重複した内容である。
報告の多くは、虐待や拷問、さらに死刑についてである。この虐待や拷問に関しては、中国政府は、1988年に国連拷問等禁止条約を批准している。にもかかわらず、報告されるのは司法・公安当局の免責の風潮による。つまり、警察官が自白させるための拷問については、同僚への忠誠、政治的圧力などによる隠蔽がおこなわれている。また、死刑については、自由権規約(B
規約)6条の規定によりその適用を制限する目的と解するが、わが国においても議論はある。この点について、判例(最判昭23・3・12刑集2巻3号191貢)の趣旨は、「火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑ごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法36条に違反するものというべきである。」としている。但し、死刑判決には相当の必要性が考慮されることが重要である。その執行時期についても同様である。では、中国の場合は何を基準に死刑を執行しているのであろうか。不確かな情報なので控えるべきであるが、1994年江南省の例(イ)では、4万元(56万円)か、それ以上の「経済的損失」を与えた場合に、死刑宣告をできるとのこと。つまり、こうした不確かな情報が飛び交うのは、逆に考えると「公正な裁判を保障する可能な限りの法手続きに従って」いないと言うべきである。
【註】(イ) アムネステイ・レポ-ト 中国の人権 明石書房 1996年 139頁。
* 以下の事例については、これが、(1)に該当する事例であり、これが(2)に該当する事例であるというはっきりとした区別が困難である。ただ、現在の法制度、たとえば、刑法、国家安全法および国家機密保護法等、をもとに当局が権力を濫用することにより、その処分として行政拘禁である、収容審査、労働矯正、居住監視という名目で人民を拘束する人権侵害がおこっているという事実であること。
(1) 法制度と権力濫用をめぐる事例
2000年12月 米国に在住する法輪功の女性、滕春燕(とうしゅんえん)さんが、「国外の反動的組織のため不法に情報を偵察した」かどで3年の刑を言い渡された。滕春燕さんは、北京の精神病院で居住監視されている法輪功のメンバ-の証言を集め、北京で外国のメデイアや米国の知り合いに、その情報を渡した。彼女の裁判は、11月23日に裁判所で公判がおこなわれたというが、実際には、秘密裏になされたと伝えられている。また、この不当な拘禁に対し、米国政府は抗議を申し立てたのであるが、認められなかった。
【註】この事例は、1988年の国家機密保護法および1990年の国家機密保護法実施に関する手続き、に基づく処分であるが、他に反革命的宣伝と煽動としての処分とも考えられる。また、不当な拘禁に対しては、B規約9条、10条の内容に抵触するものである。居住監視については、12条違反となる。
(2) 司法制度と行政拘禁に関わる事例
2000年11月 中国とカナダの市民権を持つ59歳の修練者、張崑崙(ちょうこんろん)さんが、裁判なしで3年の労働矯正処分に処された。海外に在住する法輪功の修練者が、国外への退去強制ではなく刑を言い渡されたのは、初めてである。この労働矯正についての判決書類を警察官が所持していたといわれているが、判決理由については特に記載されていなかったという。その後、
張崑崙さんは、刑に服するため、済南市の郊外にある「劉長山労働矯正所」に送られた。
【註】この事例は、1994年1月に宗教活動に関する法律が施行され、特に「国家の統一と社会治安をゆるがす」宗教活動を禁止したことに基づく処分と考えられる。未公認の宗教団体への政治的圧力といえる。また、これはB規約14条の公正な裁判手続きを排除している。
【註】以上(1)、(2)の事例は、アムネステイ発表国際ニュ-ス(2000年12月19日)によるもので、この資料はアムネステイ日本( http://www.amnesty.or.jp/ )から引用したもの。
いずれの事例においても、「公正な裁判を保障する可能な限りの法手続きに従って」いないと言うべきである。つまり、B規約14条の公正な裁判手続きを欠いている。また、国家の威信を脅かす内容の犯罪と認定された場合には、司法への政治的介入があり、党員ですら容赦はない。さらに、9月11日に起きたテロ事件以来、中国政府は、様々な政治的活動、とくに思想に関係する宗教活動などにもテロという名目で取り締まりを強化している。2001年12月、中国は刑法を「テロ組織やテロを起こした者に対し、3年から10年の刑を処罰する」と改正した(刑法120条)。中国刑法は、「テロ組織」についてはっきりと定義はせず、解釈によっては非暴力主義の政治的かつ思想活動をも含み、曖昧な根拠で犯罪という名のもとに、人民の自由を奪っていると考えられる。
また、事例として、2002年12月3日付けの「四川人民日報」で確認された、チベットの情報ソ-ス(チベット人権民主センタ-)によると、ロプサン・トントウプは即決裁判で政治的権利を剥奪され、死刑を言い渡された。そして、トウルク・テンジン・デレクは2年の執行猶予付死刑判決を下された。尚、中国の刑法では、求刑後10日間以内に控訴する権利があるが、控訴については殆どといっていいほど、中国では考えられないことである。
【註】この事例も、前述の事案と同じく、B規約14条の公正な裁判手続きを欠いている。
【註】以上の情報は、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所HOME>ニュ-スリリ-スからの引用
2002年12月5日。
オリジナルペ-ジ:http://www.tibethouse.jp/news_release/2002/021205_ttd.html
(3)『女性に対する暴力』特別報告者の報告(イ)
憲法36条は公民の宗教の自由を保障している。しかし、以下の記述内容は文言解釈によれば、その保障を制限している。(7.資料篇参照)
中国での女性に対する暴力の使用は、特に女性宗教者(法輪功修練(ロ))に対する虐待に関しての報告が殆どである。黄秀玲、59歳、北京通州区馬駒橋町附馬村在住。彼女も、法輪功修練者ということで、2000年6月30日午後、逮捕され、喬荘刑務所へ送られ拘留された。その間、刑務所規則を暗唱することを拒み、錬功を続けた事から、拷問、性的虐待を行った。このことから、断食をはじめたことで、鼻にチューブをさし、強制的に食物注射をし、さらにそのチューブ代金(10元/1回)を請求したが、金をもっていないということで、拷問、性的虐待が続いた。その結果、死の危険がせまると、警察は1年の強制労働を宣告し。帰宅させ、村委員会に居住監視をするよう依頼した。その後、身体が回復すると、2000年7月13日、再度連行し、強制労働のため、北京天堂河女子強制労働収容所第4大隊に収容。黄秀玲は、再度断食を始めたことで、今度は、看守によって、拷問を受けたという事例である。
厳菊英、河北省三河市燕郊在住。2000年10月6日、彼女は、陳述のために天安門広場に行ったという理由で、拷問、性的虐待を受け、その後、強制洗脳班へおくられた。
劉雪彬、54歳、北京通州区城関町浜河小区在住。1999年9月4日、通州クラブで錬功している際、逮捕監禁され、法手続きのないまま、3ヶ月の拘留された。拘留所で尋問を受ける際、裸にされ、拷問、性的虐待が続いた。精神的、肉体的仮死状態に陥り、結果精神病院送りとなる。
以下、延々と同内容の事例が報告されている。
【註】第57会期報告には、43件の女性を対象とした拷問、性的虐待の詳細な説明が為されている。1988年に国連拷問等禁止条約を批准している。さらに、人権規約(B規約)の第6条(生命に関する権利)、第7条(拷問又は残虐な刑罰の禁止)、第8条(奴隷及び強制労働の禁止)、第9条(身体の自由と安全)、第10条(自由を奪われた者の待遇)、第12条(居住、移動及び出国の自由)など各規定抵触し、「7.資料篇」で、公民の権利関係が保障されているのにも拘わらず、こうした報告が出るのは、前述の3-(2)「中国における人権問題」で記述した法制度にある。
【註】(イ) 国連人権委員会 第57会期報告 文書番号 E/CN.4/2001/73
国連人権委員会:http://www.hurights.or.jp
(ロ)法輪功は法輪大法とも呼ばれ、「真・善・忍」の基本理念に基づき心身を健康にする気功で、宗教でもなく、政治団体でもないと言われている。しかし、憲法35,36条の保障規定とその制限について察すると、彼らの基本理念が社会主義に反する社会秩序を破壊する行為となる。具体的に、中国政府が、これらの団体を迫害し始めたのは、1999年7月頃からだと言われている。
この関係者として、過去に迫害を受けた日本人は、妻を中国人にもつ林慎立、現在日本政府が中国政府に救済を求めている女性は、金子容子(中国籍)さん。彼女は法輪功のビラ配りをしたという理由で、当局に拘留され、1年半に渡り労働矯正処分を受けている。現在、継属中である(第156回国会、衆議院法務委員会-第12号 平成15年5月13日)。
(4)『居住証事件』・・不携帯の青年連行・・暴行死 (イ)
中国南部の広州市で2003年3月、居住許可証がないことを理由に警官に連行された青年が、精神病院に強制収容され、看護士の指揮下で集団暴行を受け死亡する事件が明るみに出、官憲に対する世論の怒りが沸騰した。胡錦濤政権は事態を重視、関係者の大量起訴・処分になったが、連行の根拠になった行政規則が憲法違反との声が上がり、居住地選択の自由の要求も生れだした。
死亡したのは、広州市の服装会社社員の孫志剛さん(27)。3月17日夜、警官の職務質問を受け、身分証明書がなかったため、家、職、戸籍のない「三無人員」として拘留、孫さんが抗議をすると、18日に精神病院に送られ、20日に死亡した。
病院の「心臓発作」との死因に不審を抱いた遺族や同僚らの訴えで、中山大学で司法解剖がおこなわれ、結果、外的打撃によるショック死と判定された。
また、この事件で、広州当局の調査が行われ、驚くべき実態が明るみに出た。警官の意を受けた看護士が、収容中の男8人に命じて、孫さんを2日間にわたり、暴行させていたのだ。孫さんが「騒ぎ立てたから」という理由で。こうした暴行は日常茶飯事のことだという。
事件に関与した計18人が傷害致死罪で起訴され、近日公判が行われ、結審、判決が言い渡される。ほかに公安局、衛生局などの幹部ら23人が解職や党籍剥奪の処分を受けた。こうした、胡錦濤政権の異例の厳しい対応は、香港返還と関連し、国際人権規約の効果といえる。
孫さんは、身分証がないという理由だけで拘留され、殺されたのである。連行した警官は、公判で「上司の命令と法に基づく」と無罪を主張。ここにいう法とは、1982年公布の「都市流浪物乞いの収容・移送規則」をさす。これは、当初、都市への流入貧民を収容し、教育した後、出身地に移送することを目的とする規定であったが、現在は、北京、上海など大都市では、流動人口抑制のため、居住許可のない外地出身者を強制移送する根拠としている。実際のところ、孫さんは、湖北省出身で、広州の会社に就職したばかりで、居住許可を取得していなかった。つまり、違法行為にたいする強制移送を恐れて騒いだのが発端である。
このような問題につき、北京の法学博士3人は、この規則を違憲として全国人民代表大会に廃棄ないし大幅な改正を請求している。また、多数の学者が支持している。憲法は「公民の人身の自由」を保障し、司法機関の許可なく拘束されないと規定している。
この事件を機に、収容・移送規則は農民差別との批判が強まり、居住地選択の自由を制限する諸法規撤廃の声も広がっている。法の下の平等をうたった憲法を国の基本と強調し、弱者救済を目標に掲げている胡錦濤新政権が、過去を踏み台とし、どこまで新中国を発展させ、よき歴史を刻むかについて、世論は注目している。
【註】(イ)北京=伊藤正 『居住証事件』産経新聞2003年6月7日 国際15版 引用。
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