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JEDIMANの瞑想室
第2章 RELIEF<救出>
「ようこそ。我らが城へ」
スコットがなぜか自慢げに言った。
レジスタンスに案内され、一行はクリティロ近郊の山に来ていた。
山肌には枯れた木が生い茂っている。
「ここのどこがレジスタンスの基地なんだ?」
と、レイ。
山はただの山に見える。
「なあに、見えないだけさ」
ネイオはそう言うと、口笛を吹いた。
高く、低く、一旦止め、高く吹く。
同じような音がどこかから聞こえてきた。
「ネイオだ。グンガンの耳」
「グンガンのアホヅラ。よくお帰りで、指揮官」
迷彩服を着て落ち葉や倒木に身を隠していたブラジル人兵士達が次々に姿を現した。
見張りだ。
「格納庫を開いてくれ」
「アイサー」
隊長格の男が手を振った。
若い兵士が慌てて何かのスイッチを押した。
ガガガガガガガガガ………
きしんだ音をたてて、山肌が崖になり、垂直になっている部分が開き始めた。
隠し格納庫だ。
「ほえー……」
シュンハが感心したようにつぶやく。
ジープやトラックはそこに入っていった。
再びシャッターが下りる。
シャッターは岩肌そっくりにペイントされているから、外側から見るとただの崖の一部分にしか見えないだろう。
「来てくれ」
ネイオがトラックから降りながら言った。
「あなた達の言う<SEAL>や<SAS>の動向が気になる。落ち着いて調べてみましょう」
「そうだな」
シュナイダーは頷いた。
「ヒュウッ!」
ガードナーが口笛を吹いた。
「おー、すげえ………」
アランがため息をつく。
格納庫の先は、巨大な縦穴だった。
縦穴は上方に丸い穴が空いており、光が底を照らしている。
底部では、たくさんの人々がテントをつくり、生活していた。
スラムのような環境だが、人々の顔にあきらめは無かった。
なんとかこの南アメリカを脱出しようと試みて、日々励んでいるのだ。
「あなたがたが来てくれて助かった」
ネイオが言った。
「これで助けが呼べる」
「助け?」
アランが聞き返した。
「長距離通信機は全部ぶっ壊れてるぜ?」
「んだとぉ!?」
スコットが頭に手を当て、愕然と叫んだ。
「ちょ、待てよ!じゃあ助けが呼べないじゃんか!」
「そうなるな」
クロウが頷いた。
「帰れると思ったのにいいいいいいい!」
スコットはそう言ってゴロゴロと転がった。
その時、シュナイダーの近距離通信機が起動した。
「お、なんか来た」
シュナイダーはそう言うと通信機を取り出した。
「―――! <SEAL>だ!」
彼はすぐに繋げた。
「こちら<SAF>!」
『やあ、<SEAL>だ。まもなくクリティロ上空にさしかかるぞ』
その言葉を聞いた瞬間、ネイオが焦った表情をした。
「クリティロ上空だと!?まずい!退避しろ!」
『なんだと?なにか問題でも―――』
次の瞬間、爆発音が聞こえた。
『な、なんだ!?』
『わかりません!ミサイルをくらいました!不時着します!』
『くそっ!何事だ!こちらシードラゴン1!シードラゴン2、援護してくれ!』
『こちらシードラゴン2!無理です!被弾しました!』
『なんだと!?ちくしょう!パラシュートを持て!脱出を―――』
ブチッ!
唐突に通信が途切れた。
静寂が下りる。
「……………やばいな」
スコットがつぶやいた。
<SEAL>隊の隊長、アレックスは壊れて役に立たなくなった通信機を投げ捨て、パラシュートをひっつかむと、空に飛び出した。
制御を失ったヘリがぐるぐる回り、地面に墜ちていく。
アレックスはもたつきながらも必死にパラシュートを開いた。
パラシュートが膨らみ、なんとか着地する。
クリティロはビルこそ無いものの、スーパーなど、生活に必要な物はそろった街だった。
辺りの道路や家の屋根に、次々に20人の隊員達が着地した。
中にはパラシュートを持たずに飛び出したため、時速100キロ以上で地面に顔面から着地した者もいたが。
アレックスはすぐにサブマシンガンを構えた。
彼の部下であるグリッグやジャンソン、ディックスが近づいてくる。
「隊長、無事でしたか」
グリッグが安心したように言った。
「安心するにはまだ早いぜ」
ディックスがサングラスをかけた細い顔を不安に歪める。
「あのミサイルはいったいなんなんだ?」
「さあ、わからんな」
大柄なジャンソンが腕組みしながら答えた。
「お前には聞いてない」
ディックスがぷいとそっぽを向く。
「ディックス、少し黙れ」アレックスはそう言うと、辺りを見回した。
「よし、<SAF>と合流しよう。グリッグ、隊員の点呼を頼む。ジャンソン、犠牲者のチェックだ。ディックス、オレについてこい。周囲の状況を―――」
アレックスは唐突に口をつぐんだ。
「………なんだ?この音………」
グリッグが不安そうに辺りを見回す。
いつの間にか、周りから地を這うようなうめき声が響き渡っていた。
あちこちで話していた<SEAL>達が、不安げにアレックス達の周囲に集まる。
「……………近いな」
ディックスはそう言うとサブマシンガンの握部を神経質に握った。
「ああ、それに………」
ジャンソンが真剣な表情で辺りを見回す。
「数が多い」
「それも半端なく、だ」
アレックスはそう言いながら、うめき声に寒気を感じた。
声に、生気が感じられない。
<SEAL>が着陸した場所は、十字路のちょうど真ん中だった。
近くの民家にヘリがいくつか墜落し、夜空に炎の赤い光を投げかけている。
辺りにそれ以外の灯りは無かった。
うめき声は地を這い、<SEAL>達の足に絡みつき、心臓を鷲掴みにした。
<SEAL>達は、怯えていた。
凄まじい修練を積んだ彼らが、アメリカ最強の1つと呼ばれる<SEAL>が、うめき声に怯えていた。
徐々にうめき声が大きくなり、数を増やしていく。
その時、アレックスは道路の先に蠢く影を見つけた。
夜闇のため、姿は見えないが、何かがいる。
それも、大量に。
「………なんだ、あれ」
ディックスがつぶやいた。
影はどんどん数を増やし、うめき声は地を震わせるようだ。
しかも、十字路を押し包むように4方向から来ていた。
「………目標を正面に」
アレックスは静かに指示した。
<SEAL>達が十字路の真ん中で銃を構え、4方向から押し寄せてくる影に向けた。
「……………敵、でしょうか?」
グリッグがアレックスに訊く。
「わからん。南アメリカに人が生き残ってると思うか?」
「……わかりませんが、可能性は否めません」
「………………よし、サーチライトの領域にあの影が入ったら決めよう」
アレックスが言った。
影達が近づいてくる。
誰かの荒い息が聞こえた。
影が、光の領域に踏み込んだ。
誰もが、目を疑った。
「う…………うわああああああああああああ!!」
誰かが恐怖の悲鳴をあげ、サブマシンガンをでたらめに撃った。
アレックスも半狂乱になりながら、トリガーを引いた。
撃ち出された銃弾が次々にゾンビのような怪物に命中し、腐った肉を弾き飛ばす。
が、ゾンビは撃たれた衝撃で立ち止まりはするものの、なかなか倒れない。
凄まじい数のゾンビが十字路の真ん中に押し寄せてきていた。
<SEAL>達はこの世のものとは思えない光景に戦慄しながらも、銃の引き金を引いた。
銃声が響き、光が閃く。
しかし、ゾンビ達はひるまずよろよろと歩いてくる。
「な、なんなんだ!?こいつら!」
グリッグが狼狽しきって叫ぶ。
「ゾンビだろ!?」
ジャンソンがライフルを撃ちまくりながら答える。
「バカ!ゾンビなんているわけ―――」
ディックスはそこまで言って、目の前に迫る怪物達を眺めた。
「………まあ、いないことは無いな」
「無駄口叩くくらいだったら撃て!」
マガジンに弾を込めながらアレックスが怒鳴った。
ゾンビ達はよたよたのろのろと歩き、着実に<SEAL>達に接近していた。
腕がちぎれている者もいれば、撃たれた穴から腐った血を噴き出している者もいる。
「ば、化け物!」
グリッグが恐怖におののき、叫んだ。
「ジャンソン!手榴弾だ!」
アレックスの指示にジャンソンが頷き、腰の手榴弾を手にとると、ゾンビ達に向かって投げた。
爆発が起き、ゾンビ達を吹き飛ばす。
ジャンソンがガッツポーズをとった。
だが、彼らに退路は無い。
全滅は目前だった。
「これ以上早く走れないのか!?」
武装トラックの兵士輸送ベイでレイが叫んだ。
「馬鹿言うな!クリティロは敵の巣窟だ!ヘタすりゃヴェノムに見つかる!」
ネイオが怒鳴り返す。
「ヴェノム?」
シュンハが首をかしげた。
「なんだ?それ」
それを聞いたスコットが凄んだ笑みを見せる。
「ま、その内お目にかかるだろうよ」
彼らはクリティロの街中を疾走していた。
もちろん、<SEAL>を救出するためだ。
「勝算はあるのか?」
ガードナーが訊く。
「突っ込んで、拾って、脱出」
スコットがなんでもないような感じで言う。
「簡単だろ?」
「全滅するのがな」
ネイオがあきれたように言った。
「作戦としては、まず<SEAL>の墜落地点とおぼしき地点を偵察し、<SEAL>とコンタクトをとって、内外からの同時波状攻撃で―――」
「おいおいおい、そんな時間かけたら、それこそヴェノムに見つかっちまうぜ?」
スコットが馬鹿にしたように言うと、ネイオはムッとした顔をした。
「じゃあ、なにかいい考えでもあるのか?」
「だから言ってるだろ?突っ込んで、拾って、脱出」
「そして全滅と」
ネイオがすかさず言うと、スコットはいらいらと言い返した。
「五月蝿い!兵は拙速を尊ぶと言うだろ?」
「自分の言葉、なんて書いてあるかわかるか?」
ネイオが言うと、スコットは言葉につまった。
「えー………と、『ごがつハエい!へいは……しゅつそくをとうとぶ?』」
スコットの珍回答に、ネイオは吹き出した。
「馬鹿。『うるさい!つわものはせっそくをたっとぶ』だ」
「うるせーっ!なんだ!?やんのか!?ネイオ!」
「やる暇はありませんよ」
ずっと前方を見ていたローグが言った。
「グールです!」
全員、すぐに前を見た。
前方では、何百匹というグールが十字路の真ん中に渦巻くように群がっていた。
「人だ!」
レイが叫んだ。
確かに、十字路の真ん中では、数人の兵士達がグールと必死に格闘していた。
「なあ、ネイオ」
「うん?」
「どっちの作戦をとる?」
「…………好きにしろ」
「よっしゃあ!」
スコットはひとさし指を十字路に向けた。
「突撃ぃ!」
疲れきったアレックスは、信じられない物を見た。
武装したトラックやジープが、グールの大群に突っ込んできたのだ。
ジープの後部につけられたマシンガンが唸り、グールを薙ぎ倒していく。
トラックから兵士が飛び降り、混乱しているグール達に向かって銃を乱射した。
「味方だ………」
ジャンソンが呆然とつぶやく。
「おい、大丈夫か!」
<SAF>の腕章を持つ男が駆け寄ってきた。
グール達が十字路の各方向に引いていく。
だが、彼らは逃げたわけでは無かった。
体勢を立て直し、再び津波のような攻撃をしかけるつもりなのだ。
「シュナイダーさん!早く!」
武装トラックの兵士輸送ベイからサブマシンガンを撃っていたアメリカ海軍<ネイビー>の少年が叫んだ。
「奴らが来ます!」
「チッ!」
シュナイダーと呼ばれた男は思わず舌打ちした。
「生き残ったのは4人か?早くトラックへ!」
ローグは兵士輸送ベイからサブマシンガンを連射し、再び4方向から押し寄せてくるグール達を迎撃していた。
隣ではレジスタンスのブラジル人がトラックに設置された固定マシンガンを撃ちまくり、トラックの周りに展開した<SAF>や武装ジープも激しく抵抗している。
だが、グールの数は底なしだった。
仲間が倒れても、その屍を乗り越え迫ってくる。
<SEAL>の生き残った4人がトラックに乗り込んだ。
「よし、撤収!」
ネイオが叫ぶ。
シュンハがまずトラックに飛び乗った。
シュナイダーが続く。
「ガードナー、早く!」
アランが兵士輸送ベイに足をかけながら叫ぶ。
最後まで抵抗していたガードナーが振り向き、トラックへ向けて走りだした。
だが、その時。
大量のグールをはね飛ばしながら、2つの長い影が戦場に躍り出た。
体長は10メートル程。
太さも1メートル近くあるだろう。
「ヴィシス<凶暴>だーっ!」
ブラジル人兵士が叫んだ。
ガードナーが振り返る。
そこには、鎌首をもたげ、鋭い牙を剥き出しにした濁眼の怪物ヘビがいた。
「ガードナー、走れ!」
クロウが叫び、ベイから銃を連射した。
怪物ヘビに唖然としていた他の隊員達も、我に返って撃ち始める。
だが、銃弾は次々にヴィシスのゴム状皮膚を突き破るものの、ヴィシスは全く気にしていなかった。
「あ………あ…………」
ガードナーがペタンと尻餅をつく。
「馬鹿!ガードナー!」
クロウが叫ぶ。
「うわああああああああああああっ!」
突然、悲鳴が響いた。
ガードナーではない。
武装バギーの1つが、もう1匹のヴィシスの尾による強力な打撃を受け、横転していた。
ひしゃげた車体から2人のブラジル人兵士が這い出してくる。
しかし、彼らは一瞬でヴィシスに貪り喰われた。
「shit!」
レイが毒づく。
「あっちを忘れてた!」
その頃、ガードナーは尻餅をつきながら呆然と口をあけ、ギラリと光るヴィシスの牙と、不気味に渦巻く二対の濁眼を見つめていた。
恐怖に神経が麻痺し、何も言えなかった。
ヴィシスとガードナーの間に、完全な静寂が降りる。
「神よ………」
ガードナーは震える唇でなんとかつぶやいた。
次の瞬間、ヴィシスの牙が彼の体を貫いた。
「ガードナーッ!」
アランが悲痛な叫び声を上げた。
ヴィシスはガードナーの骸をひと呑みにすると、トラックに狙いを定めた。
バギーを破壊したヴィシスも、怪物のように吼えると、体を鞭のようにくねらせ、一気にトラックに向かってきた。
「出せ!出すんだ!早く!」
レイが恐怖に満ちた声で叫ぶ。
トラックは疲れたかのように車体を震わせ、走り始めた。
残った4台のジープやバギーが続く。
「あの怪物達、いったいなんなんだ!?」
<SEAL>の隊長格の男がサブマシンガンを撃ちながら訊く。
「グール!ゾンビみたいな連中だ!」
ネイオが説明した。
「そしてあのヘビはもっとタチの悪い怪物だ!」
トラックは徐々にスピードをあげ、確実にヴィシス達を引き離していた。
ヴィシスがいらだった声をあげる。
シュンハが銃を撃つ手を休め、額の汗を拭った。
「ふう、もうだいじょう―――」
次の瞬間、ヴィシスの1匹が、頭付近の筋肉を総動員し、頭を軸にして長い体をぐるりと横に、そう、まるで横殴りの鞭のように回転させた。
1メートルの太さの鞭が、武装ジープの横っ腹に叩きつけられた。
ジープがまるでオモチャのように回転しながら吹っ飛ぶ。
それはトラックの真横にぶつかった。
凄まじい衝撃がトラックを襲う。
クロウはその衝撃で床に倒れた。
頭が固い金属に叩きつけられ、意識が飛びかける。
「つ………」
クロウが後頭部をさすりながら起きあがると、レイが血相を変えて叫んだ。
「アラン!!」
クロウが見やると、アランが地面に投げ出されていた。
ヴィシス達が喜んで突進していく。
「アラン!」
レイが再び叫んだ。
アランが倒れたまま必死になってハンドガンを抜く。
しかし、そのハンドガンが火を噴く前に、アランの体は牙に引き裂かれていた。
レイが悲痛な叫び声をあげ、ベイから飛び出そうとした。
「レイ!やめろ!」
クロウがレイを後ろから抱きとめた。
「放せ!アランが!アランがぁっ!!」
レイが髪を振り乱しながら叫ぶ。
「落ちつけ!落ちつくんだ!」
クロウは怒鳴りながら、なんとか無理やりレイの体をベイに戻した。
トラックはアランの屍を貪るヴィシス達から、急速に離れていった。
「パパ?」
リアナはレジスタンスのアジトで、彼女達に与えられたテントの中で荷物をまとめていたバーナードの背中に声をかけた。
バーナードがビクンと体を震わせる。
彼は振り返ると、リアナを見てひきつった笑みを見せた。
「や、やぁ、リアナか。もうこんな時間じゃないか。早く寝なさい」
「なにしてるの?」
リアナは父の言葉に取り合わず、眉間にしわをよせ、ずかずかと詰め寄った。
バーナードがたじたじと後ずさる。
「い、いや、荷物の整理をだな………」
「荷物の整理?じゃあなんで長距離通信機なんか持ってるの!?」
リアナはカバンから顔を覗かせている長距離通信機をズバッと指さした。
そしてハッと気づいた。
「長距離通信機!?持ってるならなんで言わないのよ、パパ!」
「……………………………………………………………お前には言うまいと思っていた」
長い沈黙の後、バーナードはゆっくりと言った。
「そのとおり、長距離通信機はここにある」
「だったら―――」
「だが!」
バーナードはリアナの言葉を荒々しく遮った。
「このレジスタンスの連中は数千人はいる!」
「…………だからなに?」
リアナは理解できないというように首をかしげた。
次の瞬間、リアナが見たのは、今まで見たことも無いような残酷な笑みだった。
「フィアやグールがレジスタンスのアジトを襲えば、素晴らしいデータを入手できる。奴らの指示系統、科学力、戦闘能力!そうすれば、わたしの生物学界における地位も飛躍的に―――」
バーナードはそこで言葉を切った。
「知っているか?あのゾンビを造り出したウイルスは、アメリカの兵器なんだ!わたしは前日、ネザル准将やアーサー・ホーク博士と会って、その詳細なデータの採集を頼まれたのだ。そして成功した暁には、多大な褒賞に地位、さらにはUウイルスという未知の分野に関する研究までさせてもらえるんだ!」
バーナードは魅せられたかのようにつぶやくと、リアナに手をさしのべた。
「さあ、行こう、リアナ」
リアナはしばらく父を見つめた後、いやいやと言うように首をゆっくりと横に振りながら後ずさった。
「そんな………こんなのパパじゃない……」
「リアナ、来るんだ!」
「いやあっ!」
リアナは自らの腕を掴んだ父の手を振りほどこうと必死にもがいた。
バーナードがいらだたしげに舌打ちし、もう片方の拳を振り上げる。
リアナは悲鳴をあげた。
「なにやってる?」
突然、声が響いた。
2人はテントの入り口にハッと目をやった。
そこには、30歳程の男がいた。
顔の片側の皮膚が、大火傷のせいでたるんでいる。
男はずかずかとテントに入るとバーナードの腕をむんずと掴み、リアナを後ろに庇った。
「自らの娘に暴力を振るうとは何事ですか、教授」
バーナードは男を睨んだ。
「君には関係無い事に首を突っ込むくせがあるようだな」
バーナードはリアナを見つめた。
「リアナ、本当にこないつもりか?」
リアナは少し迷ったが、頷いた。
「…………そうか」
バーナードは寂しげに頷くと、荷物を持ち、テントから出ていった。
リアナの目から、涙がこぼれ落ちた。
「そんな……パパが……」
涙は次々に溢れだしてきた。
楽しかった父との思いでが、胸の内に蘇る。
だが、その思いでは、父の残酷な笑みに踏みにじられた。
リアナは、大声で泣いた。
「ふむ、奴らはそんな連中だったのか」
アレックスは顎に手をやって頷いた。
「信じられないな」
グリッグが腕を組み、懐疑的に言う。
「じゃあ、あれがなんだと言うんだ?」
クロウがいらいらと言った。
グリッグが押し黙る。
「長距離通信機なら、誰も持ってないぞ」
ジャンソンが言った。
「緊急事態だったからな」
「そうか………」
シュンハが残念そうに言った。
「てことは、まだアメリカとは連絡がつかないのか………」
「…………いや、待てよ」
ディックスが思いついたように言った。
「ここはリオデジャネイロの近くだろ?リオデジャネイロのテレビ局だったら、高能力の通信装置ぐらいあるんじゃないか?」
「無駄さ」
スコットが手をひらひらさすて言った。
「フィアが全部ぶっ壊しちまった」
「フィア?」
アレックスが首をかしげる。
「なんだ?それは」
「グールから進化した新生物だ」
クロウが言った。
「あなどれない連中さ」
「………ところで、これからどうするんですか?」
ローグが口を開いた。
「長距離通信機も無いんでしょう?」
皆、一様に黙り込んだ。
「あーー………、それだがな」
今まで近距離通信機をいじっていたシュナイダーがおもむろに言った。
「<SAS>がここから北に10キロメートルの地点に着陸した。現在、戦闘中だ」
悲鳴があがり、<SAS>の隊員がまた1人倒れた。
「ドルチェス!」
コナーは物陰から叫んだが、どうにもならなかった。
怪物達が持つ銃からレーザーが滝のごとく吐き出され、矢も盾もたまらない状況なのだ。
このままでは長くはもたないだろう。
「イングランド隊長!敵が背撃してきます!」
隊員の1人が叫んだ。
見ると、確かに敵の1隊が後ろに回り込もうとしていた。
周りは瓦礫ばかり。
後ろに忍び込むのは容易だろう。
よし、相手の戦略を叩き潰してやる。
「ジョン、エドワード、カトリーナ!お前達はグレイズドノットと一緒に<ホームズ>と<ワトソン>を守れ!」
「了解!」
「イエッサ!」
「わかりました!」
3人の隊員が返事をし、銃弾飛び交う戦場を横切りだした。
「ドイル!」
「はい!」
コナーが呼ぶと、すぐに応答がきた。
「敵が側面から来てる!そいつらを潰す!援護しろ!」
「Yes,sir!」
「OK,Let's move!」
コナーは瓦礫に隠れての移動を開始した。
背後にドイルが続く。
じきに主戦場から離れ、少し静かな場所に来た。
その時、コナーは咄嗟に身を潜めた。
ドイルも素早く従う。
怪物達がいた。
体には装甲服を着用し、手にはレーザー・ガンを持っている。
6匹はいるだろう。
怪物達は薄気味悪い言葉で会話し、そろそろと歩いていた。
まだコナー達には気づいていないようだ。
コナーは怪物達を指し示し、人指し指を引き金を引くように動かした。
ドイルが頷く。
2人は瓦礫から顔を出すと、慎重に狙いを定めた。
「FIRE!」
コナーの高らかな声と共に、銃弾が放たれた。
鉛の弾丸が次々に怪物達の体に突き刺さった。
怪物が悲鳴をあげ、たじたじと後ずさる。
「いいぞ!」
コナーは空になった弾倉を取り換えながら言った。
しかし、怪物達は倒れるどころか撃ち返してきた。
「なっ!?」
コナーは絶句したが、すぐに瓦礫に隠れた。
「なぜ奴らは死なん!?急所に当てたはずだぞ!?」
「わかりません!」
ドイルも狼狽しきって答えた。
怪物達が銃を撃ちまくりながら接近してくる。
赤いレーザーが瓦礫の端を弾いた。
「ええい!手榴弾だ、手榴弾!手榴弾を使え!」
コナーはそう言うと腰から手榴弾を抜き、投げた。
ドイルが続く。
手榴弾が爆発し、怪物の悲鳴が聞こえた。
「………………」
「……………死んだか?」
「さあ」
「見てこい」
「………正直、嫌です」
「上官命令」
「……卑怯者」
ドイルはそう言うと、渋々立ち上がった。
「大丈夫、後ろから援護するって」
「20メートル後ろからですか?」
「冗談冗談、私も行く」
コナーはそう言うと、ドイルと共に瓦礫から足を踏み出した。
何かの焦げた臭いがする。
「気をつけろ。あの回復力は脅威だ」
コナーの言葉にドイルが頷き、静かにライフルを構える。
次の瞬間、瓦礫の下から怪物が飛び出し、コナーが防ぐ間もなく彼の首を掴んだ。
不気味な灰色の皮膚に覆われた手がコナーの首をギリギリと締め上げる。
体のあちこちに傷が走り、顔の片側が真っ黒に焼け焦げた怪物が恐ろしい声をあげた。
「隊長!」
ドイルは慌て銃を撃とうとした。
が、彼はうなじに殺気を感じ、素早く身を翻すと、目の前で口を開けていた別の怪物の顔に、銃弾を何発も撃ち込んだ。
怪物が今度こそ絶命し、倒れる。
だが、次の怪物がドイルに殴りかかってきた。
その頃コナーは、首を締める手を剥がそうと躍起になっていた。
既に酸素不足のせいで意識が朦朧とする。
コナーは必死に腰からハンドガンを引き抜くと、立て続けに引き金を引いた。
全弾命中。
しかし、怪物は動じず、相変わらずコナーの首を締めていた。
「く………そ…………」
コナーは役に立たなくなった拳銃を捨て、ナイフに手を伸ばした。
だが、もはや体力は限界だった。
視界が血走ってくる…………
突然、エンジンの音と共に銃声が聞こえた。
コナーの首を締めていた怪物の手が震え、力を失った。
コナーは激しく咳き込んだ。
新鮮な空気が肺に入ってくる。
「隊長!早く!」
見ると、軍用武装ジープの運転席に乗ったグレイズドノットが銃を構えていた。
隣には同じく軍用武装ジープ<ワトソン>があり、カトリーナが運転席にいる。
ドイルが<ワトソン>の後部の銃座に素早く乗り込むのが見えた。
軍用武装ジープは補助席にマシンガンが据えられており、後部は立って扱うマシンガンが備えられている。
「グレイ!他の仲間は!?」
グレイズドノット、通称グレイがかぶりを振った。
「みんな殺られました!すぐ後ろに怪物達がいます!早く!」
コナーは頷き、<ホームズ>の後部銃座に飛び乗った。
グレイがアクセルを踏み、<ホームズ>が瓦礫ばかりの悪路を走り出す。
怪物達が瓦礫を乗り越え、銃を撃ってきた。
レーザーが地面に炸裂する。
<ホームズ>と<ワトソン>は素早く瓦礫の山を走り抜け、戦場から離れた。
周りは崩れた民家ばかりだ。
「ふう………、全くなんなんだ、この街は……」
コナーはつぶやき、額の汗を拭いた。
その時、地響きが聞こえた。
「…………?」
周りを見回したが、何もいない。
だが、グレイにも聞こえたようだ。
ジープを運転しながら、しきりに周りを見回している。
次の瞬間、破壊音と共に近くの民家が崩れた。
並んだ民家が次々に崩壊していく。
その中から現れたのは、4本の足を持った重兵器だった。
青い光沢のある装甲に、流線型のコクピット。
全てを踏み砕く頑丈な足。
足の先には1本の鋭い爪がある。
コクピットの両横にはガトリングとミサイル発射装置らしき物がついていた。
「………なんだ、こりゃ」
グレイがつぶやく。
「モンスター?」
と、コナー。
「嫌な事言わないで下さいよ。きっと強力な装甲とガトリングを手に入れたクモです」
「それも嫌だな」
「ていうか、これどうみても兵器ですよね?」
「わかっていることはただ1つ」
コナーは顎を撫でながら言った。
「ヤバい」
次の瞬間、なんらかの兵器はガトリングを撃ちまくりながら接近してきた。
4本の足で瓦礫を難なく越え、凄まじいスピードで迫ってくる。
「逃げろ!」
「言われなくても!」
グレイは思い切りアクセルを踏み込んだ。
<ホームズ>がぐんぐんスピードをあげる。
<ワトソン>のカトリーナとドイルも必死についてきていた。
「ヴェノム?」
「ああ。<SAS>の連中がそのヴェノムと遭遇したら大変だなーー、と」
「なんなんだ?そのヴェノムって」
クロウがスコットに訊く。
「えーと、確かここに記録が………」
スコットはそう言うとバックパックをごそごそといじり、2枚の写真を取り出した。
「数年前、ある街のフィア軍に向けて大規模な攻撃をしかけた時の写真だ。見てくれ」
ヴェノム1
ヴェノム2
「………………これ、ゲーム画面………?」
「気のせいだって」
「ていうか、著作権とか大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃね?たぶん」
「たぶん………」
「とにかく!」
シュナイダーが言った。
「<SAS>と合流しないと!」
「ああ、それなら大丈夫だぞ」
ディックスが言いながら道路の前方を指さした。
「来たぞ。おみやげ持って」
「トラック!?」
ドイルは前方の車団<コンボイ>を見て叫んだ。
「<SAF>か!?」
「わかりません!」
運転しているカトリーナが言う。
トラックやバギーの集団はこちらに向かってきていた。
「………賭けよう。カトリーナ、このまま突っ走って!」
「はい!」
<ワトソン>は速度をあげた。
みるみる内にコンボイが迫る。
そして、トラックの後部から光が閃いた。
「ロケット・ランチャー!」
ドイルは喘いだ。
ポータブル・ミサイルがぐんぐん<ワトソン>に近づいてくる。
しかし、彼らには当たる事なく通過し、後方から追いすがっていた戦闘兵器に激突した。
戦闘兵器は真正面からミサイルをくらい、足をもつれさせて無様に転んだ。
「ひゃっはあ!見たか!このスコット様の腕前を!」
「バカ。撃ったのはジャンソンだ」
「知るか。弾を渡したのは俺だ」
「脇役すぎるだろ………」
トラックとすれ違いざまに、そんな会話が聞こえてきた。
トラックとバギーやジープは素早くUターンし、<ホームズ>や<ワトソン>と並走した。
「<SAS>だ。援護に感謝する。<SAF>か?それとも<SEAL>?」
「どっちもだ。あとレジスタンス」
<SAF>の隊長らしき男が言った。
「とりあえず話をしよう。伝えなきゃならない事は山程ある」
「なるほど、奴らはフィアというのだな」
時は夕刻。
徐々に黄昏ゆく中で、コナーは頷いた。
一行はフィア達から身を隠すため、少々無理をして森の中にトラックを入れていた。
「その通り。奴らの科学力は我々を絶する程だ。特にさっきのヴェノムという戦闘兵器を見ただろう?」
シュナイダーが言った。
「僕達はどうするんですか?このまま奴らが南アメリカでのさばるのを見過ごす訳にはいかない」
と、ドイル。
クロウが頷いた。
「その事だが、長距離通信機を持ってないか?アメリカ軍を呼んで、奴らに攻撃をしかけるべきだ」
グリッグがギョッとした顔をした。
「正気か!?あの何千匹ものグールを見ただろ!?あれが何万といるんだぜ!?」
「わかっているからこそだ」
クロウは力強く言った。
「フィアはグールをなんらかの形で支配している。あのグールの大軍に、フィアの科学力、さらにはUウイルスによって凶暴に進化した動物の力が合わされば、かなりの驚異になる」
「だからって………」
「議論はそこまでだ」
アレックスが制した。
「まずは長距離通信機があるかないかだ」
全員の視線が<SAS>に集まる。
<SAS>の隊員達は、お互いに目をやった。
「あるぜ」
グレイズドノットが言った。
「だけど、中の部品が2、3イカれちまってる。修理が必要だ」
「マジかよ………」
ディックスが頭をかいた。
突然、見ていたブラジル人の男が口を開いた。
「修理の必要な部品は?」
「えーと、ギアセクションの4-ACと、通信セクションの3-DGだ」
それを聞いたブラジル人の男はしばらく考えていたが、静かに頷いた。
「俺はリオデジャネイロで電気機器部品の工場に勤めていた。管理職に近かったから、工場で生産されていた物もわかる。工場に行けば、きっと必要な部品があるはずだ」
「でかした!」
スコットが嬉しそうに言った。
「大手柄だぞ!えーと……」
「パウロ。俺の名前はパウロだ」
「そういえば、自己紹介がまだだったな」
シュナイダーが背中をポリポリかきながら言った。
「僕はシュナイダー。<SAF>の隊長です」
「リ・シュンハ。<SAF>の隊員」
「朝鮮人?」
グリッグが嫌そうな顔をした。
「北か?南か?どちらにしろ最低な民族だな」
「南。君達には友好な方の朝鮮さ」
シュンハはため息をつきながら言った。
「君とは仲良くできそうに無いな」
「で、彼がレイ・ジェーバックだ」
シュナイダーがトラックの隅でボーッとしているレイを指し示して言った。
「従兄弟を亡くしてね。ショックのあまり、口もきいてくれない」
ジャンソンが同情の眼差しでレイを見つめた。
「オレは……クロウ」
クロウが銃の整備をしながら、顔も上げずに言う。
「ローグです。アメリカ海兵隊に所属の二等兵」
ローグが旅の汚れがつきまくった金髪を気にしながら言った。
「バーナード教授とリアナの護衛を任されています」
「ネイオ・ワーク。南アメリカで確認されたリッカーと呼ばれる怪物の調査にきた」
「スコット・アンティリーズだ。任務はネイオと一緒」
「アレックス。<SEAL>だ」
筋肉隆々の男が自らを指し示しながら言った。
「グリッグだ。よろしく」
「ジャンソンです」
「ディックス。電子機器は得意だ」
「コナー・イングランド。<SAS>だ。で、こっちが…」
「ドイルです。よろしくたのみます」
「グレイズドノット。グレイと呼んでくれ。エンジニアだ」
「カトリーナです。皆さん、力を合わせてこの難局を乗りきりましょう!」
「いい考えだ」
クロウがライフルをガシャリと鳴らしながら言った。
「力を合わせて逃げるぞ。囲まれてる」
「はぁ?」
グリッグが疑わしげに言った。
「そんなわけあるか。気配、それに物音すら――」
グリッグの反論は唐突に途切れた。
彼の目の前にライフルの銃口が突きつけられたのだ。
「キャンキャン吠えるな、ヒヨッコ。生き抜いてきた修羅場が違うんだよ」
グリッグは真っ青な表情をし、口をつぐんだ。
「トラックに乗れ。今すぐだ」
クロウの言葉に皆頷き、急いで乗り込んだ。
「ほんとに囲まれてるのか?」
コナーがクロウに訊いた。
クロウは迷いなく頷いた。
「間違いない。殺気が満ち溢れてる。早いとこリオデジャネイロに向かおう」
「リオデジャネイロ?でも、アジトに置いてきたリアナやバーナード教授が心配です!」
ローグが反論した。
「ごちゃごちゃ言うな。早くしないと、くるぞ」
クロウはそう言うと、トラックに乗り込んだ。
ローグが不満げな顔をしながらも続く。
コナーはため息をつくと、グレイの運転する<ホームズ>へ向けて歩き出した。
全く、なんなんだこの状況は――
「コナー、走れ!」
突然、クロウが切羽詰まった声で叫んだ。
「来たぞ!」
「え――」
次の瞬間、コナーもはっきりと感じた。
殺気。
コナーは慌てて駆け出した。
<ホームズ>まであと20メートル、10、5――。
次の瞬間、近くの茂みから獣が飛び出した。
筋肉が剥き出しになった犬のような怪物だ。
「ヘル・ハウンド<地獄の犬>だーっ!」
パウロが叫ぶ。
ヘル・ハウンドは一気に跳躍し、コナーの側に降り立つと、彼の足に噛みついた。
コナーが悲鳴をあげる。
「隊長!」
グレイが叫び、銃をとった。
だが、ヘル・ハウンドはコナーの足をくわえたまま暴れまわり、なかなか狙いがつけられない。
コナーが苦渋の声をあげる。
クロウが素早くライフルを構えた。
ドイルがギョッとした表情をする。
「バカ!隊長に当た――」
パアン
乾いた音が響いた。
ヘル・ハウンドが悲鳴をあげて飛びのく。
「……信じられん。当てやがった」
ディックスが呆然と言った。
だが、周りの茂みから次々にヘル・ハウンドが飛び出してきた。
何十匹といる。
その内の数匹がコナーの傷ついた足を再びくわえ、茂みに向かってずるずると引っ張りだした。
コナーが悲鳴をあげ、じたばたと暴れる。
「なんとかしろ!」
「できるもんならしてる!」
グリッグがわめき、シュナイダーが答えた。
辺りに銃声と獣の戦吼が響く。
「カトリーナ!」
ドイルは叫ぶとライフルを手に持ち、コナーを追った。
カトリーナが続く。
「バカ!よせ!」
アレックスが叫んだが、彼らは無視した。
コナーが茂みの向こうに連れ去られ、見えなくなる。
パタリと悲鳴がやんだ。
ドイルは迷いなく茂みに突っ込んだ。
もはや時は夜。
森の中はっ暗だ。
ドイルはライトを点けた。
とたんに、ヘル・ハウンドが彼に飛びかかってきた。
ドイルは悲鳴をあげて倒れた。
ヘル・ハウンドが恐ろしい唸り声をあげ、口を開く。
ドイルは無我夢中でそれを押さえた。
「ドイルさん!」
カトリーナが叫び、震える手で銃を構える。
ドイルは焦った。
「バッ……!撃つな!殴れ!」
カトリーナは慌てて銃口を持ち、振り回した。
バキッ!という音と共に銃尻がヘル・ハウンドの頭にクリーンヒットした。
ヘル・ハウンドがキャインと鳴き、転がる。
「ナイス!」
ドイルは起きあがりざまに拳銃を引き抜き、次々に銃弾をハウンドに浴びせた。
ヘル・ハウンドが動かなくなる。
その時、背後で物音がした。
ドイルとカトリーナは素早く銃をそちらに向けた。
が、すぐに下ろした。
そこにいたのは全身汗だくのアレックスだった。
「早くジープに!」
「隊長が!」
ドイルは食い下がった。
「どの道助からない!早くしろ!」
ドイルはしぶしぶアレックスに続いた。
「出せ!出せってば!」
スコットが焦ったように叫んだ。
トラックがようやく走り出した。
ブラジル人兵士の1人が武装バギーに走っていく。
だが彼が運転席に乗り込んだ瞬間、ヘル・ハウンドもバギーに飛び込んだ。
悲鳴が響き、血飛沫が飛ぶ。
「全滅するぞ!」
ネイオがマシンガンをでたらめに撃ちながら言った。
「早く!」
「やってるって!」
グリッグが叫んだ。
「だけど、アレックス隊長が―――」
次の瞬間、彼にヘル・ハウンドが飛びかかってきた。
「うわああっ!?」
グリッグは悲鳴をあげて、ヘル・ハウンドと揉み合いながら地面を転がった。
ヘル・ハウンドが獰猛な唸り声をあげ、グリッグの喉に食らいつこうとする。
だが、その瞬間、ヘル・ハウンドはグリッグから引き剥がされた。
「ジャンソン!」
グリッグは喘ぎながら叫んだ。
ジャンソンがヘル・ハウンドを無理矢理グリッグから引き剥がしたのだ。
ジャンソンは両腕の中で暴れまわるヘル・ハウンドの首を絞めて屠ると、グリッグにニコリと笑いかけた。
「やあ、大丈夫かい?」
だが、彼の顔は突然苦痛の物に変わった。
「ぐ…あ……」
ジャンソンは痛みに耐えながら後ろを振り向いた。
彼の広い背中に、ヘル・ハウンドが爪を突き立てていた。
血がどくどくと湧き出ている。
「くそ……この畜生…」
ジャンソンは力無くつぶやいた。
ヘル・ハウンドが勝ち誇ったように吼え、ジャンソンの首に噛みついた。
「早く!」
ドイルは叫びながら<ワトソン>の運転席に飛び込んだ。カトリーナが補助席に座り、アレックスが後部の銃座に飛び乗る。
ドイルは一気にアクセルを踏み込んだ。
<ワトソン>が爆音をたてて走り出す。
トラックや<ホームズ>、それに他の武装ジープも走り出していた。
たくさんのヘル・ハウンドが吼え、追いすがってくる。
トラックの兵士輸送ベイから戦士達が銃撃していた。
「もっとスピードは!?」
「これが全速です!!」
アレックスの問いに、ドイルは怒鳴って答えた。
寄せ集めのコンボイ<車団>は、枝を弾き飛ばし、根を引き裂きながら森の中を疾走していた。
ヘル・ハウンド達が激しく吼え、後ろに続く。
「くそっ!どうにも――」
アレックスが毒づこうとした次の瞬間、凄まじい衝撃音と共にトラックが止まった。
「な、なんだ!?」
ドイルも慌ててジープを止めた。
スコットがなにやらわめいている。
どうやら大木にぶつかり、止まってしまったらしい。
「ま、まずいですよ!」
カトリーナが狼狽して叫んだ。
「マジかよ…」
ドイルは呆然とつぶやいた。
「ったく!誰だ!森の中に隠れようなんて迷案を考えついたのは!」
ディックスがイライラと言った。
「こんな事になるなんて、目に見えていただろう!?」
ディックスの言葉に、スコットがカチンときたような顔をした。
「んだと!?じゃあ他にヴェノムから隠れるいい方法があったって言うのか!?」
「これよりはいい考えがあったはずだ!」
ディックスも負けじと言い返した。
「2人とも、いい加減にしろ!」
クロウが怒鳴った。
「まずはこいつらの相手だ」
見ると、ヘル・ハウンド達がひたひたと迫っていた。
「何匹いるんだよ…」
シュンハが疲れたように言う。
「レイ、戦えるか?」
シュナイダーは側でサブマシンガンを握っているレイに訊いた。
やはり、返事は無い。
アランが殺されて以来、レイは戦いはするものの、頑なに口を開かなかった。
シュナイダーはため息をつくと、ゆっくりと迫ってくるヘル・ハウンド達に銃を向けた。
ドイルやアレックス、カトリーナ、グレイもジープから降り、トラックの周りに展開している。
他の武装ジープに乗っていたレジスタンスのブラジル人達も同様だった。
両陣営が激しく睨み合う。
場は、一触即発だった。
緊張が高まり、互いの心臓の音すら聞こえるような静寂が降りる。
と、その時、突然ヘル・ハウンド達が引き始めた。
素早く森の闇に後退していく。
「な、なんだ?」
ネイオが狼狽して言った。
「さあ……?」
グリッグが銃を下ろしながら言う。
「……俺達を恐れて引いた、のか?」
グレイが言うと、スコットがガッツポーズを取った。
「いよっしゃあ!へっへん、犬畜生どもがこの俺に―――」
「静かに!」
クロウが片手で制した。
スコットがすぐに口をつぐむ。
………地響き
ズズン…
ズズン…
ズズン…
皆、不安げに顔を見合わせた。
その時、シュナイダーは、地面の水溜まりが音のたびに揺れ動くのを見つけた。
確か…以前こんな映画が……。
シュナイダーは首を捻り、必死にその映画の内容を思い出そうとした。
確か……水溜まりが揺れて…そして……
「ティラノサウルス……」
シュナイダーはつぶやいた。
そうだ。
確かそうだった。
「……おい、知ってるか?」
突然、クロウが口を開いた。
地響きはますます激しくなり、ヘル・ハウンド達が道を開け、平身低頭した。
「ボスが通る時、シタッパ達は道を開けるらしい」
クロウの言葉と共に、森の闇から巨大なリッカーがのっそりと姿を現した。
リアナはレジスタンスが得ていたグールやフィア、その他の情報を必死に解析していた。
もしかしたら、父の必要な情報を見つけ出し、父がフィア達をレジスタンスのアジトに導くのを思い止まらせられるかもしれない。
彼女はこれで何杯目になるかもわからないコーヒーに口をつけた。
もう何日も寝ていない。
ノートパソコンのディスプレイの光で目がチカチカする。
「無理するなよ」
突然、声がかけられた。
リアナをバーナードから助けた、顔の半分が火傷でただれた男だ。
男はコーヒーをリアナの側におくと、側の椅子に腰かけた。
「少し休憩するといい。君はもう頑張りすぎだ」
「ありがとうございます」
リアナは疲れた笑みを見せながら言った。
「でも、これをやめるわけにはいかないわ。だって、ローグ達だってわたしよりずっと大変な所で頑張っているんだもの」
「……がんばりやさんだな」
男は微笑を見せながら言った。
「昔、俺の知り合いにもいたよ、そんな奴。黒が好きでな、機転もきくし、狙撃は大得意。だけど、仲間のためには人一倍頑張れる奴で」
男は微笑しながら湯気のあがるコーヒーを指し示した。
「ほら、飲むといい。冷めたらまずいぞ」
リアナもほほえみかえした。
「ありがとう。えーと……」
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな」
男は席から立ち上がりながら言った。
「俺はジェイク。仲良く頼むぜ、可愛いお嬢ちゃん」
「リッ………カー……」
ネイオが喘いだ。
「なんだって?」
グリッグが訊き返す。
「リッカーだよ!」
スコットがわめいた。
「舐める者?」
シュナイダーが額から冷や汗を流しながら言った。
「なるほど。あの長い舌か」
リッカーは虎のような体格で、鋭い牙を大量に生やし、巨大な口から長い舌をチロチロと出していた。
唾液がボタリと地面に落ち、小さな瞳がキョトキョト動いている。
リッカーの脳と筋肉は剥き出しで、蠢いていた。
「………うえっぷ。気持ち悪……」
グレイが本当に青い顔をして言った。
「なんなんだ?こいつ」
「みりゃわかるだろ?怪物だ」
「……まあ、そうだな」
「とりあえず」
ローグが後ずさりしながら言った。
「逃げません?」
「あーー、残念だが、それにはちょーっと―――」
スコットが頭をかきながら言った。
「遅すぎだ」
次の瞬間、リッカーが吼え、猛然と襲いかかってきた。
レジスタンスのブラジル人が2人、銃を構える間もなく引き裂かれた。
リッカーが巨大な爪を振り回す。
幹をえぐりとられた木が轟音をあげて倒れた。
「本物のバケモンだ!」
グリッグが喘いだ。
「ロケット・ランチャーだ!早く!」
スコットが腕を振り回しながら叫ぶ。
リッカーは凶暴な唸り声をあげ、ブラジル人兵士が乗っていたバギーに体当たりした。
バギーが吹っ飛び、ひしゃげて転がった。
リッカーが休む間も無く戦吼をあげ、ディックスめがけて飛び掛かった。
「うわああっ!」
ディックスはとっさに後ろへ跳んだ。
目の前にリッカーがドスンと着地する。
「死ねえ!このゲテモノ!」
ディックスは半狂乱になって銃を連発した。
銃弾が次々に剥き出しの脳に炸裂する。
しかし次の瞬間、ディックスはリッカーに頭からかじられていた。
血が飛び、ディックスの骸がビクンと跳ねる。
「ディックスーーッ!!」
グリッグは叫び、リッカーにサブマシンガンを撃ちまくった。
ディックスを呑み込んだリッカーがのそのそとグリッグに向き直る。
「ヒッ………」
リッカーの威圧を感じたグリッグは、思わずたじたじと後ずさった。
リッカーが長い舌で口の周りを舐め、にたあっと笑った。
牙がぎらりと光る。
リッカーが跳躍した。
そして鉤爪を振り上げ、グリッグに―――
次の瞬間、リッカーは強い横殴りの衝撃を受け、空中から撃ち落された。
「うおっ!?当たった!」
グレネード・ランチャーを構えたスコットが、自分でも驚いたように叫ぶ。
「いいぞ!スコット!」
ネイオは叫ぶと、銃をリッカーに向けた。
「スイッチ!」
次の瞬間、場にいる全員が一斉にリッカーに向けて銃を撃った。
凄まじい銃撃を受け、たまらずリッカーも逃げ出した。
「深追いするなよ!」
「追いませんよ!あんなヤバそうな奴!」
クロウの指示に、シュンハが汗を拭いながら答えた。
「早くジープに!」
ネイオは弾倉を入れ換えながら叫んだ。
「逃げるぞ!」
彼らは<ホームズ>と<ワトソン>、そして他のジープに電光石火の速度で乗り込んで逃げ出した。
リッカーが再び追ってくる。
「撃て撃て!」
クロウが叫び、皆一様に引き金を引いた。
銃弾が嵐のごとく吐き出され、リッカーに襲いかかる。
しかし、リッカーはしつこかった。
化け物はその図体に似合わず敏捷な動きでジープの1つに近づいた。
乗っていたシュンハとシュナイダー、アレックス、そしてブラジル人が悲鳴をあげる。
次の瞬間、リッカーはジープの後部に体当たりを食らわせた。
ジープが制御を失い、ふらふらと大きくよろけた。
「うわああっ!」
悲鳴と共にシュンハとブラジル人が投げ出された。
「シュンハ!」
クロウが叫び、銃を構える。
しかし、時、既に遅し。
リッカーがシュンハとブラジル人兵士に覆い被さり、不気味な音をたてて喰らい始めた。
「シュンハ!」
シュナイダーが叫ぶ。
「もうだめだ!逃げろ!」
「なに言ってるんだ!?」
「もう助けられない!」
「口論してる暇は無いぞ!」
一行はしかたなくきびすを返し、その場を後にしたのだった………
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