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JEDIMANの瞑想室
第4章 ソロモンの眼 <1>
富士の戦いにおける大勝利は、人類に希望を与えた。
アジア方面に投入された軍勢の中核を失ったフィアは、早期におけるアジア制圧を断念。
日本と中国を攻撃していたフィアは撤退し、ニュージーランドのオーストラリア方面軍と合流した。
勢いを盛り返したフィアは、シドニー、キャンベラを相次いで攻撃。
フィアの軍勢はオーストラリア軍を蹴散らし、12月10日にはオーストラリアの東海岸を制圧していた。
だが、人類も黙ってはいなかった。
日本と中国、そして韓国の連合軍は、インドシナ半島のゲリラを支援。
インドシナ・ゲリラは、密林にてフィアに対する激烈な抵抗を開始した。
しかし、フィアの対応は素早かった。
フィアは、アジア方面での人類の勝利にヨーロッパや北アメリカが呼応せぬよう、よりいっそう北アメリカ戦線、ヨーロッパ戦線、そして南アフリカ戦線に圧力をかけ、さらにはイスラム圏への進出を開始した。
イスラム圏はただでさえ、中東大戦の影響で弱体化している。
フィアは破竹の勢いで進撃し、あっという間にバグダッドまでの地域を制圧していた。
さらに、悪い事は続いた。
日本の安田防衛大臣は、あくまでも自衛隊は日本防衛のためと宣言し、中国、オーストラリア、さらには韓国やアメリカまでも敵に回したのだ。
東京条約をもとにしたアジア共同軍の結成は、事実上不可能になった。
中国は日本を激しく非難。
単独でサイパン島の攻略に乗り出した。
しかし、もくろみは外れ、フィアはサイパン島を死守し、中国は退却を余儀なくされた。
さらに、ハワイにフィアの大援軍が到着したとの報せも入り、人類はせっかくの勝利を無駄としてしまったのだった。
「自衛隊はあくまでも、日本防衛のためにあるのです!」
安田は大阪で開かれた即席の議会で、議員達を前に叫んでいた。
かつてリッカー事件のとばっちりを受けて崩壊した国会議事堂の跡継ぎとしてつくられた平成国会議事堂も、先日のフィアの攻撃によって大破し、今は大阪の施設で代用するしかないのだ。
安田の言葉に、議員達から拍手が起こる。
「盲目野郎どもめ」
シュナイダーはテレビでその様子を見ながら毒づいた。
「平和に慣れすぎたな。世界がこんな状況なのに、自分達はまるで別の世界にいるような感覚だ」
「日本はもはや頼れないな」
風呂あがりのクロウが髪を拭きながら言った。
ここは富士自衛隊基地の兵舎である。
彼らはここで寝泊まりしていた。
「これからどうする?」
「俺はゆっくり休みたいな」
シュナイダーはテレビを切り、椅子の上で思いっきり体をのばした。
「何回も修羅をくぐりぬけたんだ。少しは休みをくれても―――」
ダーンダーンダーンダンダダーンダンダダン♪
いきなりダース・ヴェイダーのテーマが鳴り出した。
「あ、オレだ」
「そんな曲、着メロに設定すんなよ………」
クロウは自らの携帯を手にとり、耳に当てた。
「なんだ」
『あ、クロウ?』
「リアナが。電話してくるなんて珍しいな」
『電話番号はローグから聞いたわ。わたし、今、アーサーと<せつな>にいるんだけど』
「確か、<せつな>にある九十九里浜の戦いの時のフィアの死体を調べるんだったな」
『そう。で、今調べてるんだけど、報告があるの。みんなを連れてこっちへ来てくれる?』
「………オレにはヘリをチャーターできる権力なんて無い」
『大丈夫。もうネザル准将に連絡してあるわ。彼が準備してくれるはずよ』
「……わかった。すぐに行こう」
クロウは頷き、携帯を切った。
12月25日、駿河湾、<せつな>甲板―――
「やはり、そうか」
アーサーはつぶやき、満足げに頷いた。
彼の目の前には、固いベッドにがんじがらめにされたフィアがいた。
かろうじて生きていたフィアを回収し、様々な実験を行ったのだ。
「教授、やはりフィアはなんらかの遠距離脳波交信<テレパシー>ができるようです」
リアナがコンピューターの前に座り、キーボードを叩きながら言った。
「リード、ほんとに感じるのね?」
頭にたくさんのコネクトをつけ、リアナの側に座っているリードが頷いた。
「うん。感じる。凄く……痛い」
リードは辛そうに言った。
「そのフィア………痛がってるよ」
リアナは頷いた。
「フィアの血を持つあなたに助けを求めてるのね」
アーサーは唐突にポケットからメモを取り出すと、何かを書き始めた。
「テレパシー能力、とれすぎている統制、異常な知能、そして巨大発光体………」
アーサーはつぶやき、ペンでメモ用紙をパシンと叩いた。
「やはり仮説は正しいぞ!彼らは蜂だ!」
「は?」
リアナは思わずアーサーを見た。
「フィアが、蜂?」
「正確には、フィアを含むあらゆるUウイルス・クリーチャーが蜂だ。私の仮説では―――」
コンコン
突然、扉がノックされた。
「クロウだ」
「あ、クロウ。入って」
リアナの言葉と共に扉が開き、クロウやローグ達が入ってきた。
「おーおー、なんかすっげえ実験だなぁ」
スコットが部屋にたくさんある研究器具を見て言う。「で、俺達呼び出しといて、いったいなんの用なんだ?」
リッドが腕組みして尋ねた。
「ああ、あのね、これからこの船、すぐにオーストラリアに向かうの」
リアナはそう言うと、懐から地図と写真を取り出した。
「オーストラリアの東海岸を制圧したフィアは、オーストラリア北東にあるソロモン諸島を攻撃するつもりよ」
「え?なんでだい?」
ビッドがタバコを吸いながら訊く。
「ソロモン諸島にはオーストラリアの軍港、ソロモン基地があるわ。ジェイド・アーシタ首相や残存オーストラリア軍もそこに撤収してる。言わば、オーストラリアの最後の拠点ね。他国だけど」
「ふむ。なるほど」
ビッドは頷いた。
リアナは続けた。
「それに、ソロモン基地にはオーストラリア軍が開発した超弩級巨艦、<アイ>があるの。これを失うわけにはいかないわ」
「<アイ>?」
ローグが首をかしげた。
「聞いた事ないな」
「オレはある」
クロウが腕組みしながら言った。
「昔、ナッドかジョージ辺りが言ってたな。<アイ>はオーストラリアの開発した主力大型戦艦で、今どき珍しい大艦巨砲スタイルだ。前方には主砲を3つ揃え、それぞれに直径1メートル近くもの砲門を3つ揃えているんだ。その威力はもちろん凄まじいものだ。後部にもこれと同じ砲座が1つある。これらは対艦に絶大な威力を発揮するんだ。艦の右左舷には50門以上のマゼラップ式対空砲が装備され、空への対応もバッチリだ。それに、対魚雷用迎撃魚雷発射台も4つある。これは迎撃だけじゃなく、攻撃にも使えるから、潜水艦での接近も容易じゃない。さらに、<アイ>は最新の電子・情報戦にも対応している。レーダーやコンピューターはアメリカの最新技術を取り入れて、電子戦でも強いんだ。一部では『海上要塞』とも呼ばれている」
「ふぇーっ!そりゃすごい!」
シュナイダーが驚いたように言った。
「そんな化け物がソロモン基地にいるなら、フィアも全力をあげて攻撃するだろうな」
「ええ。まさに問題はそこよ」
リアナはそう言うと、2枚の写真を見せた。
「シドニーの戦いで、オーストラリア兵がとんでもない怪物を2体見たそうよ」
ローグ達は写真を覗き込んだ。
片方の写真には、海からのびる8本の巨大な軟質の腕が写っていた。
吸盤のついたその腕は凄まじい剛腕らしく、オーストラリア軍の戦艦を引き裂いていた。
オーストラリア兵が海に投げ出され、腕の持ち主に貪り食われている。
「………タコ?」
と、ネイオ。
リアナが頷いた。
「そう。まさにそれ。Uウイルスによって凶悪化した、化け物みたいなタコよ。わたし達は<クラーケン>と呼んでいるわ」
「パイレーツ・オブ・カリビアンかよ」
「そのイメージよ。そしてこれがまた別の怪物」
リアナはもう1枚の写真を見せた。
そこには、凄まじい鉤爪でオーストラリア軍の戦艦の壁を斬り裂いている人影の姿があった。
背中からのびた大量の触手は、あるものは兵士を絞め殺し、あるものは艦を叩き壊している。
顔は影になってよく見えなかった。
「怪物だ………」
ビッドが小さくつぶやいた。
怪物は写真ですら恐怖のオーラを放っていた。
「異常な種ね。おそらくグールを改造したんだと思う。わたし達は、これをディザスター<異常者>と呼んでるわ」
「こ、こんな怪物どもがソロモン諸島に向かっているのか!?」
リッドが冷や汗をかき、叫ぶ。
「そ。だから、あなた達はちゃんと護衛してね?」
『…………は?』
思わず、その場にいる全員がそう言った。
リアナがクスクス笑い、口元を押さえる。
「だーかーら、あなた達はわたしとアーサーの護衛としてソロモン諸島に行くのよ☆」
『わけわかんねええええ!』
巻き込まれた者達の魂の叫びが響き渡った。
「嗚呼………。そういや僕もあんな感じで南アメリカに連れてかれたんだっけ………」
ローグはあてがわれた自室でため息をついた。
リアナはときどき自分勝手に暴走する傾向があるのだ。
「わざわざ死地に飛び込んで行かなきゃならんとはな………」
シュナイダーがため息をつく。
彼の言う通り、ソロモン諸島に向かうのは、自殺するようなものだ。
「ていうか、なんでリアナとアーサーはソロモン諸島に行くんだ?」
と、リッド。
「どうせクラーケンとディザスターを観測したいんだろーなぁ」
ローグがため息もあらわに言った。
ため息がため息を呼ぶ。
「ところで、話題変わるけどさ」
唐突にネイオが口を開いた。
「ローグって背ぇ低いな」
ピシッ
ローグは石化した。
「ほぉ、言われてみれば」
シュナイダーがしげしげとローグを見る。
「意外とチビだな、お前」
「ていうか、某少女科学者とあまり身長変わらないな」
スコットがにやにやしながらローグをからかう。
「ただでさえリアナも小柄なのに、17歳でこの身ちょ―――」
「う、うるさいうるさいうるさーいっ!チビとかマメとかミジンコとか言うなーっ!」
ローグが駄々っ子のように叫びながら腕を振り回した。
「気にしてない!気にしてないぞ!チビなんかじゃないんだからな!」
「説得力ないぞ、チビ」
ビッドが追い討ちをかける。
「チビは脳までちっこいのかな?」
スコットがケタケタ笑う。
「く、くっそおおお!覚えてろよ!」
ローグは泣きながら部屋を飛び出していった。
「…………ま、ローグは置いといて、ほんとにどうする?ソロモン諸島行くのか?」
リッドが皆に訊く。
誰も、行きたい者などいなかった。
怪物が2体、ソロモン諸島に向かっているのだ。
むざむざ命を捨てたくない。
「いや、選択肢無いみたいだぞ」
窓の外を見ていたクロウが言った。
「もう出港してる」
『Noooooooooooooooo!!』
自衛隊軍服組、背広組に徹底反論。
自衛隊の権限に、積極的自衛権を盛り込む事を要求。
この事件に、日本政府は大きく揺れていた。
積極的自衛権が認められれば、自衛隊は海外への出撃が可能になり、事実上『自衛隊』ではなくなるのだ。
しばらく続いた議論は、結局のところ小田原評定となり、ついに自衛隊の代々木稀義司令官が、自衛隊は政府の意向に従わず、独自に行動する事を宣言。
事実上のクーデターが発生した。
12月25日に行われたこの宣言は、クリスマス・クーデターや聖夜宣言と呼ばれている。
国民もフィアに対抗できるのは森内内閣ではなく自衛隊だと感じ、大多数がクーデターを指示した。
自衛隊は日本保安軍と改名。
その名にあるように、自衛隊は『軍』となったのだ。
総理大臣にとってかわり、日本の権力の頂点に立った代々木最高司令官は、オーストラリア、アメリカ、中国、韓国の合同作戦、Operation:Solomon's eye<ソロモンの眼作戦>への参加を表面。
彼はアーサー・ホーク教授らを乗せたイージス艦<せつな>を始めとする多数の艦をオーストラリアの救援に投入した。
Operation:Solomon's eye<ソロモンの眼作戦>。
それはいたって単純な作戦だった。
日本保安軍とアメリカ軍はソロモン基地にてオーストラリア軍と共にフィアを迎撃。
フィアがそれに手間取っている間に、中国と韓国がハワイを制圧するのだ。
うまくいけば―――うまくいけば、だが―――アジアおよび太平洋の制圧権を取り戻せるかもしれない。
「それにしても………」
カトリーナは<せつな>の甲板で風を浴びながらたたずんでいた。
「ローグはなんであんなところで寝てるのかしら?」
彼女の視線の先には、甲板の真ん中でのびているローグがいた(チビと言われまくったショックである事は言うまでもない)。
「………おもらし?」
カトリーナはローグの周りの水たまりを見て眉をひそめた(水たまりが涙である事は言うまでもない)。
「やっほ。カトリーナ」
突然かけられた声にカトリーナが振り向くと、そこにはローラナがニコニコしながら立っていた。
「あ、ローラナ」
カトリーナもふわりと微笑み返した。
「あっ………ついなあ!日本は冬なのに、オーストラリアは夏だってよ!?体調崩したら困るじゃない!まぁ、軍服に夏服も冬服もないけど」
ローラナはそう愚痴ると、近くの自衛隊員、いや、いまでは日本保安軍兵士の青年に笑顔で手を振った。
青年がとろけたような笑顔で手を振り返す。
「え?ローラナの彼氏?」
カトリーナの問いに、ローラナはちっちと指を揺らした。
「違うわよ。ただの奴隷」
「どっ、どれ……!?」
目を白黒させたカトリーナに、ローラナはニカッと笑った。
「冗談よ。ただの友達。彼、若干英語できるのよ」
「へぇ」
「あ、ねぇ、知ってる知ってる?彼から聞いたんだけど、日本人は外人美女が好きなんだってよ!」
「ふーん、変わった趣味ね」
カトリーナは心の底からそう思った。
「だから、あなたみたいな娘だったらモテモテよ!日本人の奴隷でもつくっちゃえば?」
「だ、だから奴隷なんて!」
「じょーだんだってばぁ。もう、この純朴さん☆」
ローラナはからかうように言うと、いまだに(ショックのあまり)甲板でのびているローグに目を向けた。
「………で、彼はなにしてんの?」
「ああ、ローグ?」
カトリーナは眉をひそめた。
「おもらしよ」(違います)
ソロモン基地は厳重な警戒だった。
兵士の顔も常に緊張し、リラックスできるムードなどでは無い。
「ま、無理もないか」
ネイオはシュナイダーに続いて<せつな>から降りながらつぶやいた。
ソロモン基地はオーストラリア軍最後の拠点だった。
ここが陥落すれば、それはオーストラリアの終焉を意味するのだ。
ヘリがひっきりなしに飛び回り、監視塔では兵士が双眼鏡で落ち着きなく周りを見回している。
美しい碧の海。
蒼空。
波の音。
南国のそれは、緊張に満ちた軍事施設にはあまりにそぐわなかった。
2019年1月1日午前0時00分、ソロモン基地―――
「ハッピーニューイヤー」
クロウは銃を整備する手を休めずにつぶやいた。
「お、ついに年が明けたか」
薄暗い部屋の片隅で筋トレをしていたシュナイダーが、汗を流しながら言う。
「まさかこんな暑い年越しとはな」
リッドが手で自らを扇ぎながら文句を垂れた。
「熱帯夜だ」
「ほんとに熱帯地域だしね」
ローグがベッドの中でもぞもぞしながら言った。
「布団いらずだ。パンツ一丁で寝れるよ」
「ブリーフパンツで恥ずかしくないか?」
「だ、誰が!」
ローグが顔を真っ赤にしてリッドに反論する。
「でも身長的には………なぁ?チビ」
「チビ言うな!小柄言いなさい!」
「デブがぽっちゃり系と主張するのと一緒だな」
「ぬぅーーーっ!」
「そういえば、ビッドは?」
シュナイダーはリッドとローグをまるで無視してクロウに訊いた。
「さあな。女子風呂のぞいて殺されてるんじゃないか?」
クロウは整備の手を休めず、顔もあげずに答えた。
その時、シュナイダーの耳に、カトリーナとリアナの悲鳴と、この変態やろー、というローラナの怒声が聞こえた……………気がした。
1月2日、ソロモン基地司令室
「敵影捕捉!オーストラリア方面!基地から南西に50キロの地点です!」
「くっ………。ついにきたか」
オーストラリア首相、ジェイド・アーシタは唇を噛んだ。
この一戦にオーストラリアの運命がかかっているといっても過言ではないのだ。
ジェイドは振り向くと、日本保安軍の将軍と、アメリカ軍少将に昇進したブライドンに言った。
「敵が来ました。中国と韓国にハワイ攻撃の合図を出します。お二方はそれぞれの軍の指揮についてください」
ブライドンと日本保安軍の将軍はジェイドに礼をし、司令室を出ていった。
ジェイドは振り向き、オペレーター達に向き直った。
「迎撃準備!憎むべき敵はフィア!Operation:Solomon's eye<ソロモンの眼作戦>、発動!」
「よし、俺達は2手に別れよう」
クロウはライフルを手に、仲間達を見回して言った。
「1組は基地にいるリアナとアーサーの護衛。もう1組はブライドンの指揮する<ヴァルキリー>に乗り込み、戦闘はもちろん、研究資料として例の怪物どもの映像を撮影する」
「じゃあ、僕がリアナ達の護衛につきます」
ローグが真っ先に手をあげた。
「んじゃ、俺も」
リッドだ。
「わたしも護衛につきます」
「あたしもあたしも!」
と、カトリーナとローラナ。
「じゃあ、俺は―――「スコットは必ず<ヴァルキリー>組な」
手をあげたスコットを、クロウはすかさず制した。
「なんでだよ!」
スコットが憤慨したように言う。
クロウはにやりと笑った。
「おもしろそうだからだ。シュナイダー、ビッド、ネイオもついてこい!行くぞ!」
クロウは身を翻し、港に停泊している<ヴァルキリー>に向けて駆け出した。
基地にはサイレンが響き渡っていた。
<せつな>艦長、川口は、迫り来るフィアの戦艦、<デストロイヤー>の軍勢を眺めていた。
デストロイヤーの数は、拍子抜けするほど少なかった。
本当にソロモン基地を奪取するつもりがあるのか?と訊きたくなるほどだ。
だが、川口は嫌な予感がした。
フィアは優れた軍略を持っている。
不安だった。
「ほんとにあれだけだと思うか?」
川口は思わず隣の副官に訊いた。
副官が頷く。
「青龍作戦でアジア方面のフィアは大打撃を受けましたからね。あれだけしかそろえられなかったのでしょう」
果たして、本当にそうだろうか?
川口は渇いた喉に、べたべたした唾液がくっついているのを感じていた。
『Operation:Solomon's eye、start!』
突然、ブリッジにジェイドの声が響いた。
川口は頷くと、少し迷った後、前進の号令をかけた。
周りのアメリカ軍やオーストラリア軍も、足並み揃えてデストロイヤーに向かっていく。
<せつな>も海面を切り、進み出した。
デストロイヤーがぐんぐん大きくなる。
「砲撃、準備!」
川口は指示を下した。
「了解!砲撃準備!」
オペレーターが復唱し、各砲座に指示を下し始める。
しかし、川口の胸から、不安は消えなかった。
『こちら、<なにわ>。准将の浪川だ。これより、全軍で一斉砲撃を行う!砲撃、スタンバイ!』
「砲撃、スタンバイ!照準を合わせろ!」
川口はオペレーター達に怒鳴った。
どうしようもない不安が胸を焦がす。
『一斉砲撃まであと10!』
浪川の声が響く。
その時、川口は気づいた。
これは、罠だ。
『残り7!』
「<なにわ>に通信回線を開け!」
川口は通信士官に怒鳴った。
通信士官がけげんな顔をして振り返る。
「は?」
「<なにわ>に通信回線を開けと言っているんだ!」
『3!』
浪川の声がブリッジに響き渡る。
「ええい、くそ!間に合わない!」
『0!てぇい!』
凄まじい爆音が戦場に響き渡った。
しかし、それは砲撃音では無かった。
その音は、アメリカ軍の戦艦が真っ二つに引き裂かれた爆発によるものだった。
ローグは遠くから聞こえる爆音を聞いていた。
ついに戦いが始まったようだ。
彼は不安を気取られないように、自らの銃を固く握った。
「リアナ、そっちのパソコンと、シュナイダーの持ってるビデオカメラを電波接続してくれ。戦場を生で見れるようになる。それで例の連中を観察しよう」
アーサーが部屋に記録機器をセッティングしながらリアナに言う。
リアナは頷き、キーボードを叩いた。
ここはソロモン基地の一室だ。
アーサーとリアナはここで敵を観察しようとしていた。
「あれ?そういえばリードは?」
リアナは唐突にリチャードがいない事に気づき、周りを見回した。
「トイレじゃないか?」
リッドが壁にもたれかかり、腕を組んで言う。
「わたし、捜してきます」
カトリーナがそう言って、部屋を出ていった。
「よし、リアナ、分析システムの設定がすんだぞ。シュナイダーのカメラと接続してくれ」
アーサーが席につき、キーボードを叩きながら言った。
リアナは頷き、インカムを頭につけた。
「リアナよ。シュナイダー、聞こえる?」
『こちらシュナイダー。よく聞こえる』
少々雑音混じりの声が聞こえた。
「今から戦場を生中継してもらうわ。無理しなくていいけど、例の怪物が出現したら近づいてね」
『自殺行為じゃないか!』
「じゃ、お願いね」
リアナはそう言うと、ディスプレイとシュナイダーの持つハンドカメラを接続した。
「ったく、人使いが荒いな………」
シュナイダーはため息をつき、すぐに戦闘中の味方艦隊を撮影し始めた。
彼らの乗る<ヴァルキリー>は、まだソロモン軍港(基地)の近くに待機している。
そして、突出した数隻の戦艦は、正体不明の危機にさらされていた。
「な、なんだ!?」
川口は身を乗りだし、右方向のアメリカ軍戦艦を見た。
アメリカ軍戦艦は、その側面に大きな穴が空いていた。
火災も発生しているようだ。
アメリカ兵が甲板をバタバタと走り回っているのが見えた。
周囲の戦艦も異常を察知し、動きを止めている。
と、次の瞬間、傷ついたアメリカ軍戦艦を囲むかのように、8本の巨大な軟質の腕が海面から飛び出した。
フジツボなどが生えたその腕には、吸盤がいくつもついていた。
タコの足だ。
8つの腕はしばらくゆらゆらと揺れていたが、突然アメリカ軍戦艦に絡みつき、凄まじい力でアメリカ兵もろとも海中に引きずり込んだ。
川口は、声もでなかった。
さっきまでアメリカ軍戦艦があった場所は、波が揺れているだけだった。
「―――っ!退避!基地まで退がれ!」
川口は我に帰り、慌てて叫んだ。
オペレーター達もその声に我に帰り、恐怖でうわずった声で各部署に指示を伝え始めた。
「か、艦長!付近に大型の生物影を確認!敵です!」
レーダー管制官が、やたらと高い声で叫ぶ。
次の瞬間、<せつな>の隣を航行していたオーストラリア軍戦艦を囲むように、再び8本の巨大な腕が飛び出した。
何人かのオペレーターが、パニックに陥ったかのように悲鳴をあげる。
腕は一気に甲板のオーストラリア兵を弾き飛ばし、絡めとると、海に引きずり込んだ。
あの戦艦の真下にはクラーケンの本体があり、兵を貪り喰っているのだろう。
いくえにもこだました悲鳴が聞こえた。
オーストラリア兵が銃を手に、甲板で必死の抵抗をしている。
その時、川口は高くあげられた腕に気づいた。
他の腕より高くあげられたそれは、ぐらぐらと不安定に揺れている。
次の瞬間、その腕はゆっくりと倒れ始めた。
巨大なタコ足が、まるで映画かなにかのスローモーションのように倒れていく。
凄まじい棍棒が、オーストラリア軍戦艦に叩きつけられた。
甲板が一気に裂かれ、兵士が吹っ飛ぶ。
腕はめちゃくちゃに金属を引き裂いていき、ついにはオーストラリア軍戦艦を真っ二つに切り裂いた。
兵士が悲鳴をあげながら次々に海面に落ちていく。
彼らは太い腕に絡めとられ、一瞬にして海中に引きずり込まれた。
「退避!退避しろーっ!」
副官が恐怖に満ちた声でがむしゃらに叫ぶ。
怪物はすでに別の獲物を狙っていた。
8本の腕は日本保安軍の護衛艦に絡みつくと、逃げ回る兵士を次々に絡めとり、海中に引き込み始めた。
腕の1本がブリッジのガラスを突き破り、中を蹂躙している。
オペレーター達が逃げ惑っているのが見えた。
「ええい!主砲準備!奴に砲撃を浴びせろ!」
川口はオペレーター達に怒鳴った。
「す………ごい……」
リアナはディスプレイに映し出される、この世のものとは思えない映像を見て、畏怖と驚きに打たれてつぶやいた。
「あれが……クラーケン………」
リッドが呆然とその名を口にする。
ローグは額から流れ落ちた冷汗を拭おうともせず、ただ画面に見入った。
怪物の腕が悲鳴をあげる兵士の身体に巻きつき、海の底へと引きずり込んでいく。
「…………リアナ、分析を始めよう」
アーサーが絞り出した言葉に、リアナはのろのろと頷いた。
「な、なんだありゃあ!?」
スコットが柵から身を乗り出し、目を見張って叫んだ。
「クラーケンだ!スコット、銃は大丈夫か?敵がそろそろ来るぞ!」
ネイオがサブマシンガンを手に、辺りを警戒しながら叫ぶ。
彼らのいる<ヴァルキリー>と残存艦隊は、ソロモン軍港の入り口を封鎖する位置にいた。
先発隊がソロモン基地の沖合いでさんざんにやられているのが見える。
「くそ!あんな化け物みたいな奴、倒せるのか!?」
「ビッド、化け物みたいな奴じゃない。化け物だ」
クロウが静かに訂正する。
「注意してろよ。先発隊が全滅したら、次はオレ達だ」
「主砲、スタンバイ!」
オペレーターが報告する。
「撃て!」
川口はすかさず命令した。
次の瞬間、<せつな>の主砲が火を噴き、クラーケンの腕の1つに命中した。
クラーケンは轟くように重い悲鳴のような声をあげ、海中に腕を引っ込ませた。
「……………」
静寂―――
先ほどまで荒れ狂っていた海が、嘘のように静まり返っている。
沈められかけた護衛艦から、日本保安軍兵士が次々に脱出しているのが見えた。
それさえ無ければ、平穏そのものだ。
「…………や、殺ったのか?」
オペレーターの1人がつぶやいた。
次の瞬間、<せつな>の周りの海面から、8本の巨大な腕が飛び出した。
「うわあああああ!」
<せつな>兵員、松崎隼人は、目の前に柱のようにそびえ立ったタコの腕に、銃を連射した。
弾が厚い肉にビチビチと突き刺さる。
しかし、まるで効果が無いようだった。
腕は甲板に向かって振り下ろされ、逃げ惑う兵士の1人に巻きついた。
兵士がパニックになったように叫び、じたばたする。
しかし、腕はそんな抵抗などものともせずに、兵士を海に引き込んだ。
悲鳴が尾を引き、唐突に途切れる。
また1人、兵士がくるぶしをクラーケンの腕に巻きつかれ、空中高く放り投げられた。
絶叫が響く。
その兵士は海の方に落ちていき、松崎の視界から消え去った。
クラーケンの腕が甲板を這い、次々に兵士達を捕獲していく。
腕の1つは主砲に巻きつくと、驚くほど器用にハッチを開け、主砲内部にずるりと侵入した。
悲鳴と共に砲手が腕に引きずりだされていく。
松崎は銃をその腕に向け、撃った。
まるで効果なし。
「くそっ!」
松崎は腰からナイフを抜き、腕に飛びついた。
何度も何度もナイフを突き立てる。
しかし、ゴムのような皮膚は、ナイフの切っ先をいとも簡単に弾いた。
砲手が腰に巻きついたタコ足から必死に逃れようとしている。
松崎はあきらめずにナイフを突き刺し続けた。
「このやろっ!放せ!」
しかし、やはりナイフでは歯がたたなかった。
「隼人、離れろ!」
突然、声と共に松崎は後ろへ引っ張られた。
砲手がクラーケンの腕に引っ張られ、絶叫と共に甲板の縁から落ちていった。
「馬鹿野郎!巻き込まれてお前まで落ちるぞ!」
松崎の腕を引っ張った長嶋が、怒ったように言った。
「長嶋!」
松崎は長嶋の姿を見てホッとすると、周りを見た。
次々に兵士達が腕に拐われていく。
長嶋は暴れまわるクラーケンにサブマシンガンを連射しながら、じりじりと後退した。
「隼人、ブリッジの方へ逃げるぞ!」
松崎は頷き、身を翻した。
フィアの輸送艦が数隻、クラーケンとの戦いで修羅となっている海域を突破してくるのが見えた。
おそらく、ソロモン基地へ攻撃をしかけるつもりだろう。
「よし、連中が来るぞ!派手な花火で迎え撃ってやる!」
ネイオがサブマシンガンを手に、意気を込めて言った。
「またまた俺達の恐さをトカゲもどきに思い知らさなけりゃならんらしいな」
ビッドが苦笑し、手にしたライフルで肩を叩く。
「……………」
クロウは黙りこくり、どんどん近づいてくるフィアの輸送艦やデストロイヤーを見つめていた。
嫌な予感がしたのだ。
悪寒がぞくぞくと背筋を這いまわる。
クロウは黙ったまま、静かにライフルを構えた。
「嫌だ………嫌だ………」
リードはソロモン基地のトイレの隅に屈み込み、ガタガタと震えていた。
彼のフィアとしての感性が、戦闘開始直後から何かを感じていた。
「恐い………」
リードは震えながら、自らを抱きしめた。
「なにか、いる………」
『それ』は獰猛な咆哮を放つと、デストロイヤーから大きくジャンプした。
クロウはライフルを瞬時に構え、放った。
銃弾が空気を切り裂き、『それ』の額めがけて飛んでいく。
しかし、銃弾は途中で何かに弾き飛ばされた。
触手だ。
「なっ………」
クロウが驚いている間に、『それ』は<ヴァルキリー>の船首に着地した。
ズン!
という音と共に、金属の床が大きくへこむ。
「な、なんだ?」
アメリカ兵達が混乱しながらも銃を向ける。
クロウ達はその様子を後方から見ていた。
『それ』は獰猛な唸り声をあげるとゆっくりと顔をあげた。
狂気に血走った瞳。
血にもつれたザンバラの髪の毛。
傷つきまくった上半身の皮膚。
ぼろぼろのズボン。
異常な腕と足の筋肉。
頑丈な鉤爪。
背中から大量に生えた長い触手。
そう、そこにいたのはディザスター<異常者>だった。
次の瞬間、クロウは今まで感じた事も無いような猛烈な殺気を感じ、必死に叫んだ。
「逃げろ!!」
遅かった。
場はおびただしい血に満ちた。
「扉を閉じろ!」
<せつな>の中央部のブリッジ施設に入った長嶋は、周りでへたりこんでいる者達に叫んだ。
皆が慌てて立ち上がり、重い扉を急いで押した。
ズーンと音をたてて扉が閉まる。
甲板に取り残された者達には悪いが、これしか道は無かった。
松崎は荒い息をつき、壁にもたれかかった。
「なんなんだよ、あれ………」
次の瞬間、扉が猛烈な衝撃を受けて内側にへこんだ。
「マジか!?この重い扉を外側から突破しようとしてやがる!」
長嶋が喘ぐ。
松崎達は慌てて身体で扉を押さえた。
しかし、凄まじい衝撃を受け、扉がどんどん内側にへこんでいく。
「押さえきれない!」
松崎は苦しい表情をして叫んだ。
周りの者達も必死に扉を押さえつけている。
だが、彼らの力では非力すぎた。
最後の一撃で、扉は粉砕された。
悲鳴。
松崎は壁に思い切り叩きつけられ、気絶した。
ディザスターは鉤爪でアメリカ兵を斬り裂き、触手でアメリカ兵を叩き殺していた。
真っ二つに斬り裂かれた死体が転がる。
「ちぃ………」
クロウはハンドガンを抜くと、自らに迫りきた触手を撃ち抜いた。
触手がまるで命を持っているかのようにのけぞる。
「バケモンだ!」
スコットが喘いだ。
ネイオが歯を食い縛りながらサブマシンガンを連射している。
だが、まるで効果がない。
ひるむ様子さえ見せないのだ。
ディザスターはこの世のものとは思えない戦吼を放つと、目の前に立ちふさがった哀れなアメリカ兵を八つ裂きにした。
大量の触手がところせましと暴れまわり、次々に兵士を屠っていく。
シュナイダーはハンドガンで迫りくる触手を牽制しながら、手元のビデオカメラを見た。
はっきり言って、戦闘の邪魔だ。
「シュナイダーッ!」
ネイオの声に、シュナイダーはハッと顔をあげた。
遅かった。
ビデオカメラに気を取られている間に、触手が目の前に迫っていた。
触手は勢いよくシュナイダーの口内に侵入した。
そのまま触手は食道に入り込み、胃へと下っていく。
猛烈な吐き気がシュナイダーを襲った。
こいつ、内臓をぐちゃぐちゃにしようとしてやがる!
触手の目的に気づいたシュナイダーは、慌てて目の前の触手を掴み、引きずり出そうとした。
触手はピクリとも動かない。
シュナイダーは一気に気が遠くなった。
触手の先端が胃に達したようだ。
次の瞬間、シュナイダーの目の前で触手が断ち斬られた。
触手が緑色の液を流しながら、じたばたと暴れている。
「大丈夫か?」
グルカナイフを構えたネイオがシュナイダーに訊いた。
シュナイダーは自らの食道に詰まった触手を必死に引っ張り出しており、返事をする暇もなれなかった。
窒息しそうだったのだ。
「………ガハッ!」
ようやく触手を全て引っ張り出したシュナイダーは、ゼェゼェと息をついた。
「大丈夫か?」
再びネイオが訊く。
「大丈夫なもんかよ」
シュナイダーはうんざりしたように答えると、床に落ちていた触手の残骸をつまみあげた。
「こんな醜悪な奴をくわえていたと考えるだけで死にそうだよ」
「う…………」
松崎はゆっくりと目を開けた。
頭が痛い。
若干出血しているようだ。
松崎は床に倒れたまま、辺りを見回した。
まだ銃声や悲鳴が聞こえてくる。
気絶していた時間はそう長くないらしい。
次の瞬間、松崎の心臓は止まりかけた。
目の前をクラーケンの腕の先端がズルズルと這っていた。
てさぐりで人間を捜しているようだ。
ドアからクラーケンの腕が内部の通路に侵入しているのだ。
クラーケンの腕はスルスルとヘビのように床を這い進み、兵士の死体を見つけた。
というより、触って感じたようだ。
腕は死体の足首を掴むと、猛烈な勢いで引っ張り出していった。
松崎は急いで立ち上がり、逃げようとした。
しかし、すぐにまた別の腕がドアから入り込んできた。
クラーケンの腕の細い先端がヒクヒクと動き、動いている者がいないか感知しようとしている。
松崎は必死に息を潜め、クラーケンの腕にできるだけ察知されないように身を丸めた。
薄暗い廊下を、クラーケンの腕が這い進む音が不気味に響く。
松崎はクラーケンの腕が自らから離れたのを感じ、思わず身体の力を抜いた。
とたんに、腕がピクッと反応を示した。
ご丁寧に先端も松崎の方へズルズルと向かってくる。
どうやら微妙な気の流れを感知したらしい。
松崎は身を固め、息を潜めた。
クラーケンの腕が松崎の目の前にゆっくりと迫ってくる。
まだ完璧な位置は把握していないようだ。
しかし、松崎がいる事はばれてしまっている。
クラーケンの腕が何かを探るように蠢きながらどんどん松崎に接近してくる。
松崎は思わず目を瞑った。
ズシャッ!
おかしな音が響いた。
轟くような重いクラーケンの悲鳴が響く。
松崎が目をパッと開くと、そこには非常時用の斧を持ち、顔にかかった血を拭っている長嶋の姿があった。
足元には寸断されたクラーケンの腕の先端が転がっている。
どうやら長嶋が斧でタコ足の先端を叩き斬ったらしい。
クラーケンの腕は素早く引っ込んでいた。
「長嶋!」
松崎は慌てて飛び起きた。
「へっ。世話をかかせんなよ、隼人ぼっちゃ―――」
長嶋が最後まで言い終わる前に、凄まじい勢いで腕が扉から入ってきた。
太い腕が長嶋の左腕に巻きつき、一気に拐っていく。
長嶋の悲鳴が響いた。
「長嶋!」
松崎は慌てて走り出し、長嶋の後を追った。
兵士達が必死の抵抗を繰り広げるなか、ついにフィアの輸送艦がソロモン軍港に接岸した。
すぐさま乗降口が開き、ヴェノムやフィアが溢れ出てくる。
瞬く間に警備塔が破壊され、兵士がヴェノムに吹き飛ばされていく。
デストロイヤーから放たれた砲弾が格納庫や兵舎に炸裂し、火を振り撒いた。
「まずいぞ、リアナ」
ローグは窓から港の方を見ながら言った。
「敵がこっちにくる!」
「大丈夫。まだ持ちこたえられるわ」
リアナはコンピューターにかじりつきながら答えた。
「この本部施設はしばらくは安全なはずよ」
「どうだか………」
ローグがそうつぶやいた途端、フィアの輸送艦が爆発した。
「な、なんだぁ!?」
リッドが窓に駆けより、叫ぶ。
ローグも窓から見える風景にかじりついた。
ソロモン基地の船舶ドッグから、巨大な物体が砲弾を撃ちまくりながら現れた。
「ご登場ね」
リアナがキーボードを打つ手を休め、窓の方を見ながら言った。
「<アイ>よ」
「あれが………<アイ>……」
ローグは呆然とつぶやいた。
<アイ>はとてつもない巨艦だった。
その甲板はびっしりと砲で覆われている。
特に、前方甲板の3連主砲は目を見張るものがある。
<アイ>はその3連主砲を撃ちまくりながら、ゆっくりと前進を開始した。
デストロイヤーが<アイ>に反撃をしかける。
しかし、そのデストロイヤーは、数秒後には炎をあげて燃えていた。
「よっしゃあ!」
リッドがガッツポーズをとる。
「<アイ>がいれば、持ちこたえられるぜ!」
「その見解もどうかと思うわ」
リアナが再びコンピューターに向かいながらつぶやく。
「この戦いの意義は、主力艦である<アイ>を防衛する事。その<アイ>が出撃、いえ、脱出するためにドッグから出てきたのなら、そうとうに状況は切羽詰まっているわ」
リアナの言葉に、再び場が沈んだ。
「…………え?じゃあそろそろこの本部施設もやばいんじゃ―――」
ローグが最後まで言い終わる前に、凄まじい振動が本部施設全体を襲った。
デストロイヤーの砲弾だ。
ローグは思わず尻餅をついた。
ローラナも尻餅をつき、痛そうに顔をしかめてさすっている。
「………そろそろ限界か……」
アーサーがゆっくりとつぶやいた。
クロウは目の前に迫りきた触手をむんずと掴むと、ナイフで叩き斬った。
触手が体液をこぼしながらじたばたと暴れまわる。
クロウはそれを踏みつけ、ハンドガンを構えた。
銃口の先には、ディザスターがいる。
「ヒュウッ!」
クロウは口笛を吹いた。
死体を喰らっていたディザスターが顔をあげる。
身体が返り血に赤く染まっていた。
「よう。はじめまして」
クロウはハンドガンで素早く相手の額を狙った。
「ジ・エンドだ」
クロウは、引き金を引いた。
引くはずだった。
しかし、クロウは目を見開き、喘いでいた。
力を失った手から、ポロリとハンドガンが落ちる。
ハンドガンが床に落ち、音をたてた。
その、カターン、という音は、なぜか大きくクロウの耳に響いた。
クロウは、ディザスターの顔を見て、息をするのを忘れていた。
2人は長い間見つめあっていた。
クロウは、ようやく言葉を絞り出した。
「クレイジー………?」
次の瞬間、クロウの腹を触手が突き抜け、背中から飛び出した。
シュナイダーは、目の前の光景が信じられなかった。
ディザスターの背中からのびた触手がクロウの腹を貫き、背中から顔をのぞかせていた。
クロウの身体がびくんと震え、硬直する。
ディザスターが触手を抜いた。
クロウが血を吐き、ひどくゆっくりとその場に倒れていく。
「クロウ!」
シュナイダーは叫んだ。
今まで倒れた事の無かった男は、腹を触手に貫通され、甲板に倒れ伏していた。
彼の腹から湧き出した大量の血が、床を赤く染めていく。
「クロウ!」
シュナイダーは再び叫び、駆け寄ろうとした。
が、ビッドに襟首を掴まれ、動けなかった。
「ビッド!放せ!」
シュナイダーは振り向き、背後のビッドに怒鳴った。
「落ちつくんだ!今行っても死ぬだけだぞ!」
シュナイダーはようやく気づいた。
クロウの周りには、触手がうようよと蠢いている。
「だけど!」
シュナイダーは泣きながら怒鳴った。
しかし、ビッドは悲しげに首を振るだけだった。
「長嶋!」
松崎はクラーケンに連れさられた長嶋を追い、甲板に飛び出した。
長嶋はクラーケンに引きずられながらも、手にした斧を何度も何度もクラーケンの腕に叩きつけている。
しかし、太い腕を斬り落とすには、斧は小さすぎるようだ。
長嶋は甲板をズルズルと引きずられ、甲板の縁に達していた。
柵はとっくに破壊されている。
「長嶋!」
松崎は叫び、片手で長嶋の右手を掴むと、もう片方の手で近くのハッチの取っ手を掴んだ。
「ま、松崎………」
長嶋が苦しげにつぶやく。
「待ってろ!今助けるから………」
松崎はそう言ったが、ただでさえ、クラーケンの腕力で自らも連れていかれそうだった。
「ち………くしょ……」
松崎は周りを見回した。
頼りになるものは何も無い。
「………放せよ」
突然、長嶋が口を開いた。
「………なに馬鹿な事言ってんだよ」
松崎は息を荒げながら、必死に長嶋を引っ張った。
腕が引っこ抜けそうだ。
「言っとくけど、そんなベタな展開は許さないからな」
松崎の言葉に、長嶋はフッと微笑んだ。
「お前まで海に引きずりこまれちまう」
「あきらめんなよ!」
松崎は怒鳴った。
「俺はあきらめないからな」
だが、どんなに強がっても状況は明白だった。
このままでは、2人してクラーケンの餌食だ。
「ありがとよ、隼人」
長嶋はそう言うと、手にした斧を握り直した。
「………長嶋?」
それに気づいた松崎は、ゆっくりと長嶋に問いかけた。
長嶋が微笑む。
「うおおおお!」
長嶋が叫び、斧を振り上げた。
松崎は必死に叫んだ。
「やめろ!!」
長嶋の斧が振り下ろされた。
「………そんな……」
ローグはディスプレイに映し出される映像を見て愕然とした。
クロウが血まみれのボロ雑巾のようになり、甲板に倒れ伏している。
シュナイダーの声が響き、カメラが激しく揺れた。
「そ…そんな………」
リアナがつぶやいた。
次の瞬間、基地全体が激しく揺れ、窓が割れた。
あちこちでコンピューターがデスクから落ちる。
サイレンが鳴り出した。
『敵侵入!敵侵入………』
「まずいぞ!早く脱出しないと!」
アーサーが叫び、クラーケンとディザスターの観測データを素早くディスクに入れ、取り出した。
「リアナ!そっちのフィアに関するカードディスクを持ってくれ!私はこっちの書類を―――」
再び基地が激しく揺れた。
壁に亀裂が入り、床が揺れる。
「ここは5階だぞ!床が抜けたら死ぬって!」
ローグはそう言うとリアナの手を取り、サブマシンガンを持って部屋から飛び出した。
「教授、早く!」
リッドは猛烈な塵から顔を庇いながら必死に叫んだ。
「待て!まだあと少し………」
「ねえ!カトリーナは!?」
突然ローラナが叫んだ。
そういえば、カトリーナの姿が無い。
「たしか、リードを捜しに行ったんじゃなかったか?」
リッドは揺れる床にふらつきながら答えた。
「彼女を捜してる暇は無いぞ!」
「でも!」
ローラナが食い下がる。
「無理だ!時間が無い!」
「よし!準備万端だ!」
アーサーがたくさんのディスクが入ったケースを持ち、言った。
次の瞬間、今まで以上の激しい揺れで、一部の床が崩れ落ちた。
偶然それに巻き込まれたローラナが鋭い悲鳴をあげ、落ちていく。
「ちっ―――!」
リッドは穴の縁までヘッドスライディングし、必死に手をのばした。
リッドの手がローラナの手首を掴む。
ローラナは宙ぶらりんになった。
「ふー………。ギリギリセーフ………」
リッドは安心して気の抜けた笑顔を浮かべた。
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