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インターネットの世界を舞台にした話ですが、誹謗中傷をテーマにしているだけとあってか、何だか考えさせられる話でした。「竜」の正体には驚きましたね。ジャスティス軍団がかかげる「正義」のありかたが、今のネットの風潮に見えてなりませんでした。
2021年07月30日
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※BGMと共にお楽しみください。「薄桜鬼」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。 作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。「安室さん、どうして僕達がここに来るってわかったの?」「公園で君が刑事達と話をしている姿を、見ていたからね。それに好奇心が強い君の事だから、きっと“彼”がもう誰なのか気づいているんじゃないかと思ってね。」「流石、三つの顔を使い分ける事が出来る訳ね。わたし達がここへ来る事を読んでいたって事ね。」 哀はそう言うと、溜息を吐いて首をすくめた。「それで、どうするつもりなの?」「さぁ、それは君次第さ、コナン君。」 零はそう言うと笑った。「それで江戸川君、“彼”は一体何者なの?」「土方歳三。幕末の頃新選組の“鬼の副長”と呼ばれて恐れられ、五稜郭の戦いで死んだけれど、遺体が見つかっていないから、一時ロシアで生存しているんじゃないかという話が出ていたみたいだ。」「新選組といえば、今でも映画やドラマの題材にされる程人気なのよね。幕末を生きた坂本龍馬と同じ位人気があって、彼らが過ごした京都には、色々と彼らにゆかりのある場所を訪ねるファンも居るそうよ。」「ふぅん。それでコナン君はいつ、“彼”が土方歳三だと気づいたんだい?」「彼が握っていた懐剣に彫られた家紋だよ。左三つ巴の家紋の事を調べたら、自然とわかったんだ。」「へぇ。さてと、立ち話はこれ位にして、“彼”に会いに行こうか。」 零はそう言うと、病室のドアをノックした。「風見、“彼”の様子はどうだ?」「今は薬で眠っています。」 零の部下である風見裕也は、そう言った後首を軽く傾げた。「どうした、何かあったのか?」「えぇ、実は・・」 風見は、数分前に起きた出来事を零達に話した。 今はベッドの中で眠っている男―土方歳三が、意識が戻った時、風見に向かってこう言ったという。「山南さん、何であんたここに居るんだ!?」 その後、興奮状態になった歳三は看護師によって鎮静剤を打たれたという。「その“山南さん”って、新選組総長で切腹した山南敬助の事じゃない?」「彼の友人、でしょうか?」「それは、後で彼に聞くしかないな。」 コナン達がそんな事を話している間、歳三は懐かしい夢を見ていた。 それは、戊辰の戦を終え、千鶴と夫婦となった頃のものだった。「今年も綺麗に咲きましたね。」「あぁ。」 蝦夷地の厳しい冬を越え、二人はあの時と同じように遅咲きの桜を見ていた。「なぁ千鶴、何か俺に隠している事はねぇか?」「実は・・」 千鶴はあの時、歳三との間に子を授かっていた。 だが、その子は産声を上げる事無く彼岸へと旅立ってしまった。 千鶴はその頃から体調を崩すようになったが、その事を歳三に隠していた。 そして―(俺が、もっと気遣ってやっていれば・・)“歳三さん。” 自分の名を呼び、優しい笑顔を浮かべてくれた千鶴は、もう居ない。 千鶴を喪った歳三は、魂の抜け殻となっていた。(千鶴、お前に、もう一度会えたら・・)「気が付いたみたいですね?」 歳三が目を覚ますと、そこには金色の髪に褐色の肌をした青年が自分の前に立っていた。「てめぇ、何者だ?」「はじめまして、“土方歳三”さん。僕は、降谷零といいます。さてと、色々と質問したい事は山ほどありますが、何故あなたが自殺をしようと思ったのか、その理由をお聞かせ願えませんかね?」「・・お前ぇに話す事なんざ、何もねぇ。」「あなたにはなくても、僕にはあるんですよね、聞きたい事が沢山。だから、協力してくれませんかねぇ?」「嫌だ、と言ったら?」 歳三の言葉を聞いた零は、口元に笑みを浮かべると、スーツの胸ポケットから、“ある物”を取り出した。「これ、ご存知ですよね?」「てめぇ、それは・・」「そう、あなたが若い頃に詠んだ、“豊玉発句集”の複写本です。」「何だと・・」「早速ですが、この複写本を英訳して、全世界にあなたの黒歴史を拡散させても良いんですよ?」(うわぁ、えげつねぇ~!)(流石公安ってところね・・) 二人のやり取りを傍で聞いていたコナンと哀は、そんな事を思いながら慌てふためく歳三の姿を見ていた。「ちょっと、怪我人をいじめるのはそこまでにしておきなさいよ。あなた、この人に自殺しようとした理由を聞こうとしていたんじゃないの?」「あぁ、そうでしたねぇ。」(わざとね。)(わざとだな。)「ねぇ安室さん、どうしてこの人の事を調べているの?」「それは、まだ君達には言えないなぁ。」 そう言ってコナン達に微笑んだ零だったが、その目は全く笑っていなかった。「わたし、あなたみたいな完璧主義な人が自殺を図ろうとした理由が何となくわかったような気がするわ。そうね、最愛の奥さんの後を追おうとしたって事かしら?」「何で、そんな事が・・」「わかったかって?あなたが今もその手に握り締めているそのリボン、きっと亡くなった奥さんが最期まで身に着けていた物ね。あなたは京都で色々と浮名を流していたんでしょうけれど、奥さんの事を心底愛していたのね。」「あぁ、そうだ。俺は千鶴の後を追おうとしていた。それなのにどうして・・」「だったら、一度は捨てようとしていたその命、僕達の為に使ってくれませんかねぇ?」「それは一体、どういう意味だ?」「実は最近、この町で変質者が出没しているんですよ。目撃者からの情報によると、変質者の特徴は背丈があなたと同じ位で、金髪紅眼、そのターゲットは必ず女子高生かあなたと同じ年の成人男性・・」 歳三の脳裏に、ある男の顔が浮かんだ。「その顔、どうやら犯人に心当たりがありそうですね。」「まぁな。」「さてと、これからあなたの処遇について色々と考えなければなりませんが、いくら公安の僕でも百五十年以上前に死んだ人間の戸籍を取り寄せるなんて神業は出来ませんから、新しくあなたの戸籍を作る事にして、さしあたっての問題は、仕事と住居ですね。コナン君、少し相談したい事があるから、ちょっといいかな?」「うん。」 歳三の病室から出た零は、コナンにある提案をした。「彼を工藤邸に住まわせたらどうだろう?」「あ~、それは難しいかも。だって赤井さんとあの人、上手くいかなそうだし。」「そうだったね・・」 FBI捜査官・赤井秀一は、“黒の組織”の目を欺く為、大学院生・沖矢昴として変装して生きてきたが、現在“黒の組織”の残党狩りの為に“赤井秀一”として工藤邸で暮らしていた。「あの男と彼は、顔を合わせれば喧嘩しそうだ。」「じゃぁ、小五郎のおっちゃんに頼んで、僕達と住めるようにするよ!あ、仕事は・・」「僕が、“ポアロ”のマスターに頼んで、彼を雇って貰えるようにするよ。」「決まりだな!」「で、こいつが今日から居候する事になった・・」「土方歳三だ。今日からよろしく頼む。」 病院を退院した歳三は、暫く毛利家に居候する事になった。「俺は毛利小五郎、ここでは探偵事務所をやっている。それと、こっちに居るのが娘の蘭だ。」「はじめまして。」 そう言って歳三を見ている蘭は、何処か嬉しそうだった。「コナン、とかいったか?これから世話になるから、礼として料理を振る舞いてぇんだが、台所は何処だ?」「あ、台所はここですよ。」「そうか・・」 毛利家の台所に初めて足を踏み入れた歳三は、奇妙な道具が並んでいる事に驚いた。「これは・・竈か?」「あぁ、炊飯器といって、この丸いボタンを押したらご飯が炊けるんですよ。」 蘭から家電の使い方を説明されながら、歳三は自分達が生きた時代とは道具や生活様式が様変わりしている事に驚いた。 特に驚いたのは、重労働で会った炊事や洗濯などの家事が、“家電”というものによって簡略化された事だった。(こんなにも家事が楽になる時代に千鶴と生きていたら、あいつも少しは長生きできたんだろうな・・) 米を研ぎながら、歳三はふと千鶴の事を思い出しては感傷的になってしまった。「何だ、これは?」「カレーですよ?」「この泥水みてぇな汁の中には、何が入っているんだ?」「牛肉と炒めた玉ネギと人参、ジャガイモと、カレー粉ですよ。」「食えるのか?」「大丈夫ですよ。」 その日の夜、歳三はカレーライスを食べて、その美味さに思わず唸った。「美味ぇ!」「だろう?蘭が作るカレーは絶品だからな!」 こうして、歳三の現代での生活が始まった。「おはようございます。」「あれぇ、土方さん、朝ご飯作ってくれたんですか!?別に良いのに。」「いえ、これ位させて下さい。はい、どうぞ。」 そう言って歳三が食卓に並べたのは、焼鮭と味噌汁、白米の和定食だった。「頂きま~す!」「美味ぇな!いつも朝は洋食だが、偶には和食もいいな!」 小五郎はその日、朝から上機嫌だった。「ねぇ土方さん、その格好だと目立つから、安室の兄ちゃんが服を買いに行こうって。」「わかった。」 コナンと共に歳三が待ち合わせの場所へと向かうと、そこには零ではなく風見の姿があった。「何でてめぇがここに居る!?」「降谷さんは別件で手が放せないようなので、今日はわたしがお供致します。」「ったく・・」 こうして三人は近くの大手衣料品店へと向かったのだが―「キャ~!」「何あの人、凄いイケメン!」「モデル?それとも俳優さん?」 歳三が店に入ると、彼の姿を見た女性達が急に色めき立った。 結局、服を買うのに一時間もかかってしまった。「洋装ってのは、何だか窮屈で仕方ねぇな。」 歳三は薄手のジャケットを羽織った後、そう言ってサングラスをかけた。 スキニーのデニムは彼のスタイルの良さを際立たせ、道を歩いているだけでも女性達から熱い視線を注がれていた。 その事に、本人はまんざらでもないようだった。(あ~、何だか嫌な予感がする・・)「では、わたしはこれで。」 風見と“ポアロ”の前で別れたコナン達が店の中に入ると、店内に居た女性客達は歳三に熱い視線を向けた。「いらっしゃいませ。安室さんから聞いていますよ。わたし、榎本梓といいます。よろしくお願いします。」「土方歳三だ。今日から宜しく頼む。」 歳三の姿に、“ポアロ”の常連客達は、“ポスト・アムピ登場か!?”とSNSで盛り上がっていた。にほんブログ村
2021年07月30日
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何だか切ない親子の物語でしたね。津村は、生き別れの母に静香を重ねていたのでしょうか。だとしても、少し彼の静香に対する束縛の強さには読みながら若干ひきました。静香の、渉に宛てた手紙が彼女の気持ちの全てだと思います。
2021年07月28日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「おいトシ、そんなに睨んでいたら、この子はますます怯えてしまうだろう。」「そうだよ土方さん、昨夜あんな怖い思いをさせちまったのに、そんなに睨んだらますます怯えちまうじゃん。」 そう言って千鶴に助け舟を出したのは、近藤と平助だった。「別に睨んでいる訳じゃねぇ、今後の事を色々と考えていたんだよ。」 土方はそう言って軽く咳払いした後、千鶴にこう尋ねた。「お前、名前は?」「雪村千鶴と申します。江戸から、京で行方不明になった父を捜しに参りました。」「おい待て、今雪村とか言ったな?まさか、お前綱道さんと関係があるのか!?」「雪村綱道は、わたしの父です。」「そうか。実は俺達も、綱道さんの行方を捜している所なんだ。あ、自己紹介が遅れたな、俺は近藤勇、新選組局長だ。そして俺の隣に座っているのはトシ、副長の土方歳三だ。」「わたしは新選組副長の山南敬助です。さて、自己紹介を終えたところで、貴女の処遇をこれから決めたいと思います。土方君、何かいい案はありませんか?」「女が新選組に居ると知ったら、隊内の風紀が乱れるし、かといって隊士にする訳にもいかねぇし・・誰かの小姓にした方がいいだろう。」「じゃぁ、土方さん、お願いしますね。」「はぁ!?何でそうなる!?」「言い出しっぺの法則ですよ、土方君。」 歳三は舌打ちした後、溜息を吐いた。「俺の隣の部屋を使え。」「はい・・」「食事は部屋に運んでおくから・・」「ここでいつも食べればいいじゃん。」「あの・・」「あ、俺は藤堂平助。よろしくな、千鶴。」「平助でいいよ、年も近そうだし。それに、堅苦しいのは余り好きじゃないんだよな。」 平助はそう言うと、屈託の無い笑みを浮かべた。 大広間の様子を密かに見ていた蛍は、そっと屯所の裏口から外へと出た。「何か、動きはあったか?」「雪村の娘が、屯所へ来ました。何か事情があるようです。」「そうか。何か動きがあったら知らせろ。」「はい。」 蛍が屯所へと戻った時、丁度有匡が縁側から出て来る所だった。「お前、今まで何処に行っていた?」「わたくしは、何も企んでおりません。」「さぁ、どうだか。」 暫く二人は睨み合っていたが、有匡の方が先に視線を外して去っていった。「有匡様、どうかされたのですか?」「いや、何でもない。それよりも、広間の方が妙に騒がしいな?」「あぁ、確か昨夜羅刹に襲われそうになった所を保護された娘さんが・・」「そうか。」「まぁ、暫くここに居るみたいですし、僕達も彼女に会えると思いますよ。」 火月の言葉通り、有匡は千鶴と屯所の厨で顔を合わせた。「初めまして、雪村千鶴と申します。暫くこちらでお世話になります。」「土御門有匡だ。こちらは、妻の火月だ。」「よろしくお願いしますね。」「はい。」 年が近く、同性同士という事もあってか、火月と千鶴はすぐに仲良くなった。「火月さんも、江戸から来たのですか?」「えぇ、有匡様を捜しに。」「でもすぐにお会い出来て良かったですね。」「大丈夫、千鶴さんのお父様もすぐに見つかりますよ。」「そうだといいんですが・・」 二人の会話を聞きながら、有匡は一冊の書物に目を通していた。 それは江戸を発つ前、有仁から渡された物だった。『父上、これは?』『これは、ある人物の日記だ。読んでいけば、誰が書いたのかわかるだろう。』 有匡は書物を見ると、そこにはスウリヤの字で英語でこう書かれていた。“愛しい我が子へ” 英語を独学で学んでいたので、その書物がスウリヤの日記であるという事がすぐにわかった。 そこには、有匡を有仁に託して去らざるおえなかった事情などが書かれていた。(母上は、勝手にわたしを捨てたのではないのだな。) だから、再開した時母は、“妻を大切にしろ”と自分に伝えてくれたのだ。 自分と同じ過ちを犯すなと。 今、母が何処に居るのかはわからない。 だが彼女と、また会いたいと有匡は思い始めていた。 長年抱いていた母への憎しみは、彼女と再会した事によって徐々に薄れていった。「有匡様、お茶が入りました。」「ありがとう。」「それは?」「これは、母の日記だ。江戸を発つ前、父がわたしに渡してくれた。」「そうですか。それよりも、さっき山南さんが何処か深刻そうな顔をして自分のお部屋に入っていかれましたよ。」「何だか、嫌な予感がするな。」「えぇ。」 有匡の予想は的中し、大坂へ出張に行っていた山南が左腕を負傷した。「土御門君、今よろしいですか?」「はい。」「あなたは、わたしの怪我の事を知っていますね?」「はい。」「そこで提案なのですが、あなたの血を頂けませんか?」 山南の言葉を受け、有匡は思わず腰に差してある愛刀へと手を伸ばしそうになった。にほんブログ村
2021年07月28日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「羅刹の研究は進んでいるか?」「はい。蛍を新選組に入隊させたのは、その為です。あの雪村という蘭方医が作った変若水とやらの効果も、確めたいですし。」「そなたには期待しているぞ、匡俊。」「ありがたきお言葉・・そのご期待に沿えるよう、精進致します。」“主”は、匡俊の言葉を聞いた後、満足そうに笑って扇子をパチンと閉じた。「福子、居るか?」「へぇ。」「硯と筆を持ってきてくれないか?」「わかりました。」 福子は、夫の言葉を聞いた後、何も言わずに部屋から出た。 一方、江戸の土御門邸では、匡俊の文を読んだ有仁が渋面を浮かべていた。「どうかなさったのですか、旦那様?」「全く、匡俊には困ったものだ。有匡には決して家督を譲るなと書いてある。」「その文に、でございますか?」「あぁ。」 有仁はそう言うと、匡俊の文を火鉢にくべた。「最近、寒くなってきましたね。」「あぁ。だが、江戸よりも京の方がもっと寒いだろう。有匡は少し寒さに弱い故、風邪をひいていなければいいが・・」 有仁は遠く京に居る有匡の身を案じながら、降り始めた雪を眺めた。「有匡様、大丈夫ですか?」「あぁ。少し油断していたな。」 京では、有匡が熱を出して寝込んでいた。「濡れた髪をそのままにして寝てしまうなんて、自業自得だな。」「ゆっくり休んで下さいね。」「あぁ、そうする。」「土御門さん、いらっしゃいますか?」「山南さん、どうかされたのですか?そんなに慌てて・・」「巡察に出た羅刹二人が、行方知れずとなりました。」「そんな・・」「この事は既に、土方君には報告済みです。あなたも羅刹捜索に加わって頂きたいのです。」「申し訳ありませんが山南さん、有匡様は体調を崩してしまいまして・・代わりに僕が行きます。」「いいえ、それには及びません。」 山南はそう言うと、襖を静かに閉めた。「有匡さん、無理だって?」「はい。」「そうか。じゃぁ俺達で、羅刹を捜すしかないな。」「早く見つけ出して、“始末”しないといけませんね。」「あぁ。」 こうして土方達は、羅刹捜索へと向かった。 京の町に、しんしんと冷たい雪が降り始めた。 その中を、一人の少女が息を切らしながら走っていた。「待て、小僧~!」 背後から、男達の怒号が聞こえて来て、少女―雪村千鶴はとっさに路地裏に隠れた。「畜生、何処行きやがった!」「何じゃ、貴様ら!?うわぁぁ~!」 突然男の悲鳴が聞こえたので、千鶴がそっと物陰から少し顔を出して様子を窺うと、男達は“何か”に襲われていた。「ぎぁぁ~!」「何じゃこいつは1」 けたたましく、おぞましい白髪紅眼の化物の哄笑が、夜の闇にこだました。「ひっ」 涎を垂らしながら、化物は千鶴に襲って来た。「血ヲ、血ヲ寄越セ~!」「きゃぁ~!」 両手で顔を覆い、千鶴は目を閉じたが、痛みは襲って来なかった。 恐る恐る目を開けると、そこには浅葱色の羽織を着た二人の青年の姿があった。「あ~あ、僕が先に仕留めようと思ったのに。はじめ君、相変わらず仕事早いよね。」「俺は勤めを果たしたまでだ。」 そう言って総司が斎藤を見ると、彼は屠った羅刹の血で汚れた刀を懐紙で拭っていた。「この子、どうするの?“あれ”、見ちゃったんでしょう?」 少し癖のある、栗色の髪を夜風になびかせた青年は、そう言いながら翡翠の瞳を千鶴に向けた。「それは、俺達が決める事ではない。」“はじめ君”と呼ばれた黒髪の男は、そう言うと千鶴の背後を見た。 砂を踏む音と同時に、刀の鯉口を切る音がした。「逃げるなよ、背を向ければ斬る。」 なびく美しい漆黒の髪に、千鶴は目を奪われた。 その時、雲に隠れていた月が、男の美しい顔を照らした。 すっきりとした鼻筋に、血のように紅く美しい唇。 そして、宝石のような美しい紫の切れ長の瞳と目が合った瞬間、千鶴は気を失った。「土方さん、この子、どうします?」「屯所に連れて行け。そいつをどうするのかは、明日決める。」 歳三はそう言うと、刀を鞘におさめ、気絶している少女を優しく抱き上げた。 翌朝、千鶴が目を覚ますと、彼女は手足を縛られている事に気づいた。「やぁ、起きたんだね?済まないねぇ、こんなに強く縛ってしまって。」 そう言いながら部屋に入って来た男は、千鶴のいましめを解いてくれた。「あの、わたし、これからどうなるんでしょうか?」「それは、これからみんなで、というよりトシさん達が決める事だから、わたしと一緒に来てくれ。」「わかりました。」 千鶴が大広間に男と共に入ると、そこには昨夜会った黒髪の男が、眉間に皺を寄せて自分を睨みつけている事に気づいた千鶴は思わず俯いてしまった。にほんブログ村
2021年07月28日
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※BGMと共にお楽しみください。 「薄桜鬼」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。 作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。 捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。 18XX年、北海道・函館。 海を眺めながら、土方歳三は妻・千鶴の墓参りに来ていた。 「今日は良い天気だな、千鶴。」 そう言って微笑む歳三の視線の先には、まだ真新しい御影石の墓石があった。 新選組副長として恐れられ、鳥羽・伏見で戦った後、五稜郭でその命を“落とした”後に、千鶴と夫婦になった。 彼女とは京に居た頃から互いに惹かれ合っていたが、“鬼の副長”と呼ばれている手前、彼女に素直になれなかった。 だが、戦で次々と仲間を失った時、いつしか己の中で千鶴の存在が大きくなっている事に気づいた。 そして、“全て”が終わり、歳三は千鶴と夫婦になった。 彼女と二人きりの、静かだが穏やかな暮らしは、幸せそのものだった。 しかし、その暮らしに突然終止符が打たれたのは、二人が夫婦として暮らし始めて一年目を迎えた、凍えるような冬の日の事だった。 千鶴は、仕事を終えた歳三を待っていたかのように、玄関先で倒れていた。 すぐに医者を呼んだが、間に合わなかった。 「千鶴、どうして俺を置いて逝ったんだ?」 歳三は虚ろな瞳で妻の墓を見ると、愛刀の鯉口を切った。 「俺は、お前ぇが居ない世界では生きていけねぇ。すぐにお前ぇの元へ行くからな。」 歳三は懐から、千鶴が生前愛用していた紫のリボン―自分が贈ったそれを取り出して握り締めると、愛刀の刃を閃かせた。 遠くで、海鳥の声がした。 (千鶴・・) 歳三は、静かに目を閉じた。 「あ、光彦行ったぞ!」 「うわわっ!」 「光彦君、大丈夫?」 「大丈夫です。元太君、いきなりボール飛ばし過ぎですって!」 「へへ、悪い。」 米花児童公園で円谷光彦、吉田歩美、小嶋元太らの少年探偵団は、サッカーをしていた。 「もう、あなた達、気をつけなさいよ。まだ五月とはいえ、熱中症になりやすい季節なんだから。」 そう言ってあきれ顔を浮かべながら三人の元へやって来たのは、少年探偵団のメンバーで、かつて黒の組織で“シェリー”として働いていた灰原哀だった。 「はい、これ。運動した後はちゃんと水分を摂りなさい。」 「ありがとうございます!」 「あ~、うめぇ!」 「あれ、コナン君は?」 「あぁ、江戸川君ならベンチに座ってタブレットで何か調べているわよ。」 哀はそう言うと、ベンチに座っているコナンの方を見た。 コナンは、タブレットで黒の組織について調べていた。 組織が壊滅して、愛があの薬の解毒薬を日夜開発しているが、中々成果は出なかった。 (めぼしい情報はなし、か。まぁ、組織が壊滅して半年も経っているから当たり前だな。) コナンがそう思いながらタブレットを閉じようとした時、向こうから女性の悲鳴が聞こえて来た。 「何でしょう、今の?」 「行ってみようぜ!」 コナン達が悲鳴が聞こえた方へと向かうと、そこにはハンカチのような物を握り締めている男が気を失い、木の根元に倒れていた。 (まだ息はある。) 「江戸川君、この人頸動脈から出血しているわ!」 「お前ら、早く救急車を呼べ!」 元太達の通報により、勇は病院に搬送され、現場にパトカーが到着した。 「コナン君、あの人を見つけた時、何か変わった事はなかった?」 「ううん。でも、あの人首を怪我していたよ。傷口を見たけど、あの人は自殺だよ。右手は血で汚れていたし、右から左に向かって頸動脈が切られていたし。」 「佐藤さん、ありました!」 高木渉がそう言って佐藤刑事に見せた物は、一振りの懐剣だった。 「これ、随分と古い物ね。それに、これは・・」 「何でしょう、イラストみたいな。」 「それは家紋だよ。ほら、戦国武将の真田幸村や武田信玄とかが使っていた、その家を象徴するものだよ。多分、この懐剣はあの人の物だよ。」 コナンはそう言いながら、懐剣に彫られた家紋を見た。 (左三つ巴・・この家紋は・・) 「ねぇ、この家紋、知っているよ。」 「え、本当なのコナン君!?」 「うん。もしかしたら、さっき運ばれた人の身元がわかるかもしれない。」 コナンは、哀と共に男が運ばれた警察病院へと向かった。 「ねぇ、あの人、もしかして・・」 「俺の推測通りだと、あの人はとっくの昔に死んだ、歴史上の偉人だよ。」 「それって・・」 「やぁコナン君、久しぶりだね。それに、灰原さんも。あぁ、それとも、“工藤新一”君と、“宮野志保”さんと呼んだ方がいいのかな?」 二人が男の病室へと向かおうとした時、一人の青年がタイミングを見計らったかのように彼らの前に現れた。 彼は、喫茶ポアロの店員・安室透、“黒の組織”・バーボン、そして警察庁警備企画課、通称“ゼロ”のトップである降谷零警視正その人だった。 「安室さん、どうして・・」 「君達の正体を知っているのかって?公安を余り舐めない方がいい。もしかして、君達も“彼”に会いに来たのかな?」 にほんブログ村
2021年07月24日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「例の“計画”は進んでいるのか?」「はい。」「そうか。それで、新選組とあの“化物”とは、どういった関係が・・」「それはまだ、わかりませぬ。」「フン、役立たずめ。」 匡俊を睨みつけていた男は、そう言った後部屋から出て行った。「旦那様、お茶を持ってきました。」「入れ。」「失礼致します。」 すっと襖を開けて中に入ったのは、土御門家から突然姿を消した雪之丞の双子の弟・蛍だった。 雪之丞は有匡が行方知れずとなった同時期に、姿を消したのだった。「蛍、まだ雪之丞の行方はわからぬのか?」「はい。」「お前も何かと気苦労が多いな。」「えぇ。」「さ、気晴らしに一杯やれ。」「ありがとうございます。」 匡俊から酒を受け取った蛍は、それを一気に飲み干した。「はぁ、久しぶりに飲む酒は美味いです。」「そうであろう。まぁ、お前に酒を馳走したのだから、今度は儂の頼みを聞いてくれないか?」「えぇ、何でも。」「そうか。お前は、兄とは違って賢いようだ。」「お褒め頂き、光栄です。」(狸爺めが。) 蛍は匡俊にしなだれかかりながらも、彼を心底軽蔑していた。「それで?わたくしに頼みたい事とは何です?」「新選組に、潜入して欲しい。」「わかりました。」 こうして、蛍は匡俊の命を受け、新選組に潜入する事になった。「へぇ、新選組に入隊希望ねぇ・・何だか、嬉しくないなぁ。」「何でだよ、隊士の数が増えれば新選組の名が広まるんじゃ・・」「馬鹿、ただでさえ狭い所が更に狭くなるだろうが。」「あ~、そうだったぁ!」「てめぇら、朝からうるせぇぞ!」「ひ、土方さん!」「こんな所で油を売っている暇があったら、稽古でもしやがれ!」「ひぃぃ~!」 原田達は、そそくさと大広間から出て行った。「ったく、あいつら気が緩み過ぎだ。」「まぁトシ、そんなにカリカリするなって。」「勝っちゃん・・」「土方さん、こんな所に居たんですか。入隊希望者の面接、やってくださいよ。」「わかったよ。」 歳三が大広間から出て入隊希望者が居る道場へと向かうと、そこには有匡と打ち合っている少年の姿があった。「頼もう、頼もう!」「何だ、こんな朝っぱらから、道場破りか?」「そうみたいだな。」 道場で朝稽古をしていた有匡達は、屯所の方から甲高い少年の声がして、その手を止めた。「わたしが見て参ります。」 有匡がそう言って道場から外へと出ると、屯所の前には雪之丞と瓜二つの顔をした少年が立っていた。「お前は・・」「お初にお目にかかります、有匡様。わたくしは雪之丞の双子の弟の、蛍と申します。」「それで?叔父上の差し金でここへ来たのか?」「えぇ。それに、単にここへ来たのは興味本位です。」「興味本位、だと?」「ですから・・」「ここは、壬生狼の巣だ。お前のような子供が来るような所ではない、帰れ。」「・・そうですか。では、わたくしの剣の腕をその目で確かめて頂きたい。」 蛍はそう言うと、有匡を見た。「ほぉ?」 同じ顔をしていても、蛍は兄とは違うらしい。 口でわからぬのならば、その身体で壬生狼の巣に入ろうとした事を後悔させてやるしかない。「どうした、もう終わりか?」「参りました。兄には時折有匡様がお強いと聞きましたが、お強い。」「実戦では、お前は三度死んだ事になっていた。ここはでは、剣すらもまとも振えぬ童は不要。」「手厳しいですね。」 蛍はそう言って笑うと、少し嬉しそうに笑った。「有匡様、こちらにいらっしゃったのですか。」「火月、お前その姿はどうした?」 有匡は、小袖に袴姿の妻を見て驚愕の表情を浮かべた。「最近薙刀の稽古をしていないなと思って。」「そうか。」「おや、そちらが有匡様の細君でしょうか?ならば彼女と手合わせ願いたいものですね。」「女だから、僕に勝てるとでも?甘い考えですね。」 火月は蛍を睨みつけると、そう言って稽古用の木刀を彼に向けた。「では、はじめ!」 火月と蛍の試合は、互いに一歩も引かず打ち合っていた。「強いですね、あの二人。」「女であっても、守れる術を持たなきゃ、生きてられねぇ。」「随分と厳しいですね、土方さん。」「まぁ、“あいつ”とは違う。」 土方はそう言うと、かつて屯所に居た少年の事を思い出していた。 今は亡き芹沢に拾われ、彼の死と共に濁流に呑み込まれ姿を消した少年―井吹龍之介の事を。「“彼”の事なら心配しなくても大丈夫ですよ。それよりもあの子、どうします?」「・・暫く泳がせておくか。」 こうして、蛍は新選組に“入隊”した。「首尾は上々だな。」「えぇ。」にほんブログ村
2021年07月21日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。有匡は火月に、“呪われた血”の事を話した。「じゃぁ、有匡様も、僕と同じ・・」「火月、それは一体・・」「土方さん、大変だ!」 平助の叫び声を聞いた二人が部屋から出ると、中庭には何処か慌てふためいた表情を浮かべている平助と原田、永倉の姿があった。「皆さん、どうかされたのですか?」「どうした、何があった?」「蔵に居た羅刹が、脱走した!」「何だと!?日が暮れる前に俺達で羅刹を捜し出すぞ!」「おぅ!」 土方達が羅刹捜索へ向けて慌しく動き始める中、山南は自室である“薬”の研究に勤しんでいた。「これで、完成ですかね・・」 そう言った山南の瞳は、妖しく煌めいていた。「居たか!?」「畜生、あいつら何処に行きやがった!」 羅刹が蔵から脱走して、数刻が経った。 すっかり日が暮れ、辺りは闇に包まれていた。(羅刹が人を襲う前に、早く見つけねぇと・・) 土方がそんな事を思いながら有匡と共に羅刹を捜していると、路地の向こうから女の悲鳴が聞こえて来た。「行くぞ!」 二人が悲鳴が聞こえた方へ向かうと、そこには蔵から脱走した羅刹が、今まさに女の生き血を啜ろうとしているところであった。「逃げろ!」「ありがとうございます!」 女は礼を言うと、そのまま土方と有匡に頭を下げた後、闇の中へと消えた。「血ヲ・・寄越セ!」「生け捕りにしたいところだが、仕方ねぇ。」 土方はそう言うと、愛刀の鯉口を切った。 有匡も、それに倣った。「血ヲ~!」「くどい!」 有匡はそう叫ぶと、羅刹の首を一閃した。「土方さん、見つかったか!?」「あぁ。後始末を頼む。」 土方は原田達に指示を出していると、彼の背後に怪しい影が揺らめいた。「土方さん、後ろ!」「血ヲ寄越セ~!」 土方は背後に迫って来る羅刹の気配に全く気付けず、刀を振うのが遅れた。 有匡は、己の身体を盾にしながら、羅刹の首に刃を食い込ませた。「お怪我はありませんか?」「あぁ。」 有匡の首筋に、羅刹が残した引っ掻き傷があった。 かなり深いものであったが、それはすぐに塞がった。「有匡・・お前ぇは一体何者だ?」「隠しても、いつかはバレるだろうと思うから、屯所でお話します・・全てを。」 一方、火月は山南と共に蔵の中へと入った。「あの、ここは・・」「ここは、羅刹の実検を行う場所ですよ。」「羅刹?」「えぇ。彼らはわたし達新選組が作り上げた“化物”ですよ。」「ひっ!」 蔵の中に居た白髪紅眼の男達に睨まれ、火月は思わず後ずさった。「あなたは、彼らの力になってくれると、わたしは思っています。」「一体、何を言って・・」「火月さん、あなたの血を少しだけ、頂けませんかね?」 山南はそう言うと、脇差の鯉口を切り、火月ににじり寄って来た。「山南さん、あんた何してんだ!?」「土方君、あなたは、彼女が鬼だという事を知っているのですか?」「あぁ。だからと言って、こいつを傷つけるのは許さねぇ!」 土方と山南の間に、静かな火花が散った。「火月、怪我は無いか?」「はい。」「火月君、あなたを怖がらせてしまって、申し訳ありませんでした。」「いいえ・・」「戻るぞ、ここには用はねぇ。」 歳三は牢の中にいる羅刹に一瞥をくれた後、蔵から出て行った。「それで、俺達に話しておきたい事というのは何だ?」「実は、わたしと妻は、“呪われた血”を持った一族なのです。」「“呪われた血”?」「わたし達は吸血鬼・・人の生き血を啜る化物なのです。」「吸血鬼・・つまり、あなたは“鬼”という事ですか。」「はい。」「先程あなたの奥方を蔵へ連れて行ったのは、羅刹のある“欠陥”をあなた方の“血”でなくせないかと思いましてね。」「“欠陥”だと?」「えぇ。それは・・」 山南が次の言葉を継ごうとした時、外から隊士達の怒号が聞こえた。「今度は一体何があった!?」「副長、この方が土御門殿に会わせろと・・」「ええい、離せ!」 そう叫びながら隊士達の腕を払い除けたのは、匡俊だった。「お久しぶりです、叔父上・・」「お前に、話がある。」「今日はもう遅いので、日を改めてくれませんか?」「では用件だけを伝えておく。お前に土御門家の家督は継がせん。」「そうですか。」 有匡は匡俊に背を向け、屯所の中へと戻っていった。「その様子だと、説得は失敗に終わったようだな?」「も、申し訳ありません!」「まぁよい、お前の甥とはすぐに会う事になるだろうよ。」 そう言った男は、氷のような視線を匡俊に向けた。にほんブログ村
2021年07月21日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「え、はじめ君の事を知りたい?急にどうしたの?」「はい。斎藤さんは、おいくつなんですか?わたしよりも10よりも年上かと・・」「え、はじめ君は俺と同い年だよ。」「じゃぁ、わたしよりも4つ年上なのですか?」「あ~、はじめ君年の割には落ち着いているからなぁ。」 平助はそう言うと溜息を吐いた。「平助、こんな所に居たのかと思ったら、人妻を口説いていたのか?」「いや、違ぇし!」「火月ちゃん、ここでの生活は慣れたか?」「えぇ、何とか・・」「そういや、旦那さんとはひと回りも年の差があるんだよな?どうやって、知り合ったんだ?」「実は、江戸に居た頃、僕は兄上のお手伝いで寺子屋に来ていたんですその時、有匡様とお会いしました。」 火月はそう言いながら、有匡と初めて会った時の事を思い出していた。 昨年の冬、火月はいつものように箏の稽古が終わり、家路へと着こうとしていた時、途中で寄った寺子屋で、兄・静馬の元へ一人の客人が来た事に彼女は気づいた。「お嬢様、どうかされたのですか?」「久、兄上の元に誰か来ているの?」「お嬢様が恋い焦がれているお方ですよ。」「まぁ、誰かしら?」 火月がそう言って兄の部屋の方を見ると、丁度部屋の襖が開いて有匡が姿を現した所だった。「有匡様!」「火月、久しいな。」 それは、有匡と10年振りに再会した日だった。「え、ちょっと待って、旦那さんとは初めて会ったんじゃねぇのか?」「あ、説明不足でしたね。有匡様と僕は、子供の頃からの知り合いで・・」「そうなのか。でもさあ、あいつ女にモテそうじゃん。土方さんみたいに。」「えぇ、有匡様は良く女の人から声を掛けられます。中には、恋文を渡された方もいらっしゃいました。」「それで!?」「有匡様は、“申し訳ないが、わたしには可愛い許婚が居る”とその方達にお断りしておりました。」「へぇ、やるねぇ。」「おいてめぇら、何そこで油を売っていやがる!」 頭上から突然声がしたので火月が俯いていた顔を上げると、そこには眉間に皺を寄せている土方の姿があった。「土方様、おはようございます。」「あぁ、おはよう。お前ぇに客だ。」「僕に、ですか?」「ここは俺がやっておくよ。」「ありがとうございます。」 厨を出た火月が正門へと向かうと、そこには一人の青年の姿があった。「久しぶりだね。」「あなたは・・」 一方、有匡は総司率いる一番隊と共に、市中巡察をしていた。「特に、おかしな事はなし、と。」「最近は長州や肥後の浪士達が辻斬りをしていると噂で聞いていたが、それは偽りのようだ。」 有匡がそう言いながら総司の方を向いた時、突然背後から鳥なのか猿なのかわからぬ声が聞こえて来た。「キェェ~!」 振り向くと、有匡の元へ口元から涎を垂らしながら刀を振り回している男が向かってゆこうとしているところだった。 男の前には、恐怖で固まっている男児の姿があった。「危ない!」 有匡は電光石火の勢いで刀を振り回している男に手刀を入れると、男児を突き飛ばした。 男が昏倒した弾みで、彼が振り回していた刀の刃先が有匡の右腕に食い込んだ。「怪我は無いか?」「うん・・」「では、走れ。」 男児が走り去るのを見た有匡は、安堵の溜息を吐いた。「ねぇ、有匡さん怪我しているよ!」「大丈夫だ、ただのかすり傷だ。」「そう?」 刀が食い込んだ有匡の右腕を総司が見ると、そこにはある筈の傷がなかった。(え?)「もう、戻りましょうか?」「うん、そうだね。」 先程自分が見たものは幻だったのか―総司はそんな事を思いながら、屯所へと戻った。「あれ、火月ちゃんじゃない?」(火月、その男は誰だ?)「一緒にわたしと来てくれ、火月。そうすればきっと・・」「離して下さい、わたしは行きません!」 火月はそう叫ぶと、自分の腕を掴んで離さない青年を睨みつけた。「火月!」「有匡様!」「貴様、わたしの妻に何か用か?」 有匡がそう青年に声を掛けると、彼は舌打ちして雑踏の中へと消えていった。「火月、大丈夫か?」「はい・・」 総司達と共に屯所へ戻った有匡と火月は、用意された部屋に入るまで互いに一言も話さなかった。「あの男は、お前の知り合いだったのか?」「はい。あの人は、姉様の許婚だった方でした。」「美祢殿の許婚だった男が、何故お前に用がある?」「それは、わかりません・・」「そうか。それよりも火月、お前にどうしても話しておきたい事があるんだ。」「話しておきたい事、ですか?」「あぁ、実は・・」にほんブログ村
2021年07月18日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。パチパチと、暖炉で薪が爆ぜる音がした。『なに、スウリヤの息子を見つけただと!?』『はい、ご主人様。どうやら彼は、京でサムライの軍隊に入ったようです。』『そうか。引き続き監視を怠るなと、あいつに伝えておけ。』『かしこまりました。』執事が部屋から出て行った後、男は一枚の写真を眺めていた。そこには妻と、双子の息子達、三人の娘達と家族五人で撮った家族写真だった。スウリヤは、美しく賢い自慢の娘だった。『何だと、好きな男が出来た!?』『・・はい。』スウリヤが恋に落ちた相手は、日本人の男だった。『許さんぞ、外国人の男との結婚など!』『では、わたくしはこの家と縁を切ります!』『勝手にしろ!』スウリヤは家から出て行き、遠い異国の地で二人の子を儲けた。その頃、双子の片割れ・アルフレッドは不慮の事故で亡くなった。『アルフレッド、何という事・・』『これから、この家はどうなってしまうのでしょう?』『スウリヤ様はこの家と縁を切られているから、この家には跡継ぎが・・』『じゃぁ、この家は・・』『あなた、今からでも遅くはないわ。スウリヤをこの家に呼び戻しましょう。』妻のエリーゼは、自分にそう言ったのだが、スウリヤを家に呼び戻す事は出来なかった。しかし、エリーゼは諦めなかった。彼女は探偵を雇い、スウリヤが日本で夫と子供達と共に暮らしている事を突き止めた。『いつか、日本に行きたいわ。孫達を、抱き締めてあげたい。』エリーゼは病に臥せり、亡くなるまでスウリヤ達に会いたいと話していた。『スウリヤが、消えた?』『はい。』『そうか・・必ず見つけ出して、殺せ。』『それは・・』『あいつは、忌まわしい血が流れている。これ以上、その血を受け継ぐ者が居てはならんのだ!』男―ジョンは、自分達一族に流れる“呪いの血”を心底嫌っていた。ジョンに命を狙われている事を知ったスウリヤは、長い間身を隠すように暮らしていた。そんな彼女が、二十年以上の時を経て有匡の前に現れた理由は、彼の妻である火月が、同じ“呪いの血”を持った一族であることを知ったからだった。“呪いの血”―それは、人の生き血を啜る、吸血鬼の遺伝子。自然治癒力が高く、強靭な精神力と超人的な体力を持った彼らは、中世に於いて魔女狩りの対象となった。“呪いの血”を持つ一族は、その能力故に短命な者や精神に異常をきたす者が多い。スウリヤは、己の中を流れる“呪いの血”を、物心ついた頃から憎んでいた。彼女が唯一出来る事、それはこの血を次世代へと継がせない事だった。だから、有仁と夫婦となり、有匡を授かった時、スウリヤは有仁に“呪いの血”の事を打ち明けた。すると彼は、スウリヤにこう言った。―血など関係ない。わたしは、君を愛している、ただそれだけだ。この人と、生きてゆきたいと思った。それなのにスウリヤは、彼の元を離れた。彼と、子供達を守る為に。(どうか、有匡には幸せになって欲しい。)スウリヤはそんな事を思いながら、ゆっくりと目を閉じて眠った。“有匡、わたし達には、誰にも知られてはならない秘密がある。”あれは自分がまだ五歳の頃、スウリヤに彼女の自室に呼ばれた有匡は、彼女が手にしていた小太刀で己の掌を傷つけたので、恐怖の余り泣き叫んだ。“大丈夫だ。ほら、見なさい。”スウリヤはそう言って、有匡に小太刀で傷つけた掌を見せた。そこには、何もなかったかのように傷口が完全に塞がっていた。“わたし達には、人とは違う血が流れている。その血は、他者にとっては脅威になる。だから、この事は誰にも言ってはいけないよ、いいね?”“はい、母上・・”“良い子だ。”あの時の、母の少し悲しそうな笑みが、有匡は未だに忘れられずにいた。「有匡様、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」「あぁ。久しぶりに、母と話す夢を見た。」「そうですか。」「火月、後でお前に話しておきたい事がある。」「わかりました。」朝餉の支度を火月が厨でしていると、そこへ斎藤がやって来た。「斎藤さん、おはようございます。」「あんたの旦那は、何処にいる?」「有匡様でしたら、巡察へ行かれました。」「そうか。」にほんブログ村
2021年07月18日
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土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。 真紀は龍馬に、謎の男から奇襲を受けた事を話した。「ほうかえ。何はともあれ、無事で良かったのう。」「えぇ。坂本さんが下さったこれが役にたちました。」 真紀はそう言うと、拳銃をそっと握り締めた。「兄上は、うちを助けてくれはったんどす。」「ほぉ、この銃は少し扱いづらいが、初めて撃ったにしては良い腕をしとるのぅ。」「えぇ、これも坂本さんのご指導のお陰です。」「これからの時代は、剣ではなく銃の時代ぜよ!まぁ、剣と銃、このふたつの両方使いこなせれば、鬼と金棒じゃ!」「そうですね。坂本さん、何故危険を冒してまで京へ来たのですか?」「それは、まだ話せん。まぁ、これから長州と薩摩が手を取り合うようになるぜよ。」「・・今のは聞かなかった事に致しましょう。」「おんしは賢くて助かるのう。お龍もそうじゃが、余計な詮索はせん。」「“沈黙は金”といいますからね。それよりも、身体が少し辛くて剣の鍛錬が出来ないので少し憂鬱になってしまいますね。」「ほうかえ。無理はせん方がええ。しかし、最近寒くなってきたのう。」「まぁ、冬ですから仕方ありません。北国の冬は、京の冬よりも厳しいようですし。」「考えるだけで、嫌じゃのぅ。長崎の冬はここよりもマシじゃぁ・・」 龍馬はそう言うと、ブルブルと身を震わせた。「まぁ、まるで子供のよう。」「さてと、わしは寺田屋へ行ってお龍に会いに行って来るぜよ!」「お気をつけて。」(全く、風のようなお方だな・・)「あの女、許さぬ!」「まぁ遊馬様、落ち着いて下さいませ。」「うるさい、俺に構うな!」「きゃぁっ!」「うるさいと思ったら、こんな所で遊んでいるのか。全く、情けない。」「父上・・」 遊馬は、酒で濁った目で西村を見た。「ゆきから聞いたぞ、あの宮下真紀を殺そうとしたが、返り討ちに遭ったそうだな。」「えぇ。父上、これからどうしたら・・」「それは、自分で良く考える事だな。」「えぇ。それよりも父上、“青い瞳の聖母”をご存知で?」「さぁ、知らぬな。遊馬、何を企んでいるのかは知らぬが、わたしに迷惑を掛けるなよ?」「えぇ、わかっておりますよ・・」 遊馬はそう言うと、再び溜息を吐いた。「全く、あやつには困ったものよ。攘夷などという熱に浮かされおって・・」「良いではありませぬか。さ、一献。」「ありがとうございます、田村様。ご息女様は息災でいらっしゃいますか?」「我が娘ならば、毎日薙刀の稽古に励んでおる。男に生まれていれば、この家を継がせてやれるというに・・」「良いではありませんか。ご息女の勇ましさは、後の世に役立ちます。」「そうだといいんだが・・」 西村の同僚・田村は、男勝りな娘・由良の将来を案じた。 その由良は、自宅の中庭で薙刀の稽古をしていた。「お嬢様、今日も稽古に精が出ますね。」「えぇ。父上は?」「西村様にお会いになっておりますよ。」「もしかして、また縁談の話を?父上には、いい加減諦めて欲しいものだわ。」「まぁ、お嬢様ったら。」 由良の乳母・きぬはそう言うと苦笑いした。「お嬢様、こちらにいらっしゃったのですね。」 そう由良に声を掛けて来たのは、由良の幼馴染・えりだった。「“お嬢様”はやめて頂戴。」「いいえ、わたしにとっては、“お嬢様”です。」 えりはそう言うと、目を伏せた。 えりは元々、由良と同じ良家の子女であったが、“安政の大獄”によって父が処刑され、世を憂えた母は幼い弟を連れて夫の元へと旅立った。 独り残されたえりは、田村家に使用人として、由良の侍女として引き取られた。「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」「日が暮れる前に、戻るわね。」 由良は薙刀の稽古を終え、えりを連れて三味線の稽古へと向かった。「冬も近いわね。毎日こう寒くなると参ってしまうわ。」「えぇ。」「ねぇ、あそこのお店に寄っていかない?」 そう言って由良が入ったのは、簪や櫛などを売っている店だった。「これ、あなたに似合いそうね。」 由良がえりの艶やかな黒髪にそう言いながら挿したのは、血珊瑚の簪だった。「まぁお嬢様、こんな物を頂く訳には参りません。」「お願い、貰ってよ。」「由良様、わたくしは物乞いではありません。」「えり・・」 えりの、己をまるで鞭打つかのような言葉に、由良は驚きの余り目を大きく見開いた。「欲しい物は、自分のお金で買います。」「ごめんなさい。」「いいえ、こちらこそ言い過ぎました。」「さぁ、急ぎましょうか。」 二人が店を出ようとした時、彼女達は一人の女性と擦れ違った。 美しい黒髪を丸髷に結い、紺の麻の葉文様の小袖姿だった。 女は雪のように肌が白く、美しい形の唇はほんのり紅をさしているだけでも艶めかしかった。「ねぇ、あの人、素敵ね?」「えぇ。」 三味線の稽古が終わり、由良とえりが師匠の部屋から辞そうとした時、また店で見かけた女と廊下で擦れ違った。「あの、落ちましたよ。」「ありがとう。」 女の財布を由良が渡すと、彼女は由良に礼を言った後、由良に優しく微笑んだ。 美しい切れ長の瞳は、澄んだ青だった。「あの人、また会ったわね。」「えぇ。身なりを見る限り、何処かのお内儀様でしょうか?」「凛とした方だったわね。」 二人がそんな話をしながら帰路に着いている頃、その“素敵な方”こと歳三は、三味線の師匠であり情報屋である左近と向かい合う形で座っていた。「土方様がそのようなお姿になられるとは、お珍しい。」「まぁ、“仕事”だからな。男のなりをすればすぐに敵にバレるから、この格好なら敵にバレずに近づける。」「それで、敵さんの方に動きはありましたか?」「あぁ、少しな。」 歳三はそう言って、左近に敵の潜伏先である宿屋の住所を記した紙を手渡した。「よろしく頼むぞ。」「へぇ、わかりました。」 左近は、そっとその紙を懐にしまった。にほんブログ村
2021年07月18日
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漸く互いの想いが通じるのかと思いきや、怒涛の展開になってしまって…清霞の、美世に向けた言葉がもう…早く二人には幸せになってほしいです!
2021年07月18日
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幼少期にテロに巻き込まれ、傭兵部隊に拾われた後、常人離れした小日向純也。彼のスーパーマンぶりは、戦場で培われたものなんでしょうね。ページをめくる手が止まらなくなるほど夢中になりました。現在六巻まで出ているというので、これからじっくりと読んでいこうと思います。
2021年07月11日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。「この靴は、誰の物なの?」「実は、わたし達が探している女神様のものなのです。」「この刺繍の模様には見覚えがあるわ。わたくしの知り合いに職人が居るから、その方に色々と聞いてみるわね。」「ありがとうございます、母上。」「お礼なんていいわ。早く女神様と会えるといいわね。」 エリスはそう言うと、グレゴリーに優しく微笑んだ。「王妃様、失礼いたします。」 そう言って部屋に入って来たのは、王国随一の靴の名職人・ユリシスだった。「ユリシス、忙しいのにわざわざ来て下さってありがとう。早速だけれど、この靴を作った人を知っているかしら?」「あぁ、この靴ならわしの弟子の、アンセルムが作ったものです。」「アンセルム・・」 エリスはその靴職人の名を知っていた。 何故なら、婚礼の日に自分の為に靴を作ってくれた人だからだ。「彼は今も、靴を作っているのかしら?」「アンセルムは、数年前に病で亡くなりました。素晴らしい腕を持っておりましたので、残念です。」「まぁ・・」「ですが、アンセルムの息子が彼の跡を継いでおります。彼ならば、何か知っていると思います。」「ありがとう。」 ユリシスは王妃の私室から出た後、ある人物と会った。「王妃様とはお会い出来ましたか?」「はい。ガブリエル様、少しお聞きしたい事がございます。」「何だい?」「あの者は・・」「それは、あなたが知らなくていい事です。」「は、はぁ・・」「もうさがりなさい。」「はい・・」(あの方は、美しい方だが、何だか恐ろしいお方だ・・)「親方、どうかしましたか?」「いや、何でもない。それよりも、S子爵様の靴は出来たのか?」「はい、こちらに。」「ありがとうございます。」 初めて師に褒められた弟子は、笑顔を浮かべた後仕事場へと戻っていった。「お邪魔するよ。」「これはT男爵様、ようこそいらっしゃいました。」「わたしが以前頼んだ靴は何処かね?」「こちらにございます。」「おぉ、足によくなじむ。やはり、君に頼んでおいて正解だったようだ。」「ありがとうございます。」「今後とも、よろしく頼むよ。」 満足気に自分が仕上げた“作品”を履いて店から出ていく貴族の客を見送ったユリシスは、作業場へと戻り、また新しい靴を作り始めた。 靴作りは、根気のいる作業だ。 人の足の形は、それぞれ違う、 だからこそ、心を込めて靴を作るのだ。 作業が一段落し、ユリシスが昼食を取りに工房の近くにあるカフェへと向かうと、そこにはランチを楽しむ客で賑わっていた。「ユリシス、久しぶりだな。」「ガリウス。」 ユリシスがカウンター席でコーヒーを飲んでいると、そこへ宝石職人のガリウスがやって来た、「さっきお前の工房を覗いてみたが、忙しそうじゃないか?」「あぁ。これから社交期に入るから、休める内に休まないとね。」「それは言えているな。うちもこれから忙しくなりそうだ。」 春が去り、初夏が訪れる頃、王都は本格的な社交期に入る。 社交期に入ると、国中の貴族が王都に集まり、女達は新しいドレスや帽子、宝石、靴などを注文するのだ。 それ故に、ユリシスとガリウスの工房は毎年夏になると目が回るような忙しさに見舞われるのだ。「最近、変わった事はないか?」「あぁ。王妃様が、アンセルムの作品をわしに見せて下さったんだ。」「アンセルムの作品を、王妃様が?」「靴は、王妃様がお探しになられている女神様の物らしい。」「女神様、ねぇ・・」「女神様の事を知っているのか?」「知っているのかどうかはわからないが・・この世には稀に、夜にだけ女の姿となる者が生まれるらしい。」「それは、本当か?」「あぁ。」(夜になると女に身体が変わる女神様、ねぇ・・確か、この国の伝説にあったな。) 工房の作業場に戻ったユリシスは、朝王宮でエリスから聞いた話を思い出していた。「その女神様とは、どのようなお方なのですか?」「そうね。黒髪に紫の瞳をした、とても美しい方だと言っていたわ。でも、その方に会えるのは夜だけだと言っていたわ。」「そうですか・・」「まぁ、あの“伝説”が存在するのなら、もしかしたら・・」「“伝説”ですか?」「えぇ。その“伝説”によれば、その女神様が現れると、国に大きな災厄が起きた後、救世主が現れるそうよ。」「救世主、ですか?」「まぁ、あくまで“伝説”だから、本当かどうかはわからないけれど。」「そうですか・・」「ユリシス、靴の持ち主探しは、余り急がなくていいわ。あなたは忙しいのだから、今は仕事を優先して。」 ユリシスは、“伝説”の真偽を確かめる為、仕事の終わりに王立図書館へと向かった。(これじゃな。) ユリシスは探していた本を本棚から引き抜くと、そこには美しい女神の表紙が描かれていた。“伝説”の事が書かれているページは、すぐに見つかった。『ごく稀に、男が夜の間だけ女になる体質の者が生まれた。その男が生まれた日、この国に大きな災厄が起きた。世界は崩壊寸前となり、混沌に陥った。しかし、その時―』(ページが、誰かに破られている。一体何が・・)「すいません、この本のページが誰かに破られているんじゃが・・」「まぁ、すいません!」 職員はユリシスから本を受け取ると、そのまま奥へと消えていった。 ユリシスはそのまま王立図書館から出て行った。(あの本のページを破ったのは、一体誰なんじゃ?)「親方、どうかされたのですか?」「いや、少し気がかりな事があってな・・」 ユリシスは弟子の一人に、本の事を話した。「ページを破るなんて、酷い輩ですね。一体、誰がそんな・・」「わたしにもわからん。それにしても、わたしが留守にしている間、ここを訪ねて来る者は居なかったか?」「アンセルム様のお弟子さんの一人が、昼前に来られましたよ。必ず親方に渡して欲しいと、この手紙を僕に・・」「ありがとう。」 弟子から手紙を受け取ったユリシスは、すぐさまそれに目を通した後、深い溜息を吐いた。(どうやら、不味い事になったのう・・)「親方?」「この手紙を、王妃様に必ず渡してくれ。いいか、必ず渡すのじゃぞ。」「はい!」 弟子がユリシスの工房から飛び出していくのを、建物の陰から数人の男達が見ていた。「王妃様にお会いしたいのです。」「あなたは?」「ユリシス工房の者です。親方から頼まれていた件の事で・・」「わたくしと共に来なさい。」 王妃はアンセルムの弟子の手紙を受け取ると、そのまま椅子の上に倒れるようにして座った。「まぁ、大丈夫ですか!?」「すぐにお医者様を!」「少し立ち眩みがしただけよ。」 エリスはそう言うと、ユリシスの弟子にある伝言を頼んだ。「親方、王妃様からの伝言です。“例の男達には、気をつけな”と。」「わかった。王妃様の言葉遣いが急に変わってしまって、戸惑ったわい。」「すいません、それは僕が勝手に言い換えました。」「そうか、それにしても、“例の男達”とは・・」「工房の様子を探っている男達の姿を、僕帰り際に見たんですよ。声を掛けようとしたら、慌てて逃げて行ってしまいましたよ。」「しうか。戸締りには注意しなければならんのう。」「親方の身辺警護も引き受けますよ、僕。」「頼もしい弟子に、わしは恵まれたのう。」にほんブログ村
2021年07月10日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。 一夜明け、神学校内ではユリウスの事件について様々な憶測が飛び交った。「ユリウス様は、色々と周りから恨みを買っているから、犯人が誰なのかわからないな。」「あぁ。」「まあ、前から碌な死に方をしないと思っていたが、やはり・・」「そこ、うるさいですよ。今度騒いだら、ラテン語のレポートを三つずつ書いて貰いますからね?」「す、すいません!」「わかればよろしい。」 そう言って天使のような笑顔を騒いでいる学生達に浮かべたのは、ラテン語講師・ガブリエルだった。 ガブリエルという大天使の名を持っている彼は、金色の髪をなびかせ、宝石のように美しいエメラルドグリーンの瞳を持つ麗人であった。「今日の授業はここまで。皆さん、課題は明日の朝までに提出して下さいね。」 え~、という周囲の声を無視して、ガブリエルは教室から出て行った。「あの人、厳しいよなぁ。」「でも、ユリウス様と違ってわからない所はこっちが理解するまで教えてくれるからいいかもな。」「厳しいけどね。」「ガブリエル先生は、確かグスタフと同じ地方の出身だよな?」「あぁ・・そうだが、噂によると王家の遠縁らしい。」「へぇ。なら、これからガブリエル様に媚を売っても損はなさそうだな?」「確かに。」 そんな学生達の会話を、歳三は木の上で聞いていた。(神学校といっても、みんな考えている事は一緒か。) 聖職者の世界は、金が物を言う―以前何処かの書物でそんな事が書かれていたような気がした。“学校は社会の縮図”だと良く言うが、まさに神学校はそういう場所だった。 ここには権力に縋る者、媚びる者―そんな汚い野望を抱いた者しか居ない。(あと三年、か・・) 三年後の自分がどうなっているのかわからないが、自分は彼らのようにはなりたくないと歳三は思った。「歳三様。」 歳三が木から降りると、彼の元へグスタフが駆け寄って来た。「歳三様、どうしてもお教えしたい事があるのです・・ユリウス様の事件のことで。」「わかった。」「ここは人目につきますので、わたしの小屋へどうぞ。」「ああ。」 グスタフと共に歳三が中庭を去ってゆく姿を、窓からガブリエルが見ていた。「“例の計画”は無くなったようですね?」「あぁ。」「あのユリウスが居なくなり、この学校に巣食っていた蛇が居なくなりましたね。」「彼は厄介な存在だった。犯人は誰であれ、邪魔者を始末してくれて感謝するよ。」「同感です。」「そうか。君とガブリエルは仲が良かったと思ったんだが・・」「“振り”ですよ、あんなの。わたしは、彼を心の底から嫌っていました。わたしは、犯人がこの学校の為にユリウスを殺してくれた、そう思っていますよ。」 ガブリエルはそう言うと、口端を歪めて笑った。(彼を、敵に回してはいけないな。) ユリウスは蛇―この学校に巣食う“悪”そのものであったが、“聖人”の仮面を被った“悪”が居るという事を、“彼”はこの時思い知った。「さてと、次はどうしますか?」「それは、君次第だな。」「そうですか。」「もう下がっていい。」「失礼致します。」 美しいプラチナブロンドの髪をなびかせながら、“聖人”は去っていった。「おい、居るか?」「はい。」すぅっと、影のように現れたのは、顔を珍妙な仮面で隠した男だった。「これを、例の所へ届けろ。」「かしこまりました。」 仮面の男は、現れた時と同じように、影のように消えていった。 そして、彼はヴェネチア通りにある娼館へと向かった。「お届け物です。」「ご苦労様。」「ねぇ、あの人どなたなの?」「さぁね。」「ふぅん・・」 一人の娼婦は、仮面の男が娼館から去ってゆくのをじっと眺めた。「ちゃんと、届けたか?」「はい。」「そうか、では下がりなさい。」「マスター、“あの件”はどうなっていますか?」「心配しなくても良い。あいつは、大金を受け取って隠して貰っている。何か気になる事があるのか?」「いいえ。」「では、下がれ。」「はい。」 仮面の男は主の部屋からであると、神学校の地下にある自室へと戻った。「ただいま。」 男が部屋に入ると、一匹の白ネズミが嬉しそうな声で鳴いた後、彼の肩へと飛び乗って来た。「今日も良い子にしていたかい?待ってて、今お前が好きなクッキーをあげるからね。」 男はそう言うと、ジャムの空き瓶の中から白ネズミの好物であるクッキーを一個手に取り、それを白ネズミに手渡した。 すると白ネズミは、嬉しそうな声を出しながらそのクッキーを男から受け取り、頬張った。「俺の友達はお前だけだよ、トト。」 男はそう言うと、顔を覆っている仮面を外し、鏡を見た。 そこには、右頬に大きな火傷痕がある男の姿が映っていた。「おい、居るか?」「はい、マスター。」「今夜王宮で舞踏会が開かれる。お前も出席しろ。」「ですが、わたしは・・」「これは、もう決まった事だ。」「わかりました。」(華やかな場所は、苦手なのにな・・) 男は、生まれてこの年になるまで、この神学校の地下室で外の世界を一切知らずに育った。 何故なら、彼は―「準備は出来たか?」「はい、マスター。」「化けているな、行くぞ。」「はい・・」 右頬の火傷痕を上手く化粧で隠した男は、主と共に王室の舞踏会へと向かった。 ここは、沢山人が居て嫌いだ。 早く帰りたい―男がそう思いながらシャンパンをつまらなさそうに飲んでいると、彼は一人の女とぶつかった。「すいません、大丈夫ですか?」「えぇ・・こちらこそ、ぶつかってしまってごめんなさい。お怪我はありませんか?」「はい・・」 そう言って振り向いた男の前には、美しい女神が立っていた。 彼女は絹糸のような美しく艶やかな黒髪に真珠の髪飾りをつけ、美しい紫のドレスを着ていた。「では、わたくしはこれで・・」「あ、待って!」 男は女神を慌てて追おうとしたが、彼女はまるで魔法にかけられたかのようにその姿を消してしまった。(素敵な方だったな・・)「こんな所に居たのか。もう出るぞ。」「はい、マスター。」 男が主と共に王宮の大広間から出た後、美しい女神こと歳三は、謎の少女と青年に追い掛けられていた。「待ってください、話をするだけでも・・」「待って~!」(一体何なんだ、こいつら!?) 紫のドレスの裾を摘まみながら、歳三は靴が途中で脱げるのも構わず、王宮の裏口から外へと出て行った。「また、女神様に逃げられてしまったわ。」「どうやら、彼女はわたし達の事を避けているらしい。」 グレゴリーはそう言うと、女神が落としていった靴を拾った。 それは、美しい模様が刺繍された紫の靴だった。「グレゴリー、女神様とは会えたの?」「会えましたが、逃げられました。」「まぁ、それは残念ね。」「母上、この靴に見覚えがありますか?」 グレゴリーはそう言うと、女神様が落としていった靴をエリスに見せた。「ごめんなさい、わたしにはわからないわ。」「そうですか・・」にほんブログ村
2021年07月10日
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徳川慶喜の激動に満ちた生涯が描かれた作品でした。ラストの徳川慶喜の葬儀のシーンは圧巻でしたね。
2021年07月07日
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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「漸く、この日を迎えたな。」「あぁ、そうだな。」 半年後、歳三と勇は警察学校卒業式の日を迎えた。「長かったなぁ。」「そうだな。なぁ勝っちゃん、希望している所はあるのか?」「特にないな。トシはどうだ?」「う~ん、強いて言うなら、“花の捜一”かなぁ。爺ちゃんも父さんも本庁の刑事だったから。」「そうか。」 警察一家に生まれた宿命なのかどうかはわからないが、歳三が交番勤務を経て捜査一課の刑事となったのは、彼が二十五の時だった。「トシ、また会ったな!」「勝っちゃん!」 いつものように歳三が登庁後自分のデスクで書類仕事に追われていると、そこへ勇がやって来た。「はい、これ。どうせお前、昼飯まだなんだろ?」「あぁ、済まねぇ。」 勇から牛丼を受け取った歳三は、美味そうにそれを食べた。「どんなに忙しくても、飯を食ったり、寝るのは忘れたら駄目だぞ。」「わかったよ。それよりも、あんたいつから本庁へ来たんだ?」「一月前かな。これからもよろしく頼む、トシ。」「あぁ。」「トシさ~ん!」 勇と歳三がそんな事を話していると、そこへ八郎がやって来た。「八郎・・」「トシさん、また会えたね!」 八郎はそう叫ぶと、歳三に抱きついた。「ねぇ、今度一緒にランチしよう!」「わかった・・」「伊庭さんは、どちらの所属なのですか?」「それは、職務上教えられないなぁ、ごめんね。」「そうですか・・」「トシさん、また来るね。」「わかった。」 八郎が去った後、歳三は深い溜息を吐いた。「また、あいつと毎日会うなんてな。」「そう言うなよ。同期生達と会えるなんて、嬉しいじゃないか。」「そうだな・・」「トシ、今晩空いているか?駅前に美味い飯屋が・・」「わかった。」「まだ最後まで言ってないぞ?」「昔からあんたが何かを言おうとしている事はわかるんだよ、俺には。」「かなわねぇな、トシには。」「なぁ、昔もこうして、二人で他愛のない話をしていたな。」「あぁ、そうだったな。」 そんな二人の会話を近くで聴きながら、八郎は悔しそうに唇を噛み締めその場から去っていった。「伊庭さん、こちらにいらっしゃったんですね?」「あぁ。」「お父様があなたをお呼びです。」「は~、仕事帰りに飲むビールは美味ぇな!」「そうだな・・」「勝っちゃん、どうした?」「いやぁ、昔は下戸だったお前が、酒飲みになるなんて思わなくてな。」「そ、そうか?」「まぁ、昔とは違うのかもしれんな。なぁトシ、他の皆とは会えているか?」「あぁ。山南さんと斎藤は鑑識課で会ったし、原田達とは昨日生活安全課で会ったな。」「生活安全課かぁ・・二人にはぴったりだな。」「まぁな。」 勇はそう言いながら、フライドポテトにマヨネーズをつけた。「そんな物ばかり食っていると、太るぜ?いつもどんなものを食べてんだ?」「う~ん、いつもコンビニ弁当かカップ麺かなぁ。偶にファミレスへ食べに行くが・・」「ったく、あんたって人は・・わかった、明日から俺があんたに弁当を作ってやるよ。」「いいのか!?」「あぁ。」「そうか。いやぁ、一人暮らしだと中々自炊する機会がなくてな、助かるよ。」「アレルギーはねぇか?」「ないよ。」「そうか。それにしても、今世でも俺があんたの女房役をするなんて、思いもしなかったな。」「はは・・」 駅前の居酒屋で勇と別れた後、歳三が駅前のスーパーで勇の弁当の食材を選んでいると、お菓子売り場の方で人の怒鳴り声が聞こえて来た。「だから、これはこの前買ったでしょう!」「いやだ~!」「もう、いい加減にして!あんたの世話で毎日疲れてるの!」 てっきり会話を聞いて、歳三は幼子を叱る母親の声なのかと思ってお菓子売り場の方を見ると、そこには六十代の母親と思しき女性をひたすら叱っている三十代前半の女性の姿があった。「もう帰るよ!」「お菓子~!」「お菓子はなし!」 やがて母娘と思しき女性達は、レジで会計を済ませ店から出て行った。「あの人達、いつも来るのよ。」 スーパーの店員が、歳三がレジで会計をしている時にこっそりとあの女性達の事を教えてくれた。「あの人、六十代の方ね・・ここで前はバリバリと働いていたんだけれど、前の店長から酷いパワハラを受けてねぇ・・精神的におかしくなって、ここに買い物に行く以外は、殆んど家に引き籠もっているのよ。娘さんは、わざわざ仕事を辞めてあの人の世話をしているのよね・・」「そうなんですか・・」「まぁ、他人の家庭に口出ししている暇があったら、仕事しないとね。」 スーパーから出て帰宅しても、歳三はあの母娘の姿が頭から離れなかった。 特にあの、娘の方の思いつめた表情が。にほんブログ村
2021年07月07日
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上野のホームレスに取材していたとあってか、ホームレスの生活のリアルさを感じられた作品でした。
2021年07月04日
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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「まさか、“人違い”で誘拐されたなんて、とんだ笑い話だぜ!」「あはは、そうだね!」 その日の夜、伊庭家の別荘の中庭で、歳三達はBBQの準備をしながら昼間の事を話していた。 すると、別荘の前に一台の黒塗りのリムジンが停まり、中から金髪紅眼の青年が、彼の秘書と思しき男と降りて来た。「すいません、道が混んでいて遅れました。」「いや、今始めようとした所だ。」「何だ、あいつら?」「さぁ・・」「もしかして、大物か?」 歳三達がそんな事を話していると、件の青年が彼らの元にやって来た。「何だ、てめぇ!?」「俺達に何か用か?」 青年は無言で、高級肉の塊(大量)を差し出した。「千景様、ちゃんとお肉は渡せましたか?」「あぁ。」「“彼”とは、話せましたか?」「いや・・少ししか話せなかった。それよりも天霧、肉は何処で調達した?」「知り合いの伝手で頼みました。」「まさか、薄桜鬼が我々と違う世界に居るとはな。」「ええ、わたしも驚きました。今世では、協力者同士となると思っていましたが、運命は残酷なものですね。」「俺は、運命などというものは信じん。」「貴方様は、昔からそうでしたね。」 天霧は、そう言うと溜息を吐いた。「なぁ、あいつ一体誰なんだ?」「さぁ・・」「あ、どこかで見た顔だと思ったら、あいつ風間コンツェルンの社長だよ!」「えぇっ!?」「土方の人脈、一体どうなってんだ!?」(ややこしい事になっちまったな・・)「トシさ~ん、この世で一番好きなのは、誰だ?」「おい、どうした急に?」「ねぇ、僕だよね?僕だって言ってよ、トシさん!」 そう言った八郎の目は、笑っていなかった。「もう僕、置いて逝かれるのは嫌なんだ!だから・・」「うるさいぞ、黙れ。」「何するのさ!」「頭を冷やしただけだ。」 そう言った千景の手には、氷水が入ったグラスが握られていた。「僕は・・」「少し、向こうで話そうか?」「わかったよ。」(あいつ、大丈夫か?)「ねぇ、僕と話したい事って何?」「お前には、“昔”の記憶はあるのだろう?」「うん、あるよ。それがどうかしたの?」「貴様は、“昔”から変わっていないな。何故それまでにあやつに執着するのだ?」「トシさんは、僕の全てだから。トシさんだけなんだ、僕をこんなに夢中にさせてくれるのは。昔から、僕はトシさんの事が好きなんだ。誰にも渡したくないんだ・・勇さんにも。」(病んでいるな。)「だから、僕の邪魔をしないでよね?」「わかった。」(こいつとは、余り関わらない方が良いな。) 八郎と対峙しながら、千景はそう思った。「トシさん、別荘楽しかったね!」「あぁ。」「今度は二人“だけ”で行こうね!」「わかった・・」 悪夢のような週末を伊庭家の別荘で過ごした歳三は、知らない内に疲労が溜まっている事に気づかなかった。「どうした土方、顔色が悪いぞ?」「大丈夫です・・」「何かあったら、医務室に行くんだぞ。」「はい・・」 午前中の教練は何の支障もなく受けられた歳三だったが、昼食を取ろうと食堂へ行こうとした時、急に寒気に襲われた。「トシ、どうした?」「ちょっと気分が悪いから、医務室に行って来る。」「一緒に行こうか?」「頼む・・」 勇に肩を貸して貰いながら、歳三は医務室へ向かった。「風邪だね。風邪薬を飲んで暫く横になるといい。」「わかりました。」「トシ、付き添わなくても大丈夫か?」「ガキじゃねぇんだから、大丈夫だよ。」「そうか・・」「もう戻った方がいいぜ。また教官に怒鳴られるのは嫌だろう?」「わかった・・」 勇は暫く歳三の手を握っていたが、やがて名残惜しそうに彼の手を離し、医務室から出て行った。「土方、どうだった?」「風邪だったよ。」「週末、色々とあったからなぁ。」「色々?」「後で話すよ。」「わかった。」 そんな勇達の会話を、八郎は何処か恨めしそうな顔をしながら聞いていた。にほんブログ村
2021年07月03日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。 「そうですか・・」 「おい、どうした?この王都へ戻って来たそうですよ。」 「嬉しくなさそうな顔をしているな?」 「まぁね。折角考えた“計画”が、台無しになってしまいましたよ。」 「そうか。」 「とにかく、邪魔者二人を一気に始末できたのですから、良いとしましょうか。」 ユリウスはそう言うと、枕元に置かれているワインを一気に飲み干した。 「何だか恐ろしい奴だな、お前だって。」 「そう?」 「つくづく、お前を敵に回さなくて良かったと思ったよ。」 「まぁ、嬉しい・・」 ユリウスはそう言って笑うと、恋人にしなだれかかった。 「それで、その“計画”とやらはどうするんだ?」 「練り直すさ。あなたにも色々と協力して貰いますよ。」 「わかった・・」 (あの歳三とかいう青年を早く始末しなければね。王家の血をひく者は、私達二人にとって邪魔者以外の何物でもない。) 「王妃様、起きていらっしゃいますか?」 「えぇ。」 「失礼致します。」 「どうしたの、そんな顔をして?」 「実は、王妃様の郵便物の中から、こんな物が・・」 王妃付の女官・アゼリアがそう言ってエリスに差し出した物は、エリス宛の怪文書だった。 『お前を必ず、殺してやる。』 「気味が悪いですわね。捨てましょうか?」 「えぇ、そうして。」 「お休みなさいませ、王妃様。」 「お休みなさい。」 アゼリアが去った後、エリスは怪文書を無言で破り捨てた。 「おはよう。」 「おはようございます、グレゴリー様。」 「母上は?」 「王妃様は、今朝酷い頭痛がするとおっしゃって、お部屋で休まれています。」 「そうか。」 「それよりも、グレゴリー様にお伝えしたい事がございます。」 「わたしに伝えたい事だと?」 「はい。」 アゼリアは、昨夜エリスの元に怪文書が届いた事をグレゴリーに話すと、彼は顔を曇らせた。 「母上は、心労で色々と疲れていらっしゃると思うから、君達が色々と気を遣ってやってくれ。」 「はい。」 「グレゴリー様、リリア様が・・」 「わかった、すぐに行く。」 グレゴリーが従妹であるリリアの元へと向かうと、彼女は少し拗ねて侍女を困らせていた。 「本当に、わたしは見たの!」 「リリア様・・」 「どうした、リリア?何をそんなに拗ねているんだ?」 「グレゴリー兄様、わたし女神様を見たの!」 「女神様?」 「申し訳ございません、グレゴリー様。」 「済まないが、暫く彼女と二人きりにさせてくれないか?」 「かしこまりました。」 侍女が部屋から出て行った後、リリアは“女神様”の事をグレゴリーに話し始めた。 「“女神様”は、どんな人だったんだい?」 「黒髪で、アメジストのような綺麗な紫の瞳をしていたわ!」 「そうか。」 「みんな、わたしの話を聞いてくれないの。まるで、わたしは嘘を吐いているって・・」 「それは違うよ、リリア。君だけが、“女神様”を見たのは、本当の事だろう?」 「えぇ、本当よ!」 「ならばもう一度、その“女神様”に会いたいかい?」 「会いたいわ!」 「そうか。じゃぁ、わたしがその“女神様”を探し出してやろう。」 「ありがとう、グレゴリー兄様!」 リリアは、グレゴリーと話し終えた後、早速彼女が会ったという、“女神様”探しに奔走した。 だが、名もわからぬ“女神様”は、中々見つからなかった。 (困ったな・・) 「あらグレゴリー、どうしたの?溜息なんか吐いて?」 「母上、もう頭痛は良くなったのですか?」 「ええ。リリアからさっき、“女神様”の話を聞いたわ。わたくしも、“女神様”探しに協力するわ。」 「ありがとうございます、母上!」 「そんな他人行儀な事を言わないで頂戴。親子じゃないの。」 エリスはそう言うと、息子に優しく微笑んだ。 その“女神様”こと、歳三は一ヶ月の入院生活から漸く解放された。 「退院おめでとうございます。」 「ありがとうございます。先生のお陰です。」 「いえいえ、あなたがこうしてこの日を迎えたのは、あなた自身の生命力の強さのお陰ですよ。」 「はい・・」 「あの奴隷船で生き延びたのは、あなたが生きたいと思ったからです。どうか、お元気で。」 病院から出た歳三は、その足で神学校へと戻った。 「おや、もう体調の方は大丈夫だったのですか?」 「ユリウス様・・」 「お帰りなさいませ。」 そう言って歳三を出迎えたのは、神学校の使用人・グスタフだった。 「お荷物をお預かり致します。」 「済まねぇ・・」 彼と共に自室に入った歳三は、突然脱力したかのように寝台の上に倒れ込んだ。 「そのご様子だと、随分お疲れのようですね。お風呂に入ってからゆっくりしていって下さい。」 「あぁ・・」 「では、今からお風呂の湯を沸かして参りますね。」 「頼む・・」 グスタフが風呂の湯を沸かしている間、歳三はいつの間にか寝台の上で眠ってしまった。 「あれ・・」 彼が目を覚ますと、部屋にグスタフの姿はなく、浴室からは白い湯気が立っていった。 「はぁ、生き返る。」 湯舟に浸かった歳三は、そう言って溜息を吐いた。 「失礼致します、歳三様。」 ドアの向こうから、控え目なノックの音とグスタフの声が聞こえて来た。 「着替えとタオルを外に置いておきますね。」 「ありがとう。」 「では、わたしはもう失礼致します。」 部屋からグスタフが出て行く気配がした後、歳三はそっとドアを開けた。 今は昼なので自分は“女性化”していないが、自分の身体の秘密を知っている彼は、気を遣って部屋に入ったが、浴室の中には入ろうとはしなかったけれど。 (何だか、神学校ではグスタフだけだな、自分を気遣ってくれるのは。) 今までは、孤児院のシスター達や子供達―仲間達に囲まれていたから、寂しくなどなかった。 しかし、ここでは誰一人知り合いも友人もおらず、周りは敵だらけであった。 そんな中で、グスタフだけが自分に優しくしてくれた。 彼が何処の出身なのかは知らないが、“山間部の集落出身”だと噂に聞いている。 彼は何故、自分の“秘密”を知っているのだろうか―そう思いながら、歳三は静かに目を閉じて眠った。 神学校の夜の静寂を破ったのは、絹を切り裂くかのような女の悲鳴だった。 「何だ!?」 「一体、何があった!?」 寝室から夜着姿の神学生達が眠い目を擦りながら廊下へと出て来ると、ユリウスの寝室から蒼褪めた顔をした女が飛び出して来た。 「おい、一体何があった!?」 「ユリウス様が、寝室でお亡くなりになられて・・」 「退いて下さい!」 半狂乱となり泣き喚く女を押し退けたグスタフは、寝室の中で絶命しているユリウスの姿を発見した。 「これは、一体・・」 ユリウスは、夕食用のステーキナイフで己の喉を切り裂いていた。 だが彼が左利きである事を知っているグスタフは、少し違和感を抱いた。 「なぁ、昨夜ユリウス様が・・」 「自殺!?」 「いや、それがそうじゃないらしい。」 ユリウスの死は“自殺”ではなく、“病死”として処理された。 にほんブログ村
2021年07月03日
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映画と原作は別物ですね。 剣心の答えが出るまで、原作ではかなり長い時間がかかりました。 この本のなかで、恵さんが薫に言った台詞が印象に残りましたね。 ラストシーンも良かったです。
2021年07月02日
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原作の漫画の方は読んでいましたから、話の流れは大体把握していました。 新撰組の活躍がよく描かれていて、新撰組好きなわたしにとっては嬉しかったです。 巴と剣心の悲しい運命には涙を流しそうになりましたね。
2021年07月02日
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良くライトノベル界隈にありがちな「異世界転生もの」のリアル版のような物語でしたが、かなり面白かったです。 最後にルワンダ虐殺に触れられているところで少し暗い気持ちになりましたが。
2021年07月02日
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