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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「それで、君は・・」「少し考える時間をください。」「わかった。」 歳三はホテルから出ると、溜息を吐いた。 いきなり同性と結婚してくれと言われても、“はい、そうですか”とすんなり受け入れる訳ではない。 しかし俊郎の頼みを断れば、色々と困った事が起きるのは目に見えている。 一体、どうしたらいいのだろう―歳三はその夜、一睡も出来なかった。「トシ、顔色が悪いぞ?」「あぁ、ちょっとな・・」「後で話、聞くぞ?」「ありがとう。」 昼休み、歳三は勇と共に屋上でコーヒーを飲みながら、昨夜俊郎とホテルで話した事を勇に告げた。「そうか・・」「俺、どうしたらいいのかわからねぇんだ・・」「迷ったり悩んだりしている時は、とことん迷ったり悩んだ方がいい。」「勝っちゃん・・」「そういえば八郎君は、“昔”からトシの事が好きだったなぁ。」「あぁ・・」 試衛館で勇と共に汗を流していた頃、八郎は良く遊びに来ては、自分からまとわりついて離れようとしなかった。 京に居た時も、戦が始まり蝦夷地へと向かった時も、八郎はいつも歳三の傍に居た。「今度、俺が八郎君と話をして・・」「それは駄目だ。あいつは、あんたの事を“昔”から恋敵だと思っているからな。」「そうか・・」「俺が、何とかする。」 歳三は八郎をその日の夜に自宅へと招き、彼に手料理を振る舞った。「楽しみだなぁ~、トシさんの手料理。」「八郎、話がある。」「ねぇトシさん、勇さんには話したの、僕との結婚の事?」「あぁ。八郎、俺はお前ぇとは結婚しねぇ。」「何で!?」「俊郎さんから、お前の精神状態を聞いた。“あの時”、お前を俺が抱いたから、その所為で・・」「トシさんの所為じゃないよ。僕が、トシさんを想い過ぎたからいけないんだ。」「八郎・・」「トシさん、ごめんね。」「いや、いいんだ。」「食べよう、折角作った料理が冷めたら勿体ないよ。」「わかった。」「トシさん、これからは“良い友人”として僕と付き合ってくれる?」「あぁ、いいぜ。」 八郎の顔を見て、歳三は少しずつ安心した。 日曜日、歳三は“真由美”としてめぐみママの自宅マンションに来ていた。「いらっしゃい、待っていたわよ~」「ママ、お邪魔しまぁす。」 めぐみママのホームパーティーには彼女の上客が来ていたが、その中には本田の姿はなかった。「あの、本田さんは?」「本田さんは、今日は“お仕事”で来られないそうよ。最近、忙しいみたい・・」「へぇ・・」 本田の“仕事”を色々と調べた歳三は、彼が違法ドラッグの取引をしている事を掴んだ。 そして、彼が今日“仕事”で横浜の倉庫へ向かっているという情報を知った。「すいません、少しお手洗いに・・」「トイレなら、ここを出て左よ。」「ありがとうございます。」 歳三はそう言ってリビングを出ると、めぐみママの部屋へと向かった。『トシ、聞こえるか?』「あぁ。めぐみママは、秘密の手帳を何処かに隠していると思うんだが・・」 歳三はそう言いながらめぐみの部屋を物色したが、めぼしい物は見つからなかった。「真由美ちゃん、こちらグレイウルフの佐々木さん。」「はじめまして。」 そう言って歳三に握手を求めて来たのは、ワイルド系の男だった。「君、カワイイね。今夜、付き合わない?」「もう、佐々木さんのいつもの悪い癖が出たわね。」「お邪魔します。」「え、いいの?」「真由美ちゃん、佐々木さんには気を付けてね。」「え?」「あの人、“女喰い”で有名だから。」「わかりました。」 佐々木のマンションは、都内の一等地にあった。「さ、入って。」「お邪魔します。」「ねぇ、真由美ちゃんってさ、彼氏居るの?」「さぁ、どうかなぁ~?」 歳三がそう言いながら佐々木の方を見ようとした時、佐々木にスタンガンを当てられ、気絶した。(クソッ、やられた!) 歳三が目を覚ますと、そこは何処かの廃ビルだった。「目が覚めたかな、お姫様?」「てめぇ・・」「お前が、“警視庁の姫”か。噂には聞いているぞ、目的の為ならばどんな手を使ってでも悪を裁く正義の味方だと。」「俺を、どうするつもりだ?」「それは、教えねぇなぁ・・」 佐々木が歳三に薄ら笑いを浮かべながら銃口を向けた時、廃ビルに捜査官達が一斉に雪崩れ込んで来た。「姫、ご無事ですか!?」「誰が姫だ!」「申し訳ありません、副長!」「斎藤、こっち頼む!」「はい!」 その後、カルティエのママとグレイウルフの佐々木は、違法薬物取引と人身売買の疑いで逮捕された。 数ヶ月後。「楽しみだなぁ、トシさんと京都旅行!」 東京駅でキャリーケースをひきながらそう言って笑顔を浮かべている八郎の姿を見た歳三は、渋面を浮かべていた。「観光で行くんじゃねぇんだ。」「え~、でも大学時代以来久しぶりだもん!」「え~と、ホテルは・・おい、何で俺とお前が同じ部屋なんだ?」「細かい事は気にしな~い!」(何だか、嫌な予感がする・・) 京都に着いた途端、歳三は八郎に新選組の名所巡りをさせられ、大量のみやげ物を買わされた。「はぁ、疲れた・・」「トシさん、お休み。」 その日の夜、八郎は隣で熟睡している歳三の左手薬指に、指輪をはめた。(終)にほんブログ村
2021年08月28日
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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「いらっしゃいませ~!」 ここは、銀座のクラブ・カルティエ。 政財界の大物や文化人などが集う高級サロンのような店内には、ロココ調の家具や調度品などがさり気なく飾られており、そこで働くホステス達もまるでヴェルサイユの貴婦人達のように気品と威厳に満ち溢れていた。 そんな中、歳三はホステスの一人としてこのクラブに潜入していた。「え、囮捜査?」「そうだ。実は銀座のクラブ・カルティエは、半グレ組織・グレイウルフと繋がりがあるという情報を得た。カルティエは、以前から違法ドラッグの取引をしているという黒い噂がある。」「そこで、俺にカルティエに潜入させる、という事ですね。」「話がわかって助かるよ。」「俺が、どうしてホステスに?」「君は以前、ガールズバーで潜入捜査をしていたね。男所帯でむさ苦しい刑事達の他に、女装が似合うのは君しか居ないと思ってね。」「えぇ・・」「頼んだぞ。」「は、はい・・」 歳三はホステスとして潜入したのだが、ママのめぐみに目をつけられるようになった。「ちょっと、ここは居酒屋じゃないのよ!」「すいません・・」「もう、しっかりしてよね!」 めぐみはそう言って奥へと消えていった。「真由美ちゃん、また来たよ!」「あらぁ、いらっしゃい!」 バーコードハゲの客が、めぐみの上客であり、横浜で貿易商をしている事を歳三は掴んでいた。「ママ、とりあえずアルマンド、ボトル一本ね!」「うわぁ~、嬉しい!ありがとうございます!」「本田さん、わたしよりこの子の方に気があるの?嫉妬しちゃう!」「ママ、機嫌直してよ~!すいません、アルマンドのブラックお願いします!」(このオッサン、やるな・・)「じゃぁママ、またね!」「はぁい、お待ちしていま~す!」 本田をエレベーター前でママと見送った歳三は、ママに声を掛けられて思わず顔を強張らせてしまった。「ねぇ、これから二人でご飯行かない?」「は、はい・・」「そんなに怯えないで、取って喰ったりはしないわよ。」 ママに連れられた所は、新宿歌舞伎町の近くにあるラーメン店だった。「あ~あ、コロナが終息してくれないと、うちの店も商売上がったりよ。」「え~、お店儲かっているじゃないですかぁ?」「そうでもないのよ。昨年の春からずっと業績悪くてね。銀座や六本木のクラブも、何処も同じようなもんよ。もうお店閉めて、田舎帰っちゃおうかなぁ。」「田舎、何処なんですか?」「埼玉の山奥。昔はドがつく田舎だったけれど、近くにデカいショッピングモールが出来たらいいけどさ。」 ママはそう言って煙草の煙と共に溜息を吐き出した。「今度の日曜、紹介したい人が居るからうちへ来てくれない?」「わかりました・・」「それじゃ、また明日!」 帰宅した歳三は、ベッドまで這うようにして向かうと、そのまま泥のように眠った。「土方君、居るの~!?」「何だよ、うるせぇな・・」 歳三が眠い目を擦りながらドアを開けると、そこには何処か慌てた表情を浮かべている大鳥の姿があった。「どうした、何があった?」「伊庭君が、君を捜しているんだ!とにかく僕と一緒に来て!」「え・・」 訳がわからぬまま、歳三は大鳥が運転する車である場所へと向かった。「嫌だぁ~!」「八郎、落ち着きなさい!」 そこは、都内某所にあるホテルの結婚式場だった。「一体、何が起きていやがる?」「実は・・」 大鳥は、歳三に八郎が暴れている経緯を話し始めた。 八郎は、また父親に連れられて見合いをしたのだが、突然彼が暴れ出したのだという。「そうか・・」「歳三君、少し話せないか?」「はい。」 暴れて疲れて眠ってしまった八郎をスイートルームの寝室のドア越しに見ながら、そう言って歳三と向き合うような形でソファの上に腰を下ろした。「八郎と、結婚してくれないか?」「え・・」「最近、あの子は、“トシさんと結婚できないなら死ぬ!”とか言い出して暴れるんだ。」「そうですか・・」「あいつを一度カウンセリングへ連れて行ったが、精神科医から、“前世でやり残した事が、息子さんを苦しめている”と・・」 俊郎の言葉を聞いた歳三は、箱館の“あの夜”の事を思い出した。「トシさん、いいかな?」「ねぇトシさん、お願いがあるんだ。」「何だ?」「僕を、抱いて欲しいんだ。」「お前、何言って・・」 歳三がそう言って八郎の方を見ると、彼は一糸纏わぬ姿を見て己の前に立っていた。「もう、こんな身体で生きていたくないんだ。」 そう言って涙を流す八郎の左半身には、変若水を飲んだ副作用による、酷い瘢痕が広がっていた。「わかった・・」 それが、歳三が八郎を抱いた最初で最後の夜だった。「歳三君?」「いえ、何でもないです。」にほんブログ村
2021年08月28日
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御巣鷹山にジャンボが墜落。 その事故をおう記者達の健闘を描いた作品です。 当時はインターネットやGPSなどがなく、情報は足で集めるしかない。 遺族の感情は一切描かれていないのですが、記者としてあるまじき行為をした上司をなぐった主人公の同僚にはスカッとしました。 「マスゴミ」はいつの時代にも居るものだなと思いました。 今はネットやSNSで誰でもニュースやスクープを発信できる時代。 マスコミのありかたを考えさせられる作品でした。
2021年08月27日
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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 歳三達は総司の死の真相を探る為、彼が勤務していた大学病院へと向かった。「沖田先生が、お亡くなりになられたのですか・・」「何か、事故の前に彼に変わった様子はありませんでしたか?」「そうですね。確か、一度製薬会社の人と揉めているのを見たような気がします。」「それはいつの事ですか?」「数日前の事でしたね・・」 総司の同僚である女性医師は、数日前屋上で総司が武田製薬の社員と口論していた姿を目撃したという。「ありがとうございました。」「いいえ。それよりも沖田さんの奥様、妊娠されていらっしゃるとか・・」「ええ。」「夫をわたしも亡くしたばかりで、わたしも彼女の気持ちが痛いほどわかります。どうか、彼女には元気な赤ちゃんを産んで欲しいですね。」「必ず、犯人を捕まえてみせますよ。」 歳三達は、総司と口論していた武田製薬の社員・石田と会おうとしたが、彼は既に退職した後だった。「何だかおかしくねぇか?俺達が会おうとしていた社員がその日に退職したなんて・・」「明らかに不自然過ぎるだろう。石田の家は、確か新宿だったな。」「今からでも、家に居そうだな。」 歳三と原田が武田製薬の本社から出ようとした時、歳三は一台の自転車とぶつかりそうになった。「危ねぇだろうが!」 歳三はそう自転車に向かって怒鳴ったが、自転車に乗っていた男は雑踏の中へと消えていった。「そういや最近、宅配業者が増えてねぇか?」「まぁ、コロナ禍で巣ごもり生活が続いて、外出もままならなくなったから、宅配業者の自転車を見るのはその所為だろう。」「宅配業者って、料理以外の物を運ぶんだよな?」「まぁ、そうだな・・」 原田と歳三がインターネットカフェで休憩していると、歳三はスマートフォンに総司から音声メッセージが届いている事に気づいた。『土方さん、このメッセージを聞いたら、すぐに僕の家へ向かって下さい!あいつらにデータを渡さないで!』 音声メッセージが送信された日時は、総司が事故に遭う一時間前だった。「左之、総司の家わるか?」「ああ。」 インターネットカフェから出て総司の自宅へと向かうと、黒塗りの車に尾行されている事に歳三は気づいた。「左之、頼みがある・・」「はいよ!」 原田はそう叫ぶと、黒塗りの車を撒いた。「逃げられた、だと?」『申し訳ありません。』「まぁいい。」 武田製薬の社長・武田観柳斎はそう言うと、スマートフォンを胸ポケットにしまった。「勝つのは・・わたしだ!」「ここか・・」「あぁ。管理人さんから鍵は借りてあるから、早速中に入ろうぜ。」「わかった。」 歳三達が総司の自宅マンションの部屋に入ると、リビングの壁には総司と千鶴の名間睦まじい家族写真が飾られていた。「もうすぐ、新しく家族が増えて、あの空きスペースに家族三人の写真を飾るつもりだったんだろうな・・」「あぁ。」 歳三達は、総司のノートパソコンを彼の書斎に見つけた。「パスワードがかかっているな。」「あいつの生年月日は?」「駄目だ。」「ヒントがないな・・」 歳三はそう思いながら、ノートパソコンの近くに一冊のノートが置かれてある事に気づいた。 中を開くと、そこには性別関係なくつけられる子供の名前が書かれていた。 その中に、“若葉”という名前が大きく丸印でつけられていた。(これだ!) 総司のノートパソコンには、病院と武田製薬の癒着の証拠が残されていた。「斎藤、どうだ?」「これは、確かに総司の物です。それと、音声データが残されていました。」 斎藤が再生した音声データには、恐ろしい会話が録音されていた。―あの男を始末しろ。―沖田君を、ですか?―そうだ。「ふん、これが何の証拠になるんだ?」「実は、この音声には続きがあるんですよ。」―あの沖田とかいう男を、少し脅かしてやればいい。―そんな・・―いいか、必ずやれ。―わかりました、武田さん・・「ふん、わたしは必ず勝ってみせる!」「そりゃぁ、無理だな。」「おのれ・・」 事件解決の報告をしに歳三と原田が千鶴の病室へと向かうと、彼女は総司の姉に車椅子に乗せられて二人の前にやって来た。「・・そうですか、ありがとうございました。」「おなかの赤ちゃんと共に、元気に生きていってください。」「はい・・」 半年後、歳三の元に赤ん坊を抱いた千鶴の写真が送られて来た。“この子の名前は、若葉にしました。”にほんブログ村
2021年08月25日
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素材はコチラからお借りしました。「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。(誰だ、こんな夜中に・・) 歳三がそう思いながらインターフォンの画面を見ると、そこには泥酔した八郎の赤ら顔が映っていた。『トシさん、開けて~!』「わかったよ、今開けるから!」 歳三がドアロックを解除すると、玄関先に八郎はへなへなとした様子で座り込んでしまった。「おい、しっかりしろ。」「う~ん・・」 八郎はそう唸った後、トイレへと駆け込んでいった。「ほらよ、水。」「ありがとう。ごめんね、急に来ちゃって・・」「それ飲んだら、寝ろ。」「うん・・」 翌朝、歳三が目を開けると、キッチンの方から良い匂いがして来たので、彼は寝室から出た。「あ、トシさんおはよう。」「八郎・・」「今ご飯できるから待っていてね。」 八郎はそう言って、慣れた手つきでフレンチトーストを作り、それを皿の上に置いた。「はい、どうぞ。」「ありがとう。お前、料理できるのか?」「まぁね。花婿修業の一環ってやつ?」「へぇ・・」 八郎は嬉しそうに笑った。「なぁ、昨日何があったんだ?」「パパが、僕を結婚させたがっているんだ。僕は、トシさんと結婚したいのに・・」「八郎、俺は・・」「だから、トシさんは僕の事だけを見て欲しいなぁ。」 歳三は、八郎に何も言えなかった。「じゃぁね、トシさん。」「あぁ。」 警視庁へと登庁した歳三は、何やら生活安全課の方が騒がしい事に気づいた。「土方さん、久しぶりだな。」「あぁ。左之、何かあったのか?」「それがよぉ、この前俺達が摘発したガールズバーの従業員の中に、芹沢さんの娘が居たんだよ。」「それで、結婚を控えている娘の為に、“事件をなかったことにしろ”って言われたのか?」「あぁ。ったく、上層部のご機嫌取りなんてごめんだね!」「芹沢さんに睨まれたら、お前ぇ山奥へ飛ばされるぞ?」「構やしねぇよ。何処へ行っても、俺は、俺だ。」「そうか。今夜、飲みに行くか?」「え、いいのか?」「あぁ。ちょっとお前ぇに、相談したい事があるんだ。」「わかった。」 その日の夜、歳三と原田は、行きつけの居酒屋に来ていた。「とりあえずビールとフライドポテト、あとは枝豆だな。」「あぁ。」 タッチパネルで注文した料理が来るまで、歳三と原田は互いに愚痴を吐き合った。「芹沢には参るぜ!」「あぁ、全くだ!」「それにしても、珍しいな土方さん。あんたがこんな店で飲もうなんて誘うのは?」「八郎の奴、俺以外の奴とは結婚しねぇと言いやがった。」「そりゃ深刻だな。警視総監の息子が独身を貫くなんざ、あの親父さんが黙っていないと思うぜ。」「もう、どうすりゃいいんだ・・」「まぁ、伊庭さんとは少し距離を置くのが一番だな。」「そうしてぇのはやまやまだが、八郎の奴、俺の家知ってるんだよ・・」「厄介だな・・」「あぁ。」 歳三がそう言いながらフライドポテトをつまんでいると、スマートフォンに着信があった。 画面には、“沖田千鶴”と表示されていた。「もしもし、千鶴?どうした、こんな時間に?」『総司さんが・・』「わかった、すぐに行く!」「どうした、何かあったのか?」「さっき千鶴から連絡があって・・総司が、死んだ。」「それは、本当か?」「あぁ。」 総司が交通事故で亡くなったと歳三達が知ったのは、その日の深夜の事だった。「土方さん、原田さん・・」「何があったんだ、千鶴?」 病院の霊安室の前で歳三達が会ったのは、顔面蒼白になっている千鶴だった。 彼女の話によれば、総司は迷子を交番へと届けた帰り道に、事故に遭ったのだという。「信じられねぇ、この前、会ったばかりだっていうのに・・」「わたしも、信じられません・・こんな・・」 千鶴はそう呟くと、痛みに顔を歪めてその場に蹲った。「おい、どうした?」 産婦人科へと運ばれた千鶴は、切迫流産しかかっていた。「総司の子、なのか?」「はい。総司さんにお腹の赤ちゃんの事を話したら、とても喜んでくれて・・」「そうか。」「わたし、これからどうすれば・・」「今は、休め。」 原田と共に千鶴の病室から出た歳三は、総司が迷子を送り届けたという交番へと向かった。「えぇ、確かにこの人が、迷子を届けに来ました。その後、あんな事故が・・」「事故を目撃されたのですね?」「はい。急に黒塗りの車があそこの坂道で急発進してこの人を撥ねた後逃げていったんだ・・」「轢き逃げ、か・・」「黒塗りの車に、こんな顔の人が乗っていたな。」 そう言った中年の巡査は、一枚の似顔絵を歳三に見せた。 そこには、総司の勤務先の大学病院の院長・山田大助が描かれていた。「一体、どういう事だ?」「総司の死は、事故じゃねぇ。あいつは、“口封じ”の為に消されたんだ。」にほんブログ村
2021年08月25日
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素材はコチラからお借りしました。 「薄桜鬼」の二次創作小説です。 制作会社様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 「ほらよ、弁当作って来てやったぜ。」 「本当に作って来てくれたのか、トシ!ありがとう!」 「そんなに喜ばなくてもいいだろうが・・」 歳三はそう言って美味そうに自分が作った弁当を頬張っている勇を少し呆れながら見ていると、そこへ八郎がやって来た。 「いいなぁ、僕もトシさんのお弁当、食べたいなぁ。」 「じゃぁ、俺の分もやろうか?」 「え、いいの!?」 「あぁ、作り過ぎたからな。」 「わぁ~い!」 「野郎の手作りなんて、貰っても嬉しくねぇだろうが・・」 「そんな事ないよ!あ、僕の松花堂弁当あげる!」 「お、おぅ・・」 「これ、毎日お昼に取るんだけれど、明日からトシさん僕にもお弁当作ってね!」 「わ、わかった・・」 こうして、歳三は八郎の分の弁当も毎日作る事になった。 「トシ、今日は早いな。」 「あぁ。ちょっと青山へ用事があるんだ。」 「そうか。気を付けて帰れよ!」 「わかったよ。」 珍しく定時で仕事を終わらせた歳三は、電車で青山へと向かった。 「高ぇな・・」 生まれて初めて高級スーパーへと足を踏み入れた歳三は、八郎の好物でクラブハウスサンドイッチを作ろうと、食料をカゴに入れていた。 「あら、誰かと思ったら土方君じゃありませんの?」 「伊東・・さん。」 「憶えてくだすって嬉しいわ。」 レジで並んでいた歳三は、そこで運悪く伊東甲子太郎と会ってしまった。 彼のカゴには、高級そうな白ワインとバゲットが入っていた。 「これからパーティーなのよ。あなたもどうかしら?」 「‥遠慮します。」 「あら、残念ね。では、ご機嫌よう。」 伊東はそう言った後、優雅に笑いながら歳三の前から去っていった。 (嫌な奴に会っちまったな・・) そう思いながら歳三が自宅マンションのエントランスに入ろうとした時、一人の女児がそこに座り込んでいた。 (誰だ、こいつ?) 歳三はその時は気にせずにエントランスで入口のロックを解除して中へ入った。 「パパ~!」 エレベーターに歳三が乗り込もうとした時、エントランスに居た筈の女児がそう叫びながら歳三に抱き着いて来た。 「は!?」 歳三はそう言ってとっさに周りを見渡したが、エレベーターには自分と女児しか乗っていなかった。 女児は小学校低学年位で、背中にはキャラクター物のリュックを背負っていた。 このまま女児を放置する訳にもいかず、歳三は一晩だけ彼女を自宅で預かる事にした。 「どうして、ここにパパが居るとわかったんだ?」 「おてがみに、ここの住所が書いてあったの!」 そう言った女児は、歳三に一枚の封筒を見せた。 そこには、確かにこのマンションの住所が書かれていた。 「あのね、おばあちゃんがね・・」 「落ち着いてくれ。まずは、お前の名前を聞こうか?」 「真下えみ、7歳!」 「えみちゃん、ママは何処にいるんだ?」 「知らない。おばあちゃんは、ママはうわきして出て行ったんだって。」 「へぇ、そうか。」 「だからね、パパに会いに来たの!」 「ふぅん・・」 女児が寝た後、歳三は彼女の父親のスマートフォンの番号にかけた。 『もしもし?』 「すいません、夜分遅くに。わたくし、警視庁の土方と申します。」 歳三が事の次第を女児の父親に説明すると、彼はこれから娘を迎えに行くと言ってくれた。 「すいません、娘がご迷惑をおかけしてしまって・・」 一時間後、玄関先でそう歳三に詫びた女児の父親は眠っている娘を抱いて部屋から出て行った。 数日後、その父親から菓子折とお礼の手紙が歳三の元に届いた。 手紙によると、女児の母親は彼女が一歳の時に育児ノイローゼとなり失踪し、それ以来男手ひとつで娘を育てているという。 「そうか、そんな事があったのかぁ。」 「片親だけで子育ては大変だな。」 「まぁ、今は色々と生き辛いからな。それよりも今日の弁当は、いつもより豪華だな?」 「昨日、青山の高級スーパーへ行って来たんだ。そしたら、伊東に会ったんだ。あいつ、“昔”と変わっていなかったぜ。」 「そ、そうか。」 「それにしても八郎の奴、遅いな。」 「今日は、お父上と会食されるそうだ。」 「そうか。」 歳三と勇が二人で昼食を取っている所、八郎は赤坂の料亭で見合いをしていた。 「申し訳ありませんが、この縁談はなかったことに・・」 「八郎、待て!」 「父さん、僕はトシさん以外の人とは結婚したくないって・・」 「目を覚ませ、八郎!」 「父さんなんて、大嫌いだ!」 八郎はその日の夜、歌舞伎町のバーで酔い潰れた。 (うるせぇな・・) 深夜二時頃、歳三は誰かがドアを激しくノックする音で目が覚めた。 にほんブログ村
2021年08月25日
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美術品を巡る詐欺師たちの物語。 最後はすっきりとした結末でいいですね。
2021年08月22日
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宮古島で民宿を営む勇吾は、YouTuberになって周囲を振り回すが、そこにはある目的があった。血が繋がっていなくても、親子の絆は確かなものなのですね。何だか、読み終わった後は青空が広がるかのような爽快感を感じました。
2021年08月22日
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「薄桜鬼」の二次創作小説です。制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。 美しい夏が来た。「ふぅ・・」「全く、こう忙しいと過労死しちまいますよ。」「そう言うな。社交期あっての俺達だろう?」「まぁ、そうですよね・・」 社交期を迎え、ユリシス達の工房は猫の手も借りたい程、忙しくなった。 そんな中、ユリシスの工房に一人の客が来た。「娘の為に新しい靴を作って欲しいんだ。」「娘さんはおいくつですか?」「実は、まだ生まれていないんだ。」「おや、それは・・」「妻とわたしが、産まれてくる子に初めての靴をプレゼントしたいんだ。」「わかりました。」 ユリシスはそう言うと、客と共に彼の妻が居る家へと向かった。「ただいま!」「お帰りなさい、あなた。」 家の奥から、産み月を迎えた客の妻がやって来た。「ソフィー、この方がわたし達の赤ちゃんの靴を作って下さる方だよ。」「まぁ、嬉しい。」「奥様、どうかおかけになってくださいませ。」 ユリシスはそう言うと、客の妻・ソフィーをソファに座らせた。「申し訳ありません、客人にお茶ひとつもお出ししないなんて・・」「いいえ。わしも年を取ってしまいましたので、今から身体を鍛えておこうと思ってのう。」「まぁ・・」 ユリシスの言葉に笑ったソフィーの顔が、痛みで大きく歪んだ。「産まれそう・・」「な、なんだって~!」「落ち着きなされ。近所の産婆を呼んできなさい。」「は、はい!」「そこの娘さん方は、清潔なシーツと温かい湯を用意するのじゃ。」「わかりました!」 ユリシスの適切な指示の下、ソフィーは元気な男児を出産した。「ありがとうございます!」「子供の足は大きくなるから、一歳の誕生日が来たら毎日こちらへはかりに伺いましょう。」「ありがとうございます、ユリシスさん。」「そなたらの子は、健やかに育つだろう。」 ユリシスがソフィー達に祝福の言葉を贈っていた頃、歳三は神学校でストラを作っていた。 ストラとは、司教、司祭、助祭が礼拝の際に使用する、首から掛ける帯の事で、形状や文様は宗派ごとに異なる。 歳三はストラの白い布地に、金糸で白百合の紋章を刺繍していた。「珍しいですね、君が王家の紋章を刺繍しているとは。何故、それを刺繍されているのですか?」「いえ、ただなんとなく・・」「そうですか。それよりも、君は毎晩遊び歩いているようだと噂に聞きましたが・・」「そんなものは、デマですよ。修練長様も、所詮人の子なのですね。」「まぁ・・」「では、俺はこれで失礼致します。」 歳三は時折自分に嫌味を言って来るアントニオを、最近適当にあしらえるようになった。「歳三様!」「おうグスタフ、朝から頼みごとをして済まなかったな。」「いいえ。」 グスタフは人気がない歳三の自室で、ユリウスの事件の詳細を彼に報告した。「どうやらユリウス様の事件は、ある人物が関わっているようなのです。」「ある人物?」「えぇ・・」 グスタフは、歳三の耳元でその人物の名を囁いた。「それは、確かなのか?」「はい。」「色々と、調べる事があるな。」「ええ。それよりも、ヨハネス様がお呼びですよ。」「わかった。」 歳三がヨハネスの書斎へと向かうと、ガブリエルと廊下で擦れ違った。 彼は、何処か暗い表情を浮かべていた。 (何だ?)「ヨハネス様、歳三です。」「歳三か、入れ。」「失礼致します。」 歳三がヨハネスの書斎に入ると、彼は歳三に一枚の書類を見せた。「これは?」「お前の配属先が決まったぞ。お前は来月から、宮廷付司祭として働く事になったぞ!」「それは・・」「もう決まった事なのですか?」「あぁ。」「ありがとうございます。」「お前なら、向こうでもやっていけるだろう。」(あの魔物がはびこる王宮でも、な・・)「よろしかったのですか?」「何がだ?」「あの者を、王宮へ配属させるなど・・正気の沙汰ではありませんよ。」 ガブリエルはそう言うと、ヨハネスを見た。「王妃様たっての願いなのだ。」「あそこは、生き馬の目を抜くような、欲に塗れた所ですよ。そのような所に・・」「あの者ならば、大丈夫だろう。」「随分と無責任な事をおっしゃるのですね。」「わたしは彼の親でも何でもない、無責任で結構。」「あなた様という方は・・」「ガブリエルよ、わたしの守護天使・・いつまでもわたしの傍に居ておくれ。」「えぇ、わかっておりますよ・・父上。」 一月後、歳三は長く暮らしていた神学校を離れ、王宮に隣接している修道院に移り住んだ。「あなたが、土方さんですね?はじめまして、わたしはロキ、ここではあなたと同じ司祭となりますね。」 修道院で、そう歳三に話し掛けて来たのは、薄紅色の髪をした若い司祭だった。「ど、どうも・・」「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいのですよ。」(何か、変な人に絡まれたなぁ・・)「トシ、さっそくだが君に聖体拝領式に参列して貰う。」「はい・・」「王族の方々も参列するから、失礼のないようにな。」 宮廷付司祭として、歳三は聖体拝領式に参列した。「きゃ~」「あの司祭様、すてき~!」 歳三が他の司祭達と共に聖堂の中へと入ると、参列していた女性達の間から黄色い悲鳴が上がった。(何だ?) 歳三が彼女達に微笑むと、彼女達は悲鳴を上げながら次々と倒れていった。「トシ、少しいいかな?」「はい・・」「君は神に仕える身だ。故に、異性を惑わせてはなりませんよ。」「はい・・」「わかればよろしい。」 主任司教・ヨーゼフは、四角四面な男だった。 ヨハネスとは全く違った性格で、“厄介な奴に絡まれたな”と歳三は思ってしまった。 その日の夜、歳三はこっそりと修道院のベッドを抜け出して、王宮へと向かった。 (確か、宝物庫は・・)「おい貴様、こんな所で何をしている!?」「申し訳ありません・・わたくし、こちらで働き始めたばかりなので、宝物庫への道がわからなくて・・」「そうか、俺が案内してやろう。」 そう言った兵士は、歳三の尻をさり気なく触ろうとしたが、その前に一本の矢が兵士の顔の近くにあった木に刺さった。「あらぁ、ごめんなさい。新しい弓の試し撃ちをしようとしたら、手元が狂ってしまったみたい。」 夜風に美しいハニーブロンドの髪をなびかせながら歳三達の前に現れたのは、男装の王女・フェリシティだった。「ひ、ひぃぃ~!」「あなた、こちらにいらっしゃい。」「は、はい・・」 フェリシティと共に歳三が向かったのは、リリアの部屋だった。「リリア、あなたの女神様を連れて来たわよ。」「わぁ~い!」(こいつ、あの時俺を追い回していたガキ・・)「あなた、お名前は?」「ヴァイオレット、と申します・・」 ひょんなことから歳三は、“夜限定”のメイドとして王宮で働く事になった。にほんブログ村
2021年08月22日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。一部残酷描写があります、苦手な方はご注意ください。 その人物とは、枡屋喜右衛門―攘夷派志士・古高俊太郎だった。「まだ吐かねぇのか?」「はい・・」「“例の物”は、用意して来たか?」「はい、こちらに。」 山崎がそう言って歳三に手渡したのは、五寸釘と百目蝋燭だった。 二階から逆さ吊りにされた古高は、貫通した足裏に百目蝋燭を立てられ、火をつけられたことにより、長州の過激派浪士達が御所に火を放ち、帝を萩へ連れ去ろうとしている計画を自白した。「どうする、近藤さん?このまま会津と桑名からの連絡を待っていたら、何も出来ねぇぜ?」「そうだな・・」 勇はそう言って唸ると、隊士達に向かってこう言った。「我々はこれから、二手に分かれ、浪士達の捜索を行う!」「おう!」 こうして、新選組の長い夜が始まった。「皆さん、大丈夫でしょうか?」「大丈夫ですよ。わたし達は、わたし達の仕事をしましょう。」「はい・・」 千鶴と火月は、屯所で病人の看病をしながら勇達が慌しく動いている姿を見ると、彼女達の元へ山崎がやって来た。「山南さん、居ますか!?」「山崎君、どうかなさったのですか?」「伝令を土方隊に届けたいのですが、誰か一緒に行ってくれる者は居ませんか?」「わたしは左腕を怪我して動けません。」「千鶴さん、山崎さんと一緒に行ってあげて下さい。」「でも・・」「僕は、有匡様を信じていますから。」「・・わかりました。」 山崎と共に屯所から出て、四国屋へと向かった千鶴は、息を切らしながら歳三達にこう言った。「伝令―本命は、池田屋!」 一方、池田屋では既に近藤隊と浪士達の戦闘が始まっていた。「ったく、折角話がまとまろうとしていたところだっていうのによぉ。俺はもうずらかるぜ。」「好きにしろ。」「それでは、わたし達もここから立ち去りましょうか。」「そうだな・・」 二階に居た二匹の鬼―天霧と風間がそんな事を言っていた時、部屋の襖が勢い良く開かれ、総司と平助が中に入って来た。「わたし達は、あなた方と争うつもりはありません。」「お前ら、長州の奴らだろ!だったら逃がす訳にはいかねぇんだよ!」 平助がそう叫んで天霧に突進すると、彼は天霧に額を殴られ額を負傷した。「平助!」「この状況で余所見とは、随分と余裕だな?」 風間は鼻を鳴らすと、総司を睨みつけた。「雪村君、来たのか!」「土方さんに、本命は池田屋だと伝えました!すぐに来てくれる筈です!」「そうか、ありがとう!」 千鶴がふと二階の方を見た時、奥から綱道と思しき男の姿を見かけた。「父様!」「待て、雪村君!二階は危険だ!」 男の声も聞かず、千鶴が二階へと上がると、奥の部屋から総司と風間の刃がぶつかり合う音が聞こえて来た。「沖田さん!」「千鶴ちゃん、どうして・・」「人間如きが、この俺を侮るとは、良い度胸だ!」 風間の刃を受け止め、総司は彼に向かって突きを繰り出そうとしたが、彼は突然激しく咳込むと、その場に蹲った。「沖田さん!」「そこを退け。」「やめて下さい!」「ほぉ・・」 風間は自分の前に立ち塞がり、総司を守ろうとする千鶴を見つめた。「貴様、名を何という?」「え?」「・・どうやら、お前はまだ己の“力”を知らぬらしいな?」 風間はそう言うと、己の“気”を千鶴に放った。 部屋は蒼い焔に包まれ、千鶴は己の髪が徐々に銀色へと変わってゆくのを感じた。(何、これ・・)「やはり、な。」 呆然とする千鶴を前に、風間は満足そうに笑った。「女鬼は貴重だ、我が元へ来い。」「千鶴!」 階段を駆け上がる音が聞こえ、歳三が部屋に入って来た。「千鶴、無事か!?」「はい・・でも、沖田さんが・・」「興が削がれた。女鬼よ、また会おう。その時は、お前を我妻として貰い受ける。」「てめぇ、待ちやがれ!」 歳三が風間にそう叫んで刃を向けようとしたが、その刃が届く前に彼はまるで煙のように消えていった。「一体、あいつは何者なんだ?」 その日、新選組は長州派の過激派浪士を捕縛した。 この事件は、“池田屋事件”と呼ばれた。「おのれ、新選組め!」「このままでは、済まさんぞ!」“池田屋事件”から一月後、“禁門の変”が起きた。「見ろ、京が燃えているぞ!」「何という事だ・・」 蛤御門で会津は長州と戦い、一時劣勢となったが、薩摩の援軍によって長州藩は蹴散らされた。 そして、久坂玄瑞をはじめとする志士達が堺町御門前鷹司邸にて自害。 それにより、残党を炙り出す為、鷹司邸に会津藩が火を放った。 強風でその炎は、洛中を包んだ。「ひでぇ・・一面、焼け野原だ。」「そっちに怪我人が居ねぇかどうか、調べてくれ!」「わかりました。」 有匡が他の隊士として会津藩士達と共に生存者や怪我人の捜索に当たっていると、何処からともなく飛んで来た石が、有匡の頬を打った。「会津は鬼や!」「鬼は出て行け!」 石を投げたのは、親を亡くした子供達だった。にほんブログ村
2021年08月21日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。一部残酷描写があります、苦手な方はご注意ください。「貴殿は・・」「わたしを忘れてしまったのですか?」 男はそう言うと、寂しそうな笑みを浮かべた後、店から出て行った。(何だったんだ?) 有匡が火月の為に選んだ簪は、美しい銀細工の物で簪の先には鼈甲の小花がついていた。「おぅ、お前ぇもここに居たのか?」「土方さん。」 いつも京では、“鬼の副長”と呼ばれて恐れられている歳三が、やけに真剣な目で簪や結紐を選んでいる姿を見た有匡は、思わず笑いを噛み殺した。「何だ、そんなにおかしいのか?」「いえ、珍しいなと思いまして。」「俺はいつも怒っている訳じゃねぇ。色々と怒る事が多かっただけだ。」「そうですか。あの、その結紐はもしかして千鶴殿に?」「まぁな。あいつには、娘らしい格好をさせてやれねぇから、せめてな・・」「きっと、喜ばれると思いますよ。」「そうか・・」 店から出た二人は、その足で歳三の実家へと向かった。「トシ、久しぶり!あら、そちらの方は?」「お初にお目にかかります。土御門有匡と申します。」「姉貴、こいつには嫁さんが居るんだ、変な気を起こすなよ!」「やぁね、そんな気ないわよ!」 土方家の宴会は、賑やかだった。「賑やかな家で羨ましいですね。」「うるさいだけだ。俺は十人兄弟の末っ子で、父親は俺が産まれる前に、母親は五つの時に労咳で亡くなった。さっきあんたに絡んで来たのが、俺の母親がわりの姉貴だ。」「そうですか。わたしには、少し年の離れた妹がおりましてね・・余り、仲が良くないのですよ。」「まぁ、色々あるさ。」 歳三と有匡が日野で酒を酌み交わしている頃、京では火月と千鶴が、茶を飲みながら互いの身上話をしていた。「へぇ、許婚同士だったのですか?」「えぇ。有匡様・・旦那様とは幼い頃からの知り合いでした。」「そのお話、詳しくお聞かせ願えませんか?」「はい。」 火月は千鶴に、有匡と初めて会った時の事を話し始めた。 その時、火月は家族と共に花見に来ていた。「うわぁ、綺麗!」「火月、余り遠くに行ってはなりませんよ。」「わかった!」 そう言いながらも火月は、風に舞う桜の花弁を追いかけている内に、家族とはぐれてしまった。「父様、母様、どこ~!?」 泣きべそをかきながら火月が必死に華族を捜していると、そこへ一人の少年がやって来た。「どうした、迷子か?」「うん・・」「お前、名前は?」「火月・・」「そうか。じゃぁ、僕と一緒に家族を捜そう!」「うん・・」 こうして火月は、有匡のお陰で家族と再会できた。「その時はまだ、お互いの事を知らなかったんです。でも、また有匡様と僕が出会えたのは、僕が薙刀の出稽古へ向かった道場なんです。」「火月さんは、薙刀をおやりになられるのですか?」「はい。父が常々、“女子だろうと己の身を守る術を持たねばならぬ”と言っていましたから・・千鶴さんは何か武術を嗜んでいらっしゃいますか?」「わたしは、小太刀を少し・・と言っても、火月さんと違って余り強くありませんが・・」「そういえば、千鶴さんのお父様は蘭方医ですよね?僕の兄も、蘭方医のお弟子さんをしているんですよ。」「もしかして、火月さんのお兄様は高原静馬様ですか?」「えぇ。兄を、ご存知なのですか?」「はい。江戸に居た頃、父の診療所を手伝って下さっていました。」「まぁ、そうでしたか・・」「僕達、何かとご縁がありそうですね。」「そうですね。」 江戸から戻った歳三は、千鶴を副長室へと呼び出した。「あの、わたしに渡したい物って・・」「これだ。」 歳三はそう言うと、千鶴の掌の上に紅い結紐を載せた。「昔、奉公していた呉服屋で買って来た。」「これを、わたしに?」「見りゃわかんだろうが。要らねぇんならいい。」「ありがとうございます、大切にします!」「そ、そうか・・」 歳三はそう言うと、照れ臭そうな顔をした後、少し困ったように頭を掻いた。 1864(元治元)年、六月。 京の夏は、江戸のそれとは違い、うだるような暑さだった。 千鶴と火月は、食あたりで倒れた隊士達の看病をしていた。 同じ頃、歳三は蔵である人物を尋問していた。にほんブログ村
2021年08月21日
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画像はコチラからお借りいたしました。「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。一部残酷描写があります、苦手な方はご注意ください。「わたしを、斬るつもりですか?」「山南さん、あなたは変わりましたね。」「人は、変わるものですよ。」「わたしの血で良ければ、いくらでもあなたに差し上げましょう。ですが、妻は傷つけてないで下さい。」「わかりました。」 山南はそう言うと、有匡が指先を傷つけ、それを硝子壜の中に注ぐのを黙って見ていた。「ありがとうございます。」「また、わたしの血が必要だと思ったら言いに来てください。」 有匡はそう言うと、山南の部屋から出た。「有匡様、山南さんと何の話をしていたのですか?」「男同士の話だ。それよりも、千鶴殿は?」「彼女でしたら、庭で洗濯物を干していますよ。」「そうか。」 有匡が中庭へと向かうと、そこには大量の洗濯物を干そうとしている千鶴の姿があった。「手伝おう。」「そんな・・」「二人でやった方がいい。」「ありがとうございます。」「ここでの生活にはもう慣れたか?」「いいえ・・」「それはそうだろう。あんな目に遭った上で、男所帯に女一人に放り込まれたのだから、慣れも何もないだろう。」「えぇ。あの、土御門様は・・」「“様”づけはいらない。」「じゃぁ、どうお呼びすれば・・」「“土御門さん”でいい。」「母を捜しに。」「会えたのですか?」「一瞬だが、会えたよ。今までわたしは母を憎んで来たが、彼女にも事情があると思ったら、憎しみが消えた。親が、己の分身である子を好き勝手に捨てる訳ではない。きっと君の父上も、事情があったのだろう。」 有匡がそう言って千鶴を励ましている姿を、副長室の窓から見ていた。「トシ、雪村君の事が気になるのか?」「いや、別に。」「それにしても、土御門君は頼りになるなぁ。剣の腕もそうだが、隊士達の指導も上手い。」「土御門家から連絡は?」「ない。それにしても、土御門家が長州と繋がっているという噂は本当なのか?」「それを今、監察方に探って貰っている。」「そうか。」「トシ、顔色が悪いぞ?少し働き過ぎじゃないのか?」「大丈夫だ。」「山南さんの怪我さえなければ、少しはトシの負担が減るんだがな。」「そんな事を言うな。山南さんが、一番思い詰めているんだよ。」「そうだな・・」 二人のやり取りを、山南は密かに聞いていた。「ほぉ、面白くなって来たな。」「あの時、山南総長を襲っておいて良かったですね。」「狙いは土方だったが、まぁいい。」「これからどうなさるおつもりで?」「それはまだ話せん。」 男はそう言うと、自分の飯代だけを払って店から出て行った。「お前の主は、お前をこき使っている癖に、ケチなのだな。」「あ、有匡様・・」「さて、今後の事を話そうか?」「お許しください、わたしは・・」「黙れ。」 有匡はそう言うと、蒼褪めている蛍を屯所まで引き摺った。「豊川蛍、切腹を申しつける。」「介錯はわたしが致しましょう。」「そんな・・」 蛍は縋るような目で有匡の方を見たが、彼は冷たく蛍を見下ろすだけだった。 蛍の切腹は、翌朝早くに行われた。 有匡は蛍の切腹が終わった後、その足で土御門家へと向かった。「貴様、一体何をしに来た!?」「これから江戸へ発つので、あなた方に土産を渡そうと思いまして。」「土産だと?」 茶菓子を美味そうに頬張っている匡俊の膝上に、有匡は塩漬けにした蛍の首を放り投げた。 匡俊は悲鳴を上げ、その場に居た者達は悲鳴を上げたり嘔吐したりしていた。「あないな事をしたらあきまへんえ。」「申し訳ありません、叔母上。」「蛍はこちらでちゃんと弔いますさかい、もう行きなされ。」「はい。」 福子に向かって深々と一礼した有匡は、土御門家を後にした。「有匡、久しいな。」「父上、ご無沙汰しております。」「スウリヤには、会えたのか?」「はい、一瞬でしたが。」「そうか・・」 それ以上、有仁と有匡は言葉を交わさなかったが、それだけでも彼らの間には通じるものがあった。「火月を京に残しておいて大丈夫なのか?」「えぇ。」「色々と向こうではあるだろうが、余り無理をするなよ。」「はい。」 こうして、父子二人水入らずの時が、穏やかに過ぎていった。「おや有匡殿、久しいですね。」 火月への土産に簪を有匡が選んでいると、そこへ一人の男がやって来た。にほんブログ村
2021年08月21日
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AIが進歩しつつある社会。34歳のベンは、両親が遺した家で家事をするわけでもなく、毎日ぼーっとしているダメ夫。そんな彼に弁護士としてバリバリ働くエイミーとの関係に亀裂が入るのは当たり前ですね。なんというか、タングの持ち主探しの旅にでてベンが成長しつつあるのがわかるし、娘・ボニー誕生のシーンで一旦ハッピーエンドになりましたが、これからベンはエイミーと ボニー、そしてタングとどのような家庭を築くのか、シリーズ2巻目以降を今から読むのが楽しみです。
2021年08月18日
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「友達100人出来るかな」、「みんな仲良く」―幼稚園からそういう事を教えられてきて、何だか気が合わない人とも仲良くしなければ、という呪縛にいつしか縛られている―これは、そんな呪縛から解放される本でした。「他者に見返りを求めない」―それが一番大事ですね。見返りを求めようとすると、人間ってマイナスの感情ばかり生みますから。目から鱗が落ちるかのような、人間関係のモヤモヤをすっきりさせるような本でした。
2021年08月18日
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五年前に殺した筈の夫が帰ってきたー真相は意外な結末でしたが、ミステリーとしては読み応えがありました。
2021年08月17日
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「8050」ー引きこもりの子供が50代となり、その子供を支える親が80代となり、孤独死か共倒れという社会問題のこと。歯科医の大澤には、妻と聡明な娘・由依、そして中学から引きこもっている息子・翔太。引きこもりの原因が中学時代のいじめ。裁判の結末は納得のいくものでしたが、加害者は品性下劣なバカ。翔太が未来に向かって前進していこうとしているラストシーンは良かったのですが、由依の物語も読んでみたいなと思ってしまいました。引きこもりの問題は、その背景に本人ですら気づかない発達障害や精神疾患などを抱えていたりと、複雑な事情を抱えている所も多いかもしれません。根が深い問題で、解決するには難しいものです。しかし、引きこもる人を責めたり、一度ドロップアウトした人間を見捨てないような社会になって欲しいものです。
2021年08月17日
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「薄桜鬼」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。 作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。 捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。 作中に登場する「武蔵山」は架空の山です。 「パパの名前は、内藤隼人といいます。」 「行方不明になったのは、いつから?」 「半年前です。パパは、山岳ガイドとして武蔵山へ登山をしていました。でも・・」 女児は思い出したくないというように、唇を噛んだ。 「嫌な事は思い出さなくていい。誰にだって話したくない事や思い出したくない事のひとつやふたつ、あるからな。」 「すいません・・」 「ねぇ、ここまで一人で来たの?お母さんは?」 「ママは先月、病気で死にました。ママ、最期までママに会いたいって・・」 「そうなの。でもどうして、お父さんを捜そうと思ったの?」 「それは・・」 女児は、また唇を噛んだ。 どうやら、何も言いたくない事がある時に、彼女は無意識にそう言う事をしているらしい。 とりあえず彼女は毛利家に一泊させてから、小五郎はこの依頼を引き受けるかどうか考えると言って事務所から出ていった。 (武蔵山って、半年前確か遭難事故があった筈・・) コナンはそう思いながら、スマホでその遭難事故の事を調べた。 事故は、昨年の十二月に起きた。 東京の旅行会社の社員十人が、その会社の恒例行事である“年越し登山”の為に武蔵山へと向かった。 武蔵山は、標高二千五百六十八メートルとそんなに高くはなかったが、事故当日は天気は快晴で何の問題もなかった。 しかし問題が起きたのは、最終日だった。 今まで好天に恵まれていたが、一行が下山する際、武蔵山は強風と雨に見舞われた。 山岳ガイドで何度も武蔵山を経験していた隼人は、下山を延期するように言ったが、十名の登山客達は下山を強行、強風と雨が吹き荒れる中、十名の内五名の登山客達が低体温症に罹り、凍死。 事故の調査で、事故原因は登山客達の無謀な計画、隼人以外のガイドの経験不足など、幾つもの“無計画”な部分が重なったものであったと、地元警察は発表した。 「これは、明らかに登山客側の準備不足ね。」 「そうだな。大体、この登山には、無理がある。昨年の十二月は大荒れの天気だったし、事故が発生してしかるべきなのに、何で強行したんだか・・」 “ポアロ”でアイスコーヒーを飲みながら、コナンと哀は遭難事故について話し合っていた。 「噂によると、その会社は、営業成績が悪い社員たちの精神を鍛える為にあの山を登らせていたそうだよ。」 「安室さん、どうしてそんな事を知っているの?」 「色々と、知り合いにね。それよりも、今週末みんなで武蔵山へ行かないかい?」 「いいけど・・安室さん、“お仕事”はどうするの?」 「何とかするさ。」 数日後、コナン達は登山用品専門店に来ていた。 「こんなもんまであるのか・・」 「山では何か起こるかわかりませんから、多めに買っておきましょう。」 零はそう言うと、カゴの中にチョコレートバーを五袋分入れた。 「さてと、一通りに買い物を済ませましたし、食事をしましょうか?」 零がそう言ってコナン達を連れて行ったのは、駅前のファーストフード店だった。 「おい、箸はねぇのか?」 「そんなものはありませんよ。」 「土方さん、ハンバーガー食べるの初めてなの?」 「あぁ。」 「はじめは慣れませんが、これから慣れていきますよ。」 「そ、そうか?」 「えぇ。」 「手掴みで食べる物なんて、握り飯位だったからな。」 やはり、この時代で生きてゆくのは大変そうだ―歳三はそう思いながら、生まれて初めてハンバーガーを食べた。 「うわぁ~、空気が澄んで綺麗~!」 「東京と違って、ここは寒いですからね。」 週末、コナン達は女児―内藤桜の依頼を受け、失踪した彼女の父親を捜しに武蔵山に来ていた。 武蔵山は、福島と山形両県に跨る山で、四季折々の美しさを見せる事で、近年中高年を中心にツアー登山が盛んになっている。 しかしそれと比例して、遭難事故が多発していた。 「あんたら、初めて来なすったのかい?」 「はい、人を捜しに。」 「あんた、生きとったのか!?」 コナン達が登山口の近くにある山小屋で彼らが早めの昼食を取っていると、彼らにコーヒーを運んで来た管理人が歳三の顔を見た後、素っ頓狂な叫び声を上げた。 「どうしたの、おじさん?」 「いやすまん・・半年前、ここで見かけた人と瓜二つの顔をしていたから・・」 「もしかして、ここで見かけたのは、この人でしたか?」 零はそう言うと、隼人の写真を見せた。 「そう、この人だ!十人位のお客さん連れてたなぁ。そのお客さん達、ここに登る前からかなり疲れていたよ。」 「へぇ・・詳しい事、お聞かせ願えませんかねぇ?」 零は管理人にさり気なく警察手帳を見せて、半年前ここで彼が見聞きしたことを聞き出した。 「あの人達、“昨夜も徹夜した”、“クビになりたくない”ってこぼしていたよ。ガイドの人はさぁ、“皆さんの体調が万全でないのなら、中止しましょう”って、何度も中止を勧めたんだよ、でもなぁ・・」 「そういえば、この山は最近遭難事故が多発していると聞きましたが・・」 「あぁ、遭難した方はみんな県外の方ですよ。軽い散歩気分で来る人が多くてね、極端な人だとTシャツとジーパン姿の人が登りに来てさぁ、怒鳴って追い返してやったよ、“山をなめるな!”ってね。」 「“山には魔物が棲んでいる”っていいますよね。天候が悪化してもしなくても、完璧な装備と計画をしていなければ自然の脅威にさらされる、でしたっけ?」 「お兄さん、話がわかるねぇ。はい、これうちからのサービス。鮭とおかかの具入りの御握り。山頂で食べて。」 「ありがとうございます。」 山小屋を出ると、零は何かを考えこんでいるようだった。 「安室さん、何かわかったような顔をしているね?」 「鋭いね。コナン君、今回の遭難事故は、事故に見せかけた殺人だと思っているんだ。その証拠に、先程山小屋の主人からお握りと一緒にこんな物を貰ったんだ。」 そう言って零がコナンに見せたのは、A5サイズの大学ノートだった。 「それ、何?」 「管理人さんによると、あの事故の生存者が山小屋に忘れた物だそうだよ。」 「へぇ・・」 コナンがそのノートの中身を見ると、そこには日常、主に職場の愚痴などが書かれてあった。 “また残業。このままだと社長に殺されるかもしれない。” “ヤバい、あいつに全て見られた。消さないと。” “これから・・” ノートは、そこで終わっていた。 「このノート、誰が書いていたんだろう?」 「さぁね。でも、ノートのイニシャルには、“T.K”とある。そのイニシャルに該当する人物は、一人居る。」 「え・・」 「コナン君、もしかして僕達は隼人さんについて、最悪の真実を考えなければならないかもね。」 「それって、隼人さんはもう・・」 その時、向こうから大きな音がした。 「おい、あっちで何か音がしたぞ!」 「行ってみよう!」 コナン達が、音がした方へと向かうと、そこには一人の男が槍のようなものを数人の男達に向けていた。 男の髪はボサボサで、全身泥だらけで悪臭にまみれていたが、彼の目には強い光が宿っていた。 その男と対峙するかのように立っている数人の男達の顔に、コナンは何処か見覚えがあった。 「お願いだから、許してくれ!」 「許せ、だと?半年前だけじゃねぇ、今までこの山で人を殺しておいて良く言うぜ!」 「ひぃぃ~!」 (あの人達、半年前の事故の生存者達だ!じゃぁ、槍みたいなものを持っている人は、まさか・・) 「これ以上、山を汚すのは許さねぇ!お前達に裁きを下してやる!」 「待って、内藤隼人さん!」 「てめぇ、何で俺の名前を・・」 「あなたの娘さんがあなたの帰りを待っているんだ!」 「桜が・・もしそうだとしても、俺ぁもうあいつとは暮らせねぇ。」 「馬鹿野郎、てめぇにはてめぇの帰りを待っている家族が居るだろうが!娘を独りにさせる気か!」 そう男に怒鳴って彼の顔を拳で殴ったのは、歳三だった。 「お前ぇは・・」 男―隼人は、驚愕の表情を浮かべながら自分と瓜二つの顔をした歳三を見た。 その後、下山したコナン達は、あの事故の真相を隼人と生存者達から聞いた。 「あの登山は、毎年営業成績が悪い社員を十名選んで、ロクな装備を持たせずに悪天候の中でもさせるんだ・・“お荷物”を処分する為に。」 「会社は、社長の独裁経営で、社員は連日残業が当たり前。休職して、いつの間にか会社から居なくなった人も何人か居て・・」 「要は、この山で会社から“捨てられた”んですよ。」 「てめぇらより、その会社とやらが腐っていやがるから、山が汚されているんだろうが。頭が腐っていやがるから、何もかもおかしくなるんだ。そんな腐りきった所なんか捨てちまえ。人を殺すような所は勝手になくなるさ。いつまでも沈みかかっている船にしがみつくつもりだ?」 歳三の言葉を聞いた生存者達は、何処か憑き物が落ちたかのような顔をしていた。 後日、彼らは会社を退職後、それぞれ新しい職場で活き活きと働いているという。 彼らに登山を強制していた旅行会社は、労働基準監督署と税務署からそれぞれ脱税と社員に対する過重労働を告発され、更に警察から社員に対する暴力行為などを告発された結果、廃業に追い込まれた。 「“天網恢恢疎にして漏らさず”とは、まさにこの事だな。」 「えぇ。そうだ、内藤さん達から写真とお手紙が届きましたよ。お二人共、今は長野にある内藤さんのご実家が経営されている旅館を手伝っているようですよ。」 そう言って零が歳三達に見せたのは、笑顔を浮かべている隼人と桜の写真だった。 「良かったですね。」 「あぁ。もしあの時の子が産まれてりゃ、桜ちゃんと同じ年になっていたろうな。」 「お子さんが居たのですか?」 「いや、千鶴が俺と夫婦になってから、三月経った頃にあいつは俺の子を身籠った。俺達は、桜が咲く頃に“親”になる筈だった。だが、そんな時に村で疫病が流行って、千鶴も疫病に罹って、腹の子と一緒に死んぢまった。」 「そうですか・・それで、自殺を・・」 「愛していたんですね、奥様の事を。」 「あぁ、今は夢ん中でしか会えねぇがな・・」 歳三はそう言って寂しそうに笑った後、皿を洗い始めた。 「いらっしゃいませ~!」 「あの、ここに安室透さんという方はいらっしゃいますか?頼みたい事が、あるのですが・・」 店のドアベルが鳴り、一人の女性が店に入って来た。 「千鶴・・!?」 その女性は、歳三の亡き妻・千鶴の生き写しかと思う程、彼女と瓜二つの顔をしていた。 にほんブログ村
2021年08月17日
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性同一性障害、半陰陽ージェンダーに対して読者のわたしたちに問いかける作品。 昨今、「ジェンダーフリー」という言葉ー性にとらわれない意識を変えていこうという動きが盛んになっています。 学校制服も、性別固定でスラックスは男、スカートは女という概念をなくし、選択制となった学校が増えているとか。 しかし、日本はジェンダーギャップが世界で120位という、未だに現実は厳しいもの。 わたしが尊敬する美輪明宏さんは、こうおっしゃっていました。 「男や女、妻、嫁、娘、母など、そのようなものは一種の記号に過ぎません。同じ人間、それだけでいいのです。」 男女差は勿論ありますが、全て同じにしろ!という極端なことは望みません。 男のくせに、女のくせに、という言葉がいつかなくなればいいと思いながらこの作品を読み終えました。
2021年08月14日
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罪を犯したら、本人は勿論ですがその家族まで迫害される。 「一族郎党」皆殺しーそれは昔からある日本社会に於ける刑罰の仕方です。 強盗殺人犯の兄がいるせいで、進学・就職・結婚など、人生の分岐点でありとあらゆる差別を受ける主人公。 兄が身勝手過ぎて…肉体労働が出来ないから強盗しようという短絡的思考が許せない。 生活保護を申請するなり、弟に相談するなりすれば防げた犯行だったのに。 主人公の弟が可哀想だし、その娘にまで差別が及ぶとは考えられなかったのだろうか。 しかし、この作品の時代背景を鑑みると、昨今のようにネットやSNSが普及していれば、全て暴かれてしまいますから、作中に描かれている差別は少しましな方なのでしょう。 主人公の就職先である家電量販店の社長の言葉が重いです。 ラストまで後40ページくらいまでが読み応えがあり、救いのある結末というか重いものがあります。 東野圭吾=ミステリーと思われがちですが、硬派な社会派作品となっています。 多くの人に読まれてほしい名作です。
2021年08月13日
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端的に言いますと、自衛のためです。pixivやブログ、ツィッターのプロフィール欄は、いわば就職活動の時に書く自己PRのようなものと同じです。自分がどんな作品が好きか、どんな作品を主に書いたりするかをPRする場だと思います。ネットという不特定多数の人間が入り乱れる世界に於いて、自分がどういう人間であるのかを簡潔にまとめてわかりやすく書く作業は難しいものです。そうすると、数行では足りなくなるのです。わたしの支部のプロフィール欄には、自分の取り扱い作品のジャンルなどを説明しています。作品の注意書きについてですが、「自分の萌えは他人の地雷」という言葉があるように、以下のトラブルを回避するために長く書きます。・作品の解釈違い、または作品に対する価値観の違い・自分の嗜好と、他人の嗜好の不一致自分が好きな作品の二次小説を書くにしても、他人がそれを好きなのかどうかがわからないし、注意書きも何もなかったら回避できない。だから、いつも作品の注意書きには、「何でも許せる方のみお読みください」という一文を必ず添えています。二次創作の世界に於いて、「嫌なものは見るな」というのは鉄則、暗黙の掟だと思っています。それでもあえて嫌なものを見るのは、書店で買って読み終わった本が自分の好みではないという理由で返品しに行くのと同じ事です。自衛はわたし達が二次創作という世界を楽しく活動するためのルールです。「あ、これ駄目だな・・」と思った瞬間に離れる、そのワードを検索しない事が一番大事です。長々とここまで書きましたが、いち腐女子ヲタク物書きとしての意見を綴ってみました。
2021年08月11日
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「薄桜鬼」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。 作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。 捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。 癖のある茶色の髪に、翡翠の瞳―その客の容姿を、歳三は何処かで見たような気がしてならなかった。 すると、その客が歳三を見た。 「トシさ~ん!」 客はそう叫ぶと、歳三に抱きついた。 「会いたかった、トシさん!」 「お前ぇ、八郎か?」 「そうだよ、トシさん!」 謎の客―伊庭八郎は嬉し涙を流し、暫く歳三から離れようとしなかった。 「何で、お前ぇまでこの町に居るんだ?」 「それは、ヒミツ!ねぇトシさん、ここで働いても良い?」 「それはマスターに聞かねぇとな。」 「え~!」 「あれ、あなたは・・」 「安室さん、お久しぶりです!」 「二人共、お知り合いなんですか?」 「えぇ。この前、商店街のスーパーでウロウロと沢庵の前を行ったり来たりしているのを見て、声を掛けたら、何処にも行く当てがないと言うから、伊庭さんとルームシェアをしているんですよ。」 「へぇ、そうなのか。」 「僕は家を空ける事が多いから、愛犬の世話をしてくれるから、助かっているよ。」 「いやぁ、助かっているのは僕の方ですよ。最近身体を動かしていないから、ハロ君の散歩は良い運動になります。」 そんな話をしている八郎と安室は、わきあいあいとした様子だった。 「ところで土方さん、新しい下宿人の事でお困りのようですね。」 「あれは、タダ飯喰らいの居候です。いつも俺が掃除した端から汚す、洗った食器は片づけない、洗濯物は干さない、脱いだからその場に置きっ放し・・もうそいつの全てにイライラしているんです!」 「ほぉ、そうなんですか。じゃぁ、“何もしない”のが一番です。」 「“何もしない”?」 「えぇ。あなたがその人の分まで家事をしているから、あんたに甘えて何もしないんですよ。だから、何もしない方がいいですよ。所謂放置プレイってやつですかねぇ?」 「成程―」 零からそんなアドバイスを受け、その日から歳三は一切千景の身の回りの世話をしなくなった。 「おい、俺の飯はどうした?」 「んなもん、自分で作れ。」 「貴様、俺のシャツに火熨斗(アイロン)をかけておらぬではないか!」 「自分でかけろ。」 「シャツのボタンが取れた、つけてくれ。」 「自分でつけろ。」 歳三が自分の身の回りの世話をしなくなり、千景はいつしか家事をするようになった。 「どうですか、例の下宿人さんは?」 「効果てきめんでしたよ。やっぱり、男は甘やかすとロクな事になりませんね。」 「そうですね。」 「耳が痛てぇ話だな。」 小五郎がそんな事を呟きながらコーヒーを飲んでいると、そこへ千景が入って来た。 「歳三、買い出しに行って来たぞ。」 「ありがとう。え~と、全部揃っているな。おい待て、これは何だ?」 歳三がそう言ってエコバックから取り出したのは、スナック菓子の袋だった。 「小腹が減って・・」 「レシート見せろ!」 それから小一時間、千景は歳三から説教を受けていた。 「何か、可哀想になって来たね・・」 「うん、そうだな。」 「安室さん、助けなくていいんですか?」 「いいんですよ、彼にとって良い薬にもなりますし。」 零は、そう言って笑った。 数日後、千景は自然と家事をするようになった。 「どうでしたか?」 「やっぱり、あいつを甘やかしてはいけませんね。ちょっと、俺が一日家を留守にしたら、部屋を散らかして・・」 「まぁ、家事は一日にして成らず、ですからね。根気よくやっていきましょう。」 「はい。」 零と歳三がそんな話をしていると、八郎が出勤してきた。 「おはようございます!」 「おはよう。」 「毎朝僕の代わりにハロの散歩をして貰ってありがとうございます。」 「いえいえ。それよりも、これ後で皆さんと頂いて下さい。」 「ありがとうございます。」 八郎がそう言って歳三達に配ったのは、彼の手作りのクッキーだった。 「うわぁ、美味しそう!」 「初めて作ったので、味は保証できませんが。」 「それでもすごいです!」 「何だ、随分と今日は賑やかだな?」 「あ、風間さんもおひとつどうぞ。伊庭さんが作ってくれたクッキーですよ。」 「フン、食ってやろう。」 千景はそう言ってクッキーを一個摘まむと、それを一口食べた。 その直後、彼は激しくむせた。 「おい、一体どうしたんだ?」 「あ、このクッキー、ひとつだけわさびを入れたんだよね。」 「へぇ。」 「安心して、中には全部、おみくじが入っているから!」 「面白そうだな。」 「そうだ、このクッキー、“ポアロ”で配ってみたらどうでしょう?」 「いいですね、それ!」 千景が苦しみながら水を飲んでいる横で、八郎達は新商品のアイディアを話し合っていた。 季節は新緑の季節から、雨が降る季節―六月を迎えた。 「毎日雨ばかりで嫌になりますね。」 「えぇ。」 “ポアロ”の店内は、ランチタイムだというのに客がまばらだった。 「トシ、大変だよ!」 「どうした、八郎?」 「トシさんを探しに、毛利探偵事務所へ変な男が来ている。」 「どんな奴だ?」 「中肉中背、髪は紫がかった青色っぽい色で、瞳の色は薄い紅色みたいな・・あ、泣きホクロがあったな。」 「へぇ・・」 「まぁ、ここにも来ると思うよ。あ、噂をすれば・・」 八郎がそんな話をしていると、店のドアベルが鳴って一人の男が入って来た。 男の特徴は、先程八郎が話した通りのものだった。 男は、店に入るなり真っ先にカウンター席に座った。 「久しぶりじゃのぅ。」 「坂本・・」 「トシさん、こいつと知り合いなの?」 「知り合いも何も、こいつとは将来を誓い合った仲じゃ。」 「な、何だってぇ~!」 八郎はそう叫ぶと、運んでいたコーヒーカップをソーサーごと落としそうになった。 「おい、嘘を吐くな。」 「嘘なんか吐いてないぜよ。」 「トシさんは、僕のだぞ!」 「いいや、わしのじゃ!」 「お前ら二人共出て行け~!」 歳三の怒声が、梅雨空に響いた。 「あ、そういやこの店に入る前、おまんの事を見ちゅう男がおったぜよ。」 「どんな奴だった?」 「さぁ・・ただ、眼鏡をかけていたのぅ。」 男―坂本は、そう言うとアイスコーヒーを一口飲んだ。 「美味いのう!はじめは泥水だと思うたけんど、慣れてみると中々良いもんじゃ!」 坂本はその日から、“ポアロ”の常連客となった。 (何だ、また・・) 「どうしました、土方さん?」 「いえ、最近視線を店の外から感じるんですよ。」 「店の外から、ですか?」 「ええ、まるで刺すかのような鋭い視線で・・」 坂本が以前言っていた、“自分を睨みつけていた男”なのだろうか―そんな事を思いながら歳三が交差点で信号待ちをしていると、誰かに背中を押されそうになった。 「大丈夫ですか!?」 「はい・・」 歳三は何とかその場で踏ん張って押されずに済んだが、ショックで暫くその場から動けなかった。 「どうしたの土方さん、顔色悪いよ?」 気分が少し悪くなり、公園のベンチで歳三が休んでいると、そこへコナンがやって来た。 「あぁ、ちょっと気味が悪い目に遭ってな・・」 「僕に話してみて。」 「あぁ、実は・・」 歳三はコナンに、最近誰かに見られている事、そして交差点で誰かに突き飛ばされそうになった事を話した。 「坂本さんや安室さんがこの前話していたよね?土方さん、知らない内に誰かに恨まれているんじゃないの?」 「身に覚えがないな。しかし、何処の誰なのかがわからねぇのが気味が悪いぜ。」 コナンと歳三は公園を出て、毛利家へと向かっていた。 その途中で、二人は一組の男女が言い争っている姿を目撃した。 「何よ、それ!?わたしを疑っているの!?」 「疑うような事をしたお前が悪いんだ!」 彼らの話を聞いていると、どうやら痴話喧嘩のようだった。 「いつの世も、色恋ってのは上手くいかねぇもんだな。」 「ねぇ、土方さんと奥さんって、どうやって出会ったの?」 「それは、話せば長くなるな。」 そんな話を二人がしながら“ポアロ”の前を通りかかった時、突然一人の男がナイフを握り締めながら歳三の方へ突進していった。 「珠美を返せ~!」 「土方さん、危ない!」 周囲が騒然とする中、歳三は男が持っていたナイフを弾き飛ばし、そのまま男を投げ飛ばした。 「誰か、警察呼んでくれ!」 歳三を襲ったのは、“ポアロ”の常連客の夫だった。 「最近、彼女の様子がおかしいから、いつもこいつと楽しそうに話していて、それで・・」 「俺との浮気を疑ったって訳か。だとしたら、とんだ勘違いだな。」 「え?」 「あんたの奥さんは、浮気なんかしてねぇ。ただ、日頃の愚痴を俺に吐いていただけだよ。」 「そんな・・」 「あんたは俺を襲う前に、もっと奥さんと向き合うべきだったな。」 「うわぁぁ~!」 男の叫びは、むなしく梅雨空に響いた。 翌日、男の妻が毛利家へとやって来た。 「主人が、とんでもない事をしてしまい、申し訳ありませんでした!」 「俺は大丈夫だから、早く旦那の元へ帰ってやりな。」 「はい・・」 歳三の襲撃事件から数日後、毛利探偵事務所に一人の珍客が現れた。 「パパを、探して欲しいんです。」 そう小五郎に依頼しに来たのは、七歳の女児だった。 「お父さんの写真は、持っているかな?」 「はい。」 女児が小五郎に見せた写真には、歳三と瓜二つの顔をした若い男が写っていた。 にほんブログ村
2021年08月07日
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「薄桜鬼」・「名探偵コナン」のクロスオーバー二次小説です。 作者・出版社・制作会社などとは一切関係ありません。捏造設定ありなので、苦手な方はご注意ください。「いらっしゃいませ~」 歳三が現代へとタイムスリップし、毛利家に居候し、“喫茶ポアロ”で働き始めてから一週間が過ぎた。「土方さんが来てくれて、本当助かります。今まで食事はわたし一人でやっていたから・・」「いやぁ、俺も千鶴と所帯を持ってから色々と家事をしていましたから、まだ不慣れなものですよ。」「それでもすごいですよ。」「そうですかね・・」 いつものように、歳三が作った朝食をコナン達が食べていると、外から大きな音が聞こえた。「何、今の?」「さぁな。」 その後、歳三は学校へと向かうコナンと蘭を見送ると、“ポアロ”へと出勤した。「おはようございます。」「土方さん、おはようございます。」「おはようございます、榎本さん。」「安室さんは、風邪をひいたそうで、数日休むそうです。」「風邪、ねぇ・・」 歳三がそんな事を呟きながらモーニングの準備をしていると、店のドアベルが鳴った。「いらっしゃいませ~」 店に入って来たのは、サングラスをかけ、初夏だというのに厚手のコートを着た男だった。「ご注文は?」「この“朝定食”を頼む。」「かしこまりました。」 歳三がそう言って厨房へ向かった後、 謎の男がサングラスを外した。 彼は、喫茶店巡りをしてはその店の料理の評論をする、グルメブロガーである。 最近、この町にある“喫茶ポアロ”の朝定食が美味いという噂を聞きつけ、やって来たのだった。(さて、頂きましょうか・・) 男はそう思いなが箸で焼き鮭を一口大に切り分け、それを食べると、彼はその美味さに思わず呻きそうになった。(良い焼き加減・・しかも、鮭本来のうまみを引き出している!) いつの間にか、彼は“朝定食”を完食していた。「ご馳走様でした。」「ありがとうございました。」 “ポアロ”を出た後、男は帰宅するなり思いの丈をブログに綴った。「何だか最近、“朝定食”を注文される方が多いですね。」「あぁ、一昨日うちに来たお客様がブロブに“朝定食”の事を紹介してくれたんですよ、ほら。」 そう言って梓が零に見せたのは、件のグルメブロガーのブログだった。“奇跡、これは奇跡としか言いようがない!良い焼き加減の鮭と、炊き立ての白米との相性が抜群だ!”「ちょっと大袈裟過ぎませんか?」「いいじゃないですか、この店の宣伝になるんだし・・」「そうですね。それにしても、今日も女性のお客様が多いような気がしませんか?しかも年齢層が少し高めの。」「多分、土方さん目当てでしょうね。安室さんはほら、気さくな感じでJK達から人気でしょう?でも土方さんは、落ち着いたデキる大人なイメージがありますよねぇ。」「はは、そうですか。それで、土方さんはどちらに?」「あ、さっき買い出しを頼んでスーパーに行ってくれたんですが、中々戻って来ないですねぇ。」「まぁ、そのうち戻って来るんじゃないですかねぇ?」 零はそう言いながら、仕事に戻った。 同じ頃、哀とコナンは少年探偵団と共に米花商店街の中にあるスーパーへと来ていた。「なぁ、あれ土方の兄ちゃんじゃね?」「何しているんだろう?」 元太達がそう言いながら見ているのは、自動ドアの前で右往左往している歳三の姿があった。「土方さん、どうしたの?」「ああ、お前らか・・助かった、今困っている所なんだ。」「え?」 コナンと哀が歳三から事情を聞くと、歳三は自動ドアから中々スーパーの中へと入れず、困っていた。「大丈夫ですよ、僕についてきて下さい!」 何とか光彦と元太に手をひかれながら無事にスーパーの中へと入れた歳三だったが、今度は売り場が広過ぎて目的の物が中々見つからなかった。「えぇと、これが“あいすくりぃむ”と・・」「ちょっと、アイスクリームは溶けるから最後に買いなさい。常温保存の物を先に買った方が良いわ。」「あぁ、そうだな。」 ひと通り買う物をカゴの中に入れて歳三がレジへとカートを押していると、彼はある物の前で止まった。「ちょっと、どうしたの?」 哀が、歳三が見つめている物を見ると、それは沢庵のパックだった。「行くわよ。」「わかったよ・・」 歳三は溜息を吐くと、スーパーから出て“ポアロ”へと戻った。「只今戻りました。」「随分遅かったじゃないですか?」「えぇ、でもこの子達が助けてくれました。」「へぇ。」 ランチタイムを過ぎた“ポアロ”には、ゆったりとした時間が流れていた。「はぁ、疲れた・・」「それもそうよねぇ、色々とあったもの。」 哀はそう言うと、溜息を吐いた。「土方さん、今日はもう帰ってもいいですよ。」「わかりました。」 “ポアロ”を出て毛利家の中へと入った歳三は、リビングに入ると着替えもせずそのまま眠ってしまった。『降谷さん、例の件ですが、犯人が捕まりました。』「そうか。」『あの土方という男は、あの探偵の所に?』「あぁ。彼は完全とまではいかないが、すっかりここに馴染んだようだ。」『また何か動きがあったら報告致します。』 風見は零との通話を終えた後、自分の前に座っている金髪紅眼の男を見た。「さてと、あなたには色々と尋ねたい事が山程あります。」「ふん。」 男―風間千景は、机に足を乗せたまま風見を睨みつけた。「あなたは、一体何の目的で彼らを・・」「愚問だ。俺は薄桜鬼を我妻にする為・・」「もうその話は良い。」(降谷さん、助けて下さい・・)「へっくしょい!」「土方さん、どうかされましたか?」「いや、何でもない・・」「風邪ですか?」「さぁな。ここ最近、誰かに見られているような気がするんだが・・」「あぁ、土方さんって最近人気がありますからね。ほら、この前だって沢山ラブレターを貰っていたじゃないですか!」「あぁ、そうでしたね。」 恋文は京に居た頃から山のように貰っていたが、それは現代になっても変わらなかった。 まぁ、昔のように実家に送ったりすることはできないので、それらは全てゴミに出している。「それにしても、土方さんっておいくつなんですか?」「三十八ですが・・」「えぇ、嘘!」「何もそんなに驚く事ないでしょう。」「だって安室さん三十二なのに若いんですよ!お二人共一体何処の化粧品を使われているんですか!?」「何も使っていませんよ。」「え~、うらやましい!」「そんな事ないですって。」 梓と歳三がそんな事を話していると、店のドアベルが鳴った。「すいません、今は準備中で・・」「漸く会えたな、薄桜鬼よ!」“ポアロ”に入って来た千景は、そう叫ぶと歳三に抱きついた。「てめぇ、何しやがる!」「ふふ、つれないな。」 歳三から頬を張られても、千景は何処か嬉しそうな顔をしていた。「土方さん、この人は・・」「こいつは俺のストーカーだ。」「“朝定食”を頂こうか?」「準備中だって言ってるだろうが!」「そんなに怒るな。」「うるせぇ、さっさとここから出て行け!」「また来るぞ。」 歳三は“ポアロ”から出て行く千景に向かって塩を撒いた。「どうしたの、暗い顔をして?」「いや、最近変な客が来て困っているんだ。」「変な客?」 歳三が“ポアロ”で仕事をしながら溜息と共に哀に対して愚痴を吐いていると、店に千景が入って来た。「また来たぞ。」「帰れ!てめぇに出す茶はねぇぞ!」「ふん、相変わらず愛想がないのだな。」「お前、いつからここに居るんだ?」「貴様に会いにわざわざ薩摩から蝦夷地まで船で行こうとしたら、途中で海に放り出されてな。気がついたらここに居たという訳だ。」「そうか。それで、今更お前が俺に何の用だ?」「・・養って欲しいのだ。」「いつもお前ぇの近くに居るあの二人はどうした?」「天霧は、お前に会いに行くのを止めようとしたが、その事で奴と喧嘩別れしてしまった。」「そうか。」(天霧さえいてくれれば助かるんだがな・・) いつも自分達にちょっかいをかけてくる千景をたしなめくれる天霧が居ないとなると、かなり困った事になる。「あのな、養えって急に言われてもな、はいそうですかって言えるか!」「今日から世話になる。」「人の話を聞け。」「何だか、大変な事になりそうね。」「はは、そうだな・・」 こうして、千景は毛利家に居候する事になったのだが―「こら風間、洗った食器はすぐ水につけろと言っただろう!」「てめぇ、何で俺が掃除した端から汚すんだ!」(まぁ、こういうことは予想していたが‥何かもう、土方さん血圧上がって倒れそうだなぁ。) 千景が毛利家に居候してからというものの、毛利家の朝は歳三の怒声から始まるようになった。「いつまで続くんだろ?」「さぁな。」「風間さん、家事をしてくれれば助かるのになぁ。」「あいつには無理だろ。」 いつしかコナン達は、歳三の怒声に慣れっこになっていた。 それと比例するかのように、歳三は徐々にやつれていった。「土方さん、大丈夫ですか?」「すいません、最近疲れてしまって・・」「あぁ・・そういえば、最近毛利家に新しい下宿人が来たとか。」「下宿人じゃなくて居候ですよ。しかも、家事を全くしないタダ飯喰らい・・」 歳三がそんな事を梓に愚痴っていると、一人の客が入って来た。「キャ~、何あの人!」「イケメン!」 女性客は、彼が店に入って来た途端、黄色い悲鳴を上げた。(何だ、こいつ?)にほんブログ村
2021年08月07日
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恋と人生に身を捧げた女性たちの物語。女であるがゆえに理不尽な扱いを受けた時代は、今でもかわっていないかもしれません。
2021年08月06日
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