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今回も読み応えがありました。ラストシーンの、老婦人の言葉が深かったです。
2025年09月30日
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色々と政権争いが激しくなりそうな予感がしますね。
2025年09月30日
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素材はこちらをお借りしました。フリー素材【和華蝶】https://www.pixiv.net/artworks/63848096「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。金家の悪行が明らかとなったのは、金氏が賊に殺害されて数日後の事だった。―まさか、ねぇ・・―やっぱり、そんな人だったんだ。―恨みを買われて殺されたのか・・まぁ、遅かれ早かれ、こうなると思っていたよ。都の人々がそんな事を市場で囁いている頃、王宮ではジェフリーが玄琴を自室で弾いていると、衣擦れの音と共に一人の女官が怯えた表情を浮かべながら彼の部屋に入って来た。「助けて、助けて下さい!」「おい、一体どうした?」「あの方が・・」 女官はそう言った時、ジェフリーの胸元に倒れ込んだ。「おい・・」 彼女の背には、深々と矢が刺さっていた。「まぁ、何処かへ逃げたと思ったらこんな所に居たのね。」 そう言ってジェフリーの前に現れたのは、自分の母と乳母を殺した王の側室・ラウルだった。「あんた、一体何を・・」「ネズミ狩りよ。」「ネズミ狩り?」「ほら、最近王宮には厄介な“ネズミ”がうろついているでしょう?わたしはそれを狩っているだけよ。」 そう言ったラウルの淡褐色の瞳が、光を弾いて黄金色に輝いた。「あなたも、ネズミ狩りに加わらないこと?」「お断り致します。」「そう、つれないわねぇ。」 ラウルはジェフリーの言葉を聞くと、突然彼に興味を失ったかのような顔をした後、そのまま彼に背を向けて去っていった。「ラウル様、よろしいですか?」「放っておいて構わないわ。今のところ、彼に害はないもの。それよりも、“例の娘”は見つかったの?」「いいえ、まだ・・」「まぁ、焦らずに捜せばいいわ。」「は、はい・・」「さてと、わたしは王様の所へ行って来るわ。」 ラウルは美しいチマの裾を翻すと、東宮殿を後にした。 同じ頃、妓楼では海斗が伽耶琴を奏でながら、昨夜金家で会ったあの美しい金髪の男の事ばかり考えていた。「あっ・・」「どうしちゃったの、海斗?あんた最近、何処かおかしいわよ?」「す、すいません・・」「もしかして、昨夜の事を考えていたの?」「はい・・」 先輩妓生達からそう尋ねられ、海斗は静かに頷いた。「まぁ、あんな事があったらねぇ・・」「いえ、それもあるんですが・・そこで、気になる殿方にお会いしたんです。」「まぁ、どんな方だったの!?」「ちゃんと顔は見た!?」 海斗がジェフリーの事を話そうとした時、彼女はたちまち先輩妓生達から質問責めに遭った。「おいおい姐さん方、カイトが困っているからその辺にしてやりなって。」 そう言いながら海斗達の前に現れたのは、妓生達の人気者の色男、キットことクリストファー=マーロウだった。 売れない劇作家である彼は、優秀な間諜でもあった。「キット、何か面白い話でもしてよ!」「そういやぁ、王宮の方で色々と面白い噂を聞いたなぁ・・たとえば世子様のお妃探しの話とか・・」「何それ、聞きたいわ!」「もっと話してよ!」「あぁ、いいぜ。」 キットはそう言った後、海斗に目配せした。 海斗はそっと、先輩妓生達が居る大部屋から出て、自室へと戻った。 妓生達は基本、大部屋で暮らすのだが、海斗は女将の養女であり、その上優秀なので特別に個室を与えられていた。「はぁ・・やっとお風呂に入れる・・」 海斗は自室に入ると、妓楼の下男が運んでくれた風呂桶の中に身を沈めた。 彼女の身体には、男女両方の象徴があった。 海斗は、半陰陽―所謂両性具有として産まれ、それ故に実の親から捨てられた。 彼女の“秘密”を知る者は、養母・ヨナと、妓楼の女中頭である海斗の乳母・セヨンだけだった。―いいかいカイト、あんたの身体の事は、誰にも知られてはいけないよ、わかったね? 幼い頃、そうヨナからきつく言い聞かせられて来た海斗は、決して人前で肌を晒したりしなかった。「お嬢様、風呂桶を回収しに来ました。」「少し待っていて。」「はい・・」 寝間着に着替え、海斗は風呂桶を下男に手渡すと、自室の扉を閉めた。「カイト、居るか?」「居るよ、入って。」「失礼するぜ。」 キットが海斗の部屋に入ると、彼女は髪を櫛で梳いていた。「どうした、何かあったのか?」「ううん、別に・・」「お前さんは、嘘を吐く時に髪をいじる癖があるな。何か悩みがあるんだったら、このキット様に相談してみな。」「実は・・」 海斗はキットに、“ある事”を相談した。 それは―「一目惚れをした相手を捜して欲しい?そいつはどんな顔をしているんだ?」「金髪碧眼で、背はキットより少し高いかな。」「へぇ・・」 キットの鳶色の瞳が、海斗の言葉を聞いて、キラリと輝いた。「知っている人なの?」「まぁな。それよりもカイト、もうすぐ水揚げを控えているんだろう?」「うん、その事で最近、しつこく俺に言い寄って来る奴が居て困っているんだよね。」「どんな奴?」「ここら辺では有名な両班の道楽息子さ。いつも俺の風呂や着替えを覗いてくるから、鍵をかけた部屋で済ましてるの。」「まぁ、お前さんの一目惚れの相手とやらを、このキット様が捜し出してやるから、安心しな。」「ありがとう、キット。」 キットが蝶華楼から出て向かった先は、行きつけの酒場だった。「よぉお二人さん、元気そうだな?」「まぁな。それよりもキット、ラウルについて何かわかった事はあるか?」「あいつが昔居た妓楼に行って来た。あいつは元々両班の家に産まれたが、借金のカタに妓楼へ売られたらしい。」「へぇ・・」「それよりもジェフリー、あんたを捜している娘が居るぜ。」「どんな娘だ?」「赤毛の、可愛い娘さ。名前は確か、カイトっていったな。」「カイトっていうのか、あの時の娘・・」 ジェフリーの脳裏に、金家で会ったあの妓生の顔が浮かんだ。(これから、面白くなりそうだな。)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月29日
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素材はこちらをお借りしました。フリー素材【和華蝶】https://www.pixiv.net/artworks/63848096「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「お産まれになったぞ!」「男か、女か?」「それが・・」元気な産声と共に、この世に産まれ落ちた赤子には、男女両方の性を持っていた。「その子を、何処かへ捨てて来て!」「奥様・・」「早く!」泣き叫ぶ赤子を抱いた東郷家の乳母は、屋敷を出てある場所へと向かった。そこは、妓楼だった。「助けて下さい!」「可哀想に、捨てられたんだね。」都一の妓楼・蝶華楼の行首・ヨナは、そう言うと赤子を乳母から受け取った。「あとは、あたしに任せな。」「どうか、お嬢様の事をお願い致します!」こうして、両班の令嬢として産まれた海斗は、ヨナに引き取られ、妓生として生きる事になった。「海斗、おはよう。」「おはようございます、行首様。」「今日も早いねぇ。」海斗は、玄琴の稽古を受ける為、妓楼から少し離れた師匠宅へと向かっていた。その途中で、彼女は転んでしまった。「大丈夫か?」「はい・・」チマの裾についた汚れを払った海斗は、美しい蒼い瞳に吸い込まれるかのように、自分に手を差し出してくれた男に見惚れてしまった。「どうした?」「助けて下さって、ありがとうございました。」(赤い髪か、この国では珍しいな。)「ジェフリー、こんな所に居たのか。」そう言って金髪碧眼の男に駆け寄って来たのは、右目に黒絹の眼帯をつけた男だった。「ナイジェル。」「あの赤毛の子とは知り合いか?」「いいや。ただ昔、会った事があるような気がしてな。」「そうか。」眼帯の男―ナイジェルは、そう言うと溜息を吐いた。「こんな所で油を売っている暇はないぞ。」「あぁ、わかっているよ。」金髪碧眼の美男子・ジェフリーは、そう言うとナイジェルと共にある場所へと向かった。「おかしらぁ、待っていやした!」そう言ってジェフリー達を出迎えたのは、屈強な男達だった。彼らは、私腹を肥やす両班から財産を奪い、彼らの悪事を暴く義賊だった。「おかしらぁ、今日は何処を狙うんです?」「そうだな、あそこの金家を狙うか。」「そうこなくっちゃ!」金家の主は、使用人を虐待する事で悪名高い両班だった。彼に娘を殺された母親は、涙を流しながらジェフリー達にこう訴えた。「どうか、娘の仇を討ってください!」(俺がこの世で一番嫌いなものは、他人を害してのうのうと生きている奴等だ。)夜陰に乗じて金家へと向かう途中、ジェフリーの脳裏に幼い頃の記憶が甦って来た。ジェフリーの母は、彼が三歳の頃、自室で首を吊って死んだ。その苦しそうな死に顔は、未だに忘れられない。亡き母の代わりに自分を育ててくれた乳母は、王の側室に殺された。男でありながら、卑しい身分から王の側室として権勢を振う彼の淡褐色の瞳を、ジェフリーは、ひと時たりとも忘れた事はなかった。「ジェフリー、着いたぞ。」金家の屋敷から、賑やかな音楽と人々の歓声が聞こえて来た。どうやら彼は、これから襲われることも知らずに、呑気に宴を開いているようだ。「行くぞ。」頭から黒い頭巾を被り、ジェフリー達が宴に乱入すると、妓生達は悲鳴を上げた。「この屋敷の主人は何処だ!?」「裏に逃げた!」ジェフリーが金を追い掛けると、彼は悲鳴を上げて地面にへたれ込んだ。「お願いだ、命だけは・・」「お前に殺された娘がそうやって命乞いした時、助けてやったか?」「ひぃぃっ!」(クソ、この服は捨てるしかないな。)ジェフリーが舌打ちしながら両班の返り血で汚れた服を拭おうとした時、彼が被っていた頭巾が風に飛ばされてしまった。「綺麗・・」背後から声が聞こえたので、ジェフリーが振り向くと、そこには昼間自分とぶつかった妓生が立っていた。「ジェフリー!」「あぁ、今行く!」月明かりに照らされたジェフリーの美しい金髪が見えなくなるまで、海斗はその場に立ち尽くしていた。(あの人、綺麗な人だったな・・)「どうしちゃったの、惚けちゃって?」「ううん、別に・・」「それにしても、金様があんな方だったとはね。あたし達には良くして下さったのに。」(あの人と、また会えるかな?)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月29日
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25巻のあとがきで、「同人誌に掲載されていたお話を短編集として出版する」と松岡先生が書いていらしたのですが、まさかこんなに早く読むことが出来るなんて!どのお話も好きでしたが、海斗女装回のお話が一番好きですね。
2025年09月27日
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Xで連載していた漫画です。天国へ行ったゴールデンハムスター・ひまちゃんをはじめとする動物たちと、飼い主たちの物語です。動物たちはなくなっても飼い主さんたちの心に生き続けるんですよね。ラストページの、飼い主さんとひまちゃんが再会するシーンには号泣しそうになりました。
2025年09月26日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「入学おめでとうございます、シエル。」「ありがとうございます。」四月、シエルは笑顔を浮かべながらセバスチャンと女学校の入学式の日を迎えた。この日の為にセバスチャンが誂えたセーラー服は、シエルに良く似合っていた。腰下まである蒼銀色の髪はマガレイトに結い上げられ、紫と碧の瞳は春の陽光を受けて美しく輝いていた。―ねぇ、あの子・・―素敵な方ね。―あの子の隣に居る方も・・シエルは、周囲の声を聞いて、自分の隣に立っているセバスチャンを見た。セバスチャンはシエルの視線に気づくと、優しくシエルに微笑んだ。入学式を無事終えたシエルは、教室で一人の少女と出会った。「わたし、エリザベス=ミッドフォードっていうの!あなたは?」「シエル=ファントムハイヴです。よろしくお願いします、エリザベスさん。」「リジーって呼んで!これから仲良くしましょうね、シエル!」エリザベスという友人が出来て、シエルは毎日楽しい学校生活を送るようになった。そんな中、セバスチャンの元に一通の手紙が届いた。手紙の送り主は、セバスチャンの義母・ステファニーからだった。手紙を読んだセバスチャンは、溜息を吐いた。「え、お義母様が?」「ええ、どうやらわたしとあなたの結婚を誰かから聞いて知ったようで、あなたに会わせろと・・」「そうなのですか・・」「実は、わたしと義母は、余り仲が良くないのです。」セバスチャンはそう言うと、紅茶を一口飲んだ。「何故ですか?」「わたしは、愛人の子なのですよ。母は父の正妻で、わたしには腹違いの兄が居ます。」「すいません、立ち入った事をお聞きしてしまって・・」「いいえ。わたしは、息苦しい実家から出て、あなたとこうして会えて幸せになれた。あなたが謝る事はないのですよ。」「はい・・」「それよりもシエル、友達は出来ましたか?」「はい。リジーといって、明るくて優しい子です。」「そうですか、それは良かった。」セバスチャンは、そう言うとシエルに微笑んだ。夕食が終わり、シエルが風呂に入っている間、セバスチャンは溜息を吐きながらステファニーの手紙を読み返していた。「セバスチャン様、どうされたのですか?」「何故、今頃になってあの人は手紙を寄越してきたのでしょう?」「きっと、奥様はセバスチャン様の事を心配なさっていられるのでしょう。」「そうでしょうか?」セバスチャンはそう言うと、実家に居た頃の事を思い出した。実母が肺結核で亡くなり、セバスチャンがミカエリス家に引き取られたのは、彼が五歳の時だった。父は実母に似たセバスチャンを愛情深く育ててくれたが、義母にとっては憎い愛人の息子だったので、辛く当たられていた。良い教育を受けさせてくれた事だけは感謝しているが、大学を卒業してからは一度も実家に帰っていない。「わたしの事を、あの人はどう思っているんでしょうね?」「それは、わたしにはわかりかねます。」「一度、あの人と会って話してみます。」「それがいいでしょう。」静と話した後、セバスチャンが書斎から出て夫婦の寝室に入ると、シエルは天蓋の中で眠っていた。「お休みなさい、シエル。」梅雨を迎え、毎日雨が降るので、シエルは女学校が終わったら、セバスチャンの書斎で読書をしていた。「毎日、鬱陶しい雨が降ってばかりで、嫌ですね。」「はい・・」「セバスチャン様、ご実家からお手紙が届いております。」「ありがとうございます、静さん。」静から手紙を受け取ったセバスチャンは、父の訃報を知った。「シエル、喪服は持っていますか?」「いいえ。」「そうですか。父が亡くなりました。」「まぁ、お義父様が・・」「わたしが懇意にしている呉服屋に連絡して貰いましょう。」セバスチャンはそう言うと、静におつかいを頼んだ。数分後、セバスチャンが懇意にしている呉服屋の主人がミカエリス家にやって来た。「セバスチャン様、ご注文の品をお届けに参りました。」「ありがとうございます。」セバスチャンは呉服屋の主人からシエルの喪服を受け取ると、静に手伝って貰いながらそれをシエルに着せた。「良くお似合いです。」「この前、色々とお願いして仕立てて貰ったので、助かりました。」「いえいえ、今後共御贔屓に。」呉服屋の主人が去って行った後、セバスチャンはシエルを連れて実家へと向かった。汽車に揺られて一時間経った後、二人が汽車から降りて駅舎を出ると、その前には一台の車が停まっていた。「遠路はるばるいらして下さり、ありがとうございます、セバスチャン様、シエル様。どうぞこちらへ。」車から出て来たミカエリス家の執事・スズキは、そう二人に一礼して彼らを車に乗せた。鈴木が運転する車に揺られながら一時間位経った頃、卵色の、少し蔦に覆われた建物が坂を登った先に見えて来た。「ここが、旦那様のご実家?」「ええ。ここは、わたしにとっては魔窟そのものでした。」「魔窟?」「それは、入ればわかりますよ。」二人を乗せた車がミカエリス邸の前に停まると、中から渋面を浮かべた西洋の喪服姿の女性と、金髪をなびかせた男が出て来た。「その子が、お前の妻なの、セバスチャン?」「お久し振りです、奥様。」セバスチャンは女性の、値踏みするかのような視線からシエルを守ろうとするかのように、そう言って女性とシエルの間に割って入った。「母上、中へ入りましょう。」「ええ、そうね。セバスチャン、あなたの部屋はそのままにしてあるから、その子とお使いなさい。」「ありがとうございます、奥様。」セバスチャン達がミカエリス邸の中に入った後、土砂降りの雨が降り始めた。「セバスチャン様と奥様がご到着されました。」「シエル、先に部屋へ荷物を置きに行きましょう。」「はい・・」玄関ホールの先にある階段を二人が上がって左の廊下を曲がった先に、セバスチャンの部屋はあった。部屋は定期的に清掃と換気をされていたのか、埃っぽくなかった。「この部屋に来たのは、何年ぶりでしょうね・・」「旦那様?」「何でもありませんよ。シエル、そろそろ階下へ行きましょうか?」「はい・・」一階のダイニングに二人が入ると、先程シエルを値踏みしていた女性―ステファニーは、シエルを見て不快そうに鼻を鳴らした後、こう言った。「小さい子ね。こんな小さい身体で子供が産めるのかしら?」「シエル、わたしの隣に。」その日の夕食には豪華な料理が並んでいたが、シエルは居心地の悪さで料理の味が全くわからなかった。「それでは、わたし達は部屋に戻ります。」「セバスチャン、話があります。」「シエル、先に部屋に戻っていなさい。」「はい・・」セバスチャンの部屋に戻ったシエルは、突然何者かに口を塞がれ、寝台の上に押し倒された。「騒ぐな、静かにしろ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月24日
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18日までは暑かったのですが、19日から急に涼しくなり、過ごしやすい季節になりました。今年の夏は異常に暑くて、エアコンが効いた室内で創作活動をしようとしても暑さで頭がぼうっとする事が多くて、中々二次小説を更新することができませんでした。これから涼しくなり、秋特有のカラッとした季節の中で、これから創作活動を頑張ろうと思います。
2025年09月22日
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表紙素材は、ヨシュケイ様からお借りしました。「相棒」「黒執事」「天上の愛地上の恋」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。一部残酷描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「来たか・・」「ルドルフ様、どうかなさいましたか?」「いや、何でもない。お前はまだ休んでいろ、アルフレート。」ルドルフはそう言って寝室から出た後、ロッジから外へと出た。『何が望みだ?隠れていないで出て来い。』コートの内ポケットから拳銃を取り出したルドルフは、そうラテン語で誰かに向かって話しかけた。『全く、気づかれねぇようにしていたってのに。』ガサガサと近くの草むらを揺らしながらルドルフの前に現れたのは、黒衣を纏った男だった。年の頃は40代前半頃だろうか、淡褐色の瞳を揺らし、鋭い琥珀色の瞳をルドルフに向けた彼は、そう言った後煙草を吸った。『聖職者の癖に、煙草を吸っていいのか?』『おいおい、聖職者だって普通に煙草を吸うしハンバーガーを食べるぞ。いつも教会で祈るだけの奴なんて居やしないさ。』『そうだな。』『要件を手短に言おう。俺達の元に、“天使”を返せ。』『アルフレートは、わたしの伴侶だ。お前達の元に返すも何も、彼は最初からわたしのものだった。』『フン、あんたならそう言うと思ったよ。じゃ、俺はさっさとホテルへ帰らせて貰う。』男―アレンはそう言ってルドルフに背を向けると、森の中に隠していたマウンテンバイクを引っ張り出し、雷のようなエンジン音を轟かせながら、風のように颯爽と去っていった。『もしもし、俺です。例の件?あぁそれはもう済みましたから、明日にでも帰ります。』相手が何かを話しているのを無視して、アレンはスマートフォンの電源を切った。(さてと、明日ヴァチカンに帰る前に、色々と観光しておくか。)一方、アレンに一方的に通話を切られた彼の上司は、苛々した様子で爪を噛んだ。『閣下、どうなさったのです?』『アレンの奴め・・』『また、彼ですか。』アレンの上司の隣に立っていた彼の秘書は、そっと彼の手を握った。『あの方の事は放っておいて、わたし達はわたし達だけで楽しみましょう?』『あぁ、そうしよう。』二人が睦み合っている頃、ルドルフはアルフレートを抱き締めながら、幼い頃の夢を見ていた。その日は、珍しく母・エリザベートがウィーンに戻って来た時の出来事だった。「ルドルフ、大きくなったわね。」「お久し振りです、母上。」エリザベートに挨拶した時、ルドルフは初めて彼女の近くに控えている男の姿に気づいた。彼は艶やかな黒髪をなびかせ、紅茶色の瞳を煌めかせ、均整の取れたギリシア彫刻のような身体を細身のスーツに包んでいた。「母上、そちらの方は?」「ルドルフ、こちらの方はわたしの新しいダンスの家庭教師の、セバスチャン=ミカエリスさんよ。セバスチャンさん、息子のルドルフよ。」「初めまして・・」「お初にお目にかかります、皇太子様。」そう自分に挨拶した男―セバスチャンは、一瞬ルドルフを暗赤色の瞳で見つめた。(え・・)「安心なさい、ルドルフ。彼はわたし達の“同族”よ。」「“同族”?」「ええ。」これが、ルドルフと男―セバスチャンとの出会いだった。「ルドルフ様、起きてください。」「ん・・」突然ベッドの中で身体を揺り起こされ、ルドルフが眠い目を擦りながら夢から覚めると、そこには身支度を済ませたアルフレートの姿があった。「おはよう、アルフレート。」「朝食を済ませたら、町へ行きましょう。」「そうだな。」朝食を済ませた二人は、山を下りて、町へと買い物に出かけた。「これ位でいいか。」「そうですね。」アルフレートが食料品を入れたカゴを載せたカートを持って行ったのは、セルフレジだった。「これは、何だ?」「セルフレジだ。」「初めて見るな。」ルドルフはそう言って物珍しそうな目でセルフレジを見ていると、慣れた手つきで会計を済ませている事に気づいた。「アルフレート、お前いつの間にこれの使い方を覚えたんだ?」「いつの間にか慣れました。さぁ、もう行きましょうか。」「あ、あぁ・・」アルフレートが食料品を素早くリュックに詰めると、それを背負ってスーパーから出ようとした時、外でパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしながら山の方へと走ってゆく姿を見た。「どうした?」「ロッジで何かあったようです。」「そうか。ではこのまま駅の方へと向かうとしよう。」「そうですね。」アルフレートはリュックの中にある通帳と印鑑の存在を確かめると、ルドルフと共に駅へと向かった。「これからどちらへ?」「さぁな。」ルドルフとアルフレートは、再び流離う事になった。「皮肉だな、こうして色々な場所を流離っていると、あの人の事を思い出す。」「ルドルフ様・・」「あの頃、わたしはあの人の気持ちなど解らなかった・・いや、解ろうとしなかった。だが、今なら、あの人の気持ちが少し解ったような気がする。」「ルドルフ様・・」「もう、こんな事を思っても無駄かな?」「いいえ。」二人を乗せた東北新幹線は、やがて東京駅に停車した。「ここが日本の首都か。ウィーンとは違った雰囲気があるな。」「そうですね。」ルドルフとアルフレートが東北新幹線から降りて東京駅の中を歩いていると、向こうからシエルとセバスチャンが歩いてきた。「坊ちゃん、長旅お疲れ様でございました。」「早くホテルへ行って休むぞ、セバスチャン。」「そうですね。」シエルが慣れない様子でキャリーケースをひいていると、やがて彼はルドルフにぶつかってしまった。『あっ、ごめんなさい・・』『怪我はないか?』「坊ちゃん、大丈夫ですか?」セバスチャンがそう言ってシエルに駆け寄った時、ルドルフと目が合った。「おや、あなたは・・」「あの時の・・」「セバスチャン、この人達とは知り合いか?」「ええ。」セバスチャンはシエルにそう言った後、ルドルフ達にドイツ語で話しかけた。『ここでは人目がありますから、静かな所で話しませんか?』『わかった。アルフレート、行くぞ。』『はい・・』二人は、シエルとセバスチャン達と共に、彼らが泊まるホテルへと向かった。『どうぞ、こちらへおかけ下さい。』ホテルのフロントでチェックインを済ませ、予約していたスイートルームにルドルフ達を通したセバスチャンは、そう言った後キッチンへと消えた。「セバスチャン、何してる?」「アフタヌーンティーの準備です。坊ちゃんはあの片達とお話し下さい。」「僕はドイツ語が苦手なんだが・・そもそも、僕がぶつかった方の奴とは知り合いなのか?」「ええ、昔の知り合いですよ。」「知り合い?」「前にお話ししたい事があるでしょう?昔、わたしがウィーンに居た事を。」「あぁ・・」確か、そういった話をセバスチャンから聞いた事があったが、余り憶えていない。「あの方の母君・エリザベート皇妃様のダンスの家庭教師として、王宮で働いていた事があるのですよ。」セバスチャンはそう言いながら、ティーカップに紅茶を淹れ、それを盆の上に載せた。『お待たせ致しました。ダージリンでも飲みながら昔話でもいたしましょうか、ルドルフ皇太子殿下?』(ルドルフ皇太子・・あのマイヤーリンクで死んだ・・)『久しいな、セバスチャン。まさかと思うが、あなたも“例の事件”を探っているのか?』『ええ。』セバスチャンはそう言うと、スーツの内ポケットから一通の手紙を取り出した。『その手紙は?』『わたし達が仕える“女王陛下”からのお手紙です。日本の山奥の町に拠点を構えている新興宗教団体の事を調査して欲しいという内容でした。しかし、現地へと向かうとそこには誰も居ませんでした・・あの方達を殺したのは、あなたですね?』『だったら、どうした?わたしを殺すか?』『いいえ。同族同士、ここはお互いに協力しませんか?』『いいだろう。』ルドルフの碧い瞳とセバスチャンの暗赤色の瞳がぶつかった頃、警視庁の特命係の部屋では、尊がある事を自分のパソコンで調べていた。「神戸君、何を調べているのですか?」「“白の会”についてです。この宗教団体、世界中に支部を持っているみたいですね。」「そうですね。本部は、ベルギーにあるようです。」右京と尊がそんな事を話していると、部屋に愛用のパンダカップを持った角田課長が入って来た。「よっ、暇か?」「暇ですよ。課長、その袋は?」「あぁ、これ?もうすぐハロウィンだろ?もうすぐ銀座にオープンする、英国の玩具・菓子メーカーの店がクッキー配っていたから、貰ったんだよねぇ。」「ちょっと、失礼。」右京がそう言って角田が持っている袋のロゴを見た右京は、それがファントム社のものである事に気づいた。「クッキーですね。美味しそうで、紅茶とコーヒーに合いそうです。」「だろ~!」(ファントムハイヴ社・・確か、あの時見かけたあの子もそんな名前だったような・・)「神戸君、どうしたのですか?」「いいえ、何でもありません。」尊がそんな事を言った時、スーツのポケットに入っていたスマートフォンが鳴った。「すいません。」「どうぞ。」尊がスマートフォンの画面を見ると、そこには“大河内春樹”の名前が表示されていた。「大河内さん、どうしたんです、こんな時間に?」『今夜、時間あるか?』「はい、ありますけど・・」『例の店で待っている。今晩8時に来い。』「え、あっ、ちょっと・・」一方的に春樹から通話を切られた尊は、溜息を吐いた。(ったく、何なんだよ・・)尊は定時に退庁した後、銀座へと向かった。「どうも~」「随分と早いな。」「暇なんで。それで、用件は何ですか?」尊がそう春樹に話しかけると、彼は渋面を浮かべた。(え、何?)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月19日
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佐保姫と真秀が再会!それにしてもひばす姫は相変わらず嫌な女だあ。あと2巻で終わりなの、本当に惜しすぎる!
2025年09月19日
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前巻は売ってしまって手元にないのですが、この巻を読み始めたら話の流れをある程度把握しているのですんなり物語に夢中になれました。怒涛の展開が続き、ラストシーンがこれ?早く続きが読みたい!と思ってしまいました。全5巻、なるべく手元に置いて完結まで見守ろうと思っています。
2025年09月18日
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ハプスブルク帝国の歴史を詳しく書いていて、わかりやすかったです。特に「19世紀ヨーロッパを旅行するための準備」が面白かったです。創作資料として役立ちます。
2025年09月18日
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子翠が生きていたのは驚きました。また猫猫達と再会しそうですね。
2025年09月18日
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太陽と沙名子の結婚式のシーンには感動しました。
2025年09月14日
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新しい家族が増えました。花子です。大切に使います。なんと、この子は尻尾があるので立つことができます!2025.9.16追記今月は文具ばかり買っていて、少し懐が寒いですwまぁ、ここ最近というか、パートで働いたお金を自分が好きな物に使いたいと思い始めて、いつの間にか文具や本ばかり買うようになってしまいました。自己満足というか、自分が好きで買っているからいいんですけどね。今日買ったのは、ちいかわのCampusノートです。わたしはB罫を使うので、B罫のノートを買いました。大切に使います。久しぶりにロルバーンを近所の文具店で購入しました。 本当はスイーツの限定デザインが欲しかったけれどなかったので、ブルーのものを買いました。大切に使います。2025.9.25追記前から気になっていたロルバーンダイアリー。青いレース風の表紙が一冊しかなかったので、買えてよかったです。セリアで、コーナークリップとノート、ちいかわのしおりを買いました。しっかりとした作りなので、本やノートのしおりとして大切に使います。
2025年09月14日
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10年ぶりにマクドナルドへ行きました。チーズ月見バーガーのセットを頼みました。KFCの半熟月見バーガーとは違い、ベーコンとチーズとの相性が抜群で、美味しかったです。約10年ぶりに食べられて大満足でした。
2025年09月14日
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※BGMと共にお楽しみください。「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。※オメガバース・男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。シエルは寝台から起き上がろうとした時、腰に激痛が走り、彼は悲鳴を上げた。「おやおや、若いのに情けない。」「お前・・」「そんな怖い顔をなさったら、折角の美人が台無しですよ。」「うるさいっ!」シエルがセバスチャンに枕を投げつけると、セバスチャンはそれを難なくかわした。「坊ちゃん、ジェイド様がお呼びです。」廊下から、ファントムハイヴ家の執事・タナカの声がした。「わかった、今行く。」セバスチャンに着替えを手伝って貰った後、ジェイドが待つホテル内のティールームへと向かった。「ごめん、待った?」「ううん、さっき来たところだよ。」そう言ってシエルに手を振った双子の兄・ジェイドは、美しいサファイアのような碧い瞳でシエルを見た。「シエル、あいつと何かあったの?」「どうして、そんな事を聞くの?」「お前は隠し事をするのが下手だね・・その右腕の痣はどうしたの、シエル?」ジェイドとシエルの間に重苦しい空気が流れた時、ウェイターが彼らの元にそれぞれケーキと紅茶を運んで来た。「ここのガトーショコラは絶品なんだ。さぁ、お食べ。」「ありがとう、お兄様・・」「ねぇシエル、どうしてあいつと別れないの?」「そ、それは・・」「“契約”だから、別れられないの?」“契約”―それは、古来から続く吸血鬼同士の“絆”を深める為のものだった。欧州全土に居る吸血鬼の王侯貴族は、その貴い血筋を守る為、血族婚を繰り返して来た。しかしその所為で、大きな“歪み”が生まれ、吸血鬼の中には人を獣のように襲う者が現れた。そんな中、裏社会を監視する“女王の番犬”が同族を女王の名の下に始末してきた。しかし、“女王の番犬”と唯一対立する“狼”なる一族が現れた。両者の血を血で洗う凄惨な争いは数百年続き、その事を見かねた女王が両者にある提案をした。それは、互いの子供達を結婚させ、両家の絆を強固なものにする事だった。その“結婚政策”により、両者の数百年続いた争いは漸く終わった。それ以来、女王の番犬であるファントムハイヴ家と、“狼”であるミカエリス家は、“結婚政策”により共に繫栄した。しかし、それが変わったのは、シエルとジェイドの両親、ヴィンセントとレイチェルの結婚だった。当初、ヴィンセントはミカエリス家の令嬢・ステファニーとの結婚に乗り気であったが、それを反故にし、レイチェルと結婚した。その所為で、ファントムハイヴ家とミカエリス家との関係が悪化し、両家は再び敵同士となった。その事を危惧したヴィクトリア女王は、ヴィンセント=ファントムハイヴと、ステファニー=ミカエリスを共にウィンザー城へと呼び出した。そして、二人にある“契約”をさせた。それは、“もし、両家のどちらかにαかΩの子が産まれたら、その子達を結婚させる事”だった。かつて人間と対立していた吸血鬼だったが、時代が進むにつれ、人間と吸血鬼との混血が増え、“純血”の吸血鬼はその数が年々減っていた。その上、本来の性別に加え、“第二性”(バース性)と呼ばれる中でも、特権階級に属するαの子を唯一産む事が出来るΩの数も、Ω特有の短命さ故に、その数が減っていた。やがて、ファントムハイヴ家に美しい双子が産まれた。美しい碧の瞳と、碧と紫の瞳を持った彼らは、それぞれ、“ジェイド”と“シエル”と名付けられた。兄・ジェイドはファントムハイヴ伯爵家の後継者に相応しい、明るく活発な性格だったが、それとは対照的に弟・シエルは、病弱で内向的な性格だった。双子であるが故に、シエルはジェイドと強いきずなで結ばれていた。だが双子であるが故に、ジェイドの存在はシエルを苦しめた。それを決定的にしたのは、二人のバース性が判った時だった。検査の結果、ジェイドはα、シエルはΩであると判った。「シエル、入ってもいい?」ジェイドがウェストン校への入学を控えた日の夜、シエルの部屋にジェイドが入って来た。「ジェイド・・」「シエル、今お前が何を思っているのか、僕にはわかるよ。だから、何も言わなくてもいいよ。」ジェイドがウェストン校へ行ってから、シエルはファントムハイヴ邸でドレスを着て、淑女教育を受け始めた。(僕は、兄さんとは違う・・だって僕は・・)「シエル、どうしたの?」「ごめん、何でもない、エリザベス。」「もう、そんな堅苦しい呼び方はやめてって言っているじゃない!」ジェイドの婚約者・エリザベス=ミッドフォードは、ブロンドの巻き毛を揺らし、エメラルドのような美しい翠の瞳でシエルを見つめた。「ねぇシエル、もうすぐ誕生日ね。誕生日プレゼントは何が欲しいの?」「わからない。」「シエル、いつも暗い色のドレスばかり着ているじゃない!シエルは可愛いんだから、もっと可愛いドレスを着ないと駄目よ!」「そ、そうかな?」「そうよ、もっと可愛いドレスが似合うわよ・・なんて言ったってあたしの可愛い“姪っ子”だもの!」そう言ってシエルを抱き締めたのは、ジェイドとシエルの叔母・アンジェリーナこと、“マダム=レッド”だった。「アン叔母様もそう思うでしょう?そうだわ、いい事を思いついた!」エリザベスのエメラルドの瞳がキラキラと輝くのを見たシエルは、嫌な予感がした。そして、それは的中した。「シエル、ジェイド、誕生日おめでとう!」「ありがとうございます、お父様、お母様。」「シエル~、会いたかったわ!」ジェイドとシエルの13歳の誕生日を迎え、ファントムハイヴ伯爵邸では盛大なパーティーが開かれていた。星の数ほど居る招待客たちの中には、ミッドフォード侯爵夫妻とエリザベスとその兄・エドワードが居た。「今日は来てくれてありがとう、エリザベス。」「シエルったら、折角の誕生日パーティーなのに、また暗い色のドレスを着て、可愛くない!」その日の夜、シエルが着ているのは胸元に黒いレースの飾りがついたドレスだった。「まぁシエル様、ご機嫌よう。」「ニナ・・」ファントムハイヴ家専属の仕立屋、ニナ=ポプキンズは、じっとシエルを見た後、こう呟いた。「可愛くありませんわね・・」「え?」「ニナもそう思うでしょ~!」「あらニナ、いいところに来たわね!」ニナの背後から、エリザベスとマダム=レッドが現れ、動揺するシエルを会場から連れ出した。「姉さん、ちょっとシエルを借りていいかしら?」「ええ。」「それじゃ、また会場でね、姉さん!」ニナ、エリザベス、マダム=レッドに衣装部屋へと連れて行かれたシエルは、そこでトルソーに掛けられたレースとフリルがふんだんに使われた薄紅色のモスリンのドレスを初めて見た。「さてと、このドレスに早く着替えちゃいましょうか!」「僕が、このドレスを着るのか?」「当り前じゃない!この日の為に、ニナがこのドレスを仕立ててくれたのよ!」「でも僕には・・」「シエル、あなたは私の大切な、可愛い子よ。だから、自信を持って。」「お母様・・」レイチェルにそう励まされ、シエルはそっとトルソーに掛けられたドレスに触れた。同じ頃、ファントムハイヴ伯爵邸の前に一台の馬車が停まった。中から出て来たのは、漆黒のドレスを纏った女と、長身を漆黒のスーツに包んだ青年だった。「セバスチャン、わかっているわね?くれぐれも、ファントムハイヴ様には失礼のないように。」「はい、母上。」母・ステファニーをエスコートしながら、セバスチャン=ミカエリスはファントムハイヴ伯爵邸の中へと入っていった。―セバスチャン様よ!―いつ見ても素敵な方ね・・セバスチャンは時折自分に向けられる女達の視線にうんざりしながらシャンパンを飲んでいると、一人の少女がファントムハイヴ伯爵夫妻と共に現れた。美しい蒼銀色の髪をツインテールにしてなびかせ、薄紅色のドレスの裾を揺らしながら歩く少女の姿を見た途端、セバスチャンは魂が震えるのを感じた。(まさか、こんな子供がわたしの・・)―“魂の番”だというのか。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月12日
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。オメガバースが苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「お産まれになられたぞ!」「男か、女か?」「双子のお子様達だったが、片方は・・」蒼い月が空に浮かんだ夜、シエルと双子の兄・ジェイドは生を享けた。双子でありながらも、シエルは健康で甲種(アルファ)であるジェイドとは違い、病弱で丙種(オメガ)であった為、姫君として育てられた。周囲は、名門貴族でありながら丙種として産まれたシエルの事を蔑む者が居たが、兄がいつも守ってくれた。―ほら、あの瞳・・―何と気味の悪い・・―魔物ではないのかしら?一族の集まりに出席したシエルは、御簾越しに聞こえて来る女達の囁き声に俯いた。「シエル、大丈夫だ。僕が居る。」「兄様・・」シエルが兄と違うもの。それは、左右の瞳の色が違う事と、男女両方の性をその身に持っている事だった。だが、その事で両親は兄と自分を差別しなかったし、シエルは家族に愛されながら育った。あの日が来るまでは。賊に襲撃され、両親と兄を眼前で殺されたシエルは、ならず者達に陵辱された。(助けて・・)生き地獄のような日々の中で、シエルはあの日燃え盛る屋敷から唯一持ち出した母の形見の箏を爪弾く事だけが、生きる糧となっていた。そんな中、いつものようにシエルが箏を弾いていると、風で御簾が捲り上がり、空に浮かぶ蒼い月が見えた。その月は、常世に居る兄の化身に見えた。(兄様、どうして僕を置いて逝ってしまったの?)シエルが袖口で涙を拭っていると、何処からか伽羅の香りがした。「嗚呼、芳しい蜜の香りがすると思ったら、愛らしい姫君がいらっしゃるなんて。」「あなたは・・」月に照らされた、美しく端正な顔立ちをした直衣姿の男は、紅茶色の瞳でシエルを見た。「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」差し出された男の手を、シエルは取った。「若様、その子は・・」「わたしの番です。」主に抱かれている姫君を見た家人は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、その後は黙って主が車の中に入るのを見送った。男―セバスチャンは、己の腕の中で眠るシエルの髪を梳きながら、彼女こそ己の運命の番だと確信した。甲種として生を享けたセバスチャンは、東宮(皇太子)という身分も相まって、彼の元には山程縁談が来ていたが、彼はそれを全て断った。(何かが違う。彼女達は美しいが、それだけではわたしの魂を震わせる事は出来ない。)そんな思いを抱えながらセバスチャンは父帝から持ち込まれた縁談相手の元へと向かったが、その相手にもときめかなかった。父帝には適当な言い訳をしなければ―そう思いながらセバスチャンが牛車に揺られていると、突如外から蜜の香りが漂って来た。(この香りは・・)甲種の本能が、セバスチャンの奥底で目覚めようとしていた。「停めろ。」「はい!」牛車から降りたセバスチャンは、香りの主を捜した。すると、その香りはある貴族の屋敷から漂って来た。御簾の向こう側に居たのは、美しい少女だった。(この子が、わたしの・・)セバスチャンの視線を感じた少女は、紫と蒼の瞳で怯えたような顔をしながら自分を見つめていた。「さぁ、わたしと共にいらっしゃい。わたしが、あなたを救って差し上げます。」セバスチャンが差し出した手を、少女は握った。「あなたは、誰?」「わたしは、あなたの背の君ですよ。」シエルは、いつの間にか眠ってしまった。「あの子は、一体何処へ消えた!」「申し訳ありません・・」シエルが消えた事に気づいた男は、使用人達にシエル捜索を命じた。「お帰りなさいませ、東宮様。」「お帰りなさいませ。」セバスチャンがシエルを抱いて牛車から降りると、使用人達が彼を出迎えた。「暫くこの子と二人きりにさせておくれ。」「はい・・」寝所に入ったセバスチャンは、シエルをそっと御帳台の上に寝かせた。「ちょっと、失礼しますね。」セバスチャンはそう言いながらシエルの衣を脱がすと、その白い肌には無数の傷があった。特に目立つのは、背中に捺された焼き印だった。幼い少女が、一体あの屋敷でどんな扱いをされて来たのか、セバスチャンには容易に想像できた。「安心なさい、あなたの事はわたしが守って差し上げます。」セバスチャンはそう言うと、そっとシエルの額に口づけた。「ん・・」シエルがゆっくりと目を開けると、そこにはあの男が隣で寝ていた。「おはようございます。」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月11日
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表紙素材は、ソラ様からお借りしました。「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。※シエルが女装しています、苦手な方はご注意ください。※オメガバース・男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。煌めくシャンデリアの輝きの中で、一人の男が何処か退屈そうな顔をして、シャンパンを飲んでいた。烏の濡れ羽色のような美しい黒髪を鬱陶しそうに彼が掻き上げていると、そんな彼の元に胸元が大きく開いたドレスを纏った結婚適齢期の娘達が次々とやって来た。「あら、あなたは確か・・」「“あの方”の婚約者の方?」「まさか、ねぇ・・」「だって、“あの方”は、まだ・・」男―セバスチャン・ミカエリスは、娘達の話を聞きながら、“また始まったか”という顔をした。“駒鳥”こと、シエル=ファントムハイヴと、“狼”―セバスチャン=ミカエリスとの婚約が発表されてから、密かに彼を狙っているドレスを着た雌狼達、もとい貴族の令嬢達から社交界の集まりがある度に言い寄られていた。セバスチャンはそんな彼女達を軽くあしらいながら、自分と同じように男達に言い寄られているシエルを見た。シエルは自分と同じ男なのだが、見た目が年齢の割には幼く見えてしまうので、どうしてもある一定数の同性達の目をひきつけてしまうらしい。その中の一人がどうしてもシエルを気に入ったらしく、嫌がる彼の腕をしっかり掴んで離そうとしない。「ねぇセバスチャン様、今度わたくしと・・」「失礼。」執拗に自分に言い寄って来る令嬢達の一人を邪険に押し退け、セバスチャンはシエルの元へと向かった。「あの、本当に・・」「なぁ、少しだけならいいだろう?」「困ります。」苛々しながらも、自分の腕を掴んでいる貴族に引きつった笑みを浮かべていたシエルだったが、もう限界だった。「失礼、わたしの連れに何か?」(うわ・・)シエルがセバスチャンの方を見ると、彼の美しい顔が少し引きつっていた。今、彼はかなり怒っている。「シエル・・」「な、何だ?」緊張の所為で、シエルは少し声が上ずってしまった。「もう、皆さんへの挨拶は済んだようですから・・」「わかった・・」ドレスの裾を摘み、セバスチャンに半ば引き摺られるような形でシエルは彼と共に会場を出た。「おい、いつまで腕を掴んでいるつもりだ、離せ!」会場から出て、セバスチャンはシエルの細く華奢な腕を掴んだまま、この夜の為に予約したホテルの部屋へと入った。「痛い・・痣が残ったらどうするつもりだ?」「すいません、嫉妬心でつい・・」「お前だって、女達に囲まれて嬉しそうな顔をしていたじゃないか!」「あんな香水臭い女達に囲まれて、嬉しい訳ないでしょう!」セバスチャンは苛立った様子で乱暴にタイを解くと、シエルを寝台へと押し倒した。「おい、何する・・」「何をするかって?そんな事、聞かなくてもわかるでしょう?」光沢のあるモスリンの深緑のドレスの裾を捲り上げながら、セバスチャンは器用にそれを脱がせた。「やめろ、この駄犬!」「“狼”を駄犬扱いとは、その可愛らしいお口は、こうしてしまいましょう。」セバスチャンはそう言うと、シエルの唇を塞いだ。「おい、やめ・・ん・・」「やめろと言いながらも、あなたのここは濡れているじゃないですか?」「あっ、嫌・・」奥を執拗に擦られ、シエルは涙で濡れたオッドアイの瞳でセバスチャンを睨みつけた。「お前、いい加減に・・」「わたしを煽ったあなたが悪いのですよ?」セバスチャンはシエルの華奢な身体を己の膝上に乗せると、己の肉棒でシエルの奥を貫いた。「抜け・・」「シエル、愛しています・・」セバスチャンはシエルの耳元で愛を囁きながら、彼を優しく責め立てた。翌朝、シエルがオッドアイの瞳を開けると、隣には美しい彫刻のような肉体を持ったセバスチャンが眠っていた。シエルが思わず悲鳴を上げると、セバスチャンは溜息を吐いた後、こう言った。「今更悲鳴を上げなくてもいいでしょう。」「ふざけるなっ!」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月10日
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※BGMと共にお楽しみください。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。 1964(昭和39)年12月。「ありがとうございました。」桜木老人から、洋食屋・さくらを引き継いで、もう10年もの歳月が過ぎた。セバスチャンは最後の客を送り出し、店のシャッターを閉めようとした時、一匹の黒猫が彼の足元に鳴きながら擦り寄って来た。「おやおや、可愛いお客さんですね。」セバスチャンはそう言って黒猫を抱き上げ、店の中へと戻り、店のシャッターを閉めた。黒猫はゴロゴロと喉を鳴らしながらセバスチャンのブラッシングを嬉しそうに受けていた。「あなたは何処から来たんでしょうね。」黒猫のブラッシングを受けたセバスチャンは、その時初めてその猫がオッドアイである事に気づいた。(シエル・・あなたなのですか?)「シエル・・?」セバスチャンが黒猫にそう呼びかけると、黒猫は嬉しそうに鳴いた。こうして、セバスチャンはシエルの生まれ変わりである黒猫と暮らすようになった。やがて黒猫は店の看板犬ならぬ看板猫となり、店は大変繁盛した。「おはようシエル、今日も寒いですね。」いつものようにセバスチャンが自宅でそう黒猫に挨拶すると、黒猫は嬉しそうに鳴いた。店が定休日の朝、自宅のリビングでセバスチャンは窓から外を見てみると、白い雪が街を幻想的に彩っていた。(あぁ、そういえばもうすぐクリスマスですね。)この季節になると、「もしシエルと子供が生きてたら・・」と、過去の感傷に浸ってしまう。孤独に苛まれ、虚ろな心を抱いていた日々は、黒猫が来てから変わった。今日は、神保町にでも行って、古本屋巡りでもしてみようか。「シエル、わたしが帰って来るまでいい子で待っていてくださいね。」黒猫はドアの近くで外出するセバスチャンを見送った後、リビングでお気に入りの場所であるソファに座り、そのまま眠ってしまった。「今日は色々と買い過ぎてしまいました・・」両手に本が入った紙袋を持ちながら、セバスチャンはそう呟きながら家路を急いでいた。自宅がある通りを彼が歩いていると、ザワザワとした人のざわめきのようなものが聞こえて来た。「あらセバスチャンさん、お帰りなさい。今日はお店、お休みだったのね。」そうセバスチャンに話しかけて来たのは、店の常連客である近所の主婦だった。「何か、あったのですか?」「最近ここらへんに空き巣がよく出ているんですって。セバスチャンさん独り暮らしだから、気を付けてね。」「はい・・」 その時、セバスチャンはその話を他人事のように捉えていた。 1964(昭和39)年12月24日。その日、店はクリスマス=イヴという事で朝から閉店まで忙しかった。店を閉め、セバスチャンが黒猫の待つ家へと帰宅しようとした時、向こうの通りから一人の男が歩いて来る事に気づいた。大して男に注意を払わずにセバスチャンが男の傍を通り過ぎようとしていると、彼は腹部に強い衝撃を受けて倒れた。「キャァァ~!」「人が刺された!」「誰か、誰か来てぇ!」セバスチャンは薄れゆく意識の中で、家で自分の帰りを待っている黒猫のことを想った。(シエル・・)―セバスチャン。何処かで、誰かが呼んでいるような声が聞こえて来た。死に間際に、幻聴にでも襲われているのだろうか。セバスチャンが呻きながら目を開けると、そこには幼い男児を連れたシエルの姿があった。幻聴の次は、幻覚か―セバスチャンがそう思っていると、シエルが手を繋いでいた男児が、セバスチャンを見つめてきた。その瞳は、紫と蒼のオッドアイだった。(あぁ、この子は・・)―セバスチャン、先に逝ってしまって悪かった。「シエル、本当にあなたなのですね?」―あぁ、ずっと、お前の事をこの子と一緒に見守っていた。「そうでしたか。この子は、あの時の・・」―ずっと、お前に会いたかった。「わたしもです、シエル。」セバスチャンは、そう言うとシエルを抱き締めた。シエルの肌には、温もりがあった。―漸く、一緒に暮らせるな。「ええ、ずっと・・」セバスチャンは、シエルと幼い息子の手を共に繋ぎながら、光の方へと向かって歩いていった。彼らの後を、一匹の黒猫がトコトコとついていった。「セバスチャンさんの遺品、これで全部かねぇ?」「えぇ。それにしてもあんな事になっちゃって、あのお店なくなっちゃうのかしら?」「さぁねぇ。でも噂だと、前のオーナーの遠縁の親戚の子が、あのお店を継ぐんですって・・」「へぇ~」「さてと、無駄話はもう終わりにして、本棚にある本、さっさと片付けちゃいましょう。」「そうねぇ。」セバスチャンの自宅で近所の主婦達がそんな話をしながら、彼の遺品整理をしていた。セバスチャンが生前集めた本は図書館に遺贈され、彼の家族写真は洋食屋・さくらに飾られることとなった。セバスチャンの四十九日が明けた日の朝、桜木老人の遠縁の親族が、洋食屋・さくらの前に立っていた。「あぁ、ここが・・」彼は感慨深い様子でそう呟いた後、美しいステンドグラスの装飾が施されたガラス扉を開けて、洋食屋・さくらの中へと入っていった。それから、50年もの歳月が静かに過ぎていった。 2024(令和7)年、7月。梅雨が明け、連日熱中症警戒アラートが発令される酷暑の中で、シエル=ファントムハイヴはハンカチで汗を拭いながら、長い坂道を上っていた。彼の家は、この坂道の上の、高台にあった。日傘を持ってくれば良かったと今更ながらシエルは後悔していたが、後少しの辛抱だと思い、熱気と湿気に耐えながら歩いていた。しかし、暑さに耐え切れず、そのまま道端に座り込んでしまった。「大丈夫ですか?」突然頭上から声を掛けられてシエルが俯いていた顔を上げると、そこには長身の美青年が立っていた。烏の濡れ羽色のような美しい黒髪をなびかせ、紅茶色の瞳でシエルを見つめた美青年の顔を見た時、シエルは“誰か”の面影を彼と重ねていた。「すいません、少し気分が・・」「この暑さですからね。少し、店の中で休んで下さい。」「わかった・・」謎の美青年に連れられ、シエルは彼と共に“洋食&カフェ・さくら”の中へと入っていった。「これは、わたしの奢りです。」そう言って美青年は、シエルの前にロイヤルミルクティーが入ったグラスを差し出した。「美味しい・・」甘く冷たいロイヤルミルクティーは、熱く乾いていたシエルの身体を潤した。「暫く奥で休んで下さい。」「ありがとう、ございます。」―お休みなさい坊ちゃん、いい夢を。店の奥にある個室のソファでシエルが眠っている時、脳裏に何処か懐かしい声が響いたような気がした。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月10日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。ユリウスは気配を殺し、静かにセバスチャンとシエルに近づいていった。二人まで、あと数メートルといったところで、ユリウスは背後から誰かに肩を叩かれて振り向くと、そこには数人の男達が立っていた。「ユリウス=ミカエリスだな?」「そうですが、あなた方は?」「警察だ。ちょっとあんたに話があるから、署に来て貰えないか?」「何ですって・・」ユリウスは、殺意に満ちた目でシエルとセバスチャンを睨みつけ、二人の方へと駆け寄ろうとしたが、警察官達に取り押さえられた。「シエル、どうしました?」「何か、誰かが騒いでいるような気が・・」「気の所為ですよ、行きましょう。」「あぁ・・」縁日は、多くの人でごった返していた。「あっ・・」シエルは履いている下駄の鼻緒が切れ、人ごみの中でセバスチャンとはぐれそうになった。するとセバスチャンは困ったような顔をして笑った後、シエルに向かって手を差し伸べた。「これで、はぐれないでしょう?」「あ、あぁ・・」縁日の喧騒から少し離れた神社の高台には、余り人気がなかった。「どうして、こんな所へ?」「それは、見ればわかりますよ。」「は?」シエルがそう言った後、空に大きな破裂音と共に、美しい大輪の華が咲いた。「花火・・?」「皮肉なものですね、空襲で雨のように降って来た焼夷弾の音と、花火の音が同じなんて。」「あぁ、そうだな・・」美しい花火を眺めながら、セバスチャンとシエルは暫く黙り込んでいた。「シエル、来年も、再来年も、ずっと二人で花火を観に行きましょうね。」「あぁ・・」花火が鳴る音を聞きながら、牢屋に居るユリウスは空襲の時の事を思い出し、錯乱していた。「嫌だ、死ぬのは嫌だ~!」「落ち着きなさい!」「出せ~、ここからわたしを出してくれ~!」花火が終わった後、あれほど激しく暴れていたユリウスが急に静かになったのを不審に思った看守が彼の様子を見に行くと、ユリウスは隠し持っていた剃刀で自害していた。「そうですが、ユリウスが・・」ユリウスの訃報を知ったセバスチャンは、彼の葬儀をシエルと共に取り仕切った。「あいつは、幸せだったのかな?」火葬されたユリウスの魂が天へと昇る姿を見ながら、シエルはそう呟いた後、溜息を吐いた。「さぁ、それはわかりません・・」(さようなら、ユリウス・・わたしの片割れ。)ユリウスの四十九日が明け、セバスチャンとシエルは夫婦となった。結婚式は二人だけで挙げた。「はい、笑って下さい。」写真館で二人だけの家族写真を撮った数ヶ月後、シエルは妊娠している事が判った。しかし―「今回の妊娠は、諦めた方がいいでしょう。」シエルは、医師から己の余命がいくばくもない事を知り、愕然とした。(どうして・・そんな・・)病院からの帰り道、シエルはセバスチャンに妊娠の事をどう伝えようか迷っていた。そんな中、シエルは家計の足しになればと思い、内職を始めた。身体に負担がかからない針仕事をしたら、その腕の良さが評判となり、次々と仕事が舞い込むようになった。しかし―「シエル、大丈夫ですか?」「あぁ・・」徹夜で何日も針仕事をしているシエルの身を案じたセバスチャンは、彼女を病院へと連れて行った。「旦那さん、奥さんは妊娠しているんだから、もっと気を遣ってあげないと。」医師からそう言われ、セバスチャンは初めてシエルの妊娠を知った。「どうして、妊娠の事を黙っていたのです?」「お前に、心配をかけたくないから・・」「一人で何でも抱え込まないで下さい、シエル。わたし達は夫婦なのですから。」セバスチャンはそう言うと、そっとシエルを抱き締めた。それから二人は、互いに離れていた時間を埋め合わせるかのように、静かに寄り添いながら暮らしていた。やがてシエルは臨月を迎え、セバスチャンは甲斐甲斐しくシエルの世話をした。「もうすぐ産まれますね。」「あぁ、健康な体で産まれてくれれば、それでいい。」シエルはそう言った後、そっと下腹を撫でた。シエルの出産は、稀に見る難産だった。出産を終え、シエルは産まれたばかりの我が子を抱いた後、静かに息を引き取った。その子供も、産まれた数日後に死んだ。―可哀想にねぇ、幸せそうだったのに・・―今はもう、そっとしておくしかないよ。―そうだねぇ・・(シエル、あなたはわたしと会えて、幸せでしたか?)最愛の家族を相次いで喪い、セバスチャンは虚ろな心を抱えたまま、二人が居ない日々を送っていた。そんな中、セバスチャンの元に一人の老人が訪ねて来た。「シエルが?」「はい、奥様には昔、よくわたしのお店に来て下さいました。シエル様がご家族とよくわたしの店にいらっしゃって、戦争が終わったらまた食べに行きたいと、引っ越される前におっしゃられていて・・」話を聞けばこの老人は、シエルが昔家族とよく外食をする時に行っていた洋食屋の店主だった。「そうでしたか・・わざわざ妻の為にいらして下さって、ありがとうございます。何のもてなしも出来ずに申し訳ございません。」「いえ、いいんです。それよりも、あなたにお願いがあります。」「お願いですか?」「はい、差し出がましいお願いなのですが、わたしのお店を継いで頂けないでしょうか?」「わたしが?」突然の老人の申し出に戸惑いつつも、セバスチャンは数日後、彼の店へと向かった。その店は、店主が戦前欧州から輸入した美しいステンドグラスや家具、調度品などで彩られた、ヴィクトリア朝の世界が広がっていた。「いらっしゃいませ。」セバスチャンを迎えた従業員は、燕尾服姿だった。「おや、あなたは・・」「このお店は、いいお店ですね。なくなってしまうのは惜しい。」「ふふ、そうでしょう。」洋食屋・さくらの店主、桜木はそう言って笑った。まるで何かに導かれるかのように、セバスチャンはその店を桜木老人から引き継いだ。「シエル、あなたがわたしをここへ導いてくれたんですね。わたしに、生きる力を与えてくれる為に。」セバスチャンはそう言うと、自宅の居間に飾ってあるシエルと自分の結婚写真を眺めた。写真の中のシエルが、自分に向かって優しく微笑んでいるように見えた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月10日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「黒執事」「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「はぁ・・」 その日、ファントムハイヴ社社長・シエル=ファントムハイヴは何度目かの溜息を吐いていた。 というのも、新商品を開発しようと思い立ったはいいものの、中々そのアイディアが湧いてこない。 かといって、今更中止にも出来ない。「坊ちゃん、失礼致します。」 ベルを鳴らしてもいないのに、部屋に滑るように入って来たのは、ファントムハイヴ伯爵家執事・セバスチャンだった。「本日のデザートは、ガトーショコラのクランベリーソースがけでございます。」「悪くない。」「おやおや、仕事が余り進んでいらっしゃらないようですね?」 セバスチャンは、書類の山を前にして唸るシエルにそう言うと、一通の手紙を差し出した。『可愛い坊やへ、今年の夏は異常な暑さですね。プリマスの街で、最近猟奇殺人事件が起きていて、被害者は皆10~13歳までの子供達です。どうか、子供達が安心して家族と眠れる夜を迎えられますように、ヴィクトリア。』「プリマスか・・遠いな。」「夏の休暇を取って、プリマスへ行かれてはいかがでしょう?そうされた方が、新商品開発のアイディアが浮かぶかと。」「今すぐ身支度をしろ、プリマスへ向かう。」「イエス、マイ・ロード。」 こうしてシエルとセバスチャンは、プリマスへと向かった。「暑い・・」 ロンドンのキング=クロスから汽車でプリマスへと向かったシエルは、駅舎から出た途端、強烈な日差しに襲われ思わず顔を顰めた。「こんな日差しだったら、エリザベス様から頂いた日傘を持って行けば良かったですね。」「お前、ふざけているのか!?」 シエルがそう言って執事の方を睨むと、彼は黒い雨傘をさしていた。 真夏の強烈な日差しを浴びたシエルは、プリマスの警察署に着くまで何度も気絶しそうになった。「あ、あなたは!?」 プリマス警察の記録保管庫に居た一人の刑事と、シエルとセバスチャンは鉢合わせしてしまった。「確か君は、アバーライン君だっけ?」「そうです。お久しぶりです、ファントムハイヴ伯爵!」「どうして、君がここに?」「異動になりました!」「そ、そうか・・」 セバスチャンは記録保管庫から事件の捜査資料を書き写すと、被害者達の写真を抜き取った。「では僕達はこれで失礼する。」 警察署を出たシエル達は、近くのカフェで昼食を取る事にした。「フィッシュ&チップスか。ロンドンで食べた物よりも美味いな。」「港町だから、新鮮な魚介類が入って来るので、ロンドンの物よりも美味しいのでしょう。」「そうか。それにしても、事件の被害者達は皆黒髪かブルネットか・・しかも、年齢が・」「坊ちゃんが、あの儀式に生贄にされた時と同じ年齢ですね。」 あの時、悪魔崇拝者達は全員セバスチャンに殺された筈だった。 だが、まだその残党が居るかもしれない。 シエルとセバスチャンは昼食を済ませると、カフェから出て、“ホーの丘”へと向かった。 そこは、何も無い所だった。「確か、ここだったな。」「ええ、確か最初の被害者・ジムはある儀式の最中に殺されたようです。」「ある儀式だと?」「妖精の国へ行く儀式だそうです。」「下らん、妖精なんて居る訳が・・」「悪魔を呼び出した坊ちゃんがそれを言いますか?」「うるさい。」「この“ホーの丘”は、妖精の国へと通じる“トンネル”があると、昔から噂されております。」「時間の無駄だったな・・帰るぞ、セバスチャン・・」 シエルがそう言ってセバスチャンの方を振り返ろうとした時、突然シエルの足元の地面が光り出した。「坊ちゃん!」「セバスチャ・・」 シエルがセバスチャンに向かって手を伸ばそうとした時、シエルは地中深くに吸い込まれてしまった。(妖精は、本当に居るのですね・・) セバスチャンは呆然としながら、シエルを吸い込んだ“穴”を見つめた。 いつまで、気を失ってしまったのか、わからなかった。 ただシエルにわかるのは、全身に広がって来る鈍い痛みだけだった。「う・・」 シエルが呻いて起き上がろうとすると、右足に激痛が走った。「セバスチャン、何処だ!返事をしろ、セバスチャン!」 シエルが呼べはすぐに自分の元に駆けつけてくれる執事は、何時まで経っても来ない。(どうなっているんだ・・) シエルが混乱した頭で周囲の状況を確認していると、丘の麓の方から、馬車の音と人の話し声が聞こえて来た。「カイト、本当に“ホーの丘”に・・」「リリー、間違いないって・・」「それにしても、こんな日に・・」 シエルは護身用の銃を取り出すと、話し声が徐々に近づいて来る事に気づいた。 海斗とリリー、ジェフリーが“ホーの丘”へと向かうと、一人の少年が自分達に銃口を向けている事に気づいた。「誰だ、お前達!?」「お前こそ誰だ?俺はジェフリー=ロックフォード。坊主、その身なりからして、貴族の子供か何かか?」「僕は、シエル=ファントムハイヴ伯爵だ。」「ファントムハイヴ伯爵・・ファントムハイヴ伯爵家の者か?」 自分の隣に立っていた恋人がそう呟いたのを、海斗は聞き逃さなかった。「ジェフリー、どうしたの?」「お~いジェフリー、どうした・・ってあれ、このガキは・・」 海斗達に遅れてやって来たのは、キットだった。「キット、そいつを知っているのか?」「知っているも何も、この子は失踪中のファントムハイヴ伯爵家の双子の片割れじゃないか!」「えっ・・」 海斗は、思わず目の前に居る少年の服装を見た。 シルクハットに上等な外出着、そして靴下留めと、ヒールのある編み上げブーツ。 どう見ても、16世紀の服装ではない。「どうしたの、カイト?」「リリー、もしかしたらあの子、俺達と同じかもしれない。」「え?」 海斗がリリーに、少年の服装を見て、彼が16世紀の人間ではなく、19世紀の人間なのではないかという事を話した。「カイト、どうした?」 ジェフリーとキットが謎の少年と睨み合っていると、海斗が自分達の方へと近づいて来た事に気づいた。「ねぇジェフリー、この子はきっと俺と同じなんだと思う。」「そりゃ一体どういう事だ?」「上手く言えないけれど・・“ホーの丘”にこの子が居るのなら・・」「もしかして、この子も“妖精”に連れて来られたというのか?」「“妖精”だと?」 海斗の言葉を聞いたシエルは、驚きの余り目を見開いた。「ジェフリー、この子怪我をしているし、うちの店まで連れて行きましょう。」 リリーはそう言うとシエルの右足に触れようとしたが、シエルに邪険に手を払われた。「僕に触るな!」「落ち着いて、わたしはあなたを助けようとしているの。」「助けなんて、要らない・・」 シエルはそう言って呻くと、そのまま意識を失った。「右足は骨折しているわね。」「“ホーの丘”でタイムスリップした時に、骨折したんじゃない?」「やっぱり、この子の服は、この時代のものじゃないわね。ブーツはオーダーメイドだし、杖もあなたが言う通り、19世紀のものね、カイト。」“ホーの丘”から気絶したシエルを馬車で白鹿亭へと運んだリリーは、シエルの右足の治療をしながら、海斗と話をしていた。「やっぱり、この子の服装は薄着だから、向こうの世界は夏だったんだろうね。」「キットとジェフリーが話していた“ファントムハイヴ伯爵家”の事が気になるなぁ。」「後でジェフリー達に聞いてみたら?」「そうする。」 シエルが白鹿亭のベッドの上で目を覚ますと、丁度部屋に“ホーの丘”で見た女性が入って来た。「あら、起きたのね。」「ここは?」「わたしの店よ。こんな所にあなたみたいな子供を連れて来るのはいけない事だけど、緊急事態だから仕方ないわね。」 そう言いながら女性―リリーがシエルに手渡したのは、鶏肉とハーブが入ったスープだった。 いつもセバスチャンが作ってくれた料理とは比べ物にならない程の粗末なものだったが、シエルは空腹だったのでそのスープを平らげた。「今は、何年だ?」「1589年1月よ。それがどうかした?」「そんな、嘘だろう・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月10日
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人と書店をつなぐ物語。とてもいいお話でした。
2025年09月09日
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三宅島と韓国を舞台にした杉下右京の謎解き。やはり相棒、ほろ苦い結末のお話が多かったです。
2025年09月09日
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猫猫の「蛙」発言には笑いましたw
2025年09月09日
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壬氏様、猫猫にすっかり夢中ですね。
2025年09月09日
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父と久しぶりにKFCへ。とろ〜り月見チーズフィレバーガー。半熟の月見と、チキンフィレとの相性が抜群で最高でした。
2025年09月08日
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前から気になっていた、サンスター文具さんのセミのぬけがらペンケース。父がAmazonから注文してくれて、今日届きました。一郎と名付けました。大切に使います。リュックに付けてみましたが、結構大きかったのですぐに外しました。セミのぬけがらペンケースに入れられるようなシャーペンの芯ケースが欲しかったので、ダイソーで買いました。文具店ではノートとちいかわのシャーペンを2本買いました。
2025年09月05日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。平井摩利先生の「火宵の月」パラレルです。原作とは若干設定が違っています。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。「あら、殿宛の恋文がこんなに沢山!」「凄いわね~、相変わらずのモテッぷり!」セバスチャンの式神、結花と奏はそんな事を話しながらセバスチャン宛の恋文を整理していると、そこへシエルが入って来た。「それ、何だ?」「それは、そのう・・」「シエルちゃんには、関係のないものよ!」式神達は慌ててセバスチャン宛の恋文をシエルから隠そうとしたが、遅かった。「これは、全部あいつ宛の恋文か?」「そうよ。あ、でも安心して、殿は本気じゃないから!」「そうそう、殿には“結婚”とか“家庭”とかに夢を持っていない方だから。幼い頃、母親に捨てられたのが原因かもね。」「へぇ・・」シエルは、セバスチャンの事を何も知らない。どんな家で育ったのか、これまでどんな思いで生きて来たのかを、シエルは何も知らない。(僕は、これからどうしたらいい?)そんな事をシエルが考えながら池の水を眺めていると、突然シエルは何者かに口を塞がれ、地面の上に押し倒された。「ヒッ、ヒッ、漸く会えたねぇ。半世紀ぶりだねぇ、シエル。」そう言って自分の上に覆い被さっていた男は、黄緑色の瞳を輝かせながら、シエルを見た。「お前は・・葬儀屋!?」「シエル、何があったんですか!?」間の悪い所に、シエルと男の前に丁度仕事を終えて帰宅したセバスチャンが現れた。「シエル、その男は・・」「君が、シエルの伴侶かい?はじめまして、小生は葬儀屋、シエルの幼馴染さぁ。」男―葬儀屋はそう言った後、口端を上げて笑った。「幼馴染?」「こいつとは、昔一緒に住んでいたんだ。」「一緒に、住んでいた?」セバスチャンの顔が少し強張っている事に気づいたシエルは、慌ててこうつけ加えた。「一緒に住んでいたっていうのは、言葉のあやで・・“同じ村に住んでいた”という意味だ!」「ヒッ、ヒッ、隠さなくてもいいよ、シエル。昔はよく一緒に寝ていたじゃないか?」「一緒に、寝ていた?」「子供の頃の話だっ!」葬儀屋は、まるでシエルをからかうかのように、シエルの言葉に被せてセバスチャンを挑発した。「葬儀屋、どうしてここへ来た?」「決まっているじゃないか、君を小生の嫁として迎えに来たのさぁ~」「は、嫁?」セバスチャンの紅茶色の瞳が、一瞬暗赤色へと変わった。「誤解だ、セバスチャン!」「そうですか・・」セバスチャンは、そっと部屋の御簾を捲ると、外へと出て行った。「葬儀屋、お前どういうつもりだ!?」セバスチャンの部屋から出て行った後、シエルは葬儀屋を睨んだ。「本当の事だろう、別に隠さなくても困るような事でもないし。」「お前・・」「さてと、小生はこれで失礼するよ。」葬儀屋はそう言うと、部屋を出てセバスチャンを追いかけた。「ヒッ、ヒッ、そんなに嫉妬して貰うなんて、小生は嬉しいなぁ~」「あなた、一体何が目的なんですか。」セバスチャンは少し苛立ったかのような口調でそう言った後、葬儀屋を睨みつけた。「君、シエルの伴侶かい?だとしたら、あの子が今一番大切な時期だという事は、わかってるの?」「一番大切な時期?」「その様子だと本当に何も知らないようだねぇ。」何故だろうか、セバスチャンは葬儀屋と話していると何故かイライラした。「小生達一族は、60年に一度の“変化期”を迎えるのさ。男女どちらにでもなれるのは伴侶次第。」「だから、シエルがあんな事を・・」「君は、自分の出自故にシエルを抱くのを躊躇っているんだろう?」セバスチャンと葬儀屋との間に、見えない火花が散った。「だとしたら、どうだというんです?」「別にぃ、小生がシエルを抱いてやってもいい、と言っているのさぁ。」「あの子に手を出したら許しませんよ。」「ヒッ、ヒッ、そんな怖い顔をしたら、色男が台無しだよ~」「黙りなさい!」セバスチャンが筮竹を葬儀屋に向かって投げつけたが、彼はそれらをひらりとかわして何処かへと消えてしまった。(全く、彼は一体何者なのでしょう?)葬儀屋が姿を消してから暫く経った頃、鶴岡八幡宮で神官をはじめとする呪術師を狙った焼殺事件が相次いで発生した。「何て事だ・・」「暫く治まっていたと思ったのに・・」「恐ろしい・・」(この香り、どこかで嗅いだような・・)「セバスチャン、時行の様子はどうだ?」「時行様は、安心して我が屋敷で心穏やかに過ごしております。「そうか。」執権と話をした後、セバスチャンが執権の館の渡殿を歩いていると、そこへ一人の男が向こうから歩いてきた。擦れ違いざま、男はセバスチャンの直衣の袖に何かを入れた。(また、ですか・・)愛馬に跨る前、セバスチャンは直衣の袖に入れられたものを確かめると、そこには自分宛の恋文があった。宮中に居た頃も、男女問わず恋文を貰った事があった。だが、セバスチャンは生涯誰も愛さない事を決めた。それは、人と鬼との混血として生まれ、人から散々蔑ろにされた過去があるからだった。母は幼い頃にセバスチャンと父親を捨て、その父はセバスチャンが7つの頃に死んだ。父方の家に引き取られ、養子となったが、セバスチャンはいつも孤独を感じていた。彼の心の片隅にあった記憶は、あの蒼と紫の瞳を持つ猫と過ごした日々の事だった。養子だったが貴族であり、容姿端麗である自分に言い寄って来る者が多いが、誰も本当の自分を見てくれない。「お帰りなさいませ、殿。」「お帰りなさいませ。」「時行様とシエルは?」「お二人はお部屋でお休みになれていますわ。」「そうですか。」セバスチャンはそっと二人が居る部屋へと入ると、シエルの髪を優しく梳いた。二人の部屋から出た後、鶴岡八幡宮に残した式神が、何者かに反応するのを感じた。『フン、こざかしい!』(あの声は・・)セバスチャンの全身に激痛が走り、血を吐いた。(わたしの式神が・・破れた・・)人が焼ける臭いが、またした。「ねぇ、殿のご様子は?」「余り変わらないわ。」「それにしても、あの殿の式神を破るなんて・・一体、何者なの?」「さぁ・・」シエルは、そっと自分の左耳を飾っている蒼玉の耳飾りをセバスチャンに握らせ、部屋から出て行った。セバスチャンが倒れてから数日後の夜、シエルが時行と寝ていると、誰かの足音が自分達の方へと近づいて来る気配がした。「セバスチャン?」「ヒッ、ヒッ、違うよぉ。残念だったねぇ。」そう言ってシエルの顔を覗き込んだのは、葬儀屋だった。「小生と一緒に来て貰うよ。」「セバスチャン!」葬儀屋に鳩尾を殴られ、シエルは気絶した。シエルが目を覚ますと、そこは人気のない森の中だった。「ここは・・」「やっと目が覚めたかい?」「お前・・僕をどうする気なんだ?」「大丈夫、小生は君を傷つけたりしないよ。君には、小生の子を産んで貰うのさぁ。」「何を・・言っているんだ?」「あの男は、君の想い人は、一生君を抱かないと思うよ。何故なら、彼は己の出自故に、自分の血を呪っているからねぇ。だから・・」「お前のものになれ、と?ふざけるな!」シエルがそう叫んで葬儀屋の顔を爪で引っ掻こうとしたが、両手を押さえつけられて出来なかった。「強情なところも気に入っているけれど、素直におなりよ、シエル。」「嫌だ、僕は、セバスチャン以外の男の子を生みたくない!」「シエルからその汚い手を離しなさい!」「おやおや、死んだと思ったのに生きていたのかい?まぁいい、ここで君を殺せば、シエルは小生のものになる!」葬儀屋はそう叫ぶと、大鎌で雷を発生させた。「シエルはわたし以外の男には指一本も触れさせません。」セバスチャンは葬儀屋の男が発生させた雷を避けると、彼の顔を思い切り拳で殴った。「ふふ、痛いなぁ・・」「あなたですね、一連の呪術師殺しの犯人は!」「そうさ、あいつらを殺したのは小生さ。小生とシエルの一族、蒼牙族は、雌や子ども、未分化の涙から採れる蒼玉は不死の妙薬として高値で取引されていてねぇ、その所為で絶滅の危機に瀕しているのさ。」「つまり、呪術師を殺す代わりに、一族を保護してやると元国の王から言われたのですか?」「察しがいいねぇ。でも、君を殺せば、小生はシエルを連れて唐土へ帰れる・・だからここで死んでおくれ!」「そうはいきませんよ!」セバスチャンは葬儀屋と死闘の末、彼を倒した。「ヒッ、ヒッ、やるねぇ。」「葬儀屋・・」「そんな顔をしないでおくれ、シエル。」地面に倒れ、荒い息を吐いていた葬儀屋は、そう言うとシエルに向かって弱々しく微笑んだ。「さぁ陰陽師君、ここで小生を殺せ。」「わたしは、無駄な殺生はしない主義なのですよ。わたしの気が変わらない内に、消えなさい。」「そうかい、またねぇ。」葬儀屋は地面からゆっくりと起き上がると、そのまま闇の中へと消えていった。「シエル、帰りましょうか?」「あ、あぁ・・」「それにしても、あなたがあのような大胆な告白をなさるなんて、思いもしませんでした。」「お前、聞いていたのか!?」シエルはセバスチャンの顔を見た途端、あの言葉を思い出して顔を羞恥で赤く染めた。「あのような一世一代のあなたの告白を、このわたしが聞き逃がす筈がないでしょう?」「忘れろ・・」「嫌ですよ。」セバスチャンはそう言うと、クスクス笑いながらシエルに背を向けて歩き始めた。「おい待て、待てったらセバスチャン!」「ふふ、そんなに怒る事ないでしょう。」「お前~!」数日後、土御門家の使者が、「ある物」を持ってセバスチャンの元を訪れた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月05日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。セバスチャンが出勤した後、シエルはセバスチャンが完食した朝食の膳を下げ、台所で食器を洗った。「まぁシエル様、そのような事はわたくしがやりますから。」「これ位やらせてください。有森家では普通にしていましたから。」「シエル様はこの家の奥様なのですよ。わたくしが居るのは、旦那様と奥様の身の回りのお世話をする為なのです。ですからどうか、わたくしの仕事を奪わないで下さいまし。」静からそう言われ、シエルは台所から出てセバスチャンの書斎へと向かうと、そこには壁一面が書棚に覆われ、中にはありとあらゆる種類の本が詰め込まれていた。シエルは恐る恐る、書棚の下段にある一冊の本を抜き取り、広げてみた。するとそこには、美しい挿画と文字で描かれた世界が広がっていた。三年前、まだ火事で全てを失う前に、よく父親の書斎へ行っては、こっそりと小説を寝台の中で読み耽っていたっけ―シエルがそんな事を思いながら本を読んでいると、玄関の扉が開く音がした。「まぁ旦那様、どうされました?」シエルが書斎から出て玄関先へと向かうと、そこには全身ずぶ濡れになったセバスチャンの姿があった。「急な雨に降られてしまいましてね。風邪をひかないように服を着替えようと思って、帰って来たのですよ。」「まぁ、今からお着替えをお持ち致しますね。」「お帰りなさい、旦那様。」「シエル、その本はどうしたのです?」セバスチャンからそう尋ねられ、シエルは書斎から持ってきた本をそのまま持っている事に気づいた。「すいません、そのまま持って来てしまって・・書斎に戻します。」「いいえ、あなたが読みたいのなら、そのままお読みになってもいいんですよ。」「いいんですか?」「ええ。「ありがとうございます。」着替えを済ませたセバスチャンがシエルの姿を捜すと、シエルは夢中になってセバスチャンから借りた本を読んでいた。「シエル、あの本は面白かったですか?」「はい、とても・・」「それにしても、あなたが作った料理は美味しいですね。料理は何処で習ったのですか?」「母から習いました。“将来、嫁いで困る事がないように”と、家事全般を教えてくれました。」華族の令嬢であったシエルが、家事全般が得意であるというのは珍しかった。華族や裕福な資産家の令嬢は、刺繍や裁縫などの淑女教育は受けるが、家事全般は使用人の仕事なのでやらない。もしシエルが自分の元ではなく、他の男の元へと嫁いだら、母親から教わった家事全般は無駄になってしまっただろう。だが皮肉にも、シエルの家族が屋敷ごと炎に焼かれて殺され、有森家の使用人としてそれが役に立ったのだった。「そうですか。シエル、この前一緒に出掛けた時、あなたは女学生達と擦れ違った時に、彼女達が着ていたセーラー服を羨ましそうに見ていたでしょう?」夕食の時、シエルはセバスチャンからそう尋ねられ、黙ってしまった。家族が死んでいなければ、来年の今頃はあの時擦れ違った彼女達と同じように、あのセーラー服を着て女学校へと通っていた筈だった。それなのに―「シエル、あなたが女学校へ行きたいというのならば、あなたの学費を出来る限り援助したいと思っています。」「行きたいです、女学校に。」「わかりました。女学校の受験日まであと一年しかありませんが、今から勉強を頑張れば間に合うでしょう。」こうして、シエルは来年の女学校受験の為に、猛勉強を始めた。「余り無理しないで下さいね。」静はそう言うと、シエルに夜食のおにぎりを差し入れてくれた。「ありがとうございます。」周囲の支えもあって、シエルは女学校の入学試験で首席として合格した。「おめでとうございます、シエル。」「ありがとうございます。」女学校の合格通知が届いた数日後、ミカエリス家に仕立屋がシエルの制服の採寸をしにやって来た。「やはりシエル様には、矢絣の着物に海老茶の行灯袴、編み上げブーツ姿が似合いそうですわ。そうね、髪をマガレイトに結って赤いリボンをつけたら・・」「何をおっしゃいます、セーラー服に編み上げブーツ姿の方が似合うにきまっているじゃありませんか。」「まぁ、今回はわたくしが折れる事に致しましょう。」仕立屋のニナは、そう言ってシエルの採寸を終えた。「そうだわ、シエル様には色々とドレスや外出着を何着か仕立てなければなりませんわね。」「え・・」「そうですね、この際だから色々と仕立てて貰いましょうか。」「では、わたくしはこれで。」ニナがミカエリス家から去った後、シエルは不安そうな顔をしてセバスチャンを見た。「どうしたのです、そのような顔をして?」「本当に、あんなに僕の服を・・」「シエル、わたしはあなたには幸せになって欲しいのです。だから、わたしからのプレゼントは断らずに受け取って欲しいのです。」「はい・・」「さてと、もうお昼になりましたから、出前でも取りましょうか。シエルは何が食べたいですか?」「鰻が食べたいです。」「わかりました。」「まぁ、豪勢なお昼ですね。」「静さんの分も頼みましたから、一緒に頂きましょう。」「ありがとうございます。」静と三人で昼食の鰻を食べていると、玄関のドアを何者かが激しくノックする音がした。「わたしが出ますから、お二人は食事を続けてください。」セバスチャンがシエルと静を残してダイニングから玄関へと向かうと、玄関のガラス扉越しに男の人影が映った。「どちら様ですか?」「こちら、セバスチャン=ミカエリス様のお宅でしょうか?」「そうですが、あなたは?」セバスチャンがそう言って訝し気に自分の前に立っている男を見ると、彼は慌ててセバスチャンに自己紹介をした。「初めまして、わたしはこういう者です。」そう言った男は、セバスチャンに一枚の名刺を手渡した。そこには、“東洋出版 海藤武”と印刷されていた。「週刊誌の方が、我が家に何の用でしょうか?」「いえ、僕は奥様にお会いしたくて・・」「生憎ですが、妻は床に臥せっておりますので、どうぞお引き取り下さい。」「ですが・・」「お引き取り下さい。」セバスチャンは男を睨みつけながら彼の名刺を受け取った後、彼の鼻先で玄関のガラス扉を閉めた。「どなたでしたか?」「週刊誌の記者ですよ。適当な嘘を吐いてここから追い出しました。」(あの記者の事を、少し調べておいた方がいいですね。)「この、役立たずが!」「申し訳ございません・・申し訳ございません・・」セバスチャンに会い、彼から門前払いを喰らった海藤武は、只管主から浴びせられる罵声と打擲の嵐に耐えていた。「力ずくでもいい、あの子をわたしの元へと連れて来い!」武を打擲した主は、息を荒げながら先程まで握り締めていた木刀を無造作に床へと投げ捨てた。「出て行け。」「はい・・」傷ついた身体を引き摺りながら、武は主の部屋から出て、長い廊下を歩きだした。(クソッ、今に見ていろ・・)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月02日
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辞書を作る人たちの物語。子供の頃から愛用していた国語辞書が、沢山の人々によって作られていたのだとわかり、登場人物達と同じ目線で物語を楽しめました。
2025年09月01日
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表紙素材は、黒獅様からお借りしました。「黒執事」「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「お願いだ、助けてくれっ、命だけはっ!」「くどい。」夜の闇に、男の断末魔の悲鳴がこだました。「ティム=ボーレン、1835年生まれ、1889年1月8日死亡。備考特になし、と。あ~、やんなっちゃう、チンケな男の魂の回収なんて、ツイてないわ。」赤髪をなびかせ、赤いコートの裾を翻しながらそう呟いたのは、死神のグレル=サトクリフ。「あ~あ、何処かにいい男、居ないかしら?あ~、川からいい男が流れて来たわっ!」グレルはテムズの流れを漂っている一人の男を河岸まで掬い上げた。男は、美しく艶やかで人魚のような長い黒髪を持ち、長身を奇妙な服に包んでいた。「ミステリアスな雰囲気が漂う男、嫌いじゃないわ。でも死んじゃっているのが残念ね。」グレルがそう言いながら愛用のデス=サイズを男の胸の上に翳した時、微かな呻き声と共に男は静かに閉じていた切れ長の碧みがかった黒い瞳を開けた。「きゃ~、あたしの好みにドストライクなイケメンね!ふふ・・ギャ~!」男の唇を塞ごうとしたグレルは、男から裏拳を喰らい、その場で気絶した。「火月、待っていろ・・今すぐ、助けに行くから・・」男―土御門有匡はそう呟くと、荒い呼吸を繰り返しながら霧に包まれたロンドンの街を歩いた。「全く、今回の事件は胸糞悪いものだったな。」シエル=ファントムハイヴはそう呟きながら、向かいに座っている執事が笑っている事に気づいた。「おいセバスチャン、お前何を笑っている?」「いえ・・坊ちゃんの口から、“糞”という下品な言葉をお吐きになられるとは・・」「僕だって、偶にはそんな言葉を吐きたくなる時がある。」「そのような事を、エリザベス様の前ではおっしゃられませんよう。」「う、うるさいっ!」シエルがそう言ってセバスチャンを睨んだ時、馬車が大きく揺れた後、停まった。「申し訳ありません、人が急に飛び出して来て・・」「人が?」シエルが馬車から降りると、馬車の前から奇妙な服を着た男が倒れていた。その顔には生気がなく、蒼褪めていた。「どうなさいます、坊っちゃん?」「このままここに放っておく訳にはいかないだろう。屋敷へ運べ。」「かしこまりました。」―先生・・(火月、何処だ、何処に居る?)霧の中で妻の声は聞こえるが、その姿は見えない。―助けて・・「火月!」「おや、気が付かれたそうで良かったです。」有匡が目を開けると、彼は見知らぬ部屋のベッドの上に寝かせられていた。自分の顔を覗き込んでいるのは、紅茶色の瞳をしている青年と、眼帯をつけている蒼銀色の髪をした少年だった。「ここは・・」「あなたは馬車の前に飛び出して来たのですよ。」「そうか、世話になったな。」有匡はそう言ってベッドから起き上がろうとした時、肋に激痛が走り、思わず呻いてしまった。「まだ起き上がってはいけませんよ。あなたは肋が三本も折れているのですから。」「火月を・・妻を捜さねば・・」「落ち着いて下さい!」セバスチャンは、何とか有匡を落ち着かせると、溜息を吐いた。「お前達は誰だ?」「自己紹介が遅れましたね。わたしはセバスチャン=ミカエリス。そしてこちらがわたしの主である、シエル=ファントムハイヴ伯爵様です。」「土御門有匡だ。助けてくれて礼を言う。さっきは取り乱して済まなかった。」「カゲツという方・・あなたの奥様は、どのような方なのですか?」「金髪で、紅い瞳をしている。左耳に、紅玉(ルビー)の耳飾りをつけている。」有匡は、セバスチャン達に悪魔崇拝をする教団から逃げる途中、妻・火月をある貴族に攫われ、その部下から拷問を受け、真冬のテムズ川へと投げ落とされたという。「早く火月を、あいつらから、取り戻さないと・・」有匡はそう言った後、苦しそうに咳込んだ。「その貴族の事で、何かわかる事はあるか?」「右手の薬指に、変わったデザインの指輪をしていた。」セバスチャンから紙と万年筆を渡され、有匡は指輪のデザインをその紙に描いた。それは、柘榴に蛇が絡まるデザインだった。「このデザインの指輪・・」「坊ちゃん、見覚えがあるのですか?」「あぁ、テリュース伯爵家の・・」(こいつは、少し厄介だな・・)「旦那様、失礼致します。」「彼女は?」「薬で眠っています。」「そうか。」空から静かに降り出した雪を窓の外から見つめながら、一人の青年は右手薬指にはめた指輪をいじった。(彼女は、わたしだけのもの。誰にも渡さぬ。)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月01日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「お母様、あの方があの子の旦那様だなんて、信じたくないわ!」「お黙り、これは決まった事なのよ!」「でも・・」「とんだ厄介払いが出来て良かったわ。あの方には今まで何人か許嫁が居たけれど、逃げ出してしまったそうよ。」「まぁ・・」「華耶子、あなたにはもっとあの子よりも良い嫁ぎ先を見つけますからね。」 千登勢達がそんな話をしている間、シエルは自室で荷造りをしていた。 少ししかない私物を風呂敷に包んだシエルの元に、忍がやって来た。「お嬢様、どうかお幸せに。」「ありがとう・・」「これを・・」 忍がシエルに手渡したのは、華耶子のお下がりである橙色に牡丹の柄の振袖だった。 美しく派手な華耶子には似合うが、シエルには似合わない柄だが、我が儘を言える立場ではない。 三年間世話になった有森家を、シエルは何も言わずに去った。「ごめん下さい。」「まぁ、シエル様、お迎えに上がれず申し訳ありません。わたくしはミカエリス家で女中をしております、静かと申します。」「いいえ・・」「旦那様、シエル様がいらっしゃいました。」 ミカエリス家の女中・静にシエルが案内されたのは、セバスチャンの部屋だった。「お初にお目にかかります、シエル=ファントムハイヴと申します。」「長旅、ご苦労様でした。食事はもう済ませましたか?」「いいえ。」「では、一緒に出かけましょう。」「え・・」「お嫌でなければ・・」「いいえ、行きたいです!」 自分でも驚く程、シエルは大きな声でセバスチャンにそう言って、恥ずかしさの余り俯いてしまった。(嫌われてしまったかな?) シエルが恐る恐るセバスチャンの方を見ると、彼はシエルに優しく微笑んでいた。「そうですか。では、今から出かけましょう。」 セバスチャンはそう言うと、震えているシエルに向かって手を差し出した。 その手を、シエルはしっかりと握った。「何が食べたいですか?」「あなた様が、食べたい物を・・」「では、わたしの行きつけのお店に連れて行きましょう。」 セバスチャンがシエルを連れて来た場所は、高級レストランだった。「ミカエリス様、いらっしゃいませ。」 レストランの奥から、支配人と思しき男が出て来た。「いつもの席を、お願い致します。」「かしこまりました。」 支配人が二人を店の奥にある個室へと案内した。「食べたら命に関わるものなどありませんか?」「いいえ。」「そうですか。」「失礼致します。」前菜の料理が食べ終わるまで、シエルとセバスチャンの間に気まずい空気が流れた。「あの、どうして僕を・・」「あなたを、守りたいと思ったからです。実は、わたしはずっとあなたの事を捜していたのですよ。」「僕を?」「あなたは憶えていないのかもしれませんが、あなたとわたしは、一度会った事があるのですよ。」「あの時の、縁日の・・」 シエルの脳裏に、あの時の自分を助けてくれた青年の顔が浮かんだ。「あぁ、憶えていらっしゃったのですね。わたしは、あの日以来、あなたの事が気になっていたのですよ。まさか、ご家族が亡くなられたなんて知りませんでした。」「僕は、有森家に引き取られ、使用人同然の生活を送っていました。自分の物は火事で全て燃えてしまって、唯一残っていたのは、この家族写真だけです。」 シエルはそう言うと、首に提げていたロケットを取り出し、その中に入っている写真をセバスチャンに見せた。 そこにはシエルと、双子の兄と両親が写っていた。「これは、僕達が十歳の誕生日の時に近所にある写真館で撮られた家族写真です。その後に・・」「辛い事は、思い出さなくていいのですよ。これからは、楽しい思い出を作っていきましょう、二人で。」「はい・・」 セバスチャンと食事した後、シエルは彼に連れられて写真館へと向かった。「いらっしゃいませ。おや、シエルお嬢様、お久し振りでございます。」 店主は、シエルを見てそう言って微笑んだ。「憶えていて下さったのですね・・」「あの、そちらの方は?」「初めまして、わたしはシエルさんの許婚の、セバスチャン=ミカエリスと申します。本日こちらに伺ったのは、家族写真を撮る為に来ました。」「ほぉ、では早速準備しますので、暫くこちらでお待ち下さい。」「はい・・」「シエルさん、この三年間、色々と辛かったでしょうね。でもこれからは、あなたが辛い思いをした分、あなたを幸せにして差し上げます。」「ありがとうございます・・」「準備が出来ましたので、撮影室へどうぞ。」 シエルとセバスチャンは写真館で写真を撮った後、ミカエリス家へと戻った。「シエルさん、今夜は疲れたでしょうから、お部屋でゆっくり休んで下さい。」「はい・・」「お休みなさい。」 セバスチャンに案内されたシエルの部屋は、日当たりが良く、広かった。 押入れから布団を取り出してそれを広げると、シエルはその中に入って眠った。 もう、独りじゃない。「あの子が、ミカエリス家に娶られただと!?それは、本当なのか!?」「はい。」 御簾の向こうで、己の主が舌打ちしたのを聞いた青年は、恐怖の余りビクリと身体を震わせた。「これから、どうなさいますか?」「それは、今から考える。お前は、暫くあの子を探れ。」「わかりました。」 翌朝、セバスチャンが起きて居間に入ると、そこには焼鮭と白米、そして味噌汁が入った器が箱膳の上に載せられていた。「これは・・」「シエル様が、旦那様のお食事を作って下さったのですよ。」「頂きます。」 セバスチャンがそう言って味噌汁を一口啜ると、心が温かくなった。「静さん、セバスチャンさんは・・」「旦那様は、ご出勤されましたよ。」 台所に下げられたセバスチャンの膳の上に載せられた彼の朝食は、全て平らげられていた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年09月01日
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「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 あれは、まだシエルが幼い頃の事だった。 両親と兄と共に神社の縁日に来たシエルは、いつの間にか彼らと逸れてしまった。―どうして泣いているのです? 不安で泣くシエルの前に、一人の青年が現れた。 彼は美しく艶やかな黒髪をなびかせ、墨染色の浴衣を纏っていた。―可哀想に、家族とはぐれてしまったのですね。あなた、お名前は? シエルが己の名を告げると、彼は優しく微笑み、こう言った。―大丈夫、わたしがあなたのご家族を必ず見つけてさしあげますよ。 青年と共に神社の境内を歩いていたシエルは、すぐに家族と再会する事が出来た。 シエルは青年に礼を言おうとしたが、その姿は何処にもなかった。(また、会えるといいな・・) そんな事をシエルは思いながらも、いつしか青年の事を忘れてしまった。 「何なのよこれ、苦過ぎて飲めやしない!」 甲高いヒステリックな声と共に、頭から液体を掛けられ、シエルは必死に悲鳴を上げるのを堪えた。「全く、伯爵令嬢様は、親からお茶の淹れ方も教えて貰えなかったようねぇ。」 何処か自分を小馬鹿にしたような口調で言って笑ったのは、シエルの養母である千登勢だった。「何をそこで突っ立っているの?さっさとお茶を淹れ直して来て!」「・・わかりました。」 濡れた髪をそのままにして、シエルが養母達の居るリビングから厨房へと戻ると、女中頭の忍がシエルに駆け寄って来た。「まぁシエルお嬢様、どうなさったのです!?」「大丈夫です・・」 シエルは淹れ直した茶をリビングへと持って行くと、そこには一人の青年の姿があった。 美しく均整の取れた長身を、仕立ての良いスーツに包み、千登勢達と何か話をしていた。「それでは、わたしはこれで。」「今日はわざわざ忙しい所を来て下さってありがとうございます。」「いいえ。本日はお会い出来て良かったです。」 そう言った青年と、シエルの目が合った。「あなたは・・」 紅茶色の瞳で自分を見つめる青年の姿と、“誰か”の姿とシエルは重なって見えた。「あら、この子とお知り合いでしたの?」「はい・・」「では、わたしはこれで失礼致します。」 シエルがリビングから出て行くと、青年は慌ててシエルの後を追った。「あなたは、“あの時”の・・」「人違いです。」 シエルは青年に背を向け、自室へと向かった。 そこは、元々物置部屋として使われていた所で、暗くて狭い、窓がない部屋だった。 火事で両親と双子の兄を喪い、シエルは遠縁の親族宅へと引き取られたが、使用人のような扱いを受けていた。 背中まである青みがかった黒髪を櫛で梳きながら、シエルは、憂いを帯びた青碧色の瞳で、右目を覆っている眼帯を見た。 恐る恐る眼帯を外すと、そこには鮮やかでありながら禍々しい紫の瞳があった。 生まれつき左右の瞳の色が違う所為で、シエルは周囲の人々から気味悪がられた。 その瞳を、“綺麗”だと言ってくれたのは、双子の兄・ジェイドだけだった。 だがその兄も、両親と共に炎の中へと消えてしまった。 独りに、なってしまった。 シエルは布団の中に入ると、そのまま目を閉じて眠った。「シエルお嬢様、奥様がお呼びです。」 翌朝、シエルが千登勢達の居るリビングに向かうと、そこにはあの青年の姿があった。「シエル、あなたの旦那様となられる、セバスチャン=ミカエリス様よ、ご挨拶なさい。」「え・・」 シエルが驚愕の表情を浮かべて青年の方を見ると、彼は優しい笑みを浮かべていた。「やっと、会えましたね。」にほんブログ村二次小説ランキング
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