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いつもリュックを使っていて、余った紐がプラプラしてロッカーの扉に挟まってイライラしていました。セリアでその紐を留める道具が売っているのですが、家にあるものでできないかなあと思い、輪ゴムで紐を留める動画をYouTubeで検索して、その通りにしてみました。そしたら、スッキリと余った紐がまとまり、ロッカーに紐が挟まらずストレスフリー!もっと早く知っておけば良かったです。ステッドラーの復刻REGシャーペン0.5を2本楽天市場で注文しました。お店に行っても0.5のシャーペンがなかったので、楽天で注文していて良かったです。大切に使います。後日、0.3のシャーペンも楽天で注文しました。
2025年10月31日
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表紙素材は、あめいす様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。遥か昔、この大陸には百を超える民族が居た。異なる文化・宗教・風習などが混在しつつも、彼らは互いに尊重し合っていた。しかし、その均衡が大きく崩れたのは、戦争だった。やがてそれぞれの民族は国を築き、治めていくようになった。大陸の東にあった青龍国は、妖狐族が治めており、彼らは自分達が住む自治領に異民族・紅牙族を“お情け”で住まわせ、彼らには多額の税金を納めさせていた。その所為で、紅牙族は貧困で喘ぎ、娘は年頃になると都市部の遊郭と売り飛ばされていった。金髪紅眼という珍しい容姿故に、紅牙族の子供達は奴隷として妖狐族と人間の貴族達との間で、高値で売買されていた。「いやだぁ~!」「さぁ、来い!」「ごめんねぇ~、ごめんねぇ!」今日もまた、紅牙族の子供達が人買いに売られていった。紅牙族の子供達は、幼少期は黒髪紅眼であったが、思春期を迎える頃には金髪紅眼となり、更に紅牙族の涙は紅玉となって高値で取引されている。「火月、ここに居たのかよ。」「琥龍・・」幼馴染の琥龍から声を掛けられ、火月は我に返った。「あの子達、どうなるの?」「さぁな、いちいち考えてたら気が滅入るだけだぜ。今の俺達に出来るのは、一生懸命働く事だけだ。」「う、うん・・」「さ、仕事に戻ろうぜ!」火月は工房へ、琥龍は農場へと、それぞれの職場へと戻っていった。「あら火月ちゃん、遅かったわね。」「ちょっと、嫌なものを見ちゃって・・」「大丈夫よ、そんなの寝ればすぐに忘れるわよ!さ、仕事、仕事!」火月は同僚達に励まされながら、工房の仕事に取り掛かった。今火月達が作っているのは、妖狐族の王宮に献上する美しい幟だった。下絵を描き、赤い布地に美しい模様を一針一針、彼女達は刺繍していった。「何とか完成したわね。」「ええ。」火月達は完成した幟を傷つけぬよう、慎重に畳んで布に包んだ。「火月ちゃん、頼んだわよ。」「はい。」「気をつけてね!」「わかりました、行って来ます!」幟を包んだ布を自転車の前カゴに入れ、火月は工房から出て、険しい山道を慎重に下りていった。あと少しで納品先の工房に火月が着こうとした時に、彼女は一台の馬車に轢かれそうになった。「危ないだろう、気をつけろ!」「ごめんなさい・・」火月がそう言って御者に謝ると、彼は砂埃を上げながら去っていった。前カゴに入れていた幟が汚れていないかどうかを火月が確めると、幟は無事だった。「すいません、遅くなりました。」「あぁ、来たね。幟は?」「こちらに。」「ありがとう。まぁ、見事なもんだね。これからも、よろしく頼むよ!」取引先の工房の女将・ダリヤは、そう言って微笑むと、火月に金貨が詰まった袋を手渡した。彼女が村へと戻る途中、それまで晴れていた空が急に曇り始め、激しい土砂降りの雨が降り始めた。(うわ、最悪!)火月が慌てて雨宿りできる場所を探していると、少し離れた所に山小屋がある事に気づいて、彼女はその中へと入った。濡れた服を脱いで肌着姿になった時、火月は小屋の奥に一人の男が居る事に気づいて悲鳴を上げた。「うるさい。」「ご、ごめんなさい・・まさか人が居るとは思わなくて。」「その髪と瞳・・お前もしかして、紅牙か?」男からそう尋ねられ、火月は思わず俯いてしまった。外出する際にいつも髪が目立たぬように被っていた頭巾をこの日に限って自宅に忘れて来てしまった事に気づいた。自分に火月が怯えている事に気づいた男は、そっと自分が羽織っていた外套を彼女の上に掛けた。「これだと、少しは暖かくなるだろう。」「あ、ありがとうございます・・」小屋の中にある暖炉に男が薪をくべると、彼の顔が炎に照らされ、火月は思わず声を出しそうになった。(この人、もしかして・・)艶やかで長い黒髪に、切れ長の碧みかがった黒い瞳をしたその男の名は、大陸中の誰もが知っている。「どうした?」「あの・・つかぬ事をお聞きしますが、あなたは・・もしかして土御門有匡先生でいらっしゃいますか?」「あぁ。それがどうした?」「先生のような方が、どうしてこんな山奥に?」「少し、野暮用でな。」「野暮用って・・」男―土御門有匡が次の言葉を継ごうとして口を開きかけた時、突然山小屋の扉が何者かに乱暴に叩かれる音がした。「殿下、こちらにいらっしゃいますか!?」「殿下、いらっしゃるのなら返事をなさって下さい!」外で騒ぐ部下達の声を聞いた有匡は舌打ちした後、火月の左耳を飾っている紅玉の耳飾りに気づいた。(あれは、昔わたしが・・)「あの・・」「その外套はやる。」「え?」火月に背を向け、有匡は山小屋から出た。「殿下!」「ご無事だったのですね!」「あぁ。」「ここは危険です、早く下山致しませんと!」「わかっている、耳元で怒鳴るな。」「す、すいませんっ!」有匡は部下達を率いて、下山した。「火月ちゃん、お帰りなさい。酷い雨だったわね。」「うん・・」雨が止み、火月は無事村に着いた。「あら、その外套は?」「山小屋で雨宿りした人に貰ったんだ。」「どんな人だったの?」「それがね・・」火月が村の女達に有匡の事を話そうとした時、轟音が山の方から響いて来た。「何、今の!?」「みんな、無事か!?」そう言いながら工房に入って来たのは、琥龍だった。「琥龍、どうしたの!?」「さっき向こうの山が崩れた!ここも近々崩れるぞ!」火月達が安全な場所へと避難しようとした時、再び轟音が響き、それと共に濁流と土砂が村を襲った。「きゃぁ~!」火月は村人達と共に濁流と土砂から逃げようとしたが、なす術なく濁流に呑み込まれ、意識を失った。「殿下、これからどうなさいますか?」「村人達の救出に向かえ。」「はっ!」有匡は、濁流に襲われ跡形もなくなった村を望遠鏡越しに眺めた後、深い溜息を吐いた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月29日
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「薄桜鬼」「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―ねぇ、いつか約束してくれる?必ず、僕をお嫁さんにしてくれるって。―あぁ、約束だ。それは、幼い日に交わした、他愛のない約束。何故、今頃になって、思い出すのだろう。「有匡様、起きていらっしゃいますか?」「あぁ。」1862(文久2)年、京。京都守護職を幕府から任命された藩主・松平容保は、約千人もの会津藩士を率いて上洛し、黒谷の金戒光明寺に入った。「寒いなぁ。」「会津も寒いが、京も寒いなぁ。」藩士達がそんな話をしながら荷物を解いていると、そこへ有匡が廊下を通りかかった。「おい、あれ・・」「江戸から容保様と共に来た・・」「女のような顔をしているな。」「あんな花のような顔をしているからって、侮っちゃならねぇ。あいつは、剣も槍も強ぇ。」藩士がそんな話をしていると、山本覚馬が藩士達をそう諫めた後、有匡が消えていった容保の部屋へと目を向けた。「容保様、お疲れ様でございました。」「有匡、其方は京に詳しいと聞く。」「京には、昔住んでいた事がありました。ですが、二十年前の事ですし、土地勘がないにも等しいので、余り容保様のお役には立てないかと・・」「そうか。」外からは、雪がはらはらと降る音が聞こえた。「会津も、今頃降っているのだろうな。」「はい。」その夜、容保が藩士達を労う為、彼らを島原遊郭へと連れて行った。「京の女子はいい香りがする。」「華やかな所だなぁ。」有匡達がそんな事を話していると、向こうに人だかりが出来ている事に気づいた。「何だ?」「あれは・・」人だかりの中心に、美しく着飾った夜の華―太夫が揃いの髪型と着物を着た禿を従えて、内八文字の形を高下駄で描きながら客が待つ茶屋へと向かっていった。その太夫の、眩い金色の髪と、血の如く美しい真紅の瞳に、有匡は“誰か”の姿と重ね合わせていた。「殿・・有匡殿?」覚馬に肩を揺さ振られ、有匡が我に返ると、あの太夫の姿は何処にもなかった。「さすけねぇか(大丈夫か)?」「すいません、少し呆けてしまいました。余りこういった華やかな場所は苦手でして・・」「何を言う、この色男が!」そう言って有匡に絡んで来たのは、会津藩士の山田洋平だった。「噂で聞いたが、お前江戸に居た頃女からの恋文が山程届いたそうじゃないか!?」「色男は羨ましいなぁ~」「厠へ、行って来ます。」有匡はそう言うと、山田達から逃げた。厠から宴席へと戻る途中、氷が張った水溜まりに映った己の顔を見ながら、有匡は溜息を吐いた。異人との混血児として産まれ、この碧みがかった切れ長の瞳の所為で、鬼の子だ、魔物の子だと幼少の頃から気味悪がられ、石を投げられた記憶は忘れられない。(この瞳を見ても怯えなかったのは、“彼女”だけだった・・)有匡の脳裏に、幼い日にあの約束を交わした“彼女”の姿が朧気に浮かんだ。宴席に戻ろうかと有匡が廊下を再び歩き出そうとした時、向こうから走って来た娘と彼はぶつかりそうになった。「怪我は無いか?」「すいまへん、おおきに。」そう言った娘は、真紅の瞳で有匡を見た。「其方・・」「紅玉、こげな所に居たがか!捜したぜよ!」そう言って酒臭い息を吹きかけながら娘の手を掴んだのは、土佐弁を話す男だった。「おんし、わしの相手をするぜよ!」「嫌、はなして!」「やめよ、嫌がっておるだろう?」「何じゃ、おまんは黙っとれ・・」娘と男との間に割って入った有匡は、男の顔に掌底打ちを喰らわせた。「今の内に、逃げよ。」「おおきに。」有匡は、廊下で気絶している男を放置し、覚馬達が居る宴席へと戻った。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月29日
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巫女の件は色々と複雑な事情がありましたが、解決してよかったです。
2025年10月29日
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「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。しんしんと雪が降る中、その赤ん坊は孤児院の前に捨てられていた。宝石のような美しい紫と碧の瞳を持ったその赤ん坊の絹の産着には、“シエル”と金糸で刺繍がされていた。孤児院の職員達は、その赤ん坊を我が子のように育てた。それから、13年もの歳月が過ぎた。「シエル、ご飯よ~!」「今行きま~す!」シエルはそう言うと、読んでいた本にしおりを挟み、図書館から出て、食堂へと向かった。「頂きます!」「シエル、昼食の後にわたしの部屋に来て。」「はい、わかりました。」昼食の後、シエルが院長室に入ると、彼女は何処か思いつめたような表情を浮かべていた。「院長先生?」「シエル、そこへおかけなさい。」「は、はい・・」シエルは院長室のソファの上に腰を下ろした。「さぁ、デザートにアップルパイをどうぞ。」「頂きます・・」シエルは、熱々のアップルパイを一口大にフォークで切り、それを食べながら院長の話を聞いた。「あなたは、もうすぐ誕生日を迎えるわね、シエル。」「はい・・」「実は、あなた宛にこの手紙とトランクが届いたの。」院長はそう言うと、机の上にトランクと一通の手紙を置いた。シエルは恐る恐る手紙を読み始めた。“親愛なる坊やへ、13歳のお誕生日おめでとう。あなたの家族に関するものを贈ります。どうかあなたが、家族と再会出来ますように。”手紙の差出人の名前は、書かれていなかった。「この手紙は、誰からのものですか?」「それが、わからないのよ。」シエルは手紙を丁寧に折り畳んで封筒の中に仕舞うと、トランクの蓋を開けた。中には薄紅色の絹のドレスと、一冊の日記帳が入っていた。日記帳には、鍵がかかっていた。「日記帳の鍵は、これよ。」院長がシエルに手渡したのは、碧い石が中央に嵌め込まれている美しい鍵だった。シエルがその鍵を日記帳の鍵穴に挿し込むと、軽快な音と共に日記帳が開いた。“この日記を、愛する我が子達へ贈る。”その日記帳には、ある女性が産まれて来る子供達に宛てた手紙のような内容だった。“あなた達にもうすぐ会えるのが楽しみだわ。”日記帳のページは、そこで終わっていた。「この日記帳は、誰の物ですか?」「それが、わからないのよ。もしかしたら、あなたを産んだお母様のものなのかもしれないわね。」「僕の、お母様・・」シエルは、院長からその時初めて、自分を産んだ母親が何処かで生きている事を知った。「院長先生、僕、お母様に会いたいです!」「あなたなら、そう言うと思ったわ。」院長はそう言うと、シエルに優しく微笑んだ。「シエル、院長先生と何の話をしていたの?」シエルが院長室から出て廊下を歩くと、孤児院仲間のフィニアンがシエルの方へと駆け寄って来た。フィニアンは金髪にエメラルドの瞳を持った少年で、シエルと仲良しだ。「フィニ、僕もうすぐ孤児院を出る事になるんだ。」「え!?」「実は・・」シエルはフィニに、手紙の事を話した。「そう・・じゃぁ寂しくなるね。」「あぁ。」その日の夜、シエルがフィニ達と部屋で寝ていると、何かが割れるような音と共に、何かが焦げたような臭いが漂って来た。「みんな、火事よ!」エミリー先生の声でシエル達は飛び起き、一目散に部屋から飛び出した。その時、シエルはトランクを部屋に置き忘れてしまった事に気づいた。「シエル、何処行くの!?」「トランクを取って来る!」「僕も行くよ!」シエルがフィニと共に部屋へと戻ると、フィニはシエルのベッドの上に置かれていたトランクを掴むと、それを窓の外へと放り投げた。「シエル、こっちだ!」フィニがシエルの手を掴んで燃え盛る部屋から出た直後、紅蓮の炎に孤児院は包まれ、一瞬で焼け落ちた。「危なかったわね・・」「はい・・先生、これから僕達はどうなるのでしょうか?」「それは、わからないわ・・」火災の後、シエルをはじめとする孤児院の子供達は、他の孤児院へと移る事になった。「シエル、元気でね!」「先生達も、お元気で!」シエルはフィニ達と初めて離れ離れとなり、東部にある孤児院で暮らす事になった。駅でフィニ達と別れを告げ、シエルは一人、東部行きの汽車に乗り込んだ。見慣れた街の景色が徐々に遠ざかってゆくのを車窓から眺めながら、シエルは急に襲って来た不安と寂しさを、溜息を吐くことで誤魔化した。そんな彼を乗せた汽車が海岸沿いの線路を走っている頃、王都・ロンドンではある騒動が起こっていた。それは、長年失踪していた女王の愛娘・アリスの遺体が東部の海岸で発見された事から始まった。検死解剖の結果、アリスの死因は溺死ではなく、後頭部を鈍器のようなもので殴打された事による頭部外傷だった。警察はアリスを殺害した犯人を捜したが、依然として見つからなかった。捜査は行き詰まり、未解決事件としてやがて人々の記憶から徐々に薄れてゆくものと警察はそう思っていた矢先、アリスを殺害したと一人の女が出頭して来た。女の名はマリア、かつてアリスの家庭教師だった彼女は、更に驚愕の事実を話し始めた。アリスは、母親である女王から逃げ、密かに子供を産んだが、その子供はマリアが個人へ預け、その事を知ったアリスと口論の末揉み合いとなった末に彼女を殺害してしまったと、マリアは犯行を自供した。思いもよらぬ事件の真相を知ったマスコミは、連日アリスの子供が何処にいるのかを報道し、人々の好奇心を煽った。「何とかしなくてはね。」「母上・・」「この事件の所為で、女王陛下は床に臥せてしまわれたわ。一刻も早く、アリス様の子を見つけないと。」「ええ、そうですね・・」「レイチェル、どうしたの?」ファントムハイヴ伯爵邸では、女主人・クローディアがそう言って自分の右隣に居るレイチェルを見た。「もしかして、“あの子”の事を考えていたの?」「いえ、そんな事は・・」「“あの子”の事はもう忘れなさい、いいわね?」「はい・・」「母上、余りレイチェルをいじめないで下さい。彼女は病み上がりで、余り本調子ではないのですから。」「そうね。わたくしはそろそろ出かけるから、後は頼んだわよ。」「はい。」クローディアはレイチェルを横目でちらりと見た後、ダイニングルームから出て行った。「ヴィンセント、ごめんなさい・・」「レイチェル、わたしの方こそ君の力になってやれなくて済まない・・」「時々思い出すの。もし、“あの子”が生きていたら、今頃どんな子に育っていたのかしらって・・」レイチェルはレースのハンカチで目元を拭いながら、産まれてすぐに死んだ双子の片割れの事を想った。「“あの子”は、きっと何処かで・・」「え?」「ヴィンセント様、女王陛下からお手紙が届いております。」「わかった。」レイチェルは、夫のヴィンセントの言葉を聞いてある疑問を抱き始めた。(もしかして、“あの子”は生きているの?)書斎で女王からの手紙を読み終わった後、ヴィンセントは深い溜息を吐いた。「どうか、なさいましたか?」「いや・・少し、困った事になりそうだと思ってね。」ヴィンセントがそう呟いた時、外から雷鳴が轟き、激しい雨が書斎の窓を打ち始めた。「ひぃ~、降って来たな。」「さっさと宿屋の中に入ろう。」同じ頃、旅芸人一座・ポラリス座の団員達は、そんな事を話しながら宿屋の中へと入っていった。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月28日
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太子殿下の過去が辛い…あと一巻で完結するの、これ!?と思ってしまうくらい辛い展開ばかり…あ~、最終巻が早く読みたいです!
2025年10月27日
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セリアのContinueプラスノート。A4·A5·B5のサイズを持っていて、色がグレーと白。書きやすくて創作用として重宝しています。 これ、書き味がよくて気に入っています。大切に使います。
2025年10月27日
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単なる復讐劇かと思いきや、死者の国から甦り、現代の世界からやってきた聖と共に復讐を果たすスカーレット。血腥い描写が多くて、これ本当に細田守作品か?と思うくらいこれまでの小説とは全然違いましたね。ラストの戴冠式のシーンは圧巻の一言につきます。
2025年10月26日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。篝火が爆ぜる音と、琵琶の音と共に、一人の女が静かに舞い始めた。紅い月に照らされ、女の射干玉の如き艶やかな黒髪が揺れ、碧みがかった切れ長の黒い瞳は、酒宴の主である正田秀時を見つめていた。秀時は、女の妖艶な舞を惚けたように見つめていた。「あの者を、寝所へ。」秀時の女好きを知っていた家臣は、渋面を浮かべながらも、彼の命に従った。「見事な舞であった。褒美を取らす故、寝所へ参れ。」「有難き幸せにございます。」秀時の寝所へ向かった女は、背後から秀時に抱き着いた。「そう急くな、優しく抱いてやる。」そう言って秀時は女に向かって笑ったが、全身が動かない事に気づいた。「薬が効いてくれて、助かった。」「なっ・・そなた・・」「そなたが無類の女好きで良かった。こうも簡単に騙されるとはな。」そう言った女の、切れ長の瞳が月光を受けて妖しく煌めいた。「殿、如何されたのです?」家臣が秀時の様子を見に彼の寝所へ向かうと、そこには口から血を流して息絶えている秀時の姿があった。「誰ぞ薬師を呼べ!」紅い月が、街道を歩く一人の女を照らしていた。壺装束姿の女がある所へとさしかかろうとしていた時、近くの叢の中から、数人の男達が出て来た。全身から異臭を放ち、垢面蓬髪の身なりをした彼らは、女を慰み者にしようと、一斉に彼女を取り囲んだ。だが、女は天高く跳び上がると、冷たく男達を見下ろした。「なっ・・」「髪が、紅く・・」「運が悪かったな。」男達は、炎に焼かれ、骨すら残せなかった。「若様、お帰りなさいませ。」「お帰りなさいませ。」壺装束姿の女―もとい、土御門家嫡男・有匡は、家人達に出迎えられた後、自室で変装を解いた。「若様、湯の用意が出来ました。」「そうか。」湯殿に有匡が入ると、そこには見慣れぬ顔の侍女が居た。「そなた、名は?」「朔、と申します。」「後で寝所へ来い。」湯浴みを終え、有匡が寝所に入ると、件の侍女が隠れていた几帳の陰から飛び出し、棒手裏剣を彼に向かって投げつけて来た。「お覚悟!」「下忍如きがわたしを倒そうなど、笑止!」有匡がそう言って侍女を睨むと、持っていた太刀で彼女の胸を貫いた。「若様、ご無事でございますか!?」「あぁ、大事ない。ただのネズミ退治だ。それの後始末をしておけ。」「はっ・・」家人達が侍女の遺体を運び出した後、寝所で有匡は泥のように眠った。翌朝、有匡は朝日を浴びながら馬を走らせていた。いつもは家人達すら近寄らせず、城の中に籠りがちなのだが、偶には外の空気を吸いたくて、有匡は子供の頃から気に入っている湖へと向かった。そこは、美しく澄んだ鏡のような湖面故に、“瑠璃湖”と呼ばれていた。掌で湖の水を掬い、その温度を確めると、有匡は徐に服を脱いで裸となり、湖の中へと入っていった。「おやまぁ、先客が居るなんて。」「しかも、良い男。」バシャバシャと音を立てながら湖に入って来たのは、町の遊び女達だった。「ねぇ、安くしとくわよぉ。」「極楽浄土へ連れて行ってあげるわ。」そう言いながら自分にしなだれかかる女達を湖から追い出した後、有匡は湖で髪や肌についた汚れを取った。そろそろ湖から上がろうと有匡が思った時、馬の嘶きが聞こえて来た。「火月、そんなに遠く行っちゃ駄目だって!」「大丈夫だって!」黒髪と金髪の少女が、そんな事を話しながら湖の中へと入って来るのを有匡は見た。有匡は暫く二人の少女達が湖で遊んでいるのを眺めていたが、金髪の少女の様子がおかしい事に気づいた。「火月、しっかりして~!」どうやら、金髪の少女は藻に足を取られて溺れてしまったようだった。有匡は居てもたってもいられず、金髪の少女を助けに行った。「いやぁ、触らないで!」「バカ、暴れるな、人が助けてやっているのに!」有匡は何とか金髪の少女と共に湖から上がった。「火月、大丈夫?」「禍蛇・・」「この人が助けてくれたんだよ!」「ありがとう・・ございます・・助けて下さって・・」金髪の少女―火月は、そう言って美しい真紅の瞳で有匡を見つめた。「ひとつ、いいか?」「は、はい・・」「服を着ろ。」有匡の言葉を聞いた火月は、顔を赤くした後慌てて服を着た。「火月様~、どこにいらっしゃいますか~?」「火月様~」遠くから、火月達を捜している乳母と侍女達の声が風に乗って聞こえて来た。「火月、ヤバいよ、もうお城に戻らないと・・」「あ、あの、お名前は?」「名乗る程の者ではない。」有匡はそう言うと、湖から大慌てで去る火月達を見送った。(騒がしい娘達だったな。)そう思いながら有匡が服を着ていると、湖岸に何か光る物が見えた。拾い上げてみると、それは涙型の美しい紅玉の耳飾りだった。それに触れた瞬間、有匡の脳裏に、ある光景が浮かんで来た。―先生、愛しています。そう言って火月に似た女は、この世に産み出した双つの命を腕に抱いている自分に微笑んでいた。(何だ、あれは?)「火月様、またあの湖に行ったのですね!?」「だって・・」「あの湖には、魔物が棲んでいるのですよ!もう二度と行ってはなりませんよ、良いですね!?」「うん、わかったよ・・」「姫様、お館様がお呼びですよ。」「は、はい・・」火月が父・直高の元へと向かうと、彼は渋面を浮かべながらある文を読んでいた。「父上、それは・・」「岩田め、其方を嫁がせねば戦をすると、ふざけた事を言って来た。」「父上、僕は誰の元にも嫁ぎたくありません!」「わかっておる。だが火月、そなたには、心に決めた相手でも居るのか?」「そ、それは・・」火月の脳裏に、何故か湖で助けてくれた男の顔が浮かんだ。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月25日
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「相棒」「火宵の月」二次小説です。公式様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。両性具有・男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。その神殿は、人里離れた森の中にあった。神殿の中には、黒衣を纏った神官達がある儀式を行っていた。「皆、準備はよいな?」「はい。」「では、始めましょうか。」神官達の中から一人の背が高い者が祭壇へと向かおうとした時、廊下から慌ただしい足音が聞こえて来たかと思うと、一人の少女が神殿の中へと入って来た。「すいません、遅れました!」「静かになさい、神聖な儀式の最中ですよ!」「は、はい・・」金色の髪をなびかせながら、その少女―火月は、儀式に参加した。聖なる呪文を火月達が詠唱していると、祭壇の中央に置かれていた女神像が激しく揺れ始めた。「キャァ~!」「落ち着きなさいっ!」パニックを起こした神官達を背が高い神官長が何かと落ち着かせようとしたが、一度広まったそれは落ち着くばかりかますます大きくなるばかりだった。やがてパニックを起こした一人の神官が、祭壇に置かれていた燭台を倒し、大理石の床が紅蓮の炎で赤く染まった。神官達は一目散に出口へと向かって走り出したが、黒煙と炎によって視界が遮られ、更にパニックを起こしている所為で彼女達は正常な判断が出来なくなっていた。その結果、火月以外の神官達は皆その場で焼死した。命からがら神殿から抜け出し、森の中を彷徨っていた火月は、遠くから蹄の音が聞こえて来たのを感じながら気を失った。同じ頃、神殿から少し離れた小さな村では、森の近くに住んでいる少年・尊が、今日も慣れない農作業に精を出していた。夜の闇のような美しい漆黒の髪と、黒曜石のような黒い瞳を持った彼は、村人達から、“忌み子”、“呪い子”と呼ばれ、村八分に遭っていた。農作業をしているのに、尊は全く日に焼けず、雪のように白い肌をしているので、それも村人達から気味悪がられていた。「ふぅ・・」額に浮かぶ汗を拭った尊は、農作業を切り上げ、森の中にある湖へと向かった。そこは美しく湖面が玻璃(ガラス)にように透き通っているので、“玻璃湖”と呼ばれていた。うだるような暑さの中で、この湖の周りだけは冷たく清らかな空気に満ちていた。もうそろそろ湖から上がろうと尊が思った時、森の向こうから雷鳴のような蹄の男が聞こえて来た。(何だろう?)ガサガサと叢を誰かが掻き分ける音がしたかと思うと、尊の前に一人の男が現れた。その男は背が高く、鷹のように眼光が鋭かった。「あの、僕に何か用ですか?」「其方、名は?」「え・・尊といいますけど・・」「わたしと共に来て欲しい。」「え、え?」訳がわからぬまま男に連れられて尊が向かった先は、森の入り口に停まっている貴人向けの牛車だった。「出してくれ。」「はっ!」「あの、あなた誰なんですか?僕を何処へ連れて行く気なんですか?」「後で説明する。」「え!?」尊と男を乗せた牛車は暫く森の中を走った後、ある貴族の屋敷の前で停まった。「お帰りなさいませ、春樹様。」「例の巫女を見つけたと、急ぎ父上にご報告しろ。」「はい。あの、そちらの方は?」牛車から降り、屋敷の中に入った男と尊を出迎えた屋敷の使用人達は、訝しげな目で尊を見た。「近くの村で見つけた。この方が、“闇の巫女”だ。この方の身支度をするように。」「は、はい・・」屋敷の使用人達によって尊は湯殿へと連れて行かれ、そこで身を清められた。更に薄化粧を施され、生まれて初めて美しい衣を纏った。「巫女様のお支度が調いました。」「そうか。」尊をこの屋敷へと連れて来た男―大河内春樹は、女房と共に寝殿の中に入って来た“巫女”の姿を見た瞬間、その美しさに息を呑んだ。「どうした?」「いえ、何でもありません・・」「そうか。」(僕、これからどうすればいいの?)「其方、名を何と申す?」「尊、と申します・・」「何と、男か!まぁよい、これで帝の寵愛も得られよう。春樹、巫女の事を頼んだぞ。」「はい、父上。」「あの、僕はこれからどうすればいいのですか?」「貴方はここで暫く休んで下さい。」「は、はい・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月25日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。火月は、幸せな頃の夢を見ていた。“先生!” 自分よりも年上で、博識な有匡の事を、火月はいつしか“先生”と呼ぶようになった。 二人はいつも一緒に居た。“ねぇ先生、おとなになったら、けっこんしてくれる?”“あぁ、約束だ!”“やくそくね!” それは、子供の頃に交わした、他愛のない約束だった。 平和で穏やかな日々は、戦争によって突然終わりを告げた。 火月は、家族と共に安全な国外へと避難する事となった。“戦争になったら、会えなくなるの?” そう言って不安がる火月に、有匡はこんな言葉を掛けてくれた。“大丈夫、また会えるよ。” 有匡は、火月に紅玉の耳飾りを贈った。“ありがとう、大切にするね。” それから、二人は離れ離れになった。 有匡は、戦争で名将軍と謳われた父・有仁を亡くし、敵国の捕虜となった。 捕虜となった有匡を待っていたものは、生き地獄そのものだった。 毎日長時間、薄暗く狭い炭鉱で働かされ、粗末な食事を与えられる日々。 少しでも反抗しようものなら、暴力が待っていた。(生き抜いてやる、何としてでも!) 成長した有匡は猛勉強の末に士官学校に入学し、首席で卒業し、幹部候補生の一人となった。 血統と家柄を重んじるラグナス皇国軍の中で、戦災孤児の有匡が大佐となったのは、ごく稀な事だった。 周囲からは、憧憬と嫉妬、そして畏怖の目で見られた。 捕虜だった頃の忌まわしい記憶は、有匡の記憶を大きく傷つけた。 その所為か、有匡は余り人と関わらないようにしていた。 いつしか、彼は“人嫌いの策士”と噂されるようになった。 だがそんな彼にも、一番大切にしているものがあった。 それは―「起きろ。」「ん・・」 火月が目を開けると、そこには長年おもいつづけていた有匡の姿があった。「先生・・」「火月、久し振りだな。」「ここは、何処ですか?」「ここは、ラグナス皇国軍本部だ。お前には、暫くここでわたしと暮らして貰う。」「えっ・・」「何をそんなに驚く事がある?お前は敵の捕虜となったのだから、当然だろう?」「捕虜・・」 有匡の言葉を聞いた途端、火月の脳裏にあの音楽祭で起きた惨劇の光景がよみがえって来た。「あの人達は・・」「皆、死んだ。わたしが殺した。」「どうして・・」「戦争に理由などない。あるのは無限に続く悲しみと憎しみの連鎖だけだ。」 有匡はそう言うと、恐怖に震えている火月を見た。「安心しろ、お前だけは、わたしが絶対に守ってやる。」「本当に?」「あぁ、本当だ。」 火月を抱き締めたい衝動に駆られたが、有匡はそれを堪えて彼女の部屋から出て行った。「大佐、こちらにおられましたか。」 有匡が火月の部屋から出ると、彼を見つけ、一人の青年が彼の元へと駆け寄って来た。「アレクシス、どうした?何か問題でも起きたのか?」「いいえ、何も問題はありません。ただ・・」「その顔だと、また誰かがわたしの事を色々と噂をしているのだろう。全く、暇な連中だ。」 有匡はそう言って部下を見ると、彼が両腕に抱えている手紙の束に気づいた。「それは?」「あ~、これは・・」 部下の戸惑った様子を見た有匡は、彼から手紙の束を受け取った。 それは案の定、自分宛の恋文だった。「これはわたしが全て処分しておくから、お前は仕事に戻れ。」「は、はい!」 廊下を走ってゆく部下を見送ると、有匡は手紙の束を抱えながら執務室へと入った。 中は外と同じように寒かったので、有匡は手紙の束を暖炉にくべた後、執務机の上に置かれている未決済の書類の山を見て溜息を吐いた。「これでよし、と・・」 書類の山を半分片づけた有匡が溜息を吐いていると、執務室のドアが荒々しく何者かにノックされた。「アリマサ、居るか?」「そのようにノックしなくても、居りますよ。」 有匡がそう言って執務室で書類仕事をしていると、そこへ有匡の上司であるフランク将軍が入って来た。「これは何だ!?」「何だ、とは?」 フランク将軍が有匡に見せたのは、一枚の写真だった。 そこには、有匡が火月を横抱きにしている姿が映っていた。「この金髪の娘は、あの歌姫ではないか!一体この娘とお前はどんな関係があるのだ!?」「彼女とは、ただの幼馴染です。それ以上でも、それ以下でもありません。」「それで、今その娘は何処に居るのだ!?」「それは、たとえ閣下であってもお教えする事は出来ません。」「相変わらず、食えない奴だな!とにかく、我が国とエーリシアとの関係は良好とはいえん。いいか、おかしな真似をするなよ、いいな!」「わかりました。」(うるさいジジイだ・・) フランク将軍が執務室から去った後、有匡は溜息を吐いて書類仕事を再開した。 同じ頃、火月は部屋から抜け出し、ラグナス皇軍本部の内部を散策していた。(ここは・・何処?) 広大で複雑に入り組んだ建物の中を歩いている内に、火月は迷子になってしまった。 部屋に戻ろうにも、何処をどう行けばいいのかわからない。(どうしよう・・)「もし、そこのお嬢さん、何かお困りのようですね?」 困り果てた火月の前に現れたのは、銀髪紅眼の青年だった。「あの、部屋に戻りたいのですが、どう戻ればいいのかわからなくて・・」「では、わたしがあなたの部屋まで案内しましょう。」「え、いいんですか!?」「困っている淑女(レディ)を助けるのは、紳士の仕事ですから。」 そう言った青年は、優しく火月に微笑んだ。「火月、こんな所に居たのか!」「先、先生・・」 二人の背後から氷のような冷たい声が聞こえ、彼らが振り向くと、そこには眉間に皺を寄せた有匡が立っていた。「殿下、このような所にいらっしゃるとはお珍しい。」「いやいや、偶には現場に出てみないとわからない事があるからね。」 青年と有匡の間に、ピリピリとした空気が流れている事に火月は気づいた。(何だろう?)「こちらの淑女とは、知り合いかい?」「はい、わたしの大切な客人です。」 有匡は少し苛立った様子で火月を青年から引き離すかのように、自分の方へと抱き寄せた。「おや、こんな時間だ。アリマサ、またね。」「ええ・・」 青年は去り際、火月にウィンクした。「先生、ごめんなさい。」「ここが敵地だという事を忘れるな。」「はい。あの、さっき僕を助けてくれた人は、先生のお知り合いなのですか?」「知り合いではない。あの方は、この国の皇太子様だ。」「え、えぇ~!」「そんなに驚く事はないだろう。あの方はいつも“銀の塔”にいらっしゃるから・・」「“銀の塔”?」「王族のみが住む事を許された場所だ。火月、あの方には余り近づかぬ方がいい。」「え、どうして?」「どうしても、だ。今お前の身分を知っているのは、わたしと、軍の上層部の者だけだ。今、お前の国とこの国との関係が悪いのは、お前も知っているだろう?」「はい・・」「むやみに出歩くな。わたしが留守にしている間、お前に何かあったら・・」 有匡はそう言うと、火月を見つめた。「部屋まで送ろう。」「ありがとう、ございます・・」(何だったんだろう、“あれ”は・・) 部屋に送り届けてくれた際に有匡が一瞬見せた、自分に向けてくれた笑顔の意味を知りたくて、火月はその日の夜、一睡も出来なかった。「今日はいつになくご機嫌ですね、サーシャ様。何か良い事でもありましたか?」「あぁ。今日皇国軍の本部に行ったら、天使に会えたんだ。」「天使、でございますか?」「金色の髪に、わたしと同じ紅い瞳をした美しい娘だったよ。何処かで会ったような気がする。」 ラグナス皇国皇太子・アレクサンドルは、温かい浴槽にその身を沈めながら、自分を睨んでいた黒髪の美丈夫の事を思い出していた。 彼とは、士官学校時代に何度か会った事があったが、余り親しくなかった。「サーシャ様、どうかなさいましたか?」「いいや、少し疲れていてね。君達はもう下がっていいよ。」「わかりました・・」 執事官達が自室から出て行った後、アレクサンドルは浴室から出ると、素肌の上にガウンを羽織り、冷たい夜風が吹くバルコニーへと出た。(これから、楽しくなりそうだ・・) 翌朝、火月が寝返りを打ちながら大きな欠伸をしていると、誰かが部屋の扉を激しくノックした。(誰?) 火月が恐怖で固まっていると、誰かが部屋の前から遠ざかってゆく足音が聞こえた。「なぁ、本当に居るのか、大佐の愛人?」「居るに決まってるって!だって俺、見たんだ、この前・・」「お前達、そこで何をしている?」 火月の部屋の前で騒いでいる兵士達に有匡がそう声を掛けると、彼らはまるで蜘蛛の子を散らすかのようにその場から逃げていった。(全く、人の噂というものは恐ろしいな・・) 有匡がそんな事を思いながら溜息を吐いていると、部屋の中から大きな物音がした。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月25日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。その日は、雲一つない快晴の日だった。「見て、綺麗な空!今が戦争中だなんて思えないや!」腰下までの長さがある金髪を揺らしながら、一人の歌姫はそう叫んで青空を見つめた。「火月様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、そろそろお時間ですよ。」「わかった。」歌姫―エーリシア連合国軍所属の高原火月は、音楽祭に出演する為、基地に来ていた。戦場で戦っている兵士達を慰める為、火月は音楽祭に出演している他の歌姫達と音楽祭を盛り上げた。音楽祭の盛り上がりが最高潮に達した時、“それ”は起きた。「何あれ?」「サプライズ?」観客達が口々にそう言いながら上空を見上げると、そこにはカラフルな落下傘が次々と地上に降りて来た。「え、あれ・・」観客達が地上に降りて来た者達が、敵国軍の兵士達だと気づいたのは、彼らのシンボルカラーである真紅の軍服が落下傘の陰から見えた時だった。「逃げろ、敵だ!」それまで歓声に包まれていた会場は、悲鳴と銃声、怒号に包まれた。「火月様、こちらです!」「一体何が起きているの!?」「それは、わかりません。それよりも早く・・うっ!」火月は、目の前で人が撃ち殺されるのを初めて見た。「嫌、しっかりして!」無駄だと知りながらも、火月は倒れた男の身体を揺さ振った。その時、無機質かつ冷たい靴音が火月の方へと近づいて来た。(敵の残党か・・)紅蓮の炎と漆黒の煙に包まれ、ラグナス皇国大佐・土御門有匡は、弾切れになった拳銃を床に投げ捨てると、携帯していたダガーナイフを取り出し、敵の残党へと迫っていった。その時、一陣の風が吹き、太陽の光が“敵”の姿を照らした。白磁のような肌、眩い光を放つ美しい金髪、そして上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。“せんせい、ぼくがおとなになったら、けっこんしてくれる?”幼い頃、大切な“誰か”と交わした約束。“あぁ、約束だ。”「火月、火月なのか・・?」「先‥生・・?」火月は、自分の前に立っている敵兵が、初恋の人である事に気づき、驚愕の表情を浮かべた。“大きくなったら、結婚しよう。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた大切な人は、自分に向かってナイフの刃先を向けていた。どうして、彼が敵軍に居るのか。何故、彼が“ここ”に・・「大佐、ご無事ですか!?」二人が互いに見つめ合っていると、そこへ一人の兵士が現れた。「あぁ。」「この女は、殺しますか?」「いや、この女は人質として価値がある。彼女はわたしに任せて、お前は先に行け。」「はっ!」有匡の部下が二人の前から去ると、有匡は冷たい目で火月を見た。「わたしと、共に来て貰おうか?」「嫌だと言ったら?」「力ずくで、連れて行くまでだ。」有匡はそう言うと、火月の鳩尾を殴って気絶させた。「済まない、火月。わたしを許されないでくれ。」有匡は火月を横抱きにすると、惨劇の舞台から去って行った。“こんな所に居た。どうして、泣いているの?”“僕の目が、気持ち悪いって。”“どうして、こんなに綺麗なのに。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた、有匡。彼と共に過ごした時間は、何よりも楽しかった。だが、別れの時は突然訪れた。“戦争になったら、会えなくなるの?”“大丈夫、また会えるよ。”別れの時、火月は有匡とあの約束を交わした。それなのに―(どうして、こんな形で再会ってしまったんだ。わたしは、お前の事だけを想っていたんだ。どうか、お前のあの笑顔が、曇らぬように、わたしは・・)有匡は、自分の膝上で眠っている火月の美しい金髪を優しく梳いた。(わたしは、この先どんな事があっても、お前を守る。だから、今は幼子のように眠れ、火月。)「ん、先生・・」火月が寝返りを打った時、彼女が耳につけていた紅玉の耳飾りが美しく光った。「ゆっくり眠れ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月25日
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今日は無印良品とセリア、文具店で文具を買いました。セリアではyoutubeで紹介されていたバインダーとシャーペン、無印良品ではルーズリーフ、文具店ではクルトガウッドを買いました。ちょっと買いすぎました。24日から始まった無印良品週間。25日はバインダー(写真右)、26日はバインダーを買いました。セリアのバインダーは、開け方がややこしいし、爪を傷めてしまうのが難点ですね。無印良品のバインダーは、ワンタッチで開けられるのでいいです。どちらも中央にリングがないので手に当たらないのでいいです。大切に使います。NICIのヒョウのキーリングを、文具店で買いました。同じデザインの筆箱を買いたかったのですが、売り切れていたので、1個だけ売っていたキーリングを買いました。父がリュックにつけてくれました。大切に使います。
2025年10月25日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あの、あなたは・・」「エル=ティムール神官、あんたの義妹になる女さ。」「御台所様、大奥に入られた暁には、京風の装束や調度品を全て武家風に改めて頂きます。」「そのような事、主上がお許しになる筈がございません!」「そうや、宮様を蔑ろにする事は、主上を蔑ろにする事どす!身の程を弁えなはれ!」 滝山の言葉に猛反発したのは、火月のお付きの女官達だった。「あ~あ、やっぱり始まったね、縄張り争い。下らないったらありゃしない。」 神官はそう言って笑うと、その場から去っていった。「皆さん、待ってください!僕が、今から装束や調度品を武家風に改めます。」「宮様・・」「あきません、そのような事をなさっては!」「荻、僕は武家に嫁いだのですから、その家風に染まるのは当然でしょう。」「まぁ、御台所様からそのような言葉を頂き、嬉しい限りでございます。では早速、わたくし達が・・」「装束や調度品は大切な物ばかりなので、荻達に運んで貰います。」「そ、そうですか・・」大奥での騒動は、たちまち「表」にも伝わった。「絢宮様は、どうやら芯がお強いお方のようで・・」「偽者だけどね。」「つ、艶夜様!?」「なぁに、そんなに驚く事ないじゃん。アリマサはそれを承知のうえでカゲツと結婚したんだし。」「それは、まことなのですか、上様!?」「あぁ。」 有匡はそう言うと、食事に手をつけずに本を読み始めた。「どうかされたのですか?」「何でもない、下がれ。」「は・・」「もしかして、また毒入りの食事が運ばれると思ってんの?」「お前には何の関係もないだろう。」 有匡は、一度毒殺されそうになった事があった。 彼を亡き者にしようと企む者達が毒見役の者達を買収し、“安全だ”と有匡に嘘を吐いて河豚の肝を食べさせたのだ。 それ以来、有匡は自分が贔屓にしている料亭が作る料理しか食べなくなった。「要らないなら、神官が食べちゃおう。」「好きにしろ。」 有匡がそう言いながら呆れ顔で自分の食事を平らげている神官を見ていると、突然廊下の方が騒がしくなった。「何事だ?」「上様、一大事にございます!水戸にて攘夷の動きあり!」「放っておけ。水戸では、誰も彼もが尊王攘夷を叫ぶ輩が居ると聞く。それは今に始まった事ではないのだから、どうという事ではないだろう。」「上様、水戸の攘夷運動を放置すれば、それらは野火のように日の本に広まりまする!」 大老・井伊直春はそう叫ぶと、互いの鼻先が触れ合うか合わぬかの距離で有匡に詰め寄って来た。「上様、どうか・・」「其方の好きにいたせ。わたしは知らぬ。」「有難き幸せにございまする!」 こうして、“安政の大獄”が始まった。 外に、動乱の嵐が吹き荒れている事など露知らず、大奥では有匡をもてなす宴の準備が慌しく行われていた。「あの、僕にお手伝い出来る事はありますか?」「まぁ御台所様、そのような格好でこちらにおいでになってはなりません!」 小袖に襷姿で御膳所に入って来た火月を見た御殿女中達はそう叫ぶと一斉に慌てた。「上様が初めてこちらへいらっしゃるので、上様の好物を作ろうと思って・・駄目かな?」「まぁ、御台所様・・」「御台所様がそうおっしゃるのなら、わたくし達は御台所様に従うまでです。」「ありがとう、皆さん、あの、上様のご好物は・・」「上様は、河豚の刺身が大層お好きでございますよ。」 そう火月に教えたのは、上臈御年寄の常盤だった。「ありがとうございます!」「いいえ。わたくしのような年増でも、御台所様のお役に立てて何よりです。」 時間はあっという間に過ぎていき、有匡が大奥入りする時が来た。「上様のお成り~!」 大奥と中奥を繋ぐ錠が外され、滝山の合図によって鈴が高らかに鳴らされた。(先生、何と凛々しいお姿・・) 裃姿の有匡に火月が見惚れていると、不意に彼と視線がぶつかった。「その簪・・」「え?」 火月は、有匡の視線が、彼女が髪に挿している赤い薬玉の簪に注がれている事に気づいた。「憶えて下さって嬉しいです!この簪は昔、あなた様が僕に・・」 火月がそう言って有匡に笑みを浮かべると、彼は火月の髪から徐にその簪を抜き取った。「其方には幼過ぎて似合わぬ。」「先・・生・・?」「代わりにこれを。」 有匡がそう言って火月の髪に挿したのは、赤い椿の簪だった。「何だ、気に入らぬか?」「い、いいえ・・」「ならば良い。」 そう言って廊下を再び歩き出した有匡の後を、火月は慌てて追い掛けた。 華やかな宴の間、有匡は終始無言だった。「上様、どこかお加減でも・・」「構うな。」「上様、膳の用意が出来ました。」 常盤の合図で、女中達が膳を持って部屋に入って来た。「今日は、河豚の刺身をご用意致しました。」 有匡は、火月を睨むと、こう言った。「お前か、この膳を用意せよと命じたのは?」「先・・上様が、河豚の刺身がお好きだと聞きましたので・・」「戯けた事を申すな!」 有匡はそう怒鳴ると、膳を乱暴に払い、部屋から出て行った。「待って下さい、上様!何がいけなかったのですか?」 慌てて自分に追い縋ろうとする火月の手を、有匡は冷たく振り払った。「其方には、何も望まぬ。」「あ、待って、先生!先・・」 有匡に触れようとした火月の眼前で、冷たく非情な音と共に、大奥は再び閉ざされた。「御台所様は?」」「お部屋にて、お休み中でございます。」「まぁぁ、何処かお身体が優れないのですか?」「いいえ、お気になさらず。」 菊は、そう言うと見舞おうとする常盤を拒絶した。(どうしたんだろう、先生・・昔は、優しかったのに・・) 火月は寝返りを打ちながら、枕元に置いている椿の簪を手に取った。 有匡からこの簪を髪に挿して貰った時、とても嬉しかった。 彼が、自分の事を憶えていてくれたと。 それなのに、何処か有匡と自分との間に見えない壁があるようで、悲しかった。「不貞寝してんの、だっさ。」「どうして、ここに?」「別にぃ。それにしても常盤って奴、あんたに嘘吐いてアリマサから寵愛されようなんて、浅ましいよね。」「嘘って、どういう事ですか?」「知らなかったの?アリマサは、肉と生魚が苦手なのさ。特に、河豚はね。昔、河豚の肝を食べさせられて、死にかけたからね。」(あ・・)「僕、何も知らなくて・・」「誰だって、自分の弱味を他人に見せたくないし、知られたくないもんだよ。ここは、アリマサにとって敵ばかりだからね。」「先生の、好物って・・」「アリマサが好きなのは、稲荷寿司とおはぎ、それに野菜の和え物だね。あんただけに、特別に教えてあげる。」 だから、もっと神官を楽しませてよね。「そのお顔を見るに、随分とお疲れのご様子ですな、上様?」「放っておけ。」「しかし、ここ数日お食事を召し上がらず、上様のお躰を皆心配しております。せめて、一口だけでも・・」「わたしが食事を取らぬのは、また毒を盛られて死にかけるのが嫌だからだ。」「上様・・」「もしわたしが死んでも、悲しむ者は居らぬだろうよ。あぁ、井伊あたりがわたしの死を喜ぶかもしれん。何せわたしは・・」「失礼致します、上様。御台所様からお届け物にございます。」「御台所様から?」「失礼仕ります。」 そう言って側仕えが有匡の前に運んで来たのは、膳の上に載った、おはぎだった。「これは?」「それは、御台所様が直々にお作りになられたものです。」「御台が?」「はい。先日のお詫びをしたいと。」「そうか・・」 有匡は、恐る恐るおはぎを一口食べると、それはとても甘かった。「上様、どうかされましたか?」「いや、何でもない。」 その時、有匡は自分が泣いている事に気づいた。―お珍しいわね、上様がお渡りになるなんて。―大奥嫌いの上様が・・「僕、どうしよう、緊張してしまう・・」「火月様、何もご心配なさる事はありませんわ。わたくしが、“ちゃんと”手筈を整えましたから。」「手筈・・?」「さぁ、そろそろお時間ですよ。」 火月は菊に、それ以上聞く事が出来なくなった。「おもてを上げよ。」有匡が寝所に入り、そう火月に声を掛けると、俯いていた顔を上げた彼女は、何処か苦しそうだった。「どうした、気分が悪いのか?」「いいえ。躰が、急に熱くなって・・」 火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「其方は、わたしに抱かれていればよい。」「あの、ひとつ、お願いが・・」「何だ?」「痛く、しないで下さい。」「わかった、優しく抱いてやる。」 寝所には、衣擦れの音と、二人の甘い声が響いた。「常盤、其方には暇を出す。」「上様、何故にございます!?」「其方、わたしからの寵愛を得ようとし、火月を陥れるとは、浅ましいにも程がある。貧乏公卿の娘が、宮家の姫に勝てるとでも?分を弁えよ。」「上様、どうか・・」「わたしは此度の事で其方を罰するつもりはないが、其方を大奥へ送り込んだ井伊はどう思うであろうな?」「あ・・」 常盤は、その夜の内に大奥から追い出された。「この痴れ者が!」「申し訳ございませぬ、井伊様・・」「もう良い、下がれ。」(あの異人とのあいの子には、好きにはさせぬ!) 正春は有匡への憎しみを滾らせていった。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月24日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「鬼だ、鬼が来たぞ!」「逃げろ~!」いつものように近所の子供達から石を投げられ、火月が泣いていると、そこへ一人の少年がやって来た。「大丈夫か?」「はい・・」「僕がお前を守ってやるから、もう泣くな。」そう言って彼は、火月の涙を優しく拭ってくれた。それが、土御門家の嫡子・有匡との出会いだった。有匡も火月も、異人との間に産まれた混血児だった。それ故、周囲の者達からは、鬼だの妖だの化猫だのと言われ、迫害を受けていた。「まぁ宮様、どうなさったのです!?」「少し、転んだだけ。」乳母の菊は火月が嘘を吐いている事に気づいた。「さぁ、お召し替えをなさいませんと。」火月は、菊に髪を梳いて貰いながら、有匡と再会できたらいいなと思っていた。同じ頃、有匡は病床の父・有仁を見舞っていた。「父上、お加減は如何ですか?」「調子はいい。有匡、お前に渡したい物がある。」「父上、これは・・」有仁が有匡に手渡した物は、自分の前から姿を消した母の懐剣だった。「いつかお前に、大切な人が出来たら、この懐剣をその者に渡せ。」「父上・・」「有匡、お前だけは幸せに・・」「父上~!」土御門家十四代将軍・有仁が逝去した事により、有匡は時期将軍として江戸城で暮らす事になった。「有匡様、もう会えないのですか?」「そんなに悲しまないで。生きていれば、きっとまた会えるから。」自分と別れるのを嫌がる火月に、有匡はそう言うと、彼女の髪に赤い薬玉の簪を挿した。「また、会おう。」それから、十年もの月日が流れ、火月は成人を迎えた。「姉様、ご結婚おめでとうございます。」「ありがとう。でも、あの方は冷たく、少し粗相をしただけでも家臣を斬ってしまう程恐ろしい方だとか・・」火月の姉・絢は、有匡との婚儀を一月後に控えたある日、失踪した。「何という事でしょう、このままでは・・」「火月様、お館様がお呼びです。」「はい・・」火月は、父から、失踪した姉の代わりに、有匡の元へと嫁ぐ事を命じられた。「宮様、よろしいのですか?」「何をそんなに悲しがっているの、菊?僕が有匡様・・先生の妻になれるなんて、嘘みたい。」火月はそう言いながら、袱紗に包まれた赤い薬玉の簪を見た。 それは、幼い日に有匡から贈られた物だった。(また先生と昔みたいに一緒に居られる!)こうして、火月は有匡の元へ嫁ぐ事になった。京を発った火月の花嫁行列が江戸へ向かっている頃、有匡は弓を射っていた。「お見事です、上様。」「そなたは?見ない顔だな。」「お初にお目にかかります、この度老中に任命されました、阿部定春と申します。」「へぇ、あんたが新しい老中?あの親父と全然似てないね。」有匡と阿部の間にそう言って割って入って来たのは、一人の少女だった。「艶夜、ここへ何しに来た?」「別にぃ、大奥が退屈だから、こっちに来ただけ。何かさぁ、滝山あたりがカリカリしてんだよね。輿入れの事で。」「輿入れというと、京から・・」「あいつら、必死になってその宮様に対抗心燃やして馬鹿みたい。アリマサの寵愛なんて、一生得られないのにね。」有匡の妹・艶夜こと神官は、そう言うと笑った。「絢宮様は、大変気立てが良い方だとお聞きしています。」「ふ~ん、それじゃぁあいつらに虐め殺されるのがオチだね、可哀想に。」「口を慎め。」「まぁ、その宮様、神官が可愛がってあげるから、心配しないで。」神官は、そう言うと笑った。「あの、あの方は・・」「あいつは、長年生き別れていた妹だ。百戦錬磨の滝山も、あいつには敵わないらしい。」京を発ってから一月後、火月は有匡との婚儀の日を迎えた。「宮様、こちらへ。」「は、はい・・」婚礼装束である十二単姿の火月が婚儀の場に現れると、周囲はその美しさにどよめいた。―あれが・・―絢宮様・・暫くして、直衣姿の有匡がやって来た。(あぁ、漸く会えた・・)火月がそう言って有匡を見ると、彼は氷のような瞳で火月を睨むと、彼女にそっぽを向いた。(え・・)一瞬何が起きたのか、火月は信じられなかった。(この人が、僕に優しくしてくれた先生?まるで、別人みたい。)有匡と婚儀を終えた後、火月は大奥に入った。「お初にお目にかかります、御台所様。わたくしは大奥総取締役の、滝山と申します。」嫉妬と欲望、愛憎渦巻く大奥という茨の海の中に、火月は放り込まれた。「へぇ、あんたアリマサの嫁?偽物の癖に可愛いじゃん。」神官はそう言うと、口元に笑みを閃かせた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月24日
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今回も面白くて目が離せない展開ばかりでした。
2025年10月23日
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今回も面白かったです。
2025年10月23日
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表紙素材は、ソラ様からお借りしました。「黒執事」「ツイステッドワンダーランド」二次創作です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。「はい、僕に何かご用ですか?」「どうして、君が・・」「もしかして、僕がオーディションで主役に選ばれた事を、不満に思っていらっしゃるんですか?だとしたら、見当違いもいいところです。」「何だって・・」少年の美しい顔が徐々に怒りに歪むのを見たシエルは、そのまま彼に背を向けて去って行こうとした。しかし―「お待ち、まだ話は終わってないよ!」「僕が主役に選ばれたのは、実力で選ばれたからです。」「ウギィ~!」シエルが自分の腕を掴んでいた少年の手を振り払い食堂から出て行った直後、誰かの叫び声が聞こえて来た。「坊ちゃん、起きていらっしゃいますか?」寮の自室でシエルが数学の宿題をしていると、ドアのノックと共にセバスチャンが部屋に入って来た。「どうした、こんな時間に?」「食堂で坊ちゃんが召し上がれなかった、チーズインハンバーグと海老フライです。おまけにチップスも添えておきました。」「要らない。」「おやおや、身体は正直ですねぇ。」シエルの腹の虫が盛大に鳴ったのを聞いたセバスチャンは、クスクスと笑いながら夜食が入った袋を彼に手渡した。「食堂で僕に絡んできた奴、確か僕と同じ専科生だった筈・・」「リドル=ローズハートさんですね。ご両親は有名な俳優で、リドルさんはお母様から英才教育を受けていらっしゃったとか。なので、坊ちゃんに主役を奪われた事が悔しくて堪らないのでしょう。」「そんな事を言われてもな・・」オーディションで主役に選ばれたというのに、リドルとのやり取りがあり、シエルの気分はセバスチャンの手料理を食べても気が晴れなかった。「金魚ちゃ~ん!」「フロイド、僕に何の用だい?」リドルが自室で読書をしていると、ノックもなしにフロイドが入って来た。「別にぃ~、オーディション落ちた金魚ちゃんを慰めに来ただけ。」フロイドはそう言うと、リドルの唇を塞いだ。「んっ、やめ・・」「なんで?」フロイドはリドルが蕩けるような表情を浮かべているのを見て、口端を歪めて、彼にこう言った。「俺と気持ち良いコトしよう、金魚ちゃん?」「ジェイド、フロイドは何処に行ったんです?」「リドルさんの所でしょうね。オーディションに落ちたリドルさんを“励まし”に行くとか・・」「そうですか・・」「おや、フロイドを捜しに行かないんですか?」「ええ。お前の顔を見れば、フロイドは変な事をしでかす事はしないでしょう。」アズールはそう言うと、眼鏡のブリッジを手で押さえた。彼の前に置かれている机の上には、家計簿が広げられていた。「はぁ~、今月も食事が赤字か・・」「食べ盛りなので、仕方ありませんね。」「ジェイド、そう言いながら間食をするのはやめろ!」「夜中はとてもお腹が空いて仕方ないんです。」そう言ったジェイドの手には、お徳用のポテトチップス(のり味)が握られていた。「明日も早いんですよ。フロイドの事は放っておきませんか、アズール?それに、僕は食べても太らないんです。」「それは僕に対する嫌味か?」「いいえ。」ジェイドがそう言ってポテトチップスを一袋食べ終えた時、フロイドが部屋に戻って来た。「お帰りなさい、フロイド。おや、その手形は?」「お休みぃ~」フロイドが寝室に入った後、ジェイドは二袋目のポテトチップスを開けて、こう言った。「あの様子だと、振られましたね。」翌朝、シエルが眠い目を擦りながら寮の部屋のベッドの上から起き上がると、部屋のドアを何者かが激しくノックした。(誰だ?)暫くシーツにシエルが包まって恐怖で震えていると、誰かの舌打ちする声と共に、部屋の前から去っていく足音が遠ざかっていった。「坊ちゃん、顔色が悪いですよ?何かあったのですか?」「まぁ、何も被害がなかったからいいが・・」バレエ=レッスンの後、シエルが更衣室で練習着から制服に着替えていると、右の爪先に突然激痛が走った。「おい、どうしたんだ?」「突然、右足が痛くなって・・」同じ専科生のエースがシエルをベンチに座らせ、彼の革靴を脱がせると、右足が血で赤く染まっていた。革靴の裏には、画鋲が仕込まれていた。「一体誰が・・」「とにかく、保健室に行こう。」「はい・・」エースと共にシエルが保健室に入ると、そこには白衣姿のセバスチャンが丸椅子に座っていた。「おや、どうされました?」「ミカエリス先生・・えっ!?」「ミカエリス先生、革靴の裏に画鋲が仕込まれて、それを踏んでしまいました。」「そうですか。傷口をよく見たいので、エース君はもう教室に戻っても構いませんよ。」「は、はい・・」エースが保健室から出て行ったのを見送った後、セバスチャンはシエルの方へと向き直った。「今朝の出来事と関係があるのでしょうか?」「さぁな。だが僕は、このままやられっ放しでは僕のプライドが許さない。」「では、どうなさいますか?」「耳を貸せ。」シエルがセバスチャンの耳元に何かを囁いた。「わかりました、そのように・・」昼休み、シエルが食堂でブランチを食べていると、そこへエースとトレイ=クローバーがやって来た。「ファントムハイヴ、怪我の具合はどうだ?」「軽く画鋲が足に刺さっただけなので、大丈夫です。」「それにしても、最近リドル先輩の様子が少しおかしいんだよな~」「え、どんな風に?」「なんか・・いつも授業を真剣に聴いていたのに、最近ボーッとしているような・・」「それは、心配だな・・」エースの話を聞いていたトレイは、そう言った後食堂から出て行った。「リドル先輩の事になると、トレイ先輩は過保護になるからなぁ。あれ、何処に行くんだ、ファントムハイヴ?」「ちょっと、外で昼食を食べようと思って。」「そうか・・」気分転換の為、食堂から出て学院の中庭にある東屋のベンチの上に腰を下ろしたシエルは、双子の兄の事を想った。いつも一緒だった兄と初めて離れて暮らす事になり、シエルは少し心細かった。「ジェイド・・」「僕を呼びましたか?」そう言いながらシエルの前に現れたのは、ホールサイズのピザが入った箱を抱えたジェイド=リーチだった。「食べます?」「いえ、いいです・・」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月22日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 海斗とジェフリーの婚礼の日は、雲一つない晴天だった。「まぁ、今日は素敵な日になりそうね。」「ええ。」 新婦の姉であるアナスタシアは、ペールブルーのドレスを着ていた。 彼女は、皇太子妃となる妹の花嫁付添人を務める事になっていた。「昨夜は良く眠れたの、カイト?」「うん・・」「皇太子様と、お幸せにね。」 花嫁の控室で、アナスタシアはそう言って海斗に微笑んだ後、彼女と抱き合った。「カイト様、そろそろお時間です。」「わかりました。」 ウェディングドレスの裾を女官達に持って貰いながら、海斗はジェフリーと共に馬車へと乗り込んだ。「良く似合っているぞ。」「ありがとう。」 ジェフリーと共に馬車から降りた二人は、大聖堂の前で沿道に並んでいた人々から祝福の喝采を受けた。 二人の婚礼は、伝統に則って恙なく終わった。 大聖堂から王宮へと戻る二人のパレードを、ビセンテは騎乗して警護した。「今日は、騒がしいわね。」「ええ、今日は皇太子様のご婚礼の日ですから。」「そう・・」 遠くから聞こえて来るパレードの喧騒に耳を澄ませながら、喪服姿の貴婦人は溜息を吐いていた。(寡婦でなければ、今頃王宮の舞踏会に参加できたでしょうに。) 彼女の名は、ラウル=デ=トレド。 一月前に、夫が戦死し、寡婦となった。 今彼女が考えている事は、これからどう生活するかではなく、今夜の舞踏会の招待状が、何故自分宛に届いていないのかという事だった。(夫が居ないと、わたしは宮廷に出入りできない。) 宮廷に出入りできなければ、流行のファッションやグルメ、美容の情報が得られなくなる。 それは、宮廷に生きるラウルにとっては耐え難いものだった。(何としてでも、宮廷に・・)「奥様、失礼致します、お客様が・・」「お通しして。」「失礼致します、ラウル様。」 部屋に入って来たのは、宮廷の儀礼官であるハットン卿だった。「まぁハットン様、忙しいのにいらっしゃるなんて・・」「ラウル様、この招待状をあなた様の元に届けるのを忘れてしまいました、申し訳ございません。」「あら、わたくし寡婦になったので招待状が来ないのかと、不安になっていましたのよ。」「では、わたくしはこれで失礼致します。」「わざわざ招待状を届けて下さって、ありがとう。」 その日の夜、王宮では皇太后主催の舞踏会が開かれていた。 その主役は、婚礼を終えたばかりのジェフリーと海斗だった。 獅子と不死鳥の刺繍を金糸で施された真紅のドレス姿の海斗は、一際美しかった。 ドレスと同じ色の髪には、ペリドットとダイヤモンドのティアラが飾られていた。 そのティアラは、皇太后・エリザベスが結婚式の際につけていた物を、海斗が譲り受けたのだった。「良く似合っておるぞ、カイト。」「ありがとうございます。」「カイト、結婚おめでとう。」「ありがとう、姉様。」「皇太子様、妹の事を宜しくお願い致しますね。」 そう言ったアナスタシアの顔は、何処か幸せそうだった。「アナスタシア様、またお会いしましたね。」「ビセンテ様・・」「一緒に踊って頂けませんか?」「はい、喜んで。」―まぁ、ビセンテ様だわ・・―お似合いの二人ではなくて? 遠巻きにビセンテとアナスタシアのダンスを見ていた貴婦人達が、そんな事を扇子の陰で囁き合っていた時、一人の喪服姿の貴婦人が大広間に入って来た。「まぁ、あの方は・・」「彼女を、ご存知なのですか?」「あの方は、ラウル=デ=トレド様、パルマ公のご親戚筋に当たられる御方よ。」「確か、一月前に夫が戦死されて、寡婦となられたのではなくて?」 女官達がそんな話をしていると、喪服姿の貴婦人はエリザベス皇太后に挨拶をしていた。「ラウルよ、よう来てくれた。」「皇太后様、わざわざわたくしを招待して下さってありがとうございます。」 ラウルは恭しい様子でエリザベスの手の甲に接吻すると、海斗を見た。(何?) 暫く全身を舐め回されるかのような、執拗な視線を彼女から浴びた海斗は、恐怖の余り、ジェフリーの背後に隠れた。「ラウル様、余り妻を怖がらせないで下さい。」「あら、ごめんなさい。とても珍しい赤毛だったので、つい見惚れてしまいましたの。」 ラウルはそう言った後も尚、じっと海斗を見つめて来る。 淡い褐色の瞳が、シャンデリアの光を受け、美しくも禍々しい黄金色に輝いた。「素敵なティアラですわね。」「ありがとうございます。」「あぁ、このような華やかな場で黒玉(ジェット)しか身に着けてはならぬというなんて、寡婦という身分がこれ程までに恨めしいと思った事はありませんわ。」 そう言って溜息を吐いたラウルは、再び海斗を見た。「皇太子妃様、そろそろ・・」「皇太后様、わたくしはこれで失礼致します。」「そうか。今日は色々と忙しかったから、部屋に戻ってゆっくり休むといい。」「はい。」 女官達を従えて、海斗が大広間から出て行く姿を、周囲の貴族達は感嘆の溜息を吐きながら見送った。「疲れた・・」 金糸で刺繍されたドレスを脱ぎ、女官達によってコルセットを緩めて貰った海斗は、夜着に着替えもせず、下着姿のまま寝台の中に入った。「まぁ皇太子妃様・・」「だって、朝から疲れてもうクタクタなんだもの。ねぇアメリア、ラウル様の事は知っているの?」「あの方の事は、色々と存じ上げておりますわ。」 そう言ったアメリアの顔が、微かに曇った事に海斗は気づいた。「あの方は、色々と黒い噂がある方ですの。」「黒い噂?」「ええ、密貿易に関わっていらっしゃるとか・・」「俺、あの人に見られていたような気がするんだけれど・・」「あの方は、ご自分の獲物を見極めていらっしゃったのですわ。」「どういう意味?」「わたくしが皇太子妃様にお伝え出来るのは、ラウル様は、悪魔の化身のような方ですわ。」「そう・・」「明日も、色々と忙しくなりますから、ゆっくりお休みになってください。」「わかった、お休み。」 天蓋が閉められ、海斗は朝まで夢も見ずに眠った。 同じ頃、皇太子の結婚に沸く王都から離れた北東部の町・リエルでは、ある事件が起きていた。「ひぃ・・」「頼む、命だけは・・」「もう、遅い。」 まるで中世の頃から抜け出してきたかのような、奇妙なマスクをつけた男は、そう言うと命乞いをする者達の額を躊躇いなく撃った。「そっちは、片付いたか?」「あぁ。」「誰にも顔を見られていないか?」「あぁ。」「そうか。」 賊達は、夜明け前に血塗られた貴族の屋敷を後にした。「次は、誰を殺す?」「さぁな。」「赤毛の皇太子妃だ。」 激しく揺れる馬車の中で、一人の男はそう呟くと、皇太子の結婚を報じる新聞記事を広げた。 そこには、美しいペリドットとダイヤモンドのティアラを髪に飾った海斗の写真があった。「これから何処へ行くつもりだ?」「決まっている―王都だ。」 男達を乗せた馬車は、王都へと向かっていた。にほんブログ村
2025年10月19日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「カイト様、おはようございます。」「おはようございます。」 海斗が寝台の中で寝返りを打っていると、寝室に女官達を連れたビセンテが入って来た。「え、今何時?」「朝の5時です。」「もう少し、寝かせて・・」 シーツの中へと海斗が潜ろうとした時、ビセンテがそれを勢いよく剥がした。「何すんだよ!」「“何をなさるの”です。未来の皇后ともなろう御方が、そのような粗野な物言いは今後お控え下さい。」「わかったよ。」「“わかりました”。」「わ・か・り・ま・し・た!」「よろしい、では顔を洗って、歯を磨いて下さい。」(あ~、いつまでこんなの続くんだろう?) 洗顔と歯磨きを終えた後、海斗はビセンテと朝食を取る事になった。 しかし、そこでもビセンテに事あるごとに監視された。「脇を閉めて!スープは音を出して啜らない!」 四六時中、ビセンテに一挙手一投足を監視され、息が詰まりそうだった。 海斗が王宮の中で唯一出来る気晴らしは、刺繍と乗馬、そして絵を描く事だった。 数少ない私物の中に、画材道具を持って来て良かった―海斗はそう思いながら、白いカンバスの上に王宮を描き始めた。 王宮にやって来た時、この美しい白亜の宮殿を自分の手で描きたいと思っていたので、すぐに描けて良かった。「これで良し、と・・」 海斗が王宮の絵を描き上げた時、ビセンテが部屋に入って来た。 彼は、緑の瞳を大きく見開いたかと思うと、海斗の絵を見て溜息を吐いた。「これは、あなたがお描きになられたものですか?」「はい・・」「素晴らしい。」「あの、怒らないのですか?」「いいえ。ミューズの恩寵を受けておられるあなた様を、どうして怒る事が出来ましょう?」 案外、融通が利く男だ―海斗がそう思い掛けていた時、ビセンテの顔が少し険しくなった。「何ですか、寝癖を放置したままにするなど・・」 前言撤回、やはり彼とは気が合わない―海斗は完成した絵をイーゼルから外した後、鋏を持って浴室へと向かった。「カイトはどうした?」「存じません。」「お前が苛めるから、部屋に引き籠もったんじゃないか?」「苛めるなど、人聞きの悪い事を!わたしは・・」「ビセンテ、そなたは少しやり過ぎる所がある。」「少し、カイトの様子を見に行って構いませんか、お祖母様?」「許す。」「では、失礼して・・」ジェフリーが椅子から立ち上がろうとした時、女官達の悲鳴が廊下から聞こえて来た。「何があった?」「カイト様が・・」 ジェフリーが海斗の部屋のドアをノックすると、部屋の主からは何の返事も無かった。 廊下で待っていても埒が明かないので、ジェフリーは部屋のドアを蹴破った。「皇太子様・・」 そう言って自分を見つめた海斗の髪は、腰下までの長さがあったものが、首の後ろに届くか届かないかの長さになっていた。「成程、そういう事か・・」 この時代、女性―上流階級の女性達は、腰下から膝下までの長髪を美しく保ち、その髪を美しく飾る事が常識であった。 女官達が悲鳴を上げたのは、女の命である髪を切った海斗の行為が信じられなかったのだろう。「何故、髪を切った?」「手入れしやすい為です。毎日、顔が突っ張る位きつく髪を結ばれるのは堪りませんからね。」「そうか・・」「どうですか?おかしくありませんか?」「いや、俺は人の価値を外見ではなく、その人柄で見る主義でね。」「そうですか・・」(面白い娘だ。)知れば知る程、惹かれる。「何たる事・・」 ジェフリーと共にダイニングに入った海斗の髪を見たビセンテは、飲んでいたワインで噎せそうになってしまった。「その髪はどうしたのかえ?」「自分で切りました。」「何と、大胆な事をしたものじゃ。女の命である髪を自ら切るとは。」「わたくしの身体はわたくしのもの、誰の指図も受けませんわ。」「ますますそなたが気に入ったぞ、カイト。切った髪はどうした?」「箱に入れております。」「妾の鬘用に使わせて貰おう。そなたの美しい赤毛は、この世に置いて唯一無二のものだからな。」「有難き幸せにございます。」 海斗が女の命である髪を切ったという話は、瞬く間に社交界中に広がった。「何という事をしたのよ、あの子は!うちの家名に泥を塗るつもりなのかしら?」「でも、カイトお姉様らしいですわ。」ヘンリエッタ、部屋へ行きなさい。」「はぁい。」 ヘンリエッタがダイニングルームから出て行く姿を確めると、マリーは夫を見て彼にこう尋ねた。「あなた、アナスタシアの事はどうなさるおつもり?あの子はあれから自分の部屋に引き籠もったまま出て来ないのですよ!」「今は、時間が必要だ。」「何を悠長な事をおっしゃっているの!このままあの子が結婚出来なくなったら、あなたの所為ですからね!」 マリーのヒステリックな金切り声を聞きながら、アナスタシアは自室をこっそりと抜け出し、厩舎で愛馬に話し掛けていた。「わたしも、お前のように自由に生きられたらいいのに。」 愛馬のジュリアス―栗毛の馬は、主の言葉を聞きそれに賛同するかのように鳴いた。アナスタシアはジュリアスに乗ると、屋敷の裏口から外に出て、近くにある公園へと向かった。外は凍てつくような寒さだったが、部屋に引き籠もっていたアナスタシアにとっては、冷たい空気は心地良いものだった。公演まであと少しという所で、彼女は一人の男とぶつかりそうになった。「済まない、お怪我はありませんか?」「はい・・」「良かった。」 そう言って自分を見つめる青年の瞳は、美しく磨き上げられたエメラルドを思わせるかのような、鮮やかな緑をしていた。「わたしの顔に何か?」「美しい瞳をしていらっしゃるなと・・」 「それは、貴女も同じですよ。星空を全て宿したかのような蒼い瞳だ。わたしはビセンテと申します、あなたは・・」「前に一度、お会いしておりますわ。」 ビセンテとアナスタシアは、暫く馬上での会話を楽しんだ後、それぞれの家へと帰っていった。「アナスタシア、何処へ行っていたの?」「遠乗りに行っていましたわ。」「そう、気晴らしをする事は良い事よ。」 マリーはそう言うと、アナスタシアに一通の招待状を手渡した。「これは?」「皇太子様とカイトの結婚式よ。欠席するのなら・・」「いいえ、出席するわ。あの子の幸せを、近くで見たいの。それに、あの方と会えるし。」「あの方?」「いいえ、何でもないわ。」 ジェフリーとの婚礼を控え、海斗は忙しくなった。 衣装選び、招待客リストの作成、やる事が山程あって、海斗は気が狂いそうだった。 そんな中、海斗に一人の青年が訪ねて来た。「久し振りだね、海斗。」「和哉・・」 彼は、海斗の孤児院仲間・森崎和哉だった。「どうして・・」「ここに来たかって?君の実家を訪ねたら、君がここに居るって聞いたんだ。これ、結婚祝い。」「ありがとう。」 海斗が和哉から受け取った物は、小さなダイヤモンドのペンダントだった。「カイト様~!」「ごめん、もう行くね。」「会えて嬉しかったよ。」 そう言った和哉の瞳に暗い光が宿っている事に、海斗は気づいていなかった。にほんブログ村
2025年10月19日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「今からでも考え直して下さい。あの娘にはこの国の皇后は務まりません!」「そんなの、やってみないとわからないだろ?」 ジェフリーはそう言うと、羽根ペンを回した。「全く、あなたという方は・・」 ビセンテは、溜息を吐いた。 腹違いの兄であるジェフリーの性格を、ビセンテは彼が子供の頃から熟知していた。 ジェフリーは、自分でこうと決めたら頑として動かない性格だった。 嫌なものは嫌だ、型に嵌められたくない。 王家の為、王国の為にと常に己を律し、国に尽くして来たビセンテとは正反対だ。「いいでしょう。あなたがそのつもりならば、わたしにも考えがあります。」 ジェフリーはビセンテの言葉に答えない。 これ以上話す事は無い―ビセンテはマントの裾を翻すと、ジェフリーの部屋から出て行った。「ビセンテ様。」「レオ、舞踏会の準備を。」「シー、マエストロ。」「ここは、船上ではないのだぞ。」「すいません、つい癖で・・」 レオはそう言って頬を赤く染めた。「全く、皇太子様は一体何をお考えなのか・・あの赤毛の跳ねっ返り娘を王家に迎えるなど・・」「僕達は何もできませんよ。問題は、あの方が彼女を気に入るか、ですよ。あの方は、気難しいから・・」「お祖母様は―皇太后様は気難しい方だが、どのような身分でも、受け入れて下さる方だ。」「あぁ、確かにそうでしたね。覚えていますか、僕がこの王宮に来た日の事を。」「覚えているとも。」 ビセンテは、ふとレオが王宮へやって来た日の事を思いだしていた。 レオは、田舎騎士の家で生まれ、海軍でめざましい活躍をしているビセンテの事を聞き、レイノサから遥々王都へとその身ひとつでやって来たのだった。「お願い致します、僕をあなたの小姓にして下さい!」 全身垢と泥に塗れ、凄まじい悪臭を漂わせたレオは、ビセンテの前に跪いた。 ビセンテは、レオの美しい蒼い瞳に宿る情熱に気づき、彼を小姓として傍に置いておく事に決めた。 垢と泥で汚れた身体を洗うと、美しい糖蜜色の髪と、雪のような白い肌があらわれた。 レオは、ビセンテの小姓となってから、只管勉学や剣技に励んだ。 ビセンテは、そんなレオを実の弟のように可愛がった。 仲睦まじい二人の様子を見た、彼らが恋人同士なのではないかと、事実無根の噂をばら撒いていた周囲の人間達は、皇太后の鶴の一声で一蹴された。「仲睦まじい事は良き事じゃ。」 気難しく、情け容赦ない性格で知られるエリザベス皇太后だったが、気を許した相手となれば身分関係なく受け入れてくれる懐の深い一面がある。「これから、忙しくなりますね。」「あぁ。」 ビセンテとレオがそんな事を話しているのと同じ頃、ロレンシア公爵家ではひと騒動起きていた。「何故、あなたなの!わたくしではなく、どうしてあなたが皇太子様の御心を掴むのよ!」 生まれてから物心がつき、社交界デビューを果たして以来、アナスタシアは未来の皇后となる事を目標に生きて来た。それなのに、ただ付き添いとして同席していただけの海斗が、ジェフリーの心を掴んだのだ。その日から、アナスタシアと海斗の関係に深い亀裂が入った。「カイト様、入りますよ。」「俺、姉様のお見合いに付き添わなきゃ良かったかな。」「過ぎた事はどうにもなりませんわ。これからの事を考えませんと。」「そうだね・・」 その日の夜、王宮で皇太后主催の舞踏会が開かれた。―あ、あの赤毛・・―あの恥さらしが、どうしてこんな所に? 氷のような視線が、海斗の全身に突き刺さった。 海斗の隣には、アナスタシアが憤怒の表情を浮かべて立っていた。「皇太子様のお成り~!」 美しいブロンドの髪をなびかせながら広間に入って来たジェフリーの姿を貴婦人達から一斉に黄色い悲鳴を上げた。 そのジェフリーの後ろに控えていたのが、エリザベス皇太后に寄り添うように歩いているビセンテとレオだった。 ジェフリーは青地に金糸の刺繍を施され、レースをふんだんに使った夜会服姿だったが、対してビセンテは襞襟にレースがついた、黒の夜会服姿だった。―ジェフリー様の婚約者が、今夜発表されるのですって。―皇太子様の御心を掴んだのは、どんな方なのかしら?―それは、決まっているわよね・・ 海斗は周囲の視線に耐えかねて、その場から立ち去ろうとしたが、アナスタシアがそれを許さなかった。「何処へ行くの?」「姉様・・」「あなただけ逃げ出そうなんて、許さないわよ。」 そう言った彼女のブルーの瞳には、仄暗い光が宿っていた。「みんな、今夜は来てくれてありがとう!」 ジェフリーがそう言って貴婦人達に手を振ると、彼女達は黄色い悲鳴を上げた。 中には、気絶する者も居た。「今日はみんなに報告したい事がある。俺はこの度、カイト=ロレンシア嬢と婚約する事になった。」―え・・―アナスタシア様ではなくて? 海斗は、そっと大広間から抜け出すと、人気のない中庭へと向かった。(これからどうなるのかな、俺・・) 先程の、自分を見つめる貴族達の冷たい視線を思い出した海斗は、この先王宮で暮らしていけるのかと心配になった。「カイト様、こちらにいらっしゃったのですね。」「あなたは・・」「皇太子様が・・兄上があなたをお待ちしております。」 ビセンテ王子はそう言うと、海斗の腕を掴んで大広間へと向かった。「カイト様、さぁ・・」「先程取り乱してしまって申し訳ありませんでした、皇太子様、皇太后様。」 もう、逃げられない。 ならば、堂々と立ち向かわなければ。「美しい赤毛だね、生まれつきかえ?」「はい。」「ほぉ、鮮やかな緋色じゃ。腕の良い洗髪師でも、美しい色にはこのようには染められぬ。」「そうですか?」「ジェフリーから、そなたの事を聞いたぞ。見合いの時にコルセットがきつくてカテーシーが出来ぬと言ったそうだな?それは、本当か?」「はい。先程逃げ出したのは、俺なんかが皇太子妃に相応しくないと思ったからです。」「その理由は?」「俺が、ロレンシア家の恥さらしだからです。」 海斗がそう言った瞬間、周囲がざわめいた。「面白い事を言う。そなたのようにはっきりと物を言う娘は、社交界には相応しくないが、それを言うのならば妾もジェフリーも同じ事。そなたなら、これから上手くやれるだろうのう。」「え・・」「これから、宜しく頼むぞ。」「はい・・」 舞踏会から数日後、ロレンシア公爵邸の前に一台の馬車が停まった。「カイト様、皇太后様の命により、お迎えに上がりました。」「お義父様、お義母様、今まで育てて下さりありがとうございました。」 義理の両親―養父母に別れを告げた海斗が馬車に乗り込もうとした時、黒髪の巻き毛を揺らしながら、一人の少女が海斗の元へとやって来た。「ヘンリエッタ、どうしたの?」「カイトお姉様、もう会えないの?」「そんな事ないよ。」 海斗は自分に懐いている末妹・ヘンリエッタの頭を撫でた。 こうして、海斗は長年暮らしていた実家を離れ、王宮で暮らす事になった。「あの、皇太子様は・・」「皇太子様は、外出されております。わたしは今日からあなた様の教育係を務めさせて頂きます、ビセンテ=デ=サンティリャーナと申します。」「よろしく、お願い致します・・」 ビセンテは、海斗を未来の皇后に育てるべく、海斗が王宮へやって来たその日から、厳しいお妃教育をした。(はぁ、疲れた・・俺、こんな所で暮らせんの?) 海斗は寝台に大の字になって寝転がると、そのまま朝まで泥のように眠った。にほんブログ村
2025年10月19日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「カイト様、おはようございます。」「おはようございます。」 この日、ロレンシア公爵家は、特別な朝を迎えていた。「カイト、何ですかその髪は!アンナに直して貰いなさい!」「え~!」 海斗の義母・マリーは、海斗にそう言うと彼女の自室から出て行った。(何だよ、たかが見合いの為にそんなに張り切る事じゃないだろうに。) この日、ロレンシア公爵家の令嬢・アナスタシアと、この国の皇太子であるジェフリーと見合いをする事になっている。 アナスタシアは、マリーに似た美貌の持ち主で、淑女のお手本のような、聡明で控え目な女性だった。 だがその義理の妹である海斗はアナスタシアとは正反対で、花嫁学校は入学したその日の夜に脱走し、マリーがそのショックで寝込んでしまった事があった。 得意なのは乗馬と剣術、裁縫と刺繍だけ―そんな海斗を、世間は“ロレンシア家の恥さらし”と呼んでいた。 だがそんな世間の評判などクソくらえと思っている海斗は、姉の大事な見合いの日など知ったこっちゃなかった。 しかし、この見合いを必ず成功させたいマリーは、海斗をアナスタシアの付き添いとして指名したのだ。「え~!」「いい、決してアナスタシアの邪魔をしては駄目よ!」「わかったよ!」(あ~、面倒臭い。) アンナに髪をきつく結ばれ、海斗は余りの痛さに悲鳴を上げた。「さぁ、次はコルセットを締めますからね。」 マリー以上にこの見合いの成功を願っているアンナはそう言うと、海斗を寝台の傍へと移動させ、彼女が着ているコルセットの紐をきつく締めた。「痛いって!」「我慢なさい!」 コルセットをきつく締められ、海斗は時折苦しそうな息を吐きながら姉の見合いに臨んだ。「皇太子様が、お見えになられました。」「もうすぐ、ロレンシア邸に着きますよ。」「あぁ・・」 鬱陶し気に前髪を搔き上げながら、アゼリア王国皇太子・ジェフリー=ロックフォードは馬車の窓から外を見た。「少しは興味がある振りをしたらどうだ?」「だったら、あんたが見合いをすればいい。アナスタシア嬢とあんただったら気が合いそうだしな。」「ふん・・」 見合いの付き添いでジェフリーの向かい側に座っていたのは、彼の異母弟であるビセンテ王子と、彼の小姓であるレオだった。 独身主義者であるジェフリーが見合いをする事になったのは、彼らの祖母にあたる皇太后・エリザベスのあるひと言からだった。「妾ももう長くない。せめて死ぬ前に曾孫を抱きたいものじゃ。」 皇太后の言葉に真っ先に反応したのは、彼女の重臣達だった。 頑健で結婚適齢期の二人の王子が居るのだから、相手さえ見繕えば、結婚などすぐに出来るだろうと、彼らはそう単純に思っていた。 しかし、現実はそんなに甘くなかった。 無神論者で男色家のジェフリーは、皇太子という立場でありながらも結婚に全く興味を持っていなかったし、ビセンテ王子は恋愛に対して淡白過ぎだった。 そんな現実を突きつけられたエリザベスの重臣達は慌てて家柄と血筋の良い娘―即ちロレンシア公爵令嬢・アナスタシアを見つけ、ジェフリーと彼女の見合いを急遽行う事になったのであった。「アナスタシア嬢には、妹君が一人居るそうだ。」「どんな方なのですか?」「噂によると、入学した花嫁学校にその日の夜に脱走し、社交界では、“ロレンシア家の恥さらし”と呼ばれている程、風変わりな娘だそうだ。その上、赤毛故に気性が荒いらしい。」「へぇ・・」 ジェフリーの蒼い瞳が煌めいたのを見たビセンテは、すかさず彼に釘を刺した。「あなたが今からお会いする方は、アナスタシア様であって、彼女の妹君ではないのですよ。」「わかったよ・・」 ジェフリー達を乗せた馬車がロレンシア邸の前に停まると、使用人達が総出で彼らを出迎えた。「皇太子様、こちらです。」「皇太子様、お目にかかれて光栄です。」 客間に入って来たジェフリー達に向かって、アナスタシアは優雅にカテーシーをした。 姉に倣ってカテーシーをしようとした海斗だったが、コルセットがきつくて出来なかった。「カイト、ちゃんとしなさい!」「コルセットがきつくて出来ないのよ、お姉様。」「皇太子様、妹の無礼をお許し下さい。」「別に構わないさ。」 見合いは、滞りなく終わった。「あ~、疲れた。」「カイト、あなたはもっとお淑やかに出来ないの!?」「あら、俺は見合いの間に一言も喋りませんでしたけど?」「もういいわ!」 アナスタシアはそう叫ぶと、浴室から出て行った。 昔から、彼女と仲が良くなかった海斗は、この見合いが成功し、彼女が未来の皇后となって欲しいと思った。(俺は、こんな身体だし・・) 浴槽の中で身体を洗っていた海斗は、己の身体を見て溜息を吐いた。 海斗は、男女両方の性を持っている。 初潮を迎えて以来、豊満になってコルセットを締める度にきつく感じるようになった乳房と、それと反比例して小ぶりになった男の象徴。 男でも、女でもない自分を、愛してくれる人間なんていない。 海斗はそう思い込んでいた。 しかし―「え、それ本当なの、お母様!?」「えぇ。今夜王宮で開かれる舞踏会に招待されたわ。カイト、くれぐれも皇太子様に失礼しないようにね。」「わかったよ、お母様。」 同じ頃、皇太子の執務室でジェフリーが苦手な書類仕事を終えて欠伸を噛み殺していると、執務室の扉がノックしなしに勢いよく開かれた。「皇太子様、一体どういうつもりなのですか!?」「何をそんなに怒っている?俺はちゃんと結婚すると言っただろうが。」「相手がアナスタシア様なら問題ありません!何故、妹君のカイト様なのです!?」「俺は慎ましい淑女よりも、じゃじゃ馬で一筋縄ではいかない跳ねっ返り娘の方が、俺は好きなんだ。」にほんブログ村
2025年10月19日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「FLESH&BLOOD」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。その日は、嵐だった。「クソ!」こんな日に船を出すんじゃなかった―ジェフリー=ロックフォードはそう思いながらも今にも沈みそうになる舟を漕いでいた。きっかけは、ジェフリーと彼の継父が口論した事だった。ジェフリーの継父、ジェイクが、この海底にレアメタルが眠るという噂話を信じ、自分が所有する土地の権利書を開発業者に渡そうとした事をジェフリーが知り、“私利私欲で自然を破壊するなんておかしい”と罵られ、ジェフリーにこう言い放った事だった。「出て行け、お前なんて俺の息子じゃない!」「出て行くさ、もうこんな家には居られるか!」嵐の中を小舟で漕いでいくなんて、我ながら無謀だと思った。だが、その時ジェフリーは頭に血が上っていた。急いで岸に戻ろうとしたが、後少しという所で、転覆してしまった。このまま死んで堪るか―ジェフリーは、荒れ狂う波の中を必死に泳いだ。しかし、彼は岸に辿り着く前に力尽きてしまった。(畜生、このまま死ぬのか・・)そう思いながらジェフリーが目を閉じると、誰かが自分を抱く感触がした。「ん・・」ジェフリーが目を開けると、そこは岸だった。誰かが、自分を岸まで運んで来てくれたのだった。ジェフリーは、岸まで自分を運んで来てくれた者に礼を言おうとしたが、誰も居なかった。ただ、薄れゆく意識の端で、ジェフリーは海の中で光る“何か”を見つめた。(はぁ、良かった・・見つからなかった。)ジェフリーを助けた人魚―海斗は、そう思いながら海の底へと―自分の棲家へと戻っていった。「海斗、何処へ行っていたの?」「ちょっと、人助け・・」「もしかして、また人間を助けたの?」親友・和哉に追及され、海斗は思わず目を伏せた。海斗達人魚は、人間に関わってはいけないという掟がある。しかし海斗は、海に溺れた人間を助けたりして、人魚の長から度々注意されたが、その行動を改めようとしなかった。「人助けして何が悪いんだよ!それに、人間に姿を見られていないし・・」「油断しちゃだめだよ、海斗。」「わかったよ・・」(あ~、最悪!)海斗は溜息を吐きながら、“お気に入りの場所”へと向かった。そこは、王国から少し離れた洞窟の中だった。中には、この近辺で沈没した船に積まれていた宝物があった。金のカップ、エメラルドのネックレス、サファイアのブローチ―海斗は毎日それらの財宝を眺めては、人間の生活に想いを馳せていた。(そういえば、助けた人の瞳も、こんな色をしていたな・・)海斗はそう思いながら、美しいサファイアの指輪を見た。(そろそろ戻らないと・・)海斗は洞窟を出て王国へと戻ろうとした時、途中で不気味な洞窟を見つけた。好奇心旺盛な海斗がその中を覗いてみると、中は漆黒の闇に包まれていた。「おい、そこで何をしている?」背後から急に声を掛けられ、海斗が振り向くと、そこには長身の逞しい人魚の姿があった。「あの・・」「ここには近づくな。魂を奪われるぞ。」「はい・・」長身の人魚―ヤンは、海斗が洞窟の中から出ていき、王国へと戻っていく姿を見送ると、洞窟の中へと入った。ヤンが奥へと進むと、一匹の人魚が金色の瞳で彼を見つめた。「遅かったね、ヤン。」「さっき、この中に入ろうとしていた若い人魚を止めた。」「赤毛の子かい?彼を、こちら側に引き込もうと思っていたのに・・」金色の瞳の人魚―ラウルは、そう言うと笑った。彼は、王国を追放された人魚だった。その理由は、彼が黒魔術を使ったからだった。ラウルは王国から追放され、この洞窟に住むようになった。そして彼は、“商売”を始めた。その“商売”は、ラウルの魔力を頼りに来た人魚の望みを叶える、というものだった。「あの・・」「おやおや、貴族のお嬢様がわたしに会いに来てくれるなんて、何かお困りのようだね?」「憎い相手を、呪い殺して欲しいの。」そう言った黒髪の人魚は、昏い瞳でラウルを見た。「そう。ではここに、お前の憎い相手の名をお書き。」「でもインクがありません。」「インクなら、お前の中に流れる血で充分さ。」「はい・・」黒髪の人魚は、ラウルに言われるがままに、自分の血をインク代わりにして、“死の契約書”にサインした。「これで、お前をいじめている相手は三日後に死ぬよ。」「ありがとう!」三日後、黒髪の人魚をいじめていたブロンドの人魚は、悲惨な事故に遭って死んだ。「あなたのお蔭よ、ありがとう!」「礼など要らないよ。もうその呪いの“代価”は頂いているからね。」「え?」黒髪の人魚は、突然血を吐いた。「どうして・・」「呪いの代価は、“命”。それがこの世の掟だよ。」「またやったのか、懲りないな、あんた。」「わたしを訪ねて来る者は、心に闇を持つ者さ。」「お前のような、か?」「さぁね。わたしは人を愛する事などとうの昔に忘れてしまったよ。」ラウルはそう言うと、笑った。「そいつは、人魚だったのか?」「いや、人間さ。馬鹿な事をしたものだよ、人間に恋をするなんて。」人間と人魚は、互いに相容れない存在だった。人間は金の為に海を荒らす。そして不老不死の妙薬である人魚の肉欲しさに、その命を奪うのだ。だが、ラウルは愚かに敵である人間に恋をした。漁師の網に引っかかった彼を救ってくれた人間は、ラウルに優しくしてくれた。互いに惹かれ合い、口づけを交わしたが、それ以上の関係には進まなかった。ただ、一緒に居られるだけで良かった。しかし、二人の恋は、人間の死で終わりを告げた。それ以来、ラウルは誰も愛さなくなった。その代わりに、黒魔術に傾倒していったラウルは、国王が溺愛していた王子に呪いをかけ殺した。その王子が、ラウルの恋人を殺した人魚だった。復讐を果たしたラウルは、王国から追放された。だが、彼の魔力は王国内で噂となり、時折洞窟を訪れる貴族達のお蔭で、ラウルの生活は潤っていた。そんな中、ヤンが追い払ったあの人魚―海斗が、再び洞窟を訪れた。「おや珍しい、君のような子がこんな所に来るなんて珍しいねぇ。」「あんたに、頼みたい事があるんだ。」「もしかして、人間になりたいから、力を貸してくれとか?いいけれど、その“代価”はちゃんと頂くよ。」ラウルはそう言うと、海斗に短剣を渡した。「さぁ、お前の血のインクでこの契約書にサインを。」「わかった・・」海斗は震える手で契約書にサインした。「この薬を飲んだら、人間になれるよ。」「ありがとう。」(これで、ジェフリーに会える!)「おい、あの坊やにあの薬を渡したのか?」「だとしたら、何?わたしにはもうあの薬は必要ないから、あの坊やにあげただけさ。」(馬鹿な子、人間に恋をしても、結ばれないというのに!)海斗はラウルから渡された薬を飲むと、全身に焼けつくような痛みが走った。彼は慌てて岸まで泳ぐと、そこで意識を失った。ジェフリーは、日課のウォーキングを海岸沿いでしていると、岸辺に一人の少年が倒れている事に気づいた。彼の髪は、鮮やかな赤毛だった。「おい、しっかりしろ!」「ん・・」少年は低く呻くと、黒真珠の瞳でジェフリーを見た。「ジェフリー、やっと会えた・・」ジェフリーの蒼い瞳に見つめられた海斗は、再び気を失った。「畜生、困ったな・・」「ジェフリー、こんな所で何をしているんだ?」にほんブログ村
2025年10月19日
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伊賀の元くノ一、おりんと、錺職人お園、そして浪人の佐伯が織りなす人間ドラマに、ラストシーンまで夢中になって読みました。
2025年10月18日
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ゴールデンカムイのノベライズ。どの話も読み応えがあって、面白かったです。
2025年10月18日
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あと一巻で完結か…どうなるのか気になりますが、もう読めないと思うと寂しいような気がしますね。
2025年10月17日
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表紙素材は、めばる様からお借りしました。「相棒」腐向け二次小説です。公式様とは一切関係ありません。両性具有設定あります、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。その日、東京は季節外れの雪に見舞われた。「ひぃ、寒い寒い!」雪国出身の亀山薫は、この異常な寒さにブルブルと震えながら、杉下右京と共に事件現場へと向かっていた。今朝早くに、住宅街の中にある公園で、数人の焼死体が発見された。周辺には規制線が張られ、何事かと公園の中を覗き込む野次馬達で溢れていた。「米沢さん。」「おぉ、杉下警部殿。」「遺体は、どちらへ?」「あちらのトイレです。」米沢守はそう言うと、焼け焦げて燻っている男子トイレを指した。「どうもありがとう。」右京が米沢に礼を言って男子トイレの中へと入ると、そこには炭化した焼死体があった。「酷いっすね、これ。」「これ程の状態で焼死させるには、ガソリンや燃焼促進物を被害者達に浴びせ、火をつける―しかし、現場にそれらしき凶器は発見されませんでした。妙ですねぇ・・」「そうっすね・・」「特命係の亀山~」薫がそう言いながら焼死体の傍で“何か”を見つけた時、背後から、彼にとって聞き慣れた声がした。「おぅ、お前らも来てたのか。」「“来てたのか”じゃねぇよ、馬鹿野郎この野郎!」警視庁捜査一課・伊丹憲一巡査部長は、般若のような顔を右京と薫に向けた。「被害者の身元が判る物は見つかりましたか?」「それがね、この状態だから何にも・・」「芹沢、余計な事言うなこの野郎!」伊丹はそう言うと、芹沢の頭を叩いた。「特命係はさっさと、お・か・え・り・下さ~い!」「わ・か・り・ま・し・た・よ~だ!」特命係の二人が事件現場から離れる姿を、野次馬の中から一人の少年が見ていた。同じ頃、警視庁11階にある首席監察室では、部屋の主である大河内春樹が、ノートパソコンのキーボードを忙しなく打っていた。その手を止めて、春樹は自分が殺害した“彼ら”の最期の姿を思い出しそうになり、いつも持ち歩いているラムネを十粒くらい口の中に放り込むと、それを音を立てて噛み砕いた。「そんなに怖い顔をしないで下さい~」突然耳元でそう囁く声が聞こえたかと思うと、春樹の眉間の皺を誰かの白い指先が触れた。艶やかな黒髪を揺らし、涼やかな切れ長の瞳で春樹を見つめるのは、神戸尊警視だった。「あ、この人達・・確かこの前僕にちょっかいかけてきた人達じゃないですか。嫉妬の炎で焼き殺すなんて、鬼らしいですね~」「入る時は、ノックしろ。」「え~、夫夫だからいいでしょう?」尊はそう言った後、背後からギュッと春樹に抱きついた。「氷漬けにして殺して、海に捨てた方が楽なのにぃ~」他愛のない話を二人はしているのだが、彼らは、普通ではない、というより、彼らは人間ではない。そう、この二人は、鬼と雪女の、夫夫なのだ。「ねぇ、最近大河内さん変ですよ?あんな事で怒るなんて・・」「あいつらは、警察官にとって許されない事をした。」「だから殺した、と?」「お前、黙れ。」春樹はそう言った後、尊の唇を塞いだ。「はぁ、そんなにしたら溶けちゃう・・」「うるさい。」淫らな水音と、肉同士がぶつかり合う音、そして互いの荒い息が室内に満ちる中、春樹は尊の中に欲望を放った。「溶けちゃう~!」尊は白い喉を仰け反らせながら、果てた。「おい、そんな所で寝るな。」「お休みなさ~い。」尊はそう言うと、来客用のソファに横になって眠った。「え、被害者達の身元が判った?」「はい。被害者達は皆、北島警察署所属の警察官達でした。しかも、色々と悪い噂ばかり出て来る・・」「という事は、犯人が被害者達を“粛清”したと?」「そのように解釈出来ますな。それにしても、このダイヤモンドは何処で?」「あ、それは俺が遺体の傍に落ちていたのを見つけたんです。」「これだけ焼け残っていたのは奇跡ですねぇ。被害者のものでしょうか?」「これは、恐らく犯人のものでしょうね。このダイヤモンドのネクタイピンに、犯人と思われるイニシャルが彫られていますねぇ・・H・Oと。」「春樹さん、僕が誕生日に贈ったネクタイピン、失くしちゃったんですかぁ?」「済まない・・」「もぅ~、離婚です~」頬を膨らませながらそう言って拗ねる尊を、春樹はまた抱きたいと思ってしまった。鬼は精力が強く、毎日発散させないと体調を崩してしまう。だが、鬼に抱かれた者は皆死んでしまう。しかし、鬼はその血を絶やす為に同族同士で婚姻を繰り返して来たが、それも限界に来ていた。鬼族の長が苦肉の策で考えたのが、長らく敵対関係にあった雪女の一族との和睦を兼ねた政略結婚だった。故に、鬼族の長の血をひいた春樹は、先代の長である父から尊との結婚を告げられた時、すぐに受け入れた。春樹が18、尊が16の時、初めて二人は婚儀の場で顔を合わせた。美しい白無垢に身を包んだ尊を見た瞬間、春樹は一目で彼に心を奪われた。そして、それは今でも変わらない。「尊・・」「お昼、行って来ま~す。」自分を抱き締めようとした春樹の手をすり抜け、尊は首席監察室から出て行った。「あ~、お腹空いた、何食べようかなぁ~」そう言いながらスキップで食堂へと向かってゆく尊の前に、一人の男が現れた。男は尊の前に跪くと、恭しく彼の手の甲に接吻した後、尊の唇を塞いだ。「んぅ!?」「漸く会えた、姫様。」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月17日
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今日は近所のブックオフと大型書店、文具店、ダイソーに行きました。無印良品でノートと、文具店でウカンムリクリップの小さいタイプを買いました。大きいタイプは筆箱に入らなかったので、好きな水色がまだお店にあってよかったです。筆箱の中に入るので、便利ですね。ダイソーでは、3ミリ方眼のスマートなノートを買いました。大切に使います。母が買って来てくれた羊のぬいぐるみ筆箱。大切に使います。10.18追記Seriaで見つけたシャーペン。ダイソーにも似たようなデザインのシャーペンが昔売っていましたが、廃盤になってしまったのか、今はどこにも売っていません。なので、Seriaでこのシャーペンを見つけたときは即買いしました。緑·ピンク·紫·水色があり、水色が好きなので水色のシャーペンを買いました。大切に使います。
2025年10月17日
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この本、去年7月に購入したきり積読本リストに入っていて、そろそろ読むか・・と思いながらページを捲ったら面白くてページを捲る手が止まらなくなり、1067ページという分厚さが嘘のように思えてくる位面白かったです。詳しく言うとネタバレになるので、とにかくページの分厚さに驚いた後、ページを開いて読んでみてください。
2025年10月16日
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ナチスによる、「アーリア人生殖計画」により、ドイツ軍人とスウェーデン人女性との間に産まれたカーリ。ホロコーストで知られるナチスの残虐さは、狂った「純粋なアーリア人を増やす計画」があったことをこの本で知りました。戦争の惨禍は、「昔の出来事」だとは捉えずに、「繰り返し起こるかもしれない出来事」だと後世に伝えなければなりませんね。
2025年10月15日
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アニメ二期の最終回から先のお話。やはり面白いなあ。 壬氏様、猫猫に惚れているのね。
2025年10月15日
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幽世から現世へと戻されたきりこ。きすいと再会できて良かったです。
2025年10月15日
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人魚の呪いの正体は意外なものでしたね。これからの展開が気になりますね。
2025年10月15日
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前から気になっていた、niciの筆箱を買いました。ユキウサギの雪♂です、大切に使います。机の上がぬいぐるみ筆箱ばかりになり、ちょっとしたファンシーショップみたいになりましたwこの前買った、ダイソープレミアムノート。色んな種類があり、わたしはドット方眼と5ミリ方眼のノートが気に入りました。B6の縦型の5ミリ方眼ノートを持っているので、今日はB6の横型ノートを買いました。隣に置いてあった3ミリ方眼ノートもいいなと思ったのですが、書きにくそうだったのでやめました。2冊とも、大切に使います。
2025年10月15日
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素材はこちらをお借りしました。フリー素材【和華蝶】https://www.pixiv.net/artworks/63848096「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様は一切関係ありません。一部残酷・暴力描写有りです、苦手な方はご注意ください。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。「今日も暑いわね。」「本当。暑過ぎて頭がどうにかなってしまいそうだわ。」蝶華楼の支度部屋では、妓生達がそんな事を言いながら、鏡の前で白粉をはたいていた。「ねぇ、最近王宮で女官達が次々と死んでいるんだって!」「ヤダ~、怖いわねぇ。」「流行病か何か?」「それがわからないから、怖いのよ~!」「あんた達、そんな所で油売っているんじゃないよ!」セヨンは中々支度を終わらせようとしない妓生達にそう怒鳴ると、妓生達は慌てて支度部屋から飛び出していった。「まったく、暇さえあればサボろうとして!油断も隙もないね!」「まぁまぁ女将、そんなに怒ったら美人が台無しだぜ?これでも食って機嫌でも直しな。」そう言ってキットが包みから取り出したのは、ヤッカだった。「まぁ、悪いわねぇ。」「狡いわよキット、行首様だけにヤッカをあげるなんて!あたし達にはないの!?」「そんな事もあろうかと、姐さん達の分も買っておいたぜ!」「キャ~、キット最高~!」「今夜はとことん尽くしちゃうわよ!」「はは、そいつは楽しみだな。」キットは妓生達にヤッカを配りながら、海斗が居る離れの方を見た。いつもなら伽耶琴の音色が聞こえて来るのに、何故か今日に限ってその音色が聞こえて来なかった。「女将、カイトは?」「あの子は、風邪をひいちゃってね、休んでいるんだよ。」「そうか。」キットはセヨンに海斗の見舞いに行って来るといい、離れへと向かった。「カイト、俺だ。」「キット、忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう。」「女将から話は聞いたぜ。蜂蜜入りのヤッカを持って来た。」「ありがとう。」海斗は苦しそうに咳込んだ後、寝床から起き上がり、キットから蜂蜜入りのヤッカを数個受け取り、それを一口ずつ食べた。「どうだ?」「少し楽になったような気がする。」「そうか。それよりもカイト、お前さんが一目惚れした相手、知っているぞ。」「え、本当!?」海斗はそう言うと、キットに詰め寄った。「その様子だと、少し調子が良くなったようだな?」「焦らさないで、早く教えてよ!」「世間は狭いと、俺はつくづくと感じたよ。お前の一目惚れの相手は、俺の飲み友達なんだ。名前は、ジェフリー=ロックフォード、名家の坊ちゃんさ。」「教えてくれてありがとう。」「いいって事よ。早く風邪を治しな!」「うん!」蝶華楼を後にしたキットは、その足でジェフリーの元へと向かった。そこは、王宮の煩わしい人間関係から離れる為に、ジェルフリーが私費で購入した邸だった。「ようキット、久し振りだな。」「ジェフリー、さっき蝶華楼の姐さん達にお前さんが作ったヤッカを渡しておいたぜ。あと、カイトにもな。」「ありがとう。カイトはどんな様子だった?」「それが、カイトは今風邪をひいちまって、離れの部屋で休んでいるよ。」「そうか。じゃぁ、これを俺からだと言って、カイトに渡してくれないか?」ジェフリーがそう言ってキットに手渡したのは、碧い石が飾られた簪だった。「わかった。」「頼んだぞ。」キットが去った後、ジェフリーは玄琴を弾き始めた。「ジェフリー、あの簪をカイトに渡しても良かったのか?あれは、お前の母親の・・」「みなまで言うな、ナイジェル。」「それにしても、お前の心を奪った妓生の姿を一度見てみたいものだな。」「近い内に会えるさ。」「そうか。」海斗が湯浴みをしていると、そこへキットがやって来た。「おっと、済まない・・」「大丈夫だよ。キット、どうしたの?」「これ、ジェフリーからお前さんに渡してくれとさ。」「うわぁ、ありがとう!凄く綺麗だ!」「どれ、俺が髪に挿してやろう。」キットがジェフリーから渡された簪を海斗の髪に挿すと、碧い石が海斗の赤髪に美しく映えた。「良く似合っているぞ。」「本当、ありがとう!」「礼は俺じゃなく、ジェフリーに言うんだな。」「うん、わかった!」数日後、風邪が治った海斗は、ある両班の宴で見事な舞を披露した。「彼女は、誰だ?」「蝶華楼のカイトという妓生ですよ。彼女をお気に召されたのですか、旦那様?」「まぁな・・」その両班は、そう言うと酒を一口飲んだ。その時、海斗の髪に挿してある碧い石の簪に気づいた。(あの簪は・・)「旦那様、どうかなさいましたか?」「いや、何でもない。」「カイト、その簪、どなたから貰ったの?」「ジェフリー様から、この前のお見舞いとして貰ったの。」「へぇ。」「ジェフリー様って、もしかして“あの”ジェフリー様!?」「姐さん、ジェフリー様の事を知っているの?」「知っているも何も、ジェフリー様はこの国の世子様なのよ!」「えぇ~!」「そこ、うるさいよ!」先輩妓生の口からジェフリーの素姓を知り、驚きの余り叫んでしまった。「本当に知らなかったの?」「はい・・ジェフリー様とは一度会っただけなので・・」「そう、それじゃぁ何も知らないのも無理ないわね。」海斗が先輩妓生達とそんな事を話していると、一人の少年が海斗の元へと駆け寄って来た。「これを、旦那様からあなたへ渡すようにと言われました。」「え、ちょっと待って!」少年は海斗に一通の手紙を手渡すと、何処かへと消えていってしまった。『明日、この屋敷の東屋にて待つ。』「ねぇ、その文どうするの?」「行首様に見せるよ。」少年から渡された文を海斗がセヨンに見せると、彼女は渋面を浮かべた。「あたしも明日、一緒に行くよ。」「ありがとう、行首様。」翌日、海斗がセヨンと共に両班の屋敷へと向かうと、そこにはその屋敷の主人と思しき両班と、彼の使用人と思しき少年が二人を待っていた。「ようこそいらっしゃいました。さぁ、こちらへ。」「は、はい・・」海斗とセヨンが屋敷の中に入ると、そこには一人の女性の姿があった。「そなたが、あの時の娘か?」「あの・・」そなたは、妾の事を知っておるか?」「いいえ・・」「ならば教えてやろう。妾はエリザベス、この国の世子の祖母じゃ。」にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月14日
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「薄桜鬼」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。 目を開けると、海斗は紅蓮の炎の中に居た。 周囲には悲鳴や怒号などに包まれながら、多くの人々が逃げ惑っていた。 ―父上、母上? 海斗が炎から逃げていると、上空から轟音が鳴り響き、火の玉が海斗に向かって落ちて来た。「カイト、おい、しっかりしろ!」「う・・」 海斗が悪夢から目を覚ますと、自分を心配そうに見つめているナイジェルとジェフリーの姿があった。「俺、一体・・」「覚えていないのか?お前、謎の化物に襲われたんだ。」「化物・・」 ジェフリーの言葉を聞いた海斗の脳裏に、あの化物の姿が浮かんだ。「あの化物について、何か知っている事はあるのか?」 ジェフリーの問いに、海斗は静かに首を横に振った。「あの・・」「大丈夫だ、置屋の方へは俺が文を出しておいた。」「ありがとうございます。」「おかあさん、鈴菜はどないしたん?」「あの子なら、事情があって暫く外泊するそうや。」「へぇ、そうなん・・」 ラウルは、そう言うと笑った。(世間知らずの生娘だと思っていたけれど、中々やるじゃないか。)「おかあさん、このごろ化物がこの界隈に出ているらしいって聞いたわ。」「物騒な世の中になったなぁ。」「ほんまどすなぁ。」 ラウルは、自室に戻るとヤン宛の文をしたためた。「桃世、あんたにお客様え。」「へぇ、只今。」 ラウルが一階へ降りると、そこには紫の瞳をした美男子の姿があった。「おかあさん、こちらの方は?」「こちらは新選組副長の土方様や。」「土方様どすか。お噂は色々と聞いていますえ。」「そうか。ならば話が早い。ここに居る鈴菜という舞妓が行方知れずになっているが・・」「その事やったら、今知り合いに捜させて貰うてます。」「そうか。」「わざわざ鈴菜の事で来て下さっておおきに。ぶぶ漬け、どうどす?」「いや、結構。」「そうどすか。」 歳三が置屋から去ると、ラウルは自室へと戻った。「おかあさん、仕込みの子はどないしたん?」「あの子なら、里に帰したわ。桃世、仕込みいじめるのも大概にしぃや。」「嫌やわ、おかあさん。うちがあの子をいじめたやなんて・・」「あんた・・」「この世界で根性据わってへんと、生き抜かれへん。そないな事、おかあさんかてわかっていますやろ?」「ひぃっ」 ラウルに睨まれ、置屋の女将は恐怖の余り動けなくなった。「三味線の稽古に行って来ます。」 ラウルは、置屋から出てある場所へと向かった。「遅かったのぅ。」「すいまへん、三味線の稽古が長引いてしもうて。」 部屋に入ったラウルを待っていたのは、西国の過激派浪士の一人だった。「これをどうぞ。」「これは何ぜよ?」「最近、幕府が開発しているものやそうどす。飲めば、不老不死になるとか。」 ラウルがそう言って浪士に差し出したのは、変若水が入った硝子壜だった。「ほぉ・・」「タダではお譲りできまへんぇ。」「いくらなら譲ってくれる?」「ふふ・・」 ラウルは浪士の耳元で何かを囁くと、浪士を残して部屋から出て行った。「ナイジェル、あの子の様子はどうだ?」「カイトなら、部屋で文を書いている。」「文?」「色々と事情がありそうだな。」「あの娘とは一度、江戸で会った事がある。その時は武家娘のようだったが、どうして舞妓になったのかが、気になるな。」「他人にも色々と事情があるんだ。」 ナイジェルがそう言って茶を一口飲んでいると、部屋に海斗が入って来た。「すいません、お邪魔でしたか?」「いや、大丈夫だ。何か用か?」「実は、ある場所へ連れて行って欲しいんだ。」「わかった。」 海斗をナイジェルとジェフリーが連れて行った場所は、壬生村にある新選組屯所だった。「お前、何者だ?」「東郷君、無事でしたか。」 ジェフリー達の前に、新選組副長・山南敬助が現れた。「山南さん、ご心配かかけてしまい、申し訳ありませんでした。」「ここでは人目があるので、奥へどうぞ。」 山南と共に奥の広間へと向かった海斗達は、そこで渋面を浮かべている歳三の姿に気づいた。「副長・・」「お前が姿を消した事情は、文を読んで知った。羅刹に襲われたというのは本当か?」「はい。その羅刹は・・」 海斗はそう言うと、ジェフリーとナイジェルを見た。「ジェフリー、どうやら俺達は邪魔者なようだ。」「そうか。」「二人共、ここに居て下さい。副長、構いませんよね?」「あぁ、構わねぇよ。」「俺を襲った羅刹は、新選組のものではありませんでした。」「そうか・・」「そういえば最近、この界隈で辻斬りが横行していると、町方から情報がありました。もしかしたら、我々以外にも変若水の研究をしている者が居るのかもしれませんね。」「そうかもしれません。」 山南がそう言った後、外が急に騒がしくなった。「副長、大変です!」「どうした?」「また、羅刹が・・」 羅刹が出没したのは、三条大橋の近くだった。「どうして、こんな所に・・」 羅刹は、橋のたもとで息絶えていた。 その近くに、夜鷹の死体が転がっていた。 彼女は、全身の血を抜かれて死んでいた。「もしかして、辻斬りもこいつの仕業じゃ・・」「そうかもしれませんね。」 海斗達がその場を後にしようとした時、海斗は背後に鋭い視線を感じて振り向いたが、そこには誰も居なかった。「どうした、カイト?」「いいえ、何でもありません・・」(気の所為か。) 海斗達が去って行く姿を、和哉が静かに見送っていた。「あの子には会えたかい?」「いいえ・・」「そう。君はこれからどうしたいの?」「それはまだ、わかりません。」「わたしの事を知ったら、君の奥さんはどう思うだろうねぇ?」 ラウルはそう言うと、和哉に抱き着いた。「やめて下さい。」「つれないねぇ。あの時、わたしが助けなければ、君は死んでいたんだよ。」 ラウルの言葉を聞いた和哉は、“あの日”を思い出していた。 それは、海斗と祝言を挙げ、京へと赴任してから一月が経った頃だった。 雨が降る中、和哉は過激派浪士の襲撃を受けた。(海斗・・) 冷たい雨に打たれ、薄れゆく意識の中で和哉が想ったのは、江戸に残して来た海斗だった。 海斗を残して死ぬ訳にはいかない―そんな事を和哉が思っていると、誰かが自分に傘をさした気配がした。「大丈夫かい?」 そう言って自分を見つめた黄金色の瞳に、和哉は己の魂を奪い取られたような気がした。 気が付くと、和哉は見知らぬ部屋に寝かせられていた。「ここは?」「わたしの隠れ家さ。君には、わたしの為に働いて貰うよ。」 それが、和哉とラウルとの出会いだった。 ラウルに命を救われてから、和哉の身に奇妙な事が起きるようになった。 彼は絶えず、謎の喉の渇きに悩まされ、水を飲んでもそれが消える事は無かった。 それに加えて、傷の治りが異常に早かった。(僕の身体は、一体どうなっているんだ?)「これをお飲み、疲れに効く薬湯だよ。」 ラウルに渡された薬湯を飲むと、あの喉の渇きが一瞬で消えた。「これは・・」「君が知らなくてもいい事だよ。」 ラウルは、和哉が謎の渇きに苦しんでいる度に、謎の薬湯を飲ませた。 その頃から、辻斬りが相次いだ。「おい、あいつをどうするつもりだ?」「どうするつもりって?」「あいつに血を与えて、鬼にしただろう?昔、俺にしたのと同じようにな。」「一体、何の事?」「とぼけるな!」 ヤンがそう叫んでラウルの胸倉を掴むと、ラウルは大声で笑った。「それがどうしたっていうの?わたしは、“人助け”をしただけさ。」「お前という奴は・・」「あの事は、誰にも言うんじゃないよ。」「わかっているさ。」 ヤンとラウルの会話を、和哉は盗み聞きしていた。「どうしたの、浮かない顔をして?」「いいえ・・」「言いたい事があるなら、はっきりとお言い。」「あなたが、僕を鬼にしたのですか?」「そうだよ。」「どうして、そんな事を・・」「先に死んでしまうよりも、共に生きる時間が長い方がいいだろうと思ってね。」「どういう意味ですか?」「おや、君は知らなかったの、奥さんが鬼だという事を。」「海斗が、鬼・・」 和哉は、海斗が鬼であるという事をラウルから聞かされ、衝撃を受けた。 和哉の中で、海斗への不信感が高まりつつあった。 そんな中、ラウルに誘われ和哉は過激派浪士が集まる会合に出席した。「風の強い日に、御所に火を放ち、帝を長州へお連れする・・」「二階のお客様、お逃げ下さい、新選組が!」 宿の主の言葉を聞いた浪士達は、一斉に鯉口を切った。「さてと、わたしはこれで失礼するよ。」 ラウルはそう言うと、闇の中へと姿を消した。「御用改めである、神妙に致せ!」 浪士達は一斉に揃いの羽織を着た男達に斬りかかったが、彼らは瞬く間に羽織の男達に斬り伏せられた。「逃げる者はその場で斬り伏せよ!」 和哉は愛刀を握り締め、鯉口を切った。「え、それは本当ですか!?」「あぁ。」 同じ頃、和哉が池田屋に居る事はを知った海斗は、屯所を飛び出し、池田屋へと向かった。 池田屋に海斗が着くと、そこは既に激戦の只中にあった。「和哉、何処に居るの!?」 海斗が二階へと駆け上がると、奥の部屋から人の気配がした。 襖を開けると、中には金髪紅眼の男が居た。「あなたは・・」「奇遇だな、このような場所で同族と会うとは。」 男は口端を歪めて笑うと、闇の中へと消えていった。 結局、海斗は和哉を見つけられなかった。(和哉、何処へ行っちゃったんだよ・・) 新選組の名を全国に轟かせた池田屋事件は、倒幕派の怒りの炎を燃え上がらせた。 池田屋事件から一月後、長州軍が御所へ向けて発砲した。「あいつら、御所に・・」「本気か!?」 会津・桑名と共に長州を戦っていた新選組は、長州軍を京へと追い出した。「海斗君、屯所へ戻りましょう。」「はい。」 海斗が井上源三郎と共に戦場を後にしようとした時、彼は背後に鋭い殺気を感じて振り向くと、そこには敵の姿があった。「死ねぇ!」 海斗は自分に斬りかかろうとした敵の頭を潰した。 その返り血を全身に浴びても、海斗は全く動じなかった。「東郷君、大丈夫かい?」「はい。」 京の街は、炎に包まれた。「あ~あ、こんなに派手に燃やしてくれちゃって、本当に迷惑だねぇ。」 ラウルはそう言うと、櫛で髪を梳いた。 幸いな事に、ラウルが居た置屋や定宿にしていた宿屋は燃えずに済んだが、ラウルを贔屓にしていた料亭や茶屋は燃えてしまった。 その所為で、ラウルは仕事がなくなり、毎日暇を持て余していた。「桃世、あんたにお客様や。」「はぁい。」 ラウルが身支度を済ませて一階の客間へと向かうと、そこには海斗の姿があった。「今更、わたしに何の用?」「あなた、和哉の居場所を知っているんでしょう?」「知っていたとしても、それを君に教える義務はわたしにはないと思うけど?」「ただ、和哉が無事で居るのかどうか知りたいだけなんだ!」「そう・・じゃぁ、ここへおいで。」 ラウルは海斗に和哉が泊まっている宿屋の住所が書かれた懐紙を手渡すと、客間から出て行った。 その日の夜、海斗は和哉が泊まっている宿屋へと向かった。 だが―「すいまへん、このお客はんはいてはりまへんなぁ。何や、数日前に急用が出来た言うて・・」「そう、ですか・・」 意気消沈した海斗は宿屋から出ると、提灯を手に静まり返った洛中を歩き始めた。(和哉は一体、何処に行っちゃったんだろう?) 会えなくても良いから、彼が無事だと言う事だけ、海斗は知りたかった。 海斗が夜道を歩いていると、何者かが自分を尾行している事に気づいた。「見ろ、赤毛だ!」「間違いねぇ、こいつだ!」 突然目の前に、数人の男達が現れた。「俺に何か用?」「死ねぇ!」 海斗は急に男に斬りつけられ、その場に蹲った。 男は興奮したのか、笑いながら更に海斗を斬りつけようとした。(こんな所で、殺されて堪るか!) 海斗は腰に帯びていた刀の鯉口を切ると、男の首を刎ねた。「ひぃぃ~!」 連れの男達は、首を刎ねられた仲間を見て一目散に逃げだした。(あいつら一体、何だったんだろう?) 海斗が男に斬りつけられた腕の傷口を見ると、そこは完全に塞がっていた。 海斗が屯所に戻った頃、和哉はある場所に居た。 そこは、禁門の変で起きた火災で親を亡くした孤児達が居る寺だった。「みんな、居るかい?」 いつものように和哉が寺の本堂に向かって声を掛けると、その中から転がるようにして出て来る子供達の姿が、今夜に限って見当たらなかった。(どうしたんだ?) 和哉が本堂の中に入ると、そこには血の海が広がっていた。 子供達は、皆息絶えていた。(どうして・・どうして・・) この子達が一体、何をしたというのか。 和哉が子供達の遺体を抱きながら泣いていると、そこへ一人の男がやって来た。「死ね!」 男の刃が和哉に届く前に、男は頭を潰され絶命していた。 男の返り血を浴びた海斗は、自分に怯える和哉に向かって笑顔を浮かべた。「やっと会えた、和哉。」「海斗・・」 自分の前に立っている海斗は、銀髪をなびかせ、金色の瞳で和哉を見つめていた。(誰なの・・)「助けに来たよ。」 海斗が和哉に差し出した手は、血で汚れていた。「どうして・・」「和哉?」「僕に近寄るな、人殺し!」 海斗は和哉に拒絶され、傷ついた。「俺は、お前を助けようと・・」「来ないでくれ・・」 和哉との再会は、悲しいものとなった。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月13日
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「薄桜鬼」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「皆さん、何を話していらっしゃるんですか?」「おお東郷君、久し振りだな。あ、今は森崎君だったな。」「東郷で良いですよ。」「そうか。実は、浪士組の隊士の募集をしているから、俺達も参加してみようと思ってな。」「浪士組?」「身分を問わず、上様の警護をする為京へ向かうそうだ。」「京・・」 海斗の脳裏に、自分に笑顔を浮かべていた和哉の姿が浮かんだ。「俺も、行って良いですか?」「勿論だ!」 試衛館で稽古を終えた海斗は、実家へと向かった。「お祖母様、母上、お話があります。」「珍しいわね、お前がそんな風にかしこまって・・」「俺、京に行きたいんだ。」「何ですって!?」 友恵はそう言うと、海斗の頬を平手打ちした。「京に行くなんて、許しません!」「和哉を捜したいんだ!あいつが帰って来るのをじっと待っているのは嫌なんだ!」「どうしても行くというのであれば、親子の縁を切りますよ、それでも良いのですか?」「もう、俺は誰に何を言われても、京へ行く。」「ならば、勝手にしなさい!」 海斗は友恵と言い争った後、自室で荷物を纏めていた。 そこへ、洋がやって来た。「どうしても行くのですね?」「お祖母様、申し訳ありません。」「これを持っておゆきなさい。何かの足しになるかもしれません。」「ありがとうございます。」「京は物騒だと噂では聞いておりますから、気をつけて行くのですよ。」「はい・・」 こうして海斗は、近藤達と京へと向かった。「見ろよ、あの赤毛・・」「本当に日本人か?」 ヒソヒソと、悪意ある囁き声が聞こえ、海斗は拳を握り締めた。「大丈夫?あいつら、黙らせようか?」「気にしていませんから・・」 物心ついた頃から、この赤毛の所為で周囲の人々から心無い言葉を投げつけられて来た。 海斗を理解してくれたのは、和哉だけだった。(会いたいよ、和哉・・) 京に着いた海斗は、そこで一人の男に目をつけられた。 その男は、芹沢鴨。 水戸浪士で、天狗党に属していたという。 芹沢は、京に着いた日の夜に海斗を女だと思い込み彼に酌をさせた。「お前、幾つだ?」「17です。」「その様子だと、まだ生娘のようだが?」「芹沢さん、こいつにそれ以上絡むのは止めて貰おうか。」「うるさいぞ、土方。」「芹沢さん、今夜はもう飲みすぎでしょうから、お休みになられては?」 睨み合う芹沢と歳三の間に割って入ったのは、山南敬助だった。「ふん、つまらん!」 芹沢はそう言うと、部屋から出て行った。「大丈夫だったか、海斗?」「すいません、ご迷惑をお掛けしてしまって・・」「気にすんなって!」 藤堂平助はそう言うと、海斗の背中を叩いた。「芹沢さんは、お酒さえ飲まなければいい人なのですがね・・」(何だか、嫌な予感がする・・) 京に海斗達がやって来て一年も経たない内に、芹沢は商家に押し借りをするようになった。「芹沢さん、あんた最近まるで不逞浪士のような真似をしているようじゃねぇか!」「そこらへんの野良犬と一緒にするな、土方。我らは尽忠報国の志士だ。」「土方君、芹沢先生に対して何という口の利き方をするんだ!」「これだから、武家じゃない者は困る・・」 芹沢達はそう言うと、そのまま部屋から出て行った。「芹沢さんには、困ったものですね・・」「ええ。山南さん、左腕の調子はどうですか?」 山南は大坂出張の際、不逞浪士達と戦闘中に左腕を負傷した。「もう私の左腕は動きません。」「山南さん・・」 山南は負傷して以来、自室に引き籠もるようになった。「海斗、山南さんどうだった?」「相変わらず、自室に引き籠もっています。」「そうか。それよりも、この文を黒谷へ届けてくれ。」「わかりました。」 海斗は屯所を出て、会津藩本陣がある黒谷へと向かった。 だが、京の道に慣れない海斗は、いつの間にか迷ってしまった。(日が暮れる前に、何とかしないと・・) 海斗が途方に暮れていると、彼は一人の男とぶつかった。「すいません・・」「怪我は無いか?」「はい・・」 海斗が俯いていた顔を上げると、そこには美しい緑の瞳をした男が立っていた。「何かあったのか?」「あの、道に迷っちゃって・・」「何処へ行きたいんだ?」「黒谷です。」「奇遇だな、わたしも黒谷に用事があるんだ。良ければ一緒に行かないか?」「え、でも、ご迷惑なんじゃ・・」「構わない。」 男は、ビセンテ=デ=サンティリャーナと名乗った。「その髪は、地毛なのか?」「はい。」「江戸から来たのだろう?」「どうしてわかるのですか?」「訛りがないから。それに、一年前江戸から上洛した浪士組の事を噂で聞いたことがある。」「そうですか・・」 ビセンテと暫く話しながら歩いていた海斗は、彼に道案内してくれた礼を言うと、そのまま彼に背を向けて去っていった。「ビセンテ様、こんな所にいらしたのですか?出掛けるのなら一言言って下さらないと困ります!」 海斗の背中を見送ったビセンテの前に、一人の少年が現れた。 総髪にした糖蜜色の美しい髪をなびかせた少年は、蒼い瞳でビセンテを睨みつけた。「済まなかった、レオ。困っている人を見つけると、放っておけなくてな。詫びに、美味い菓子でも奢ってやろう。」「もう、わたしは子供じゃありませんよ!」 そう言いながらも、レオの口元は微かにゆるんでいた。 ビセンテはレオと共に最近贔屓にしている鍵善吉房へと向かった。「おこしやす。」「ビセンテ様は、この葛切りがお好きですね。」「あぁ。食べやすいから好きだ。」「それにしても、最近の京は物騒でかないませんね。西国の浪士達のみならず、江戸からもならず者が来るなんて・・」「レオ、声が大きい。」「すいません。」「さてと、腹を満たしたところだし、宿へ戻るとするか。」「はい。」 二人が店から出て洛中を歩いていると、男達の怒号と女達の悲鳴が聞こえて来た。「どうか、堪忍しておくれやす!」「最初からそう頭を下げていれば、我々も手荒な真似をせずに済んだものを。」 額を地面に擦りつけるようにして店の前で土下座している店主夫妻を見た芹沢は、そう言うと笑った。 その奥で、彼らの娘と思しき若い娘が泣き叫んでいた。 「壬生狼や・・」 「押し借りをするやなんて、不逞浪士達と同じやないの・・」 「はよ、出て行って貰いたいわ。」 「行くぞ。」 芹沢達が去って行った後、ビセンテとレオは荒れ果てた店内を見て呆然としている店主一家に手を貸そうとしたが、断られた。「あいつらのような連中が居るから、京が物騒になるんです。」「まったくだ。」 ビセンテはそう言いながらも、黒谷へと道案内した赤毛の少年に想いを馳せていた。「あ~、疲れた。」 黒谷から壬生の屯所へと戻った海斗は、そう叫ぶと畳の上で大の字になって寝転がった。「海斗君、少しよろしいですか?」「あ、はい!」 山南に連れられて、海斗は彼と共に大広間に入った。 そこには、険しい表情を浮かべている勇、歳三ら試衛館一派の姿があった。「あの、俺に話って・・」「実は、島原や祇園の茶屋に不逞浪士達が出入りしているという噂があってな。そこで、隊士を一人潜入させようと考えているんだが・・」「俺が、祇園に潜入する事になったんですね?」「話がわかって助かるぜ。そこでだ、これからお前には祇園の置屋で暮らして貰う。」「わかりました。でも、赤毛の俺だと目立つのでは?」「祇園に潜入する為には、ある程度芸事に通じてねぇと、敵に簡単に見破られてしまう。だがお前は芸事に通じているようだから、大丈夫だろう。」「そうですか・・」「向こうにも話はつけてある。」 こうして、海斗は祇園に潜入する事になった。「まぁ、可愛らしい舞妓ちゃんにならはったねぇ。」「ありがとうございます。」 江戸を出て一年振りに女装した海斗だったが、余り違和感がなかったので安心した。 ただ、髪を久しぶりに結ったので、少し首が痛かった。「あとは源氏名を考えなあきまへんなぁ。」「“鈴菜”というのはどうでしょう。呼びやすくて、響きが可愛いし。」「ええ名前やね。それにしまひょ。」 こうして海斗は、性別を偽り“鈴菜”として祇園で暮らす事になった。「へぇ、ここが祇園か。右を見ても左を見ても、良い女ばかりだなぁ。」「ジェフリー、余りはしゃぐなよ。」「あぁ、わかっているよ。」 ジェフリーとナイジェルはその日、祇園の茶屋で酒を酌み交わしていた。「なぁナイジェル、ここには芸妓や舞妓を呼んでお座敷遊びが出来るんだろう?俺達も・・」「駄目だ。」「そんなケチ臭い事を言うなよ。」「あんたは羽目を外し過ぎる事がある。あんたの尻拭いをしているのは誰だと思っている?」「悪かった。」「わかればいい。」 親友であるナイジェルとは長い付き合いだが、彼の堅物さには時々うんざりする事があった。 だが財布の紐を握っているナイジェルを怒らせると面倒な事になるので、ジェフリーはそれ以上何も言わなかった。 彼らが居る隣の座敷では、西国の志士達が宴を開いていた。「今晩わぁ。」「可愛い舞妓やないかえ!おんし、名は?」「鈴菜と申します。」「鈴菜、こっちへ来て酌ばせんね。」「へぇ・・」 海斗は愛想笑いを浮かべながら志士達に酌をしたが、その中の一人が泥酔して彼に抱き着いて来た。「やめて下さい!」「嫌がらんでもええやないか。」 海斗は志士を押し退け、座敷から出て行った。「待て!」「誰か、助けて!」 欲望に滾る志士から逃げた海斗は、とっさに隣の座敷へと逃げ込んだ。「お前、あの時の・・」「助けてくれ、追われているんだ!」 海斗はそう叫んだ後、ジェフリーに抱き着いた。「ここか!」 直後に襖が開き、志士が座敷に入って来た。「おやおや、人の女に手を出すなんて感心しないねぇ。」「貴様は黙っとれ!」「そんなに騒ぐなよ、酒が不味くなる!」 ジェフリーはそう叫ぶと、志士を蹴飛ばした。 志士は悲鳴を上げ、無様に尻もちをついた。「今の内に逃げろ!」「助けてくれて、ありがとう。」 海斗はジェフリーに礼を言うと、そのまま座敷から出て行った。「・・変若水が・・」「・・これを飲めば不死身に・・」 廊下から漏れ聞こえた声に、海斗は耳をそば立てた。 そっと少しだけ開いた襖から部屋の中を垣間見た彼は、何者かが真紅の液体を入った硝子壜を渡している事に気づいた。(あの硝子壜、何処かで・・) 部屋の中の者に気づかれぬよう、海斗がその場から離れようとした時、彼は一人の芸妓とぶつかった。「すいまへん、おねえさん。」「気ぃつけて歩きや。」 彼女は海斗を睨みつけると、そのまま去っていった。「そうか、そないな事があったんか。」「迷惑を掛けてしもうて、すいまへん。」「謝るんは、こっちや。土方はんにはこっちの方から事情を説明しておくさかい、お部屋でお休み。」「はい・・」 置屋に戻った海斗は、与えられた部屋で化粧を落とした後溜息を吐いた。(こんな調子で、潜入捜査とかやっていけるのかな、俺?) 翌日、海斗は舞の稽古を受けたが、師匠さんからことごとく駄目出しをされて落ち込んでしまった。(ここで落ち込んでいる場合じゃないな。) 海斗は置屋に戻って舞の練習を寝る間も惜しんで続けた。 一方、海斗が茶屋でぶつかった芸妓は、連れ込み茶屋の部屋で男としけ込んでいた。「こんな所へ俺を呼び出すかと思えば、そういう事か。」「ヤン、お前の“ご主人様”はどうしている?」「最近江戸からやって来た浪士組の奴らの存在が気に喰わないらしく、こちらに八つ当たりされて困っているよ。」「それは可哀想に。」「心にもないことを。」「それにても、最近の祇園の客の格は落ちたね。西国の浪士達が耳元で喚くからうるさくて嫌になるよ。」「客相手にあんたはそんな態度なのか?」「まさか。」 芸妓は、そう言って声を上げて笑った。「こんな所で油を売っていないで、とっとと置屋へ戻ったらどうだ?」「つれないね。まぁ、そんな所も好きだけど。」 芸妓は名残惜しそうな様子で男―ヤンの唇を塞いだ。「浮気は許さないよ。」 芸妓―ラウルは連れ込み茶屋から出て、置屋・桔梗へと戻った。 階段を上がって自室に入ると、そこは嵐が過ぎ去ったかのように荒れ果てていた。「これは一体、どないしたん?」「あ、あの・・」「うちは暇やないから、早く部屋を片付けてや。」「は、はい・・」 ラウルを見た仕込みの娘は、怯えた顔をしながら部屋を片付け始めた。 彼は舌打ちして昼餉を取ろうと階下へ降りると、廊下で一人の舞妓と擦れ違った。 彼女の鮮やかな赤い髪に、ラウルは見覚えがあった。「桃世、帰って来たんか。」「おかあさん、この子誰やの?見ない顔やね。」「ここは鈴菜ちゃんや。訳あってうちで引き取ったんや。」「へぇ、そうなんや。」 ラウルは興味が無さそうな振りをすると、女将と舞妓と共に昼餉を取った。「おかあさん、うち三味線の稽古に行って来ます。」「気ぃつけて行きや。」 昼餉の後、ラウルが自室へ戻ると、そこは綺麗になっていた。「暫く一人になりたいから、出て行ってくれへん?」「へ、へぇ・・」 ラウルは鏡に映る顔を見ながら、口元に紅をひいた。(あの赤毛、わたしと同じ“におい”がする。) 今までラウルの周りには、同族が居なかった。 だが、今は違う。(あの子は、己の事をまだわかっていない。これから、面白くなりそうだね。) 三味線の稽古の後、ラウルはご贔屓筋のお座敷へと向かった。「桃世、久しいなぁ。」「西崎様、お元気そうで何よりどす。」 ラウルはそう言うと、客にしなだれかかった。「最近、ここら辺で化物が夜な夜な人を襲っているそうや。」「へぇ、それは恐ろしい事。」 海斗は提灯を手にお座敷がある料亭へと向かった。 その途中、海斗の前に白髪赤眼の化物が現れた。「ひっ・・」「血ヲ寄越セ~!」 血飛沫が上がり、海斗がつぶっていた目を開けると、そこには茶屋で自分を助けてくれた男が立っていた。「大丈夫か?」「助かった・・」「おいっ、しっかりしろ!」 海斗は男の腕の中で安堵の余り気絶した。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月13日
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「薄桜鬼」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。「鬼だ!」「鬼が来たぞ、逃げろ!」 バタバタと、子供達が逃げる足音が池の方から聞こえたので、森崎和哉が池へ向かうと、そこには全身ずぶ濡れになった幼馴染であり許婚の姿があった。 美しく桃割れに結われた髪は乱れ、髪と同じ色の振袖は泥だらけになっていた。「海斗、どうしたの?」「和哉、俺は鬼なの?」「そんな事ないよ、海斗は可愛いよ。」「本当?」「うん。」 和哉の許婚・海斗はこの世に産まれ落ちた時、炎のような鮮やかな赤毛をしていた。 黒髪の者が多い日本では、海斗の存在は異質なものだった。 それ故に彼は家族や周囲の者達から“鬼”と呼ばれ、海斗はいつも近所の子供達から苛められた。「恐ろしい、あの子は必ずや東郷家に災いを齎す事でしょう。」「お義母様、どうすればあの子を守れますか!?」「あの子を娘として育てるのです。そうすれば、この家に災いは降りかかりません。」 海斗が産まれた時、友恵は姑・洋の助言を受け、海斗を娘として育てた。「母上、只今戻りました。」「お帰りなさい、和哉。まぁ、海斗様、どうされたのです!?」 和哉が海斗を連れて帰宅すると、和哉の母・千春は慌てて泥だらけの海斗を風呂場へ連れて行くよう女中に命じた。「母上・・」「友恵様に使いを出さなくては・・」 目の前で狼狽えている千春を見て、和哉は嫌な予感がした。 その予感は、的中した。「奥方様、東郷の大奥様が・・」「わたくしの孫が、迷惑を掛けましたね。」「い、いいえ・・」「海斗は?あの子は何処です?」「海斗様は、全身泥だらけでしたので、お風呂に・・」「全身泥だらけですって!?一体あの子に何が起きたのですか!?」「あいつらが、海斗を苛めたんだ!」「あいつらとは、誰です?」「和哉、部屋に行ってなさい!」「ですが、母上・・」「洋様、息子のご無礼をどうかお許し下さい。」「千春さん、顔をお上げなさい。和哉さん、息子を助けて下さってありがとう。」「僕は当たり前の事をしただけです。」「これからも、海斗を守ってやって下さいね。」「はい、わかりました。」「お祖母様・・」「海斗、迎えに来ましたよ。」 洋は、清潔な着物に着替えさせられた海斗を見てそう言った後、安堵の笑みを浮かべた。「お祖母様、どうしてわたしは男なのに女の格好をしているのですか?」「それはお前の為なのですよ、海斗。お前を守る為なのです。」 まだ子供であった海斗は、その時自分が“普通”ではない事に気づいていなかった。“その事”に気づいたのは、海斗が洋から薙刀を習い始めた時だった。 稽古用の木刀を手に、洋と突きの練習をしていた時、海斗は額を切ってしまった。「海斗様、大丈夫ですか?」「額に血が!」「誰か、お医者様を呼んで来て!」 海斗は手拭いで額を拭った後、額の傷が塞がっている事に気づいた。「お義母様、海斗は大丈夫なのですか?」「大丈夫です。」 洋はそう言うと、布団の中で眠っている海斗を見た。「友恵、今日の事は誰も話してはなりませんよ。」「わかりました。」 それから、長い歳月が過ぎた。 17となった海斗は、家を飛び出して試衛館という剣術道場で暮らしていた。 何度も友恵と洋が家に連れ戻そうとしたが、海斗は頑として家に帰ろうとしなかった。 試衛館は江戸市中から離れている多摩に道場を構えており、天然理心流という剣術を門下生達に教えていた。 天然理心流は、剣術の他に柔術など、実戦に近いものだった。 型にはまった道場剣術よりも、実戦で役に立つ剣術を習いたかった海斗にとって、試衛館は最適の場所だった。 今日も海斗は、試衛館で稽古に励んだ。「東郷君は、最近腕を上げたな。」「ありがとうございます、若先生。」 近藤勇は、屈託の無い笑みを海斗に浮かべた。「あれぇ、君今日も朝早くから稽古を受けてるの?熱心なのはいいけれど、無理はしないでね。」 沖田総司はそう言うと、翡翠の瞳で海斗を少し呆れたように見た。「近藤さん、今日は土方さん来ないんですか?」「トシは今日、実家で用事があるから来られないそうだ。」「へぇ、残念だなぁ。東郷君を土方さんに紹介したかったのに。」「まぁ、トシとはいつでも会えるさ。」「トシって、誰なんですか?」「近藤さんの親友で、薬の行商をしているよ。黙っていれば美人なのに、口が悪いしわがままだし・・」「誰が、口が悪いって?」「あ、噂をすれば、だ。」 海斗が声のした方を見ると、そこには一人の青年が立っていた。 射干玉のような美しく艶のある黒髪を背中でひとつで纏め、雪のように白い肌を少し赤くして、美しい紫の瞳で総司をその青年は睨んでいた。「土方さん、この子で最近入門して来た東郷海斗君。」「はじめまして、東郷海斗です。」「東郷、確かこの前、八郎の道場で同じ名前の奴を見かけたな。」「あぁ、それは俺の弟です。」「へぇ、そうか。そういえば、お前の弟から預かって来たぜ。」「ありがとうございます。」 歳三から文を受け取った海斗は、その文に目を通した後、溜息を吐いた。「何て書いてあったの?」「家に帰って来いとさ。祝言の準備があるからって。」「祝言!?君その年で結婚するのか!?」「いいえ、俺は“嫁ぐ”身です。」「え、どういう事?」「実は・・」 海斗は、近藤達に許婚と、家の事情を話した。「へぇ、身分が高い人は色々と大変なんだね。」「えぇ、まぁ・・暫くこちらを留守にするので、色々とご迷惑をお掛け致しますが・・」「大丈夫だ。祝言が終わったら帰って来なさい。」「ありがとうございます、若先生。」 こうして、海斗は二週間ぶりに実家へと戻った。「お帰りなさい、海斗。お風呂をわかしたから、お入りなさい。」「はい。」 風呂に入った海斗が自室に入ると、美しい白無垢が衣紋掛けに掛けられていた。「美しいでしょう。この白無垢は、東郷家の女達が代々受け継いで来た物なのですよ。」「お祖母様・・」「海斗、お前は男ですが、昔のように女の格好をなさい。」「俺は・・」「お前の為なのですよ、海斗。」 そう言った洋の顔からは、表情が読み取れなかった。「お祖母様、俺は一体、何者なんですか?」「もう、お前も良い年だし、これ以上隠しても無駄のようね。」 洋は深い溜息を吐いた後、海斗に“ある話”をした。 それは、東郷家の“呪われた血”の話だった。 平安の世、海斗のように赤い髪の“姫”が産まれた。 その“姫”は、かつてこの国を揺るがした鬼の一族の末裔だった。“姫”はやがて人間と恋に落ちたが、その恋に破れて自害した。“姫”は死の間際、自分を討ち取ろうとした父親に、こう言い放ったという。『わたしの呪いは、末代まで続く』と。「お前が産まれた時、わたしと友恵は血の呪いからお前を守ろうと、お前に女の格好をさせました。けれどもお前は、血の呪いから逃れられなかった。」「お祖母様・・」「海斗、わかっておくれ。何もわたし達は、お前が憎くて女の格好をさせている訳ではないの、お前を守る為なのよ!」 洋は、そう叫ぶと泣き崩れた。 海斗はそれ以上洋に何も言えなかった。 祝言を迎えるまで、海斗は洋と友恵の元で花嫁修業に励んだ。 二人は幼少の頃と比べて海斗に松脂のように纏わりついて来なかったが、自由気ままに過ごしていた頃と違い、いつも二人に監視されているような気がして良かった。 そんなある日、海斗は三味線の稽古の帰りに花見をしようと足を伸ばして寛永寺へと向かった。 春の盛りを迎えたそこは、満開の枝垂れ桜が咲き乱れていた。(うわぁ、綺麗だなぁ・・) 桜の美しさに見惚れていた海斗は、近くを歩いていた男とぶつかってしまった。「ごめんなさい!」「前を向いて歩けよ。」 海斗とぶつかった男は、目つきが悪い男だった。 腰に二本の大小を差している男の身なりを見た海斗は、最近上野辺りに西国からやって来た浪士達の溜まり場になっているという噂を、使用人達が話していた事を突然思い出した。「何じゃぁ、ここいらでは見かけん身なりの娘じゃのう。」「良く見れば、上玉じゃのう。」 いつの間にか、海斗の周りを男の仲間と思しき数人の浪士達が取り囲んでいた。 海斗は咄嗟に帯に挟んでいた懐剣を抜き、浪士達を睨んだ。「近寄るな!」「威勢の良い娘じゃ。」 海斗は懸命に懐剣を手に浪士達と戦ったが、多勢に無勢で、彼はあっという間に浪士達に動きを封じられてしまった。「離せ!」「大人しくせぇ!」「見た所、生娘じゃのう。」 逃げようとしても、振袖の所為で動きが制限され、裾が邪魔で浪士達の股間を蹴る事も出来ない。「誰か~!」「助けを呼んでも無駄じゃぁ・・」 海斗に向かって下卑た笑みを浮かべながら、振袖の身八つ口の中に手を入れようとしていた浪士の一人が、突然後頭部を何者かに殴られ気絶した。「嫌がる娘を無理矢理手籠めにするのが、西国の作法かい?」「何じゃぁ、貴様!?」「やれ!」 突然の闖入者に気が立った浪士達は、次々と刀の鯉口を切り、彼に襲い掛かった。 だが男は浪士達の攻撃を次々と躱すと、腰に差した木刀で彼らを倒した。(凄い・・) 試衛館で幾度となく近藤や総司の稽古を見て、彼らの見事な剣技に驚いた海斗であったが、目の前に居る男も彼らと同様、かなりの剣の遣い手である事は確かだ。「クソ、覚えちょれよ~!」「怪我は無いか、娘さん?」「はい、助けて下さり、ありがとうございました。」 そう男に礼を言った海斗は、目の前に立っている彼の顔を見て、まるで雷に打たれたかのようにその場から動けなくなった。 自分は、“彼”を知っている。 遥か昔、自分がこの世に生を享ける前、“彼”と共に大海原を航海した記憶が、海斗の脳内に津波のように押し寄せて来た。「どうした?俺の美しい顔に見惚れたか?」「はい・・」 海斗は咄嗟に嘘を吐いたが、男の顔は稀に見る程の美男子だった。 白い肌、良く通った鼻筋、形の良い唇、そして金色の美しい髪をなびかせ、海のように美しく蒼い瞳を持った男の顔は、この国では珍しいらしく、先程若い娘達が時折擦れ違いざまに男に対して好色な視線を送っていた。「あの、あなたのお名前は?」「俺は、ジェフリー=ロックフォード。そういうあんたの名は、娘さん?見たところ、何処か大店のお嬢さんか、武家のお姫様にしか見えないが・・」「俺・・わたしは・・」「海斗!」 突然海斗と男―ジェフリーとの間に割って入って来たのは、海斗の許婚である森崎和哉だった。「和哉、どうしてここに?」「君が中々帰って来ないと静さんから聞いて、もしかしたらと思ってここへ来たら・・」「ごめん和哉、心配かけて。もう帰ろう。」「あぁ。」 海斗は去り際、ジェフリーに一礼して彼に背を向けて歩いていった。「ジェフリー、捜したぞ。一人で勝手に行くなと、何度言ったら・・」 ジェフリーが赤毛の武家娘を見送った後、一人の青年が彼の前に現れた。 黒褐色の髪に、右目に黒絹の眼帯をつけたその青年は、灰青色の瞳でジロリとジェフリーを睨んだ。「ナイジェル、済まない。さっき若い娘が浪士達に絡まれていた所を助けたのさ。」「どんな娘だ?」「赤毛で、黒真珠のような瞳をした娘だった。その娘は、俺の顔を見た途端、泣きそうな顔をしていたんだ。」「どうせ、また嫌がる所を迫ったのだろう?」「いや、あの娘は俺と“誰か”の顔を重ねているように見ていた。」「後でお前の与太話を聞いてやるから、宿へ戻ろう。」「あぁ。」 あの娘とは、また会う事になるだろう―ジェフリーは親友・ナイジェルと共に寛永寺を後にした。「緊張しているの、海斗?」「うん、少しね・・」 紋付きの羽織袴姿の和哉は、そっと震える海斗の手を握った。 白無垢の角隠しの隙間から見える彼の顔は、仄かに紅くなっていた。 今日は、自分達の祝言の日だった。 三三九度の盃の儀を終えた二人は、森崎家で披露宴を行った。 それは、深夜まで続いた。「疲れたね。」「うん・・」「海斗、急な話なんだけれど、僕は来月京に行く事になったんだ。」「京へ?」「大丈夫、毎日手紙を書くし、半月もすれば戻って来るから。」「そう・・」 一月後、和哉は海斗を江戸に残し京へと旅立った。 彼は毎日海斗に文を送ってくれたが、それが途絶えたのは、丁度和哉が上洛して半月後の事だった。 不安な気持ちを抱えたまま、海斗が試衛館へ向かうと、近藤達が何やら興奮した様子で何かを話していた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月13日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。―シエル、また会いましたね。(あなたは、誰?)―その様子だと、まだわたしの事を思い出してくれないようですね。“彼”は、紅茶色の瞳でシエルを見つめた後、霧の中へと消えていった。(待って、行かないで!)「シエル、どうしたの?」「う・・」シエルが低く呻いてベッドから起き上がると、そこには心配そうに自分を見つめるジェイドの姿があった。「酷くうなされていたよ。悪い夢を見ていたの?」「うん・・」「はい、お水とお薬持って来たよ。」「ありがとう・・」「喘息が酷くならなくて良かったよ。早く風邪、良くなってね。」「うん・・」数日後、シエルが登校すると、クラスメイトのソーマが彼に抱き着いて来た。「シエル~、心配してたんだぞ!」「苦しいから、離せ!」「本当に心配したんだからな~!」「わかった、わかったから離せ!」自分に抱き着いたまま離れようとしないソーマにシエルが困っていると、ジェイドが二人の間に割って入った。「弟の事を心配してくれてありがとう、ソーマ。」「お、おぅ・・」どうやらソーマはジェイドの事が苦手なようで、ソーマは慌ててシエルから離れた。「シエル、体調は大丈夫?」「うん・・」「体育は、見学した方が良さそうだね。」「うん・・」「ね?」ジェイドは少し苛立ったかのように、シエルの手にそっと爪を立てた。「なぁシエル、お前の兄ちゃん、少しヤバくないか?」「え?」放課後、通っている学習塾の近くにあるハンバーガーショップでレモネードを啜っていたシエルは、ソーマからそう指摘され、思わず首を傾げてしまった。「“え?”じゃないだろ。今朝もそうだけど、お前に少しでも誰かが近づくと、お前の兄ちゃん、物凄い顔をしているぞ。」「そうなのか・・」「シエル、お前がどうして何処の部活にも入らないというか、入れない理由がわかったぞ。」ソーマはそう言うと、コーラを一口飲んだ。「もしかして、兄さんが・・」「男のお前が言うのもなんだが・・シエルは可愛いからなぁ。案外、お前を狙っている奴、多いぞ?」「そうか?」(鈍いな・・)シエルは気づいていないかもしれないが、彼を狙っている者達は、かなり多い。自分達が通っている学校は外国籍の生徒や、外国にルーツを持った生徒が多いが、シエルやジェイドはその中でも美少年の部類に入る。ソーマは詳しくは知らないが、同性を恋愛対象として見る者がこの世には居るようで、シエルは何故かそういう者達に、“そういう目”で見られているらしい。それが原因なのかどうかは知らないが、シエルを常に守るかのようにジェイドがまるで彼の影のようにシエルに寄り添っている。ジェイドが、シエルに対して異常なほどに過保護過ぎるのは、何故なのか。「まぁ、僕は身体が弱いから運動部は無理だし、もし入るとしたら音楽部かな。」「お前、吹奏楽をやっていたのか?」「やっていないが、ヴァイオリンは子供の頃から習ってるから、音楽部なら吹奏楽部よりいかなって・・」「確かに。でも、お前の兄ちゃんが許すかどうか・・」「それが問題だな。」シエルはそう言ってスマートフォンを見ると、慌ててそれをリュックのサイドポケットにしまうと、レモネードだけを持ってハンバーガーショップから出て行った。「塾の時間だから、またな!」「あ、あぁ・・」何とか塾の小テストの時間に間に合ったシエルが息を切らしながら教室に入ると、隣に座っていたジェイドが彼を見た。「どうしたの、シエル?いつも遅刻なんてしないのに、珍しいね。」「うん、まぁ・・それよりも兄さん、話したい事があるんだ。」「話したい事?」「後で話す。」「わかった。」塾が終わった後、シエルとジェイドは塾の近くにあるハンバーガーショップに居た。「それで、話ってなに?」「部活の事だけど、音楽部に入りたいんだ。」「いいよ。」「え、本当にいいの?」「いいよ。これまで僕はお前に厳しくし過ぎたのかもしれないって、思っているんだ。」ジェイドはそう言った後、ロイヤルミルクティーを一口飲んだ。「ありがとう。」「余り無理しないようにね。」「わかった。」翌日、シエルは音楽部の入部届を、顧問の芦田に提出した。「そうだ、明日から顧問が変わるんだ。」「どういう事なのですか?」「“働き方改革”って、最近ニュースでやっているだろう?部活動の指導を、外部の専門のコーチや指導者にして貰うって事に、明日からこの学校もなったんだ。」「そうなんですか。」翌日の放課後、音楽部の練習が行われている第一音楽室にシエルが向かうと、ピアノの前に一人の男性が座っている事に気づいた。「あの、ここに何かご用ですか?」「あなたは、この学校の生徒さんですか?」「は、はい・・」シエルは、その時漸くその男性が自分を助けてくれたカフェの店主だと気づいた。「あなたは、あの時の・・すいません、ちゃんとお礼も言えなくて・・」「いえ、いいんですよ。あぁ、自己紹介が遅れました。わたしは今日から音楽部の指導をする事になりました、セバスチャン=ミカエリスと申します。」そう言って、男性はシエルに優しく微笑んだ。「シエル=ファントムハイヴです。これからよろしくお願いします、ミカエリスさん。」「こちらこそよろしくお願いしますね、ファントムハイヴ君。」こうして、シエルとセバスチャンは再会した。「シエル、今日は嬉しそうな事があった?」「今日、音楽部の新しい顧問の先生に会ったんだけど、この前僕を助けてくれたカフェの店長さんだったんだ!」「まぁ、そうだったの!それは良かったわね。」「うん!」両親とシエルの話を聞いていたジェイドは、少し不満そうな様子で唇を少し噛んだ。「ミカエリス先生、忙しいのに僕の為にお時間を取って下さり、ありがとうございます。」「いいえ、丁度暇でしたし。それで、わたしに話とは何でしょう?」「僕の弟・・シエルの事をよろしくお願いしますね。」「ええ、わかりました。」セバスチャンは音楽部の指導を終えて帰宅した後、ブランを撫でながらシエルと瓜二つの顔をしている彼の双子の兄の事を思った。(彼は、少し厄介ですね・・)にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月10日
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素材は、ゴリラの素材屋さんからお借りしました。「黒執事」二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。BL・二次創作が苦手な方はご注意ください。「遂に終わりましたね、坊ちゃん。」「あぁ・・」シエル=ファントムハイヴは、漸く復讐を終え、“契約”通りにセバスチャンに魂を喰われる所だった。だが―「坊ちゃん・・いえ、シエル、これからはわたしと共に生きて下さいませんか?」「は?」自分の魂を喰らう筈の悪魔に突然求婚され、シエルは思わず間の抜けた声を出してしまった。「シエル、これからわたしと共に・・」「それはさっき聞いた。お前、僕の魂を喰らわないのか?」「はい。」「どういうつもりだ?」「わたしは、あなたと過ごしている内に、あなたの魂を喰らう事は、嫌だと感じたので・・」「そんな理由で?」「はい。」シエルは半ば呆れたような顔を、セバスチャンに向けた。「僕の魂を喰わないと、お前はどうなるんだ?」「それは、わかりません・・」「わからないだと?」「ええ。ですが、あなたと共に、この世界がどうなるのかを見てみたいのです。」「物好きな奴だな、お前は。」シエルは溜息を吐いた後、セバスチャンにこう言った。「いいだろう。復讐する事だけを糧に今まで生きてきたが、これからゆっくりと過ごしてみるのも悪くない。」「坊ちゃん!」「おい抱き着くな、鬱陶しい!」「愛しています、シエル!」「離れろ~!」 こうして、シエルはセバスチャンと共に、世界の行く末を見守る事となったのだった。 1912年、英国。「タイタニック号が大西洋沖で沈没ですか・・カンパニア号の事を思い出しますね。」「止めろ。」ファントムハイヴ伯爵邸にある執務室で、シエルはそう言ってセバスチャンに朝刊を突き返してしまった。その一面記事には、豪華客船タイタニック号沈没事故の事が大々的に報じられていた。その記事を読んだ後、シエルはカンパニア号の事を思い出し、渋面を浮かべた。「本日のご予定は、午前中は日本の外務省の方達と会食、午後はファントム社の商品会議と・・」「会食は気が滅入って疲れる。」「まぁ、そうおっしゃらずに、坊ちゃん。」「お前、わざと僕をそう呼んでいるな?」シエルは、ジロリと書類越しにセバスチャンを睨んだ。シエルは現在、36歳。もう、「坊ちゃん」と呼ばれる年ではないのだが、セバスチャンは未だに「坊ちゃん」とシエルと呼ぶ。「さぁ、何の事でしょう?」セバスチャンはそう言うと、首を傾げた。「シエル、遊んでぇ~!」「いけません、コリン坊ちゃま!」執務室の扉が勢い良く開いたかと思うと、プラチナブロンドの髪をなびかせたセーラー服姿の少年が入って来た。少年は父親譲りの碧い瞳をキラキラさせた後、シエルに抱きついた。「コリン坊ちゃま、そろそろ剣術のお稽古の時間ですよ。」「いや~、シエルと遊ぶの~!」シエルは自分にしがみついて離れようとしない少年に、少し呆れたような顔をしていた。この少年は、シエルの双子の兄・ジェイドと、エリザベスとの間に産まれた長男・コリンで、シエルにとっては甥にあたる。コリンは何故かシエルを“叔父様”と呼ばず、普通に“シエル”と呼んでいる。それは、母親の影響なのかもしれない。「コリン、遊ぶのはまた今度・・」「いや~、今日はボート遊びをしてくれるって言ったじゃない!」「駄目じゃないか、コリン。シエルを余り困らせてはいけないよ。」「お父様~!」シエルの双子の兄・ジェイドは、シエルにしがみついているコリンを彼から引き離した。「もう、コリンったら狡い!今日はわたしがシエル叔父様に帝王学を習うんだから!」シエルの執務室に入って来たのは、コリンの姉・レイチェルだった。「レイチェル、叔父様はお忙しいんだ、二人共叔父様と遊ぶのは明日にしよう、ね?」「はぁ~い。」「さぁお二人共、行きますよ。」乳母に手をひかれてコリンとレイチェルが執務室から出て行くのを笑顔で見送った後、ジェイドはその笑みを消してシエルとセバスチャンの方へと向き直った。「シエル、今、お前と話したい事があるんだけど、いい?」「話したい事?」「わたくしは、席を外した方が良さそうですね。」「あぁ、そうしてくれると助かるよ。」 セバスチャンとシエルの間に、静かな火花が散った。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月08日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「黒執事」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。シエルを奥の個室で寝かせている間、セバスチャンは厨房でディナーの準備をしていた。縁あってこの店を引き継いだが、飲食店を経営するのは初めてだったので、毎日が試行錯誤の日々だった。店のレシピを忠実に守り、かつてこの店の常連客がSNSでこの店を紹介してくれた事がきっかけで、それまで閑古鳥が鳴いていた店は、“隠れ家カフェ”として学生や社会人、家族連れの間で人気になり、平日のランチタイムには、それなりに賑わっている。先代オーナーの頃はモーニングをしていたが、今はランチとディナーだけの営業をしている。ディナーメニューは、ハンバーグとグラタン、ドリアのセットのみで、ドリンクバーもサラダバーもないが、味で勝負しているのでセバスチャンは余り気にしていなかった。「おはようございま~す!」「フィニ、もう夕方ですよ。」「あ、そうでした、すいません。」店の裏口から厨房に入って来たのは、カフェの料理人・フィニことフィニアンだった。店の料理は、フィニアンとセバスチャン、そしてバルドロイの三人が担当しているのがだが、バルドロイは骨折して先週末から入院している。「ディナーの予約のお客様は何組ですか?」「十六組です。」「じゃぁ、今日用意した食材で大丈夫そうですね!」「ええ。」セバスチャンはそう言うと、食材の数を確認する為、厨房の冷蔵庫を開けた。そこには、十六人分のディナーが作れる量の食材が入っていた。「セバスチャンさん、奥の個室には誰が入っているんですか?」「あぁ、昼間熱中症になりかけていた近所の中学生を休ませていたので、そろそろ起きて来るかと・・」セバスチャンがそう言いながら包丁でタマネギを刻んでいると、厨房にシエルが入って来た。「すいません、お仕事中に・・」「いいえ。その様子だと、体調は良くなったようですね。「はい。ロイヤルミルクティーが効いたようです。」「そうですか、それは良かった。」セバスチャンがそう言ってシエルに優しく微笑んだ時、シエルの脳裏に、“誰か”の面影が重なった。「また、来てもいいですか?」「ええ、あなたが望むのなら、いつでも来てもいいですよ。」シエルが、“洋食&カフェ・さくら”から出て行く姿を見送ったセバスチャンは、厨房へと戻った。その日の夜も、店は盛況だった。「セバスチャン、お疲れ様です~!」「お疲れ様です。」セバスチャンは店内に、『本日の営業は終了しました』という看板を立てた後、店内と厨房の清掃を終え、戸締りをした後、バスに乗って帰宅した。「ただいま帰りました。」自宅があるマンションの7階の部屋の鍵をセバスチャンが開けると、部屋の奥から一匹の猫が出て来て玄関先で彼を出迎えた。「独りにさせてしまってごめんなさい。今、ご飯をあげますね。」セバスチャンの足元に身体を擦り付けたその猫は、碧い瞳で彼を見上げた後、嬉しそうな声で鳴いた。“彼”―ブランと呼ばれた白猫とセバスチャンが出会ったのは、土砂降りの雨の中だった。その日、セバスチャンは会社員として働いていて、営業先から会社へ戻る最中に、路地裏で怪我をしているブランを見つけたのだった。猫好きの彼は会社に早退すると連絡し、ブランを抱いて近くにある動物病院へと駆け込んだ。毛並みがボサボサで、目やにがひどく、ノミやダニに喰われていたブランは、セバスチャンによって美しい白猫へと変わった。「そろそろ爪切りをしなくてはね。」セバスチャンのそんな言葉を聞いたブランは、まるで抗議するかのように唸った。「そんなに怒らないで下さい。」ブラッシングをしながら、セバスチャンは彼を宥めた。「明日は店が休みなので、ずっと一緒に居られますよ。」セバスチャンの言葉がまるで解ったかのように、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。「お休みなさい。」セバスチャンはシャワーを浴びて寝室に入ると、ブランがカリカリと寝室のドアを爪で引っ掻いてきた。「もう、あなたは甘えん坊さんですね。」セバスチャンは苦笑しながら、ブランを寝室に入れた。同じ頃、シエルは自分を介抱してくれた男の事を思い出していた。何故か初対面なのに、彼とは何処かで会ったような気がしてならなかった。「どうしたの、シエル?」いつの間にか自分の部屋に入って来た双子の兄・ジェイドは、そう言いながらシエルのベッドに潜り込んで来た。「今日、学校の帰りに熱中症になりかけて倒れそうになっていたら、近くのカフェの店長さんに助けて貰ったんだ。」「へぇ、そうだったの。その人、どんな人?」「とても綺麗な男の人だよ。ジェイド、そんな顔しないでよ。」「ごめん・・」ジェイドは、シエルを助けた“綺麗な男の人”の事が気になって仕方が無かった。(この家の近くのカフェとしたら、あの店しかない。)翌日、ジェイドは学校の帰りに家の近くにある、“洋食&カフェ・さくら”へと向かったが、店は定休日だった。「ただいま。」「お帰り、ジェイド。何処に行ってたの?」「家の近くのカフェ。定休日だったよ。」「そ、そう・・」「ねぇシエル、お前を助けた人とは、“本当に”何もないんだよね?」「うん、何もないよ。」「そう、だったらいいけど。」ジェイドがリビングから出て行った後、シエルは安堵の余り溜息を吐いた。ジェイドは、何故かシエルの事になると妙に過保護になることがあった。今に始まった事ではないが、シエルは時折ジェイドの事を恐ろしく感じる事があった。(あの人に、お礼を言いに行かなきゃ・・)そんな事を思いながら、シエルはついウトウトとしてしまい、リビングのソファで眠ってしまった。―シエル、起きてください。こんな所で寝たら、風邪をひいてしまいますよ。頭上から突然そんな声が聞こえて来て、シエルがゆっくりと目を開けると、そこには自分を助けてくれた人が立っていた。(どうして、僕の名前を知っているんだ?)―それは、後でわかりますよ。その人は、シエルに優しく微笑むと、何処かへと消えていってしまった。「待って!」夢から覚めたシエルは、何故か涙を流していた。(どうして、涙なんか・・)「おはよう、シエル。」「おはようございます、お父様、お母様。」「どうしたのシエル、何処か顔色が悪いわよ?」「ちょっと、熱っぽくて・・」シエルとジェイドの母・レイチェルは、そっとシエルの額に手を当てた。「この前体調を崩したんだから、余り無理しない方がいいわよ?」「はい・・」その日、シエルは学校を休んだ。熱にうなされているシエルの前に、また“彼”が夢の中に現れた。にほんブログ村二次小説ランキング
2025年10月03日
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