ジョナサンズ・ウェイク

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満月の夜、モビイ・ディックが(片山恭一)



何よりもタイトルが洒落ている。この題を置き換えたら「モビイ・ディックが、満月の夜に(やってくる)」とでもなろうか。それを敢えて「~が」の形でおさめることで、(モビイ・ディックが満月の夜に一体どうするのか? 浜辺へやって来るのか、それとも海上で寂しく啼いているのか? そう、例えば何百億年後に現代に蘇った『霧笛(ブラッドベリ)』の首長竜のように)といった謎めかした雰囲気を醸し出すのに成功している(少なくともぼくの中では)。

また「モビイ・ディック」という選択がなんともいえず良い。世界三大小説『白鯨(メルヴィル)』でお馴染みの伝説の怪物鯨。タイトルによって想起される光景―モビイ・ディックのその真っ白な巨体が、尾びれの海上で立ち上げる飛沫と満月の光によって、白銀色にきらめく姿―が、目に浮かぶようだ。しかし作中では、終始恋愛の展開だけで、タイトルが重要なモチーフとして扱われていないのが、少し残念ではあった。話題が冷めてきたころに『世界の中心で、愛を叫ぶ』を読み、その流れでこの作品を読んだのだが、タイトルだけで言うならば、やはり『満月の夜、モビイディックが』のほうが気に入っている(『世界の・・・』の初めの題案が『恋するソクラテス』だったって知ってた? これは問題外だよね)。

読んではいないが同氏の『ジョンレノンを信じるな』という作品のタイトルもお気に入りだ。あくまでもタイトルの話。

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