カノ(氷上純也)謁見の間

カノ(氷上純也)謁見の間

第六章 it's crazy for you


(理緒上手くいったのかしら?ちょっと心配だけど期待も半分。黒崎くんの秘密がついに!?なぁ~んてね。)
と色々考えていた。傍から見ると変な人にしか見えない。
教室に着くと理緒が自分の席に座っていた。
カバンも置いていかずに真っ先に理緒の席に近づいた。
「おはよぉ~。」
相変わらずの元気のよさである。
「水姫、おはよぉ~。」
理緒も素直に返事した。
「で、昨日どうだったの?何か黒崎くんのこと分かった?」
理緒は残念そうに首を振った。
「私昨日のことあまり覚えてないの、ただ楽しかったことと私じゃダメってことが分かっただけ。」
水姫は厭くまでも冷静な理緒を不思議に思った。
「楽しかったんでしょ。じゃあ何でダメなの?黒崎くんからフラれたの?」
「違うけど、黒崎くんは私の手じゃ負えない気がしたの…。はい、今回の件はこれでお終い。」
「うぅ~、せっかく黒崎くんの秘密を暴けると思ったにぃ。」
水姫は残念そうな顔をした。
しかし、理緒の顔は前に増して明るい。
「でもね、今度は一番の女友達になろうって思ったの。せっかく昨日知り合ったわけだしそのままじゃもったいないもん。」
「お、理緒にしては明るい考え方じゃん。あたしちょっと感動~。」
「もう馬鹿にしちゃって。」
2人は笑った。
ちょうどそのころ学人が登校して来たが、教室にいた生徒はその姿に驚いた。
顔全体には小さいがかすり傷を数箇所負っていた。
誰から見ても痛々しい、顔を逸らす人も何人かいた。
そんな他人のことなど気にせずいつもどおり席に着いて本を開いていた。
水姫はあることを考えていた。

<放課後>
水姫はちょうど部活が休みだったので作戦を実行に移した。
クラスでも情報通と呼ばれる水姫だが彼女に知らないことが一つあった。
それは無論、黒崎学人の正体である。
クラスの中の男女関係から飼っているペットまであらゆることを知っている水姫にも彼のことだけは最低限のことしか知らなかった。
そこで水姫が最終手段として講じたのが「尾行」である。
ある意味彼女していることは犯罪じみていて非常に危険なことであるがそこまでしないと彼女の気が収まらないようだ。
彼女の尾行は放課後の校門から始まった。

水姫はまるで私立探偵にでもなった気分で電柱伝いに学人を尾行した。
前方を歩いている学人は水姫には気付いていない様子でそのまま電車に乗り込んだ。
(お~、あたしと電車一緒だったんだぁ。)
同じ電車に乗りながら水姫は思った。
学人が降りたのは住宅街の藤山駅ではなくショッピングモールのある新湊駅で降りた。
水姫も慌てて外に出たところ、ちょうど学人が改札口を出るところが見えた。
(ここで逃したらダメ、まだまだ調査しないとねぇ。)
水姫は人とぶつかるのも気にせずダッシュで改札を出た。
見失ったと思ったその時、新湊デパートに入っていく学人を見た。
しめたとばかりにまたもデパートに向けてダッシュ。
通り過ぎる歩行者に変な目で見られたが構わずデパートに飛び込んだ。
平日の夕方ということで1階の食品売り場には夕食の食材を求めてやってくるおばちゃんが多かった。
きょろきょろとエントランスを見ましていると4階の辺りにそれらしき人物を見たのでエレベータで4階まで飛んだ。
ドアが開くと同時に出た。
水姫の覚えが正しければ4階にはゲームセンター、本屋、CDショップといった趣味の階であった。
とりあえず本屋に向かった。
漫画の列にはいないと思ったが一応確かめてみた。案の定いなかった。
参考書の列にいくと学人がいた、なにやら熟考しながら参考書を眺めていたがいいものがなかったのかすぐに出て行ってしまった。
水姫は学人が去った後すぐにその場に行った。
色々な参考書が並べられていた、水姫には縁の無い場所である。
さきほど学人が見ていた参考書を手に取ってみた。
<目指せ難関国公立、ドラ○ン桜も夢じゃない>と書かれてある。
最近の受験ブームに乗っ取ったとても面白い参考書だと思ったがこれは高3用である。
水姫はあまりの学人の学力のスキルの高さに面食らっていたがすぐに我に返って後を追いかけた。
降りた気配はないので続けてCDショップに向かった。
運がいいのか上手いこと学人もここに来ていた。
といってもただ今会計中ですぐにCDショップを出て行った。
水姫はここで何を買ったかは分からなかったのが少し悔しかったがすぐに尾行を続けた。
でも一番驚いたのは1人でゲーセンで遊んでいる学人の姿だった。
いや一人というよりむしろ格ゲーの席に着いた学人の周りには人だかりができていた。
学人はめっためったとCPUを瞬殺していた、途中に乱入者があるものの何事もなかったかのように瞬殺していった。
水姫にはゲームなんて分からなかったが学人が相当強いということがよく分かった。
10分ぐらいすると飽きたのか学人はゲームセンターを出た、無論水姫はまだ追いかける。
水姫の最終目標は学人の住んでいるところを知るところにあるのでここで引き下がるわけにはいかなかった。
ゲームセンターを出ると学人はエレベータで下まで降りようとしたので水姫は同じエレベータに乗るはまずいと思ってエスカレータを使った。
学人はそのまま1階まで降りてデパートを出た、すかさず水姫も追いかけた。
水姫は学人は家に帰るのだろうと思っていたが予想も虚しく、御影通りへ向かって行ったのを見てぞくっとした。
御影通りとはラブホテルやバー、ホストクラブなどが立ち並ぶいわゆる「大人の通り」である。
ますます学人の行動に興味が湧いてきた水姫はさらに尾行を続ける。
夕方の御影通りは人が少ない、開店準備をまだしていないお店もたくさんあった。
10分ほど真っ直ぐ歩いた学人はそのまま右折して路地に入った。
水姫は路地に入ったのを見てから壁際に路地を確認した。
路地は夕方なのに薄暗く、下手なVシネマに出てきそうなものだった。
しかし、路地を確認した時には学人の姿はもうなかった。
水姫はとりあえず路地の向こう側まで走った。
向こう側に着いて左右を確認してみたが姿は見当たらなかった。
(これはもしかして見失った?えぇ~、ここまでせっかく来たのにぃ~)
水姫はその場でじだんだした。
その時後ろに気配を感じ、背中に悪寒が走った。
振り返ろうした時に怒鳴られた。
「振り向くな!振り向いた瞬間にお前を殺す!」
水姫は恐怖で動けなくなってしまった。
(え?何、何なのよぉ!?)
後ろ側の人物はしゃべりだした、今まで聞いたこともない学人の声であった。
「貴様何者だ?妙に尾行が素人くさかったから放って置いたらここまで来られるとはな。」
(え?バレてたの!?そんな素振り一度も)
学人は続けてしゃべる。
「俺の学校の女子の制服をチョイスしたせいでよく分かったぜ。貴様の目的は何だ?俺の情報収集か?誰に雇われてやがる?」
(え、え~!?何の話よ、わけ分かんないよぉ~)
「し、知らない。私はあなたと同じクラスの蒼井水姫だもん。」
学人は鼻で笑った。
「確かにその姿は俺のクラスにいる蒼井水姫だ。しかし、ヴァンパイアの中ではコピー能力を持っているやつなんざいくらでもいる。仕方ない、拘束するしかないな。」
学人は目にも留まらないスピードで水姫の首筋に手刀をためらわず叩き込んだ。
水姫は力なく倒れた。
倒れた水姫を学人は肩に担いで走り出した。

水姫が目を覚ますと何やら話し声が聞こえた。
一人は聞き覚えある男の声、もう一人は女の人の声だった。
「私の判別能力で彼女をスキャンしたところ、どうやらシロみたいね。」
「ということは本人だったわけか!?」
「そうみたいね、あなたが早とちりしてこんなことするからこういうことになるのよ。」
「仕方ないだろ。昨日はAクラスと戦ったんだ、あいつの手下がこちらにくることも十分ありえる。」
「自業自得ね、自分でなんとかしなさいよ。」
「分かってらぁ!」
水姫はひょこっとふかふかのベットの上からの起床だ。
間髪入れずに聞いた。
「さっきの話って?」
「安奈、すまないが席を外してくれないか?どうせこいつの記憶は摩り替えるんだからここで質問に答えてやるのも悪くない。」
安奈と呼ばれた女性はすっとドアから消えていった。
水姫はベットに座って部屋を見渡した。
10畳はありそうな部屋にクローゼットとベットと丸いテーブル、洗面所兼シャワールームがあるだけの無駄に広い質素な部屋だった。
水姫はソファーにどかっと座っている学人に問うた。
「記憶を摩り替えるって?」
「言葉そのままだ。それに質問したいのはこちら側のほうだ。」
水姫は何か気付いたように大きい声で言った。
「あー!!今何時なの!?」
「もう夜の11時だ。」
「何で起こしてくれなかったのよ!」
「どうせ今日一日は返すつもりはなかった。貴様が尾行なんかするからだ、世の中知らなくていいことはたくさんある。」
「うるさ~い、黒崎くんのせいでドラマ見逃しちゃったもん。これは何かしてもらわないとダメねぇ。」
学人は何を思ったのか立ち上がり、思い切り水姫の前にあった丸いテーブルをぶん殴った。
ぎしっという鈍い音をたててテーブルは見事に半分に割れた。
顔の表情はまるで鬼のような顔だった。
入る穴があるなら入りたい、恥ずかしいのはでなく身を守るために。
しかし鬼の表情はすぐに解け、いつもの気だるそうな顔に戻った。
またソファーにどっかと座りなおした。
「貴様、何故俺を追いかけたりした?俺みたいなやつは放っておけばいいはずだ。」
水姫はさっきの学人の鬼の表情が目に焼きついて離れない。
恐怖の目のまま答えた。
「気になるのも仕方ないじゃん、あれだけ目立っているのに何も分からなかったら。」
「貴様は気になるだけで尾行するのか?見下げたやつだな。大体貴様のような・・・ち、来たか。」
学人は胸ポケットからケータイを取り出した。
「俺だ。何?昨日の手下が潜伏していた?くそ、こんなときに限って。安奈、この女のことはお前に任せる。」
学人はケータイを胸ポケットに入れて部屋を出ていこうとした。
水姫はそれを止めた。
「ど、どこ行くの?もしかしてここに閉じ込める気?」
「さっきの女がそれを決める。どうせ貴様は明日にはこのことを忘れているから関係ねえ。」
学人はすっとドアから去っていった。
するとすぐにさっきの女の人が入ってきた。
身長は165前後、スーツ姿で何といっても美人だ。水姫は女の美しさにあっけと取られた。
女はさっきまで学人が座っていたソファーにすっと腰掛けた、座り方までにも美しさを感じる。
その女は優しい顔で謝罪した。
「ごめんなさいね、彼ね今はちょっと機嫌が悪いのよ。許してあげてね。」
水姫は首を横に振るだけで精一杯だった。
女は微笑みながら続けた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね、私は大河内安奈。一応学人の保護者的存在と名乗っておくわ。あなたは?」
「蒼井水姫、黒崎くんとは同じクラスです。」
「蒼井さんね。さっそく本題だけど彼について知りたいんでしょ?特別に教えてあげるわ、もちろんあなたのは記憶は消さずにね。」
水姫はさっきまで陰鬱な表情はうってかわって目を輝かせた。
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、もちろん。でも約束事があるの、それを守ってくれるならの話だけど・・・」
水姫はのどを鳴らした。


It’s crazy for you(愛内里菜)

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