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INFINITY
雨の日
降り続く雨ははミュンヘンの町を白く、灰色く覆っていく。その湿気のせいで
室温はじめりと重い。そして、痛い。雨の日には機械鎧の付け根部分が
じわりと痛む。定期的に来る波の様な鋭い痛みと常に纏わり突くしつこい痛み。
その付け根部分に触れる度に思い出す。毎日思い出す事なのだが特にこんな雨の
日に、痛む日にはより一層鮮明に思い出す。
血印が、と云いながらも中には猫を雨宿らせる心優しき鎧。
湿気で発火布が、と無能になってしまう上司。
大切に扱いなさいよ、とスパナ片手に腰に手を付き笑う技師。
風邪引くからね、とタオルで拭いてくれた遠い日の母。
布越しから伝わるその冷たく固い感触と痛みに顔を顰めながら
その遠い日の思い出に口の端をあげる。
「痛むんですか?」
優しい眼差しで気に掛けてくれるアルフォンス。3枚のブランケットでオレの
右手を中心に身体を包んでくれた。もう一枚は俺の膝にそっと置いて
左足を庇ってくれた。そしてもう1枚は自分が羽織る。
肌寒い室温がオレとリヒを覆う。左手で右肩を摩りながら、右足で
左足を庇うように組んでからオレはゆっくり礼を云って
そうなんだよねと苦笑して見せた。
「でももう慣れてるし」
少し自嘲気味に返答しつつ、話題を変えようとおもむろに身体を震わせ
寒いねをわざとらしく笑って見せた。
「あったかいコーヒーでも入れようと思ったのですが」
手がかじかんでしまって、と握ったり開いたりして見せるリヒ。
その細く長い指には血の気が無く蒼白い石膏のようだった。
本当に指先が冷たい人形のようにぎこちなく動かされていく。
「良いよ、無理すんな。ありがとう」
「いいえ」
力無く目を伏せ首を振るリヒ。顔色が悪く更に病弱のイメージが
強くなった感じ。様子を見ているとそのことに気づかれてしまい
無理やり笑顔を作らせてしまった。
「寒いですね、もう一枚服増やします。エドワードさんのも持ってきますよ」
云うなり彼は椅子から立って奥の自室に服を取りに行った。
本当に気配りが出来て優しいやつだよな、と思っていたら
奥から鈍い音が聞こえた。何か大きな物が床に落ちたよ様な
重みのあるゆっくりとした音が。
「アルフォンス!!」
直ぐに分かった。彼は自室の棚に行きつく前に倒れてしまったのだ。
よた付く足がドアの段差に引っ掛かり転倒+α。
「すみません、ちょっとよたついただけで」
そう笑って再び立ち上がろうと試みるが見る見る床に落ちていくリヒ。
顔は青ざめて唇に色が無かった。
「…大丈夫、じゃないだろどう見ても」
「貧血、いつもの事です、慣れてます」
小さく溜め息を吐く彼に肩を貸しつつベッドに寝かしつける。
少し落ち着いたのか顔に色身が戻って来た様に見える。
だんだん身体の体温も上がって目に輝きが戻ってきた。
おまけに頬が高潮し、息も上がって、瞳も潤んできた。
苦しそうに浅く速い呼吸を繰り返し、時折苦しそうに
胸を抑えて咳をする。寝ていて辛いのでたまに上半身を起こして
大きく肩で咳をする。ゆるゆると上体を戻しだるそうに布団に入る。
「…熱い」
彼の額に自らの額を重ねる。いつもなら恥ずかしさと驚きで騒ぐ彼なのに
今日は何の反応も寄越さない。ぼーっと何処を見るでもなくただ
空中に視線を彷徨わせる。
「風邪か」
問いと確信での中間の発音。
数秒遅れて彼がオレの発した音の意味に反応する。
「雨の日って、たまにこう、なるん、です。でも、今日のは、いつもより、重く、出ちゃって」
「あぁ良い分かった、喋るのキツイだろ、寝てな」
「すみま、せん、迷惑、掛け、て」
「ごめん気づけなくて」
暫くその様子を見た後、次に何をするべきか考えた。
タオルで汗拭いてやって、楽な格好に着替えさせて、洗面器に水汲んで…。
体温計や薬ってどこだっけ。
「 」
準備に取り掛かろうと背を向けたオレの背中をだらんとした手首が、でも
しっかりと服の裾を掴んで離さない。見れば潤んだ瞳が強く何かを
訴えていた。口は何か云った様だったけれどその小音量とあえぎ声に
かき消されて全く聞き取れなかった。
「何、聞こえない、何か欲しいのか?」
「 」
「え?」
聞こえないからまた枕元に跪いて耳を寄せる。
恥ずかしそうに、苦しそうに、一生懸命言葉を紡ぐリヒ。
「行かないで」
驚きで一瞬身体が硬くなる。思考停止。あの意地っ張りのリヒの口から、
殆ど頼み後となんてしないあいつが、今なんて?
「傍に居て欲しいって事?」
「…何、云ってるんだ、ろう、ごめ…なさ‥気にしない、で、下さ―」
―ちゅっ。
そっと涙を口で拭う。優しく、なるべく遠い日の母を思い出しながら
微笑み掛ける。リンゴでも剥いてあげようと思ったのだけれど、
彼がこんな調子なら、今離れていくのは酷な事。
「いいぜ」
「…今日は、病気だから、何か、弱気になってるだけ、だから」
「傍に居てやるよ」
「わがままきいてくれて、ありがとう、ございます、今日だけ、ですから」
「今日だけ?」
「寝てたら、治りますから、いつもの、こと。だから、何もしないで、ただ、居て下さい」
「いつでもお前のわがままなら聞いてやんぜ」
「寝てても、居て、くれますか?」
言葉にしないでも、伝わるようにそっと力は入れないで毛布越しに抱き締めた。
「うつります、から」
「オレも寝る、ずっとお前の傍に居たい」
「…」
「寝顔眺めてから、オレも寝る」
だから気兼ねせずに、な。
身体が風邪を治そうと眠りに誘う。その安らかな中にゆっくりと確実に
吸い込まれて瞼を落とすリヒ。その顔を何センチもない距離でじっくり
眺め、その枕の横に腕を付いて俺も瞳を閉じた。安寧な緩みがすぐに
オレを包み込む。騒がしくも無く、かといって静か過ぎもせず、丁度良い音量の
雨音BGMが心地よく耳に入って流れて抜けていく。
オレの眠り姫。
でもオレはお前を護る立派な騎士には成れそうもない。
だってもうこんなに身体が温かく溶けて、痛みも気にならなくなって、
意識が飛んでいってしまうんだもの。
おやすみ。
これからの雨の日は、珍しく素直になるリヒの日。
ゆっくりと君の横でだらだらと布団の中で過ごす安寧の日。
うつっても良いから、もう一度彼に口付けた。
口にしたかったけど、この状態で口を塞ぐのはいかがなものかと
思い、その赤く染まる頬に口付けた。よく思い止まったものだ。
「大好きです」
聞こえるか聞こえない程度の声が耳にすうっと流れ込んでくる。
寝言でも、この流れに任せた告白でも、その柔らかな音調が
胸に染み込み感極まる物が有る。
「オレも大好きだよ」
聞こえなくても構わない。夢に感じて構わない。どうぞ夢にして下さい。
貴方を縛る鎖になるのは簡単だ。
だけどここは貴方の大きな海で有りたい。母のメロディー。
都合良くてゴメン。
昔よく口ずさんだ、弟を寝かしつけるのに使った思い出の歌を
子守唄を鼻歌の様に彼に向ける。
今度目覚めたら、今のことは嘘になりそうな予感。
だからずっと寝ないで。起きないで。そのままで。
未来のないそれには始まりもないから終わりもないでしょう。
このまま逝くのもいいかも知れません。
ならばずっとこのまま凍り付いてみませんか。雨の呪縛に囚われて。
***************************
文章めちゃくちゃな上になんだかいつも以上にまとまっていない話。
エロver.にも出来るシチュですが、何かまだエロは書く気になれなくて。
頭の中では広がっているのにね!(このピンク脳が!!
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