2004年06月19日
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カテゴリ: 小説『Atomic City』

            第1章

            第3節


ヘリ後部タラップを昇り中に入ると客室になり 80程のレッドブラウン色
の席が並んでいる。あまり広くは ないが椅子の掛け心地は かなりいい。 
殆ど皆は 前列の方に座っていたが コウタ カイ.β リオナ パルと
女の子3人は やや後ろに座った。
ここの方がコウタには 騒げるので都合がいいらしい。
機内は 消音加工がしてあるので教授の居る前まで声が聞こえにくいからだ。

ヘリが上昇を始め しだいに振動が大きくなっていく。

客室の正面前部には ホロモニターがあり降下地点の地形が浮き出ていて 
右横のホログラフィックパネルでは 教授がデータを設定していた。
室内にへリの加速圧で ”ミシッ”と音が響く。
どうら 現地に向かって飛行を開始したようだ。席の横にある小さな窓から
風景が流れるのが見えた。

室内には 音楽が流れている。
かなり古い クラッシックソウルのバラードのようだ。。

  ” ふと目を覚まして あなたへの切ない気持ちせきとめて

    あなたという優しい波に抱かれて 眠りたいのに

    笑ってみたり
    ひきとめて悲しくて 泣いてみたり
    このせつなさは すべてそう 
    あなたに恋をした 愛のあかし ”


ヨーロッパ系の輪郭に日本人ぽい部分は あまりない。
「とても美しくて可愛いひとだ」そうカイ.βは 以前から思っていた。

後ろの席では コウタとパル 他の女性3人が毎度のようにじゃれ合っている。。
なかでもこの二人は 幼なじみらしく仲がいい。
偶然 大学で会ったんだとか。
この7人の中でカイ.β以外は 皆18歳だった。

パルは 色黒で背も高く170cmはあった。
とてもグラマーなので存在感も強く性格は 男勝りでサーフィンが上手い。
男性のみならず女性にも人気があるようだ。


  ” 風にのり吹かれてく あの花の種みたいに 
    私たちも空のなかで 永遠に包まれて 
    あなたという愛する人と 生きたい 
    何もかも 終わるときまで ”

リオナの横顔を再び見つめた。
するとリオナが
「ん~!何か付いてる?私の顔に?」
カイβは あわてて言った
「気付いてたの?あの~。。」
「この曲好き!歌詞いいよね?」リオナは続けた

「私 昔の音楽って好きよ。ハートがある気がするの。
カイちゃんは どんな音楽すき?」
カイ.βは この質問に少し驚いてしまった。
今までまともに音楽を聴いたことがなかったから どう答えていいかわからなかった。でも音楽番組はよく観ていた。 
カイ.βは答えた。
「僕もこの曲好きだよ。クラッシックロックも好きだけど
リオナ。。。」

言いかけた途中でオノ教授がヘッドマイクに向かって話しはじめた。
「はいはい みんなホロを観てくれたまえ!ここが今日の実習地点!
旧お台場跡地の水中で 水中ボーリング機を使って地質をしらべる。
視界が悪くならないように みんな静かに泳いでくれたまえ。」
ホロには 水没した昔の建築群が映し出されていた。この辺は 埋め立てで
出来た土地であったために今では すっかり浸食されていたのだ。おそらく
作った人たちは 水面上昇の事など考えていなかったんだろう。2097年
始めの水没が確認された。予測はされていたが 当時は大騒ぎだったそうだ。
川が逆流を始め その海水を海に戻す大掛かりな工事や土砂を運び東京全体
の土地の高さを上げる工事も行われたそうだ。
教授は続けた

「2085年から始められた計画”国土湾岸海抜均衡計画”は 2115年
まで続いたんだ。そのおかげで東京数カ所の地区では 海水の浸入を防げた。
海水面の上昇とともに2114年12月 湾岸大堤防が満潮時に欠壊 原因は
寒暖差による堤防自体の劣化。当時夏の最高気温は47度 冬はー2度 
大堤防も2089年の建設から25年間の寒暖と海からの水圧に耐えられなかったんだね。。
2093年 満潮時に川が決壊 同じ年には 都内数カ所の地下街.地下施設
が下水の逆流で水没 翌年には 地下鉄の水没が始まった。2097年には 
ついに 地上面に 海水がしみ出す地区が幾つも確認されたんだ。
これによって都内の地価が下落してしまったんだ。信じられるかね?
昨日まで10億の価値があった我が家が 一瞬で100万でも買い手が付かない。そんなことが 世界規模で起きていたんだよね。。」

一息つくと 教授は画面を変え 旧お台場の風景が映し出された。
「このビルは 2069年に海面上昇を予測して建てられた
初めてのビルなんだ。だれか名前を知ってるか?」
数人の生徒が手を挙げた 建築学をとっている生徒たちのようだった。
「アイダ君!分かるかね?」
教授が名前を呼んだ。
「確か 僕の記憶が正しければですが。。
ニューアイランドコミュニティーセンタービルでは ないでしょうか?」
自信なさげではあるが 真面目そうな色白の青年が答えた。

「そのとうりよく知ってたね。発案.設計は ハシダ.トモキ氏だ。このビルの
特徴は 地表面から10mの高さまで 部屋が一つもないことと この10mの
空間には 当時最高の耐震システムが導入されている。これによって地震だけ
でなく 海水の侵入による建物の被害が出ないというものだったんだね。
残念ながら このビルは 地震の時に起きた液状化現象と海水の浸食により
倒壊してしまったんだ。現在は 魚のすみかに成ってるそうだ。今日はそのビルのすぐそばの ニューお台場公園跡で調査をするからね。
水深は 今の時間だと6m位かな?」
ホロの画面に水位が出た。”6m52cm"以外に深い。。
潮の流れに気を付けないと。。カイ.βは 少し不安になった。

後ろでは まだコウタ達が騒いでいた。
コウタとパルは 泳ぎが上手かったのできっと余裕なのだろう。
リオナは 大丈夫かな?
ふとカイ.βは そんなことを考えていた。

軽い振動がしてから着水ランプが点灯し アナンスが入る。
「当機は 予定地に到着いたしました。みなさん 良い授業を。」  


          13:07

客室の真ん中部分から下に降りる螺旋階段が現れた。 

「よし みんな水上船に乗るぞ!忘れ物はないかね?」
教授が 大きな声でみんなに言った。
教授を先頭にみんな がやがや降りていくと貨物室が広がり
螺旋階段は
オノ教授製作の水上船デッキに接地されていた。

すでに貨物室後部のハッチが開いていて 明るい太陽の光と
まぶしく波立つ
海がみえているし 磯の香りがなんだか気持ちいい。
みんなこの光景を見てワクワクして来たようだ。

下のデッキの眺めは まるで中世の豪華客船みたいで更に
楽しくなってくる。カイ.βも 思わず笑みがこぼれてくるのであった。


     小説『Atomic City』より。  

     著作権はKaizuに属します。  






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最終更新日  2004年12月12日 14時59分17秒
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