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モテない青少年に贈るコアな5冊
【モテない青少年・孤独な少女に贈るハードコアな5冊】
「全部読んだら、とんでもないことになるかも知れない。新潮の100冊。」なんてコピーがひと昔かふた昔前にあった。こんなコピーを知る者はもういないかも知れないが、「新潮の100冊」というのはきっとまだあるのかな。
別に100冊読まなくとも、1冊で十分とんでもないことになるかも知れない本ってあるよな。とくに悩み多き青少年・少女にはタイミング次第では効果がテキメンだったりする。以下の本は、内省的な傾向を持ち、屈折を抱えて迷う青少年・少女にぜひ読んでいただきたいコアな5冊。どれもオイラ自身が暗ぁーい青年時代に一方ならぬお世話になったお墨付きの本ばかりだ。わかりやすいように、それぞれの本に登場する「キーワード」「名言」を付加してある(たぶん一字一句まで正確ではないけど)。じっくり読んで、オイラのようなリッパなオトナになって欲しいゾ。
<小説編>
三島由紀夫『午後の曳航』
新潮文庫、1963 ―
「世界は記号と約束事とで出来ている。」
青少年に薦めたい三島の小説は多い。「金閣寺」みたいな文部省推薦図書や「仮面の告白」のような半自叙伝もいいし、「鍵のかかる部屋」みたいな短編もなかなかシビレる。でも、あえてオトナになる前に読んで欲しいのがこの中篇小説だ。もう40年も前に書かれた小説なのに、現代を先取りしたようなストーリー。あらすじは、裕福な未亡人を母に持つ13歳の早熟な主人公の少年が、憧れだった知り合いの船乗りの男が母親に接近し、愛人関係を持ち、結婚にまで話が及び、やがてこの船乗りの男への幻滅を深め、友人たちと結託してこの男を世界から抹殺するに至る。オイラはこの本を10代の頃に読んで、この少年のカッコよさにしびれたものだ。まだ声変わりもしないような少年が、「世界は記号と約束事で出来ている」などと言い切り、その確信を具体化するために友人たちを引き込んで血みどろの「猫殺し」の儀式を実践したりする。その「確信の実践」の末路が、「13歳の少年は実刑の対象にならない」ということを刑法をちゃんと調べて確認した上での、緻密な計画にしたがった「船乗り男」の毒殺なのである。三島は明らかにこの少年に自己を重ねている。「海の男」が陸に上がって「家に収まる」ような醜悪は、13歳の聖斗がこの世から抹消すべきなんだなあ。
村上春樹『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』
新潮社 1986 ―
「世界はすでに終わっている。」
オイラはマラソンをしてたりアメリカに住んでいたりするが、別にそれは村上春樹の影響ではない。実際、彼の小説で読んだことのあるのは、妹の部屋にたまたまあった「ノルウェイの森」以外ではこの作品だけだ。ただ、この小説にはちょっとした思い入れがある。それは、この本は20歳で自殺した親友から借りて読んだものだったからである。オイラは彼が自殺する直前にこの本を借りたが、そのブ厚さに圧倒されて一度も開いたことがなかった。彼が自殺した後はなおさら開くのにちょっとした抵抗があり、ようやく読む気になったのは彼の自殺から1年以上経っていたと思う。ヨーロッパの古い童話のような『世界の終わり』という風変わりな幻想小説と、荒唐無稽なアクション映画みたいな『ハードボイルド・ワンダーランド』という現代的小説が、1章ごとに交互に収められている。こんな何の関連もない二つの物語がなぜわざわざ1つの本に交互に…と思いながら読み進めていくうちに、2つの異なる世界のストーリーがなんとなく交錯してきて、最後にはついにひとつになる。この小説手法のトリックが明らかになった時のショックと、そのトリックが象徴する「胡蝶の夢」のような現実世界の不確かさの強烈な認識がダブルパンチで読者を襲うのだ。さらにオイラが個人的に衝撃を受けたのは、「ハードボイルド…」の主人公が最後に死ぬシーンが、まさにオイラの親友の死に方にうりふたつだったことなのだが…。「世界はすでに終わっている」という一文は、この小説の扉に書かれたある詩の引用の一節なのだが、20歳だったオイラの親友は知っていたのだな、世界がすでに終わっていることを…。
<心理学編>
岸田秀『ものぐさ精神分析』
青土社、1977(中央公論文庫もあり) ―
「すべては幻想である。」
オイラがこれまでの人生で一番大きな影響を受けた本をひとつ挙げるとすれば、この本だろう。同じ意見の読者がきっと私以外にも数多くいるに違いない(有名なところでは内田春菊とか、故・伊丹十三とか)。
誰が言ったか知らないが、有史以来人間の革命的な認識の転換はこれまでに3度あったそうで、一度目は「地球は回っている」のガリレオの「地動説」、二度目は「ヒトの祖先はサルだった」のダーウィンの「進化論」、三度目が「人間の行動を決定しているのは意識ではなく、無意識である」のフロイトの「精神分析論」だそうな。異端の心理学者である著者によるこの本は決してフロイトの精神分析理論の解説書ではないが、そのインパクトは確かに天動説から地動説への転換に近いものがある。
思春期真っ只中の高校生のオイラは、「人間とは?世界とは?」という根本的な疑問にとらわれ、筒井康隆だの芥川龍之介だのを読んでは斜に構えた姿勢でこの世の万象の欺瞞性を冷笑して生きていた記憶がある。同時に、宮城音弥の岩波新書の心理学関係の本だの、フロイトの訳著を読み漁って、この疑問の解決の糸口を求めていた。宮城音称の本は自分の悩みを語るための心理学用語や概念を提供してくれたし、フロイトの世界観はイチビリな私に「斜に構える」ための新たな道具を提供してくれたのだが、根本的な悩みの解決に至ることはないのだった。そんな時「ものぐさ」精神分析などという、しろうとにもとっつき易そうなタイトルの本が文庫で出版されたことを知った私は、その内容や著者に関する予備知識も何もなくその本を購入した。たしかにその内容は精神分析を体系的に学ぶような本ではなく、「歴史」だの「文化」だの「性」だの「国家」だの「心」だのいった森羅万象に対する著者の持論を短いエッセイに綴ったものをまとめた本であったが、その本に書かれていることは思春期の青年にはもちろん、まともな市民生活を送るオトナにとっても強烈な威力をもった目の醒めるような認識なのであった。オイラは当時、筒井康隆だの宮城音称だのを読んで自分なりに物事を突き詰めて考えていると信じていたのだが、岸田秀の認識はそれをさらに2段階も3段階も先に掘り下げ突き詰めたものであった。高校生のオイラはこの本を読んでしばらく、その突き詰められた究極の認識に世界観が一変してしまい、頭が空っぽな状態で過ごした記憶がある。それはまるで、憑依していた霊が身体から離れて行ったような感覚だった。そして、オイラはそれ以来、別人になってしまいました。
頼藤和寛『自我の狂宴 : エロス 心 死 神秘』
創元社、 1986 ―
「ここまで追い詰めると、人間はどこかへ向かって飛ぶものである。---どこへ?」
世界中の大半の人間は、現実を直視しないおかげで何とか平穏な日々を送っている。「現実」というのは、ごくわかりやすい例を挙げれば、日本やアメリカのような飽食の世界に生きる人間たちが食べ物を毎日平気で捨てている一方で、世界人口の75%は栄養失調に苦しんでいるとか、バーゲンセールで買ったナイキのシューズは、実はバングラディシュの子供が学校にも行かずに日給50円で一日中働かされて作っているものだとか、今自分が食べている豚肉は、子供の頃に母親の元から引き離され、草原を駆け巡るのを夢見ながら狭い檻の中で不味い飼料を食って無理矢理太らされ、屠殺場で無残に殺され切り刻まれたものであるとか、不景気の煽りを受けて失業したり破産したり自殺する人たちが何万人もいる陰で、税金を横領したり不正な取引で私腹を肥やしている政治家や役人たちが毎晩芸者遊びをしているとか、人間どもの身勝手な乱開発のせいで1日に25種類ずつの動植物が絶滅しているとか、自分が死んだら周囲の人が悲しむだろうと思っているが、実は自分が居なくなっても誰も痛痒を感じないどころか、自分が居ないほうがよっぽど周囲にとってありがたいことだったりするとか、自分に好意を持っていると信じているあの人は、実はお前のことなどなんとも思っていないどころか、付きまとわれて迷惑だと思っているとか、いかに自分は太っていて醜く、能無しのクセに大飯喰らいで、毎日臭いウンコばかりしている無価値な人間であるかとか、…まあ、そういったことである。人間、自分に都合の悪いことには出来るだけ目をつぶり、都合のいいことだけに目を向けているおかげで正気を保って生きていられる。そのくせ、毎日不平不満たらたらで生きていたりするんだよなあ。
この本の著者は精神科医である。しかし、その本質は医者というよりは坊さんに近いのだろう。自称「認識の鬼」である著者は、日ごろ我々が「思考停止」している壁の向こう側を見つめて暮らしているような人である。そんな彼が、不平たらたらの毎日を送っている我々に「思考停止」の壁の向こう側にある赤裸々な現実を直視させるために書いた本がコレである。我々が日々囚われている「セックス」も「死」も「金」も「人間関係」も一皮めくれば本質はこういうことだ、ということを驚くほど明快かつ実践的に解らせてくれる。オマケに各章の最後には「実践演習」までついており(笑)、各章で学んだことを身をもって体験させてくれる。
この本をまじめに読んだ読者は、きっと徹底した認識に追い詰められ、心理的に不安定になること間違いなし(笑)。ただし、それは「現実」を直視した結果に過ぎない。そして、そこを出発点にしない人生は、いずれどこかで簡単に破綻する危険を常にはらんでいる。一度この「現実」のゼロ地点に立った読者は、その後の人生で困難にぶつかっても、いつでもこのゼロ地点に立ち還ることが出来る。これも、ぜひ成人する前に読んで欲しい本のひとつであーる。
<マンガ編>
内田善美『星の時計のLiddel』
(全3巻)集英社、1985-1986
この作品は、いわゆる月刊少女マンガ誌である「ぶ~け」に20年近くも前に連載されていた。
作者の内田善美は、「少女マンガの金字塔」と賞賛されたこの作品を発表して間もなく絶筆し、以来隠遁生活を続けているという。この作品も今では絶版となり、「まぼろしの作品」になりつつあるらしい。もはやこの作品を超える「マンガ」は登場しないであろう、というような問題作・大作である。
この作品は、アメリカを舞台に、各地を気ままに旅歩くロシア系の富豪の家系出身の孤独な青年とその周囲の人間たちとの触れ合いを軸に、哲学・思想・物理学・宗教・文学・歴史・芸術などの見識を総動員して、時空を超えた「あちら側の世界」に読者を引き込んでくれる。
少女マンガというと、細い線で描かれたキラキラお目目の登場人物の夢物語をイメージするが、この作品は1ページ1ページが詳細まで綿密に描き込まれたリアルな芸術作品である。セリフの一言ひと言も実に詩的。少女マンガ的なおセンチさはあるが、何度読み返しても深い味わいがある。深く読めば読むほどアブナい世界にぶっ飛べるし、それに抵抗があるなら単なる「マンガ」としてストーリーだけ追ってもなかなか強烈なインパクトが味わえる。
活字に読みなれていない人は、このマンガを古本屋とか楽天のオークションで探して、日常から「あちら側」へと足を踏み外してしまいなさい。
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