破○○さんからの投稿小説




 もうどれくらい歩いたのだろう。ずっと暗闇で育ってきた私には真夏の照りつけるような日差しはきつい。道具屋の前や倉庫のそばで沢山の人達がそれぞれ好き勝手に話している。私は全身を覆うような黒いマントをさらに頭から深くかぶった。
人との会話が苦手な私には人を避ける役割も果たしているのでちょうどいいのだが、流石に熱い。 数日前カーンが『人嫌いなお前はシルバーナイトタウンに行ってみたらどうだ。』そういったのだがこの町は私には少々にぎやかすぎる。
人を避けて町から少しはなれた木陰に座り休むことにした。まだ力も技もない私はフラフラと歩く事もできない。
『はぁ・・どっかいい狩場でもないかな。』 道に迷いながらでヘトヘトだ。初めて出た地上で地理もわからないのだ。
『ちっ・・、休む暇もない。』何かの闘技場だろうか、錆びたフェンス越しからゴブリン達が目を光らせてこっちを見ている。地面を蹴り爪を振り上げ手前にいたゴブリンに飛びかかった!
ゴブリンは無防備なままこちらを見ている。{仲間意識}爪を振り下ろす瞬間その言葉が頭によぎった・・・。しまった!ゴブリンは奇怪な声を上げて崩れ落ちた。その瞬間どこにいたのか無数のゴブリンが森の中から襲い掛かってきた。
『強くなれ己を守るために何事にも屈しないために、力こそが強さこそが全てだ!弱い者は死ね!』ロンドゥが随分前にカーンに言っていた言葉が頭の中で響いた。
『強さこそが全て弱いものは死ね。』私の頭の中でその言葉はまじないのように流れ続けている。私が選んだ自分の生き方。死んでしまってもいい、逃げるならその方がいい、戦う事しか知らない私は決して逃げれない。逃げたらそこで終わりだ。
爪を汗ばんだ手で強く握りなおした。

 どれぐらい戦っていたのか・・・。そこら中屍だらけになっている。
『きっつ・・・。』今度こそ木陰で休もうとして人の気配に気づいた。振り返るといつからそこにいたのか少し離れたところに白いローブに包まれた男が立っている。
私ははだけていたマントを頭から被りなおした。きっとゴブリンと死闘になっている私を面白く思ってるんだろう。こういう時ににいつも思う。『早く強くなりたい。』私は唇をかみ締めた。
男はどこかに行く様子もなく、時々近くを通るゴブリン達を魔法で軽がると殺しながらボケっと立っている。私はたまらない気持ちになってそこから離れようと立ち上がった。
『君、どこかいくのかね?』突然男が喋りかけてきた。
『・・・・・・ちかくのまちを・・さがそうかと。』急に喋りかけられて私は驚いていた。地上に出てから話しかけれるなんて初めてだったのだ。
『ふむ・・・道はわかるのかね?』男は近寄りながら話しかけてきた。
『・・・・・いや、わからないです。よかったら方角だけ教えてくれませんか。』
『私も今姫に呼ばれて近くの村に行くところだ、ついでだしどうかね?一緒に行ってみては。』
『いや・・ほうがくだ『この先は敵ももっと強くなるし、無理だろう。』男はさえぎるように言った。
『一緒にきたまえ。』目を細め耳を澄ませるようなしぐさをすると男はスタスタと歩き出した。
強引な・・・それでいて若いくせに変な喋り方をする男だ。きっと私より少し年上ぐらいなのに。
『・・・・・ガシャンガシャン。』森の奥から複数の固い金属音が聞こえてきた気がした。
私はマントをさらに深く被って首をかしげながらその男の背中についていった・・・。


    -そう 今思えばついでなんかじゃないんだ 呼ばれてるならすぐにでも行けたのにね
              今なら私にもあの時のあなたの優しさがわかるんだ-


 砂漠を渡り小さな町を二つ越えて随分な長旅だ。いや・・長くは無いのかもしれない。
一人じゃないことに慣れなくて長く感じてるのかもしれない。二人分の重さに耐えれないのか小さな橋がギシギシとなってる。
『君はずっと一人なのかね?』男が話しかけてきた。
さっきから『ポットは大丈夫かね?』『ここを覚えてくと便利。』『痛そうだな・・・。』などと色々話しかけてくる。喋り方のせいだろうか、親切なのか変わり者なのか良くわからない男だ。
『・・・そうです。』めったに喋る事がない私はたどたどしく答えた。
『何で一人なのかね、この世界では一人だと色々と大変であろうよ。』
男は不思議そうに聞いてきた。
『はなすのがにがてなもので』私がそう言うと男はにやっと笑って答えた。
『そんなもの、喋ってるうちになれる。』そういうものじゃないだろ!わたしは心のなかで思った。
『その子がそうなの??』小さな村の門の前で高い声の女性が大きな声を出して手を振っている。
『お疲れだぬ、セコン。』その横にいたオークファイターに変身した男がこっちに近寄ってきた。
『それじゃ、ありがとうございました。』その場をすぐにでも離れようとした私を高い声が引きとめた。
『せっかく会ったんだし、ちょっと狩りでもしようよ。』ニコニコした顔でまっすぐこっちをみている。
『ぇ・・・・。』『そうだぬ・それがいいぬ。』オークファイターに変身した男はうんうんと頷いている。
ここまで連れてきた男は黙ってこっちをそうしろと言うように見ている。
かんべんしてよ・・・、マントを目深に被りなおしながら心の中で叫んだ。

 見たこともないような敵が沢山いた、私一人じゃとても倒せないような敵ばかりだった。
それを彼らは楽しそうになぎ倒していった・・・。また私はマントの影で唇を噛み締めしめていた。
『楽しかったねー。』高い声の女性が言った。
『いろいろとありがとうございました。』洞窟をでてから休んでなかったし、来る時に通った町にあった宿で早く休みたかった。きっと一人じゃなかったせいもあるだろう、とても疲れていた。
『そうだ!友達になってよ、名前教えて。』彼女はまっすぐな瞳でこっちを見ている。
『私はシスティアっていうのよ、あなたは?』
『カイです・・』私はまっすぐこっちを見つめている彼女を見ずに答えた。
『ちびー』『お前のがちびだー』遠くてふざけている声が聞こえる。ここまで一緒だった男と、オークファイターに変身してた男がゴブリンに変身してふざけている。
『それじゃ・・』色々とよくしてくれて祝福されたスクロールなど私の道具袋はいっぱいになっていた。
『また声かけるね、じゃーねぇ』どうしてこんな血なまぐさい世の中でこんな笑顔でいられるんだろうか。
『それじゃ』早く一人になりたかった、。ここにいると自分の考えが塗りかえられるようなそんな気になって足早に橋に向かって歩き出した。
『お前らチビー。』遠くから再び高い声が聞こえた。

 夜が来ると落ち着く、暗い闇の中で色々と考える。固い毛布にうずくまりじっとする。自分の鼓動しか聞こえない・・・。目を閉じて闇に溺れていく、人は一人で生きていくものだと確認するように。
『!!!』ビックリして起き上がった。
『なんだ・・・。』頭の中に、あの高い声が響く・・・。あの変な喋り方も・・・。
『マジでかんべんしてよ・・。』

 頭を抱えてようやく眠りについた頃には窓から朝日がさし始めていた。




∽第二話∽  選ぶべき道



『随分深くまでたんだな。』気がつくともうとっくに朝になっているようだった。森は深く夜のように暗い、だが顔を上げると青々しい葉の隙間から光が照らしている。
道具袋のポットももう底をつきそうだ。私はヘトヘトの体をかばう様に泥臭い地面に腰を下ろした。何体のモンスを倒したんだろう、休むことなく全てを忘れたいかのように戦い続けていた・・体はもう限界にきていた。
『今襲われたらだめだろうな・・・。』そう思ったとき、泥の中から何体・・・数えるのに困難な程のスパルトイが飛び出してきた。目を閉じて私は戦う事をやめた。
『弱いものは死ねか・・・。』最後だと思うとなぜかリュウやシスティア達の笑顔が浮かんだ。
私が望んだ殺されない為の強さじゃない、彼女達が望む強さの理由を知りたかった。
それはとても素晴らしい物のような気がしたんだ。
『もっと強く、美しかったらな・・・。』駆け寄ってくる気配をすぐ傍に感じた・・・。目を閉じたまま爪を外し私はその時を待った。
『キィィィィン・・・。』聞いた事の無いような透き通る音が目を閉じている私にもわかる程の金色の閃光とともに鳴り響いた。
驚いて目を開けると目の前にオークファイターが背を向けて立っていた。彼がぶっきらぼうに呪文を唱えるたびあたりのスパルトイは光に包まれ粉々に砕け散っていった。
『何してるさね?』振りむきもせず彼は言った。
『・・・・サイハさん。』
『守った、俺テンサイ。』振り返ると彼は勝ち誇ったように少し疲れた顔で笑った。
何かを言いたかった、でも胸が詰まって声は言葉にはならなかった・・・。

『クランなんで抜けたのかぬ。』サイハさんの声が暗い洞窟に響く。
誘われるまま先ほどの場所の傍にあった洞窟の奥へとやってきていた。彼は彼の喋り方では想像もできないような的確な回復とその時に合った何通りもの狩の仕方をする。
『・・・弱いから。』サイハさんがため息をついたような気がした。
『そんなの一緒に強くなればいいさね。』
『また、戻っておいで。』優しい声が洞窟に響きわたった・・。
『・・・・・ありがとう。』私は一晩中森を走り抜けボロボロになっていたマントをそっと地面に置き彼の後をついていった。


    -私の戦い方それはあなたに教えられた
             あなたに認められたくて私は沢山の事を覚えていった気がするんだー


『おかえり。』システィアが言った。情けないような恥ずかしいような気持ちになった。
彼女が望む強さの形。それを聞きたいと思ったけど、それは傍にいて自分で見つけようと思った。
今までリュウといつも二人だった時間がシスティア達と出かけたりと色々と変わってきた。
システィア達はよく『狩りにいこう。』と誘ってくれる。私は喜んでついていった。システィア達といる楽しい時間はとても早く流れて行き季節はもうすぐ秋の終わりを告げていた。

  町を歩いてるとよくダークエルフを見かけるようになった。ELFやWIZと話をしたり笑ったりしている。そこに不自然さはなかった。自分もそういう風に見えるのかと思うと何だか嬉しかった。
  ギランクロスの下をダークエルフとELFが話をしながら通り過ぎた。
『・・・・・。』そういえばカノンに狩りに誘われた事がない。
いや・・、カノンが誰かに狩りに行こうと誘っているのを見た事がないのに気づいた。
『サイハ、なんでカノンさんは皆を狩りに誘ったりしないのかな?』倉庫を開けてアデナ計算をしながら頭を抱えているサイハに尋ねた。
『カノンはいつも単騎専門なのさ。誰かと二人で狩りに行ったりそういえばしてないぬ。』
『アァァァ、アデナタマラナイ・・・。』 サイハにもう少し尋ねたかったけど忙しそうなのでやめた。
まぁ今度会ったときでも聞いてみよう。
  知り合いも見かけないし故郷・・沈黙の洞窟へ行こうと思った。ブルディカ、彼にあって試練を与えられるからだ。それを終えれば今よりずっと強い力を手にいれる事ができる。時間もあるしウェルダンに立ち寄ってからいこう。
『サイハまたね。』袋から祝福されたスクロールを出してウェルダンに向かって飛んだ。
包まれた光の向こうに倉庫をいじりながら背中越しに手を振るサイハが見えた。

  ウェルダン・・・・火山麓の町、火山の敵は強く集まる人も強い人が多い。
私が火山に向かっても瀕死になってポットを大量に使い良くもなんともないんだが死ぬ寸前の狩が楽しくて暇があると立ち寄る。道具袋をいっぱいにして向かおうとした時カノンがいるのが遠くに見えた。
『カノンさん火山で狩りですか?』サイハとは違いあまり喋らないカノンと話すのは何となく緊張する。
『いや、火山は好きじゃないからね、商売で来ただけ。』
『なんで好きじゃないの?』火山が好きな私は不思議になって聞いた。
『・・・道がわからないんだ。』ムっとしたようにカノンが答えた。沈黙が流れた・・・。
『・・・・・・そうだカノンさん、聞きたい事が。』話をそらしたかったし、さっき尋ねたかった事を聞いてみようと思った。
『なに?』カノンはまだ少しムッとしている。
『どうしていつも一人なんですか?』私が聞くとカノンは少し間を置いて答えた。
『守れないからね、一緒に行った人を守る自信がないから。』
『もし一緒に行った人が死んだら凄く嫌だから、怖いから行けない。早く誰も死なせないように強くなりたいよね。』当たり前の事のようにカノンは言った。
これがきっとシスティア達の求める強さの意味だ・・・・。守るという素晴らしい強さの意味。
サイハもシスティアも皆、狩りに行って危ない時『帰還しろ』と叫び最後まで残る自分も危ないのに。
その気持ちがカノンの言葉を聴いて心に優しく響いた。

  そのままカノンが手伝ってくれながらブルディカから言われたアサシンの箱を手に入れるのに一日近くかかった。 沈黙の洞窟に帰りブルディカに試練を終えた事を報告した。
『久しぶりだなシルバーナイトはどうだった?』後ろに騎馬隊を引き連れたカーンが声をかけてきた。
『人嫌いなお前にはって言ったけど随分賑やかな町だったよ。』睨んだ真似をして私が言うとカーンはにやっと笑っていった。
『人嫌いだからさ、あそこは仲間を作るのにいい町だからな。』
『・・・・・・。』呆気にとられてる私を気にせずカーンは続けた。
『その顔を見るといい奴と知り合えたようだな、強くなれ自分を守る事は一緒にいる者を守る事になる。
弱さは周りの者の弱さにもなる。』
カーンは微笑むと号令をかけ騎馬隊と共に闇に包まれていった。
『強くなろう。』目をつぶり握り締めた拳を胸にあて呟いた。・・・彼女達の顔が浮かんだ。
新たな闇精霊の水晶を掲げると天から光が降り注ぎ体に新たな力がみなぎった。強くなれた事がとてもうれしかった。大切な人を守るための力・・そう思うと今までとは違う嬉しさで溢れた。
殺されないために強くなろうと何ヶ月前私はこの町をでた。その時とは違う気持ちを心に強く刻み私は再び洞窟を後にした。外にでると心地よい風が私を包んだ。

『どうしてさ?ぼくは海底に行くって言ったじゃない。火山は好きじゃないんだよ。』
ウェルンダンの花火屋の横でカノンが騒いでる。
『火山に一人で行くと赤字になるんだよ。』今火山から帰ってきたのにまた誘ってるのだ。
『一人で黒になる狩場を探しなよ。』カノンは祝福されたスクロールを取り出して飛んでいった。
『呼べばまた戻ってくるくせに。』あれから私はカノンの傍にいるようになった。死なせるのが怖い守りたいから強くなりたいそう思う彼を守りたいと思った。彼から誘われる事はなかったが私が誘うと嫌々ながらもくるようになった。

ブルディカの試練を終えて自分でわかる位に強くなった。これなら守れるそんな気持ちになっていた。
それは愚かな自惚れとも知らずに・・・・




∽第三話∽  絶望の中で・・・


『そろそろ帰るか。』ギルドが言った、ここでは帰還スクは使えない。
忘れられた島・・FI、古代の匂いのする島。ここには人が宝と呼ぶものがあり、人々はそれを求めこの島に足を運ぶが手に入れる事ができる者は滅多にいない。

『また何もでなかったね。』残念そうにカノンが言った。
『まぁ、こんなもんだろ。死ななかったからよしとするべ。』ギルドが笑って言った。彼はリュウがいい男がいると連れてきたELFだ、面倒見がよく兄貴肌のとこがあり何かと心配してくれるが気が強く無茶をする事があり逆にこっちが心配したりもする。
今日は3人だが最近はリュウと4人で狩をする事が多い。
『おつかれー。』FIをでてハイネにつくとカノンは用があるのか足早にスクを取り出して飛んでいった。
『なぁカイ。』ニヤニヤしてギルドが話しかけてきた。
『・・・なに?』こういう顔の時のギルドは大抵危ない事を考えている。
『俺さー、最近一人で傲慢の塔の上層に行ってるんだ。』
『・・・・まじで?』傲慢の塔は今50Fまで作られている世界で一番高い塔だ。
その中には上に上がるほど強いモンスター達が息を潜めている。
『今日また41Fに行こうと思うんだけど一緒に行かね?』もちろん来るよなって感じの顔でこっちをまっすぐと見ている。
『断わっても行くって言うまで誘うだろ。』私は少し呆れた顔で答えた。
ギルドはその通りと言うように、フッと笑った。
『新調した武器を試してみたいしキツイ狩場に行くのも丁度いいかな。』私は手にしたブラインドデュアルブレードを見つめながら答えた。
『あぁーだめだめ、あそこは弓じゃないとだめだよ接近戦なんかしたら即死。』
『だからリュウは誘えないな、カノンでも誘って三人で行こうぜ。』
『カノン誘って支度できたら教えてくれ、じゃまたなペチャパイ。』言い返そうとしたがギルドはもう光に包まれてそこにはいなかった。
『・・・・。』まったく会うたび人のことペチャパイ言いやがって。私は目を一瞬自分の胸に目を向けるとため息をついた。

『ぇ・・・僕41Fは行った事ないよ、まだ僕達には危険だと思うんだけど。』困った顔をしてカノンが答えた。
『ギルと二人じゃ寂しいし一緒に行こうよ。』カノンは何も言わず何かを考えているようだった。
『僕が行かないって言ってもカイは行くんでしょ?』
『そりゃ・・私も行った事ないから行ってみたいし・・・。』そういってカノンの様子をうかがった、無茶をする私の保護者のようになっているカノンが私が行くと言って行かないはずはないと知っていた。
『41スク買わなくちゃ・・・、支度するね。』『うん。』
倉庫で支度をするカノンの向こうに色とりどりのライトをつけたクリスマスツリーが見える。
私は初めてカノンに会った時の事を思い出していた。暑い夏の日、色とりどりの魚越しにみた彼を。
今こうして近くにいるのがとても不思議で夢のように感じた。
初めてカノンが狩りに行こうと誘ってくれた時私はとても嬉しくて何だか照れくさかったのを覚えている。
今ではカノンの傍で彼を守る事それが私の日課のようになっていた。

『道は俺がわかるから、むやみには歩くなよ。』ギルの声がいつもより緊張してるのを感じた。
『・・・・。』カノンもいつもより緊張しているようだ。見たこともない敵が出る・・・、私は持ちなれない弓を強く握った。
壁の向こう側にいた紅い竜がこちらの気配に気づいて巨体を揺らしながら歩いてきた。
『来るぞ。』ギルの掛け声を待っていたかのように深紅の竜の雄叫びが響きわたった。

  何匹のモンスターを倒したんだろう・・。逃げていた方が多かったかもしれない。
『凄い数だな・・、ちょっとでも歩くと敵がよってくる。』
予想外のことなのか、ギルが少し苛ついたように言った。
『強すぎだね。』カノンもマジックポイントぎりぎりで戦い続けてる。
『46まで行けばそこで休める、俺も行った事はないがそこまで何とか行ってみるか。』ギルはすぐ真横にある階段を見上げて言った。
そこまで無事に行けるのかわからなかったがきつい戦いで少し休んだ方がいいと思った。
危なくなったら私が盾になってカノンたちを逃がせられればいい・・・。
『そうしようギル。』後ろから迫ってくる敵を振り切るように私たちは階段を上がった。
逃げ回っているうちに私たちは上に行く道もわからなくなり勘だけで歩いた。
『きっともう少しだ。』少し休めればいいんだが、そこら中にモンスターがいて休む余裕さえも無かった。
細い道を歩いていると前から歩いてきたナイトが十字路を左に曲がったのが見えた。
その人について行けばたどり着けるかもしれない・・。
少しホッとしてナイトが曲がった後についていこうと同じ角を曲がろうとした。
その細い道の先には数え切れないほどの岩のようなモンスターが立っていた。
すさまじき破壊力と鋼の体をもつ巨人、ホラーアイアンゴーレム。
彼等の足元には先ほどのナイトが横たわっていた・・。背筋が凍りつくような間隔に襲われた。
その時私たちの来た道から半透明なゴースト達が近づいてきた。
『逃げろ!』ギルが叫び私たちは別の道をゴーストとゴーレムから逃げるために走った。
少し走っていると今度は目の前から別のゴーレム達が歩いてくる・・・。
後ろからは先ほどの敵が迫り私達は完璧に挟まれてしまった。
目の前から来る動きの遅いゴーレムの間をすり抜ける事を選びギルを先頭に走った。
『・・・・・!』気がつくと最後尾を走っていたカノンがゴーストに囲まれ進む事ができなくなっていてついて来ない。ギルはそれに気づいてないようだ。
『ギル、先に行って。』
私は振り返りカノンがいる方向へと戻った。
『カイ!』背中越しに叫んでいるギルの声が聞こえた。
『これなら守れる。』新しい力が手に入ったからってこれっぽちの力で人を守れると思っていた自分が情けなくなった。危なくなったら自分が盾になってだって?それをできる力さえないのに・・・。
もし、カノンに何かあったら・・・。自分の力量もわからずこんな危ないとこに連れてきて自分の自惚れのせいでカノンにもしもの事があったら・・。回復しながら耐えるカノンを見て随分前にカノンが言っていた言葉を思い出した。
『最後までやれる事はやりたいじゃん、ギリギリまでぼくは逃げたくないよ。』
『カノン帰還して!』祈りのような思いで私は叫んだ。
後悔と懺悔の中で私は自分の中にあったもう1つの気持ちに気づいた。

『すまない・・大赤字だったな。』ギルがすまなそうに言った。
『皆無事でよかったよ。』カノンが優しく微笑んだ。
『・・・・・・。』
『どうしたの?カイ?』カノンが何も喋らない私をおかしく思って聞いてきた。
『赤字だったからって、嘆くなよ~・・。』ギルがガックリして言った。
『違うなんでもないよ。』私は受け取った分配のポットやらスクなどをティンプキンに渡すためにカノン達に背を向けた。いや・・カノンの方を見れなかった。
カノンとギルが何かを二人で笑って話してたが私の耳には入らなかった。
私の頭の中には1つの決心しかなかった。

  次の日私はリュウとギル、カノンを傲慢の塔11Fに誘った。最近は行ってなかったが11Fには知り合った頃に4人で泊りがけで行ったりしていた。そこで一緒に戦い私達は深くなっていった気がする。
『久しぶりに長い日数をかけて11Fに篭ってみようよ。』いきなりの私の提案にリュウは少し驚いていたが『久しぶりにいいかもー。』と、すぐに乗り気で喜んでいた。ギルとカノンも反対はしなかった。
眠くなるまで狩り続けた、とても楽しい・・どうして気の合う仲間といるとこんなにも楽しいんだろう。
一人でいた頃の自分が可愛そうだと思うほどに・・・。
『限界・・ねむいっぽ。』ディアウルフが倒れるのを確認するとリュウが眠たい声で言った。
『僕も眠いや。』カノンもうっすらと眠たそうだ。
『じゃぁ16F行って少し寝ようぜ。』まだ元気そうなギルが二人に言った。
『また泊りがけだ。』私はフッと笑った。
先に寝たのはリュウと元気そうだったギルだった。残った私とカノンは少し話をした・・・。
『なんかなつかしいね、こうやって泊まりで11くるの。』眠たそうな声でカノンが言う。
他には誰もいない、寝ているリュウ達と私たちだけ。
『カノン・・・・。』『なに?』だめだカノンには言えない・・・。言ったら反対するに決まってるし怒るに決まってる。
『いや、なんでもないや。眠たいでしょ、おやすみ。』
『変なの・・カイも寝なよ。』カノンはそう言うとリュウ達の傍に行き眠りについた。
私はカノンが眠ったのを確認すると道具袋から便箋を取り出した。

ーシスティアへ

    クランをまた抜ける事、本当にごめんなさい。
   理由は聞かないで下さい。
カイー

  手紙を送ると私はシスティアのクランを抜けた。・・・許せなかった、カノンを危ない目に合わせた事を、
守っていると自惚れていた自分を。さっき便箋を取るときに道具袋からはみ出した手紙の束を手に取った。カノンが私に今まで送ってくれた大事にとってあった手紙。
ゆっくりと全ての手紙を読み返すと私は手紙を破り捨てた。
  強くなるまで一人で戦い続ける事を二度とカノンやシスティア達に会わない事を私は心に誓った。
3人は傍で眠っているはずなのにとても遠くから見ているようなそんな気持ちになって涙がこぼれた。

『おはよう!』元気いっぱいにリュウが言った。
『おはよリュウ。』
『よし!皆起きたな、ちゃっちゃっと行くべ。』一番初めに起きたギルが待ちくたびれたようにしてる。
『・・・・あれ?』リュウが私の方を見て少し驚いた顔をしている。
『・・・・・。』私はリュウが何に気づいたのかすぐにわかった。
『どした、リュウ?』カノンがリュウに尋ねた。
心臓が鼓動を強めたのがわかった。
『カイ・・クラン抜けてるじゃん、どしたの?』
『一人の方が楽かな~なんて。』おどけた風に私が言うとギルがじゃぁ俺達のクランに入れってな事を言った。リュウはそれを聞いて笑ってる。カノンは何も言わずに黙って立っていた。
カノンが怒っているのが伝わってきた・・・。

11Fを降りる前にしばらくしてカノンからwisがきた・・・。
『なんだよそれ、どういう事なの?』私は何も返事ができなかった。
『クラン抜けても変わらないよね、一緒に狩りに行ったりするんだよね。』
その答えに私は・・・カノンとは2度と狩りに行かないと冷たく答えた。
そう言った私にカノンが再び何か言ってくる事はなかった。

もうすぐ終わる、思い出が欲しくて皆を誘った最後の狩が・・・




∽第四話∽  愛しき人



 空を見上げると遠くにマザーツリーが他の木々から顔をだしているのが見えた。
ウェルダンから出発してもうすぐオークタウンに着く。一人になり何をしていいのかわからなかった私は世界を歩いて周って見ることにした。その間に何をすればいいのか見つかるかもしれないと思った。
オークタウンの門が見えるとシスティア達に初めて会った時の事が浮かんだ・・・。彼女達の楽しそうな笑顔、リュウの明るい声。
私は道具屋からポットを受け取り道具袋にいれた、手から1つポットが落ちて割れた。
そこにカノンがいるような気がした・・・。
『・・・・・・。』一人で歩いていて考えるのは何をするべきなのかじゃなく彼女達と一緒にいた頃の思い出ばかりだった。自分がとても弱くなったような気がした。
彼女達と会わなかったら良かったなどと考えたりもしていた大切なものなどできなかったら良かったんじゃないかと・・・。
意味のない一人の旅は休むことなく何日かかけて続いた、象牙の塔が見えてきたらもうすぐウェルダンに着く・・。北から吹いてくる風が冷たくなってきても私の心は何も見つける事もできずただ寂しさに溢れていただけだった。

 象牙の塔の村に着くと沢山の人が溢れていた。道具屋の傍まで行けば誰か知っている人がいるだろうと思った、誰にも会いたくなかった・・・。
 私は人ごみから離れ、木にもたれるように腰を降ろした。この町をでればウェルダンに着く、この旅が終わっても次に自分が何をすればいいのかもわからない。
もっと女性らしく可愛かったら、守ってあげたいと思われるような性格をしていたらこんな風に強さを求めて悩む事はなかっただろう、そのほうがずっと楽かもしれない。
でもそんな自分は自分じゃないし想像したら気持ち悪いなと思った。

 日は沈みかけ雪も降り始めすっかり寒くなっていた。考え込んでいるうちに寝てしまったみたいだ。
ふと見上げると私の前にナイトが立っていた。
『カイ・・・。』彼の肩には雪が積もっている。
『いつからそこにいた?』久しぶりに自分の声を聞いたような気がした。
あの日・・・傲慢の塔を降りた日から誰とも話していないのに気づいた。
『ちょっと前から・・・、いるのが見えたから。』彼は白い息を吐きながら答えた。
『待っていたのか・・。』システィアのクラン員・・・ヴィルク。彼はいつもふざけてばかりできちんと話した事はなかった、きっとクランを抜けた事で何か文句でも言いたいのだろうと腹をくくった。
『クラン抜けて悪かったね。』先に言われる前に謝ればいくらか違うかなと思った。
『なんで抜けたのか教えてくれないかな。楽しくなかった?カノンが寂しいって言ってたよ、俺も寂しいんだ。』見当違いの事を言われて私は少し戸惑った。
『誰にも理由を言わないなんて、どうしてクラン抜けたのか教えてほしい。』
『俺は、カイが好きだから話してくれるとうれしいよ。』涙が出るかと思った・・。よっぽど私の心は一人旅でまいってたらしい。
『・・・・・カノンの傍にいて私は彼を危ない目に合わせた。たまたま運が良くて助かっただけだ!
カノンは危険だと言ってたのに無理に連れてって・・・。私はそんな自分が許せない!』
初めて口にする自分の気持ちが破裂しそうになり鮮明にあの時の光景が蘇った。
『クランが嫌いになったとかじゃなかったんだ。』ヴィルクは少しホッとしたように笑った。
『俺はそうやって傍にいる人の事を真剣に考えれるカイがやっぱり好きだ。』
彼は人懐っこい顔で笑った。その顔を見て彼の優しさに触れてたまらない気持ちになった・・・。
『カイ・・本当にカノンが好きなんだね。』
『ぇ・・・。』彼が言った言葉に私は目を見開いた。
『大体皆きづいてるよ、いつも一緒だし気づいてないのは本人だけかもね。』私を見て彼は笑った。
私でさえあの瞬間気づいた気持ちをたいして話をした事もない彼がわかってたと思うと自分は馬鹿なんじゃないかと思った。
『俺も好きな人がいるんだ、とても好きだって伝えられる人じゃないけどね。』
『俺は弱いしさ、その人を守る事なんてできなくて彼女が他の人に頼ってるのを見てて悔しくなるけどそれでも傍にいたいって思ってる。沢山ふざけた事言って笑わせたりできればいいなって、
でもねいつか強くなって一番傍で守りたいって思ってる。』いつもふざけている彼が強い男に見えた。
『カイ一人で寂しいんじゃない?もしさ、またどこかのクランに入ろうと思ったときは姫のところに戻ってきて。寂しがってるカノンにとっても、姫のクランが嫌いじゃないって言うならカイにとってもそれがいいって思う。』涙が溢れて止まらなかった・・・、
システィア達やカノンのそば、それが私のいたいと思う場所守りたい場所・・。そこから離れて、守りたい者を失って何かを見つけようなんてできるはずはなかったんだ。
『ありがとうヴィル・・、でも私は今は戻れない。今戻ったら自分がカノンにすまないと思った気持ちが嘘になるし自分の気がすまないから。』私は涙をこらえながら自分に言い聞かせるようにゆっくりと答えた。
『わかった、まってるよ!』彼はホッとしたのかあたりが暗くなっているのに気づいてライトをつけた。
私は立っている彼に手を振りウェルダンに向かって歩き出した。

 意味のない旅ではなかった・・。ヴィルクの言葉、暖かな心を手に入れた。そして自分が心から望む物を知った。システィア達の傍でカノンの隣で生きていたいと願う自分の心、もう私は一人では生きて
はいけない。それが弱さになるのか強さになるのかはそれは自分しだいだと思った。

 システィア達のもとに戻る日がくるまで私は自分の愚かさを拭いさりたくて一人で無茶な事ばかりしていた。時たまカノンがwisを送ってくる。
{ねぇ戻ってこないのかい?何で抜けたのか理由ぐらい聞かせてくれてもいいじゃんか。}
ヴィルはあの後に私が誰にもいわないでと言ったのを誠実に守ってくれてるらしく、カノンはその理由を聞きたがって何度も聞いてくる。そして決まって戻ってこないのかと聞いてくる。
『来たな。』遠くから明かりが近づいてくる。明かりは壁の向こうから壁沿いに進んでこっちに向かってきているようだ。私は先回りをしようと壁の向こう側に向かって走り、切りつけようとした。
『カイ!』メデューサかと思った光はギルだった。
『ギル??』私は振り上げていたブレードをゆっくりと降ろした。
『ごめん、メデかと思って。』私はすまなそうに笑った。
『あふぉ!殺すきか!』ギルも一人で傲慢の塔に来ているらしくヘトヘトになっていた。
『珍しいじゃん、上層じゃなくてこんな下にいるなんて。』
『ちょっとな・・・。』
『久しぶりにペアハンでもするか。』ギルがこういう風に誘ってくる時は何か私に言いたいことがあるときだ。大抵無茶な事や危険な事が多い。
『いいよ。』しっかりしてて皆を引っ張っていくくせに、一人で色々な事を思いつめるとこがあるギルはほっとけなくて時たま凄く心配になる。
ずっと一人だったせいか息が合わず狩りはうまく行かずにポットの消費が増えていくばかりだった。
『ごめんうまくいかないや、そろそろ帰還しようか。』私がギルに言うとギルは間を置いてしゃべりだした。
『なぁ・・トラップってしってるか?』いつになく真剣な声でギルは話しだした。
『俺の仲間がやられて殺された。周りの奴らはいつもの事だってそんなことする奴らはほっとくのが一番だっていう。お前はどう思う?』
『そいつらって敵討つとクランとか仲間とかに報復してくるって言うよね。どうにかしたいけどほっとくのがやっぱり一番だって私も思うよ。』ギルは私の答えを聞いて舌打をした。
『ほっとくからああいう奴らが増えるんだ!殺されて大事にしていた武器まで取られて!お前は大事な仲間が殺された事がないからそういう風に言えるんだ・・・!!』ギルの声が激しくなってくる。
『俺は黙って見ているなんて嫌だ!どうにかしたい仲間の敵を討ちたい!お前だったら俺の気持ちをわかってくれるって思ったのに・・・もういいわ、やっぱりお前にも俺の気持ちはわからない。』
ギルは突き放すように冷たく言った。
『ギル無茶だ。』
『俺一人が何かしても何も変わらないってわかってる。でも何もしないまま死ぬなんて嫌だね、どうせいつか死ぬんだ死ぬ前に何かをしたい。』ギルは一息つくと指にはめてあった指輪を外して私に渡した。
『難しい事考えずにクランに戻ってカノンの傍にいな、それがお前にとって一番いい。』全てを見透かしたようにギルが言った・・。何も言わなくても伝わる思い。同じように止めても無理なんだと私にもわかった・・・・。
『ギル、ギルに何かあったら私はギルと同じことをするよ。』ギルはフッと笑った。
『お前らしいな、でもお前には何も教えない。それになお前は女なんだ危ない事はするな、じゃぁなペチャパイ!』光に包まれてギルは目の前から消えた。光の向こうでその顔は寂しそうに微笑んでいたように見えた・・・・。それが彼を見た最後だった・・・。
手には微かに土の匂いがする指輪が光をはなっていた。


    -あなたに私は人を思う大切さを教えてもらった
             その激しさの中にある 溢れるような優しさが私はとても愛しかったよ-


 私の足はアデンの外れにある灯台へと向かっていた、もうどこを探してもギルはいない。
会いたいと願っても二度と会うことは叶わない、彼のあの皮肉めいた声が聞きたい・・・。
 港に出ると灯台の下に女性が立っているのが見えた。久しぶりに会うと思うと緊張した。
近づいても彼女はいつものように話しかけては来なかった。もう戻る事はないと決めたのにまたこうして彼女の傍にいる。会えるのに会わないと決めた大切な人達、会いたいのに会うことができない大切な人・・・。
いつ別れる事が来るかわからないこんな世界で私は自分がどんなに馬鹿な事を考えていたのか身にしみて後悔していた。
『システィア・・・?』まだ夜は明けず顔がよく見えない、しかしシスティアの様子はいつもとは違った。
クランには戻らせてもらえないのかもしれない・・・。私は後悔と大切なものを自分のせいで失うかもしれない不安な気持ちでいっぱいになり、喋る事もできずシスティアが喋ってくれるのを待つ事しかできなかった。
海からは朝日が昇り始め、彼女の厳しい顔をうっすらと照らした・・・。


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