皐月の日。

皐月の日。

4



今日は、カイトと初めて町に出る日だ。


・・・俺はカイトと仲良くなる為に、町に出る。

ちゃんとあいつを、引っ張っていってやろう。




     *     *     *



「カイト、今日、晴れたぞ。晴天だ」

「え・・・はい。よかったですね、」

「何他人事の様に言ってるんだ。今日は、俺とお前が一緒に出かける日なんだぞ?・・・カイト、アイス食べたいだろ?」

「で、でもやっぱり・・・」


あぁ、ほらまた。遠慮するなって言っているのに。

こいつはどうも、遠慮したがる。


「いいから。俺、ちゃんと美味しいアイスクリーム、食わせてやるから、さ」

「・・・、分かりました。でもやっぱり俺の話聞いてくれないんですね。貴方は」

「お前の話を聞いてたら、俺、何もお前にしてやれないだろ?・・・俺、そういうの嫌なんだよ」


カイトが俺にそう言われて、複雑そうな顔をする。

でもそれは本当だ。だってこいつがいつも言う事は、カイト自身を押さえつけるものばかりだから。

・・・やっぱり、前のマスターなのか?お前をこんなにしちまったのは。


何があったんだ、と言ってしまうときっと、まだこいつは悲しそうな顔をする事だろう。

だから俺はまだ、あえて言わない。言ってしまったら、こいつを傷つけてしまうだろうから。


「じゃ、仕度してくるから、カイトはちょっと待っててくれ」

「はい」


俺はそう言って、パジャマを着替えに行く。

カイトはその間、朝ごはんを作ってくれると言う。

・・・今は有難い事だ。甘えさせて貰おう。



     *     *     *



「・・・えーと、今日はこの服で良いか」


俺は基本的にファッションにはあまり気を使わない方だが、今日はカイトと出かける日だ。

ちょっとぐらい、いい服を着ていかないと。


カイトは・・・あ、やばい。服が無い。

無い、とは言っても・・・カイトが売ってた時の服は、勿論ある。

だけど、出かける時にあの服、じゃな・・・。


俺の服は・・・うん、そうだ。カイトのが身長がでかいから着せてやれないんだった。

男としては悲しいところ、だけどな・・・あいつ、背はでかいし、イケメンだし・・・ははは・・・・。


・・・・・仕方ない。途中でカイトに服を買ってやるとしようか。




     *     *     *




着替えが終わってカイトのいるリビングへ戻ってみると、カイトがもう既に朝ごはんを作り終えていた。相変わらずの手際の良さだ。


「カイト、仕度終わったぞー」

「はい。朝ごはんはこれですよ。ちゃんと食べて下さいね」


朝ごはんのメニューは、目玉焼きと焼いたソーセージ。それと味噌汁。

カイトの作る味噌汁はいつも本格的で、いつも出汁から作る。

ちなみにソーセージは前、俺が買ってきた袋詰め(つめ放題)のものだ。


節約の意もあって、俺はよくつめ放題をする。・・・まぁ、俺がよく食べるという事もあるし。

お陰でつめ放題は、かなり得意になった。


まずは味噌汁を啜ると・・・やっぱり、美味い。暖かい母親の味だ。

・・・田舎にいた頃の事を思い出すな。



俺の家は、田舎の中ではかなり金がある方で・・・都会に行く、と言ったら、何故か家を一軒買われた。・・・そりゃもう、一人暮らしには広すぎる程だ。

そしてその家は黙って買われたので、俺に拒否権は無かった。


だから俺は、それ以外は金、出さなくて良いと、一言親に伝えた。

だって、それ以上金を出されたら・・・絶対、俺は自立できないと思ったからだ。


・・・そういや正直、あの広い家の中、一人は寂しかった。・・・男らしくないかもしれないけど。

でも、カイトが来てからというもの・・・俺は、そういえば寂しくないな、という事に気が付いた。


・・・カイト、買って良かった。こんなにも気持ちが助けられていたんだな。

だからこそ俺は、カイトに心を開いて欲しいのかもしれない。


俺と、ただ一緒に居てくれて、俺の為に尽くそうとしてくれている・・・カイトに。



「あの・・・お味噌汁、美味しくないですか?」


俺が黙っていると、カイトが心配そうに俺を見てきた。

違う。違うんだって。何でそんな風にしか捉えられないかな、お前は。


「いいや。物凄く美味い。・・・この味、お袋の味噌汁と似てて、何だか懐かしくなって、な」

「・・・お母さん、ですか・・・・・」

「あぁ、そうだ。家族って良いよな・・・あ、ちなみにお前はもう俺の家族認定、すんでるからな。・・・前、言ったろ?家族みたいなもんになるって」


カイトが驚いた顔をする。何だ、俺、おかしい事言ったか?


「あ・・・あれ、本当、だったんですか・・・・?」

「ん?・・・本当に決まってるだろ。お前は俺の家族だ」

「でも・・・僕は、機械ですよ?機械で、感情も無くて・・・」


感情が無い、って、まだ否定するのか。こっちは、出会った初めからあるって分かってるのにな。


・・・どうしてこいつは、こんなに自分の感情を否定するんだ?その感情が、俺は見たいんだが。

でも今は、こいつの言う事を聞いてやるとしよう。

こいつも俺と似て、こういう場面で強情だからな。


「分かったって。・・・じゃ、朝ごはん食ったら外に出るぞー。まずは服屋に行くから」

「え、アイスだけじゃ・・・」

「アイスを食いに行くのにも、まずは身なりを整えないと。だから、な?」


そう言うとまたしぶしぶカイトが了解をする。


何で、俺に何かされる事をそんなに嫌がるんだ?

俺のそんな気持ちを嬉しい、という気持ちで受け取ってくれた事は、まだ無いだろう。

・・・あぁ、正直寂しいさ。当たり前だろ、それは。


でも、俺は絶対カイトと仲良くなってやるんだからな。

どんな困難でも、絶対、こいつの心を開かせてやる。



―――俺はそう心に誓い、カイトを待たせない為に、早く洗い物を済ませる事に決めた。




     *     *     *



外に出てみると、空は真っ青。夏らしい天気だ。

天気予報通り。今日は当たって良かった。


「カイト、良い天気だな」

「はい。・・・良い天気ですね」


カイトの今の服は、コートを脱がせた紺の長袖姿。

さすがにコートは・・・見ていて熱すぎる。・・・今の格好も十分に暑そうだけど。


ボーカロイドは自分で体温を調節する事ができるから、別にコートでも構わないらしいのだが・・・。


でも、やっぱり夏らしい格好はさせてやらないと。他の町を歩いている奴と、同じような格好。

今日は、前より少し増やしたバイトで、カイトに何か出来ないか、と貯めた金を持ってきた。

だから、持っている金には余裕がある。


「じゃあカイト、あそこで服買うか」

「あそこですね。・・・本当に、良いんですか?」

「当たり前だろ。俺は、お前をちゃんと家族として見たいんだ。それなのに、服一つ買ってやらないなんておかしいだろ?」


そう言って俺はカイトの手を引っ張り、店の中に入って行く。

店に入ってまずは、俺が色々見立ててやる事にした。


・・・うわ、何でも似合うぞこいつ。俺としては、本当、不思議なぐらいだ。

俺は何でも似合う、という程美形じゃない。

いくら作られているとしても・・・カイトが、かなり羨ましいと思ってしまう。


「あの、・・・その、僕の服なんて、少しで良いですから・・・」

「いいや、もっと今日は買ってやる。また出かける事もあるだろうし」

「だ、大丈夫ですってば・・・!」


カイトは必死になって俺を止めようとする。何だ、お前の為なんだぞ?

まぁ、止めるのは分かってたけどさ。


「・・・じゃあいいよ。今はズボン2枚、シャツ3枚、・・・あと数着でやめてやろう」

「数着、・・・?!多すぎじゃ、ないですか・・・?!」


俺のそんな判断に、カイトがわなわなと震える。

・・・その直後。


「・・・やっぱり駄目です。駄目ですよ!そんなに沢山服なんか買ったら、お金が勿体無いです!それなら家に足りない、洗濯機の洗剤を買って下さい!夕飯も、もっと良いものにできます!それとあと家を掃除する・・・・・・あ、」


カイトがそこまで言ってから、はっとなった様に止まる。

・・・あ、顔、真っ青だ。今までにない表情。

カイトはそれを隠そうと、必死になって俺から顔を背ける。


「カイト・・・その、お前、」

「今のは、エラーです。エラーですから」

「・・・・・・」


そんなカイトに、俺はぽんぽん、と頭を撫でてやる。

・・・正直、嬉しかった。カイトの新しい表情を見る事ができたから。

だから、俺はこいつの言う事を少しは聞いてやろうと思った。


「じゃあ、服はこの辺にしといてやる。・・・ちゃんと洗剤、買うからな」

「・・・わかりました。ちゃんと洗濯、しておきますから」


カイトはあいも変わらず、そっぽを向いたまま。


少し可愛いな、・・・と思っているわけが無い。断じてない。

・・・少なくともこいつは、可愛いと思われる事を望んではいない筈。

だから俺は可愛いなんて思わなかった。これでOK。



・・・俺はそんなこんなでカイトに服を買い、その場で着させて行くこととなった。



     *     *     *



外に出て、改めてカイトの服を見てみた。

紺色のシャツに、合うと思ってその店で買ったリストバンドを付けて・・・ジーンズは茶色。いつも穿いているものより、濃い目の茶色だ。


「うわ・・・・すげぇ、似合う」


すらっとした体と、小さな、整った顔。

男としては、羨ましくて仕方が無い。

・・・まぁ、どのカイトも同じと言えば同じなのだが。

でもやっぱりこいつだけが、俺には格好よく見える。

多分こいつを知っているから、そう感じるのだろうが。


「・・・じゃあ、そろそろアイス食いに行くか」

「え、あ、」


俺がカイトの手を少し引っ張ると、カイトは初めは少し抵抗をしたけど、俺の手を握り返した。

・・・何だ、やけに素直じゃないか。

まぁ、俺が結構強引だから、ってのもあるかな。



――――あと、ここから歩いて10分程。

こいつは俺にきちんと食べたいもん言えんのだろうか、と思いながらも俺は、カイトの手を引っ張って歩いて行った。




     *     *     *



「ついたぞ。・・・さぁ、暑いし、俺もアイス食うかな」

「・・・・・・はい」


目の前には、小さなアイスの屋台。

近場で最近出来て、一番美味い!と言われている店だ。


それと・・・もう食べたくないとは言わないんだな。

まぁ、これだけ近くにアイスの誘惑があるんだから、当たり前といえば当たり前か。

正直、カイト・・・食べたくて仕方ないって顔してるし。


俺はカイトを手を引き、アイスを売っている女の人に話しかけた。

勿論、それに笑顔で応対される。


「サイズはどうなさいますか?」

「えーと、俺はSで。連れはMのダブルで」

「っ、ちょ、」

「かしこまりました」


カイトが焦ったような顔をしたけど・・・もう遅いぞ。

お前が無理して少ないもんにするのなんて、俺にはお見通しなんだからな。


「じゃ、俺はチョコで。・・・カイトはどうする?」

「え?・・・あ、その・・・・・」

「決めないと俺が選んじまうぞー」


俺がそう言うと、カイトが焦った表情をする。

そして懸命にメニューを見て、二つ、すぐに決めた。


「・・・ば、バニラと、ピーチオレンジでお願いします・・・・・」

「はい。Sサイズのシングルで、チョコ。Mサイズのダブルでバニラ、ピーチオレンジでよろしいですね?」

「良いっすよ」

「・・・良い、です」


カイトが恥ずかしそうに頬を染めて俯く。


・・・あぁ、駄目だ。可愛いなんて思っちゃいけないと何回自分に言ったら・・・・!!

いい加減目を覚ませ、俺・・・。


顔を何回か両手で叩く。・・・ん、これで大丈夫だ。

俺はノーマルだ。ノーマル。


そして俺たちは、買ったアイスをそこにあるベンチに座って食べ始めた。


「カイト、うまいか?」

「あ・・・はい、おいひいれす・・・・」


目をとろん、とさせてアイスを食べるカイト。

・・・お前、本当にアイスが好きなんだな。


そんなカイトに思わず、俺は頭をぽんぽん、とまた撫でてしまう。

カイトの顔が少し、驚いた様な顔になる。


「・・・え、と、今のは・・・・・?」

「あ・・・あぁ、ごめんカイト。つい、何かそんな、嬉しそうなお前、見たら、・・・」

「え、その、僕・・・・」

「あー、いい!いいから食え!」


あぁ、やばい。また、つい年下みたいに撫でちまった。


見た目はカイトのが年上っぽいんだもんな。やばいやばい。

・・・しかも最近これが癖になってきているから・・・・尚、困る。


俺はカイトを撫でてしまったという恥ずかしさから、アイスをいつもより早いペースで食べた。

・・・正直、ちょっと頭は痛くなったけど、気にしない。



カイトはゆっくりとアイスを食べ、食べ終わった後に、すぐに座っていたベンチを立った。


「じゃあ、帰りましょ・・・・」

「おっと、そうだ。俺、見たい場所あったんだよなー。帰るのめんどくさいなー」


業とらしく声を大きくする。

・・・カイト、お前の行動パターンは分かりやすすぎなんだ。もう読めてる。


「え、ちょ、」

「じゃあもうちょっと、町を歩くか!」

「ええぇ?!・・・・・ちょ、待っ・・・!」


慌てるカイトの手をまた、ぎゅ、と握る。

そして、俺は・・・俺たちは町へと駆け出した。―――――――




     *     *     *




――――例えばペットショップに寄ったり。

喫茶店に入ったり。

デパートに寄って、色々なものを見たり・・・。―――――




そんな風に色々な場所に行く度、カイトの顔がまた、どんどん柔らかくなってゆく。

色々な表情。・・・カイトの笑顔。


笑顔にもこんなに種類があるんだな、と俺は今日学んだ。

カイトの笑顔は・・・今日見ただけでも、沢山の種類があったから。


――――やっぱり今日、カイトと町を歩いて良かった。


そんな事を考え、俺は個人的にも満足していた。

カイトは俺に対して、今までに無い表情を今日、沢山見せてくれたから。


・・・心を開いてくれるまで、今までの事を話してくれるまで、あと、ちょっとだろうか。

俺なりにまだ、カイトと沢山接してみようと思う。


よし・・・俺、まだ頑張るぞ。歌も今日帰ってから、沢山歌わせてやるんだからな。



俺は隣で歩く、夕焼けに染まるカイトの手を、また強くぎゅっと握った。

・・・それをカイトが握り返してくれる、という喜びに胸を少し、躍らせて。




     *     *     *




夕方でももう、日が落ちかけているという所で、あの、カイトに出会った中古ショップまで来た。

商店街の、小さな、店―――――――――



夕焼け空の下、俺は店の前でカイトの手を握る。


「カイト、俺はお前に出会えて良かったと思う」


カイトは無言。・・・でも、良いんだ。

これだけは今、お前に対して言わせて欲しいから。


「お前が今、俺の事をどう思っているのかは分からない。・・・でもな、やっぱりお前は俺の大切な奴だ。それだけは・・・覚えていてくれ」


俺が、今できるだけの笑みを見せる。

そんな俺に、カイトが何かを喋りたそうに隣で、上目遣いで俺の方を向いていた。



「・・・・、僕は―――――」



そう、カイトが何か言おうとした瞬間だった。

・・・カイトの動きが、止まる。


「カイト、どうした―――――」

「ま、すた・・・・?」

「・・・・・え、?」


カイトが見つめていたのは・・・俺の後ろ。

その言葉の真実が知りたくて、俺は自分の後ろを向いた。


・・・そこに、立っていたのは。



「カイト・・・カイトじゃないかぁ!」

「・・・・・・」




―――― 一人の、俺より年齢が低いであろう少年と。


その隣に、・・・他の『KAITO』が立っていた。










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ようやく続きです。色々詰まって苦労しました・・・orz
今ちょうど、書きたい話の場所まできているので、次の更新は多分、早めになるかと思います。

ではでは、次の更新をお待ち下さい。。










2008.7.30


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