皐月の日。

皐月の日。

5



「マス、ター・・・」


そうか。・・・こいつが、カイトの前のマスター。

こっちに近づいてくる姿は、まだ中学生か、幼めの高校生ぐらいに見える。


「お前が売れたって聞いて、びっくりしたよ。売れないと思ってたからな」

「・・・はい」


カイトの表情が嬉しいのか悲しいのか、絶妙な顔になる。

・・・しかし、酷い言い方だ。まるで、カイトが本当に出来損ないだと思っている様な。

でも・・・まだ、俺は耐える。キレるなら、こいつの話をもっと聞いてからだ。


「でも、売れたって聞いてちょっと、寂しくなってさー。だからな、カイト」

「・・・何、でしょうか?」


カイトがびくり、と震える。

駄目だ、俺。カイトに今すぐにもっと近づいて、守ってやりたい。


まだだ・・・まだ、待て・・・。

言い分を全部聞くまでは、まだ・・・!


「なぁなぁ、オレの所に戻ってこいよ。今のこいつ、無反応で面白くなくってさー。なぁ、今のカイトのマスターだって・・・俺、沢山金払うからさ。いいだろ?」

「・・・・・・」


悲しそうに、顔をうつむかせるカイト。

両手を胸の前で、ぎゅっと握らせ。


「だから、――――ッ、?!」


――――あぁ、駄目だ。もう我慢できない。


俺は、前のカイトのマスターに、殴りかかっていた。

そして、衝撃と痛みに混乱し、何があったのか分かっていない目の前の奴が・・・少し、放心する。


「・・・ふざけんなよ、お前」

「・・・は? え、何・・・・?」

「カイトは物じゃねぇ。ちゃんと心だってある。お前の、勝手なお前の道具じゃない!!」

「な、何言って・・・」


目の前の奴の顔が、困惑した様に歪む。

・・・わかんねぇだろうな、お前みたいな奴に。

金で、全てを解決しようとする奴に。


「お前、カイトの事、本当はどう思っている?暇つぶしか?そっちのカイトが、売った俺のカイトよりつまんねぇからこっちに変える?・・・ふざけんな。いい加減にしろ!」

「ひっ・・・!」


また殴りかかろうとしてから、そいつの恐怖に引きつった顔を見て、はっとなる。

・・・駄目だ。カイト・・・カイトにこんな姿を見せては。

俺がカイトに、そんな顔をさせてどうすんだ。


「・・・カイト、帰るぞ」

「あ・・・はい」


今まで唖然としていたカイトに声をかけ、そこを俺は去ることに決めた。

これ以上は、・・・俺が、駄目になってしまう。


後ろをふと振り向くと、そいつのカイトが心配そうに、自分のマスターを見つめていた。

・・・ちゃんと、自分を心配してくれる奴がいるってのに、あいつは。


その事に無性に腹が立って、俺はカイトの手を引っ張り、早足でそこを去る。


「っ、あの・・・痛い、です・・・」

「あ、あぁ、ごめんカイト。悪いな」


俺はいつの間にかカイトの手を強く握りすぎていた様で、カイトが痛そうに、少し顔を歪ませていた。

・・・一番辛いのは、カイトの筈なのにな。

駄目だ、俺。頭、ちょっとは冷やせ。


俺は自分を引き締める様に、自分の頬を数回叩いた。


「・・・カイト、帰ったら聞きたい事があるんだが・・・良い、か?」

「え・・・あ、はい。分かりました」


いままで、いい雰囲気だったのにな。

今はもう・・・こんなギスギスしちまって。



――――――ごめんな、カイト。



俺は家に帰ってから聞くことについて、今聞いて良いのか。

・・・それを悩みながら俺は、帰りの薄暗い橙色の中、細く小さなカイトの手を握れずにいた。



     *     *     *



家に帰ってからも、そんな雰囲気は続いた。

カイトはずっと、黙ったまま。


―――あぁ、もう、俺はどうしようもない・・・!


折角カイトと、仲良くなれたのに。心を開いてくれるかと思ったのに。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


俺はきっと今、怒った様な表情をしているんだろうな。

だからカイトは、申し訳なさそうに俯くばかりで。


―――――どうしたら、良いんだろう。


そう俺が、いつ話を切り出そうかと考えている時だった。


「・・・あの、僕、話したい、です」

「え・・・・」

「マスター・・・前の、マスターの事」


ぽかん、としている俺を、カイトがまっすぐに見つめてくる。


「その・・・いい、ですか・・・?」


訴えかけてくる様な、目。

・・・カイト、話してくれるんだな。

まだ先の事かと思っていたけど・・・でも、聞くっていう覚悟を決めないと。


あんな事があった後だ。手だって震えてるのが、見える。

・・・でも、カイトも、決めてくれたんだ。俺に・・・話すって。


だから俺は、俺なりに、しっかりとこいつの話そうとしている事を聞かなきゃならない。

だから・・・



「あれは、『僕』が深刻なエラーを起こした時の事です――-――」



・・・カイトがぎゅ、と瞳を閉じた。




     *     *     *



「マスター、制服、片付けないんですか?」

「いいって。洗濯物も適当にやって、お前が片付けてー」


そう言って手を振るマスター。・・・いつもの様にマスターは、ごろごろしていたんです。

学校が終わるといつもこうです。

だらだら過ごして、全部家事は僕に任せて。



―――――マスターの家には、お金があった。



大金持ち、とまではいかないけど、お金のある家でした。

だから僕だってすぐに買ってもらえたし、マスターとしての初期設定も、難なく行われた。

・・・マスターの、母上と父上の手で。


だからマスターは実際、面倒くさい事は何もしていませんでした。

調声はとても上手かったんですけどね。音楽は好き、みたいだったので。


「カイトー、なぁ、夕飯はー?」

「今作ります。少し待っていただけますか?」

「えー・・・使えない奴だなぁ」


その時自分の中でなにか、変な感情が生まれました。

初めて自分の中に感じる、違和感。


これは何なのだろう、エラー?

だとしたら、『俺』は破棄されるのだと思いました。

だから、言いませんでした。

・・・思えば、その時からおかしかったのかもしれません。


だって、僕達に、『怖い』なんて感情は、無い筈なのですから。



     *     *     *



――――前日にそんな事があってから、次の朝。

いつもの様に、俺はマスターを起こしに行きました。


「マスター、朝ですよ」

「あと1時間・・・」


駄目です、と言ったんですけど、中々マスターは起きなくて。

僕は『何か』が自分の中に積もってゆくのが分かりました。


「・・・マスター、」

「あー、朝ごはん作れ。ちゃんと起きる」


・・・何か、自分の中で切れそうになっているのが分かりました。

それを、僕の今の力で止められるわけも無く。


「早く、おきて・・・」

「うるさいなぁ・・・じゃあ脱ぐよ、着替えるよ」


そう言ってマスターは、自分のパジャマを放り投げ、僕にぶつけて、・・・。

部屋は散らかっていて、片付けもしないで・・・。


――――――ぶちん。


・・・その時ついに、僕の中のものが、切れたのです。


「・・・っ、駄目ですマスター!」

「っ、は?」

「ちゃんと片付けして下さい!あと、パジャマは洗濯機!朝ごはんは冷めてしまいますから、さっさと着替えて支度!顔を洗って、歯磨きもちゃんとして・・・ほら、早くして下さい!」


マスターに、思いっきりそんな言葉をぶつけてしまったんです。

・・・初めて、でした。あんな、頭に何かが湧き上がってきて・・・言ってしまったのは。


それに、こんな『機械』が、感情を持つはずは無いのですから。

マスターに命令できる程の、感情を。


だからマスターは驚いて、思わず後ずさりました。

でも、そんなのは関係ないと思いました。

・・・そこから、おかしかったのかもしれないですけれど。


「な、なんだよいきなり!命令すんな!」

「っ、俺は、ただ早く仕度をして・・・マスターに、遅刻して欲しくないだけです。いつもみたいに・・・」


マスターは、学校によく遅刻をしていました。

それでも良いって、勘違いしていたんです。

自分だけは、大丈夫だって・・・。


でも俺は、そんなマスターを見ていて、いつももやもやしていました。


だから、その時・・・その時なら、言えると思ったんです。

我侭で、俺の話を全く聞いてくれなかったマスター。

そんなマスターに、初めて俺の言葉を、伝えられると・・・。


――-――そして、その次の日も。

更に次の日も、ただただ俺はマスターにしっかりして欲しくて、何度も注意をしました。


・・・両親が共働きで、ずっと甘やかされていたマスター。

だから俺が、両親の代わりに怒って、きちんとさせてあげないといけないって。


でも・・・それは間違いだったのだと、今になって思います。

だって、僕達にそんな権限は何一つ、無いのですから。



     *     *     *



「・・・ん・・・・・?」


寝苦しさに朝起きると、僕は何かの箱に詰められていました。

暗くて、暑くて、苦しくて・・・何が起こったのかも分からず、ただ僕はその中、無言で座っているしか無かったんです。


そして僕は、少しでもその苦しさから逃れるように、いつの間にか眠ってしまっていました。

だって、眠ることが一番辛くないことでしたから。


その後、意識がぼんやりとまた、上に上がってきて・・・次に起きたときには、もう、僕はあの中古屋にいました。

何かの間違いだろう・・・その時は、まだ活動しない頭の中で思ったのです。


他のそこにいる、彼女らだってそうでした。

ずっとマスターが迎えに来てくれるのを・・・待っていたんです。

ただ、ずっと・・・ずっと、マスターを信じて。

だから僕も、マスターを待つことにしました。

僕だって・・・マスターの事が、大好きだったからです。


しかし、一日、一週間、一ヶ月・・・いつまで経ってもマスターは迎えにはきませんでした。


不安が僕の中を占領する中、他の子達はまだ、ずっとマスターを信じられていました。

本当に、不思議なくらいに。


・・・その時、僕の中にエラーがあると、自覚し始めたんです。

人間と酷く似たものが、僕の中にあると。


「マスター・・・」


酷く、不安でした。

泣きそうになるのを必死で堪え、ぎゅ、と自分の体を抱きしめて。


・・・マスター、ちゃんと迎えに来てくれますよね?

僕を、売ったなんて・・・絶対に、無いですよね?


その考えに、ずっとがたがた震える毎日でした。

大丈夫、大丈夫・・・そう、自分に語りかけ続け。



     *     *     *



「・・・ほら、・・・・れが・・・」


考えることを放棄し、ぼーっとしていると、聞き覚えのある声が聞こえました。

そう、あの、僕の待ち焦がれていた・・・声。


「ます、た・・・?」


光が、見えたようでした。

マスターが・・・迎えに来てくれたのだと。


「マスターっ・・・、!」


嬉しさのあまり、思わず立ち上がろうとした、その時、でした。


「あ、あいつだよ・・・ほら」

「やだ、こっち見てる・・・」

「大丈夫だって。あいつは今、中古ショップに居るんだから。こっちには来れないよ」


どうやらマスターは、同級生の女子と一緒のようでした。

話し声は聞こえないと思っているのでしょうか、僕の事を話していたんです。

・・・僕らの聴覚は、人間より遥かに優れていたのに。

だから、全部・・・聞こえていたんです。


・・・・・・全部。


「あいつがさー、本当にむかつく奴でさ・・・俺に色々命令してきてたんだよ」

「えー、ほんと?だって機械じゃない、あれ・・・」


気味が悪い、というような顔で、彼女は僕を見つめてきました。

・・・『機械』と言われ、それが悲しくて、視線が辛くて・・・僕は泣き出したくなってしまいました。

でも僕は、・・・『機械』、でしたから、泣くことは許されないのです。


「だからさ、俺の母さんに頼んで売って貰った。まぁ、『売って』とは一言も言わなかったけどな。ただ、あいつが我侭だから・・・って言ってさ」

「あはは、ひっどい人-。でも確かに、そんな機械なら要らないよね」


要らない・・・こんな俺は要らないんだ。


何度もそれを頭の中で繰り返して、闇に意識が堕ちてゆく感覚を、覚えました。

要らない・・・要らないんだ、俺は・・・。


・・・そして、最後の、マスターの一言。



「ああ。そんな奴、さっさと見切られて廃棄されれば良いのにな。」




――――それから先は、真っ暗闇でした。

マスターに否定され、売られた事実。

廃棄されれば良いと目の前で言われた、悲しみ。


それが自分を、自分の全てを支配しました。


果ての見えない、暗い場所。

僕は、どうしたら良かったんだろうとひたすらに考えました。


マスターの我侭を聴いてあげられなかったから?

自我を、持ってしまったから?

機械として、失格だから?


・・・だったら、全部捨ててしまえば良いじゃないか。

余計なものは、全部。

俺は機械。機械以外の何でも無い。

生きてすらいない。


だから、全部、自我や考えた事を全て、無かった事にしてしまえば良い。


もう、マスターは迎えに来てくれない。

それに、ずっとこんな姿であれば、誰も買ってはくれない。

ただ、廃棄されるのを待つだけ。

・・・人間で言えば、良い死に際という奴なのだ。

俺は、   そう、思いました。



     *     *     *



―――そして、それから少し後の事です。

俺の事を気にする人が、店にやってきました。


ずっと僕を見つめて、店の人に話しかけられていましたね。


「兄さん、そいつが欲しいのかい?」

「え、あ・・・・」


会話が聞こえてきましたが、気にはしませんでした。

僕を買ってくれる人なんて、誰一人として居ないと確信していたからです。


「そいつぁ、・・・なんだ。・・・、その、前のマスターが・・・、・・・・・・かな。だから・・・を待って・・・と・・・」

「・・・へぇ」


会話が、聞こえないように僕を、閉じる。

聞いてもきっと、悲しい事だけだろうと思ったからです。


・・・でも、その中でこの声だけは、はっきりと聞き取ってしまった。

絶望しか無かった僕に、その人は。


「買います」


はっきりと、彼はそう言いました。

そして値段を聞き、払い、僕を買ったのです。


・・・何故、こんな僕を?

僕には、分かりませんでした。


そして、会計を済ませたのか、店の人に僕は、呼ばれました。


「・・・おい、『KAITO』。お前を買ってくれた人が待っているぞー。あの人が新しいお前の『マスター』だ」

「俺の、新しい・・・?」


少し、その人を僕は見つめました。


―――・・・きっと、『機械』じゃなければ、捨てられるんだ。

だから俺は・・・僕は、ただの機械に、なる。


絶対に、あの人には見せない。

捨てた、あの自我も・・・感情も、全て。


「『僕』は・・・ただの、歌う機械」


目を直ぐに逸らした後、僕はそう、呟きました。

自分に、言い聞かせるように。



     *     *     *



「・・・これが、僕の全部・・・今までに会った事です。・・・絶対言わないって、思っていたのに・・・馬鹿ですね、機械なのに」

「カイト・・・」


ずっと、こんな孤独を抱えていたのか・・・こいつは。

俺は何で気づかなかったんだ・・・ああなった理由も、ちゃんとあった筈なのに。

・・・・・・くそ、自分の鈍感さに腹が立ってきた・・・。


俺は、俺は一体、・・・こいつを、どれだけ知らなかったのだろうか。


そんな中、カイトが首を振って、こんな事を言った。


「忘れて下さい。ぜんぶ・・・全部、あなたの中から消して下さい」

「え・・・」


何故、そんな事を・・・そう思ってカイトを見つめると、カイトは今まで歪める事の無かった顔を、歪めて。

・・・辛そうにこう、言った。


「わす、れて・・・それで、・・・っ、僕を、捨てないで、くださ・・・、!」


カイトの目から、涙が溢れてくる。

・・・ああ、もう本当に・・・・・・俺も、カイトも。


「捨てる訳、無いだろ・・・?」


俺はカイトを優しく、ぎゅっと抱きしめた。

それにカイトがびっくりしたのか、肩を少し跳ねさせた。


「・・・ずっと、怖かったんだな・・・?」

「こわくなんて、な・・・」

「お前、本当に嘘・・・下手だよな。泣きながら言われても、全然説得力、無い」

「・・・・っ、ぅ・・・」


カイトが俺に、縋るように泣く。

それをあやす様にぽんぽんと背中を叩いて、また強く、抱きしめる。


「ごめん・・・ごめんな、カイト。お前の事、・・・分かってる気がしてた、してるだけだったのにな。ごめん」

「っ、あやまらないで、ください・・・」

「悪い。・・・でも、絶対、お前を捨てたりしない。捨てられる筈も、無いんだ・・・」

「え・・・・」

「だって、お前・・・ちゃんと心があって、生きてる。お前は機械じゃない・・・ちゃんと、生きてる」


そう言うとカイトは「違います・・・」、そう呟いて。


「ぼく・・・身体、機械で・・・」

「違う。それは違うんだよカイト・・・そういう事じゃないんだ」

「ち、がう・・・?」

「そうだ。・・・心が、ちゃんと人間なんだよ、お前は。・・・俺は、お前の前のマスター・・・そいつの方が人間じゃねぇと思うんだ。だって、こんなにお前を追い詰めて・・・やさしくて、こんな、マスター思いの奴を・・・」


・・・あれ、やばい。俺までなんだか、涙が出てきそうだ。

何で、こいつはこんな・・・悲しい目に会っているんだ。


だけど、俺は・・・俺は、こいつを絶対そんな目に合わせたりしない。・・・絶対に。


「カイト・・・俺は絶対、お前を捨てたりしない。お前が・・・好きだからだ」

「あ・・・」


その言葉を聴いて、カイトがよりいっそう、泣いてしまった。

そして、俺の胸に、顔を埋める。


「だからさ・・・もうちょっと、心、開けよ。俺はお前の・・・家族なんだから」

「っ・・・、すた・・・」


泣き声の中、ぼそり、と聞こえた言葉。

俺はそれに驚いて、泣くカイトを見つめた。


「お前・・・今、なんて・・・?」


そう俺が言うと、カイトが少し顔を上げ、上目遣いで。


「ま、すたー・・・マスター・・・っ!!」


カイトはそう言って、また、俺の胸元に顔を埋めた。

・・・ようやく、呼んでくれたな、カイト・・・。


「カイト・・・俺のことマスターだって、ようやく認めてくれたんだな・・・」

「っ、く・・・ごめ、なさ・・・今まで、呼べなくて・・・」

「気にすんな、カイト。・・・俺、今めちゃくちゃ嬉しいから」

「おれ、も・・・嬉しいです・・・ますた・・・」


そう言って、俺に微笑むカイト。

その言葉と笑顔が嬉しくて、俺はそんなカイトの頭を、泣き止むまでずっと、ずっと撫で続けた。



     *     *     *



泣き疲れて俺の膝で眠っているカイトを見て、俺は、心から思った。


――――・・・絶対、もうこいつを悲しい目に合わせたりしない。


絶対に、守ってやる。

大切な、大事なこいつの為に、俺は。


「お前を、ずっと・・・、」



俺がそう言うと、寝ている筈のカイトが、少し微笑んだような気がした。





     *     *     *





「マスター、洗濯物終わりましたよー!」


外からカイトの声が聞こえる。

どうやら俺は、いつの間にか部屋で昼寝していたらしい。




・・・あれから、数ヶ月。

カイトは悲しい顔はしなくなり、笑顔をよく見せてくれるようになった。


それと、カイトは本当によく家事をしてくれている。

若干・・・うん、ちょっとだけ厳しいとこもあるけど。


「まだ起きてないんですか?・・・早く起きなきゃおやつ一人で食べちゃいますよー?」

「あー、分かった。ちゃんと起きてるよー」

「もう・・・ちゃんと返事をしてくれなきゃ分かりませんからね!・・・早く来て下さいマスター!」


はいはい、と返事をして、ゆっくりと俺がソファから立った時、カイトがおやつのアイスを持って、既に俺の部屋まで来ていた。

・・・よっぽど早く食べたいんだな、こいつ・・・。

えへへ、と微笑んでカイトが俺の勉強机の上に、バニラとチョコのアイスを置いた。


「遅いから、きちゃいました」

「あ、悪りぃ。ちょっと寝起き弱くてさ・・・」

「・・・嘘は駄目ですよ、マスター。何か考え事でも?」

「あ、やっぱり分かってたか。いやさ、お前が笑顔をよく見せてくれるようになって、嬉しいなー、なんて思って・・・」


そう俺が笑って言うと、カイトが顔を真っ赤にして俺から目を逸らす。


・・・ん、どうしたんだ?

最近、ちょっとおかしいような。


「カイト、何でお前、顔・・・」

「き、気のせいです!さ、アイス食べましょう、アイス!!」


俺にずいっと、アイスを差し出すカイト。

・・・あれ、これバニラ・・・カイトの好きな味の方じゃ。


「カイト、これ・・・」

「何も言わず食べて下さい。それと、こっち見ないで下さい」


あ、ひでぇ。

何でそんな事・・・?


でも何だか顔を真っ赤にして俯くカイトが少し、可愛くて。

・・・あれ?俺、可愛いと思うのが最近普通になってきているような・・・。


そう思ったら俺まで頬が熱くなってきてしまい、カイトから目を逸らしてしまった。

な、なんだこれ・・・最近の俺は、なんだかおかしい・・・。

きっとカイトが赤くなってるから、俺までそうなっているに違いない。うん、きっとそうだろう。そうに決まっている。



・・・そして、結局俺達は、アイスが溶け、カイトが大きな声を出して反応を示すまで、何も会話する事ができなかった。

なんだかカイトを見ていると最近、こうなってしまう事が多い。


―――――俺は、一体どうしちまったんだろう。







































・・・これが特別な感情だと気づくのは・・・まだ、少し先の話。



その時は、それで良かったと今は思っている。













俺とカイト、その時の二人の記憶はまだ・・・始まったばかりだったのだから。















***************************************

おわった・・・!ようやく終わりました!
「蒼い記憶」第一部の終了です。

今回、カイトの回想でむちゃくちゃ体力使いました。。

だって、あんなの かけない !!><。

カイトの扱いがあまりにもアレだったので、自分としてはとても描きづらかったのです。。
前のマスターが最低すぎるんですね、分かります。
でも、そこに気を抜いてしまうと、この話がつながらなくなってしまうので、頑張りました。
いつか、最低な前マスターと、現在の彼のカイトについてのお話も書きたいです。。
どうにか彼にも、成長してもらわないといけない気がするので。


あともうちょっと、この「蒼い記憶」は続きます。
なんといっても、マスカイですしね!マスカイ!
何とかこの二人をくっつけられるまで頑張りたいですw

ではでは、ここまで読んでくださった方、本当に有り難う御座いました!




















2008.12.16

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