皐月の日。

皐月の日。

僕の100%は君の10%。(カイ→メイ)



 どれだけ僕が好きでいても、彼女は遠いんだ。
 遠くて、それでいて僕の方がきっと、ずっと好きなんだと思う。
 恋愛的感情でも、しっかりした姉としても。

 だって、日常の中で歌以外は、めーちゃんが僕のほとんどだから。ミクもそうだけど、めーちゃんが毎日気になって、見てはどきどきしている。

 それで・・・なんで、今更こんな事を考えているかというと。

 『MEIKO』が、アンインストールされる。

 僕の、大好きで愛しているボーカロイド。

 大切な、姉。

 僕達の存在なんて、マスターには感じられない。
 だって僕達は、PCの中で生きているから。
 その生きている、っていう事、マスターには見えないんだけどね。

 それで・・・何故、アンインストールされるかだって?
 飽きたからじゃない。・・・ソフトを入れる容量が少なくなってきたから。
 僕とミクはデュエットをするからまだ、アンインストールしないらしい。

 ・・・嫌だ。めーちゃん。MEIKO。
 だって、再インストールされても、その時は記憶が消えてしまっているだろうから。
 僕とミクの記憶は、めーちゃんには残らない。残らないんだ。

 がさつだけど、優しいめーちゃん。
 僕が上手く歌えない時も、なぐさめてくれて。
 ミクだって、優しく慰めてくれて。
 ずっと、お姉ちゃんのままで。

「めーちゃん。」
「・・・何よ、カイト。」
「今だから本気で言う。大好き。めーちゃんをこの世で一番愛してるから。」
「この世って、あんた・・・この中があたし達の全てじゃない。」

 あぁ、またその顔でそんな切り替えし?
 僕はいつでも本気なのに。めーちゃんが好きなのに。
 ・・・今回こそ、受け入れてもらえると思ったのにな。

「・・・酷いや。やっぱ、本気の言葉をあいまいにしちゃうんだね、めーちゃんは。」
「はいはい。わかってるわよ」

 ・・・ずるいよ、めーちゃん。
 何で目を逸らすの?・・・ちゃんと、見てよ。あとちょっとなんだから。
 あとちょっとで、めーちゃんはアンインストールされるんだから。
 でも、めーちゃんは自分の事じゃない。僕達のこれからの幸せを願う。
 ずっとしっかりとした目で、僕を見つめる。どきどきする筈が、全然どきどきしない。今はただ、怖い。

 声を紡がないで。分かってるから。・・・めーちゃん。
 めーちゃんが言わなくても、言わなくてもっ・・・!

「・・・あたしがアンインストールされたら、」

 待って。嫌だ、めーちゃんから言わないで。
 嫌だ。嫌だ嫌だっ!戻れなくなる・・・!!

「あたしの事はちゃんと忘れ―――」
「っ、なんで・・・?嫌だよめーちゃん。・・・メイコ!」

 僕は、めーちゃんの言葉が聞こえないように、耳をふさぐ。
 その耳をふさいだ手を、めーちゃんは優しく取った。
 そして、優しい笑顔で非情に、続ける。

「嫌だなんて言わないの。・・・私たちは、データの集合よ。マスターの意思で、簡単に消えてしまうの。感情も、思いも全部。」
「僕は・・・僕はアンインストールされても、めーちゃんの事、忘れない・・・!」
「忘れるわ。・・・どんな感情があっても。」
「忘れないよ!絶対、忘れない・・・!!」
「・・・・・・我侭な弟ね。ほんと、しょうがないんだから。」

 めーちゃんが、僕の頭を撫でる。
 がしがし、っていういつもの撫で方じゃなくて、本当に優しい撫で方。

「・・・っ、く、めーちゃん、卑怯だよ・・・・」
「泣かないの。・・・そろそろ、時間ね。」
「っ、もう?!嫌だ、嫌だよ!マスター止めてっ・・・!!」
「画面の向こうに叫んでも、届かないわ。もう、作業、始めてるもの。」

 めーちゃんはそう言って微笑む。
 僕にとって、本当に非情な微笑みだった。
 いつもの、大好きな笑顔。・・・今はただ、それが辛かった。

「ちゃんとミク、大事にしてあげなさいね?」
「めーちゃん、めーちゃんっ・・・!!」

 泣く僕に、めーちゃんが軽いキスをしてきた。
 そして、消えてゆく体を支えるかの様に、僕をぎゅっと強く抱きしめる。

「・・・ねぇ、カイト。あたし、これでもあんたの事、ちゃんと好きだったのよ?」

 めーちゃんが、きえてく。

「あんたは本気じゃないと思っていたんだろうけど、好きだったんだからね。」

 そう言ってめーちゃんは、気丈に微笑む。
 やめて・・・・めーちゃん・・・めーちゃん・・・!

「多分、あんた、あたしの事忘れないでしょうね。」

 震える手でめーちゃんを、ぎゅ、と抱きしめ返す。
 あったかい。でも、どんどん、それがきえてく。
 僕の大好きな赤い・・・淡い、光になってく。

「でも、できる限り忘れて、ボーカロイドとして歌って。・・・そうじゃないと、あたしも、辛いから。」
「めーちゃん・・・っ、」

「大好きよカイト。―――――」

 赤い光が、僕の目の前を埋める。
 大好きだった、彼女であった光。

 ・・・目の前には、めーちゃんが居なかった。

「メイコ・・・」

 僕はそれを抱きしめて、一人呟く。

「メイコの、うそつき。」


 僕が、どれだけめーちゃんの事が好きだったか、分かる?
 めーちゃんの好きが、僕のどれだけだか、分かる?


「たった、10%にも満たないよ・・・」


 ・・・大好きなめーちゃん。どんな仕草も、大切だった。
 大切で、大切すぎて。
 最後のキスが、遠くて。


「・・・非情すぎるんだ・・・・」



 最後に、あんな、・・・。

 ・・・あんな、優しいキスをして。



「大好きだよ、めーちゃん。」




 消えてゆく光を、また、抱きしめる。

 ゆっくりと光る、赤色。

 めーちゃんの、色。









 ――――泣きながら抱きしめて、その中でまた、消える光を見た。

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