皐月の日。

皐月の日。

まるで雪のように溶けてしまいそうな。



「それでも良い!」という方は、スクロールでどぞーw





































































































 はぁはぁ、と寒い中息を切らせて、1人、ショートカットの青髪の子が走ってゆく。
 とても華奢で、か弱く小さい女の子に見えるその子。その子は、髪の色より少し薄い青色をしたマフラーをなびかせ、駅へと足を急がせていた。

 ―――今日は、めーくんが早く帰ってくる日。うれしい。

 彼女は、兄であるメイトに恋をしていた。かなう筈もない、と分かっている恋。でも好きなものは止められなかった。
 ・・・早く会いたい。その感情だけが、彼女を急がせる。

 大分走って、カイコは駅の前までようやく辿り着く。
 目の前に見えるのは、愛おしかった濃い茶色い髪の毛に、赤いコート。
「めーくん!」
 彼女は息を切らせたまま彼に走り寄り、ぎゅ、と飛びつくように抱擁をする。
 メイトの顔が少し、朱に染まった。
「カイコ・・・こんな走って、どうしたんだ?」
「あはは・・・めーくんに早く会いたくて、間に合うようにきちゃいました。」
 そう言って少し舌を出すカイコ。その愛らしい妹の姿に、メイトは少しときめく自分を感じる。
 そして、そんな自分に苦笑をしてしまう。
 ・・・いつかはきっと兄離れしてしまう。そんな妹を歪んだ感情で愛おしく思う自分に、少し嫌気が差す。
 ―――カイコは純粋だ。ただ純粋に、自分を慕ってくれている。
 それなのにこんな思いが胸にある自分が、とても厭らしいものに感じられた。
「めーくん、どうしたの?」
「いや・・・じゃあ、帰るか。」
「うん!」
 2人は白い息を吐きながら、並んで家に歩き出す。
 帰れば暖かいご飯と共に、ミクオ、レン、リンが待っている。
 ・・・でも、カイコはまだ帰りたくは無かった。
 帰れば、二人きりの時間が無くなってしまうからだ。
 大好きな家族。暖かくて、幸せな家族。
 しかし彼女はそれでも、どうしてもメイトの事を一番に考えてしまう。
 厭な子だな、と彼女は自ら思うのだが・・・どうやっても感情を止めることはできなかった。
「寒いね、めーくん。」
「・・・そうだな。雪でも降りそうだ。」
 メイトが空を見上げているのを見てカイコが空を見上げてみると、それは見ているものが濁ったかのように曇っていた。
「本当だ。・・・早く、帰りたい?」
 はっ、と気がつくとそれは、決して言ってはいけないような言葉のような気がした。これを言ってしまったら、きっと、帰るのが早くなってしまう。
 カイコはそう言ってしまった自分を憎んだ。言わなければよかったのに、と。
 自分にきっと異性としての興味を持たないであろう兄は、雪に降られないようにと、きっと気遣うと思っていた。
 でも彼からの言葉は、予想もしなかった言葉だった。

「雪、降ってもいいから・・・カイコともっと長い間、歩きたいな。」

「・・・え、?」
 妹の反応を見て、メイトが自分の言っていた事にはっとなる。
 カイコ、・・・妹にこんな事を言ってしまった。これじゃ、まるで・・・・
「なんだか、恋人同士みたい。そう、帰り道を歩いてて・・・互いにもうすぐ分かれる道、って、感じの・・・・」
 後半の言葉をが、だんだん小さな声になってゆく。言いながらカイコの顔は、真っ赤に染まっていた。
 釣られてメイトの顔もだんだん赤く染まってゆく。
「・・・さ、寒いから真っ赤、なんだよ?私・・・・・」
「俺も・・・寒いから。」
 二人は何故かとても恥ずかしくなり、互いに顔を背ける。
 甘い雰囲気。この二人は互いが好きあっているという事にまだ気がつかない。
 しかし、今流れている雰囲気は明らかに恋人同士の甘いものだった。

 ―――もしかしたら今、これぐらいはしてもらえるかもしれない。
 カイコは意を決して、どきどきする胸の高鳴りを必死に押さえながら、メイトに話しかける。

「・・・・めーくん、手、繋いで良い?」

 カイコに赤くなった頬で、上目遣いでそう言われたメイト。それに嫌でもときめいてしまう彼が、そこにはいた。
「別に、いいけど。」
 彼にとってそれが照れ隠しなのか、そっけない返事だった。
 しかしカイコは、それが嬉しくて仕方がなかった。こんな年で兄と手を握りあえるという事は、絶対にできないと思っていたからだ。
「じゃあ、手。」
「う、うん・・・・・」
 ぎゅ、と互いに手を握り合う。
 その繋いだ手から二人は、自分の心臓の音が伝わっていないか心配する程に、どきどきしていた。
 ・・・大好きな相手との、手を繋いで帰る帰り道。
 それで胸が高鳴らない人は果たして居るのだろうか。
「めーくんの手、あったかい。」
「カイコこそ。・・・凄い、熱すぎるぐらい暖かい。」
 そんな他愛のない会話が、二人にとって寒いけれど、確かに暖かい時間で。

 ぎゅ、と笑って手を握りあう、帰り道。
 切ないような、苦しいような幸せを胸に、二人は歩く。

 ―――・・・いつか、両思いになれると良いな。自分の夢でも、いつか。

 そんな願いを胸に秘め、カイコはメイトと繋いだ手を、もっと強く握りしめた。

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