皐月の日。

皐月の日。

無題SSS 2(マス→イチ→ゼロ)



俺とは違うから、反応なんて、絶対に示してやらない。



     *     *     *



「・・・イチ」


ぐっすりと眠っているイチを、ゆさゆさと揺さぶる。

どうしていつも、こいつはこうなんだ。


「・・・イチ、起きろって」


イチは朝に弱い。とにかく弱い。

俺が起こさないと、いつまでも布団に入ってる。


・・・寝顔が可愛いから、見てる分には良いんだけど。


「んにゃ・・・ぜろ・・・?」

「あぁ、ゼロだ。だから、起きろ」

「あーい・・・」


眠そうに目を擦って、イチが目を覚ます。


起きたばかりで髪はぐしゃぐしゃ。

そして、眉毛が眠たげに下がっている。


「イチ、ご飯できてるから・・・マスターと先に一緒に食べてるぞ?」

「ん、わかった。すぐ仕度して行くからねー」


俺がドアを開けて出て行こうとした時、部屋の向こうでイチがまだ眠たげに、こちらに手を振っているのが見えた。


・・・それでかわいい、なんて。


あんなに髪の毛ぼさぼさで眠たげで。

魅力的、って思うなんて、俺は馬鹿か。


俺は赤くなった顔を見せない様に、早々にそこから去っていった。



     *     *     *


朝ごはんを作るのは俺の役目。朝に弱いイチを思っての事だろう、マスターはイチに朝ごはんを作らせようとはしない。


それで、今日のメニューは目玉焼き、ほうれん草のバター炒め、大根とその葉っぱの味噌汁。

あとは、白飯。マスターがパン好きじゃないから、いつも白飯だ。


「ゼロ、醤油取ってくれ」

「はい、マスター」

「ゼロー、僕にも塩とってー」

「分かったよ」


・・・いつもの食事風景。

まだ眠たげなイチと、早食いのマスター。

マスターはご飯を食べて早々に出かけてしまう。

食べ終わって、たまにマスターに「ゼロの作る飯は美味いな」と言って撫でられると、何だか嬉しくなる。


・・・キャラに合わない、ってのは思ってるけど。



     *     *     *



ちなみにマスターが曲を作るのはいつも、仕事から帰ってきてからだ。

それまではイチと俺の二人で、一緒に歌の練習やら家事やらをしている。


家事が終わり、歌の練習の休憩中の事だった。


「・・・ぜろ」

「ん、・・・何だ、イチ?」

「このフレーズ、今さっきちょっと早かった」


イチの指差した五線譜に目を向けると、確かにそこの部分が遅れていた事が分かった。


「ん、あぁ・・・悪いな、イチ」

「んーん、気にしないで。ゼロはこういうの珍しいから、気になっただけ」


―――それは、イチがずっとこっちを見てて気になったから。


・・・なんて事は言えず、俺は「何でもない」とイチから目を逸らした。


ぼーっと、歌っている最中にこっちを見つめてきた、イチ。

そんなに見られると、誤解をしてしまう。


―――イチが本当に俺を、 『好き』 だって事。


誤解をしてはいけない。綺麗なイチがそんな事を思うはずが無い。


・・・なのに。


「・・・ゼロ」


何度も、問いかけてくる。


「・・・・・。何だ、イチ?」


まるで・・・俺を試すかのごとく。


「ゼロ、僕、ゼロのこと『すき』だよ」


『ソレ』が、同じ訳が無いんだ。

その『すき』はきっと、『好き』じゃ、ないから。


「俺もすきだよ」


俺は、イチへの感情を殺す。

イチには、綺麗なままでいて欲しいから。

・・・だから。


俺はイチから自分を・・・気持ちを背けて呟くしかなかった。


「・・・俺も『好き』だよ、イチ」








気持ちが伝わらなくて、痛い。

でも自分で伝えられない、ジレンマ。


・・・俺はただ、『ソレ』が言いたいだけなのに。













                             『イチ、あいしてる。』

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