皐月の日。

皐月の日。

「過去」への服従 中編(クレヴィル風味)









あいつらを守りたい。


でも、あいつに服従することだけは―――――














――――『私』のプライドが、許さない――――












     *     *     *




―――ちょうど、昼ごろのことだった。


俺がぼーっと外を見ていると、後ろから声がする。

その、声のした方に・・・後ろに振り向いてみるとジャックがそこには座っていた。



「なぁ、クレイス」


「ん?何だ?」


「最近・・・デパートから帰ってからずっと、ヴィルの様子がおかしいって思わないか?」



――――あぁ、そういえば。

ずっと、何かを悩んでいるような顔をしているなとは思った。


・・・でもあいつはそういうことを聞かれるのを嫌がりそうだしな・・・。

向こう―――今は滅びてしまった俺たちの世界にいた時でもヴィルは過去を語ろうとはしなかったから。


「どうにかしてあげられないかな・・・」


「ん、そうだな・・・優しいな、ジャックは」



―――何かしてあげられないか、か。

俺らがあいつにしてやれる事は、一体何なのだろう。


前も、あの世界が壊れるときにもあいつが守ってくれたのに。



俺・・・俺たちは何もしてやれていない―――――




「・・・おっし、何かあいつを励ませるように努力してみっか」


「クレイス・・・!じゃあ俺、どうしたら良いかな?」


「とりあえず、俺がヴィルんとこに行ってくるから。そしたら何か行動をしよう」


「わかった・・・クレイス、頼んで良い?」


「勿論。ジャックは待ってろよ?」


「わかった」


俺は家を出て行くときに見送ってくれたジャックの髪をくしゃ、と撫で、外に出て行ったヴィルを、探す事にした。



     *     *     *



―――夜に近づいてきた、町。

其れを俺は高台から見下ろしながらまた、あの事を考えていた。



―――――もし、お前が僕の「ドレイ」になるならば・・・お前の大切なジャックとやらには手を出さないでいてやろう―――――




「あと、2日、か・・・」


あいつの、奴隷になるか。

ジャックとクレイスを見捨てるか。


「・・・くそっ」


俺は、あいつらが守りたいんだ。

・・・でも、あいつの奴隷になんて、なりたく、ない・・・。


「どうすれば良いんだろう」




わからない。


誰か、たすけてほしい。


たすけたいきもち。


虐げられる怖さ。



「・・・っ」



もう、どうすれば良いか、分からない。


誰か、助けて・・・。





「・・・ヴィル?ここにいたのか?」




聞きなれた声がしたと思ったら、そこにはクレイスが立っていた。


―――妙に、安心する・・・。

クレイス、こいつが近くにいるだけで。


「あー・・・昔、こういう場所に来た事あったっけ。あの時は楽しかったなぁ・・・」


「・・・クレイス・・・」


「ん?どうした、ヴィル?」



ただ、こいつは隣に居るだけなのに。


如何して、こんなに安心するのだろう――――


「・・・っ」

「大丈夫か?」

「だい、じょうぶ・・・」


こいつは、暖かい。

ここで、ただ、いてくれるだけで・・・。



ジャックもきっと、こいつに照らされたからあんなに明るく―――



「・・・ヴィル、本当に大丈夫か?涙出てるぞ?」

「え・・・?」


・・・本当だ。

いつの間に、泣いていたんだろう。

こいつがそばにいたから・・・?


―――こいつが、暖かすぎたから・・・?


「あ、・・・俺は」

「・・・何があったんだ?俺に、俺に言えることだったら聞いてやるから」



笑顔でそう言ってくれるクレイス。


―――昔から、全然喋らなかった悩み事。

それを、こいつになら喋っても良いような、そんな気になってしまった。






     *     *     *




「・・・クレイス達、遅い・・・」



―――そんなに遅くならないかと思ったら、もう夜だ。

少し、不安になる。


「クレイスとヴィル・・・何かあったのかな」



何か、事故に巻き込まれたり、していないだろうか。


俺は、一人にされないだろうか・・・。



「・・・大丈夫、大丈夫だ」



ふたりとも、きっと。


きっと、かえってくるから。



「クレイス、ヴィル――――――」








『・・・あぁ、この家か』





二人が帰ってくるように、そう願っていたら窓の外に。


黒い、人影が写った――――







     *     *     *





「・・・そっか、後二日―――」



そっか、ヴィルにそんな事が・・・。

呪縛をかけた奴に、『奴隷』になれ、って―――


「俺は、お前たちを守りたい」


そう言うヴィルの顔はあの時・・・俺たちを守ってくれた顔そのもので。

泣いている顔が無かったかのように、引き締まった表情をしている。


―――ヴィルは、何でも抱えすぎなんだ。



・・・この顔だって、きっと強がり。



「守りたい、って・・・お前、迷っているんじゃないのか?」


「迷ってた。でも、今は違う・・・俺はお前たちを守りたいから」

そういうヴィルの顔は真剣だ。



――――でも。



「守りたいから、って・・・俺たちも、お前を守りたいんだけどな」



ただ、守られるだけじゃなくて。


今度は、俺とジャックがお前を守りたいんだ。



―――――――抱え込んでばかりのお前を。

俺たちを守ってばかりの、お前を。



「・・・俺たちが一緒に、その極卒って奴の所まで行ってやる」



そう言ってぽんぽん、と頭を撫でてやると強がっていたヴィルの顔が崩れて、目に涙が浮かぶ。



「・・・馬っ、鹿・・・俺は、俺は・・・」


「わかったわかった。・・・今は泣いて、そんでまた笑えば良いさ」



涙を今にもこぼしそうなヴィルが、俺に抱きついてくる。

自分の泣き顔を見られたくないのだろうか。


「・・・っあり、がとう・・・」


ぽんぽん、とヴィルの頭を撫でてやると、ヴィルがもっと強く ぎゅ、と俺に抱きついてきた。

―――こうやってしていると、こいつは本当に子供に見える。


・・・小さくて、年相応に見える、こども。


こいつにも、こんな顔ができるのか。



「っく・・・ありがと、う・・・」



その涙に濡れた声を俺は、強く、強く、抱きしめた――――





     *     *     *





――――俺たちが遅くなって、ジャックは心配していないだろうか。



そんな事を思いながら、俺たちは道を歩く。

俺たち自身がジャックを気にしながら。



「・・・クレイス、ジャックはやはり心配しているだろうか」


「まー・・・あいつだし、心配してるんじゃないかな」


「じゃあ早く帰らないと・・・」



―――ジャックをそんなに、心配させるわけにはいかない。


俺たちは、ジャックを安心させてやるために速い足を、さらに速くさせる。



・・・それに、なにか、何か変な胸騒ぎがするから。



「急ごう、クレイス」

「あぁ、そうだな」



そしてちょうど、俺たちが走り出したときだった。






『やはり此れがジャックか』





はっと思い、上を見ると・・・あいつが、空に浮かんでいた。



そう、あの・・・極卒。

―――――腕に、気絶したジャックを抱えた。



「ヴィル。さぁ、答えは出せたか・・・?」


極卒は不敵に微笑み、俺を見下すような目で見る。

俺に、断る権利など無いように。


・・・答えは、1週間後だと言ったのにっ・・・!


「待て極卒っ!卑怯だぞ・・・ジャックを放せ!!」


「ん?・・・誰が人質を取らないと言ったか? あくまで『期限』は一週間。人質を取らない。・・・そんなことは一言も言っていない」



・・・なん、て。

なんて、卑怯な・・・!!!


俺はこの憎い、極卒を睨みつけた。

極卒はそんな俺を見て、尚、笑い続ける。


「その表情、良いな・・・あぁ、そうだ。お前が今此処で答えを出せないならこいつは僕が貰ってゆく。期限のあと二日・・・このジャックとやらは人質だ」

そんな勝手な極卒に、クレイスも顔を怒りに変える。


「極、卒っ・・・!!!!」

「クレイスとやら。ジャックを助けたいなら・・・そのヴィルを僕に売ると良い。そうすればこいつは置いていってやろう」

「そんなこと、できるか!!」

そう、即答で言ってくれたクレイスに少し安心しながらも、俺は極卒に抱えられたジャックのことを思い、唇を噛む。


「・・・では、今は答えが出せないという結論でこいつは貰っていこう。期限・・・あと二日後に、僕の軍へと来い。軍へと来る道は、弟である刻卒が開けてくれる筈だ」

「っ待て!待て極卒!!俺は・・・!」


俺の言葉など聴かずに、すぅ、と極卒は消えてゆく。

そいつを捕まえようといくら手をのばしても、届かなかった。






「ジャックーーーーーーーッッ!!!!!」












―――其れを捕まえようと 大きく云った叫びは空しく、あたりに散らばって・・・消えた。













**********************
ついに中編更新で す ・・・!!
中編までの間にこの時期よく来るスランプに襲われ大変でした・・・^^;

さて、今回の話ですが。

なんとなく今回は黒ジャクヴィル臭かったですね。。私はそのCPも好きなので良いのですが ><
ついにヴィルは心を開いて、クレイスに悩みを話してくれました。
やったね、クレイス。
ヴィルは物凄く難しい子なので、扱いが大変なのです。
でもクレイス兄さんは暖かい(ヴィルとジャックにのみ←)のでついにヴィルの心を溶かしました。
・・・いや、今回はそれを書くのが目標でしたので。
自分でも途中で「あ、この方が良いな」ということを入れつつ楽しく書いていました。
そのおかげですごく時間はかかりましたが(汗)

ではでは、まとまっていないですが今回のあとがきはこのへんでっ・・・!

待っていてくださった方に、全力で捧げます。

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