皐月の日。

皐月の日。

「過去」への服従 後編(黒ジャ+ヴィル





あのとき。

あのとき、俺はどうすればよかったんだろう―――――






     *     *     *



「畜生!・・・ジャック・・・!!」

「・・・ジャック・・・」


家に帰ってきた俺達は、家のソファにどさりと座り込む。

さらわれた、ジャックのことを思って。


――――本当にどこまでも、卑怯な奴だ・・・!

ジャックをさらうだなんて、どれほど!


・・・それとも、本当に俺が行けばよかったのか・・・?

ジャックもそうすれば、あんなことにならずにすんだのでは・・・?


「・・・俺は・・・」

「ヴィル、お前が気に病む必要はねぇぞ。・・・悪いのは、あの極卒だけだ」

「でも、俺はあの時死ぬはずだった。だから、元々無いはずだった命なんて」

「ヴィル!!」


クレイスが、ソファの前に有るテーブルを叩きつける。

・・・クレイスが、怒っている?

でも、本当にこの命は、もう――――



「お前、もっと自分を大切にしろよ!俺は・・・そんなお前を見てると、何だか・・・」


―――何だか、悲しくなってくる。

だって、お前の命はお前のだし。

俺達を守ってくれた時だって、お前は死ぬつもりで。



そんな、お前を見ていると。




「俺は・・・お前にもジャックにも生きていて欲しい!!」


・・・クレイス・・・?

お前は、俺に・・・そんな言葉をかけてくれるのか・・・?

過去、あんな大罪を犯した・・・俺、に?



「生きていて欲しいんだよ」

―――――お前と一緒に俺も、生きるから。


そう言ってくれるクレイスがまた、暖かくて。

俺は、また縋るようにクレイスに抱きついた。




     *     *     *




――――・・・真夜中、ヴィルが泣きつかれた後。

ヴィルは俺から離れ、ソファに倒れて窓の外を見ていた。



「・・・クレイス・・・」


ふっと、そのヴィルヘルムから声が発せられて、俺はその声に耳を傾ける。


「どうした?ヴィル・・・」

「ジャックが、何故昔・・・子供の頃の『キオク』が無かったと思う?」


そんなの、簡単だ。

だってジャックは、お前が拾ったんじゃないか。

それぐらい、前にお前から話されたし。


「えー・・・たしか、昔ジャックが木から落ちて・・・」


たしか、これだったはず。

ジャックが無邪気に、12歳ごろだっけ・・・木に登っていた時に頭から落ちて。

それで、『キオク』がなかったんじゃ・・・。


・・・けれど、ヴィルの口から発せられた言葉は、其れとは違っていた。



「嘘だ」



――――――・・・え?

何で、そんな。


「嘘って・・・お前、だってそう言って」

「ジャックは元々、此処の世界で生まれ、育った」


――――――――俺も。




そしてヴィルは、昔の事を語り始める。

・・・静かに、ゆっくりと息を吐いて。






     *     *     *






『我らが組織の為に・・・』





あの時の俺は・・・「大罪」を犯してしまった罪に、まだ囚われていた。


俺の強い「チカラ」で・・・身内を殺し、友達を殺し、家族を殺し・・・結局其処にいた全員を殺してしまったという惨事。

残ったのは、コルター・・・たった一人だった。

あぁ、その俺の弟コルは・・・今俺の作った空間に居る。

あんなにつらい目にはあわせたくないから、な。


その惨事の後に俺は、ロキと出会った。


ロキに、「チカラ」を制御するペンダントを貰ったんだ。

・・・勿論、対価はついたが。


俺はその後・・・この世界を回り、疲れ・・・砂漠で倒れてしまった。

そこで、組織に連れて行かれたんだ。



それからは、「上司」という立場に来るために、さまざまな事をした。

人も沢山殺し・・・その拾った、どうしようもない奴も殺した。

そして、その「さまざま」の中に・・・俺とジャックの出会いは含まれる。




『お前は、組織に役立つような素材を連れてくるんだ』




その時、まだ生きていた・・・俺を拾った奴に命令され、俺はこの世界に来た。

その時見つけたのが・・・とある青年。

名前も知らない青年の、巧みな生き残る技に、俺は、体が震えるようだった。


そして俺は、そいつを連れて帰った。


妻も、子供もいたんだろう。そいつは、激しく抵抗をした。

・・・たしか、「妙」と叫んでいた気がする。




『お前が良い働きをしたら、帰してやる』




その後、青年は生き残り・・・家族にまた会うために沢山働いた。

「死んでは困る」という理由でそいつのコピーも作られた。

其れが、お前も知っている通り、アーミィを追いかけている『ゼロ』。


そして彼がこちらに来てから、十年程がたとうとしているとき。


そのときはもうあいつは殺していたから・・・その、俺より上の立場の奴。

その青年の年を若返らせろという命令が下った。


・・・俺はもう、彼を帰すつもりだったのに。


何故か、と聞くと・・・奴は「これ以上こいつに年を取らせると、身体能力が落ちてゆくから」。

無情にもそう、言ってきた。

あいつらは、帰す気なんて無かったんだ。

・・・決して。


俺はその後、馴染みのロキの店に行って・・・命令どおり、「オフィーリアの時の砂」を購入した。

その時ロキは、俺にこう尋ねてきた。


『これで良いのか?お前』

『・・・何がだ、魔女?』

『お前はあいつをあっちに返したかったんだろう?これはお前の意思に反している事だ』

『・・・構わない。私は・・・組織のために動いている』

『・・・・・・なら、私は何も言わん』



ロキが俺に背を向ける。

その背中も、何かを尋ねてくる様で。



『ありがとう・・・ロキ』




俺はその背中を見つつ、組織へと戻っていった。




     *     *     *



――――俺は、自分の持ってきた『時の砂』を、俺に命令をしてきた上司に渡す。

それが過ちだったとしても、其れは気にしないようにして。



『それが、こいつの時を戻す物か』

『はい・・・でも、私は・・・少し疑問があります』

『何だ、ヴィルヘルム。言うなら早く言え』

『・・・あの青年を、あの「セカイ」に帰すという約束は・・・』


私は、だからあの青年をかえさなかったのに。

いつか戻してやれると信じて。


でも、やはりその時も私の上司の答えは一つだった。




『あいつを帰すつもりは無かったと言っただろう。何回同じ質問をするつもりだ』


予想通りの、答え。

私はそれでも、私の上司に食らいつく。



『・・・ッしかし!』

『ヴィルヘルム。これ以上この私にたてつくと、処分を下すぞ』

『―――――ッ!!!!』


これ以上は、無駄だと判ってしまった。

私は・・・無力だ・・・。



――――・・・あぁ。

私は、あの青年の運命を・・・どれほど捻じ曲げてしまったのか。

私があの時連れて帰らなければ、きっと、彼は生き残り・・・家に帰れたのだろう。




―――そして、私が「時の砂」を使うとき、やはりまた青年は抵抗をしていた。

あの時のように、激しく。

泣きながら、『帰りたい』と言いながら。

「時の砂」をかけられても、彼は抵抗を続け。

ひたすらに、家族の名を・・・叫び続けていた。



『すまない』



いくら謝っても、本物の「彼」が帰ってくる訳が無いのに。



『私は・・・お前の運命を捻じ曲げてしまった』



彼が、子供の体へと変化してゆく。

其れと共に、真っ黒な髪の色が・・・白く染まってゆく。

きっと、彼の中の「キオク」も、消えていっている。


沢山の、思い出と。

大切な・・・家族の存在が。



『きっと、何度謝っても・・・何をしても償いきれない』



それでも、私は言う。

この「少年」に伝わっていないと判っていても。





『本当に、本当に・・・すまない・・・』


―――ごめんなさい。

私は・・・・あの、「僕」の時のように謝る。

皆を殺してしまい・・・ごめん、ごめんなさい と呟いたように。



たとえ、其れが伝わっていないと・・・判っていても。







     *     *     *






――――ヴィルがジャックの事について喋った後。

少しの間、部屋が静寂で満ちる。

恐ろしいまでの、静寂。


事実を聞き、何も喋らない、俺。

そんな静寂を破ったのは、やはりヴィルだった。



「俺は・・・あの後子供のジャックを、暗殺の任務ができるようになるまで成長させた」

「・・・・・・」

「一つでも、罪の償いがしたかったんだ」


窓の外を見るヴィルの顔は、きっと寂しげなのだろう。

小さな後ろ姿で、それが判った。


「ヴィル、お前」

「『私』は・・・まだ許されたいのかもしれないな」


・・・私。

ヴィルが、俺達の上司であるときに使っていた一人称だ。

慣れてきて、ようやく『俺』っていう一人称を使うようになったんだっけな。



「『私』は許されてはいけないことをしてしまったと言うのに」


ヴィルの後ろ姿が、震える。

あまりにも多くの罪を背負って・・・こいつは。


・・・こいつは、歩いてきたんだ・・・。



「・・・なぁ、ヴィル。だったら俺も許されちゃいけないんだぜ?」

「え・・・何故?」

「だって俺も『ヒトゴロシ』だからな」


組織の命令で・・・何度も、何度も。

何百人も・・・何千人も殺してきたんだ。


「だから俺も、お前と変わらないよ」


罪は、一緒に背負おう。

きっと・・・償ってゆけるよ。

俺と、ジャックと・・・お前となら。



「俺は、お前のことが好きだぜ?」



ヴィルが、びっくりした表情でこちらを向く。

目に涙を溜めながら。



―――ジャックの事も、お前の事も。

全部うけとめてやるよ。

こんな俺で良いのなら、俺が。



「クレイス・・・お前」

「だからさ、塞ぎこむなよもう」

「・・・・・・」

「俺は、いつでもお前とジャックの味方だ」


俺たち以外の全てが敵になっても、支えてやるからさ。

ずっと側にいるよ。


「いいの、か・・・?」

「あぁ。ずっと側にいるよ・・・俺が生きている間は、ずっとな」

「・・・うん・・・ありがとう、クレイス・・・」

ヴィルヘルムの顔に、少しの笑顔が零れた。

――――よかった。

でも、これだけは忠告しなければならない。

そういう存在だから、こそ。

「・・・甘えすぎるのも駄目だぞ。だからこそ俺達は、生きなけりゃならないんだから」


どんだけ辛くても、生きる事。

それが俺達と・・・お前の償いにもなるんだから。

その、失った人たちの分まで、俺達の分まで生きてくれ。

俺は無責任かもしんないけどさ、でも、それはヴィルにしか出来ないことだから。


「・・・だから・・・俺達が居なくなっても自ら死ぬなんてこと、するんじゃない。判ったか?」

「判った。きっと、約束は守ってみせるから」

「おぅ。俺とお前との約束だ」


ぱん、と俺とヴィルが手と手を合わせて・・・約束を交わした。

昔よりも強くなった、結束。

其れはきっと、未来へと続いてゆく、大切なものだ。


「俺はお前に会えて・・・本当に良かった」

「あぁ、俺もだよ。ヴィル」


そして俺達は未来へと足を踏み出すことを決めた。

歩みだして、きっと俺達なら・・・どこまでも行ける。

俺とジャックと、ヴィル・・・お前となら。


・・・その為にはまず・・・あの獄卒からジャックを取り戻さなくては。

そうしなければ、ジャックも進めない。


――――真実を知る事もできない。




「明日・・・明日、ジャックを助けに行こう。クレイス」

「あぁ。俺達は、あいつを助けなきゃいけない」










―――――だから、俺達は明日に・・・真っ直ぐに手を伸ばした。

決して逃げずに、真っ直ぐと。











・・・俺達の、未来を目指して。









*****************************
『「過去」への服従』、ついに終了でございます。

次はついに、「過去」シリーズの最終話ですよー!

極ヴィル要素をもさもさかきたいです。

だってこの回は・・・改めてヴィルとクレイスの間に、大きな友情と、愛情が生まれた回ですからッ・・・!

きっと今、クレイスはジャック並ではありませんが←
ヴィルのことを好きになっているのでしょうね^^

黒ジャクヴィルっぽいなぁ・・・^^; 本人、友情のつもりです。


でも かっぷりんぐかきたい←


この話が終わったら、次は極卒くんのお話か、『妙』とジャックとおんなのこのお話、そして、極ヴィルお題を書きたいです。
・・・え?何故『妙』とおんなのこジャックとその3人なのですかって?

それは、後で設定を加えますので、それをお楽しみにしていてください^^


ではでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございましたー!

またちまちま書いてゆきますので、遅くなってしまったら申し訳ないのですけれどもッ 汗

気長に次をお待ちくださいー! 次は最終話ですよ^^

気合いをいれないと・・・!

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