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皐月の日。
~零~ (ちびヴィル兄弟+シャルロッテ)
血だまりの中から、声がした。
「あにさま、あにさま」
あぁそうか、この声は・・・コルターか。
お前は、どうして・・・?
「これからはずっと、ずっと―――――」
~零~ ――すべての始まりは――
* * *
「ヴィル・・・ム・・・ヴィルヘルムっ!」
上から、聞き覚えのある声が耳に、頭に降り注ぐように響く。
明るい、太陽みたいな声。
「う、ん・・・?」
もう少し、まどろんでいたい・・・。
けれどそんな願いは、彼女には届かなかったらしく。
「起きてっ!」
「・・・っ?!」
耳元でその明るい声で叫ばれ、僕はびっくりして飛び起きる。
「ようやく起きてくれた」
心臓がばくばく言っている僕に対し、満足げな彼女は、
「ずっと寝ているつもりだったんでしょ?」
と誇らしげに胸を張り出した。
――――しかたないなぁ・・・。
それが彼女なんだから、本当に仕方ないんだ。
明るくて太陽みたいに、眩しい。
「シャルロットは本当に、太陽みたいだね」
そんな彼女が、僕は大好きだった。
* * *
「あにさま、最近、シャルさんとしゃべってばかり」
夜、風呂から出てきた僕に対して、不機嫌そうにコルターが頬を膨らます。
「コルも、誰か友達を作れば良いんじゃないのか?」
「嫌。あにさまとずっとふたりで一緒にいたい」
「・・・コル・・・」
はぁ、と僕がため息をつくとコルがさらにむすっとした顔をする。
「あにさま、シャルさんが来て、変わっちゃった」
だってずっと、シャルさんと出会うまではぼくに構っていてくれたのに。
コルターはそうぶつぶつと呟き、ベッドに潜る。
「ごめん、コルター」
僕はコルターの頭をまでながら、まだ風呂から出たての暖かい体を布団へと潜らせる。
――――・・・本当に今、僕は幸せだと思う。
そう、シャルに出会ってからの僕は・・・本当に。
「・・・シャル・・・」
彼女と友達になれて、本当に良かった。
・・・居なければ、きっと、今の、僕は――――
* * *
『ヴィルヘルム! 今日の学び事はまだすんでいないでしょう!』
『すみません・・・母上・・・』
『いつもならちゃんとやっているでしょう? さぁ、今日も早く』
僕は、とある名家の息子として生まれてきた。
大人に道具とされるため。
屋敷に閉じ込められて育ってきたんだ。
その時僕は、そんなこれからの人生に違和感を覚えていた。
これで僕は、本当に良いのかな。
これで、本当に・・・。
その日は勉強とピアノ、バイオリンの稽古が終わった直後、後ろにどん、とぶつかる感覚が有った。
『あにさまっ!』
『ん、どうしたんだいコル?』
僕の昔の生活で唯一の救いは、弟のコルターだった。
コルは、本当に僕によくなついてくれて。
本当に、それだけが嬉しかったんだ。
そして前に回ってきた今日のコルターの手には、一つの包みが有った。
『使用人さんからもらってきたの!』
開けてみると、甘くて美味しそうな香りを放つクッキーが何枚か重なっているのが見える。
『あにさま、一緒に食べよう?』
『うん、そうだね。有難うコルター』
コルが差し出したクッキーを食べると、ふわりとしたバニラの風味と、甘くてさくさくとした食感が口の中に広がった。
『・・・美味しい』
コルがくれたから尚、美味しいのだろうか。
『よかった!じゃあぼくも早く食べよ・・・』
さくさくという音をたてて、僕とコルターがクッキーを平らげてゆき、あっという間にクッキーは終わってしまった。
『おいしかったね、クッキー』
『うん!また貰ってくるね!』
『じゃあ、そのときはまた一緒に食べよう?』
『わーい!じゃあまたあにさまと一緒に食べられるっ!』
スキップしそうな勢いでコルが喜んで、僕に飛びついてくる。
『あにさま大好きっ!』
その純粋な瞳が、気持ちがいとおしくて。
僕はコルをぎゅ、と抱きしめた。
* * *
―――変化が現れたのは、それから少し後の事だった。
僕がいつものように勉強と稽古を終え、庭を散歩している時。
木の上から何か、叫ぶ声が聞こえたんだ。
『何だろ、うえか、らっ・・・?!』
『きゃぁぁぁあぁぁああぁぁっ!!!』
『――――――っ?!』
どさっ。
こんな音を立てて僕の上に落ちてきたのは、一人の、僕と同い年ぐらいの少女。
『ごごごっ・・・ごめんなさいっ!!』
『え、いや・・・』
慌てて謝る、落ちてきた彼女。
・・・あれ、でもこんな子、この屋敷にいたっけ・・・?
『あの、君は一体・・・?』
『あ、追っかけてきちゃった・・・ごめん、君も一緒に逃げてっ!』
『え、ちょっ、と・・・待って・・・!』
僕の手を握り、彼女が走り出す。
『あ、まちなさい!坊ちゃん!坊ちゃん!!』
後ろから追いかけてきていたのは、まぎれもなく僕の家の使用人。
これで良いのかと思いつつも、僕はその手を握り返し、彼女と二人でこの屋敷を出た。
* * *
『ごめんね、連れ出しちゃって』
僕を連れ出した彼女が、申し訳なさそうに謝ってきた。
『君がまさか、あの屋敷の息子さんだなんて思わなかったから・・・』
『え、ううん、全然気にしないで。僕は、気にしていないから』
それよりも、周りが気になってどうしようもない。
見たことがない景色が、沢山で。
全然判らなくて・・・すごく、混乱しているから。
『あ、そっか・・・本当だったんだね、噂は』
『うわさ?』
『ずーっと、あの屋敷の息子さん達は、外に出た事が無かったって』
・・・そうか、そんな噂が町に・・・。
それは本当だから、仕方ないことだけど。
『じゃあ、これから町を一緒に歩いてみない?』
『え、歩くって・・・』
『だって君、この町のこと知りたいでしょ?』
『たしかに、知りたいけど・・・』
なにせ僕は、この町のことをほぼ、すべて知らないのだから。
自分の故郷でも、何も。
『じゃあいきましょうよ!・・・あ、その前に』
『その前に?』
『・・・君の名前、おしえて?』
そういえば、僕もこの子も、全然自己紹介なんてしていなかったっけ。
いきなりこの子が落ちてきて逃げたり、話したりして・・・全然自己紹介する暇が無かったし。
『私はシャルロット。・・・君の隣の屋敷に住んでいるの。君の名前は?』
『・・・ヴィルヘルム』
『ヴィルヘルムかぁ・・・素敵な名前ね』
にっこりとシャルロットが微笑む。
『じゃあ一緒に、町の中を探検してみましょう!』
そして僕はまた、彼女に手を引かれて歩き出した。
―――見たことの無い果物や、野菜。
飾り物に・・・家具。
遊び場、市場。
町には本当に色々なものが有って。
・・・僕の知らない事が、本当に沢山。
『町って、こんな所だったんだ・・・』
『そうよ。・・・楽しいでしょう?』
『うん・・・とても』
屋敷にいるなんかよりも、ずっと。
ずっと、楽しい・・・!
『じゃあ、今度はあっちにいきましょうよ!私がお金は出すから、ね?』
『え、あ・・・ありがとう・・・じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね』
――――その時に彼女とすごした時間は、今でも忘れられない、『宝物』。
僕の、久しぶりに得た・・・『宝物』、だった。
* * *
「・・・にさま、あにさま!起きて!」
「・・・ん、コル?」
目を覚ましてみると、朝日が眩しく僕とコルターを照らしていた。
・・・そっか、あのときの、夢。
「今日は大切な日なんだよ?早く起きて!」
僕を急かすコルターは、もう着替えをすませていて。
ちょっと寝すぎてしまったかな、と思いつつ、僕も着替えをはじめた。
―――あれから、一年がすぎ。
シャルとはあの時からずっと友達で、あの次の日からは、沢山のことを教えてもらった。
楽しい事も、不安になることも、いっぱい。
僕が着替えを終えると、コルが僕に飛びついてきた。
「わ、あにさま、すごく似合ってるよ!」
「そう?・・・ありがとう」
僕に用意された服は、ネクタイのついた、真っ白なタキシードだった。
本当に穢れの無い、純粋な白。
「あにさまに、ぴったりだよ!」
にこにこと笑ってコルは、僕から離れて今度は自分の服を見せる。
「ぼくも似合ってるかな?」
コルにも大きなリボンの付いた、同じタキシードが用意されていたらしい。
勿論それは、彼に似合っていて。
「うん、とっても似合ってるよ」
「ほんと?!ありがとうあにさまっ!」
そして、コルターは「まだ僕にも支度が有るんだ!」と嬉しそうに言って、僕の部屋から出て行った。
――――・・・そう。今日は、イベントがあるんだ。
シャルの家と、他にも色々な人が来て、舞踏会をする。
舞踏会ははじめてじゃなかったけど、今日はシャルがいるんだ。
そう考えるとどうしても、緊張してしまう。
「シャル・・・」
僕はきちんと踊れるだろうか。
彼女についてゆくことが、できるだろうか。
「でも、頑張るしかない」
だって、彼女と踊りたいのは、僕なんだから。
会場準備ができるまで、一人で練習しないと。
「さて、どんな感じのダンスが・・・」
「ヴィルっ!」
・・・え、シャルっ?!
何で、こんな近くから声が・・・?
「ヴィル、こっちよ!こっち!」
言われるがままに、その方向を見てみると。
「・・・シャル?!そんな所にいたら危ない・・・!」
だって彼女の居る所は、木の上。
それはどう見ても、危なく見えて。
それに、出会ったときも落ちていたしっ・・・!
「シャル、降りて・・・!」
「大丈夫。意外と丈夫なのよ、この木」
ゆさゆさと彼女が枝を振る。
そして折れなかった枝を見せると、「ね?」と誇らしげに胸を張った。
「・・・シャル・・・」
「もう、判ったわ。降りるから」
ぶつぶつと何かを呟いて、シャルが木の枝から僕の窓に飛び込んでくる。
「これでいいのよね?」
「うん。でも、飛び込むって・・・」
・・・僕にはそんな勇気なんて、全然ないし。
する気も無いし・・・。
「いいじゃない。お嬢様はちょっと元気なくらいが丁度良いのよ」
にっこりとシャルが笑って、僕の手を取る。
そしていきなり真面目な顔をして少し息をつき、僕のほうを向いた。
「えっと、あの・・・今夜、一緒に・・・踊りましょう?」
「え・・・本当に?」
―――彼女からこんな誘いがくるなんて。
僕には信じられない出来事だった。
「あのっ・・・だから、私はただ踊る相手が居なくて」
「もちろん、良いよ」
だって、彼女からの頼みなんてほとんど無いのだし。
・・・僕からも誘うつもりだったし。
「えっ、ほんと、ほんとに?良いの?」
「うん。シャルがもし踊れなくても・・・僕がちゃんとフォローするから」
「・・・ありがとうっ・・・!」
彼女が嬉しそうに僕の手をぎゅ、とさらに強く握ってくる。
僕も、舞踏会の事を思いつつ彼女の手をぎゅ、と強く握り返した。
* * *
「ヴィルヘルム坊ちゃん、そろそろ舞踏会の準備が整いそうでございますよ」
シャルが帰ってから、少したって。
そろそろ本格的に支度をしなければいけない時間がやってきた。
「ありがとう。じゃあ、僕は支度が終わり次第、コルターとシャルを呼んでくる」
自分の支度を終えてコルの部屋に行くと、コルは支度を完全に終えていて、僕にいつものように抱きついてくる。
「あにさまっあにさまっ、あの・・・」
「じゃあこれからシャルの所にいこうか」
シャルの話題を出すと、コルターが僕から離れ、その無邪気な顔が一瞬曇った。
「シャルさんの、所に・・・?」
「そうだよ。一緒に迎えにいこう、コル?」
僕がそう切り出すと、コルは首をぶんぶんと振って、
「・・・っ! ぼくは嫌だ!」
そう言って走り去ってしまった。
――――・・・そうか。
コルは、シャルがここに来るようになってから僕がコルにあまり構えなくなったから。
だから、拗ねていたんだ。
「・・・コル・・・」
少し、自分を見直したほうが良いかもしれない。
そろそろコルを思いきり構ってあげなければ・・・きっと、離れていってしまう。
離れて、きっと戻ってきてはくれないだろう。
「この舞踏会が終わったら、きっと」
――――コルと、また二人で。
* * *
僕がシャルの家に向かおうとすると、赤いドレスと、赤い花の髪飾りを身に付けたシャルがこちらにかけてきた。
「ヴィル!・・・あ、えっと・・・御機嫌よう」
「シャル・・・ようこそ、お嬢様」
迎えに行く必要もなく、彼女は僕の広い家の前まで来てくれた。
あとは舞踏会が始まるのを、待つだけ。
「シャル、今日は宜しくね」
「えぇ。私こそ宜しくね、ヴィル」
そしてまた握った手は、太陽のように暖かかった――――
* * *
――――――舞踏会、会場。
会場では、シャルと僕が挨拶をすることに追われていた。
「御機嫌よう、おじさま」
ドレスの裾をふわりと持ち上げてシャルがお辞儀をする。
「ようこそいらっしゃったね、シャル嬢」
「はい。おじさまこそ、私の家がいつもお世話になっております」
・・・これじゃあ、踊れそうにない。
シャルは僕よりも忙しいみたいだし・・・どうしよう。
そんな時、後ろから肩を叩く感触が有った。
「ヴィル坊ちゃん、私は坊ちゃんとシャル嬢の舞踏が見たいのですがな」
「・・・! 叔父様」
肩を叩いて下さったのは、僕の叔父様だった。
「シャル嬢!ちょっとこちらに来てもらえますかな?」
「は、はいっ!」
慌てた様子でシャルロットがこちらに駆け寄ってくる。
「・・・ヴィル坊ちゃんと一緒に踊っていただけますか?」
叔父様が僕の方を指す。
いままで暗かったシャルの顔に、笑顔が戻ってきた。
「え、本当に・・・宜しいのですか、おじさま・・・!」
「勿論。踊って見せていただけます?」
「えぇ、ありがとうございます!」
そのときにシャルの見せた満面の笑み。
それは、やはり太陽のままだった。
* * *
―――会場に、和やかな音楽が流れる。
その中で、僕とシャルは一緒に踊っていた。
彼女は以外にも、ダンスがとても上手く。
僕とぴったりのタイミングで踊ってくれていた。
「ヴィルっ・・・私、すごく楽しい・・・!」
「シャル・・・うん、僕もすごく楽しい!」
くるくると回る、景色。
きらきらとしているシャンデリア。
彼女と踊っていると、何でも綺麗に見えて。
「ずっと、このまま踊っていたい!」
にこり、と彼女がいつものように笑う。
僕もそれにつられて、ほのかにだけどこの空間で、笑うことができた。
「・・・・・・」
コルターがこちらを歪んだ目で見ていることも、知らずに。
* * *
――――夜の中庭。
そこには一人、コルターがぽつりと立っていた。
「・・・っなんで・・・?」
なんで、あにさまはこっちを振り向いてくれないの・・・?
ぼくが悪いのかな。ぼくが・・・。
「あにさま・・・」
・・・寂しいよ。
なんで、シャルさんしかみてくれないの? なんで・・・。
『だったら、奪えば良いじゃないか』
どくり、と振動が脈を打つ。
『だって君は、ヴィルが好きなんでしょう?』
―――でも、あにさまはシャルさんばかりで、ぼくのことをみてくれない・・・。
『だったら、その憎い奴を殺せば良いじゃないか』
―――そう、か。そう、だよね?
シャルさんが、居なくなれば良いんだ・・・。
『そうだ・・・だーいすきな兄様をしばりつける奴はみんな、みんな死んでしまえば良いんだよ』
―――みんな、にくい・・・。
あにさまをしばりつける、みんなが。
・・・シャルさんが。
『「チカラ」を開放しなきゃ・・・全部、全部殺すんだ』
―――ぜんぶ・・・全部。
『そう・・・君が兄様の「チカラ」を開放してあげるんだよ?』
―――ぼくが、すべて。
『君は「僕」、「ぼく」はキミなんだから』
―――殺すんだ、みんな・・・。
――――――みんな、みんなにくいんだから。
* * *
――――― 夜も、大分更けてきた頃。
・・・シャルと僕が踊っていたら、どこかに行っていたコルターが、戻ってきていた。
「コル?どこに行って――――」
「あにさま、ちょっとこっちに来て?」
にこり、とコルが笑って手招きをする。
何かと思い、僕はそのコルターの後に続いた。
・・・その選択が、僕の歯車を大きく狂わす事も、知らずに。
「・・・コル?どうした?」
「あにさま・・・あの、ちょっと目を瞑っていてくれる?」
前のときのようにプレゼントかな、と思い僕は目を閉じる。
そして少したった頃、何故かとても熱くて、嫌な感覚に襲われた。
・・・なにが、おこっ、て・・・?
「コル・・・いま、いったい、なにをしているの?」
「おまじないをかけてるんだよ。・・・ちょっと熱いかもしれないけど、我慢してね」
コルがそう言うと、もっと僕の中の熱さが増してゆく。
「うぁ、あぁ・・・ッ」
「ごめんねあにさま・・・でも、あとちょっとの我慢だからね・・・」
コルは、そう言うといつものように僕を強くだきしめる。
すると、自分の中で感じていた熱さがじわじわと減ってくるのが判った。
「あ・・・コル・・・」
・・・コルは、いつものように暖かかった。
あたたかくて・・・でも。
――――何故か、冷たかった。
* * *
「じゃあ、あにさま。また後で。ぼくはもうちょっとやることがあるんだ」
「うん。じゃあ、また」
コルはたたた と走って、僕の前からすぐに消えてしまった。
その後僕は、コルのしてくれたおまじないの事を考えて、
「コル、ありがとう・・・」
そう呟いた。
―――やはりこういう事があると・・・弟は大事なものだと、実感する。
・・・あんなに優しい弟を持ててよかった。
僕はそう実感した。
「・・・さて、そろそろまたシャルの所に戻らないとな」
今来た道を僕もコルと同じように駆け足で戻ってゆく。
でも、とあるものを見た瞬間、僕の足がぴたりと止まってしまった。
・・・来るときとは違う事が、ひとつ。
目の前に、来る前には居なかった男の人たちが、居た。
――――この人たちは、僕とコルに嫌な感情を抱いている人たち。
昔会ったときにも、僕たちを・・・。
そこで、ちょっと様子を見ようと陰に隠れていると会話が聞こえた。
「・・・ですね。早めににすませてしまいましょう」
「あんな子供は、此処では厄介だ。早く、早く殺してしまおう」
「でも、あの兄は頭が回ると聞きますし」
「なぁに。弟を人質に取れば良いだけだ」
「では・・・弟はコルター、でしたっけねぇ・・・捕まえにいきましょうか?」
「そうだな、早く・・・」
・・・・・・な、に・・・?
コルを、捕まえるだって・・・?
「・・・っ!」
そんなこと。
そんな、ことっ・・・!
「やめろっ!」
――――抑制が効かなかった。
いままでずっと、ずっと抑制する事には慣れていたのに。
・・・そのときだけは。
「あぁ、ヴィルヘルム坊ちゃん。どうしたのですかね?」
「・・・あなたたちは一体・・・何を話していた?」
「いえいえ。他愛の無い話ですよ?」
・・・っこの・・・!
嘘の笑顔でそんなことを、言って・・・!
「だからヴィルヘルム坊ちゃまはまた会場に戻ればよろしいのですよ?」
そんな、嘘の笑顔で・・・。
「さぁ、お戻りくださいませ」
嘘の、笑顔で!!
どくん
憎しみの感情を抱くと共に、僕の中からあの、嫌な、熱い感じが襲ってくる。
「あ、・・・っ」
こえが、でない。
「どうなされたのですか?・・・あぁ、気分が悪いのでしたらわたくしどもめが運んであげますよ?」
そう言って、嘘の笑顔で奴らはせまってくる。
・・・やめろ。
―――――やめろっ!!!
「っうあぁぁああぁぁ!!!」
そして僕が目をぎゅっと瞑って手を伸ばして、奴らの手を払おうとしたとき。
どん という音と共に、僕の手のひらに ぬるり とした感覚が生まれる。
「・・・え?」
目を恐る恐る開けてみると、そこには。
「ああぁぁぁ?! 何、何故私の腕がっ・・・?!」
僕の手を掴もうとしていた奴の片腕が、一本丸ごと飛んでしまっていた。
その傷口からは、どんどん血液が流れていって。
「あ、あぁっ・・・や、だ・・・」
なんで・・・なんで、僕が手を、のばしたら・・・?
「お前、私に一体何をし・・・?!」
「・・・いやッ!!」
僕がまた手を伸ばすと、今度はぶちゅっ、と悲惨な音をたてて僕の体を揺さぶっていた奴が、肉隗へと変化する。
「・・・や・・・なん、で・・・?」
何故、目の前の奴は、肉隗に変わったんだ?!
焼け爛れたような、傷跡のついた・・・!
「こいつ・・・!化け物だ!!」
「逃げろ!早く逃げて・・・!」
醜く逃げ惑う奴らを、僕の腕は勝手にうごいて、どんどん奴らを殺して行く。
奴らは、醜く悲鳴を零したまま。
「いやだっ・・・いやだいやだいやだっっ!!!」
何も聞こえない。
何も、何も僕は・・・!
「いやだぁぁぁ!!!」
それでも体は、全然止まってくれなくて。
ついには足まで勝手に動いて・・・会場のほうに動き出す。
「あ、あぁぁ・・・」
やめて。
これいじょういったら、コルやシャルまで、ころしてしまう。
「うっ・・・うぅっ・・・」
――――このときの僕にはただ。
ただ泣く事しか、許されていなかった。
* * *
いつもの、明るい中庭。
そこには彼女がいて僕のことを真っ直ぐに、見ていた。
『ヴィル?ヴィル?どうしたの?何でないてるの?』
――――シャル?・・・あれ、僕は一体何をしてたの?
『また寝てたんでしょ?もう。ヴィルってば、いつもねぼすけなんだから』
――――あはは・・・ごめんね。
『・・・でも、今はもうちょっと眠ってていいから』
――――なんで?
『だって、おきちゃったら――――』
* * *
夜明け近くの、少し明るい空が見える。
―――――そして、濃い鉄の匂いがする、舞踏会会場。
それは、今さっき見た光景とは少しも似ていなくて。
「・・・しゃ、る・・・?」
・・・今のは、夢、だったのかな・・・?
「・・・シャル、コル・・・どこ・・・?」
僕は、血でできた真っ赤なじゅうたんを歩く。
もう僕には、感覚も何も、残ってはいなくて。
その真っ赤なじゅうたんを見ても、何も思えなかった。
・・・それより。
今はそれより、2人を・・・。
「・・・ヴィ、ル・・・?」
――――シャルっ?!
向こうの方から、か細いシャルの声が聞こえた。
「ヴィル・・・こっち、きて・・・」
「シャルっ・・・シャルっ!」
必死に死体を掻き分けて、シャルを探す。
そんな時、周りは本当に小鳥のさえずりぐらいしか聞こえないぐらい静かで。
たまにまだ生きている人たちのうめき声が聞こえるぐらいだった。
「シャル・・・」
「・・・ヴィル・・・ようやく、おきてくれた、のね・・・」
下からシャルの声がして、びっくりして見て見ると。
彼女の赤くて綺麗なドレスがぼろぼろになっていて・・・血が、沢山・・・沢山出ていて。
・・・今にも、死んでしまいそうな程に。
「シャルっ!嫌だ!嫌だよ!!僕は・・・!」
「・・・ヴィル、あのね・・・」
「シャル?!そんな、しゃべらないで・・・!」
「わたし、ずっと、ずっとあなたのことが・・・」
その言葉を継げて、シャルがごほごほと苦しそうに咳をする。
・・・シャルの言葉が、一旦途切れた。
それは彼女がもう長くないことを表していて。
「嫌だシャルっ・・・シャル!!」
僕はシャルの手を握って、必死に話しかける。
・・・でも、もうその声は彼女には届かない。わかってる。
でも、やっぱり、あきらめ、きれなくて・・・!
「シャルっ、しゃる・・・」
「・・・ねぇ、ヴィル・・・また、いつか一緒にあそびた、い・・・」
それを言い終えた途端。
ことり と握っていた手が落ちてゆく。
まるで、スローモーションを見ているかのように。
――――僕の世界を変えてくれた、彼女。
ずっと、そばにいてくれた、彼女。
大好きだった、太陽のような笑顔。
それがみんな、頭の中に流れて。
「シャルぅぅぅううぅぅぅ!!!!」
ただ僕はその時、泣き叫ぶしかできなかった。
彼女が・・・シャルが死んでしまった。
僕が、この手で。
「シャル・・・シャル、ごめんね・・・」
この力が何かも判らないまま。
・・・僕はひたすらに泣き続けた。
* * *
―――――これから僕は、どうなるんだろう。
僕が落ち着かずに泣きながら、ふらふらと血の匂いがあまりしない中庭を歩いていると。
「・・・あにさま・・・?」
聞き覚えのある声がする。まだ小さくて、甘えん坊な、あの声。
・・・この声は。
「コ、ル・・・?」
「あにさま・・・!」
―――あぁ・・・この子は。
コルは、いきていてくれ、た・・・。
「コル・・・」
「あにさまっ?!」
安心のあまり、僕はその場に倒れてしまった。
そしてコルに僕が受け止められ、その時に、最後に聞こえた「声」。
「これからはずっと、ずっと―――――」
――――――ずーっと、ふたりでいっしょだね・・・。
****************************
これは昨年に出した小説コピー本、「~零~ ――全ての始まりは――」の内容です。
どうも、ポプではえらくお久しぶりです。甘味です。
大変長らく更新をしないで、本当に申し訳ない限りです・・・。。
さて、今回の話ですが、「過去」シリーズの、「『過去』への服従 後編」の話に出てきた、惨事の話です。
大分書いてから時間が経ってしまって、内容を覚えていらっしゃる方はほぼ覚えていらっしゃらないかと思います。
そんな時には、また「過去」シリーズを読み返してみて下さいwどこかしらにこの内容の場所がある筈ですから。
続きは、という方もいらっしゃるでしょうが、残念ながらこの続きを執筆する予定はありません。
今は他のジャンルの連載もありますし、「過去」シリーズでほぼ全部、どんな事があったかは補完されてしまいましたから。
・・・実はこれ、「服従」が終わる前に書いていたんです。だからこんな事に。。orz
ではでは、次のポプの更新は、「マリオネット」となります。
殺伐とした暗殺組織が書きたくて生み出したものなので、ずっとシリアスのターンです。ギャグが一切無いってどうなの・・・!
2008.7.24
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