カンパーの里 ~私立竜苑学園~

カンパーの里 ~私立竜苑学園~

雨の強い日に




「あーぁ、今日も雨だよ。」
窓の外を眺めたキルは憂鬱そうに言う。
「・・・雨は嫌いか?」
隣に座る九鈴はキルに訪ねる。
今、学園は本日の学業が終了し、皆部活や遊びに励んでいた。
一年二組は部活に入っている者が少ないため、家に帰ったか教室に残っているものが多かった。
キルと九鈴もその中の一人だった。
「帰りたい~!帰ってゲームしたい~!」
キルは駄々をこね始める。
「君の魔力なら易々と雨を防ぐ壁を作れるんじゃ?」
「かったるいよ!疲れるし。」
九鈴はそうか、と呟き自分の傘を取る。
「じゃぁ、僕はここで・・・。」
九鈴が教室から出ようとするとキルが服にしがみついてくる。
「友達を見捨てるつもりかっ!」
「いや、親を呼べば良いだろう。」
キルは首を振る。
「父さんも母さんも今家にいない。雨が弱まるまででいいからさ?」
九鈴はしかたなくキルと共に教室に残った。


これがあいつとの出会いのきっかけになるなんて、誰が予想できただろう?
これは雨の強い日に起きた一つの悲しい話・・・。

1:雨傘と捨て猫

結局、雨は弱まらずに九鈴はキルと六時まで教室に居た。

「ごめんな、九鈴。」
キルは自分のせいで帰れなかった九鈴に頭を下げる。
「いいよ。僕も楽しかったし・・・。」
キルは自分の携帯で親を呼んだ。
外はすでに真っ暗だった。
「ごめんな、家の車は竜のせられるほど広くないんだ。」
キルはすまなそうに言う。
九鈴は少し笑いながら、
「別にいいよ。僕は傘があるし。」
校門でキルと別れ、一人帰路をたどる九鈴。
「・・・日も長くなったっていってもなぁ」
雨雲に空は完全に覆われていた。
まるで夜中を思わせる町中は電気の明かりすら薄暗く見えるほどだった。
九鈴の足は自然と早くなった。


ガサガサっ


ビクゥッ!
九鈴の横の茂みが微かに、いや確かに動いた。
「にゃー・・・」
「・・・猫!?」
九鈴は硬直した。
実は九鈴は猫が苦手だった。

2:温もりと夕食

最初九鈴は猫を見捨てようとした。
しかし、彼の心はそれを許さなかった。
「・・・。」
草むらの奥には『拾ってください』と書かれたダンボール。
その文字はこの猫が捨て猫だと語っている。
「君、飼い主に捨てられたのか。」
まだ小さい子猫は九鈴にすりつく。
九鈴はその子猫をダンボールに戻し、傘と自分の上着をかけた。
「これで少しは凌げるだろう。少し待ってて・・・。」
九鈴は自分の家まで全速力で飛んだ。

「腹へったぁ!」
九鈴の家では弟の彼方と兄の刻神が居た。
「にいたん、遅いね。」
彼方は九鈴を待っていた。
この家には親がいないため食事、掃除など家事全般は九鈴が担っていた。
「どこで道草くってんのかな?」
刻神は自分の腹を押さえ言う。
「道の草って食えるの?」
彼方が調子はずれな事を言う。刻神はそれに笑い、ほのぼのした時を過ごしていた。

「ただ今。」
「あ、にいたん!」
「遅いぞ!俺らを餓死させるつもりか!ってあれ?」
九鈴がズブ濡れで帰ってきた。
「ごめんね、兄さん、彼方。」
「どうした?傘盗まれたのか?」
九鈴は首を振る。
「夕ご飯は少し待ってて!」
九鈴は底が深い皿とミルクを持ち雨の中飛び出した。

3:尊さと扱い

九鈴が再び猫の元に戻ったのは家から飛び出して五分だった。
「・・・!」
そこには子供三人がいた。
猫をいじっているようだ。
「おぃ、鳴けよ。にゃーってさ。」
「にゃ~・・・」
「アハハッ、もうこいつ死ぬんじゃね?」
「・・・お前等。」
九鈴は子供に近づき話しかける。
九鈴は自分でも分かっていた。相当怖い顔をしていた事を。
「え?・・・あの」
「遊んでるだけですよ。」
子供は面倒そうに答える。
九鈴は遊んでいるように見えなかった。
猫はおびえきり、周りに石ころや木の棒が転がってるところから虐めていたのだろう。
「それは僕の猫なんだ。」
九鈴は必死で怒りを押さえた。
「捨て猫だぜ?俺らが拾おうと・・・。」
「僕の、だ。」
九鈴は全身から魔力を放つ。
威嚇のつもりが子供は吹き飛んでしまった。
「いってぇー・・・覚えてろ!」
子供たちはいちもくさんに逃げた。

4:死と生

子供に悪いことしたかなと少し考え、九鈴は猫を抱き上げた。
「大丈夫かい?」
「にゃぁー・・・」
猫はかなり弱っていた。
九鈴はミルクを皿にあけ、猫の前に置く。
「飲めるよね?」
猫はミルクをなめ始めた。
「良かった・・・。」
「やっぱり、な。」
九鈴の後ろには刻神と彼方がいた。
「兄さん・・・。」
「全く、優しすぎるぜお前。」
「兄さん、僕っ・・・。」
刻神は九鈴の口を指で塞ぐ。
「何も言うな。ちゃんとしつけるなら飼っていいぞ。」
「兄さん・・・!」
「にゃぁぁ・・・」
猫の鳴き声。
さっきの猫が倒れている。
「!」
「そんなっ・・・。」
「近くに病院があった筈だ。急ぐぞ!」
緊迫した空気が流れる。

雨は降り続いている。

5:残してくれたもの

「・・・。」
猫が集中治療室へ運ばれて二時間。
九鈴はひたすら祈っていた。
ランプが消える。
「っ!」
白衣の医者、リアスが出てくる。
「先生、あいつは・・・。」
リアスは首を横に振る。
「そんな・・・。」
「遺体よ。丁寧に埋葬してあげなさい。」
九鈴はぐったりと横たわる猫を手で包むように持ち上げる。
「僕はっ・・・何もしてあげられなかった!」
九鈴は涙を流していた。
「なんで・・・?」
九鈴はその場に泣き崩れた。

数日後。

「・・・。」
猫の墓の前、九鈴は手を合わせていた。
「・・・そう悔やむな。お前は精一杯やった。」
「僕はあいつから命を教えてもらったのに僕はなにもしていない。」
刻神は首を振った。
「彼奴のために頑張ったろう?」
「!・・・うん」

僕は決して忘れない。
この雨の強い日の事を。

九鈴の顔にもう後悔は無かった。


END

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