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数学 で読み解く 音楽
中島さち子(数学者、ジャズピアニスト)
「創造性」「自由性」が共通
自然をどのように捉えるのか
前提を疑って考える
音楽と数学、多くの人はまったく別のものと考えているかもしれません。でも、古代ギリシャ時代から続くリベラルアーツ(一般教養)では、数学、音楽、天文学が同じように重要視されていたんです。数学を代数と幾何学に分けて、数の学問が「代数」、形の学問が「幾何学」、そして、動く形の学問が「天文学」、動く数の学問が「音楽」だったのです。
美しい世界の調和、宇宙の真理などを探ろうとする、その一つの方法が、数学であり音楽であったわけです。世の中の不思議なこと、どうしてこのようなことが起きているのか、そこを解明しようと証明が生まれ数学に、それを美しさとして捉えようとすると音楽になるんです。当時は、この四つの学問を通じて、世界の在り方を知ろうとしたのでしょう。
数学と音楽には「創造性」と「自由性」があります。まず創造性ですが、どちらも、自分なりの視点でものごとを捉えたり、自分なりの法則を考えたりする。そこがすごく面白いのです。二つ目の自由性は、ちょっと視点を変えることで、今まで思いこんでいた世界とは全く違う景色が見えてくるところです。
音楽にしても、同じような演奏であっても、ちょっとした音程の揺らぎによって、音が共鳴し合って大きさが変化します。数学にしても同様です。三角形の内角の和は180度だと教わってきたでしょう。でも、地球の様な球体の表面に描かれた三角形の内角の和は180度より大きくなります。
子どもにも大人にも
こうしたら良いものが作れると教えられて、できるようになる。それはAIなどの機械にも可能です。でも人間は、自由にモノを見て、作り出していける。そこには大きな違いがあるように思います。
人間の感覚はすごいんです。完成で美しいモノをつくろうとすると、無意識のうちに、何か数学的にみても美しい構造になっている。それを読み解いたのが、私の近著『ヒット曲のすごい秘密』(青春新書)です。
名曲やヒット曲を聴いている時、その多くの場合、その背後にある曲の構造には目を向けません。でも、ちょっと理性を働かせて、なんでこの音楽にはこんなに気持ちがいいんだろうと考えてみてください。すると、あの曲と、この曲は似ているな、などと気付くはずです。
全部が同じではなくても、何となくもの悲しさが共通しているとか。でも、少し違う部分があるから、この曲は物悲しいだけでなく、そのあとに楽しくなるんだと。
そんな新しい聞き方ができるようになると、別の面白さが見えてきて、自分でも作れるかもしれないと思える。そうなるといいなと思っています。
音楽の研究は、子どもにもできるし、大人になっても楽しめるものです。時間があったら、自分の好きな曲について探ってみてはいかがでしょうか。
生活の中にある揺らぎ
皆さんは手毬歌を知っているでしょうか。有名な「あんたがたどこさ」は、実は途中で表紙がどんどん変わる変拍子になっています。手毬歌だから、鞠を衝く動作がしやすい拍子が基本だと思われるかもしれません。でも、突然3拍子になったり、2拍子になったりするのです。
鞠をつくだけでなく、足の下をくぐらせる動作が入ります。このタイミングで拍子が変わっているのです。この変化が、鞠つきという遊びをおもしろくしているのです。
最初から最後まで4拍子の曲だと、4回に1回足を回すだけの単純な動きになってしまいます。それが3拍子や2拍子に変化することで、足を回しタイミングに緩急ができ、より楽しい遊びになっているのです。
数学は、物事を単純化し抽象化する子で、本質をとらえてきました。でも、実際の世界はそう単純ではありません。デジタルの感覚だと、1と2の間には何もありませんが、実際には無数の数があるます。それは整数の数より多いといわれています。そんな不思議なことがたくさんあるのです。
実は数学の最前線の研究は、揺らぎを取り入れた確率論になってきています。同じように、揺らぎを生かした音楽が見直されてきています。
文額は元々、歩く、スキップするなど、普段の生活の中から生まれてきました。そこには、自然に対する祈りだったり、揺らぎがあるんです。
そんな揺らぎを生かした音楽、例えば和楽器の笛の音などにヒントがあるかもしれません。そこから、これまで正しいと信じられてきたことが崩れて、新しい世界が広がっていくと、面白いと思います。=談
なかじま・さちこ steAm 」代表。著書に『ヒット曲のすごい秘密』『人生を変える「数学」そして「音楽」』『知識ゼロからの STEAM 教育』などがある。
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