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インタビュー ジェンダー格差の解消へ
UN WOMAN(国連女性機関)
日本事務所前所長 福岡 史子さん
男性主体な関りが重要
——福岡さんが国際協力の分野で活躍するようになった原点は何でしょうか。
私は名古屋市郊外の田舎で育ちました。田んぼが風呂がるような自然豊かな地域です。祖父母は稲作を営む農家でした。
地方で生まれ育ったからでしょうか。「外の世界へのあこがれ」があったんです。学校で塵や歴史を学んだ時、世界を、実際にこの目で見たいと思いました。
「英語を話せるようになれば、世界中の人と話ができる」と夢見て、語学学習にも力を入れました。そうした中、いつしか国際的なキャリアを目指すようになったのです。
思えば私が育った時代は、4年制大学に進む女性は少なく、女性は短大に行くか、高卒で就職する方が仕事に就きやすかった。
それでも母は、私が大学に進学することを強く進めてくれました。さらに、「地留津して、男女が平等に扱われる職業に就きなさい」と背中を押してくれたんです。
こうして、私が最初に選んだキャリアは英語教員でした。
——その後、世界各地で環境保護や人道支援に携わってこられました。これまでの経験で、女性のエンパワーメントが市民社会に変革をもたらしたエピソードはありますか。
国際環境 NGO に努めていた頃の印象的なプロジェクトの一つに、フィリピンなどで実施した「照シー・コミュニティー・イニシアチブ」があります。
自然が美しく豊かな地域に、環境事業計画が提案され、環境保全がないがしろにされていた。これまでコミュニティーが大切にしてきた自然が荒廃すれば、現在の生活だけではなく、将来の収入源も脅かされます。
地域の女性たち、特にお母さんたちは、子どもの成長、家族の健康に強い関心がありますよね。自然資源管理の方向性を決める際に女性が参加し、女性の声を積極的に取り入れるよう、現地政府と挙応力してワークショップを開催しました。
例えば、「沿海の魚を取りすぎず、将来にわたって漁業で収入を得られるようにする」といった女性たちの提案を、実際に地域の資源管理計画に反映しました。その結果、エコツーリズム全体の持続可能性が向上しました。
もう一つ忘れられないのは、南米エクアドル北部のエスメラルダスでのプロジェクトです。これはタグアヤシの種をボタンに加工することで、森を〝収入源〟にするというもの。この種は象牙に似た色と質感で知られ、かつてはボタンの原料として使われていました。
エクアドルといえば、バナナが有名ですよね。一方で、バナナ農園の拡大が原生林の過度の伐採を招いていた。当時、その村では土地をバナナ会社に売って、その農園で村民たちが働く計画が持ちかけられていました。
ここで立ち上がったのが、女性たちでした。村民の手でタグアヤシ種子を詰めて、染色や彫刻などを施していく。女性もトレーニングを受けて会計や工程管理に携わりました。そして最終的に、村の豊かな森を守りながら新たな生活文化をつくることができたのです。タグアヤシのボタンは、皆さんもよく知っているブランドや高級スーツなどに、再び使用されるようになったんですよ。
このように、女性が参画することで成功を収めた事例は数え切れません。これまで、男性だけで意思決定されがちだったところに女性が加わり、「男性と女性がともに協力しながら進めた」からこそ、コミュニティー全体の持続可能な発展が実現した。この点が大事だと思います。
世界に追い付けない
——世界と比較した時、日本のジェンダー格差が大きいことが指摘されています。
2023年、約20年ぶりに日本に戻ってきました。生活してみて、良い意味で日本は変わったな、と驚きました。女性の社会進出が大きく進んでいるように感じたんです。
ですが、24年に世界経済フォーラムが発表した、世界各国の男女差の数値で表す「ジェンダーギャップ指数」では、日本は146カ国中118位。依然として低迷しています。また英経済紙「エコノミスト」が発表した、女性の働きやすさランキングでは、日本は OCED (課税協力開発機構)に加盟する主要29カ国中27位でした。
この現状について、政府関係者なども「他国のジェンダー平等への取り組みが加速する中で、日本は取り残されている」と危惧していました。
日本は努力していないわけではないのです。ただ、他の国が「ジェンダー平等」の課題に対して、ものすごいスピード感をもって取り組んでいるのです。
日本が抱える最大の課題のひとつは、やはり「家父長制」の文化がまだまだ社会に深く根付いていることだと思います。「お母さんより、お父さんの方が偉い」というような固定観念が、依然残っています。
また日本は、政治家や管理職になる女性が少ないことが目立ちます。それは能力の問題では決してありません。女性からは〝家庭生活との両立は難しい〟との声をたくさん聴きます。昇進の機会があっても、育児や家事とのバランスが取れず、キャリアアップを諦める女性が多いのです。
——固定観念や慣習を変えていくのは、簡単ではありません。
そうですね。よい制度や法律ができても、すぐに社会全体が変わるとは限りません。
例えば、国連が採択した「女子差別撤廃条約」を、1980年代に日本も批准しました。これを契機に、男女雇用機会均等法が成立しました。ほぼ40年前の話ですが、今もたくさんの課題があります。
SDG sの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に関しては、誤解が多いように感じます。特に「女性のエンパワーメント」の話をすると、「女性ばかり優遇するはなしじゃないか」「男性はどうなるのか」といった意見が寄せられることがあります。
しかし、私たちが目ざしているのは、長年存在してきた男女間の社会的・文化的ギャップを「解消」することです。決して女性を優遇することではありません。ジェンダーギャップは女性だけの問題ではなく、社会全体の問題なのです。男性も、いかにこの課題に主体的に向き合うかが非常に重要です。
育児休業を例にとると、男性もっと自由に取得できるようになるべきです。育休制度は整ってきましたが、現実には「取りにくい環境」がまだある。これを改善するには、雇用主側の工夫、上司や同僚の理解が欠かせません。
細菌は、一つの型にはまらず、家族にあった解決策を夫婦で考えられる時代になりました。これはとても素晴らしいことです。
女性の社会進出を考えるのであれば、男性の働き方も変える。女性が社会で活躍するのと同時に、男性が家庭でも活躍し、子どもと過ごせる時間を増やせるようにする——そうでなければ、女性の社会進出に取り組んでも、ますます女性の負担が増えるだけです。
〝こうあるべき〟との意識を変え
誰にも自由な「人生の選択肢」を
〝自分ごと〟として
——ジェンダー平等の推進のために、 UN Women はどのような取り組みに注力していますか。
まずは、ジェンダー平等を推進する運動に男性の関与が不可欠であるとして、男性にもリーダーシップをとってもらうための意識啓発キャンペーン「 HeForShe 」(ヒー・フォー・シー)」があります。
これは2014年、 UN Women 親善大使でもある俳優のエマ・ワトソンさんのスピーチを通して、男性に向けて支持を呼び掛け、広く認知されるようになりました。
現在は男性に限らず。すべての人々を対象とした達同に発展し、グローバルな成功を収めています。日本でも、もっとこのキャンペーンを展開したいと思っています。
また、「アンステレオタイプアライアンス」(有害な固定観念を撤廃する連帯)という取り組みもあります。これは。メディア広告における有害なステレオタイプを亡くしていく世界的な活動で、20年には日本支部が発足し、不数の企業がステレオタイプのない社会を目指して取り組みを加速させています。
近年、従来の〝女性刺しさ、男性らしさ〟に違和感を持つ人が増えてきていますよね。例えば「選択」などカジノ広告には、女性が出てくるとか……。これも〝こうあるべき〟という一種のステレオタイプです。
ジェンダーに限らず、障がいのある方への偏見など、あらゆる差別をなくしていく。そうすることで、「 DEI (ダイバシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包括性〉)」の意識をもっと高めていきたいですね。
——福島さんにとって「平等な社会」とは、どのようなものでしょうか。
平等とは、「同じ選択肢がある」こと。そして「選ぶ自由がある」ということではないでしょうか。例えば、ある家庭で、男の子女のことがいたとしたら、「あなたは女の子だから大学に行かせない」「蝶なんだから特別扱いする」といった偏った考え方をなくし、全ての人に公平な選択の機会を与えることが、平等の本質だと思います。
世界ではまだまだ、割り当てられた差別によって、歩める人生が全く異なるという実情があります。一人一人が〝自分ごと〟として「社会を平等にしたい」と心から思わない限り、本当の意味での平等は実現しません。
——最後に、読者へのメッセージをお願いします。
25年は、1995年に北京で開催された「第4回世界女性会議」から30年という大きな節目の年です。この会議では、世界189カ国の女性の生活を向上察せるための国際的な政策の枠組みに王位しました。そして、25年の「第69回国連女性の地位委員会( CSW 69)」では、これまでの取り組みについて、世界規模の検証が行われます。 UN Women は、これに向けたイベントの開催や、パートナーシップのこうちくなど、幅広い活動に力を注いでいます。
ジェンダー平等は、SDGsの全ての目標に横断的に関わっています。喫緊の課題として、今一度、皆さんに深く考えていただきたいテーマです。
特に若者の皆さんの役割は重要です。次世代を担う皆さんの声が、社会に大きな変革をもたらすカギとなると信じています。
ふくおか・ふみこ 名古屋市出身。中学校の英語教諭、JICAの研修コーディネーターを経て、米国のジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究学院(SAIS)で修士博士号を取得。国際環境NGO「コンサベーション・インターナショナル」の日本代表、UNDP(国連開発計画)シリア事務所の副常駐代表などを歴任後、2024年11月まで UN Women 日本事務所の所長を務めた。現在は UNDP のニューヨーク本部で、アラブ極本部広報&パートナーシップ・チームリーダー。
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