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大腸がん㊦ 比較的、再発少なくて完治しやすい
沖准教授
今日のポイント
術後の生活の質(— QOL —)も大きく向上
日本人が最も多くかかる悪性腫瘍である「大腸がん」。㊤の内視鏡治療に引き続き、「外科手術」について、九州大学大学院消化器・総合外科の沖英次准教授に聞きました。
——どういったケースで外科手術になるのでしょうか。
大腸がんでは、ステージ0(粘膜内元)と、ステージⅠ(粘膜下層浸潤がん)のリンパ節移転リスクがないとみられるケースは、主に内視鏡治療になります。
それより進行しているケースは、内視鏡以外の外科手術、化学療法、放射線照射などで治療します。
難しい部位も行いやすく
外科手術には大きく分けて「腹腔鏡手術」「ロボット支援手術」があります。
腹腔鏡手術は、患者の腹部に数カ所の小さな穴を開け、そこから内視鏡や鉗子(はさみに似た形の器具)などを挿入して行う、患者の体の負担が少ない手術です。内視鏡から幹部の状態をモニターに映し出して手術を行います。
ロボット支援手術も、腹腔手術の一種です。ロボットで使える鉗子は、一直線だけではなく、角度を自由に変えて動かせるなど、従来の腹腔鏡手術では不可能な動きができるため、普及が広がっています。
開腹手術は傷跡も大きく、合併症のリスクも比較的高いため、腫瘍が大きい場合など、腹腔鏡が使えないケースが限られ、それ以外ではあまり行われなくなりました。
腫瘍のある部位は、肛門に近い「直腸」と、それより上に位置する「結腸」とに、大きく分かれます。
直腸は大腸がん全体の 40 ~ 50 %を占めます。結腸は、さらに上行結腸や横行結腸などに分かれますが、最も多く発生する部位は直腸に近い S 状結腸で、全体の 30 ~ 40 %に及びます。
直腸は狭い骨盤内にあり、自律神経や筋肉が密集しています。それを傷つけると、排便や排尿、性機能の障害が発生しかねません。また、また、校門に近いほど〝すり鉢の底〟で手術するようなもので、目視できる範囲が限られます。
——難しい手術なのですね。
はい。ですので直腸は特に、ロボット手術が向いています。ロボット手術では、視野が確保しやすい回転可能なカメラや、ミリ単位の正確さで動かせる鉗子などを使えるため、神経や肛門括約筋などを温存しやすくなるからです。術後の QOL (生活の質)は、大きく上がります。
人工肛門を造り合併症のリスク減
——手術後のリスクは何かありますか。
いずれの手術をしても、腸壁には便の圧がかかるため、縫った箇所が破れて腸の内容物が漏れる合併症が、直腸なら 1 割程度の患者に起こります。
それでも、手術時に人工肛門を増設し、それを 2 ~ 3 カ月間付けると、便の圧が減り、破れるリスクは減らせます。つけている期間は QOL が下がりますが、合併症を減らせるメリットの方が大きいと考えます。
直腸の 2 割は放射線で根治
手術以外の治療法でも、抗がん剤や放射線照射などは研究が進み、効果も軒並み高まっています。
現在では、直腸にできたがんでも、化学療法と放射線照射を組み合わせ、 3 割近くは手術せずに願を焼失させられるようになりました。放射線の進歩に加え、集中して当てやすい部位であることも大きな理由です。欧米では、術前の科学放射線療法を標準にする国も増えてきました。
光電子研究も進化しています。遺伝子検査を行うことで、抗がん剤や放射線を含めたどの治療法が患者に適しているかを、治療前に確認しやすくなりました。
ステージⅣで末期でない人も
原因は明らかではありませんが、大腸がんは〝切除後は比較的、再発が起きにくい〟という特性をもっています。
そのため、大腸がんに関しては「進行度(ステージ)」と、実際の「重症度」は比例しません。多くの方は、ステージⅣと診断されると、重症度も「末期」とイメージしがちです。しかしながら、大腸がんでは「ステージⅣ=末期」とは単純に言えません。
——どういうことですか。
ほとんどのがん細胞は転移先でも、初めに発症した部位での特性を保持するからです。
大腸がんは浸潤が深かったり、リンパ節転移があったりするとステージⅡやⅢ、肝臓や肺に転移があるとⅣと診断されます。例えば、肺転移した大腸がんはステージⅣですが、転移先でも〝再発しにくい特性〟は保持しています。
5 8 割程度、Ⅳで 3 割程度です。肝転移しても、がんが小さくて切除できるケースでは、 5 年生存率が 7 ~ 8 割あるという報告もあります。
転移先のがんの数や大きさにもよりますが、切除が可能なら、転移しても大腸がんは比較的、完治しやすいがんなのです、そのため大腸がんは、診療ガイドラインで、転移した腫瘍の切除が推奨されています。再発しても、また切除し、それで完治する方もいます。
——それでも、大腸がんは日本人の死因 2 位で、女性は最多です。
高齢者を中心に、亡くなった方が多いことは事実です。しかしそれは、発症数が多いことも大きな原因です。
がんはどうしても、〝亡くなった方〟の印象や記憶が強く残る分、治った患者の印象は薄くなります。しかし、完治する患者も多いのが大腸がんなのです。
——確かに、治った患者の多さは考えたことがありませんでした。
さらに、胃がんや食道がんのように、急に発生して広がったり、短期間で命が奪われたりすることが少ないがんです。多くはポリープ(腺腫)から徐々に大きくなり、比較的長い時間をかけてがん化します。
大腸内視鏡で検査する際に、クリーンコロン(がん化する前のポリープを全て、内視鏡で切除して、結腸をきれいにすること)を行えば、かなりの割合で発症率や脂肪率が低下します。ある意味、予防も可能ながんといえます。
複数の診療科を行き来して治療
病院では、内科で化学療法を行い、腫瘍を小さくしてから外科手術に臨むなど、多くの患者は複数の診療科を行き来します。
また、肝臓や肺への転移も多いため、肝臓外科、呼吸器外科の専門医に診てもらうことも大切です。放射線も有効であるため、放射線照射の設備があると、治療のメリットにつながります。
そのため、ステージⅢ以上の患者なら、がんセンターや大学病院など、幅広い診療科がある医療機関を紹介されて受診できると、さらによいでしょう。
取材 💉 こぼれ話
〝神の腕〟より
漫画『ブラックジャック』で描かれた、〝神の腕〟を持つ天才外科医にあこがれて、医師を目指したという沖先生に聞いた。
——やはり手術では、外科医の〝腕〟は、大きなポイントでしょうか。
「実は、標準レベルの腕があれば、それ以上の技術があったとしても、患者の生命予後に差は出ないと言っても過言ではありません」「腕がよいに越したことはなく、技術が未熟なのはもってのほかですが、手術では、アクシデントや合併症を極力起こさないことが、何より大事なのです」
——アクシデント?
「アクシデントや合併症は、いったん発生すると、患者の容体や、それこそ生命をも大きく左右しかねません。その発祥のリスクは、〝神の腕〟をもっていてもゼロにはできないからです」
◇
一時的な人工肛門の増設、術前術後の食事や運動などで、合併症のリスクを減らせることは少なくない。
医師や看護師とのやりとりでも、思い込みや好き嫌いを排して、積極的にリスクを減らそうとする患者の姿勢は、自身の命を守る盾になるという。(聰)
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