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October 23, 2025
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カテゴリ: 文化

恐竜 のありえない運動能力

佐藤 拓己

時速 40 キロで走り続ける

世界最高峰エベレストに無酸素で登頂すれば、世界的なニュースになります。それは、 8500 ㍍より以上は人の生存を許さない非常に過酷な世界だから。 8000 ㍍より上の地域は「デスゾーン(死の地帯)」といわれ、酸素濃度は 7 %程度、気温はマイナス 30 度、風速 30 ㍍の強風が常に吹いています。

そんなエベレストの山頂をアネハヅルの群れが悠々と越えていくのです。渡り鳥のアネハヅルは、チベットからインドへ向かうため、エベレストの上空を飛んでいきます。どうしてこんな運動が可能なのでしょうか。

実は、鳥たちは、低酸素に適応するため、遺伝子レベルから、細胞、臓器、骨格に至るまで、全て作り変えてきたのです。その結果、低酸素でも持続的に運動が可能になったと思います。

低酸素への適応こそが、鳥と獣脚類を理解するカギです。三畳紀の初期獣脚類の爆発的な進化もこのことから理解できます。これこそが、古生物学者が今まで述べてこなかった重要な課題なのです。私はこの課題に引かれます。

鳥の祖先である獣脚類は、酸素濃度が 10 %でも持続的に運動できる〝スーパーアスリート〟でした。 2 2000 万年前に登場した初期獣脚類のコエロフィシスは、持続 30 40 キロで走り続けていたと考えています。 100 ㍍の世界チャンピオン、ウサイン・ボルトの記録に匹敵する速さで、何時間も走り続けることができたのです。しかも酸素が現在の半分しかないのに

現在の鳥は、この初期獣脚類が獲得して運動能力を受け継いで、空を飛んでいるのです。そんな鳥や獣脚類のすごさを知ってもらいたく『恐竜はすごい、鳥よりももっとすごい 』(光文社新書)を出しました。

ミトコンドリアを活性化

低酸素に適応する体に

効率よくエネルギーに

低酸素状態に適応するために、どのような変化があったのでしょうか。話は 2 5000 万年前までさかのぼります。恐竜が反映するジュラ紀や白亜紀のさらに前、三畳紀のことです。

この時、 PT 境界と呼ばれる大絶滅が起きます。酸素濃度が 30 %から 10 %程度まで低下し、動物の大部分が死滅。生物種の 95% 以上、個体数では 99 %以上が死に絶えたと考えられています。

酸素濃度 10 %というのは、標高 6000 ㍍地点と同じ酸素量です。富士山頂よりも酸素濃度が低く、数十メートル歩くことさえ厳しい。ちょっと動いても息苦しさを覚えます。

しかも二酸化炭素濃度が、低くても 2000ppm (現在は 350ppm )以上もあるため、温暖化が著しく、昼には 40 度以上になり、夜でも 30 度はあったと考えられます。熱中症になりやすい哺乳類は、この時期、必要以上に迫られて、夜行性を身につけたのでしょう。

一方、獣脚類は、多くのゲノムを切り捨て、〝スーパーミトコンドリア〟を誕生させます。鳥が持つスーパーミトコンドリアは、哺乳類の持つミトコンドリアよりも酸素消費量が高く、活性酸素合成が低く、脂肪合成が低いのが特徴。

スーパーミトコンドリアによって、鳥は、活性酸素をつくらずに、常にフルパワーで運動が可能になったのです。つまり、取り込んだ酸素を効率よく運動に仕えるため、低い酸素濃度でも飛ぶことができるのです。

余力を使って飛行能力

鳥のゲノムは非常に小さく、人間と比較すると 3 分の 1 程度しかありません。さらに、初期獣脚類のヘレサウルスが 56 %であることから、おそらく三畳紀前半 2000 万年の間にゲノムの多くを失ったのだろうと考えられます。

鳥はインスリン感受性がほとんどないことから、三畳紀に失ったゲノムの中に、インスリンを働かせる遺伝子があったのでしょう。実際、鳥は数十に及ぶこれらの遺伝子を失っています。

インスリンは血糖値を下げるホルモンとして有名ですが、他にミトコンドリアを抑制することが知られています。鳥はインスリンが働かないため、ミトコンドリアが常に活性化され、酸素を使って大量にエネルギーを出すことができます。これがスーパーミトコンドリアの正体です。

酸素濃度が高いペルム紀に進化した獣弓類(哺乳類の祖先)は、低酸素ではエネルギー生産が抑制されてしまいます。それに対し、獣脚類の場合は、低酸素でも大量にエネルギーをつくり出し、強度の高い運動を何時間でも持続できるように進化したのです。

さらに時代が下り、ジュラ紀後期になると酸素濃度が上昇していきます。低酸素下で高い運動能力をすでに獲得していた獣脚類には、酸素濃度の上昇によって、大きなエネルギーの余力が生まれることに。その余力の行き先は三つです。

一つは巨大化。ティアノサウル巣のように、体を大型化して瞬発力を高めました。二つ目は、ドロマエオサウルスやベロキラプトルのように、体は小型のままで持続して走り続けられるようになりました。三つめが飛行。アーケオプテリクスやミクロラプトルなど現在の鳥につながる系統なのです。=談

(東京工科大学教授)

さとう・たくみ 1961 年、岩手県生まれ。 東京工科大学応用生物学部教授。 専門は神経科学、抗老科学。著書に『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命』『ケトン体革命』などがある。

【文化 Culture 】聖教新聞 2025.3.6






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Last updated  October 23, 2025 05:18:13 AMコメント(0) | コメントを書く
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