開高健



編集者たるもの本は週に二、三冊は読め。文豪は冒険小説の類から純文学まで猛烈なスピードで読んでいた。私も驥尾(きび)に付していまでも読み飛ばしている。

「耳をたてろ」
一日一人は必ずそれなりの人物に会い、情報、アイディアを聴け。人脈こそが編集者の命綱なのである。

「眼をひらいたままで眠れ」
あっと驚くひらめきは、ベッドのなかでときに趨る。だから私はノートとペンを枕元において、なんでも書きとめておく。

「右足で一歩一歩歩きつつ左足で跳べ」
編集者に大切なことは連想飛躍である。

「トラブルを歓迎しろ」
仕事をバリバリやっていれば、必ずトラブルが発生するものだ。光より速く当事者と対面するのが最善の策である。とにかく逃げないことだ。

「遊べ」
遊んでない編集者はすぐ老いて行く。遊戯三昧にこそ人生の真実が宿っている。

「飲め」
酒を飲んで酔いしれると、おたがいに許し合える。相手のふところに入りやすい。

「抱け。抱かれろ」
男と女のように淫し合う関係にならないと感動的な凄い仕事はできない。

「森羅万象に多情多恨たれ」
いかなることにも人一倍好奇心をもって熱くなることだ。

「補遺一つ。女に泣かされろ」
私をちょっぴり愛してくれ、私が一生懸命愛した女たちが、きっと私を少しずつ磨いてくれたと信じている。



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