飲酒運転~忘れてはいけない手紙


S町の国道で38歳の会社員が酒酔い運転で追い越しをかけ、対向車と正面衝突し双方とも死亡した。この酒酔い運転の家族は妻(32歳)と5歳と3歳になる二人の子どもがおり、それまでは明るい平和な生活を送っていたが、この事故により一瞬にして幸せな生活が崩れ去り、前途を悲観した妻は、某警察署長宛に遺書を残し可愛い二人の子どもを道連れに自殺した。これはその時の遺書である。


私は、もう生きていく根気も力もなくなりました。
署長様、ご承知のように私の夫も死にました。そして相手の人も死にました。
夫は自業自得でありましょうから如何様にも責められてもしかたありません。
でも、あとに残った私と子ども二人まで責任があるのでしょうか。
私に財産がたくさんあれば、ご遺族の方の気の済むように弁償したいと思います。いくらお金をあげたからと言って亡くなられた人の命を元通りにすることは出来ませんが、でも私には何もありません。
それでも将来家を建てるために貯金していたお金が97万円程あったのでございます。それで私はこのお金とテレビ、冷蔵庫、洗濯機、洋服ダンス、時計、指輪、夫の洋服等も売りました。
代金23万円と併せて120万円をお見舞い金としまして、また夫の退職金をも全部差し上げる条件でご遺族の家に持って行ったのでございます。
ご遺族のご両親は「こんな少額で納得できないからもっとお金を出しなさい」と申します。私はこのお金が全財産でございますからこれ以上のお金を調達することはできませんので私の事情を申し上げましたのでございます。
ご遺族のご両親は親戚回りをしても賠償金を出しなさいと申します。でも、夫の親族も私の親族も決して余裕のある生活はしていませんので莫大な金額を調達するのはとうてい出来ないのでございます。
すると次は私に働いて毎月一万円ずつ弁償しなさいと申します。
私のような学歴のない人間に何万もする給料を払ってくれるところがありましょうか。
たとえ就職することが出来ましたところで、弁償金と家賃を払ってしまうと生活費にまでまわすことは出来ないのでございます。
どうして親子三人生活すればよろしいのでしょうか。罪のない子供達と生活だけは近所の子供達と同じようにしてあげたいと思うのは母として当然のことではないでしょうか。
子供達は「お父さんはどうしたの」「なぜテレビがなくなったの」「テレビがみたい」とせがまれます。
子供達は今、すやすやねむっております。これからお父さんのもとに行けるのも知らずに。
署長さん、この小さな子供の命を奪う母をばかな女とお呼び下さい。
でも、子供をのこしたらなら、あとの子供達の生活を考えると哀れでなりません。親子三人でお父さんのもとにまいります。
ご遺族のご両親のおっしゃることは決してご無理なことではありません。
私の夫さえ酒を飲まずに運転していたならば、決してご子息様を死なせずに済んだのでございます。
私と子供二人の命とひきかえに、夫の罪をおゆるし下さるよう、ご遺族のご両親様におとりはからい下さいますようお願い申し上げます。

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