乾いた心を癒す音

乾いた心を癒す音

福は内 1 (レンハル)



  ふくはぁーうち』





「どうした、蓮二。」

「いや何、少し昔のことを思い出していただけだ。」


そう語らっているのは、4年と2ヵ月と15日ぶりに親交を深め始めた2人、乾貞治と柳蓮二だ。

節分のこの日、新たな、そして以前より親密な関係を再開してから、頻繁に訪れる相手によって片付けられている乾の部屋でたまにしか過ごせぬ2人の時間を満喫していた。


「あの日もそんな風に嬉しげに升を抱えていた、とそんなことを思い出したものでな。」


彼は今、きちんと神仏へと捧げられた豆の入った升を手に、部屋の鬼門に向き直ったところだった。


「そうだったかな。
豆播きなんて久し振りだからそんなことまで覚えて無いよ。」

「俺は覚えているぞ。
例えばあの時、今お前が立っている様に、鬼門を方位磁針でたしかめて『鬼はこっちから来るんだ』って必死になって豆をばら蒔いていたこととか…。」


昔を懐かしむ様に薄く笑いを浮かべながら、柳は開かれているのかもほとんど分からない薄目で遠くを見ていた。


「ああ。」

「豆の数が数え年だと言うことを知らずに、俺が一つ多く食べ過ぎた、福がこないと真剣に悩んでいた姿とかな。」

「うわ。そんなことあったか?
俺自身さえ覚えて無いのに。」


覚えていないからなおさらに恥ずかしいのか、苦々しげに笑いを浮かべては乾はそう答えを返した。


「それに…福は内…と互いに豆をぶつけあったりもしたな。」

「そんなこともあった…ね。」


2人の声のトーンが落ち、その場がにわかに静かに陰りをみせる。


「離れていた間ずっと、お前との思い出ばかりを追っていた。
ことあるたびに総ての出来事がお前を思い出させていた。」

「俺は、…思い出すのを恐れてたよ。」

「貞治。」


苦しげに言葉を詰まらせるその姿に、軽く手を伸ばし、自分の側に来ることを促し優しくその名を呼んでやる。

その言葉に、ベッドに腰掛けた彼に向かい合う様に、乾は距離を詰めた。
自然、乾は柳を見下ろす形になる。

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