乾いた心を癒す音

乾いた心を癒す音

バレンタイン論争 1(乾総受け)


「なんだ。それに重いよ英二。」

後方からの声とともに体に掛かるGに、しかしそれに慣れきっている乾は、少しよろめくだけで動じることなく声の主に返事を返す。

「今日はなーんの日だっ!」
「それくらいは俺だって知っているよ。
バレンタインだろ?」
「そう!あったりー。」

乾に自分の体重を預けながら、彼はころころ笑う。
そして、自身の手を彼の肩越しに前で重ね合わせる。手のひらを上にして。

「でね、乾。」
「…なんだ?この手は。」
「えー、俺にチョコ無いのー?」

彼の頭の中では自分の手の上に載せられるはずであったチョコレート、それが存在しないという事実にブーイングをあげる英二に、乾は聞き分けの悪い子供に対するように笑って話しかける。

「ある訳ないだろう。
俺がそんなもの部員に配ってたらへんだろう。」
「部員にじゃなくて、だから俺に。」
「だから…男の俺がお前にチョコを送る理由がどこにある。」
「ちぇー。」

英二の不服そうな言葉に乾は理解できないというように溜息をつく。

「いいじゃないか、大多数の今日が地獄の一日になるやつらと違って、俺なんかにせがまなくともたくさんの女子からチョコ貰えるだろ?」
「乾からほしかったのー。」
「しょうがないな。…ほら、そろそろ離れないと。
部活サボってるから…手塚がにらんでるよ。」

そう乾に促され、そちらに視線を泳がせると…鬼の部長と呼ばれるにふさわしい形相でこちらを…正確には乾に公然とセクハラを行い、しかも乾にそれを許されている(というよりは注意しても仕方なしとあきらめられているのだが)菊丸英二をにらみつけていた。

それはもちろん、彼が行えば「やめろヘンタイ。」の一言で引き剥がされるであろう行為で、だからこそ彼は菊丸が許せなかった。
また、その横ではバンダナを巻いた後輩がこれまた「蛇のひとにらみ」と評すべき冷たい視線を向けていた。

だが、いつも乾に「ヘンタイ」と斬って捨てられている部長はもちろん、蛙でもない英二は二人を恐れる風も無く、これ見よがしに

「やー!これは乾がチョコくんなかった罰だもんねー。」

とさらに彼にまとわりつき、後ろから彼の首筋にぐりぐりと頭をこすり付ける。

そこに現れたのはこの部の…いや青学の影のドン、不二周助である。

「そう、乾のいうとおり、いい加減離れなよ、英二。」

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