◎河竹豊蔵 同人雑誌「果樹園」

◎河竹豊蔵 同人雑誌「果樹園」

果樹園11号「死の夢」

果樹園11号なんの事やら、粗末な話(2)から

四「死の夢」

 私は、死んだ。確かに、死んだ。私には、死ぬ瞬間の感触が残っている。私は、
白装束の姿で、右手に短刀を持ち、思い切り腹を左から右へ一文字に、かっ切った
。グニョ、グニョと、あたたかい腸が出た。目の前は、ただ白い。
 それから、空気が欲しくて、息を吸う。もう、横隔膜は、活動が停止したのか?
私は、息が吸えない。身体中が痺れる。激しく痺れたが、やがて快感となり、死に
対しての抵抗が奪われた。そして、確かに、頭の血の流れが、プッツと切れた。
 私の身体から、何か空気中に浮き上がる。次の瞬間、自分を、見ることができた
。私は、自分の顔を、マジマジと見た。そして、『自分を抱きしめたい』、『もっ
と、生きたい!』と切望した。
 戻りたいと思った時、私の首が、地面に落ちた。私は、目を開いた。私は、自分
の首のない胴を見た。
「終わった」
 死んだ私は、もう生き返る事ができない。そして、目の前が、真っ白になり、全
てが消えた。
 目が覚めると、夢だとわかっているのに、お腹の中が、グニュ・グニュする。生
きている間の想い出も、夢と同じように、消え去ってしまう。誰にも知られたくな
いが、年老いる私に涙が出る。もっと、生きたい!

    同人雑誌「果樹園」第11号より 2008年9月10日発刊

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