かをのひとりごと

かをのひとりごと

シー オブ デスティニ-


僕   物語の主人公 ギター兼ボーカルを担当 バンド時の名はメル
シーナ (メル&シー)のボーカル担当 謎の少女
カヲル (メル&シー)のドラム担当 女性
カノ  (メル&シー)のベース担当 こちらも女性
??? 夢に登場する女性 僕はシーと呼んでいる


ここから本編に突入・・・


シー オブ デスティニ- 序章(第1話)


月は何色に見えるだろうか?

僕は幼少の頃から月が黄色と青色に見えていた
当然、皆がそう見えているのだと思っていた

だが、普通の人は月には色は無いと答える
どうやら僕だけが特殊だったようだ
それ以来、人に月の色を聞くのが習慣になってしまったが、
未だに同意権の人とは出会えていない


そして月の色にはある法則性があることに気がついた

黄色に見えるときは特に問題の無い普遍の色といえるのだが
青色のときは何故か悲しい出来事が起こることが多い

僕が占いに興味が無いのは
月を見れば予想がついてしまうからだ

沈黙のイエローと悲しみに満ちたブルー
僕の運命はこの2つの色に集約されていると言ってもいいだろう

ふと、夜空を見上げてみると
そこには無常にも青色の月が輝いていた

また何かが起ころうとしている・・・




シー オブ デスティニ- 接触(第2話)


真っ暗な所だ

僕は走って明かりを探すが見つからない
くたくたになって倒れこむと
いつの間にか側に女性が立っている

二十歳前後の髪の長い娘は
僕に何かを囁いている

しかしその言葉は僕には届かず
やがて意識は遠のいていく・・・


汗だくになりながら目が覚める

「またあの夢だ」

最近青い月のときに同じ夢を見る
夢に出てくる謎の少女
僕は彼女をshe(シー)と名付けた

「シー、キミは何を伝えたいんだ?」

毎度同じ夢を見ることに戸惑いを感じながらも
次第にシーにひかれて行く自分がいた


強い思いは奇跡を起す
しかし
物事は必ず良い結果になるとは限らなかった・・・




シー オブ デスティニ- 困惑(第3話)


仕事を終え、今日も夜の路上でギターを弾く
演奏が終わると同時に、声をかけてくるギャラリーが1人

「キミ ギター上手だね!」

ふと声の方を見る

そこには、夢の中の少女とそっくりの女性が立っていた

「シー!」

僕は叫んだ!が、困惑する女性の顔を見て我に返った
そうなんだ、シーは架空の存在なのだった
けれど目の前の女性はあまりにもシーに似ている
と、
そのとき、女性が声をかけてきた

「キミ、私たちとバンドやってみない?」

あまりにも突然の出来事に驚いたが
僕はすぐにOKの返事を出した

夢の少女に似ていいる子との偶然の出会い
ひょっとしたら、これは運命なのかもしれない・・・
希望という名の、運命




シー オブ デスティニ- 確信(第4話)


夢の中に出てくる少女にそっくりの人であり
僕をバンドに誘ってくれた人
彼女は自分のことを”シーナ”と名乗った


数日後、腕前を見たいからと
小さな地下のライブハウスにつれていかれた

僕はありのままの演奏をしてみた
するとシーナが即興の歌詞で歌を合わせて来た

驚いた、愁いを帯びたシーナの唄は
聴いているととても悲しい気分になる
今弾いている曲は明るい感じの曲だったのだが・・・

曲が終わると大きな拍手が沸き起こった
どうやら僕の演奏はメンバーに受け入れられたようだ
その後新メンバーの歓迎会を行うことになった

「アタイはドラム担当の”カヲル”だ、よろしくな!」

「私はベース担当の”カノ”です、よろしくどうぞ」

「そして私がボーカルの”シーナ”だよ」

そうなのだ、メンバーが僕以外全員女性なのだ
僕はここにいていいのだろうか?
なんだか不思議な感じがした

・・・
帰り道にふと夜空を見上げてみる
ぽっかりと黄色い月が浮かんでいた

「今日は黄色い月か・・・」

ひとり言をつぶやいたとき
シーナが驚いた様子でたずねてきた

「キミも月が黄色に見えるんだ!」

よくよく聞いたらシーナも月が黄色と青に見えるらしい

この言葉を聞いて僕は悟った
僕の探していた人はこの娘だったんだ!

そう僕は確信した・・・




シー オブ デスティニ- 真実(第5話)


真っ暗なところにいる

不意に現れた髪の長い娘が、僕に何かを囁く

「・・私と・・・」

「シー!いや、君はシーナなのか!」

叫び声もむなしく響き、やがて意識は遠のいていく・・・


汗だくになりながら目が覚める

またあの夢だ
声が少し聞こえたようだが、いったい何を言っていたのか?

まだ暗かった空には青い月が出ていた・・・


ギター兼ボーカルの僕が加入したことによりダブルボーカルとなり、バンド名が「メル&シー」に変わった
僕達は親しみをこめて「メルシー」と呼んでいる

新たな岐路を迎えたメルシーだが
いきなり問題が起こる事となった

「カヲル、シーナはまだか?」

「さあな?」

「・・・カノ、シーナは?」

「今日はお休みじゃないかしら?」

そう、メインボーカルのシーナが練習に姿を見せないことが度々起こった
こんなことでは、1週間後に控えた合同セッションが
ベストな状態で迎えることができなさそうだった。

「連絡はつかないのか?」

「あいつ電話が嫌いとかで、携帯持ってないんだよな」

そのときカノが近寄ってきたかと思うと
何か紙切れのようなものを渡してくれた

「そこの住所に行ってみて、さすがに私たちも心配だから」

「サンクス!」


僕は紙に書かれた住所まで行ってみた

お世辞にも綺麗とは言えない安アパートを発見
そこの2階にシーナは住んでいるという

(こんこん)
「ごめんください」

・・・返事は無い
ふと、ドアノブに手をかけると
まるで僕を招き入れるかのように簡単に開いた

「シーナ、いるか?」

部屋に入ったとき、僕の目に飛び込んできたものは・・・




シー オブ デスティニ- 混沌(第6話)


~今回はキツイ表現が含まれています
 気分の悪くなられた方は直ちに読むのを止めてください~



一緒にいないと、見えてこないものもある
それは逆に
見たくないものもまた、見えてしまうということだろうか・・・


部屋に上がりこむと
うつ伏せになっているシーナを発見した

そして側には
大量の、病院の薬らしき袋が散乱していた

全部・・・飲んだのか?

急いで救急車を呼ぼうとすると
入り口に年配の女性が立っていた

「あんた、誰だい?」

年配の女性はドスの聞いた声で聞いてきた

事情を説明し、程なく救急車がアパート前に到着した


年配の女性はシーナの母親だった
きけば、シーナは極度の精神病で
毎日薬を飲んでいたという

「じゃあ今回は何故こんなことになったんです!」

「この子はいつも自殺願望があったのさ
 こんなことは1度や2度ではないよ
 今回は見殺しにするつもりだったんだけどね」

シーナが自殺?
いつも明るいシーナからは想像もつかなかった


母親から語られる驚愕の事実
シーナの過去には、いったい何があったのか?
この頃の僕はまだ、無知なままだった・・・




シー オブ デスティニ- 過去(第7話)


たとえ実の子供であっても
極限の状態に陥ると
殺意を抱くことがあるのかもしれない・・・


「こんな子、産むんじゃなかった」
シーナの母親はいつまでも、ぼそぼそとつぶやいていた・・・


シーナの誕生は決して望まれたものではなかった
それでも母はシーナを育てようと努力した
しかし
若すぎた母子にとって
現代を生き抜くことは容易なことではなかった

シーナが10歳の頃
母の知り合の男性と暮らしていた
酒癖の悪かったこの男は
度々シーナを殴りつけていた
この頃からシーナのココロが壊れだしたのだろうか?

中学の頃は思い出すのもおぞましい
友人、教師、恋人からの裏切りの毎日
サラ金からの催促の電話
そんな状態が続いたせいか
医者からは
極度の精神病と診断される

そして高校に入学するとさらにココロの状態は悪化
度々起す自殺未遂のため
退院しては入院の繰り返し
莫大な治療費と、看病疲れが重なり
一時はわが子の首に手をかけそうになったこともあったらしい

そして、現在に至る・・・

この人がもし、シーナを産まなければ
月並みに結婚をし、幸せな生活を送れたのかもしれない

そう思うと
シーナに異常なまでの憎悪を抱くのも不自然ではないのかもしれない・・・

病院に着いたシーナに緊急手術が施された

数時間後
手術が成功した事を聞くと
僕は急いでメルシーの連中にこう伝えた

「シーナはとても唄える状態じゃない
 今度の合同セッション、ボーカルは代役を立てよう」

今はただ、シーナの安否を願うばかりだった・・・




シー オブ デスティニ- 交代(第8話)


あれから数日が経った
今日もシーナを見舞いに行くが未だに昏睡状態が続いている

「ひょっとしてもう目覚めないのかもしれないのか?」

嫌な思いが脳裏をよぎる
無理も無い、僕は焦っていたのだ

代わりのボーカルなど早々見つかるはずも無く、
このまま中止にするしかないとさえ思えた

イラつきながら乱暴に椅子に座り、考え込んでいたとき
窓の方から歌声が聞こえてくる
どうやら屋上から聞こえてくるようだ
シーナに似たハスキーボイスの歌声
僕はある閃きを感じ急いで屋上に行ってみた

そこには
楽しそうに歌っている女性がいた
やはり、この歌声はメルシーの楽曲に合っていると思ったとき
彼女の歌は終わった
僕は拍手をしながら、歌い終わった彼女にこう告げた

「バンドのボーカルをやってみる気はない?」

戸惑う彼女、それもそのはず
格好から察するに、この病院の患者・・・
つまり彼女は病人なのだ

「3分だけ歌ってくれればいい、君の歌は本物だから!」

必死の説得が項を奏したのか
彼女は黙ってうなずいてくれた


「少し音あわせをしてみたいんだけどいいかな?」

僕はカノとカヲルに電話をして病院に機材を持ち込んでもらった
屋上は、あたかも特設ステージのようになっていた

「お♪」

「なかなかやりますわね!」

メルシーの連中も彼女の歌声を気に入ってくれたようだ
彼女らの音についてこれるとは、
やはり彼女は本物だった

「私、私の名前は枝羅(しら)と言います
本番では精一杯歌わせていただきます」

「しら、だったらバンドでの名前はシーラで決定だな」

「あら、それいいですわね」

それぞれの親睦が深まる中
僕は本番のステージは間違いなく成功すると確信した


しかし
この選択が最悪の結果を招くことになろうとは
誰が予想しただろうか・・・




シー オブ デスティニ- 復活(第9話)


合同セッションの日がやってきた

シーラを呼びに病室の前までやってきたとき
ベッドに乗せられた彼女が手術室に運ばれるところだった

「一体どうしたのですか!」

側にいた看護士さんに聞いてみる

枝羅に発作が起こったのよ
だいたい、あなた達が連れまわすから病状が悪化したんだわ!

なんということだ
みんな僕のせいなのか?
僕がバンドに誘ったばかりに・・・

僕は肩を落としながら会場に向かった

「よう、遅かったじゃないか」

「シーラはどうしたんですの?」

僕は事のいきさつを説明した

「すまない、みんな
 僕が彼女をボーカルにしようとしなければこんなことには・・・」

「どうするんだ、もう始まっちまうぞ!」

カヲルの罵声が飛ぶ

「仕方ない、このまま行こう」

メインボーカル不在のまま僕達はステージに向かった


ボーカルがいないことでどよめく観客席
それもそのはず、シーナの歌声目当てで来ていた人も少なくないからだ

「ダメだ、仕方が無い」

僕は観客にお詫びの声明を言おうとしたときだった

「こんばんは、メルシーです!」

僕は目を疑った、目の前にいるのは間違いなくシーナだった

「みんな、行くよー!」

慌てて演奏を始めた
間違いない、唄っているのは本物のシーナだ!

曲のほうはほぼ完璧に終了
こうして大成功のうちに幕は下りた


「シーナ、大丈夫か?」

「心配したぜ、このヤロー!」

「ホントですわ」

「みんな心配かけてごめんね」

シーナはぺこりとお辞儀し、それと同時にふらついた

「本当はまだ安静中なの、病院に戻らないと」

僕達は打ち上げもそっちのけで、シーナを急いで病院に連れて行った

そして病院で僕達を待っていたのは
シーラの死という悲しい知らせだった・・・




シー オブ デスティニ- 覚醒(第10話)


突然目の前に突きつけられた悲しい現実を
僕は未だに
認めることが出来ずにいた・・・


僕は今日も路上でギターを弾いていた
悲しみを紛らわそうと、いろいろやってみたが
結局自分にはこれしかなかったからだ

「あ~やっと見つけた!」

声をかけてきたのはシーナだった

「最近全然練習にも来ないから心配してたんだよ」

「もう構わないでくれ!
 僕は、自分のわがままでシーラを殺してしまったんだ
 そうさ、僕は人殺しなんだ!」

「それでも・・・キミは悪くないよ」

シーナは囁くように僕につぶやいた

「あの子は最後に
 自分の歌が認めてもらえてよかったって言って死んでいったんだよ
 最後に生き甲斐を与えてくれたキミを
 感謝することはあっても、恨む事なんて絶対に無いよ!」

「そうか、シーナは優しいんだね」

「困ったことがあったらいつでも相談に乗るから
 また一緒に音楽をやろう」

それ以来シーナは僕にとても優しくなった
他人が見たら、まるで恋人同士に見えたかもしれない
でも、僕にはこの幸せが
他人を犠牲にしてまで手に入れたこの幸せが怖かった
そして
シーナが優しくすればするほど
シーラを殺した罪悪感が増大していった・・・


「そうだ、この街を出て行こう
 誰も知らないシーナもいない町で
 また、一から始めよう」

僕が考えに考えた末の結論だった


翌朝の早朝
誰にも出会わないように、足早に駅に向かった

「まだあの子のことが忘れられないんだね」

朝もやの立ち込める駅の改札に
シーナはいた

「なんで・・・ここが」

「そんなに忘れられないんなら、私が忘れさせてあげる」

唇が触れそうなくらい顔を近づけてきたかと思うと
恐ろしい力で僕の首を締め上げてきた・・・




シー オブ デスティニ- 運命(最終話)


突如起こった予想外の出来事
僕のしたことは、
殺されてもしかたの無い事だったのだろうか・・・


「くっ・・・シーナ・・・どうして・・・」

首を絞められているため声が出ない
が、
不意に首を絞める力が抜けた

「だめ、出来ない!」

シーナは突然泣き崩れた

突然の事で頭が混乱しているが
このままでは収まりがつかないので
事情を聞いてみることにした


「キミはねホントは私が創ったの!
 ホントは私の分身なんだよ!!」

不思議な言葉が彼女の口から出てくる

「シーナ、それじゃ全然わからないよ」

「キミはもうこの世の人ではないの
 事故で死んだ彼を人体蘇生法で蘇らせようとしたら
 術者の魂が必要だって言われて
 半分だけキミにあげたの
 そしたら
 私はココロに異常が出てしまって
 しばらく闘病生活をすることになったのよ
 そして
 いなくなってしまったキミを探していたら
 ギターを弾いているところを見つけたの」

「それじゃ他人のそら似かもしれないだろ?」

「ううん、探していたのは間違いなくキミだったよ
 だって、月が青く見える私の特徴をそっくり受け継いでるんだもの」

僕はハッとした
だから月が青や黄色に見えたのか?


「でもね、この前言われたの
 同じ魂が近くにいるのは良くないって
 このままじゃ2人ともダメになるって言ってたの
 それで
 私はキミを殺すことを選んだの
 でも出来なかった
 最愛の人を殺すことは出来なかったの
 だから
 私は私を殺すことにしたの」

シーナはそう言ったと同時に、走ってきたトラックに身を躍らせた・・・

シーナの死は母親の耳にも届いた
シーナの母親の元にはシーナに使った金額以上の保険金が下りたようだった
でも、シーナの母親はそんなことを望んではいなかったようだ


屈折した愛情が綴った物語
結局シーナの運命とは
最愛の人と一緒にはなれなかったということなのだろうか?

「さて、これからどうしよう?」

ふと空を見上げてみると
黄色い月が上がっている

きっと僕の命は月が青く見える日までなのだろう
そのときまで
僕はシーナの好きだった音楽を続けていこうと決心したのだった

© Rakuten Group, Inc.
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