松谷みよ子の世界

松谷みよ子さん 講演会報告

2002年1月に、松谷みよ子さんの講演会に行ってきました。

松谷さんからは、とても強いオーラを感じました。

そして、お話を聴いているうちに、彼女にとって創作した子どもの本は

そのどれもが、ご自分の人生そのものであることに気付かされました。

だからこそ、深く感動できるのですね。

聴いていて、なんども笑い、そしてなんども涙が頬をつたわりました。

松谷さんはまず、自分の著書以外のとってもお薦めの絵本を紹介し

てくださいました。




◆ 『いちょうやしきの三郎猫』 ◆

 成田雅子 作・絵/講談社/1996年出版


温かい声で、淡々と読んでくださったのですが、

この絵本が、とってもいいんですよ。

今、私の手元にあるのですが、落ちついた色づかいの版画調の絵が、

とってもすてき。

「まいにちいっしょにいたのに、あたし、三郎のこと、なにも知らなかった。」

突然いなくなった猫の三郎をさがして、麻美は“いちょうやしき”へ行きます。

すると、そこで三郎はほうきを持って掃除をしているのです。

そこで見たのは、麻美のまったく知らない、三郎の本当の世界でした。

麻美は、いっしょに暮らしていても、わかっているつもりで、自分は相手のこ

とを何一つ理解していなかったことに気付かされます。

だれかをたいせつに思うことの切なさ・・・。

ほわっとあたたかくて、じんと胸が痛くなる絵本です。

この絵本を紹介された松谷さんは、幼い我が子を抱えながら離婚した

ご自分の夫婦の関係にも結び付けていきます。

いつもいつもそばに付いていられないご自分のお子さんから

「自分のことを本に書いて!」と言われます。

それが 『ちいさいモモちゃん』 のはじまり。

そして松谷さんは我が子の魂の記録を残そうとします。

当然離婚のことも、書かなければいけなくなります。

それは松谷さんにとっては、大変重い仕事です。

なかなか書けない松谷さんに、お子さんは

「お母さん!離婚のことを本に書くのは恥かしいの?」と聞きます。

そして松谷さんはその時、「恥かしくない!」ときっぱり告げるのです。

子どもの本に離婚のことを書くのはどうなのだろうとも悩んでいた松谷さんでした

がその時はきっぱりそう言いました。

まだ4歳ぐらいの我が子が、離婚したお父さんに会った後に、こんなことを言った

そうです。

「パパはオオカミ。淋しい淋しいオオカミ。お口をあけて歩いてる!」

松谷さんはドキッとしたそうです。

そして書いたのが 『モモちゃんとあかねちゃん』

モモちゃんシリーズは、世界各国で翻訳されていますが台湾では

この「モモちゃんとあかねちゃん」の中で、離婚の部分だけははずして

翻訳されているそうです。

台湾では離婚のことを子どもの本に書くことは、まだまだタブーとされている

のです。

また、ベトナム戦争時代、ニュースを見ていて、2~3歳のお子さんが心配

したそうです。

「戦争はどこまでくるの?ここにも来るの?」

お子さんの言葉には、なんども驚かされます。

松谷さんは、言いました。「小さなお子さんでも、プライドもあり、

本当はなんでもわかっているのです。」

そして、「子どもの本を書くときは、必ず子どもの息づかいで

子どもの目の高さで見ていなければなければいけません。」

また、「子どものことを書くときには、すぐに表現するのではなく少し雨風にさら

した方がいい。

そうすると、糸目だけが残るのです。」とも・・・。

この糸目というのは、本当に大切なこと、普遍的なことという意味だと思います。

ご自分がいじめにあわれた時、昔読んだイソップの『子どもとカエル』という

お話が支えとなりがんばって乗り越えてきた経験を持つ松谷さん。

「そんな風に、子どもの本はその小さい体の細胞の中にしみ込んで、生きているの

です。

だからこそ、大人は幼い子どもたちに、たくさんの本を読んであげてください!」

とおっしゃっていました。

最後に、妹がいじめにあって亡くなってしまったという女の子からの1通の手紙か

ら書かれた 『わたしのいもうと』 という絵本を松谷さんが

読み語りしてくださり講演会は終わりました。

じわりと涙が流れ、私はなかなか席を立つことができませんでした。

松谷さんの最新のエッセイ 『小説・捨てていく話』 に、

これまでの松谷さんの思いが載せられています。

おそらく私は、今までとは違った感覚で松谷さんの作品にふれることになるだろう

と思います。

本当に貴重な時間を過ごしました。



© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: