ミイラとオッサン


どうもおかしいぞ!「もしもし、Sさん、悪いけどここの鍵もって管理センターの下で待ってて。いっしょに来てよ、緊急入室するから」とTEL。

 運命の扉が今開かれる。鍵をまわしゆっくりドアを開ける。「●●さん」声をかけるが返事がない。いつものごとくここは、真っ暗状態。ワンルームだけど一歩ふみだす距離が長く感じる。ライトを照らしながら2歩ほど進と、心のなかで「アーァ」と叫ぶ。つらく、悲しい夜の始まりだった。。後ろにいたSさんに「ダメ、死んでる」Sさん、信用せず「どっか行ってるんですかねぇ?」違うってもう旅立っているんだって!「本当に亡くなってるんだよ」「えーーっ」「入ってみる」「・・・・」

すぐに管理部トップのSZさんに電話。「死亡確認です。・・・・・・」
再度入室してよく確認して見る。間違って人形だったら大変だ。匂い?これが全然匂わない。乾燥してミイラ状態、書くのは止めよう。
病死なのかもしれない。警察が来るまでが長い時間だった。

5月10日
 ヤ●●●●の2●●号室、こいつは許せない!幼子3人を施設に入れて自分は男とトンズラ。残った旦那に残存荷物の確認をしてもらい、SMZさんと荷物の整理を・・・。

 魔性の女?ひどい女だと思う。幼子の写真、衣類などをダンボールに詰めチェックをかける。街金からの督促状・簡易裁判所からの出頭命令書などほったらかし。
前の旦那との結婚式の記念写真まで。幸せそうな顔なのに、いったいどこで道を間違えたのだろう・・・。

5月12日
 今日はスーパー滞納者●●荘の●田さんが午後1時に解約書を書きに来た。滞納額を大幅免除するから、今月末で退去して欲しいと・・・。人間前向きになれば意外に素直に解約書を書いてくれる。この手の滞納者は可愛いほうで、金はない、出ては行かないが一番苦しい。管理部のSZさんじゃないけど、もう少し法的対応が早ければキツイ一発を食らわしてやるのに・・・。(ちょっと弁護士さんスローだから)
もうひとつ、●●市まで今日は足を運んだ。サン●ン●●、ここのオヤジもスーパー滞納者だ!午後7時30分チャイムを鳴らすが返答がない。さらにチャイムとノックの連打。「ガチャ」とドアが開く。出てきたのは短パン姿で上はパジャマのオヤジがノソリと・・・。

天下御免の法務部の名刺を差し出し、「ちょっと入れてや」と一言、意外に小奇麗な部屋の中。聞いてみると車のブローカーみたいな仕事。「これだけ滞納額が大きいと返済無理でしょう!」「チョット、あと三ケ月だけ待ってくれんか?8月には全額いれるから」「それは無理な話や。8月何があるねん。」「車の代金が入るんじゃ」「●田さん、今度一筆もらいに来るからもちょといい話聞かせてや」しまいに切れそうになって言ってくるのでここらで退散。

 彼はサラ金はつまんでいないみたいだ。業務上の債務がデカイらしい。


5月13日
 すがすがしい朝を迎えたが今日もビッシリ予定が詰まっている。

午前中は昨日確認しておいた●●アパートのビッグ滞納者。娘の嫁ぎ先に身を寄せている老婦人。管理部のSZさんと同行する。私が強ならSZさんは揉であろう。
飴と鞭の対応ではさすがのビッグ滞納者もたまったもんじゃない。最後は素直に解約書にキッチリ記入。さらに車を走らせ西方面へ。

今日はビッグ滞納者を一発落としたのでSZさんも上機嫌だ。それにしてもこの車マーチは走りが鈍い。女と車は感度の良いほうが乗りやすい。イース●●●●の入居者、ここ3ヶ月程入金がない。
妻とも別れ一人暮らしだが保証人はその妻の母親、迷惑をかけなければいいのにと思いながら再度ドアの前を確認するが、新聞はたまったまま。

「SZさん、入室します?」「微妙ですね、今日は張り紙だけにしときましょう。」ガスメーターと水道メーターをチェックしていったん帰社する。

午後からはもう一つのビッグ滞納者、●●ハイツの繁華街の女性だ。昨年の6月に支払い確約書を提出しながら反対に滞納額が増えている。困ったもんだ。攻めるならここだな。今月末に15万入金出来れば、退去期限は6月末に、出来なければ今月末に・・・。しぶしぶ書いて行った。

午後も良い感じだ。でも、例のメ●●●●●の緊急入室が待っている。多分あの匂いは厳しいだろう。「Sさん、同行してよ」「アッハイ。」「気分悪くなるよ!」「頑張ります。」「うん、じゃ行こうか」彼も好奇心はかなり旺盛みたい。

「ギィー」ドアを開ける。口の中にゆっくりと唾液がたまっていく程の酸味がかった匂い。多分10分が限度であろう。小蝿が頬をかすめる。まずはレンタルビデオのテープをさがす。当社の社長はレンタルビデオのオーナーと知り合いらしく、昨日「報告書をだせ!」とか言ってたから。

その社長からテープリストをもらい部屋を捜すが「無い!」「1本足りないぞ!」「Tさん、デッキに入ってませんか?」電気入れてみる、「電源入るじゃん」イジェクトを押す。ゆっくりとテープが出てくる。

巻き戻してお返し下さい?勘弁してよ。そのままレンタルバッグに突っ込む。続いて身元確認できるものが無いか捜してみる。「ブーン」うるさい小蝿だ。近くにあった殺虫剤を使うが残念、空だ。もう限界が近づいている。いったん廊下に出て新鮮な空気を吸わないと・・・・。「Sさん悪いけど一旦休憩しよう」

年賀状がたくさんきている。どうも名前での運勢判断みたいな仕事をしてたみたい。賀状にも先生とか書いてある。お礼状が多いが身元が判るようなものがない。とりあえず、彼の肌着をさがし病院にもっていかねばならない。運良く新品の肌着があったのはラッキーだった。もうだめ帰社しよう。「あのゴミの山、誰が処分するんですか?」とSさんが聞いてくる。「・・・・・?」



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