影の法務部 外伝


影の法務部外伝

「やってくれないか?」
「3ヶ月で半分の数字に落として欲しい!」
社長と常務に呼ばれてきた会議室。ふたりの役員は困ったように
私をみている。

「滞納の数字はご存知なのですか?」
「管理部のS君が入院している今、どんどん増えている。」
「彼が全部していましたからね。」

「T、やってくれないか?」常務が再び重く、口を開く。
彼とは幼馴染である。彼の誘いもあって今の私がある。
彼のために、また好きな社長のために動くのはたやすい事だった。

「3ヶ月とは、難しいご注文、いやご命令ですね。」
短期間での成果は当然あげねばならないが、額が大きいだけに困惑した。

「いや、せめて管理部のS君が入院する前ぐらいの数字に戻して欲しいのだ!」
「彼も、もうじき退院でしたね。」

「そう、それに君にはもう一人スペシャリストをつける。」
「単月滞納者を落とす、Hさんですね。」
「そうだ、彼女なら前回のキャンペーンで最も優秀な成績をあげている。」

「T、おまえなら3ヶ月で大丈夫さ!」
「簡単に言うな!」
「そうそう、その調子で。やっぱり凄むとカッコ良いなぁ!」
勘弁してくれH常務の凄みのほうが社員に恐れられているのに。

「出来る限り努力してみます。」
「頼むよ!」
「法務部として、特命で!」

滞納督促システムは管理部のSさんの作成したものがあった。
充分すぎるくらいに整っている。時間的な余裕がなかったのだろう。

私のターゲットは長期滞納者、悪質な奴が多い。
彼らは常に言い訳を考えている。隙をみせるわけにはいかない。

動かぬ証拠や履歴を突きつけないと落ちてこない。
リストがあがって来た。
とりあえず担当者毎に物件をわけてあり、そのコード毎にリストが
PCより出力される。
物件リストをみていると古い物件が多い。
長年住んでいる人もかなりたくさんいる。
どうやら、かなり厳しい戦いになりそうだ!


「Tさん、この人全然連絡がつかないのですが・・・・?」
「いくつの人?若いの年配?」
「若いですよ27歳。出身は北海道。」
「ちょっと調べてみるか?」

暗いマンションの一室、都会の中のビルに挟まれたワンルームマンション。
そう、連休明けの事件である。

死亡していたのは、
27歳の若い男性、連絡がつかなくなって2ヶ月半、入金は、母親からだった。
それが途絶えてしまった。忘れていたのだ。結果、緊急入室だった。

新聞はドアの新聞受けに山のように重ねられている。
その量はゆうに50センチは超えていた。電気メーターもしっかりとまっている。

キーを差込、呼びかけながら一歩ふみだすとが、本当に暗いマンションなので、
回りが見えない。
『ライターを灯そう』ほの暗い部屋がぼんやりと浮かびあがる。

散乱した衣類、6畳ぐらいのワンルーム、その中央に布団が、そしてその上には、
『ウッ!まずい!死亡している。』

口をカッとあけて死後硬直している。暗闇に白い歯が光ったように見えた。
密閉度の高いマンションだったのか腐敗していない。肌は黒ずんでおり
ミイラ化していた。一瞬、窓越しにフゥっと光が飛んだようにみえたが・・・。
知らずに手を合わせていた。

処理がすべて終わったある日、御坊さんを連れて御経をあげにいった。
なぜ、孤独な死だったのか、都会の片隅に埋もれてしまった残念な出来事だった。


 北陸の地、加賀百万石金沢は飲み屋の数も人口密度からするとかなり
有数である。
この頃は待ちでなくて外に出て馴染みをひっぱって来る。

「ご無沙汰ねぇ!」
「いつみてもいい女だな。」

「見てもいいのは夜だけよ!」
いや、多分スッピンでも誰もがふりむくだろう。

「よっていかないの?」
「一人でいってもなぁ」
「来て!」今日は強引だ。

「何か話しでもあるんだろう?」
彼女の店は人気が高い、理由?簡単だ、どこからともなく女の子が
涌いてでてくるからだ。

上手く連絡をとっているのか、常備待機していない。お客の人数に
あわせて女の子の数がふえるのである。
「話?うん、積もるほどあるわ」

彼女はこの店のチィママ。一際華やかである。
当然一人だからカウンターにすわる。手馴れた手つきで水割りを作る。
その指を見ているだけでマイってしまう殿方も多いらしい。

「ちょっと、ユミちゃん来て。」
彼女が呼んだ女性もこれまた男こころをくすぐるような顔立ちである。
金髪のショートヘヤーが美しくなびいている。かなり垢抜けているので
生活にも苦労は感じられないが何処か不安げな面持ちである。

「彼女、東京にいたの。今回地元で働く事になって、
 それでアルバイトで、ねっ。それに、今彼氏もいないの。」

「俺に紹介しているの?」
「何バカ言ってるの!私じゃ不満?」

「オイ、誤解を招くような言い方はやめてくれ。手だって触ったことないのに。」
「そう、この人純だから安心よ!」

「で、先に進めよ!」
「実は変なストーカーに絡まれているの。」

「なら警察だろう、俺はしがない会社員だぜ。」
「だって頼りになるもん。」

チョット待てよ、黒服のほうが余程頼りになるだろう。
「今度会う事になっているの、それで一緒について行って欲しいの。」

「なんで俺なの?」
「だって法務部の名刺もっているから法律でへこまして欲しいの!」
法務部と言たって法律家でもないのに困った奴だ。

頼むからお願いするような瞳を注ぐのは勘弁して欲しいと思いながら、
「どんな奴なの?」しまった聞いてしまった。

「会社員風な人、年齢はお客さんぐらい。PCお宅見たい感じ。」
俺ぐらい?そう言えば、彼女ゲームに出てくる主人公のような顔立ち。

「何かされたのか?」
「何もしないで付いて来たり、マンションの前で待っているの。」

「いつ、会うんだ?」アーア、また聞いてしまった。
となりでチィママが嬉しそうに笑顔をつくる。

「ちゃんとご褒美用意しちゃう。」
「年間ボトル無料券か?」
「温泉旅行はいかが?」

「君とか?」
「そう、私じゃだめ?」
「君にはパパがたくさんいるだろう。」

「じゃ、ユミとは?」ショートカットの美少女タイプが口をはさむ、

「ダメヨ!子供は!」

「誠に残念だがご遠慮願う。もっとお願いが大きくなったらこちらが困る。」

「女こころが解からなくなっているでしょ!」

変りやすいのはよく解かっているけど。

        つづく。



© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: