グーグル・アース（５）
ふと、長く会わない友人の事を想い出した。そして、グーグル・アースで彼の自宅が一体どういう風なものなのか観てみようと想って年賀状を取り出してみた。グーグル・アースを起動して住所をインプットしてみると直ぐに航空写真が現れ、次第にズームアップされて行く。彼のその家には行った事がない。彼が結婚して年賀状をくれるようになって以来、転勤の度に点々と引っ越しを繰り返した結果の最終的な家だ。大都市の近郊で、近くには田園や丘陵地帯が観える。屋根が観え、住宅団地の様子が分かって来た。ボクの住む住宅団地と同じような大きな団地である。大学もある。新築して未だ数年しか経たないから周囲には空き地が多い。ひょっとして、彼もその辺りを毎日ウオーキングしているのかも知れない。
GoogleEarthによる、住宅団地（１）。近くに大学が観える。
年賀状には単なる新年の挨拶しか書いてないから、多分健康なのだろうと想う程度だ。そういう推測しか出来ない関係だが、数年前には彼も含め、高校の同窓生数人で温泉旅行をした事があった。だから今も変わりは無いと想う。彼は公務員だった。ボクと違って定年まで居て、その後は大学教授になった。頭の良い男で、努力家でもあったので母校からお呼びが掛かったのか自分で売り込んだのか、友人仲間では華麗な転身だと噂されたものだった。学生時代は毎日のように頻繁に会ったのに就職してからは殆ど会う事が無く、彼の新婚時代に一度だけ、神戸の官舎へ遊びに行った事があった。男の子が生まれたばかりだった。独身だったボクは学生気分のまま御馳走になり風呂にまで入った。
GoogleEarthによる、住宅団地（２）。関西の緑の多い住宅地。
その後は葉書や手紙のやり取りはしたが会う事も無かった。二十数年後、実に久しぶりに会った時は、彼の息子が建設会社に就職するので訊きたいことがあると、大阪で呑んだ。彼は珍しく酔って、足元が怪しいのでボクの自宅に泊めた。彼は詩人として、その世界では著名だったせいか、布団に入る時も、ブツブツと難しい詩を口ずさんでいたのを妻が覚えていた。翌朝、食事もせず慌てて帰って行ったが、玄関の絵が大層気に入ったらしく暫くジッと見つめていた。版画の抽象画で、球体が数個、溶け合うような混沌とした意味の分かり難い絵だった。絵というものは観る人が勝手に感じて想像すれば良いのだからと、ボクはそれを只ニヤニヤと観ていただけだった。それからも暫く会う事もなかった。
GoogleEarthによる、住宅団地(３）。海外の一般的な住宅地。
そういう男友達だから気を使う事もなく、多分、今も同じように暮らしているだろうと考えている。彼の家は平凡なものだった。公務員が自宅を建てるということはある意味で大変な事なのかも知れないが、建築家のボクから言わせれば、住まいなんてものは立って半畳、寝て一畳あれば良いと想っているから、広さや意匠については一種の趣味のようなもので必要に迫られない限り、どんなものでも良いと考えている。言わば個性の問題だ。ボクの自宅については様々な工夫はしているが、それも一つの趣味であって、親子三人にしては少し広いかも知れないものの、自分で管理できる範囲を考えれば良いだけの話である。老人になって、いずれ夫婦二人になれば冷蔵庫の要らない生活ができる便利な処に住みたいものだ。
GoogleEarthによる、関西の別の友人宅。
ついでに、グーグル・アースで他の友人・知人の家を観てみた。顔を想い出しながら家と比較して「成るほど」とか「ほう～」と感心しながら自分なりに納得して行った。マンションの場合は全景しか分からないのでビルのファサードと周りの環境で判断した。ストリート・ビューのある処では雰囲気で環境が分かる。戸建住宅の中にはガレージに留めてある車の種類まで分かるものもある。「成程、彼らしい乗り物だ」と判断できたり「彼にそんな趣味があったのか」と分かるから面白い。外構や庭も観えるから、ボクのようにガーデニングに興味のある者にとっては彼ら夫婦の趣味まで分かって来るのだ。そういう話を妻に言うと「私の友達の◎◎ちゃんの家も見せてヨ」と言った。
GoogleEarthによる、階段状マンション。川沿いの崖に建っている。
教えられた住所をインプットしてみると新しい階段状のマンションが映し出された。斜面地に建つマンションで、上にも下にも出入り口がある形式のものだった。青年時代に建築学会の設計コンペに応募して入選したボクのマンション案に似ていた。地中海に観られる白い階段状の建物をイメージしたものだった。その後、日本でもあちこちの斜面地に似た建物が散見されるようになった。「へえ～、洒落たマンションね」と妻は感心した。早速、妻はそれを軽い気持ちでその友達に電話で伝えた。すると彼女は一瞬絶句し、暫くして「あなたのご主人は専門家だから観られるのヨ。私なんか、どのようにして観られるのか想像もつかないワ」とため息とも、知られたくない事を知られたとも取れる言い方だったそうだ。（つづく）
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