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変わった形の建物(3)
変わった形の建物(3)
建築家が他の建築家の作品を観て何だかんだと言うのは、画家が他の画家の作品を評価する事と同じことだろうからボクは余り好きではない。評論家なら言うのが商売だから分かる。尤も、作家自身が書く意味は、自分の作品に影響を及ぼす面があると想うからだ。例えば、ボクが建築家に成りたいと想ったきっかけがル・コルビジュエの作品を観たからというのは当たり前過ぎるだろうか。自分が理想とする建築家なり芸術家から影響を受けるのは当然の事だから批評するのは好ましい事ではないにしても何か触発されるものがあって、その事を述べるのは悪い事ではない筈だ。むしろ学ぶという事は真似る事から始まるのだ。無から有は生まれない。そもそも人間の最初の師匠は自然そのものだった筈だ。
福岡のホテル(磯崎新・ベネチアのホテル・パラッツォ・日本店)。
自然を観て真似る事から人間は学んだのだ。そして最初は模做から始まったとしても、次には自分なりの改良が加わるだろう。何故なら、人間は絶対に自然の再現が出来ないからだ。よく似ていても模做は模做である。自然界にあるもので人間が同じものを作れるものは何一つない。元素は勿論、物体にしてもシステムにしても何ひとつ同じものは作る事はできないから、似たもので満足するのだ。それが文明となって科学技術が発展して来た。発展からは色々な枝葉が生え、更に発展を続ける。発展し続ける事によって人間は生きて居られるのだろう。自然の恩恵だけに頼って生きて居られた時代は既に過去の話だ。人間が自然破壊をし、それを修復しようと努力しているのが現代の科学技術であるのかも知れない。
東京都庁(丹下健三)。
傲慢にも自然をコントロール出来ると信じた途端、自然から大きなしっぺ返しを受けてオタオタしているのが人間の偽らぬ姿なのだ。それが分かって、賢くなり、改良を加え、何とか文明は進歩して行くのだろうし、ボクも建築家のはしくれだから建築の世界の事に興味を持つのは当然で、他の建築家や芸術家、技術者、科学者、法律家、評論家などの言う事からも影響を受ける。そういう当然の事をわきまえて敢えて他の建築家の作品を語るのは実のところ勇気の要る事なのである。「自分よりも優れている建築家を俎上に載せて語る程、お前は偉いのか」と言われればシュンとせざるを得ない。しかし、好き嫌いは言えるだろうし、その根拠も明瞭に述べれば人は判断してくれるだろう。
新宿にあるトウモロコシのようなコクーンタワー(丹下都市建築設計)。
その積りで「変わった形の建物」のブログを続けるなら、昨日述べた面白いと言った磯崎新の作品「ホテル・パラッツォ」は如何にも日本の建物らしからぬ建物ではあるが、建築的に観れば形は決して変わってはいない平凡なものだ。尤も、ファサードのマリオンとも言うべき列柱の間にあるべき開口部や窓が無い点が見慣れないと言えば言えるだろう。何か飾り棚のようで、その中に彫刻が並べられれば単なるありふれた建物になった事だろう。それをせずに柱と同じ石素材で壁にしている処が恣意的というか黙示録的にボクは感じ、磯崎の才能の最たるものを感じるのである。それはホテルであるという目的からすれば主に寝るだけの場所であり、ファサードから観るほどの景観が得られなかったのかも知れない。
プラダ青山店(ヘルツォーク&ド・ムーロン)。
ならば、いっそのこと隠してしまえと想ったとしても不思議はなく、想いきった発想であったと想うのである。ボクは現地を知らないから景観に関しては憶測に過ぎないのだが、彼の恩師である丹下健三の東京都庁にしても、ヘルツォーク&ド・ムーロンによるプラダ青山店にしても、中からの外の景観を意識して建てられたものではなく単なる明かり取り的にしか機能していない点が共通している。都庁に実際に入ってみれば分かる通り、窓は小さく外を観る為というよりもビルのファサードの意匠上、大東京の首都の象徴としての超高層ビルを更に高層に見せる手法として窓を細分化したものとしか想えないのだ。それを観て都民は、我が町のシンボルとして納得し自慢する材料にするのであろうと丹下は読んだのかも知れない。
ニューヨークにあるガラス・カバーで覆われたようなビル(フランク・ゲーリー)。
亦、ニューヨークのマンハッタンにあるフランク・ゲーリーによる変わった形の建物は、矢張り同じく中から外部の景観を観るというよりも逆に観られる事を意識し、それ故に中が見え難くし、採光の為だけを狙って設計したのではないかと想えるのである。そもそも建物には当然ながら目的とする機能が夫々あって、目的外の機能は除外されるものだ。劇場には勿論窓は不要であろうし、住宅は健康上、外部からの採光を必要としつつ外部景観を観る事も重んじるだろう。しかし、オフィスは昼夜関係無く使用し続けられるから住宅程には採光は重んじないであろう。それは以前に紹介した、ボクの事務所の向かいにあるフィリップ・スタルクのバロン・ベールがそうだ。ファサードには窓が無く、緑一面のパネル壁面だけで構成されているのだ。(つづく)
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