運転（１）
毎日、車に乗っていると車の性能や癖が確実につかめ自分の身体の一部の様に感じられ、車の能力に応じた運転の仕方をするようになる。誰でも性能の良い車に乗りたがるものだと想うのだが、経済的な理由や諸々の理由で現在の車に乗っているのだろう。道を走っていて、見るからに高性能な車を観ると「良い車だ」と単純に心の中で褒める訳だが、運転をしている人間のマナーや運転態度を観て失望するケースが多いのは不思議である。中にはヤクザまがいのチンピラみたいのが運転していると車が可哀想に想えて来る。無機質の物体に人格や性格なぞ勿論無いのに、そう想うのは自分で勝手に創り上げた理想像の運転者を観てしまうからだろう。理想像の運転者というのが在る様で実は無く不確定なものだけに、多分かつて見た洋画のスターを連想しているのだろう。
それが「００７」であったり「トランスポーター」であったりする処が漫画の様な話だが、日本人が欧米人の発明した乗り物にマッチした乗り方をしているのを観るのは残念ながら少ない。それは矢張り文化の違いなのだろう。それでは日本人はどんな乗り物が似合うのかと考えてみれば、昔からあった馬ぐらいなもので、それなら欧米も日本も変わりは無いように想える。しかし、馬に乗る時代が過ぎて、名前だけが残ってしまった現代社会ではドライブと言えば、まさか馬に乗る事を指すとは思えなくなって久しいのでは無いだろうか。「一寸、遠出をしてみる」とか「彼女と一寸ドライブにでも」と言えばロマンチックな雰囲気は感じるものの、まさか馬で遠乗りをするとは誰も想わないだろう。乗り物が生き物だった時代から機械に替わって文明社会に突入して１００年以上も経つのだ。
それこそ一馬力の乗り物に乗る楽しみ方は乗馬クラブでしか味わえなくなった時代である。現代では一馬力どころか百馬力以上の能力を持った車が平気で走っている。中でもドイツ人は車を作らせれば世界一の腕前で、高性能の車の殆どはドイツ製である。イギリスやイタリ―やフランスにもそれぞれ有名なメーカーはあるが、ドイツ製ほど走ってはいない。メルセデス（ベンツ）やＢＭＷやアウディなど、国産車と同じ位走っている国は香港と日本位なものではないだろうか。特にドイツ製の車には高性能という神話がついて廻る程、日本人好みの様である。たまたま先日、新しい型が発表されたベンツ（ＡＭＧ）のホームページを興味深く観ていて自分なりに好みの仕上げにして試算見積もりをしてみれば３，１００万円になって、今の自分の乗っている国産車のセダンの１０倍もするので笑ってしまった。
そんな話を妻に言うと「宝くじでも当たったら、買うのネ」と軽くいなされてしまった。彼女は運転はするものの、電車で出掛ける際にボクを住宅団地の駅まで送り迎えをしてくれる程度で「国道は、トラックや無茶な運転をする車が多いので怖くて行けない」と言う程だから、どんな高性能の車にも興味が無く、精々、自分の生活にツロクする車なら何でも良いらしく「軽四輪車だけは、玩具みたいで乗りたくない」と言う程度である。ボクもそうで、スポーツカーには乗りたい気もあるが、かつてそれらしき車に乗り換え、ル―フトップにしたり尾翼を付けて貰ったものの歳甲斐もなく恥ずかしくなって一年も経たない内に別のオーソドックスなセダンに乗り換えてしまった。喜んだのは車屋だけで、今も型が替わる度に電話を掛けて来る。
半年毎の定期点検が目まぐるしくやって来る上に、新車の宣伝が五月蝿く、余程車が好きなら話に乗るところだが「今の車が飽きれば買い替えるヨ」とお茶を濁している程度である。さて、運転の話に戻れば、ボクの運転の癖はラッシュで混んでいる時以外は群れて走らないという事だけである。スピードを上げるのも群れから離れる時だけで、空いているからと言って無暗には飛ばさない。飛ばさないと言っても毎時１００ｋｍから１２０ｋｍは高速道で出す。普通の道では制限速度にプラス１０ｋｍから２０ｋｍ位で走る。ゴールド免許を汚したくないのでネズミ捕りや覆面パトカ―には注意している。若い頃はよく捕まったものだった。この３０年ほどはそういう事は無く、どぶに捨てる金は惜しいという気が徹底している。
今乗っている車はオートマチックだが変則ギアも付いていて、スタートや追い越す時はギアを入れ替え、サッと越して行く様にしている。何しろ群れるのが嫌なのである。中には競走して来る車が居て、大抵は振り切ってしまうが、考え方を替えて先に行かせる様にする場合もある。ゴルフに行く時は早朝だから道路は空いていて好きなだけスピードは出せるが、流石に高性能の車が多く、ボクなんかの車はサッと追い越されてしまう。その時のスピード計を見れば１２０ｋｍになっていて、それ以上で走り去って行く訳だから１４０ｋｍ以上出しているのだろう。先述のＡＭＧなぞはスピード計を見れば３６０ｋｍもの目盛りがあるからスピード制限が無いアウトバーンをバンバン飛ばすのだろかと恐ろしくなる。それを考えるとボクなんか大人しい方だろう。（つづく）
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