名演プロムナード

名演プロムナード

アルプス交響曲



登山をテーマにした雄大な描写音楽で、自然の美しさと恐ろしさ、さわやかさや懐かしさ、冒険心とやすらぎが入り混じった素晴しい曲だ。
ベートーヴェンの田園交響曲、マーラーの巨人と並び、嵐の描写が見事な曲でもある。
R・シュトラウスは多くの交響詩を作曲したことで有名だが、1898年の「英雄の生涯」が最後の交響詩であった。その後、1903年に「家庭交響曲」、1915年に、この「アルプス交響曲」を書いているが、それらには「交響曲」の名称を用いている。
「アルプス交響曲」は子供の頃から山が大好きだったR・シュトラウスが登山の1日をリアルに描写して音で表現しており、スコアには場面ごとに何の描写であるか書き添えている。50分程度の曲だが、切れ目ない単一楽章の構成になっている。

曲は[1.夜]の暗闇から始まる。冒頭チャイコフスキーの悲愴交響曲の第1楽章を連想させる下降音階が太陽のモチーフとして現れ、続いて山のモチーフがアルプスの山容を浮かび上がらせる。[2.日の出]で太陽のモチーフが雄大に変身し、大地の目覚めが語られる。
[4.森に入る]で森のさわやかな雰囲気がかもし出されるなか、登山者のモチーフが冒険への期待を抱かせ、登山が始まる。
[9.山の牧場にて]登山の途中、カウベルが鳴り響き、のどかな牧場の中を通っていくよう。[10.道に迷う]ではいろいろなテーマが示され、道に迷う様子が描かれる。[11.氷河で]は壮大なモチーフが鳴り響く。金管の迫力がすごい。ティンパニのごろごろという音が不安心理をかきたてる。
[13.山頂にて]ようやく登りつめた山頂、静けさの中で下から牧童の笛が聞こえる。ツァラトゥストラの冒頭の雰囲気。登山の喜びを雄大に語る。クライマックスは感動のモチーフが金管で高らかに歌われる。ジーンと鳥肌が立つ感動的な音響。このメロディが忘れられず、ふとしたときに私の頭の中に鳴り響く。続いて[14.幻]も山頂の余韻を残す美しい響きに魅せられる。
[15.霧が立ち昇る][16.太陽が次第に翳る][17.エレジー]とだんだん夕刻に近づいていく様子がつづられ、[18.嵐の前の静けさ]が不安をかきたてる。
[19.雷雨と嵐、下山]とうとうものすごい嵐がやってくる。なかなかの迫力。洪水のような雨と激しい風が描かれる。途中、行進曲風になるところで少し明るさも見える。
オルガンの音で始まる[21.結末(残照)]は嵐を乗り越えた感動をあらわす。冒険し、帰ってきて「本当に良かった」と言っている旋律だ。[22.夜]安らぎが帰ってきて、静かに曲を終わる。

実に写実的でわかりやすい音楽である。モチーフがいろいろとあって、構成的にも面白い。音の洪水に浸って、オーケストラの魅力をたっぷり味わうことができる曲であり、私の大好きな曲である。

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