けたの部屋

けたの部屋

有馬とクリスマスケーキ



「次は新小岩、新小岩です。お出口は右側です」

車掌の声が列車内に響く。
ゴトゴトと減速する感覚が体に伝わってくる。
それと同時に、電車がホームへと滑り込む。

「新小岩。新小岩、ご乗車ありがとう御座います」

そして、電車がまた、次への駅へ向かって発車した。

「残念だったね、有馬。ディープインパクト、
 無敗の四冠間違えなしだとおったのに
 まさか、ハーツクライがくるとは」

三島陽子はそう言っている。
今、29歳。来年30歳。現在、OL。彼氏いない歴、3ヶ月目に
今の彼をGETする。


「やっぱりだめだった
 3000円にしてよかったね。
 ある人は、前、30万円賭けて、大体40万払い戻されたから
 今回も、2人のボーナス一緒にして30万円賭けようかって思った
 ぐらいだから。このご時勢、銀行に預けても、何年、何年掛かるか
 分かんないから」


「やっぱ、運ついているかも、感でそうしたから、感でね」

私が止めとけと言わなければ2人の関係は、これでおじゃんにしていたんだから。


「それは、そうと、これから、大輔の家に帰るって。
 帰るだけなの、帰るだけ?
 今日、何の日か分かっているよね。
 今日が何の日だか。
 クリスマスだよ、クリスマス、本当に分かっているの。
 これからでも、何処か行くって発想ないの」

ありえないんですけど、大輔に計画任せたのが絶対失敗だった。
今回は、任しておけって、何時もと違うこと言うから信じたちゃった。
あぁ、間違えた。今度から信じまい。


「家に帰りたいんだ、そうすれば分かるから」
と蚊の鳴くような声で言っている。

佐藤大輔。
今年30歳、来年31歳、会社員、彼女いない歴、30年だった
今年の春に、友人の紹介でやっと彼女に出会う。
本当に遅すぎる、春をやっとエンジョイしているところ。
でも、けんかは、日常茶飯事、そう何時も。
なんとか今まで維持している、それが現状。
やっと手を繋げるところまで。なんとも遅い、進行状態です。


そして、彼の家へと到着する。
家へつれてくるのは2回目。アパート一階のドアを開けて入る。

「さぁ、どうぞ」

電気を点けながら、こちらへどうぞと、手招きしている。

「エー、クリスマスケーキと料理、用意してくれたんだ。
 そっか、そうか。ありがとう。考えていたんだね。
 君にしては上出来だよ」

いつもは、ダメな彼も、今日は、なんだか微笑ましいと。

「メリークリスマス、乾杯」

チンと高い音が、響いた。

「蝋燭に点けたから、消すのお願いします」

なんとも、お願いモード、もっとムードのある言い方ないのか。
そんな感じを見せずに。

フーと息がキャンドルにかかり、綺麗に消えて行く。

「消えたよ。一度に全部、エライでしょ」

ここで褒めてよね。


「本当だ」

ちょっと感動気味である、そう、正直一度には消えないと
思っていた。

「じゃ、電気点けて、ケーキから食べよ」

電気をつける彼、そして、ケーキに包丁を入れているのも
彼、そう、今日はセッセと彼女の為に、色々しようとしている。

今日が二人にとっての記念日になるように。

「アー」

そして、ケーキを分けようとして、お皿に盛ろうとしたその時、

ケーキとシャンパンが、彼女の服へと落下した。

それは、彼にとって、悪夢な出来事がいま正に起こっている。

スローモーションで。


「どうしてくれるのよ。ありえないから、この服高かったんだから
 早く、タオル持ってきて」

はいって、タオルを渡す。

「あの・・・その・・・」

なんとも、動揺して、言葉が口からでない様子である。

「あぁ、もういい、分かった、帰るから」
なんとも、はっきりしない、自分がやったことどんな事か分かっているのか、絶対分かってない。
もういいや。頭にきた。


「待ってくれ、ゴメ・・」
バタンと大きなドアの閉まる音を残しながら、彼女は去っていってしまった。

「あぁ、またやっちゃった、今日が二人の記念日になる予定たんだけど」

これで、何度目の経験をしたのでしょうか、何時もは、また今度いい経験だったよなぁ。
次、頑張ろうって思うのですが、今回は、大切なイベントの日にこんなドジしちゃった。

「はぁ」
ため息をつく彼であった。



<おわり>


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