彩感(つれづれ日記と社労士受験)

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信義則と裁量権

会社がやっていい事と悪い事

まず、法律の基本的な考え方をご紹介します。



日本では、私人どうしの関係は、民法において規定されています。民法においては、「私的自治の原則」というのがあり、私たちは他人と自由に契約をしたり、いろいろな約束をして良い事になっています。例えば、車を買いたいと思えば、好きな時にディーラーに行って車を買うことができます。買うのに、いちいち役所の許可をもらう必要はないですよね。これが私的自治の原則です。私達が、会社に就職して仕事をするのも、労働契約という私人どうしの自由な契約に基づいて行うものです。

会社の目的と言えば、簡単に言えば経済活動を行い利潤をあげる事だと思います。そしてその目的の為には、裁量権というものが認められ会社は自由に社員に指示を出し、自由に人を雇い解雇できるというのが、原則です。

民法627条に「当事者(会社と労働者)は雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から二週間を経過することによって終了する」とあります。

つまり、会社側も労働者も好きな時に労働契約を解約し2週間経ったらその契約が終わることになるというのです。

皆さん、「えっ!」って思いませんか。このご時世、もし会社が好きな時に労働者を解雇できるなら、こんな怖い事はないですよね。2週間後には、仕事がないんですよ。これが法律で定められているなんて信じることができますか?この民法627条は、実はさまざまな不当解雇紛争の中で引っかかる条文で、裁判所や立法機関は長い時間をかけて、論争をして又新たな法律をつくってきました。

話が戻りますが、私的自治や会社の裁量権の原則は自由になんでもできるという事です。でも、民法って何条あるか知っていますか?

実は1044条もあるのです。原則自由なのになんでこんなにあると思います?



その鍵が民法の第1条の基本原則にあります。

1、 私権は公共の福祉に適合しなければならない。

2、 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3、権利の濫用は、これを許さない。



要するに、原則自由に何でもできるが、世の中に迷惑をかけること、信頼関係を裏切るようなこと、好きなように自分勝手に権利を主張することは、許しませんよ。という事です。



そして、さまざまな場面において、このような時にはこのようにしましょうというルールを作っていったら1000条近くの特例ができてしまったというように私は思います。これだけではありません。特例法というのがあり、例えば労働基準法も民法の特例法に入りますが、特定の分野のことに関し更に細かくルールをつくり、規定しています。労働基準法は会社と労働者の関係について、借地借家法は大家さんと賃借人の関係について細かくルールを決めています。



解雇権の濫用

さきほどの、民法627条の解釈も「解雇権濫用法理」という学説があり、解雇は原則自由だが、民法1条3項の「権利の濫用はこれを許さない」の条文を適用し、濫用にあたる契約解除(解雇)は許されないとしました。その考えを根拠に労働基準法18条の2に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と更に具体的?になっています。



ここで問題になるのが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」とは、どのようなレベルなのかになります。これは、法律で定められているものではなく、個別的にそれぞれの労働紛争事件の判例で固まってきました。判例を読んでいくと頭が痛くなるので、私の印象で話をしますと解雇権を行使できるのはかなり限定されており、よほどの事がないと解雇権の行使は認められないというのが感想です。たとえば、実際に裁判になった話ですが、社長に対し「バカ野郎」と怒鳴った事が理由で解雇となった事件では、解雇権の濫用として無効とする判決がありました。



もうひとつ別の角度から考えてみると、労働契約はお互い同じ立場の人間が対等に契約するというのが、法律上の原則的な解釈です。しかし現実は違います。労働者の立場は圧倒的に弱いのです。そこで今度は、憲法の「社会権」の考えが用いられる事になります。これは、社会的に擁護が必要な弱者の権利の事です。労働者の権利もこれに入り、労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権などは、法律の中で一番偉い憲法が直接保障しているものです。この社会権の立場からも、解雇権の行使はかなり限定されるのです。

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