こころの金メダル

こころの金メダル

碁石事件

碁石事件


【舞 台】

 小学校5年生の7月中旬、水泳大会での出来事


【登場人物】


  A先生(1組担任)=女性、「ふ」よりも年配 

  B先生(2組担任)=男性、31才

  「ふ」(3組担任)=男性、44才

  C先生(体育専科)=男性、「ふ」と同じく中学校から来た34才

  5年生の子どもたち



【背 景】


 その日は朝から暑かったが、予定していたように、午前中を使ってプール
での水泳大会が実施されていた。

個人種目やリレーなどで得点を競い、クラス対抗で行うというものである。


 プログラムは順調に消化していき、得点では1組がリードして、最後の団体での競技である「碁石拾い」に入った。




【競 技】

 競技を始める前に、当然ながらプールの中に黒と白の碁石をまかなくてはならない。

2組担任のB先生が碁石をまいてくれた。

がしかし、まき方が少しだけ偏ってしまい、1組の座っている場所の前あたりには、碁石がとても少なかったようだ。


 「ふ」は1組の近くに立って司会進行役をしていたのだが、そのことにはあまり気づかなかった。

1組の子どもらが「自分たちの前には碁石が少ない!」と口々に訴えていたが「そんなことはないだろう」という予測のもとに競技をスタートさせてしまった。

これが「ふ」の大きなミスだった。




【結 果】


 3分間の競技終了後、各クラスの取った碁石の数を数えてみると、1組=16個、2組=67個、3組=74個という結果だった。

これはいくらなんでも差がつきすぎている。

ということは、やはり均等にまけていなかったということになる。


 もちろんB先生が意図的にやったということは絶対にない。

たまたまそうなってしまっただけなのである。

しかし、1組の子どもらは「おかしい!」という声をあげ続けている。

やり直しはできないので、その結果のまま競技は終了し、全てのプログラムは終わった。



【発 表】



 順位の発表の時間がきた。

A先生(得点の担当)が「ふ」のところへ来て、「最後の碁石で逆転して3組が優勝になった」と告げた。

「まずい!」ととっさに思った。ここはなんとしても1組の優勝で終わらないと、不満が尾をひいてしまうことは火を見るよりも明らかだった。


 「ふ」はA先生に「ここは1組の優勝で終わらせた方がいい」と耳打ちした。

しかし、事の事情が呑み込めていないA先生は「そんなことをしたらあかん、そんなことで1組(自分のクラス)を優勝させてほしくはない」と言い張る。

事情がわかっていない段階では当然の意見だと思う。


 ゆっくりと話をして伝えるべきだったんだが、その時間もなく、プールサイドで2人で2~3分話した後で「そしたら、任せます」ということでA先生に任せた。

その場での説得は無理と判断した。


 A先生は、みんなに向かって結果を発表した。

みんなは、もちろんのこと興味を持って聴いている。

そこでA先生は「碁石の前までは1組がトップだったんですが、碁石の結果3組が優勝となりました」と途中経過まで発表してしまった。

A先生には悪気などは全くなく、碁石の展開が理解できていなかったので、そういう詳しい報告にしただけである。



【不 満】


 しかし、これを聴いた時の1組の子らの不満は大きかった。

「なんでや?碁石のやり方がおかしかったやん!」「俺ら、碁石を取られへんかったからやん!」と怒りにも似た雰囲気が感じられた。


 閉会式が終わっても、1組の一部の子らは、B先生に詰め寄っていた。

「先生の蒔き方もおかしかったんとちがうん?」

B先生は「そんなことない」と否定するが、はっきりとしたものではなく、子どもらの納得を得るまでには至らなかった。(でも、蒔き方が不均等だったという確たる確証も存在しない)


 1組の子らは体育専科で手伝いに来てくれていたC先生にも「おかしかったんとちがうん?」っていう感じで話していた。

C先生も事情がよくわからないままに(よくわからないから、強く否定することもできずに)「それやったら、俺がまいたらよかったかな」と答えてしまった。



【放課後】


 「ふ」はA先生に、子どもらの様子を聴きにいこうと思っていた矢先に、A先生が3組の教室に来て、「先生、子どもらに書かせた感想を読んでたんやけど、ちょっと心配やわ・・・」って。

「ふ」も読ませてもらうと「絶対に優勝は1組や」「あの碁石のまき方はおかしい」と書いている子が、少なからずいた。

「B先生は自分のクラスに勝たそうとしたんとちがうか?」とまで書いている子もいました。


 この感想を見逃さずに「ダメだ!」と感じたA先生の感覚は素晴らしいと思いました。

ここを見落としてしまう(子どもが何か言うてるけど、どうせ子どもが言ってることやんっていう感じで)ことが多いと思うんですけど、よく知らせてくれたと思いました。


 「これはいけない!」と直感しました。

このままにしてほっといたら子どもが「教師に対する不信感」を持ってしまうと感じました。

そこで、B先生とC先生にも来てもらい、善後策を話し合いました。

C先生は、もう学校を出ていたのですが、携帯をならして戻ってきてもらいました。




【緊急学年会議】


 まず「ふ」は「これは緊急事態であること」

「これを放置していたら、教師への不信感が3月まで続いていくこと」

「いくら5年生の子とは言え、納得いくような手をうっておかないとダメ」ということを3人に伝えました。



C先生は中学校現場を経験しているので、この機敏はすぐに呑み込めたようです。

A先生も十分に理解してくれました。

B先生は、自分が碁石をまいたということで「なんでこんなことになるのか」というやるせない気持ちがあったようですが、計画立案の段階で「ふ」にミスがあったことを伝え、今の子どもらの状態を伝えると、すぐに納得してくれました。

B先生は子どもらにぶつかっていける熱いハートを持っている先生だからです。



 全員が納得した上で、次の話は「この後、どのようにして子どもらの気持ちをフォローして、こちら(教師集団)の思いを伝えていくか」ということだと「ふ」は思いました。



「ふ」はまずB先生に「自分では均等にやったつもりだったが、まき方が偏っていたのかもしれない」ということを率直に認めて子どもに頭を下げて、納得してもらう。

そしてその上で、「意図的にやったのではない、そんなことをするはずがない」ということを強く訴えるように言いました。

B先生は承知してくれました。


 そして、「ふ」とA、Cの先生で、B先生のフォローをうちつつ、自分の思いを語ることにしました。



 これで大まかな展開がまとまりました。

「ふ」は最初、4人で一緒に行こうと思っていましたが、B先生が「自分は1人で話したい」と言うので、その意見を尊重しました。

その結果、明日の1時間目の最初に、まずはB先生が1人で1組の教室に行って話をし、B先生と入れ替わりに、残りの3人が1組の教室に行くということにしました。




【こころの訴え】

 職員朝礼が終わり、B先生が1組の教室に1人で行きました。

「ふ」は正直、若干不安でしたが、どうやら立派に堂々と話をしたみたいでした。

2年目とは思えない立派な行動でした。



 入れ替わりに3人が1組の教室に行きました。

1組の子らは目を丸くしています。

「なんで、こんなにも先生が来るんや?」「何が始まるんや?」っていう感じです。

最初に「ふ」が説明しました。

「実は、3人で来たのは、さっきB先生から話を聴いたことと関係があるねん」

「B先生から聴いたやろ」子どもらの表情はとても良かったです。

B先生が、しっかりと話をしたことがよくわかりました。




「これから、先生らの思いを聴いてくれるか」ということでスタートしました。

続いてA先生が話しました。

A先生は自分の担任クラスということもありますが、とても子どもたちを上手に引きつけて話していました。

「これは私たちの誠意やねん、そのへんのこともよく考えてや」に子どもたちは聴き入っていました。

さすがに担任です。子どもらのこころの中に深く入り込んでいました。



 続けてC先生が言いました。

「自分はみんなに聴かれた時に『俺がまいたら良かった』って言ってしまった」

「そんなに適当なことを言ってしまって本当に申し訳ない、でもそれはB先生が、わざと偏ってまいたという意味では決してない。B先生がそんなことをするわけない」「みんなの意見をよく聴かないで、本当に悪かった」と


 C先生は誠実に話しました。それが子どもらには十分に伝わっているのが聴いていてよくわかりました。



 そして最後に「ふ」が言いました。「『なんで1組が優勝とちがうねん!』っていうみんなの気持ちは、本当によくわかるし、そう思って当然やと思う。

キチッと計画や準備ができていなかった自分の責任で、たいへん申し訳なかった」


「1組のみんなにイヤな思いをさせてしまった。

これからは、ダメだったところは十分に反省して、次に生かしていきたいと思っている」


「でもな、B先生はな、わざと偏ったまき方をしたというようなことは絶対にないで。

それだけはわかってほしい。さっきB先生から話を聴いて、わかってくれていると思うけど、B先生は絶対にそんなことはせえへんで。

『自分のクラスに勝たせよう』なんて思ってやるような先生とちがうで」



 子どもらは、真剣に聴いてくれています。表情が真剣です。



「みんなは知らんと思うけどな、先週の日曜日に、先生とB先生が学校で仕事をしている時に、ほら、今、図工の作品を廊下につるしてるやろ。

あれがな、湿気でパタッパタッと落ちるねんな、それが落ちる度にB先生は『1組のんが一番多いから、先につけたろう』『あっ、これ壊れてるから直しといたろ』って言って、汗をポタポタ流しながら修理してたんやで。

そんな先生が、わざとずるいことなんかするはずないやろ」


 誰も何も話しません。シーンとした状態です。女の子の何人かは涙目になっています。


「それから、みんなに1つ言いたいんやけど、『人間やったら、どんな人でもミスをする』っていうことなんやな。

だから、『ミスをするかしないか』じゃなくて、大切なのは『ミスを素直に認めて、前向きに行動する』っていうことやないかな。

B先生は、みんなに対してそういう行動をとったんとちがうかな?A先生もC先生も、みんなそうやないかな?」


「みんなはイヤな思いもしたけど、こんなにも大切なことを、今、勉強したんとちがうかな?

「ふ」は3組の担任やけど、3組の子らは、こんな勉強ができなかった。1組のみんながうらやましいと思う。みんなはどう思う?」


 その後3人は教室を出ました。



【事件を振り返って】



*「教師に対する不信感が募る」と思いました。

小学校5年生ぐらいだから「放って置いても、どうもないだろう」と思ってもいいと思います。

でも、子どものこころの中に、ほんの少しですが確実に「教師に対する不信感」が蓄積されていくんやないでしょうか。



 それが中学校に行ってからの「荒れ」にもつながるのではないでしょうか?

そういう意味で、ここでこういう手を打てたことは良かったと思っています。

子どもらには「先生たちは、自分たちの思いに対してぶつかって来てくれた(つまらないことと放置しないで)」という気持ちが入ったと思います。



 この手を打てたのも、教師集団の理解があったればこそです。

「そんなことする必要ないでしょう」と誰かが言えば、この展開はありませんでした。

「子どもが言う通りになってしまう」小学校の先生には、なかなか理解してもらえない部分だと思います(中学校が全て理解できるかといえば、そんなことはありません)


「あんなん、おかしいやん!」という子どもの声に「勝手なこと言うな!」のひと言で片づけることだけでいいのでしょうか?

 どう思われますか?





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