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Tシャツ大臣

Tシャツ大臣


むかしむかし、あるところに、Tシャツが好きで好きで堪らない一人の男(41)がいました。あまりにTシャツが好き過ぎて、むしろTシャツが着られず、世の中にはYシャツ派として認知されている位のTシャツ派です。


ある日、その男(43)はいつものように、畳んだTシャツを拡げてはまた畳むという、端から見ればパラノイアじみた遊びを3時間ほど続けていました。もちろん本人は遊びとは思っていません。真剣です。しばらくすると男は「よし。今日は後15回ほどホールドオン アンド アジャスト(拡げて畳むことらしい)したら寝ようか」などと手垢で真っ黒のTシャツに向かってブツブツ呟きました。


するとどうでしょう、今まで大人しく畳まれていたTシャツが、もさもさ動き出すではありませんか。男はびっくりしてしゃっくりが止まりました。ですが、更に驚いた事にそのTシャツは喋りだしたのです。男はびっくりし過ぎてしゃっくりが再発しました。そして、そのしゃっくりは男が死ぬまで停まる事はありませんでした。なぜなら男はこの時のびっくり以上にびっくりする事が生涯無かったからです。本当です。


それはさて置き、そのTシャツは開口一番こう言い放ちました。「もうやめてくれ」と。男はその一言ですべてを悟りました。それだけ男はTシャツを愛していたのです。彼は涙を流しながらそっと呟きました。「着るよ」と。するとTシャツはうなずくかのように静かに、動きを止めました。


そうです。Tシャツは、Tシャツと生まれたからには着られたかったのです。ホールドオン アンド アジャストされるだけではなく、洋服としての天命を果たしたかったのです。呼びかけは賭けでした。Tシャツは、男から深く愛されていることを知っていました。そのあまりにも深い愛故に自分を着れないでいることも・・・。もし着用してもらう事を強要してしまったら、男はTシャツを愛することを止めてしまうかもしれない。それは嫌でした。Tシャツも、自分を力の限り愛してくれるこの男が大好きでした。


でも、だからこそ。そうTシャツは考えました。自分を愛してくれているからこそ、自分が本当にしたい事を分かってくれるはずだ。そう考えたのです。しかし、Tシャツは「着てほしい」とは言えませんでした。自分のわがままだけを通したくはありませんでした。だから賭けに出ました。あえて「もうやめてくれ」と否定的な言葉を吐くことで、嫌われるリスクを負いました。それで捨てられたとしたらそれで構わないと思いました。自分はこれまで十分愛されたのだから・・・と。


賭けは成功しました。男は唯その一言ですべてを分かってくれました。奇跡は起きたのです。Tシャツはすべての力を使い果たし、崩れ落ちました。もうしゃべることはできないでしょう。男のTシャツへの深い愛のちからがこの奇跡の邂逅を実現させたのです。でも、奇跡は二度は無いのです。それでもTシャツは幸せでした。ほんの一瞬でも男と心を通わせることができたのですから。それで十分幸せでした。


10年後、この国の政府に、ボロボロのTシャツを着た一人の大臣が現れます。その男はまるで恋人のようにTシャツを愛していました。しゃっくりをしながらにっこりと笑うその姿は、まるでかの聖人のように神々しく、光に満ちていたと伝えられています。男はそのTシャツと同じように国民すべてを愛し、国民も彼を愛しました。


この男は「Tシャツ大臣」と呼ばれ、この国の平和の象徴として、永遠に語り継がれていく事となったのです。・・・むかしむかしのおはなしです。


おわり


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