放課後。
5限目の後の休み時間以来彼女とまったく話していない。

いや、正確に言うと私が話したくなかったのだ。

5限目が終わった後の休み時間に葉月にチョコを渡している如月の姿が、
さっきから何度も脳裏に浮かぶ。

「…まだ諦めていないのか、氷室零一…馬鹿だな」
今まで付き合ってきた女性はそれなりにいるが、
決して私は本気になることなどなかった。
ただ何となく付き合って…そのうち相手が違う男と付き合い始めて…。
それで終わり。


結局はお互いそれくらいの感情しかなかったのだ…。


だが今は違う…。
毎日のように彼女のことを考えて、毎日のように彼女を目で追う。
いつの間にか彼女は私の中で生徒以上の存在になっていたのだ。

如月が私のことを思ってくれているだなんて思っていない。
だが「如月は葉月が好きだったんだ」と思うのも嫌だった。

そんなことを考えていると辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
時計を見ると既に時計の針は6時を過ぎており、
私は校内の戸締りをしようとしていた…。


ふと教室からフルートの音が響いた。
だがその音はすぐ止んで、もう一度最初からメロディーを奏でている。
何度も同じ場所で間違えてもう一度最初から…。
そんなことが繰り返されていた。
私はフルートの音が聴こえる教室に足を運ぶ。

ドアを開けると…。


いた。

―――――――――如月だ。

「如月。」
その声に反応して如月は途中で演奏を止めて振り向いた。
私がカギを持っている姿を見て「教室を閉めるのだろう」とすぐさま判断し、
慌てて楽器を片付けようとしていた。
「…待て、誰が楽器をしまえと言った」
「え?」
驚いた顔で私を見る。
(…私は別に早く帰るように言いたいのではなくて教えようとしたのだが…)
私は彼女に近づくと彼女が持っていた楽譜を手に取りページを開いた。
数ページ開くとさっき彼女が演奏していた譜面に目を止める。
「君はいつもここで間違えるな…。」
そう言って譜面を指で指した。
彼女は指を指した場所を見ると不思議そうな顔で私に目を移した。
「…先生もしかしてずっと聴いてたんですか?」

……しまった(汗
確かに今回はたまたま聴こえてきただけだったが、
私は以前にも何度も放課後の彼女の1人演奏を聴いていた。
ただ何も言わず、彼女の演奏をそっと聴くのが…部活の楽しみでもあったのだ。

全体練習のときとは違い彼女の成長ぶりが1番分かるからだ。
だが以前から気になっていたのは、
“いつも間違える場所”あるということだった…。
指摘をしたかったが…。
声をかけようとするとまたすぐに演奏をし始めてしまい、
中々声をかけることができなかったので止めたのだが…。


「……そうだが…。何か不都合なことでも?」
少し赤くなりながらも、できるだけ動揺を悟られないように返答する。
「いっいえ…別にそういうわけじゃないんですけど…。」
「…貸してみなさい」
そう言うと彼女は躊躇いつつも私にフルートを手渡した。
「ここはスピードが少し速くなる…。
 しかし、だからと言って焦ってしまうと肝心な場所で間違えてしまう。
 落ち着いて…。曲を頭の中で流し…リズム合わせることが重要だ」
手本を見せるために私はフルートを奏でる。

「!!」

彼女の表情を見るからに私がフルートを吹けることに驚いたのだろう。

確かに私は普段フルートなど吹かないが、
一時期、色々な楽器を片っ端からやったときがあった。

特に理由はない。
ただピアノ以上に上手くなれるような楽器があるのかどうか試しただけ。

なので一通りの楽器は演奏できた。

演奏をしつつ時たま彼女を見ると微笑みながら私の演奏を聴いていた。
その笑顔は葉月に向けていたものとは違って…。


数倍もキレイなものだった。

演奏を終えると彼女はすぐさま、
「わぁ~!!先生、凄く上手いですね!」
と言った。
彼女は拍手をするような勢いだったが、
(ちゃんと分かってもらえたのだろうか…?)
私がそう思うなり彼女は「しまった」と言う表情に変わった。
「…別に私は君にフルートの腕前を見せたかったわけじゃないのだが…。」
少しため息混じりに言う。
「あっ、すっすいません。でも…わかりました。」
「よろしい、とりあえず今日はこの辺にしておこう…。もう遅い。」
そう言って私は彼女にフルートを返した。

楽譜と楽器を片付けながら彼女は私にいきなり謝罪をした。
「あの…すいませんでした。私のせいで遅くなっちゃって…」
迷惑かけちゃったなと言った顔で彼女は申し訳無さそうに言う。
(…私はそんなに迷惑そうな顔をしていたのだろうか…?)
「……別に構わない。君が残っていたのはフルートの腕前を少しでも上げようとしていたからだろう?
 努力することは大切なことだし、分からない所を教えるのも私の役目だ。」


「…有難うございます」
そう言って彼女は微笑む。
やはりその表情は他の生徒に向けたことがないような笑顔。

…何故私にそんな顔をするのだろうか?
君が好きなのは…葉月なんだろう。


そう思いつつも彼女の笑顔につられて自分も笑う。

いつからだったろうか?
普段からこんな風に笑うようになったのは?

「…あっ」
突然彼女が声を出す。

(…何か思い出したのか?)

「あの…先生。」
少し困惑した顔で彼女が話し掛ける。
「…何だ?」
「あの……裏庭でのことなんですけど…あれは…」

裏庭でのこと…?葉月の一件か…。

予想すると…他言するなと言ったところだろうか?

でもそんなことを聞きたくなかった私は彼女が言い終わらないうちに口を開いた。
「あっ…そっ、そのことなら心配するな。他言するつもりはない」

(他言する気なんて大体起きないからな…。)

「違います!!私、葉月君に告白したとか気があるとかそんなんじゃないんです!!」

(!?)

いきなり如月が大声で叫び私はしばらく沈黙していた。

正確に言うと何を言われたのかわからなかったのだ。


ソレハ…葉月ノコトヲ好キトイウ訳デハナイ…ト言ウ事カ?


そう思うと私は変に安堵した。

――良かった――

「…そっ、そうか。私の早とちりだったようだな…」
ホッとため息が出る。
私の表情を見て如月もホッとしていたように見えた。

(誤解が解けて良かったなどと思っているのだろうか?)

そう思った途端に彼女はとっさに鞄から何かを取り出した。
取り出したのは小さい…箱?

するといきなり彼女は私の前にその箱を差し出した。
「あの…先生。これバレンタインのチョコです!!」
いきなりそう言われて一気に自分の頭はフリーズした。


……………。


しばらく考えてようやく彼女の行動を理解する。
だがいきなりチョコを差し出されて彼女に何と言って良いのかわからなかった。


しばらくしても何も言わない私が気になったのか彼女は、
伏せていた顔を恐る恐るあげた。

しかし私はそんなことよりチョコを眺めながら言おうと思う言葉を必死に探していた。
「…?あの~先生?」
その言葉に私はハッと我に返る。

「あっ…いや、その…だな………」
何て言えば良いのだろうか…?
普通に「有難う」と言えば良いのか?

それとも…「変な勘違いをしてすまない」とも言っておいた方が良いのだろうか?

「…すっすまない。その…ありがとう。」
何に謝っているのかよくわからない自分の発言に思わず呆れる。
そんな私の様子を見て彼女はまたクスリと笑った。

「…如月、もう遅い。…家まで送る」
照れ隠しに言った台詞は少し声が変になってしまっていた。
「はい!」

元気良く返事をした彼女の微笑みは、
もしかしたら自分だけに向けられているものなのだろうか?などと、
私は少々自惚れていた。

―――――――――――――――――――――――――――

最後の方展開がおかしいです(--;)
スイマセン…(汗)
時間がありましたら修正しますね(爆)
実は先生…間接キスまで頭が回らなかったようで (蹴)

氷室:………………(黙)
管理人:あの~?…氷室先生?(また怒り爆発寸前…?)
氷室:いくら何でも私はこんなに動揺しない…
管理人:…本当ですか?(疑)
氷室:……どうでもよろしい!!
管理人:………(笑いをこらえる)
氷室:以上だ!!

感想がありましたらどうぞ~(笑)


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