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「ほら行くぞ零一。」
「………ちょっと待て」
――――私はこの間、友人の店で放課後葉月と桐那が話していたことを思い出し迂闊にも呟いてしまっていた。
「…そんなにあいつが好きなのか。」
「は?」
ふと顔をあげると益田が「理解不能」と言った顔で俺を見ていた。
(…しまった、俺としたことが…声に出てたのか)
「いや、何でもない」
「何だよ?……!…まさかお前…」
何かが感づいたようにニヤけた顔で益田が俺に問いかけようとする。
(…まずい、こいつはこう言ったことには勘がいい)
「なっ何だ!?何でもないと言っているだろう」
普通を装うつもりがあからさまに怪しい返答になってしまっていた。
それを見て確信したのか益田はニヤニヤして口を開く。
「…まさか、彼女絡みか?」
「……!!何を言ってる、別に私は桐那のことなど気にしていない!!」
「へぇ~。そっか、彼女は桐那ちゃんって言うのか」
「…!!!」
―――やられた。
図星だったがために墓穴を掘ってしまった…。
以前、俺が彼女と社会見学をしていたとき俺のミスで車が故障したときがあった。
修理の人が来るのに遅れたため車で待機していたのだが…、秋の夜の風は彼女には冷たすぎたのか、
「少し冷えますね」と呟いた。
本来ならば益田が経営している酒を飲む店など生徒を連れていくはずがなかったのだが、
あの時は仕方がなかったため何か言われるのを覚悟で益田の店に行った。
案の定、散々デートだ彼女だと冷やかされていたのだが…
「まったくもってお前は嘘が下手だな」
「…………」
もはや言い訳することも叶わなくて俺は沈黙を守った。
だがそんなことで益田が解放してくれるはずもなく、放課後にあった出来事を益田に話した…のだが。
次の週の日曜日。
何故か俺は益田に無理やり引っ張られて彼女たちがいるビリヤード場に来ている。
「何故ここに来なくてはならないんだ!!」
「偵察だよ偵察。お前気になるんだろ?だったら行かなきゃ始まらない!!」
「放せ!!…益田!!」
・
・
・
「……結局入ってしまった」
「さてさて…お2人さんは…っと」
そう言って益田はキョロキョロと辺りを見回す。
(…大体今の時間帯に来ているとは限らないだろう。)
「…!!」
だがその思いは見事にはずれる。
ふと顔を上げた視線の先には…桐那と……葉月。
葉月は真剣な眼差しでキューで玉を突くと狙っていた玉はもう1つの玉に当たり綺麗にポケットに入る。
それを見て微笑みながら拍手をしている桐那。
―――確かにビリヤードの腕は中々のようだ。
桐那に教えているためか、そんなに凄いショットを打っているわけではないが葉月のビリヤードの腕前はどれくらいあるのか。
それはキューの突き方や体制などを注意深く見ることで予測できた。
「ふ~ん……。まっ、仲は良さ気だね」
「!!!」
いきなり間近で聞こえた声に俺は驚く。
益田はしばらく彼女の表情を凝視していた。
「…彼女がどうかしたのか?」
「いや、別に?……それよりお前あまりジロジロ見るなよ?そりゃ彼女が気になるのはわかるけどさ…」
「……益田!!」
「いくら何でもジーッと見てたら気づかれるって。あまり近づかず…俺とゲームしていればバレないよ」
「…………」
―――――「気にならない」…などと言えばもちろん嘘になる。
だがこうやって彼女が楽しげに男子生徒と遊んでいる所を見るのも…辛い物があった。
俺は彼女たちのことを見るのを忘れるようにただ益田とゲームをした。
………どれくらい時間が経ったのかわからない。
益田の出番になったとき俺は少しだけ彼女の方に目をやる。
――――やはり桐那は楽しそうに微笑んでいた。
彼女の笑顔は嫌いじゃなかったはずなのに…
葉月に向ける笑顔を見るのがどんどん苦痛になっていくのを感じた。
「……もう止めよう」
「…え?」
「帰る。…このまま彼女を見続けたって…何も変わらない」
俺はキューを置いてその場を出ようと階段に足を向ける。
「ちょっ…ちょっと待てよ、零一。」
益田は俺を止めようと俺の腕を掴んだが、俺はすぐさまその手を振り解く。
「零一!!!」
益田がとっさに叫ぶと周りの人がこっちを見た。
(…名前を…!!)
…と思っても既に時は遅く名前に反応した彼女がこちらを見ていた。
俺の姿を確認すると驚いた顔でこっちに向かってくる。
「…アハハハハッ…。」
「…………益田。」
「………悪い。」
笑って誤魔化そうとしているのが筒抜けで益田を睨みつけると笑いが止まり素直に謝罪する。
そんなやり取りをしていると彼女がもうすぐ傍まで来ていた。
「氷室先生!!…えっと、マスターさんとビリヤードですか?」
「…まあ……そうだ」
「そうそう。無性にビリヤードやりたくなっちゃってね~。無理やり暇そうだった零一を誘ったんだよ」
益田がそう言うと彼女は何の疑いもせずに「そうですか」と微笑みながら返事をした。
……疑問に思ったのが、葉月とは少し違ったような笑いをしていたということ。
(…気のせいだろうか?)
そんなことを思っていると彼女は何かを思い出したようにいきなり口を開いた。
「あっ、そうだ!!氷室先生。見てみてください」
「…え?」
彼女は俺が置いたキューを手にするとそのまま構えて玉をポケットに綺麗に入れた。
――――もちろん『凄いショット』と言うわけではない。
だが前の社会見学のときよりも確実に進歩していた。
「見ましたか?先生!!私少しだけだけど上手くなってませんか?」
「……あっ、ああ…。前より進歩しているようだな」
突然とった桐那の行動が理解できず混乱していながらも感想を述べる。
そうすると彼女は嬉しそうにキューを置く。
「わ~い♪氷室先生に褒められるために頑張って良かったです!!」
「…え?」
「前に氷室先生に社会見学でやったときあまり上達しなかったでしょう?
だからビリヤードが得意な珪君に頼んで練習してたんです。次の社会見学のときに氷室先生に褒められるため…っと驚かすために。」
……それじゃあ君は……
その言葉を聞いて思わず安堵のため息をついた。
「…まったく、君は」
嬉しいような…呆れてしまうような…複雑な気持ちで私は苦笑する。
―――だが次の瞬間あることに気づく。
「…?益田…?」
辺りを見回しても益田の姿がなかった。
しばらく探していると彼女が口を開いた。
「あっ、マスターさんならさっき妙にニコニコしながら出て行っちゃいましたよ?」
「何?!」
(…あいつ。一体何を考えて…)
「…ん?そう言えば葉月はどうしたんだ?」
「珪君はさっき帰りましたよ。何か…氷室先生のこと話してたらずっと無言になっちゃってたけど…どうしたんだろう?」
――――(まったく鈍いな…君は。)
「…桐那、もう遅い。家まで送ろう」
「あっ…有難うございます♪」
そう言って私は彼女を家まで送り帰路につく。
家に着いた後、私は益田に電話をかけた。
最後まで笑って誤魔化していたあいつは一体何を考えていたのか…。
結局わからないまま私はベッドの上で目を閉じた。
――――次の日。
私はいつものように、いつもと同じ時間に学校に登校する。
早めに行っているため職員室に限らずいつも学校は静まり返っていた。
「………今日の日直は…」
私はディスクの上にある日誌を開き今日の日直は誰だったか確認をする。
ページをパラパラとめくっていると先日桐那が書いたページに目が留まった。
(…そう言えば桐那のページは確認していなかったな…)
そのまま感想のところに目をやると少し驚くようなことが書かれていた。
『今日は氷室先生が数学授業のときに黒板に字を書きながら少し笑っていました。書いていた問題は…微分積分…?
それと今日氷室先生が………』
感想のほとんどが私に関してのことばかり。
そして最後の行に少し小さく…
『 先生へ
黒板にテストに出る問題を書くときだけちょっと笑うクセ…直した方が良いですよ。(^^)
先生のことをずっと見ていたから私は気づいたけど他の人もいつか気づいちゃうかもしれませんから』
…なるほど。私にはそんなクセがあったか…。
――だがそんなことよりも私は最後の行の言葉に見入っていた。
『ずっと見ていたから』
この気持ちは変わらないだろう。
だから私は覚悟を決める。
例え結果が駄目だとしても…私は君に思いを伝えるだろう。
思いは変わらないから。
君が誰かのものになってしまうのは耐えられないから。
―――この言葉に…自惚れても良いだろうか?
静まり返った教室で1人…私は日誌に見入っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
☆おまけ☆
「ふ~…」
俺は零一の目を盗んでコッソリとボーリング場を出るとそのまま店へと帰った。
「やっぱり桐那ちゃんは葉月君のことなんか眼中になかったんだな~。まっ、そりゃそうだよな。」
(彼女が葉月君に向けていた笑顔と零一に向けていた笑顔って…まるっきり違ったんだからさ。)
無駄に長いです…(汗
ようやく終わりましたよ。しかも最後が微妙(==;)
先生の一人称が毎回変わっているのは益田さんと一緒の時は、
「俺」で普段(もしくは学校のとき?)は「私」と使い分けてるんですよ。
…分かりにくくてスイマセン(^^;
ちなみにマスターさん…もとい益田さんの本名は。
「益田 義人」と言うのが本名です(^^;
ちなみに氷室先生の親友(悪友?)ですね。
ドラマCDで判明するらしいんですけど…知らなかった(笑
まっ結果は氷室先生の勝利(笑)
ビリヤードの腕前を氷室先生に褒めてもらうため(驚かすため?)に葉月君は利用されただけ…っと。(滅
ゴメンナサイあおさん…無駄に長い上に時間がかかってしまって(TT)
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