第1作「天体観測」



衝「ハァ!?何言ってんだよ!!!」
この一日は一本の電話から始まった
隼人「何言ってるって、引っ越すんだよ・・・」
衝「そんなこと聞いてんじゃねぇんだよ!なんで引っ越すのか聞いてんだよ!!!」
隼人「仕方ないだろ。親の都合なんだから・・・」
衝「また一緒にほうき星探そうって言ったよな!!」
隼人「確かに言ったけどな。それも出来そうに無いよ」
衝「お前がいなくなったら、一人で探してろって言うのか!?」
隼人「仕方ないだろ!もう決まったことなんだ。多分もう会うことも無いだろうな・・・」
衝「分かったよ。もういいよ。さっさと行っちまえ!」
ガチャンッ
隼人「切れちまった・・・。悲しいのはお前だけじゃないんだぞ・・・」
衝は電話を切った後すぐに部屋に閉じこもった
衝「はぁ。なんでこんなこと言っちまったんだろ。別れる時ぐらいちゃんと別れを言ってやればよかった・・・」
こんな出来事がありながらもこの一日は何も無かったかのように過ぎていった

―次の日―
前日と同じように衝の家に電話が鳴った
衝「もしもし」
隼人「もしもし、衝か?」
衝「隼人・・・。昨日はごめん。あんなこといって」
隼人「いいって、もう。そんなことより俺、今から引っ越すから」
衝「今から!!?いきなりそんなこと言われても。今すぐそっちに行くよ」
隼人「別にいいよ。この電話で充分だ。それにこっちに来るまでにもう俺は行っちまうよ」
衝「ごめん。ほんとに・・・ごめん」
隼人「こっちこそごめんな。約束を守れなくて」
衝「もう、いいよ。それよりも引越し先から電話ぐらいかけろよ」
隼人「分かってるよ」
衝「新しく何か見つけたら報告するからな!!!」
隼人「分かった。頼むぜ。じゃあな」
衝「じゃあな!」
ガチャン
衝「絶対に、報告するからな・・・」
そして二人は別れてしまった
しかし、二人の絆が壊れることは無かった。そしてこれからも壊れることは無いだろう
衝「母さん。今日の夜、星見に行くから」
「分かったわ。行ってらっしゃい」
真夜中に外出するのをこんなに簡単に受け入れてくれる親も珍しいだろう
衝は「ありがとう」といってから自分の部屋に戻った

この日の夜、空は雲ひとつ無い、いい天気だった
衝は、あの高台にある踏み切りに向かった
衝「今日からはもう、一人でやらなきゃいけないんだよなぁ。いつも隼人が一緒だったから調子が狂うんだよなぁ」
衝は一人で何かを探していた
必死にひたすら何かを探していた
それがなんなのかは分からないが、幸せとはなんなのか、この悲しみはどこに置けばいいのだろうか
衝は次第にそんなことを考え出していた
この日、衝はいろんな星を見た
だが、疑問の答えが見つかることは無かった
衝「そういえばこの星はよく隼人が見てたよなぁ。こっちは隼人が一度見たらもう見ようともしなかった星に似てるような気がする」
衝は苦笑した
なんでこんなにも星を覚えているのだろうか、と
その瞬間、隼人がとなりで座っていた
しかしすぐに消えてしまった
もちろん幻である
だが衝は、隼人が座っていた場所を見つめていた
その瞬間、あの時隼人の振るえている手を握れなかったことが悔やまれてきた
そして、その悔やみが次第に心の中の痛みへと変わっていった
つらかった
衝には分からないことが多すぎた
何故あの時握らなかったのだろう
衝は泣いた
今は真夜中だ。人は誰もいない
衝「くそー!なんで俺はこんなに頼りないんだ!俺がもっとしっかりしていれば、隼人の振るえている手を握れていたかもしれないのに、
 隼人との思い出がもっとたくさん作れたかもしれないのに!俺は絶対にほうき星を見つけてやる!そしてあいつに報告するんだ。
 そうすればあいつも喜んでくれるだろう。もしかしたら別の場所で一緒に見ているかもしれないしな!」
衝は涙を拭い、再び天体観測をはじめた
すると再び衝の目に隼人の幻が映った
今度はすぐには消えずそこにとどまっていた
衝は一晩中隼人とともに、ひたすら星を見ていた

隼人と衝が分かれてから数年たった
時が経つにつれて伝えたいことが増えていった
しかし、隼人からの電話が来ることは無かった
住所が分かったら出そうと思って書いた、宛名の無い手紙は崩れるほど重なってしまった
しかし、もう衝には手紙のことなどどうでもよかった
これだけは伝えたかった
俺は元気だ 心配事も少ない
だが、お前とやった天体観測を今でも思い出してしまう・・・と

隼人は隼人で必死でほうき星を探していた
隼人には貫き通そうと思っていたことがあった
「ほうき星を探してだしてから、衝に電話しよう。報告をしよう」と

衝は今でも一人で天体観測をしていた
いや、一人ではない。隼人の幻とともに、天体観測を続けていた
隼人に伝えるために・・・

第2話「別れ」 終了

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: