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酔鳳さんの紅柿荘思い出石物語が新しく書きあがりました
今は懐かしい昔の温泉場の物語です
読んでくださいね
加賀山代温泉紅柿荘想い出石物語 雪に鈴風
加賀山代温泉は早朝からの雪で一面の銀世界。
お昼を過ぎても降りやまず、チェックインの時刻を迎えた。
「ヤア、女将さん来ましたよ、橋本です」
『玄海の虎』と呼ばれる若松港湾荷役株式会社会長の橋本兵蔵さんが玄関に現れた。
「あら、橋本会長さん、ようこそのお着きで有難うございます」
「女将さんこんにちは、お世話になります」
「鈴風(すずかぜ)さんもようこそいらっしゃいませ」
博多の芸者鈴風は橋本兵蔵さんのお供をして身の回りの世話をする。
夕方、入浴と食事を済ませた橋本兵蔵さんはサッサと布団に潜り込んだので、鈴風は1階のラウンジ・レッドに下りてきた。
カウンターに咲いた一輪の椿の様な鈴風にボックスにいた団体客の男がビールとグラスをもって鈴風に近づいてきた。
「ヨオ、姐さん、シロウトじゃないようだな。イッパイ付き合ってもらおうか」
「お客様、こちらのお方も当館のお客様でございます。どうか、お控えくださいませ」
「女将さん、ヨカですよ。ウチも客商売バしよる身やけん、イッパイはお注ぎしましょう。バッテン、2杯目からは博多検番バ通して鈴風バ指名してくれんね」
「ナニを生意気な、どうせ転び芸者だろうが。オレの部屋に来いよ、小遣いをやるぜ」
「博多ン芸者はカネじゃあ身体も心も売りまっせん。男の心意気に惚るっとタイ」
男が伸ばした手をバシッと扇子で叩くとキッと睨みつける。
「コノオ、無礼モノがあ」
と、立ちあがった男の肩口に橋本兵蔵さんが降りおろしたステッキがバシイイッと食い込んだ。
「コラアアッ、貴様、ナンバしよっとかああっ!タイガイにしとけ、バカモン」
男たちはホウホウのテイで部屋の逃げかえった。
「アラ、会長さん、すんまっせん」
「ヨカ。鈴風が無事ならそっでヨカと。バッテン、ワシのようなジジイよりあの男たちの方が良かったかも知れんゾ」
「マア、会長さんたら意地の悪かねぇ」
橋本兵蔵さんの豪快な笑い声が山代のマチに轟いた。
「会長さんはね、幼いころ父を亡くしたウチにとってお父さん代わりなんですよ。奥さまもウチば実の娘のゴツ可愛がってもろうとります」
「鈴子オーッ、早オせんかあ、タクシーの来たぞお」
玄関で怒鳴った兵蔵さんの横を昨夜の客が小さくなって出て行った。
「会長さん、タクシーは別のお客様です。会長さんと鈴風さんは私がお送りしますよ」
カウンターの上にたった今書き上げた想い出石を置いて鈴風が玄関の暖簾をくぐる。
『ホンナコテ ウチは幸せもんタイ』
会長夫妻の似顔絵の中に自分の似顔絵が並んでいる想い出石が外に舞う雪を見ている。
新春の山代温泉紅柿荘。
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