僕等の世界

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雪の日の君-6-




――――地面に残る自然と流れ落ちた幾つもの涙の跡。なのに、その跡はもう乾いていた。


泣くはずじゃなかった。
ちゃんと別れの挨拶を言うはずだったのに・・・。
何で会えなくなるのかは言わない事に決めていた。
不器用だけど優しいアノ人に言ったら、きっと心配すると思ったから。
もう二度と会う事も無いと思ったから、名前を聞こうと思わなかった。

心に残ってしまうと辛いから・・・。


小さい頃から病弱で体弱かった。
「今住んでる所は空気が悪いから。」と暫くの間体を休ませる為、祖父母の家にお世話になっていた。

春に手術をする予定が入っていた。

本当は家から出る事を禁じられてた。
来たことも無いこの地は、私にとっての未開の地。
冬の冷たい風に当たり過ぎるのも良くない。
けど、あの日・・・アノ人と会った日、雪が降っていて凄い綺麗だったから外に出てみたくなった。
何処へ行くでもなく雪を見ていた。
足が勝手に前へ進む。

「やっぱ寒いなぁ・・・。」

寒さをかみ締めながら雪と風を顔に受け進む。

暫くすると、ピタッと足が止まった。
別に何処にも変わったものは無い只の住宅地。
見覚えすらない。
何も無い。
誰も居ない。


帰ろう。
誰かに会ったって知ってる訳じゃないし。

「積んねぇかなぁ・・・。」

耳元を掠めた風に乗って微かに聞こえた声。
振り向くと誰も居ないと思っていた場所に、同い年くらいの男の人が立っていた。
吐く息が煙のように空に溶けて、とても綺麗だった。


今でもこんなコト言う人が居るんだ。

今でもこんな綺麗なコト言える人が居るんだ。


私が雪が積もる事を望んでいたのはずっと昔のことだった。
今じゃ積ろうが積るまいが気にもならなかった。

でも
この人は違った。

その事が私には嬉しかった。
何故かは判らなかった。
何で会った事の無い、名前さえも知らない男の人の言葉にここまで嬉しくなったのかなんて、私が聞きたいくらい。
でもその一言が汚い私を浄化してくれた気がしたから。

「少しくらいなら積るかもよ・・・?」

ふと無意識に出た言葉。
静かにゆっくりと
そして、着々と降り続ける雪。
声に驚いて私を見る男。
きっとこの時から私は
この雪に

この人に


恋をしていた。


――――降り続ける雪は辺りを白く染め上げていった。


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